JP3657554B2 - レンズアンテナ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、球体レンズを用いて電波ビームを集束させることができ、衛星通信システム等に利用されるレンズアンテナ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ルーネベルク型アンテナのような誘電体を用いた球体レンズにより電波ビームを焦点位置に集束させ、集束位置に置かれた放射器を介して電波の送受信を行なうのに使用される誘電体レンズアンテナ装置が種々提案されている。このようなレンズアンテナ装置は、任意の方向からの電波に対し、その集束位置に放射器を移動させるだけで送受信ができるため、パラボラアンテナ装置のように全体を回転駆動させる必要がなく、装置の小型化、コンパクト化に適するという利点を有する。
【0003】
このようなレンズアンテナ装置の一例として、特表平6−504659号公報の「アンテナ装置」が公知である。このアンテナ装置は、電磁波を受信、送信するためのレンズ及びフィード線を備え、フィード線がヘリカルコイルから形成されたものであり、異なる方向からのマイクロ波の電磁波信号を受信するためのコンパクトなアンテナ装置として提案されたものである。この場合、半球レンズを用いればアンテナ装置はより小さくなり、製造コストが減少する。又、開口ブロッキングを減少させることにより受信効率を向上させ、必要なフィーダケーブルの長さを減少させることができるとされている。
【0004】
他の例として、特表平7−505018号公報の「アンテナ用誘電体材料技術」の発明が公知である。この公報は、誘電体レンズアンテナの製造方法及びそのアンテナ装置について開示している。誘電体レンズを製造する方法は、送受信される電波の波長より小さい直径の中空の球形の誘電体ビースを互いに接合してレンズ材料を形成し、生成される材料の誘電体定数を一定又は可変としたというものである。そして、この方法によって生成された材料を用いて形成されるアンテナ装置は、上記材料による誘電体レンズに反射板を組合わせ、その反射板がレンズ境界の外側に延びていることを特徴とするというものである。
【0005】
上記アンテナ装置の詳細な説明の欄では、上記反射板がレンズ境界の外側に延びているアンテナ装置は、バーチャルレンズアンテナとして説明されており、このようなバーチャル誘電体レンズアンテナは、反射板に垂直でない入射角度を持つ場合、その利得のロスが減少するという利点を有しているとされ、反射板延長部の長さl=Rx((1/cos(be))−1)により長さを求めることを示している。又、これによって電波を受信する際の一次放射器については、レンズ境界の外側のアンテナを使用すると、装置はさらにいくつかの方向から電波を受信するのにフレキシブルとなり、これはフィード線(給電線)がより大きな物理的セパレーションを持ち、そして開口ブロックを生じないからであるとされている。
【0006】
一方、本出願人の1人は、この出願に先行して特願2001−25732号の出願で上記2つの特許公報による原理的なアンテナ装置を半球レンズを用いて具体化したものとして、電波ビームを集束する球体レンズを二分してなる半球レンズと、この半球レンズが断面側で載置され天空側からの入射電波を反射する電波反射板と、半球レンズの任意の電波集束点位置に配置され電波ビームを形成するアンテナ素子を備える放射器と、半球レンズのアジマス軸周りに放射器の位置を調整して電波ビームの方位角を制御する方位角調整手段と、半球レンズのエレベーション軸周りに放射器の位置を調整して電波ビームの仰角を制御する仰角調整手段とを具備するレンズアンテナ装置について提案した。
【0007】
このレンズアンテナ装置は、レンズ部分の小型軽量化により装置全体の小型軽量化を図り、かつレンズ部分の取扱い、製作、組立が容易な構成のレンズアンテナ装置を提供することを目的として提案されたものであり、半球レンズを使用して静止衛星からの電波を集束し、電波反射板により反射して半球レンズの入射側とは逆側の側方周面における焦点に配置した放射器により受信可能とし、逆に放射器からの電波ビームを静止衛星に指向できるようにしたものである。半球レンズを使用しているため、従来の球体レンズに比して大きさ、重量が約半分となり、装置全体の小型軽量化を実現している。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記第1の公報のレンズアンテナ装置は原理的なものであり、半球レンズを用いる形式の場合も反射板はレンズより延長されていないため受信効率は低い。第2の公報、第3の先願のレンズアンテナ装置は、入射角が大きい場合(>80deg)指向性に乱れが生じ利得が低下するという問題がある。これらのレンズアンテナ装置は、地上に反射板を水平にして設置固定されると、入射角が大きい場合、反射板に反射されて半球レンズに入射する電波のうち反射板の端面近傍を通る電波が多くなり、焦点へ向う電波の集束角度が大きくて指向性に乱れが生じるが、反射板を半球レンズに対し傾けることができないためその影響を除去することができないからである。
【0009】
従って、有効な利得を得るためには、レンズ径に対して大きな径の反射板が必要であり、コンパクト化ができない。レンズ直径をRmm、電波の入射角をθdegとすると、理論上R/cosθの反射板が必要であり、特に入射角の大きい電波に対する使用を考慮する場合、かなり大きな反射板が必要となり嵩張って使用上不便である(図8の(a)図参照)。
【0010】
一方、入射角が小さい場合、図8の(b)図に示すように、放射器の影の影響が出るため、利得が下るという不利がある。放射器の半球レンズの周面上での位置は、入射角とこれを反射する反射板との関係で決まり、反射板を傾斜できないため、放射器の位置を影響の出ない位置へ移動させることができないからである。このため、利得が大幅に低下するという問題がある。
【0011】
この発明は、上記の種々の問題に留意して、ルーネベルグ型アンテナの一種として半球レンズと反射板を組合わせて放射器に電波を集束して受信することにより装置を小型、コンパクト化すると共に、静止衛星だけでなく周回衛星からの入射角の大きい電波をも利得が減少せずに受信し得るレンズアンテナ装置を提供することを課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
この発明は、上記の課題を解決する手段として、誘電体材料で半球体を形成して電波ビームを収束するようにした半球レンズと、電波ビームを反射するように半球レンズの切断面に対して設けられ半球レンズ径より所定寸法大径の電波反射板と、電波ビームを送受信するアンテナ素子を有し半球レンズの電波収束位置に移動自在に配置される放射器とを備え、電波反射板を任意の方向へ傾斜自在に支持する反射板支持手段を設けて反射板の傾斜角を調整し、半球レンズへの入射角が所定の角度範囲内となるようにしたレンズアンテナ装置としたのである。
【0013】
上記の構成としたこの発明のレンズアンテナ装置は、建物の屋根や側面(壁、ベランダ等)等地上固定物に設置されるだけでなく、自動車や船舶、航空機のような移動体に搭載して利用され、静止衛星や周回衛星などの人工衛星との間で電波を送受信する。なお、人工衛星との間の電波は主として受信の態様について表現し、説明するが、送信についても同様に適用される。この場合入射角などの用語は送信の態様の用語に必要に応じて読み替えるものとする。地面に反射板を平行に設置した際の電波の入射角が、中入射角である場合は、反射板を傾斜させることなく電波を送受信する。
【0014】
電波は半球レンズの外周面に到達したものだけでなく、反射板の半球レンズ外の延長部で反射して半球レンズに到達するものを含めて半球レンズ内に入射され、半球レンズではその積層状の誘電材料の誘電率が層位置で異なることにより進行方向が変化して一点に集束され、その集束点である焦点に放射器を移動、配置することにより電波を放射器に設けられているアンテナ素子により送受信する。このため、送受信される電波は利得が大きい感度のよい状態で送受信される。
【0015】
人工衛星が地上の真上に来ると入射角が小さくなり、この低入射角の場合、焦点位置も半球レンズの真上に近い位置となるため、この焦点に放射器を移動、配置すると、放射器が半球レンズへ到達する電波の一部領域内に入ることとなり、このため放射器の影の影響により利得が大きく減少する。そこで、この場合は反射板を電波の入射する方向に向って上向きに傾斜させる。反射板は、反射板支持手段によって所定の角度傾斜させ、相対的に反射板に対する入射角が大きくなるように傾斜角を調整する。このような調整をすると、放射器が入射される電波の領域外に位置し、このため放射器の影の影響を受けなくなり、利得の減少が生じないため、高い利得が得られる。
【0016】
人工衛星が低い位置に来ると入射角が大きくなり、この高入射角では焦点位置も半球レンズの低い位置に来るが、反射板を水平のままでは半球レンズ外の反射板の延長部の外縁付近で反射される電波は半球レンズの最大径付近で半球レンズ内に入射され、指向性が乱れる。このため、反射板を傾斜させて反射板の延長部で反射される電波を含めて相対的に入射角が小さくなるように調整すると、延長部の外縁付近で反射されていた電波は半球レンズに近い位置で反射され、指向性の乱れが減少する。従って、反射板の大きさは従来と同じく小さいままで指向性の乱れがなく有効に焦点位置に集束され、利得が増大する。
【0017】
上記のレンズアンテナ装置は、上述したように、電波反射板を地面に平行な水平に設置して使用するのが一般的であるが、建物等の壁に垂直に設置し、壁掛け形式で使用することもできる。この場合、人工衛星が低い位置、中間高さ位置、高い位置のいずれかの位置で電波が半球レンズに入射される時の入射角の大小と人工衛星の高さ位置との関係が上記一般的な使用状態の場合とでは逆になる。しかし、人工衛星の位置が高過ぎる位置、又は低過ぎる位置であっても、それぞれの場合に反射板を傾斜させて放射器を移動させ、電波の送受信利得が最大となるように調整することは一般的使用の場合と同様に行なわれる。
【0018】
【実施の形態】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は第1実施形態のレンズアンテナ装置Aの一部破断した外観斜視図である。図示のレンズアンテナ装置Aは、ルーネベルク型と呼ばれるレンズアンテナ装置の一種でありレンズアンテナ本体10と、この本体内に設けられた反射板を二次元方向の任意の向きに傾斜自在に支持する反射板支持手段20とを備えている。レンズアンテナ本体10は、先の特許出願である特願2001−025732号の第1実施形態のレンズアンテナ装置と基本的に同じであるが、以下その構成について簡単に説明する。
【0019】
レンズアンテナ本体10は、後で説明する反射板支持手段20の可動支持部材に固定される円形のベース板11と、このベース板11上にAZ軸(アジマス軸)の周りに回転自在に取付けられた回転台12に固定され、ベース板11と略同径の円盤状の電波反射板13と、AZ軸に中心を一致させて反射板13上に固定される半球レンズ14と、ガイドレール15に沿って自走する第1と第2の放射器16a、16bと、上記反射板13、半球レンズ14を覆うようにベース板11に固定して設けられたキャップ形覆部材であるレドーム17とを備えている。
【0020】
図2に示すように円形のベース板11上に設けた回転台12は、中心部に設けた短い突出軸12aに軸受を設け、この軸受を介して回転台下面に設けたハブ12bを突出軸12aに回転自在に嵌合することによって支持されている。この回転台12に固定された反射板13は、理想的には無限大に広がる平面であることが望ましいが、実際にはアンテナ特性(利得、サイドロープ等)の許容範囲からその大きさが決定される。反射板13上に固定された半球レンズ14は、球体レンズをその球中心を通る面で2分割したものであり、反射板がその分割面に接して配置されるため実質的には球体レンズとして取り扱うことができる。
【0021】
ルーネベルグ型のレンズアンテナ装置に用いられる電波レンズは、複数の内外径が異なる半球殻で1つの球として構成される球形の電波レンズであり、それぞれの半球殻の各層の誘電材料の比誘電率が、
εr=2−(r/R)2
に従うように設定されたものである。ここでεrは比誘電率、Rはこのレンズの最外径、rは各層のレンズ中心からの距離を示す。
【0022】
このような球体レンズは、球状誘電体レンズとも呼ばれ、同心の球面に誘電体が積層されて構成され、これを通過する略平行な電波を1点に集束させることができ、一般に積層される誘電体の各誘電率は、外側にいく程低くなっている。誘電材料とは常誘電性、あるいは強誘電性、若しくは反強誘電性を示し、かつ電気伝導性を有さない材料である。これについては後で説明する。
【0023】
上記半球レンズ14の外周に設けられたガイドレール15は、EL軸(エレベーション軸)15a、15bを中心に回転自在に支持されており、図示しないEL軸回転駆動機構により回転駆動される。このEL軸回転駆動機構は、放射器16a、16bへ集束される電波を受信する際の半球レンズ14内での電波に対する仰角を設定するための手段である。EL軸15a、15bはその軸中心高さが反射板13の表面に一致する位置で、互いに対向して設けられ、ガイドレール15を半球レンズ14に沿って180°に亘って回転させることができる。
【0024】
EL軸回転駆動機構は、EL軸15aの直ぐ下方で回転台12に取付けた支持部15c上にモータを設け、その出力軸の回転をプーリ、ベルトにより伝達してEL軸15aを正、逆両方向に回転させるように構成されている。ガイドレール15に沿って自走する第1、第2の放射器16a、16bには自走駆動機構が設けられている。
【0025】
前述したように、回転台12はベース板11に対し回転自在に設けられているが、この回転台12と反射板13、半球レンズ14、ガイドレール15をAZ軸を中心に回転駆動するAZ軸回転駆動機構が設けられている。AZ軸回転駆動機構は受信される電波の方向へ放射器を合せるための方位角設定手段として設けられるものである。このAZ軸回転駆動機構は、回転台12の直径より少し大きい径の円環状の溝11aをベース板11に設け、溝11a内にリング状のラック11bを取付けてこれに係合するピニオン11cを図示しないモータで回転駆動するように構成されている。
【0026】
モータは、EL軸15bの下方で回転台12の外周に取付けた支持部15d内に設けられ、その出力軸がピニオン11cを回転駆動する。この駆動機構では、ラック11bはベース板11に固定されているため、モータでピニオン11cが回転されると、ピニオン11cと回転台12とが一緒に、ベース板11上の突出軸12aを中心にして回転することとなる。ベース板11の突出軸12aとこれに嵌合するハブ12bの回転軸接合部の内部にはロータリジョイント12cが設けられ、このロータリジョイント12cを介してベース板11と回転台12との間の電気的接続が行なわれる。
【0027】
この電気的接続により、放射器16a、16bへの電波供給、送受信信号の入出力、AZ軸回転、EL軸回転、放射器自走のための駆動制御信号、モニタ信号等の送受を行うことができる。なお、図示省略しているが、ベース板11上の適宜位置には電源装置や駆動制御/信号処理のための制御装置が設けられ、回転台12の適宜位置には放射器への給電、送受信信号の周波数変換を行うU/D(アップ/ダウン)コンバータが設けられている。放射器16a、16bは電波ビームの送受信を担うアンテナ素子とその電波ビームの処理をする電子回路を本体部内に有し、電子回路はU/Dコンバータに接続されている。本体部は取付けられているモータの回転をガイドレールに沿って設けたラックへ伝達して自走する機構を有する。
【0028】
前述した半球レンズ14の誘電材料、反射板13、レドーム17、ベース板11の材料については次の通りである。上記誘電材料については一般的には合成樹脂又は合成樹脂の発泡体が用いられ、それらに酸化チタン、チタン酸アルカリ土類金属塩を充填したものでもよい。なお、発泡体は上記合成樹脂、あるいは樹脂組成物に気体を発生する発泡剤を添加し、加熱により分解して窒素等の所望の形状を持つ金型中にて発泡させる化学発泡法により形成してもよい。
【0029】
あるいは、揮発性発泡剤を含浸させたペレット状の上記合成樹脂、あるいは樹脂組成物をあらかじめ金型外で予備発泡させ、所望の形状を持つ金型中に充填した後水蒸気等で加熱して再度発泡させると同時に隣接するビーズ相互を融着させるビーズ発泡法でもよく、そのどちらを用いて形成してもよい。
【0030】
反射板については、金属であれば何でもよいが、重量、コストの面からアルミニウム板が望ましい。又、樹脂板、発泡体板、FRP板の表面に薄い金属板を貼り付けたものでもよく、それらの表面を金属でメッキしたものでもよい。波長に対し十分小さい孔が開いた金属板や、波長に対し十分小さい間隔になるように張り巡らせたメッシュ状の金属でも使用することができる。但し、これらの金属表面は電波的に平滑であることが必要で、又面自体が平らであることが必要であって、撓みや反りがあってはならない。
【0031】
又、レドームは良好な電波透過性を有し、かつ風雨等外環境よりアンテナ装置を保護でき耐候性のある材料であれば基本的には何でもよい。レドームの合成樹脂の種類としては耐候性のある材料であれば基本的には何でもよいが、誘電損失の低さの点から、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリプロピレン等の炭化水素系熱可塑性合成樹脂を用いるのが望ましい。
【0032】
以上がレンズ本体10の概略構成であり、次に上記レンズ本体10に取付けられる反射板支持手段20について説明する。この反射板支持手段20は、短い円柱状の基部21と、その頂部の凹部21aに摺動回転自在に嵌合し、反射板11を支持する半球状の支持半球部22と、平面視で互いに所定角度の間隔で設けられ支持半球部22を任意の角度方向に傾斜させるための複数組(図示の例では3組)の引張手段23とを備えている。
【0033】
支持半球部22は、反射板11を傾斜させる際に凹部21aに対しスムースに傾斜できるよう、例えば半球部22に多数の溝を設けておき、その溝内に含まれる潤滑油により回転をし易い構成とする。又、支持半球部22はその分割平面を反射板11に接して設けられている。引張手段23は、基部21に取付けた軸受24aを介して回転自在な回転支持部24上に設けられており、モータ25の出力軸の回転を回転伝達部25aでこれにねじ係合するねじロッド25bに伝達し、このねじロッド25bが回転伝達部25aから突出、後退することによりねじロッド25bの先端が係合する連結部材26を介してベース板11を傾斜させる。
【0034】
ねじロッド25bの先端は連結部材26の長穴を介してねじロッド25bを傾斜自在となるように連結部材26に連結されている。なお、図3の(a)図では引張手段23は、左右に対向して図示しているが、実際には(b)図に示すように、所定の角度(図示の例では120°)を置いて設けられている。又、回転支持部24は基部21に対し回転自在であるが、使用の際は基部21に対し回転を止め、固定するために固定手段27が回転支持板24の適宜位置に設けられている。この固定手段27は、ねじボルトを座にねじ係合させ、その先端を基部21に当接させて回転を止める形式であるが、回転を止め得るものであれば他のどんな形式のものでもよい。
【0035】
上記の構成とした実施形態のレンズアンテナ装置は、建物の屋根や側面(壁、ベランダ等)等地上固定物に設置されるだけでなく自動車、航空機、船舶のような移動体に搭載して電波の送受信に使用される。又、このレンズアンテナ装置は、静止軌道上の通信衛星(以下、静止衛星と呼ぶ)だけでなく周回軌道上の人工衛星(以下、周回衛星と呼ぶ)との間でも通信を行なうことができ、その際の地上局のアンテナ装置として利用される。なお、この第1実施形態及び後で説明する第2実施形態のいずれにおいても人工衛星との電波は受信の態様を中心に説明するが、送信の態様にも同様に適用される。送信の場合は、必要に応じて送信の態様の用語に読み替えるものとする。
【0036】
静止衛星が地上の高い位置に静止してその電波を受信する場合(又は電波を送信する場合)、図4の(a)図に示すように、反射板13を水平状態に保持したまま中入射角で電波が受信される。
【0037】
静止衛星からの電波は、半球レンズ14の側方周面から入射されるが、互いに平行な入射電波ビームは半球レンズ14内では図中の点線で示すように電波反射板13によって反射され、その後半球レンズ14を構成する誘電材料の内外の誘電率の違いによって進行方向が曲げられ一点へと集束する。この電波ビームの集束位置、即ち焦点には放射器16を配置し、これにより静止衛星からの電波を受信することができる。この場合、電波の到来する方位角、入射角は予め測定により算出して放射器16が焦点位置に来るように調整しておくものとする。又、反射板13の直径は半球レンズ14の直径より所定長さだけ大きく設定されているから、半球レンズ14の外で反射板13に反射された電波が半球レンズ14に当るとこれも半球レンズ14内に入射され、このため電波は高利得で受信される。
【0038】
なお、第1実施形態のレンズアンテナ装置は、複数の静止衛星からの電波を受信できるようにするため、2組の放射器16a、16bを設けているが、図4を参照した作用の説明では理解を容易とするためそのうちの一方のみを代表させて放射器16として示している。従って、もう一方の放射器は、一方の放射器による受信作用に影響しないように一方の放射器での電波の受信領域外に退避させているものとして図示を省略している。又、説明の都合上、静止衛星からの受信として作用を説明したが、周回衛星からの電波であっても、その周回衛星が地上の高い位置にあり、中入射角で電波を受信する場合も同じであることは言うまでもない。
【0039】
図4の(b)図に示すように、静止衛星がさらに高い位置となり、電波の入射角が低入射角(20°以下)になると、このレンズアンテナ装置では反射板支持手段20の駆動により反射板13を傾斜させる。このとき、この傾斜角は受信する電波の入射角が少なくとも20°以上、好ましくは45°以上の中入射角となるように設定する。このような傾斜角を設定する場合、反射板13が水平状態の場合の入射角を方位角と共に測定し、入射角が上記中入射角となるように反射板支持手段20の複数組の引張手段23の引張長さをそれぞれ適宜駆動して調整し、反射板13の入射電波側縁を上向きに傾斜させる。
【0040】
上記反射板13の傾斜調整をすると、このような傾斜調整をしない場合は1次放射器16が電波の受信経路内に位置するため放射器16の影の影響により利得が低下するのに対して、1次放射器16が電波の受信領域外へ設定されるため、利得の減少が小さくなり、利得を最大限に確保できる。
【0041】
図4の(c)図に示すように、電波の入射角が高入射角(80°以上)になるとこの高入射角を解消する方向へ反射板13を傾斜させる。この場合は、反射板13の傾きは低入射角のときと逆方向に引張手段23により調整する。このような調整は、高入射角に近い静止衛星からの電波を受信する際に、又周回衛星からの電波を受信する場合や赤道近くで使用する場合に必要となることがある。このような場合、上記高入射角を解消するように反射板13を傾斜させるが、その際入射角が80°以下、好ましくは60°以下となるように傾斜角を調整する。又、この場合も方位角を含めて調整することは勿論である。
【0042】
上記調整では、反射板13が水平状態で入射角が20°〜80°の領域外であれば、反射板13の傾斜角を調整して20°〜80°以内、好ましくは45°〜60°の範囲内に入るようにするが、反射支持手段20の傾斜設定手段である引張手段23が上記の調整角度内に反射板13を傾斜させるに必要な調整ストロークを有する構成の機構であることは言うまでもない。又、上記実施形態では半球状の支持部材を有する反射板支持手段20を示したが、例えば下端に脚部を有する短い支持ポストの上端に球状の連結部材を有する自在継手を設け、支持ポストからベース板11に対し引張手段を連結するような形式など、反射板支持手段2としては種々の他の形式のものを採用することができる。
【0043】
なお、反射板13の径は半球レンズ14の直径Rに対し理論上R/cosθであるが、この場合入射角θは、中入射角の最小値20°を限度として設定されるものとし、これに基づいて反射板13の径は半球レンズ14より所定寸法大径とされている。
【0044】
図5に第2実施形態のレンズアンテナ装置の外観斜視図を示す。図示のレンズアンテナ装置Bも、ルーネベルク型と呼ばれる形式の1つであり、第1実施形態が2つの静止衛星、周回衛星を対象として2つの放射器16a、16bを設けているのに対し、この実施形態は1つの衛星を対象とし、従って放射器16を1つだけ備え、壁掛け形として使用するのに適した形式のものである。但し、その基本的な構成は第1実施形態と共通部分も多く含まれており、共通の構成部分については同じ符号を使用し、以下では異なる構成部分について主として説明する。
【0045】
図示のように、このレンズアンテナ装置Bは、円形のベース板11、回転台12、電波反射板13、半球レンズ14、ガイド板15’、1つの放射器16、レドーム17を備えている。ガイド板15’、1つの放射器16以外の上記基本構成部材は、第1実施形態と同じである。ガイド板15’は、レドーム17の内面に斜めに設けたガイドレール15と協働して放射器16の位置を半球レンズ14に対し任意の角度位置に移動し設定する案内支持部材である。なお、ベース板11に対し回転台12は図示しない軸受を介して回転自在に設けられている。又、回転台12に対して設置されるレドーム17は、一定範囲で回転自在に装着されている(図示省略)。
【0046】
ガイド板15’は、半球レンズ14に沿って湾曲した支持板として形成され、その上端寄りに長穴(スリット)15aが設けられている。この長穴15aに放射器16がスライド自在に装着されており、放射器16はアンテナ素子16a、スライド部材16b、POL調整部16c、ピン16dから成る。POL調整部16cは、送受信電波の偏波角度(POL)を調整する部材である。ピン16dは斜め方向に設けられたガイドレール15の2つのレール間に嵌合しており、このためレドーム17を回転台12に対しAZ軸の周りに回転させると、ガイドレール15に沿ってピン16dが移動し、従って放射器16がガイド板15’の長穴15a内で半球レンズ14の周面に沿って移動する。
【0047】
放射器16のPOL調整部16cにはPOL伝達フレキシブルケーブル16fが接続されており、その他端はPOL調整ダイヤル16gに接続されている。POL調整ダイヤル16gは図示しない外部の送受信装置と接続されており、このダイヤルを回すことにより偏波軸を任意の角度に調整できるようにしている。18aは、可搬用の取手、18bは方位磁石、18cは水準器、18dは回転台12の回転をロックするロック部材、18eはEL軸調整用目盛りである。又、17aはEL軸周りの回転を止めるためのロック用ノブであり、レドーム17と回転台12との接合部に設けられている。
【0048】
上記レンズアンテナ装置Bは、壁掛け形式として使用できるようにするため、図6の(a)図に示すように、ベース板11の裏面には反射板支持手段20’が設けられている。この反射板支持手段20’は、ボール軸21’とこれを回転自在に嵌合支持する軸受部材22’、及び反射板の支持角度を所定の範囲内に調整するための角度調整部材23’とから成る。ボール軸21’は、軸端がベース板11の裏面に固定して設けられ、他端をボール状に形成されている。軸受部材22’は、上記ボール端を受入れる球状の凹部を有し、そのフランジ部にボルト等を通して建物の垂直壁に取付けできるように形成されている。
【0049】
角度調整部材23’は、図示の例ではベース板11に120°ずつの間隔で3箇所に設けられ、それぞれはロッドの基部がベース板11に固定して取付けられ、長さが所定の範囲で調整でき、先端が球状に形成されて成る。ロッド長さの調整は、ロッドを中空ロッド内にねじ溝を設け、これにねじ係合するねじロッドを嵌合させた二重ロッドとし、ねじロッドを中空ロッドから突出、引込んで行なうようにする。ねじロッドの先端の球状部を受止める受部材を建物壁部に設けるのが好ましい。
【0050】
上記の構成とした第2実施形態のレンズアンテナ装置Bは、衛星との間の電波を放射器16で送受信する基本作用は第1実施形態と同じであり、電波の送受信を高利得で行なうことができるように放射器16を衛星の位置に応じて最適の状態、位置に設定することは前述した通りである。なお、この実施形態は壁掛け式で用いられることを前提としたものであるが、その場合入射角に対する衛星の位置が通常の使用状態と異なることとなるので注意する必要がある。
【0051】
図6の(b)図に(イ)壁掛け状態と、(ロ)通常状態での入射角の衛星に対する意義の相違を示している。この図では(イ)、(ロ)のどちらの状態でも、入射角は半球レンズ14の半球面の中心を通る中心線CLと衛星から入射される電波の成す角度を入射角として示している。従って、上記中心線CLは(イ)では水平線、(ロ)では垂直線であり、この中心線CLと成す角度が入射角である。このように入射角を定義すると、低入射角、中入射角、高入射角のそれぞれに対応する衛星の高さの関係が通常状態に対して壁掛け状態では全く逆になる。即ち、(イ)では低入射角で衛星は低い位置に、高入射角で高い位置にあり、(ロ)では低入射角で衛星は高い位置に、高入射角で低い位置にある。
【0052】
以上のように定義した入射角で、レンズアンテナ装置Bをそのベース板11が垂直な壁に沿って垂直な状態に設定したままでも十分衛星との間で電波の送受信ができる。この場合、反射板13も当然垂直状であるが、回転台12を回転させて電波の方位角に放射器16が対応するように方位角の調整をし、かつ回転台12に対してレドーム17を回転させて半球レンズ14の焦点位置に放射器16が位置するように放射器16の位置調整をする。
【0053】
しかし、周回衛星や外国などで入射角が20°以下、又は80°以上の領域外で送受信する場合や、又入射角は設定値内であるが、入射角が高又は低入射角に近い場合にその入射角を45°〜60°の最も電波の送受信状況が良い方向となるようにしたい場合には、反射板13を複数組の角度調整部材23’のいずれか又はそのいくつかを用いて傾斜させて入射角の調整をすることができる。
【0054】
上記の入射角の調整のため反射板13を傾斜させる場合、複数組の角度調整部材23’のロッド長さを必要に応じて伸縮させれば、ボール軸21’のボール中心点を通る垂直軸、直交する2つの水平軸(仮想軸)の周りに3次元方向に傾斜ができ、それぞれの電波に対し最も有効な入射角の範囲内に調整できることは第1実施形態と同様である。
【0055】
以上は、壁掛け方式のレンズアンテナ装置Bとして使用することを前提としたが、このレンズアンテナ装置Bは水平台の上に水平な状態に設置して通常の状態で使用することも、詳しく説明するまでもなく、可能である。又、この実施形態の反射板支持手段20’を第1実施形態の反射板支持手段20に代えて取付ければ、第1実施形態のレンズアンテナ装置Aを壁掛方式の装置に転用することもできる。
【0056】
さらに、第2実施形態のレンズアンテナ装置Bは、1つの静止衛星との電波の送受信を行なう装置であることを前提として説明したが、これを複数(例えば4〜5個)の静止衛星との通信に使用できるような構成とすることもできる。静止衛星は互いに接近した位置にあるとすると、レンズアンテナ装置Bの反射板13上に上記ガイド板15’と同じ複数(3〜4個)のガイド板15’を隣接して設け、各ガイド板15’に放射器16をそれぞれ設け、各個々の静止衛星に対応させればよい。但し、レドーム17の内面にも対応して斜めのガイドレール15をそれぞれ設けるものとする。
【0057】
なお、上記第1、第2実施形態のいずれも静止衛星は勿論、周回衛星との間の電波の送受信にも使用されるが、この場合は周回衛星に対しその位置を検知して一次放射器を移動させて追従させるようにしている(詳細は省略)。
【0058】
【実施例】
(例1)上記第2実施形態のレンズアンテナ装置Bを試作し、図6の(b)図(ロ)に示す状態に設置して電気特性の評価を実施した。アンテナの位置に対し入射角が常に45〜60°となるようにして評価したところ次のような結果が得られた(図7に■印で示す)。
反射板13:直径640mm
半球レンズ14:直径450mm
レンズ層数:8
図7のグラフからわかるように、アンテナがどの位置にあっても最大(MAX)ゲインが得られる上、アンテナとしてかなりコンパクトにすることができた。
【0059】
(例2)上記第2実施形態のレンズアンテナ装置Bを試作し、図6の(b)図(ロ)に示す状態に設置して電気特性の評価を実施した。反射板の移動角が最小となる(0,10°位置→入射角20°)ようにしてアンテナの位置に対し入射角が常に20〜80°で評価したところ次のような結果が得られた(図7に△印で示す)。
反射板13:直径900mm
半球レンズ14:直径450mm
レンズ層数:8
図7のグラフからわかるように、アンテナがどの位置にあってもゲインの減少は少なく使用上影響の無いゲインが得ることができた。
【0060】
(比較例)反射板が固定した以外には例2と同等のレンズアンテナ装置を試作し、図6の(b)図(ロ)に示す状態に設置して電気特性の評価を実施したところ次のような結果が得られた(図7に▲印で示す)。
反射板13:直径1400mm
半球レンズ14:直径450mm
レンズ層数:8
20°未満、80°を越えた領域でゲインが大きく低下した。また、アンテナ装置の大きさもかなり大きくなり、取り扱いに不便なものとなった。
【0061】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、この発明のレンズアンテナ装置は誘電体材料の半球体から成る半球レンズと、半球レンズより大径で半球レンズの切断面に対して設けられる電波反射板と、アンテナ素子を有し半球レンズの電波収束位置に移動、配置される放射器と、反射板を傾斜自在に支持する反射板支持手段とを備え、支持手段により反射板の傾斜角を調整して半球レンズへの入射角を所定角度範囲内となるようにしたから、静止衛星との電波だけでなく周回衛星との電波や、赤道下のような緯度の異なる場所でもその使用場所に応じて反射板の傾斜角を調整することにより高利得で電波を送受信できるという顕著な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態のレンズアンテナ装置の外観斜視図
【図2】同上の主縦断面図
【図3】反射板支持手段の概略構成図
【図4】作用の説明図
【図5】第2実施形態のレンズアンテナ装置の外観斜視図
【図6】同上の主縦断面図
【図7】実施例の装置によるゲインの測定データのグラフ
【図8】従来例の説明図
【符号の説明】
10 レンズアンテナ本体
11 ベース板
12 回転台
13 反射板
14 半球レンズ
15 ガイドレール
16 放射器
17 レドーム
20 反射板支持手段
21 基部
22 半球支持部
23 引張手段

Claims (6)

  1. 誘電体材料で半球体を形成して電波ビームを収束するようにした半球レンズと、電波ビームを反射するように半球レンズの切断面に対して設けられ半球レンズ径より所定寸法大径の電波反射板と、電波ビームを送受信するアンテナ素子を有し半球レンズの電波収束位置に移動自在に配置される放射器とを備え、電波反射板を任意の方向へ傾斜自在に支持する反射板支持手段を設けて反射板の傾斜角を調整し、半球レンズへの入射角が所定の角度範囲内となるようにしたレンズアンテナ装置。
  2. 前記放射器を電波収束位置へ移動させる位置設定手段を設け、この位置設定手段が、半球レンズのアジマス軸周りに放射器の位置を移動させ電波ビームの方向へ方位角を制御する方位角設定手段と、半球レンズのエレベーション軸周りに放射器の位置を移動させ電波ビームの方向へ仰角を制御する仰角設定手段とから成ることを特徴とする請求項1に記載のレンズアンテナ装置。
  3. 前記反射板支持手段が、レンズアンテナ装置の反射板を支持する基部に設けた半球状又は球状の回転支持部と、基部に連結された傾斜設定手段とから成ることを特徴とする請求項1又は2に記載のレンズアンテナ装置。
  4. 前記傾斜設定手段が、反射板を地面に水平としたとき半球レンズへの入射角が20°〜80°外になると、反射板を傾斜させて相対的に半球レンズへの入射角が20°〜80°内となるように傾斜角度を調整する機構を備えたことを特徴とする請求項3に記載のレンズアンテナ装置。
  5. 前記入射角度を45°〜60°としたことを特徴とする請求項4に記載のレンズアンテナ装置。
  6. 前記半球レンズと放射器の保護用にレドームを設けたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載のレンズアンテナ装置。
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