JP3656963B2 - 木質解繊物およびその製造方法、ならびに微生物資材 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、木質解繊物およびその製造方法、ならびに本発明の木質解繊物を有用な微生物の担体とし、蒸煮により生じる無菌的な環境を利用して目的の微生物の増殖が図れる微生物資材に関する。
【0002】
【従来の技術】
蒸煮爆砕による木質の解繊技術は木質加工の前処理技術として活用されている。例えば、爆砕装置に関して、被爆砕物をシリンダー内を圧縮された状態で圧送し、その後シリンダー先端のノズルから大気に吐出して連続的に爆砕する装置(特許文献1参照、特許文献2参照)が開示されている。また、特許文献2には、蒸煮爆砕法による木材の物理化学性変化について記載されている。
【0003】
一方、土壌病害抑制や堆肥発酵に有用な微生物資材の担体として、多くの単体が提案されている。例えば多孔質セラミックスおよびガラス、ゼオライト等の鉱物、ポリビニルアルコール(PVA)等のプラスチック類、そして木材チップおよびその炭化物などである。
このような担体は微生物の住みかとなる多孔質すなわちマイクロハビタット機能を活用したものであり、微生物を付加した担体を堆肥や土壌に投入した場合の先住微生物からの生物的な拮抗作用を受けにくくし、目的生物にとって好適な生息環境を付与できる。
【0004】
担体に目的微生物を付与した微生物資材の土壌や堆肥中での機能を維持させるためには、菌密度を高く保持することが実用上重要である。従来、担体に目的微生物を増殖させ、あるいは使用環境での定着性を高めるために、目的微生物の栄養源を孔隙内に添加する方法が知られている。(特許文献3参照)。
また、微生物資材の土壌(培地)や堆肥化などの農業分野に利用する場合、微生物資材は農地還元可能な有害成分を含まず、土壌中で分解される素材であることが望ましく、このため木質は担体材料として有望である。
木質の担体利用にあたってはチップ化し、細片化等を行なうことで表面積を増やせた後菌体を接種し、増殖させる方法がとられており、加熱により樹脂を除去する方法も提案されている(特許文献4参照)。また、蒸煮爆砕処理された木片チップが物理的に良好な担体となり得ることが提案されている(特許文献3参照)。
【0005】
【特許文献1】
特開平10−94736号公報(段落[0007]段)
【特許文献2】
特開平10−71341号公報(請求項4、段落[0006]〜[0009]段)
【特許文献3】
特開平6−212155号公報(請求項1、段落[0036]〜[0039]段)
【特許文献4】
特開平10−191958号公報(請求項1)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
単なる粉砕等を行なった木質担体は、微生物の棲息に有効なマイクロハビタットが十分でなく、また、微生物の培養を行う際に多量の菌体を付与するか、予め担体を減菌する必要がある。
一方、蒸煮爆砕処理した木質解繊物は細胞壁からなるハニカム構造を有し、マイクロハビタット機能が期待できる担体製造が期待できる。
しかしながら、従来の蒸煮爆砕処理した木質解繊物に有用微生物を接種して微生物資材として使用すると、接種した有用微生物の成育が著しく阻害されるという問題がある。
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、農地還元可能な木材、貝殻などの天然物を原料として、有用微生物を接種しても、その成育を阻害しない木質解繊物およびその製造方法、ならびに有用微生物の増殖が図れる微生物資材の提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の木質解繊物は、蒸煮爆砕処理により得られる多孔質の木質解繊物であって、該木質解繊物は、木材の蒸煮爆砕処理時に発生する酸成分と反応するアルカリ成分を木材と共存させて爆砕処理されてなることを特徴とする。
また、蒸煮爆砕処理により得られる多孔質の木質解繊物に、蒸煮爆砕処理時に発生する酸成分と反応するアルカリ成分が残存していることを特徴とする。
また、蒸煮爆砕処理時に発生する酸成分と反応するアルカリ成分が炭酸カルシウム資材を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明の微生物資材は、上述した木質解繊物に有用微生物が接種されてなることを特徴とする。
【0009】
本発明の木質解繊物の製造方法は、木材をチップに切断する工程と、該チップを蒸煮爆砕処理する工程とを含む製造方法において、チップを蒸煮爆砕処理する工程が該チップと炭酸カルシウム資材とを混合して蒸煮爆砕処理する工程であることを特徴とする。
【0010】
蒸煮爆砕処理した木質解繊物に接種した有用微生物の成育が著しく阻害される原因を研究したところ、木材の蒸煮爆砕処理に伴い発生する各種有機酸が有用微生物の成育を著しく阻害していることが分かった。
木材を蒸煮することにより、木材に含まれるヘミセルロースが加水分解を受けて、オリゴ糖に分解するとともに、部分的にアセチル化されている部分等が酢酸などの有機酸に変化する。このため、木材のみを蒸煮爆砕処理すると、得られる木質解繊物が有機酸を含むことになる。低いpH値が生育に悪い影響を及ぼす菌体の場合、この木質解繊物へ有用微生物を接種して増殖させることが困難になる。
蒸煮爆砕処理時に炭酸カルシウム資材などのアルカリ成分を共存させることにより、有用微生物の生育に最適なpH値を調節でき、その結果、良好な微生物担体として、また植物栽培培地にできる木質解繊物が得られた。本発明はこのような知見に基づくものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
蒸煮爆砕処理に使用できる木材については特に制限なく、例えば街路樹剪定枝、間伐材、廃材等、種々の木材資源を利用できる。
木材は、蒸煮爆砕処理を効率よく行なうために、蒸煮爆砕処理装置に投入する前処理として、チップ状にすることが好ましい。チップ状の形状としては、木材の種類、蒸煮爆砕処理装置の大きさ等によって異なるが、通常、厚さ5〜10mm、一辺1〜2cm程度の角材が好ましい。
【0012】
本発明で使用できるアルカリ成分としては、有機酸と反応し得るアルカリ成分であれば使用できる。好適なアルカリ成分は炭酸カルシウム資材を含む成分が適している。炭酸カルシウム資材を含む成分は蒸煮処理に伴って発生する抗菌作用を有する酸と反応して不溶性のカルシウム塩となることで抗菌作用を抑制できるため、好ましいアルカリ成分である。
【0013】
炭酸カルシウム資材を含む成分としては、貝殻、カキ殻等の水産廃棄物が利用できる。カキ殻の場合、未粉砕物でも爆砕処理により粉砕されるため事前の粉砕処理を省くことができるので、特に好ましい炭酸カルシウム資材を含む成分である。
【0014】
木材チップとカキ殻などのアルカリ成分とは蒸煮爆砕前に予め混合する。アルカリ成分の混合割合は、木質解繊物のpHを目的微生物の増殖が可能なpH範囲に調整できる量を配合する。ここで木質解繊物のpHとは、木質解繊物10gを純水50mlに浸漬したときの上澄み液のpH値をいう。
【0015】
蒸煮爆砕処理は、木材に含まれるヘミセルロースが分解し、同リグニンが低分子化することで解繊し、繊維状となる処理条件であればよい。
蒸煮爆砕処理条件と、得られた木質解繊物の容積重(仮比重g/ml)および最大容水量(MWC、ml/100ml)との関係を図1に示す。なお、蒸煮時間は10分間で行ない、保水性の指標となる容積重および最大容水量は木材チップに対する相対値で示した。
図1より、良好な保水性が得られる蒸煮爆砕処理条件は、1.1MPa(190℃)〜2.0MPa(210℃)、好ましくは1.6MPa(200℃)〜2.0MPa(210℃)である。蒸煮爆砕処理時間は5〜10分である。蒸煮圧力が高くなりすぎ、または蒸煮時間が長くなりすぎると解繊が進みすぎ、粉状となり保水性等の培地適性としての物理特性が低下する。上記条件で蒸煮爆砕処理することにより、園芸資材として広く使用されているピートモスや水苔の代替品として、同資材と同等の保水性、比重を有する適度な解繊物が得られる。
【0016】
蒸煮爆砕処理により、木材の微細構造は細胞内物質が爆砕により飛び出すことで細胞壁が残り、ハニカム構造を有する木質解繊物が得られる。すなわち微生物資材として有効なほぼ単一の大きさのマイクロハビタットを有する担体資材となる。
また、本発明においては、カキ殻などのアルカリ成分共存下において、蒸煮爆砕処理を行なうので、ヘミセルロースの分解にともなう有機酸の生成によるpH低下を抑え、有用微生物の生育に適したpHに調節できる。なお、アルカリ成分を配合しないで蒸煮爆砕処理を行なうと、上記処理条件下では木質解繊物のpHは、通常3.0程度であるが、アルカリ成分の配合量を変えることにより、3.0程度以上のpHに調節できる。例えば、有用微生物の生育に適し、かつ作物の栽培にとってもっとも適当な土壌PH5.5〜6.5に調節できる。
さらに、木質解繊物のpH調節に用いたカキ殻などのアルカリ成分は、蒸煮爆砕処理後も木質解繊物に残存させることができる。蒸煮爆砕処理により砕片状となったカキ殻は、酸性土壌の改質にも効果がある。
【0017】
蒸煮爆砕処理において、木材チップは約1.6MPa(200℃)〜2.0MPa(210℃)の高温高圧条件となるため、5〜10分間処理された蒸煮爆砕処理物は完全に減菌された状態となる。このため爆砕後処理物の温度低下(約50℃以下)を待って目的とする有用微生物を接種すれば拮抗する他の微生物の介在がないため、有用微生物の旺盛な増殖ができる微生物資材用担体が得られる。
【0018】
また、この微生物資材は、爆砕処理に伴い、解繊物中にヘミセルロースの分解物であるオリゴ糖等が生成しており、微生物の栄養源として利用される。このため、当該微生物を接種し、一定期間無菌的に培養することで単一の接種微生物を含む微生物資材となる。
さらに、目的とする有用微生物の増殖を図るためには、菌体の接種と同時に窒素源などの栄養源を添加することが望ましい。添加の方法としては液体状が好ましい。
【0019】
微生物資材用担体となる木質解繊物はそのpHを任意に調節することができるので、種々の有用微生物を接種できる。例えば、細菌、放線菌、糸状菌、乳酸菌、酵母菌等が挙げられる。また、細菌として、好気性菌、嫌気性菌のいずれでもよく、グラム陽性・好気性のバチルス属細菌、光合成細菌等が挙げられる。
有用微生物は、単離されているもののみならず、複合系でもよく、あるいは土壌等から目的に応じてスクリーニングしたものであってもよい。
【0020】
本発明の微生物資材は、植物に対する栄養源の保持力、保水性を有する植物栽培培地として従来の木質粉砕物にない特徴を有し、培地として土壌に戻しても有機物の施用としての効果が期待できる。また環境へ悪影響を及ぼさない。
本発明の微生物資材は、稲作、畑作または果樹栽培などに適した土壌への改良効果とともに、養豚、養牛、養鶏場の排泄物の悪臭除去資材として、生ごみ減量用資材等として利用できる。
【0021】
木質解繊物の製造方法について説明する。
木材をチップに切断する工程は、蒸煮爆砕処理しやすい形態にチッパー等で原木を裁断する工程であり、周知の方法を用いることができる。
蒸煮爆砕処理する工程は、上記チップに炭酸カルシウム資材を混合した混合物を密閉した圧力窯中で水蒸気によって所定条件で蒸煮し、その後速やかに空気中に放出する行程である。好適な蒸煮爆砕処理工程は、1.1MPa(190℃)〜2.0MPa(210℃)、好ましくは1.6MPa(200℃)〜2.0MPa(210℃)である。また、蒸煮爆砕処理時間は5〜10分である。
所定のpH値に調節するために混合する炭酸カルシウム資材の量は、予め炭酸カルシウム資材を添加せずに処理された解繊物に含まれる有機酸量を中和滴定などで求め、この求められた有機酸量に基づいて定めることができる。
蒸煮爆砕処理により、高温、高圧水蒸気による木材チップ組織、細胞の軟化、分解と、それに続く急激な圧力の低下による細胞構造の物理的破壊が生じ、微生物資材として有効なほぼ単一の大きさのマイクロハビタットを有する担体資材が得られる。また、混合されているカキ殻などの炭酸カルシウム資材は蒸煮爆砕処理工程で破砕されるとともに、発生する有機酸を中和する。
【0022】
【実施例】
実施例1
街路樹としての利用が多い桜材をチッパーで予め厚さ5〜10mm、一辺1〜2cm程度のチップに切断した。チップの形状の分布は一定である方が均質な爆砕物を得られる。また、チップに混合して使用するカキ殻は蒸煮爆砕装置の投入口に入る程度(約5cm程度)に荒く破砕して用いた。混合したカキ殻の量はpHが約7となるように、重量比で(チップ/カキ殻=50/1)とした。
蒸煮爆砕処理条件は、1.6MPa(200℃)で10分間行ない、その後直ちに加圧を解除した。
得られた木質解繊物の走査電子顕微鏡による断面写真を図2に示す。図2に示すように細胞壁が残ったほぼ均一な空隙を有するハニカム構造を有している。
【0023】
実施例2
実施例1で得られた木質解繊物を用いて微生物資材を作製した。
木質解繊物に土壌伝染性病害菌であるフザリウムに対する拮抗性が報告されているバチルス属細菌を接種した。バチルス属細菌は予め液体培地で培養したものを木質解繊物1g当たり1×104個相当量接種した。
得られた微生物資材を40℃の温度条件で静置培養したところ、接種量以上の増殖を示した。
【0024】
実施例3
蒸煮爆砕処理条件を1.8MPaで行なう以外は実施例1と同一の条件、方法で蒸煮爆砕処理をした。得られた木質解繊物に対して乾燥処理をすることなくバチルス属細菌を接種すると同時に栄養源であるペプトン10g/l、グルコース10g/l、リン酸水素カリウム1g/l、硫酸マグネシウム5g/lを液体で添加する以外は実施例2と同一の条件、方法で微生物資材を作製した。
得られた微生物資材を40℃の温度条件で静置培養した。バチルス属細菌の増殖量を吸光度法により測定した。結果を図3に示す。
【0025】
実施例4
実施例3で得られた木質解繊物を70℃の恒温槽にて24時間乾燥して、バチルス属細菌を接種すると同時に栄養源であるペプトン10g/l、グルコース10g/l、リン酸水素カリウム1g/l、硫酸マグネシウム5g/lを液体で添加する以外は実施例2と同一の条件、方法で微生物資材を作製した。
得られた微生物資材を40℃の温度条件で静置培養した。バチルス属細菌の増殖量を吸光度法により測定した。結果を図3に示す。
【0026】
比較例1
実施例1で得られた桜材のチップをカキ殻を混合しないで、実施例1と同一の条件、方法で蒸煮爆砕処理して木質解繊物を得た。この木質解繊物に乾燥処理をすることなく実施例2と同一の条件、方法でバチルス属細菌を接種し、得られた微生物資材を40℃の温度条件で静置培養した。バチルス属細菌の増殖量を吸光度法により測定した。結果を図3に示す。
【0027】
図3に示すように、比較例1で得られた微生物資材においては、バチルス属細菌の増殖が認められなかった。この結果、比較例1では、解繊と同時に生成する有機酸により、接種した微生物が死滅あるいはその増殖が抑制されるため、微生物担体として不適であることが分かった。
一方、実施例で得られた微生物資材は、実施例3の場合には約30時間後に、実施例4の場合には24時間後に、資材1g当たり5×106個にまでバチルス属細菌がそれぞれ増殖した。また、図示を省略したが、実施例2で得られた微生物資材は、オリゴ糖などが残存しているため、バチルス属細菌の増殖が見られた。この結果、生成する有機酸の中和に必要な量のカキ殻等のカルシウム資材を混合し、同時に処理することで解繊物は良好な微生物担体として、また植物栽培培地にできることが分かった。
【0028】
【発明の効果】
本発明の木質解繊物は、木材の蒸煮爆砕処理時に発生する酸成分と反応するアルカリ成分を木材と共存させて爆砕処理されて得られるので、有用微生物に適したpHに容易に調節できる。
また、アルカリ成分が炭酸カルシウム資材であり、これらアルカリ成分が残存しているので、良好な微生物担体として、また土壌改良用担体として有用である。
【0029】
本発明の微生物資材は、上述した木質解繊物に有用微生物が接種されてなるので、接種した有用微生物の成育を増進する優れた微生物資材が得られる。
【0030】
本発明の木質解繊物の製造方法は、チップを蒸煮爆砕処理する工程において、該チップと炭酸カルシウム資材とを混合して蒸煮爆砕処理するので、簡易な方法で容易にpH調節できる木質解繊物が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】蒸煮爆砕処理条件と容積重および最大容水量との関係を示す図である。
【図2】木質解繊物の走査電子顕微鏡による断面写真である。
【図3】バチルス属細菌の増殖量を示す図である。
Claims (5)
- 木材の蒸煮爆砕処理により得られる多孔質の木質解繊物であって、
該木質解繊物は、前記木材の蒸煮爆砕処理時に発生する酸成分と反応するアルカリ成分を前記木材と共存させて爆砕処理されてなることを特徴とする木質解繊物。 - 前記アルカリ成分が残存していることを特徴とする請求項1記載の木質解繊物。
- 前記アルカリ成分が炭酸カルシウム資材を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の木質解繊物。
- 木質解繊物に有用微生物が接種されてなる微生物資材であって、
前記木質解繊物が請求項1、請求項2または請求項3記載の木質解繊物であることを特徴とする微生物資材。 - 木材をチップに切断する工程と、該チップを蒸煮爆砕処理する工程とを含む木質解繊物の製造方法において、
前記蒸煮爆砕処理する工程は、前記チップと炭酸カルシウム資材とを混合して蒸煮爆砕処理する工程であることを特徴とする木質解繊物の製造方法。
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