JP3658299B2 - スパッタ成膜装置および該スパッタ成膜装置を用いた成膜方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、膜厚分布の均一な成膜領域を拡大するための、カルーセル機構を有するスパッタ成膜装置および該スパッタ成膜装置を用いた成膜方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、蒸着法よりもさらにパッキング密度が高くて安定した膜を形成する場合、スパッタ法が採用される場合があった。
【0003】
しかしながら、スパッタ法による一回の成膜で作成することのできる基板の数は非常に限られており、結果としてコストが高くなっていた。ステッパ用光学膜など、コストに比べて品質が最優先される製品についてはある程度コストを犠牲にすることはやむを得ないが、一般的な用途、例えばダイクロイックミラー等の光学薄膜の場合、コストは最優先される課題である。そこでスループットの向上のために考え出された成膜方式がカルーセルタイプと呼ばれる方式である。この方式は多角形ドラムの外周上の側面に基板を保持し、回転軸を中心に回転ドラム円周方向に回転する機構を有しており、スパッタ処理を連続的に行うことができ、成膜コストの低減を可能とするものである。
【0004】
このようなカルーセル機構を有するスパッタ成膜装置においては、回転方向の光学特性のばらつき(膜ムラ)は比較的小さくできるが、回転方向に対して垂直な方向に関してはカルーセルを回転することのみによって膜質等のムラを解消することは困難である。そこで膜厚を補正するためにターゲット表面を一部分覆う形で膜厚補正板を挿入し、その形状を最適化することによって膜質の均質化を図る方法、あるいは、基板を保持するカルーセルの側面をターゲットに対して一定の角度を持たせる方法によって膜ムラを解消していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、膜厚補正板を挿入することによって膜質の均質化を図る方法には主として次に挙げる二点が間題になった。
【0006】
第1の問題点として、プラズマ雰囲気中にこのような膜厚補正板を挿入することによってプラズマ雰囲気自体が変化し、成膜条件が変動しやすいこと点が挙げられる。
【0007】
また、第2の問題点として、膜厚補正板の形状を決める際には膜厚の分布や挿入した膜厚補正板によるプラズマ雰囲気の変動なども考慮した上で、幾通りもの膜厚補正板を実際に製作してテストを行う方法であったために最適な形状を見い出すまでに多大な労力と時間を必要とする点が挙げられる。
【0008】
そこで、本発明は、コストの上昇や膜質の低下を招くことなく高スループットを達成可能なスパッタ成膜装置および該スパッタ成膜装置を用いた成膜方法を提供することを目的とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため本発明のスパッタ成膜装置は、真空容器の内部に、薄膜が形成されるべき複数の基板を所定の軸に対して回転可能に保持する基板保持部材と、基板と対向して配置されるターゲットと、ターゲットを保持するターゲット保持部材とを有するスパッタ成膜装置において、ターゲットと基板との間に、長手方向が基板の回転方向の接線と略平行になるように配置した複数の棒材と、複数の棒材を着脱可能に保持する棒材保持部材とが設けられていることを特徴とする。
【0010】
上記の通り構成された本発明のスパッタ成膜装置は、棒材保持部材により、その長手方向が基板の回転方向の接線と略平行になるように複数の棒材がターゲットと基板との間に配置されている。このような配置の棒材の場合、膜厚分布を制御するための板部材が用いられるタイプに比べて、プラズマの雰囲気に与える影響が小さいため、プラズマ雰囲気自体の変化が抑制されて、回転する基板保持部材に保持された基板に対する成膜条件の変動を抑制することができる。また、各棒材は棒材保持部材に着脱可能に保持されているため、本数および配列間隔を容易に変更することができ、これにより、成膜条件に応じて装置を改造することなく膜厚の均一化を向上させるための制御を容易に行うことができる。
【0012】
本発明の成膜方法は、本発明のスパッタ成膜装置により、基板上に薄膜を形成する成膜方法であって、各棒材の本数を成膜条件に応じて変更することを特徴とする。
【0013】
上記の通りの本発明の成膜方法は、棒材保持部材が、その長手方向が基板の回転方向の接線と略平行になるように複数の棒材をターゲットと基板との間に着脱可能に保持しているスパッタ成膜装置を用い、各棒材の本数を成膜条件に応じて変更するため、成膜条件を容易に最適化することができる。
【0014】
また、各棒材の配列間隔を変更する工程を含むものであってもよい。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1に、本発明の実施形態である、多層光学薄膜の成膜に用いるスパッタ成膜装置の一例の概略構成図を示す。
【0017】
スパッタ成膜装置は、不図示の真空ポンプによって排気される減圧チャンバ1内に、ターゲット3を保持するターゲットカバー3a、薄膜が形成される複数の基板Wlを側面に保持する多角形状の回転可能に設けられたカルーセル基板ホルダ2、および、金属製の複数の膜厚補正ガイド棒8を、対向するターゲット3と基板Wlとの間に配置されるように固定保持するガイド棒固定用治具8aを有し、また、ターゲット3に高周波電圧と直流電圧を印加するRF電源4およびDC電源5と、減圧チャンバ1内にスパッタリングガスであるArガスと反応性ガスであるO2ガスを導入するAr、O2導入ライン6と、減圧チャンバ1内に水分を導入するH2O導入ライン7とを有する。
【0018】
各膜厚補正ガイド棒8は、その長手方向が図1中、矢印Aで示すカルーセル基板ホルダ2の回転方向の接線と平行になるように配置されている。
【0019】
図1に示すカルーセル基板ホルダ2は、6角柱形状であり、その側面に6枚の基板Wlを保持することができ、矢印A方向に回転可能である。なお、カルーセル基板ホルダ2の形状は、6角柱形状に限定されるものではなく、6面以上の多面形であってよく、この場合、保持する基板Wlの枚数も6枚以上であってよいのは言うまでもない。
【0020】
図2にガイド棒固定用治具8aの三面図を示す。ガイド棒固定用治具8aには、膜厚補正ガイド棒8を挿入する複数の空孔10が形成されており、これら空孔10のそれぞれに直交するように複数のねじ孔11が形成されている。
【0021】
次に、ガイド棒固定用治具に膜厚補正ガイド棒が固定されている状態を図3に示す。
【0022】
図3は、基板Wl側からターゲット3を見た図であり、ターゲット3の両側に1対のガイド棒固定用治具8aが設けられている。ガイド棒固定用治具8aは、ガイド棒固定用治具8aが矢印Aで示すカルーセル基板ホルダ2の回転方向と平行になるように配置されている。
【0023】
膜厚補正ガイド棒8は、ガイド棒固定用治具8aの空孔10に差し込まれた後、ねじ孔11に不図示のねじをねじ込むことにより固定される。なお、膜厚補正ガイド棒8の使用本数、および挿入位置、すなわち、配列間隔は、成膜条件に応じて任意に選択可能であり、膜厚補正ガイド棒8を通さない空孔10については、膜が被着する事を防ぐために、膜厚補正ガイド棒8を固定する場合と同様にねじをねじ込んで封止する。
【0024】
RF電源4の高周波電圧はマッチングネットワーク4aを経てターゲット3に印加され、DC電源5の直流電圧はローパスフィルタ5aを経てターゲット3に印加される。
【0025】
次に、基板Wl上に酸化物薄膜を成膜する工程を説明する。
【0026】
まず、カルーセル基板ホルダ2上に基板Wlを保持させ、減圧チャンバ1を所定の真空度に減圧したうえで、Ar、O2導入ライン6からArガスとO2ガス、H2O導入ライン7からH2Oを導入し、ターゲット3にRF電源4の高周波電圧またはDC電源6の直流電圧の少なくとも一方を印加して、いわゆるマグネトロンスパッタ放電によるプラズマP1を発生させる。
【0027】
ターゲット3は、プラズマP1の正イオンによってスパッタされ、ターゲット3の表面近傍の酸化活性種によって一部酸化された状態で、回転しているカルーセル基板ホルダ2上の基板Wlに向かって放出される。その際、ターゲット3近傍に、薄膜形成に最適な本数、かつ、配列のなされた膜厚補正ガイド棒8によって粒子の動きが一部妨げられ、カルーセル基板ホルダ2上の基板Wlに被着する粒子の量が制御される。
【0028】
このようにして、その被着量を制御されながら基板Wlに到達したスパッタリング粒子は、プラズマPl中や基板Wlの表面近傍の酸化活性種によって酸化され、酸化物薄膜が基板Wlの表面に成膜される。
【0029】
以上説明したように、本実施形態のスパッタ成膜装置によれば、膜厚補正板を用いる方法に比べて、膜厚補正ガイド棒8がターゲット3を覆う面積が小さいためプラズマP1の雰囲気に与える影響が小さく、プラズマ雰囲気自体の変化が抑制されて、回転する基板保持部材に保持された基板に対する成膜条件の変動を抑制することができる。
【0030】
また、膜厚の均一化を向上させるための制御を膜厚補正ガイド棒8の本数および配列間隔を変更することで容易に行えるため、膜厚変動が予測しやすいだけでなく、装置改造なしに様々な成膜条件で成膜を行うことができる。
【0031】
なお、本発明は、上述の実施形態を一例として説明してきたが、これらになんら限定されるものではない。また、以下に上述の実施形態の実施例を示すが、本発明はこれらによって何ら限定されるものでもない。
【0032】
【実施例】
図4に、本実施例で用いたスパッタ成膜装置における、ガイド棒固定用治具への膜厚補正ガイド棒の取り付け状態を示す。なお、本実施例で用いたスパッタ成膜装置は、図4に示すガイド棒固定用治具109の膜厚補正ガイド棒8のセット本数が、図3に示したガイド棒固定用治具9の膜厚補正ガイド棒8のセット本数と異なる以外は、基本的に上述の実施形態で説明したスパッタ成膜装置と同じ構成であるため、説明に用いる符号は、ガイド棒固定用治具109以外は上述の実施形態の説明で用いた符号を用いる。
【0033】
ガイド棒固定用治具109は21本の膜厚補正ガイド棒8がセット可能であり、5、6、8、9、13、15、17、19、20番の空孔10に計9本の膜厚補正ガイド棒8をセットした。このセットした膜厚補正ガイド棒8の直径はφ3mmで、材質は金属Alである。
【0034】
Tiターゲット3の寸法は、127mm×381mmであり、基板Wlは、φ30mmの光学ガラスであるBK7を用いた。
【0035】
DC電源5として5kWの容量のものを用い、減圧チャンバ1内を0.8Paまで減圧して成膜を行った。
(比較例)
上述の実施例で用いた装置において、ガイド棒固定用治具109に膜厚補正ガイド棒8をセットしなかった以外は、上述の実施例と同じ条件で成膜を行った。
【0036】
図5に、実施例において膜厚補正ガイド棒を用いて形成された薄膜の物理的膜厚と、比較例において膜厚補正ガイド棒を用いずに形成された薄膜の物理的膜厚とを比較したグラフを示す。なお、グラフに示された膜厚は、図4に示す第5番目の空孔10にセットされた膜厚補正ガイド棒8から第20番目の空孔10にセットされた膜厚補正ガイド棒8までの間で成膜された膜の物理的膜厚を示すものである。
【0037】
図5のグラフで分かるように、膜厚補正ガイド棒8を最適な位置にセットすることで、均一な膜厚が形成されることが確認された。また、実施例においては、屈折率と物理的膜厚の積で表される光学膜厚も十分な均一性を有することも確認された。
【0038】
【発明の効果】
以上説明したように本発明によれば、プラズマの雰囲気に与える影響が小さい複数の棒材をターゲットと基板との間にその長手方向が基板の回転方向の接線と略平行になるように配置するため、プラズマ雰囲気自体の変化が抑制されて、回転する基板保持部材に保持された基板に対する成膜条件の変動を抑制することができ、また、各棒材の本数および配列間隔の変更が容易であるため膜厚の均一化を向上させるための制御を容易に行うことができる。このため、カルーセル機構を有するスパッタ成膜装置において、光学特性が優れた光学薄膜を大量に低コストで安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態である、多層光学薄膜の成膜に用いるスパッタ成膜装置の一例の概略構成図である。
【図2】本発明のスパッタ成膜装置におけるガイド棒固定用治具の三面図である
【図3】図2に示したガイド棒固定用治具に膜厚補正ガイド棒が固定されている状態を示す図である。
【図4】本発明の実施例で用いたスパッタ成膜装置における、ガイド棒固定用治具への膜厚補正ガイド棒の取り付け状態を示す図である。
【図5】膜厚補正ガイド棒を用いて形成された薄膜の膜厚と、膜厚補正ガイド棒を用いずに形成された薄膜の膜厚とを比較したグラフである。
【符号の説明】
1 減圧チャンバ
2 基板ホルダ
3 ターゲット
3a ターゲットカバー
4 RF電源
4a マッチングネットワーク
5 DC電源
5a ローパスフィルタ
6 Ar、O2導入ライン
7 H2O導入ライン
8 膜厚補正ガイド棒
9 ガイド棒固定用治具
10 空孔
11 ねじ孔
Claims (2)
- 真空容器の内部に、薄膜が形成されるべき複数の基板を所定の軸に対して回転可能に保持する基板保持部材と、該基板と対向して配置されるターゲットと、該ターゲットを保持するターゲット保持部材とを有するスパッタ成膜装置において、
前記ターゲットと前記基板との間に、前記各棒材の長手方向が前記基板の回転方向の接線と略平行になるように配置した複数の棒材と、該複数の棒材を着脱可能に保持する棒材保持部材とが設けられていることを特徴とするスパッタ成膜装置。 - 請求項1に記載のスパッタ成膜装置により、基板上に薄膜を形成する成膜方法であって、前記各棒材の本数を成膜条件に応じて変更することを特徴とするスパッタ成膜装置を用いたスパッタ成膜方法。
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