JP3655547B2 - 半導体薄膜の形成方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体素子、マイクロマシン等に用いられる独立した半導体薄膜および薄膜トランジスタ等の薄膜半導体素子用の半導体薄膜の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
Si基板を備える半導体素子において、高速動作化のために、サファイア等の絶縁基板上に単結晶のSiを形成するSOI(sillicon on insulator )技術が利用されている。
【0003】
一方、耐環境素子または高温素子として、SiC基板を備える半導体素子に対する期待が高まっている。このようなSiC基板を備える半導体素子においても、SOIと同様の技術を適用することにより、半導体素子の高速動作が可能となる。
【0004】
ところで、このような半導体素子に用いられる単結晶のSiC基板は高価である。また、半導体素子の作製には例えば厚さ300μmのSiC基板が用いられるが、実際に必要とされるのは表面の厚さ1μm程度の領域のみであり、大部分の残りの領域は無駄となる。
【0005】
以上のことから、独立したSiC薄膜を半導体素子の基板として用いる試みがなされている。この場合、SiC薄膜は以下の方法により形成されている。
【0006】
SiC薄膜の形成時には、まず、単結晶SiCからなるSiCウエハに水素イオンを注入する。それにより、水素イオンが高濃度で注入された水素イオン注入領域がSiCウエハ中に形成される。その後、電気炉またはランプ炉中においてSiCウエハを少なくとも500℃以上の高温で加熱する。それにより、SiCウエハの表面層が水素イオン注入領域において剥離する。
【0007】
また、液晶表示素子等に用いられる薄膜トランジスタ用半導体薄膜においては、一般に、ガラス等の基板上にCVD法(化学気相成長法)等により堆積させたアモルファスSi薄膜または微結晶Si薄膜が用いられている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
上記の独立したSiC薄膜の形成方法においては、2段階の工程、すなわちイオン注入工程と加熱工程とを行う必要がある。これらの工程は別の装置内において行うことから、上記のSiC薄膜の形成方法においては製造工程が複雑となる。
【0009】
また、上記の加熱工程は500℃以上の高温で行うので、このような高温まで加熱するのに長時間を要する。
【0010】
以上のことから、上記のSiC薄膜の形成方法においては、製造効率(スループット)が低下する。
【0011】
一方、SiCウエハを加熱すると、SiC結晶が熱アニールされる。しかしながら、SiC結晶においては、熱アニールを行ってもイオン注入時に受けた損傷が十分に回復されない。このため、剥離した表面層、すなわち形成されたSiC薄膜の結晶性が劣化する。
【0012】
良好な結晶性を有するSiC薄膜を形成するためには、上記の加熱工程において、イオンを注入したSiCウエハを1500℃以上の高温に加熱して熱アニールを行う必要がある。この場合、加熱にさらに長時間を要するため、半導体薄膜の製造効率(スループット)がさらに低下する。
【0013】
そこで、SiC薄膜の製造工程の簡略化およびイオン注入時に受けた半導体結晶の損傷の回復を目的として、高温に保持した状態でSiC結晶中に水素イオンを注入する方法が試みられている。しかしながら、この場合においては、水素イオンが拡散してしまうため、SiC結晶中にイオン注入領域が形成されない。したがって、表面層が剥離せず、SiC薄膜を形成することができない。
【0014】
また、液晶表示素子等に用いられる薄膜トランジスタ用半導体薄膜として、CVD法等によりガラス基板等に堆積させたSi薄膜を用いる場合、このSi薄膜はアモルファス状態または微結晶状態であるため、キャリアの移動度が小さい。キャリアの移動度が小さいと、半導体薄膜に形成された薄膜トランジスタの応答速度が遅くなるため、そのような半導体薄膜を液晶表示素子等に用いた場合に、動画の表示品質が悪くなるという問題が生じる。
【0015】
そこで、前記のCVD法等により堆積させたSi薄膜のキャリアの移動度を大きくするため、レーザ等を用いたアニールによりCVD法等により堆積させたSi薄膜の結晶粒径を拡大する試みがなされている。
【0016】
しかし、このような試みによっても薄膜トランジスタのサイズより小さい結晶粒しか得られておらず、薄膜トランジスタの応答速度を速くするには至っていない。逆に、薄膜トランジスタ内に結晶粒界が形成されてしまい、薄膜トランジスタごとに結晶粒界の数が異なることにより、薄膜トランジスタの特性にばらつきが生じるという問題が生じる。
【0017】
上記のイオン注入工程および電気炉等による加熱工程により独立した単結晶Si薄膜または単結晶SiC薄膜を形成し、その単結晶Si薄膜または単結晶SiC薄膜をガラス基板上に貼り付けることも考えられる。
【0018】
しかしながら、このような方法では、加熱工程に時間を要するだけでなく、任意の形状の単結晶Si薄膜または単結晶SiC薄膜をウエハから剥離させることができない。そのため、任意形状の単結晶Si薄膜または単結晶SiC薄膜をガラス基板に形成するためには、ガラス基板への貼り付け後、余分な領域をエッチング等により除去する必要があり、特にガラス基板のサイズが大きい場合には、極めて効率が悪く、現実的ではない。
【0019】
本発明の目的は、製造工程の簡略化が図られ高いスループットで独立した半導体薄膜を形成することが可能な半導体薄膜の形成方法を提供することである。
【0020】
本発明の他の目的は、基板上の必要とする領域に、スループットが高く低コストな工程により半導体薄膜を形成することが可能な単結晶半導体薄膜の形成方法を提供することである。
【0021】
本発明のさらに他の目的は、イオン注入による損傷が十分に回復されて良好な結晶性を有する独立した半導体薄膜または基板上の半導体薄膜を形成することが可能な半導体薄膜の形成方法を提供することである。
【0022】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
第1の発明に係る半導体薄膜の形成方法は、半導体結晶の表面から所定深さの領域に所定の元素をイオン注入してイオン注入領域を形成する工程と、半導体結晶に第1のレーザ光を照射することにより半導体結晶の表面層をイオン注入領域において剥離させて半導体薄膜を形成する工程と、半導体結晶の表面層を基板に接触させつつ第1のレーザ光と同じかまたは異なる第2のレーザ光を照射することにより半導体結晶の表面層を基板に接着させる工程とを備え、半導体結晶は、バンドギャップのエネルギーに相当する波長より長い所定の波長に光吸収ピークを有し、第1のレーザ光の波長は、光吸収ピークの波長であることを特徴とする。
【0023】
本発明に係る半導体薄膜の形成方法においては、第1のレーザ光の照射により、半導体結晶中の価電子が励起されて結晶中の結合が切断される。また、第1のレーザ光の照射による局所的瞬間的加熱効果によっても結晶中の結合が切断される。ここで、イオン注入により形成したイオン注入領域においては、切断された結晶中の結合をイオンが終端して凝集する。このため、イオン注入領域に歪みが集中し、この領域が脆化する。それにより、イオン注入領域において平面的に結晶格子が切れる。
【0024】
また、半導体結晶の表面層を基板に接触させつつ第2のレーザ光を照射することによって第2のレーザ光による熱により半導体結晶の表面層と基板とが融着する。
【0025】
このような半導体結晶の表面層の剥離工程および基板への表面層の接着工程により、基板上の必要な領域に半導体薄膜を形成することができる。
【0026】
上記の半導体薄膜の形成方法においては、高温加熱に代わって、第1のレーザ光の照射により表面層を剥離させる。このため、上記の方法によれば、加熱に時間を要することなく半導体薄膜を形成することが可能となる。
【0027】
また、イオン注入工程と第1または第2のレーザ光の照射工程とは同一の装置内において行うことができるため、半導体薄膜の製造工程が簡略化される。
【0028】
以上のことから、上記の半導体薄膜の形成方法によれば、半導体薄膜のスループットの向上を図ることが可能となる。
【0029】
さらに、上記の方法においては、イオンの注入に起因して発生した半導体結晶中の結晶欠陥(照射損傷)が第1または第2のレーザ光によりアニールされる。このような第1または第2のレーザ光によるアニールによれば、熱アニールでは十分に回復させることが困難な結晶欠陥であっても十分に回復させることが可能となる。したがって、上記の方法によれば、良好な結晶性を有する半導体薄膜を形成することが可能となる。
【0030】
また、上記のような波長の第1のレーザ光を照射することにより、半導体結晶中の価電子を効果的に励起させることが可能となる。また、局所的瞬間的加熱効果も生じる。その結果、結晶中の結合が効率よく切断され、この切断された結合を水素が終端して凝集する。したがって、表面層を効率よく剥離させることが可能となる。
【0031】
第2の発明に係る半導体薄膜の形成方法は、半導体結晶の表面から所定深さの領域に所定の元素をイオン注入してイオン注入領域を形成する工程と、半導体結晶に第1のレーザ光を照射することにより半導体結晶の表面層をイオン注入領域において剥離させて半導体薄膜を形成する工程と、半導体結晶の表面層を基板に接触させつつ第1のレーザ光と同じかまたは異なる第2のレーザ光を照射することにより半導体結晶の表面層を基板に接着させる工程とを備え、半導体結晶は、バンドギャップのエネルギーに相当する波長より長い所定の波長に光吸収ピークを有し、第2のレーザ光の波長は、光吸収ピークの波長であることを特徴とする。
【0032】
本発明に係る半導体薄膜の形成方法においては、第1のレーザ光の照射により、半導体結晶中の価電子が励起されて結晶中の結合が切断される。また、第1のレーザ光の照射に よる局所的瞬間的加熱効果によっても結晶中の結合が切断される。ここで、イオン注入により形成したイオン注入領域においては、切断された結晶中の結合をイオンが終端して凝集する。このため、イオン注入領域に歪みが集中し、この領域が脆化する。それにより、イオン注入領域において平面的に結晶格子が切れる。
【0033】
また、半導体結晶の表面層を基板に接触させつつ第2のレーザ光を照射することによって第2のレーザ光による熱により半導体結晶の表面層と基板とが融着する。
【0034】
このような半導体結晶の表面層の剥離工程および基板への表面層の接着工程により、基板上の必要な領域に半導体薄膜を形成することができる。
【0035】
上記の半導体薄膜の形成方法においては、高温加熱に代わって、第1のレーザ光の照射により表面層を剥離させる。このため、上記の方法によれば、加熱に時間を要することなく半導体薄膜を形成することが可能となる。
【0036】
また、イオン注入工程と第1または第2のレーザ光の照射工程とは同一の装置内において行うことができるため、半導体薄膜の製造工程が簡略化される。
【0037】
以上のことから、上記の半導体薄膜の形成方法によれば、半導体薄膜のスループットの向上を図ることが可能となる。
【0038】
さらに、上記の方法においては、イオンの注入に起因して発生した半導体結晶中の結晶欠陥(照射損傷)が第1または第2のレーザ光によりアニールされる。このような第1または第2のレーザ光によるアニールによれば、熱アニールでは十分に回復させることが困難な結晶欠陥であっても十分に回復させることが可能となる。したがって、上記の方法によれば、良好な結晶性を有する半導体薄膜を形成することが可能となる。
【0039】
また、上記のような波長の第2のレーザ光を照射することにより、第2のレーザ光が半導体結晶に十分に吸収され、半導体結晶の表面層と基板とが強固に接着される。
【0040】
第3の発明に係る半導体薄膜の形成方法は、半導体結晶の表面から所定深さの領域に所定の元素をイオン注入してイオン注入領域を形成する工程と、半導体結晶に第1のレーザ光を照射することにより半導体結晶の表面層をイオン注入領域において剥離させて半導体薄膜を形成する工程と、半導体結晶の表面層を基板に接触させつつ第1のレーザ光と同じかまたは異なる第2のレーザ光を照射することにより半導体結晶の表面層を基板に接着させる工程とを備え、基板は第1および第2のレーザ光のうち一方または両方のレーザ光を吸収し、半導体結晶は第1および第2のレーザ光のうち一方または両方のレーザ光を透過し、第1および第2のレーザ光のうち一方または両方のレーザ光を半導体結晶側から照射することを特徴とする。
【0041】
本発明に係る半導体薄膜の形成方法においては、第1のレーザ光の照射により、半導体結晶中の価電子が励起されて結晶中の結合が切断される。また、第1のレーザ光の照射による局所的瞬間的加熱効果によっても結晶中の結合が切断される。ここで、イオン注入により形成したイオン注入領域においては、切断された結晶中の結合をイオンが終端して凝集する。このため、イオン注入領域に歪みが集中し、この領域が脆化する。それにより、イオン注入領域において平面的に結晶格子が切れる。
【0042】
また、半導体結晶の表面層を基板に接触させつつ第2のレーザ光を照射することによって第2のレーザ光による熱により半導体結晶の表面層と基板とが融着する。
【0043】
このような半導体結晶の表面層の剥離工程および基板への表面層の接着工程により、基板上の必要な領域に半導体薄膜を形成することができる。
【0044】
上記の半導体薄膜の形成方法においては、高温加熱に代わって、第1のレーザ光の照射により表面層を剥離させる。このため、上記の方法によれば、加熱に時間を要することなく半導体薄膜を形成することが可能となる。
【0045】
また、イオン注入工程と第1または第2のレーザ光の照射工程とは同一の装置内において行うことができるため、半導体薄膜の製造工程が簡略化される。
【0046】
以上のことから、上記の半導体薄膜の形成方法によれば、半導体薄膜のスループットの向上を図ることが可能となる。
【0047】
さらに、上記の方法においては、イオンの注入に起因して発生した半導体結晶中の結晶欠陥(照射損傷)が第1または第2のレーザ光によりアニールされる。このような第1または第2のレーザ光によるアニールによれば、熱アニールでは十分に回復させることが困難な結晶欠陥であっても十分に回復させることが可能となる。したがって、上記の方法によれば、良好な結晶性を有する半導体薄膜を形成することが可能となる。
【0048】
また、第1または第2のレーザ光が半導体結晶を透過して基板で吸収される。それにより、基板で熱が発生し、その熱により半導体結晶の表面層の剥離または接着が行われる。
【0049】
第1または第2のレーザ光を照射する工程は、イオン注入の工程の後、イオン注入の工程と同時、またはイオン注入の工程と交互に行ってもよい。
【0050】
特に、第1または第2のレーザ光を照射する工程をイオン注入の工程と同時に行う場合、および第1または第2のレーザ光を照射する工程とイオン注入工程と交互に行う場合においては、第1または第2のレーザ光の照射とイオン注入とを同一の工程において行うことができる。このため、半導体薄膜の製造工程がさらに簡略化され、製造効率の向上がさらに図られる。
【0051】
ここで、第1のレーザ光と第2のレーザ光とが異なる場合、第2のレーザ光を照射する工程は、第1のレーザ光を照射する工程と同時、第1のレーザ光を照射する工程後、第1のレーザ光を照射する工程前、または第1のレーザ光を照射する工程と交互に行ってもよい。
【0052】
第1のレーザ光と第2のレーザ光とが同じ場合には、半導体結晶と基板を接触させつつ、第1のレーザ光のみを照射することにより、半導体結晶の表面層をイオン注入領域において剥離させると同時に、基板に接着させてもよい。
【0053】
この場合においては、1つのレーザ光により剥離と接着とを同一の工程において行うことができる。このため、半導体薄膜の製造工程がさらに簡略化され、スループットの向上を図ることができる。
【0054】
また、基板に接着させる半導体薄膜の領域は、半導体結晶と基板を接触させた領域全域である必要はなく、第1および第2のレーザ光を半導体結晶の表面層の一部領域に照射して照射された領域の半導体結晶の表面層を剥離させるとともに基板に接着させてもよい。
【0055】
これにより、基板の任意の領域のみに半導体薄膜を形成することが可能となり、基板の大きさの制約を受けず、かつスループットが高く低コストな工程による半導体薄膜を形成することが可能である。
【0056】
第1のレーザ光の波長は、半導体結晶のバンドギャップのエネルギーに相当する波長にほぼ等しいか、または半導体結晶のバンドギャップのエネルギーに相当する波長よりも短くてもよい。このような波長の第1のレーザ光を照射することにより、半導体結晶中の価電子を効果的に励起させることが可能となる。また、局所的瞬間的加熱効果も生じる。その結果、結晶中の結合が効率よく切断され、この切断された結合を水素が終端して凝集する。したがって、表面層を効率よく剥離することが可能となる。
【0057】
第2のレーザ光の波長は、半導体結晶のバンドギャップのエネルギーに相当する波長にほぼ等しいか、または半導体結晶のバンドギャップのエネルギーに相当する波長よりも短くてもよい。このような波長の第2のレーザ光を照射することにより、第2のレーザ光が半導体結晶に十分に吸収され、半導体結晶の表面層と基板とが強固に接着される。
【0058】
基板は第1および第2のレーザ光のうち一方または両方のレーザ光を透過し、第1および第2のレーザ光のうち一方または両方のレーザ光を基板側から照射してもよい。
【0059】
この場合、第1または第2のレーザ光が基板を透過して半導体結晶で吸収される。それにより、半導体結晶の表面層の剥離または接着が行われる。
【0060】
第1または第2のレーザ光を基板側から照射する場合は、基板を透過する光の波長域が基板を透過する光の波長域よりも短波長であることが好ましい。すなわち、基板のバンドギャップのエネルギーは、接着させる半導体結晶のバンドギャップのエネルギーよりも大きいことが好ましい。照射される第1または第2のレーザ光が基板を透過し、半導体結晶で十分に吸収される。これにより、基板側からレーザ光を照射した場合において半導体結晶のイオン注入領域における剥離および半導体結晶の表面層と基板との接着が可能である。
【0061】
第1または第2のレーザ光を半導体結晶側から照射する場合は、半導体結晶を透過する光の波長域が基板を透過する光の波長域よりも短波長であることが好ましい。すなわち、半導体結晶のバンドギャップのエネルギーが、基板のバンドギャップのエネルギーよりも大きいことが好ましい。この場合、第1または第2のレーザ光が半導体結晶を透過し、基板で十分に吸収されて半導体結晶のイオン注入領域における剥離および半導体結晶の表面層と基板との接着が可能である。
【0062】
所定の元素は水素であってもよい。この場合、半導体結晶中に水素イオンが高濃度で注入されたイオン注入領域が形成される。このイオン注入領域においては、水素が第1のレーザ光の照射により切断された半導体結晶中の結合を終端して凝集する。それにより、イオン注入領域において表面層が剥離する。
【0063】
半導体結晶は、ケイ素、炭化ケイ素、ダイヤモンドまたは窒化ガリウムであってもよい。特に、炭化ケイ素、ダイヤモンドおよび窒化ガリウムにおいては、イオン注入時に半導体結晶が受けた損傷を熱アニールにより回復させることが困難である。これに対して、上記の方法においては、第1または第2のレーザ光によりアニールを行うため、半導体結晶が受けた損傷が十分に回復される。したがって、このような半導体結晶からなる半導体薄膜においても良好な結晶性が実現される。
【0064】
剥離した半導体薄膜の剥離側の面を酸化させる工程をさらに備えてもよい。この場合、半導体薄膜の剥離側の面はイオン注入による損傷を受けているため、イオン注入による損傷を受けておらず良好な結晶性を有する領域に比べて容易に酸化される。このような半導体薄膜の剥離側の面は、通常の温度よりも低い温度で酸化することが可能である。
【0065】
以上のことから、結晶性が劣化した剥離側の面を選択的に酸化するとともにこの酸化された領域を選択的に除去することにより、半導体薄膜において、結晶性が劣化した領域を除去することが可能となる。また、基板上の必要とする領域に、スループットが高く低コストな工程により結晶性の良い半導体薄膜を形成することが可能となる。
【0066】
【発明の実施の形態】
(1)第1の実施の形態
以下に、本発明の第1の実施の形態における半導体薄膜の形成方法について説明する。
【0067】
本実施の形態においては、SiCウエハの所定深さの領域に水素イオンを注入する。それにより、SiCウエハにおいて、水素イオンが高濃度で注入された水素イオン注入領域が形成される。
【0068】
ここで、本実施の形態においては、上記のようにSiCウエハに水素イオンを注入すると同時に、SiCウエハに波長308nmのXeClエキシマレーザ光を照射する。
【0069】
なお、XeClエキシマレーザ光の光強度が1J/cm2 より大きい場合にはSiCの蒸発(昇華)または分解が生じる。したがって、XeClエキシマレーザ光の光強度は1J/cm2 以下とすることが好ましい。
【0070】
上記においては、レーザ光の照射によりSiC結晶に光エネルギーを供給する。それにより、SiC結晶中の最外殻の価電子が励起され、結晶中の結合が切断される。
【0071】
ここで、水素イオン注入領域においては、結晶中に注入された水素が、上記の切断された結合を終端して凝集する。このため、水素イオン注入領域に歪みが集中し、この領域が脆化する。それにより、水素イオン注入領域において、平面的に結晶格子が切れる。
【0072】
以上のようにして、水素イオン注入領域において表面層が剥離し、SiC薄膜が形成される。
【0073】
ここで、上記の方法においては、SiCウエハにレーザ光を照射するため、SiCウエハがレーザ光によりアニールされる。したがって、剥離した表面層すなわち形成されたSiC薄膜においては、イオン注入時にSiC結晶が受けた損傷がレーザアニールにより十分に回復され、良好な結晶性が実現される。
【0074】
図1は、上記のSiC薄膜の形成方法に用いられる半導体薄膜製造装置の例を示す模式図である。
【0075】
図1に示すように、半導体薄膜製造装置は、エキシマレーザ装置50、ミラー51、イオンビーム装置60、Qレンズボックス52、偏向電磁石53、試料室56、およびコントロールパネル57が設けられた制御装置58から構成される。
【0076】
この場合、エキシマレーザ装置50はXeClレーザ光を出射する。一方、イオンビーム装置60はイオン源61に水素イオンを備えており、水素イオンビームを出射する。イオンビーム装置60は、制御装置58により制御される。コントロールパネル57を操作することにより、イオンビーム装置60の加速電圧の設定および真空バルブの開閉を行う。
【0077】
上記の方法によるSiC薄膜の形成時には、試料としてSiCウエハを試料室56に配置する。次に、エキシマレーザ装置50からXeClレーザ光を出射させ、レーザ光をミラー51およびレーザ入射窓54を介して試料室56に導入する。それにより、試料室56に配置されたSiCウエハにレーザ光を照射する。
【0078】
ここで、上記の方法においては、試料にレーザ光を照射すると同時に、試料に水素イオンを注入する。
【0079】
すなわち、エキシマレーザ装置50からレーザ光を出射させると同時に、イオンビーム装置60から水素イオンビームを出射させる。この水素イオンビームをQレンズボックス52を介して集光させ、さらに、偏向電磁石53を介して試料室56に導入する。このようにして、試料室56に配置されたSiCウエハの所定深さの領域に水素イオンを注入し、水素イオン注入領域を形成する。
【0080】
なお、この場合においては、水素イオンビームとレーザ光とが同軸で試料に入射している。
【0081】
上記のSiC薄膜の形成方法においては、一つの装置、すなわち図1に示す装置内において、イオン注入とレーザ光照射とを同時に行ってSiC薄膜を形成することができる。このため、SiC薄膜の製造工程が簡略化される。
【0082】
また、上記の方法においては、従来のような高温加熱に代わってレーザ光照射を行う。このため、加熱に時間を要することがない。
【0083】
以上のことから、上記のSiC薄膜の形成方法によれば、SiC薄膜の製造効率(スループット)の向上を図ることが可能となる。
【0084】
さらに、上記の方法においては、水素イオンの注入に起因して発生したSiC結晶中の結晶欠陥(照射損傷)がレーザ光によりアニールされる。このようなレーザ光によるアニールによれば、熱アニールでは十分に回復させることが困難であった結晶欠陥を十分に回復させることが可能となる。したがって、上記の方法により形成されたSiC薄膜においては、良好な結晶性が実現される。
【0085】
例えば、上記の方法により形成した独立のSiC薄膜を用いて、前述のSOI技術と同様の技術を適用することにより、高速動作が可能な半導体素子を形成することができる。この場合、SiCを有効に利用することが可能となり、半導体素子の製造コストを低減することが可能となる。また、SiC薄膜は良好な結晶性を有することから、この半導体素子においては、良好な素子特性が実現される。
【0086】
さらに、上記の方法により形成したSiC薄膜を半導体素子以外に用いてもよい。例えば、上記の方法により形成した独立のSiC薄膜をマイクロマシンに利用してもよい。
【0087】
なお、上記においてはイオン注入と同時にレーザ光照射を行っているが、イオン注入の後でレーザ光照射を行ってもよい。また、イオン注入とレーザ光照射とを交互に行ってもよい。
【0088】
なお、イオン注入と同時にレーザ光照射を行う場合、およびイオン注入と交互にレーザ光照射を行う場合においては、イオン注入とレーザ光照射とを同一の工程において行うことが可能となる。このため、SiC薄膜の製造効率がより向上する。
【0089】
また、上記においてはSiCウエハにXeClレーザ光を照射する場合について説明したが、これ以外のレーザ光をSiCウエハに照射することも可能である。
【0090】
ここで、SiCウエハに照射するレーザ光の波長は、SiC結晶の有するバンドギャップエネルギーに相当する波長と同じであるか、またはこれよりも短波長であることが好ましい。このような波長のレーザ光を照射することにより、SiC結晶中の価電子を効率よく励起させることが可能となる。その結果、SiC結晶中の結合が効率よく切断され、この切断された結合を水素が終端して凝集する。それにより、より効率よくSiCウエハの表面層を剥離させることが可能となる。
【0091】
また、上記においては水素イオンを注入する場合について説明したが、水素イオン以外のイオンを注入することも可能である。
【0092】
上記においては、本発明に係る半導体薄膜の形成方法によりSiC薄膜を形成する場合について説明したが、本発明に係る半導体薄膜の形成方法を用いて、Siからなる薄膜、ダイヤモンドからなる薄膜またはGaNからなる薄膜を形成することも可能である。この場合においても、SiC薄膜を形成する場合と同様の効果が得られる。
【0093】
なお、Si、ダイヤモンドまたはGaNからなる薄膜を形成する場合、SiCの場合と同様、半導体ウエハに照射するレーザ光の波長は、ウエハを構成する半導体の有するバンドギャップエネルギーに相当する波長と同じであるか、またはこれよりも短波長であるこが好ましい。
【0094】
例えば、ダイヤモンドからなる薄膜を形成する場合においては、波長193nmのArFエキシマレーザ光を照射する。なお、この場合のArFエキシマレーザ光の光強度は1J/cm2 以下とする。一方、GaNからなる薄膜を形成する場合においては、波長308nmのXeClエキシマレーザ光を照射する。なお、この場合のXeClエキシマレーザ光の光強度は1J/cm2 以下とする。
【0095】
次に、上記の方法により作製したSiC薄膜の結晶性をさらに向上させるための方法について説明する。
【0096】
上記の方法により例えば厚さ約250nmのSiC薄膜を形成した後、このSiC薄膜を酸素雰囲気中において高温、例えば1050℃で1時間加熱して酸化処理を行う。
【0097】
ここで、SiC薄膜の剥離面側の領域においては、イオン注入によりSiC結晶が損傷を受けている。このため、SiC薄膜において、剥離面側の領域は、他の領域と比較して結晶性が劣化しており、歪みが集中して脆化している。このことから、上記のSiC薄膜の酸化処理においては、剥離面側の領域における酸化速度が他の領域における酸化速度に比べて大きくなる。
【0098】
通常、1050℃でSiCの酸化処理を行った場合、SiCは表面から深さ5nm程度の領域までしか酸化されない。例えば、上記のようにしてSiC薄膜を酸化する場合、剥離面側と反対側の領域においては、表面から5nmの深さまでしか酸化されない。このように、結晶が損傷を受けていないSiC薄膜の領域はほとんど酸化されない。
【0099】
一方、SiC薄膜の剥離面側の領域においては、結晶性が劣化しているため、SiCが全て酸化されてSiO2 に変化する。例えば、この場合、剥離面から約120nmの深さの領域までが酸化され、SiCがSiO2 に変化する。
【0100】
上記のようにしてSiC薄膜の酸化処理を行った後、SiC薄膜をフッ化水素酸水溶液で処理する。それにより、SiO2 に変化した領域を溶解させ、選択的に除去することができる。
【0101】
以上のような方法によれば、SiC薄膜において結晶性の劣化した領域を選択的に除去することが可能となり、結晶性の良好なSiC薄膜を形成することが可能となる。例えば、この場合においては、良好な結晶性を有する厚さ約125nmのSiC薄膜が形成される。
【0102】
ここで、本実施の形態の方法により形成されたSiC薄膜においては、イオン注入により損傷を受けて結晶性が劣化した領域と、損傷を受けず結晶性が良好である領域との境界が明瞭である。このため、損傷を受けた領域のみを選択的に酸化し、この領域を除去することが可能となる。それにより、結晶性が良好なSiCのみから構成されるSiC薄膜が容易に得られる。
【0103】
なお、上記においてはSiC薄膜の結晶性を向上させる場合について説明したが、SiC以外の半導体薄膜に上記の方法を適用してもよい。例えば、Si、ダイヤモンドまたはGaNからなる薄膜に上記の方法を適用してもよい。それにより、より良好な結晶性を有するSi、ダイヤモンドまたはGaNからなる薄膜を形成することが可能となる。
【0104】
さらに、酸化処理により半導体薄膜の結晶性の向上を図る上記の方法は、本実施の形態における方法以外の方法により形成された半導体薄膜にも適用可能である。
【0105】
例えば、イオン注入後に加熱を行う従来の方法により形成された半導体薄膜に酸化処理を行ってもよい。この場合においても、上記の場合と同様、結晶性の劣化した領域を選択的に酸化して除去することができる。したがって、半導体薄膜の結晶性を向上させることが可能となる。
【0106】
(2)第2の実施の形態
以下に、本発明の第2の実施の形態における半導体薄膜の形成方法について説明する。
【0107】
本実施の形態においては、SiウエハまたはSiCウエハの所定深さの領域に水素イオンを注入する。それにより、SiウエハまたはSiCウエハにおいて水素イオンが高濃度に注入された水素イオン注入領域が形成される。
【0108】
ここで、本実施の形態においては、上記の水素イオンを注入したSiウエハまたはSiCウエハにガラス基板を密着させた状態で、ガラス基板を通してガラス基板と接触しているSiウエハまたはSiCウエハに波長308nmのXeClエキシマレーザ光を照射する。
【0109】
なお、XeClエキシマレーザ光の光強度が0.8J/cm2 より大きい場合にはSiの蒸発(昇華)または融解が生じ、XeClエキシマレーザ光の光強度が1.0J/cm2 より大きい場合にはSiCの蒸発(昇華)または分解が生じる。したがって、XeClエキシマレーザ光の光強度はSiウエハについては0.8J/cm2 以下、SiCウエハについては1.0J/cm2 以下とすることが好ましい。
【0110】
上記においては、レーザ光の照射によりSiウエハ表面またはSiCウエハ表面が加熱され、レーザ光が照射された領域のSiウエハまたはSiCウエハとガラス基板が接着される。
【0111】
また、レーザ光の照射によりSi結晶中またはSiC結晶中の最外殻の価電子が励起され、結晶中の結合が切断される。
【0112】
ここで、水素イオン注入領域においては、結晶中に注入された水素が切断された結合を終端して凝集する。このため、水素イオン注入領域に歪みが集中し、この領域が脆化する。それにより、水素イオン注入領域において、平面的に結晶格子が切れる。
【0113】
以上のようにして、SiウエハまたはSiCウエハがガラス基板に接着されるとともに、水素イオン注入領域において表面層が剥離し、ガラス基板上に任意の形状のSi薄膜またはSiC薄膜が形成される。すなわち、ガラス基板上にSiウエハまたはSiCウエハの表面層がSi薄膜またはSiC薄膜として転写される。
【0114】
上記のガラス基板上への半導体薄膜の形成方法においては、レーザ光が照射された領域のみガラス基板上にSi薄膜またはSiC薄膜が転写されるので、ガラス基板上の任意の場所に任意の形状の半導体薄膜を形成することが可能である。
【0115】
また、上記においては、SiウエハまたはSiCウエハが単結晶である場合、ガラス基板上の任意の場所に任意の形状の単結晶Si薄膜または単結晶SiC薄膜を形成することが可能となる。電気炉またはランプ炉での加熱による従来の方法と異なり、本実施の形態の方法では必要とする場所にレーザ光を照射すればよいので、低コストかつ高いスループットでの単結晶Si薄膜または単結晶SiC薄膜の形成が可能となる。
【0116】
さらに、本実施の形態の方法によるガラス基板上への半導体薄膜の転写では、SiウエハまたはSiCウエハの広い領域に水素イオンの注入を行った後、水素イオンが注入されたSiウエハまたはSiCウエハ上のガラス基板の任意の複数箇所にレーザ照射を行うことにより、1回の水素イオン注入工程を施したSiウエハまたはSiCウエハを用いてガラス基板上の任意の複数箇所に半導体薄膜の形成を行うことも可能である。
【0117】
なお、上記においては、イオン注入領域を形成する工程において、加速されたビーム状の水素イオンを用いてもよく、あるいはプラズマ中で高電界を印加することにより形成されるシース部分で加速された水素イオンを用いてもよい。
【0118】
また、上記においては、XeClエキシマレーザ光を用いたが、使用するレーザ光は必ずしも可干渉性を持つ光に限定されず、強度が強く波長が制御された電磁波であれば他の光を用いてもよい。例えば、レーザ光に相当するフラッシュランプ光のような他の光を用いてもよい。
【0119】
また、上記においては、同一のレーザ照射により、ガラス基板へのSiまたはSiCの接着とSiウエハまたはSiCウエハの表面層の剥離とを行っているが、ガラス基板へのSiまたはSiCの接着とSiウエハまたはSiCウエハの表面層の剥離とを個別のレーザ照射により行ってもよい。その場合には、ガラス基板へのSiまたはSiCの接着とSiウエハまたはSiCウエハの表面層の剥離のために照射するレーザ光の波長や強度等の照射条件は同一である必要はない。
【0120】
また、ガラス基板へのSiまたはSiCの接着に効果的な照射条件のレーザ光とSiウエハまたはSiCウエハの表面層の剥離に効果的な照射条件のレーザ光の2種類をそれぞれ同時に照射してもよい。
【0121】
また、ガラス基板へのSiウエハまたはSiCウエハの接着を行った後、SiウエハまたはSiCウエハの表面層の剥離を行ってもよいし、SiウエハまたはSiCウエハの表面層の剥離を行った後、ガラス基板へのSi薄膜またはSiC薄膜の接着を行ってもよい。
【0122】
また、上記においては、任意の形状にレーザ光を照射することにより任意の形状の半導体薄膜を形成する場合について説明したが、レーザ光の照射と同じ形状に水素イオン注入を行うことによって、半導体薄膜をより厳密な形状に形成することが可能である。さらに、剥離される半導体薄膜の外形の輪郭をより高精度にするために、レーザ光を照射する前にSiウエハまたはSiCウエハにおいて所望の形状の溝を予めエッチングにより形成しておくことも可能である。
【0123】
上記においては、SiウエハおよびSiCウエハの表面層をガラス基板上に転写する場合について説明したが、SiウエハまたはSiCウエハの表面にSiO2 層が存在してもよい。
【0124】
基板としては、通常のガラス基板に限らず、レーザ光を透過する材料であれば、石英等の他のガラス、サファイア(またはアルミナ)等の誘電体結晶、SiまたはSiCよりも大きなバンドギャップを有する半導体結晶、ポリカーボネート樹脂やPET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等のプラスチックからなる基板を用いてもよい。
【0125】
特に、基板が石英等のガラスである場合に、半導体結晶としてSiやSiCを用いると、レーザ光を照射することにより、両者の間で融着が起こり、容易に接着される。
【0126】
また、上記においては、SiまたはSiCのバンドギャップエネルギーに相当する波長と同じ波長であるか、それより短波長のレーザ光をガラス基板の側から照射する場合について説明したが、基板が例えば金属のようにレーザ光を吸収する場合には、SiウエハまたはSiCウエハ側からSiまたはSiCのバンドギャップエネルギーに相当する波長より長波長のレーザ光を照射することも可能である。
【0127】
この場合、レーザ光はSiウエハまたはSiCウエハを透過してSiウエハまたはSiCウエハを密着させた基板の接触面で吸収される。基板にレーザ光が吸収されることにより、基板が加熱され、この熱により基板表面にSiまたはSiCが接着される。また、この熱がSiウエハまたはSiCウエハに伝導し、SiウエハまたはSiCウエハの温度を上昇させることにより、SiウエハまたはSiCウエハの表面層の剥離が起こる。
【0128】
上記においては、本発明に係る半導体薄膜の形成方法によりSiC薄膜を形成する場合について説明したが、本発明に係る半導体薄膜の形成方法を用いて、Siからなる薄膜、ダイヤモンドからなる薄膜またはGaNからなる薄膜を形成することも可能である。この場合においても、SiC薄膜を形成する場合と同様の効果が得られる。
【0129】
なお、Si、ダイヤモンドまたはGaNからなる薄膜を形成する場合、SiCの場合と同様、半導体ウエハに照射するレーザ光の波長は、ウエハを構成する半導体の有するバンドギャップエネルギーに相当する波長と同じであるか、またはこれよりも短波長であることが好ましい。
【0130】
さらに、半導体結晶と基板とを接触させる際に、スピンオンガラス(SOG)等の低融点ガラスやレーザ照射により化学的変化を生じ接着力を生じる材料を挿入してもよい。
【0131】
その場合には、半導体結晶表面および基板表面のいずれか一方または両方にこの材料をコーティングしてもよく、半導体結晶および基板とは独立してこの材料を挿入してもよい。
【0132】
これにより、基板と半導体薄膜との接着をより容易に行うことができ、スループットの向上を図ることができる。
【0133】
【実施例】
(1)第1の実施例
第1の実施例においては、厚さ10μmのn型6H−SiCエピタキシャル成長膜が表面に形成されてなるn型6H−SiCウエハ(以下、SiCウエハ1と呼ぶ)を試料として用いた。この試料に、波長308nmのXeClレーザ光を照射しかつ同時に水素イオンを注入した。
【0134】
なお、レーザ光の光強度は0.5J/cm2 とし、照射周波数は100Hzとした。また、イオン注入においては加速電圧を60keVとし、イオン電流を12mAとした。この場合のレーザ光照射およびイオン注入の時間は4時間36分とした。ここでは、図2の半導体薄膜製造装置を用いてレーザ光照射およびイオン注入を行った。
【0135】
上記のようにしてイオン注入およびレーザ光照射を行った試料の断面の透過型電子顕微鏡写真を図1に示す。図1に示すように、試料のSiCウエハ1において、水素イオンが高濃度で注入された水素イオン注入領域2が形成される。
【0136】
この水素イオン注入領域2において、脆化および歪みの集中により、平面的に結晶格子が切れる。それにより、切断面3において、水素イオン注入領域2および表面層4がSiC薄膜として剥離する。
【0137】
続いて、水素イオンの注入およびレーザ光の照射を行った上記の試料について、RBS(ラザフォード後方散乱分光)法により、結晶性の評価を行った。
【0138】
RBS法においては、2MeVに加速したHeイオンビームを試料に入射させ、170°散乱したHeイオンを半導体検出器を用いて検出するとともにパルス高分析器を用いて計数した。この場合、アラインスペクトルの測定に当たっては、HeイオンビームをSiCの<0001>軸に沿って入射させた。
【0139】
一方、比較のため、厚さ10μmのn型6H−SiCエピタキシャル成長膜が表面に形成されてなるn型6H−SiCウエハに水素イオンの注入のみを行った試料を用意し、これを第1の比較例とした。本比較例についても、RBS法により、結晶性の評価を行った。なお、本比較例における水素イオンの注入およびRBSの測定は、本実施例の方法と同様の方法により行った。
【0140】
図3は、本実施例および本比較例のRBSスペクトルを示す図である。図3においては、本実施例のアラインスペクトルを太い実線で示すとともに、本実施例のランダムスペクトルを太い破線で示している。一方、本比較例のアラインスペクトルを細い実線で示すとともに、本比較例のランダムスペクトルを細い破線で示している。なお、図中の矢印は、横軸のエネルギーの値に対応する試料表面からの深さを示している。
【0141】
次に、図3に示す結果から、本実施例および本比較例の各々についてアラインスペクトルの収量とランダムスペクトルの収量との比を求め、アラインスペクトルの収量をランダムスペクトルの収量で規格化した値(以下、規格化収量χと呼ぶ)を求めた。その結果を図4に示す。
【0142】
なお、規格化収量χは、本実施例および本比較例の試料の結晶性を示すものである。規格化収量χが小さい程、試料の結晶性が良好であることを示す。
【0143】
図4においては、本実施例の規格化収量χを実線で示し、本比較例の規格化収量χを破線で示している。また、図中の矢印は、横軸のエネルギーの値に対応する試料表面からの深さを示している。
【0144】
図4に示すように、水素イオンの注入のみを行った本比較例の試料においては、表面付近において規格化収量χの値が約10%で最小となる。また、この規格化収量χの値が最小となる表面付近からエネルギーが約0.97MeVの領域、すなわち試料表面からの深さが約244nmに相当する領域にかけて、規格化収量χの値が徐々に増加する。この場合、試料表面からの深さが約244nmである領域は、水素イオン注入領域に相当する。なお、1.13MeV付近の規格化収量χのピークはサーフェスピークであり、結晶性に特に由来するものではない。
【0145】
以上のことから、本比較例においては、試料表面から水素イオン注入領域までの領域、すなわち表面層全体がイオン注入により照射損傷を受けており、結晶性が劣化していることがわかる。
【0146】
これに対して、イオン注入と同時にレーザ光の照射を行った本実施例の試料においては、エネルギーが約1.1〜1.05MeVの領域、すなわち試料表面からの深さが約130nmに相当する領域全体にわたって規格化収量χの値が3〜4%と小さくなっている。なお、1.13MeV付近の規格化収量χのピークはサーフェスピークであり、結晶性に特に由来するものではない。この場合、試料表面からイオン注入領域までの領域、すなわち表面層4全体において、結晶性が劣化しているのは水素イオン注入領域2付近に限られている。
【0147】
以上のことから、本実施例の表面層4においては、水素イオン注入領域2付近を除く領域がイオン注入による照射損傷をほとんど受けていないことがわかる。したがって、表面層4は全体として良好な結晶性を有することがわかる。
【0148】
一方、本実施例において、規格化収量χが最大となる領域すなわちエネルギーが約0.97MeVである領域は、試料表面からの深さが約244nmに相当している。したがって、図1の透過型電子顕微鏡写真で確認された表面層4の切断面3の位置と規格化収量χが最大となる領域とがほぼ一致していることがわかる。
【0149】
(2)第2の実施例
第2の実施例においては、単結晶Siウエハおよび単結晶SiCウエハを試料として用いた。この試料に、水素イオンを注入した後、石英ガラス基板に密着させつつ石英ガラス基板側から波長308nmのXeClレーザ光を照射した。
【0150】
本実施例においては、図1の半導体薄膜製造装置を用いてイオン注入のみを行い、図5に示すレーザ照射装置を用いて基板への試料の接着と試料の表面層の剥離とを行った。
【0151】
イオン注入においては、イオン種としてH2 +イオンを用いた。単結晶Siウエハについては、イオンの加速電圧を100keVとし、水素イオン注入量は、1つの単結晶Siウエハ(以下、SiウエハAと呼ぶ)については、1×1017cm-2、他の1つの単結晶Siウエハ(以下、SiウエハBと呼ぶ)については、2×1016cm-2とした。SiC単結晶ウエハ(以下、SiCウエハCと呼ぶ)については、イオンの加速電圧を60keVとし、水素イオン注入量を1×1017cm-2とした。ここでは、図1の半導体薄膜製造装置を用いてイオン注入のみを行った。
【0152】
図5は本実施例で用いたレーザ照射装置の模式図である。図5に示すように、レーザ照射装置は、XeClレーザ装置70、レンズ75および真空容器73から構成される。
【0153】
イオン注入を行った上記試料71を真空容器73内で石英ガラス基板72に密着させた状態で固定し、XeClレーザ装置70から出射されたXeClレーザ光をレンズ75およびレーザ入射窓76を介して石英ガラス基板72と接する上記試料71の表面に照射した。
【0154】
レーザ光の照射は、レーザ発振周波数100Hzで5分間から60分間の範囲で行った。なお、レーザ光の1パルス当たりの光強度は0.4J/cm2 である。
【0155】
図6はSiCウエハCと密着させ、10分間のレーザ照射を行った石英ガラス基板の光学顕微鏡写真である。
【0156】
図6に示されるように、均一な単結晶SiC薄膜81が石英ガラス基板80上に形成されている。図6では部分的に単結晶SiC薄膜が剥がれているが、SiCウエハCと石英ガラス基板80の密着が不十分であることに起因している。SiウエハAおよびSiウエハBにおいても同様に均一な単結晶Si薄膜が石英ガラス基板上に形成された。
【0157】
比較例として、水素イオン注入を行っていないSiウエハまたはSiCウエハに石英ガラス基板を密着させ、レーザ光を照射した。この場合、SiウエハまたはSiCウエハと石英ガラス基板の接着は生じたが、SiウエハまたはSiCウエハの表面層の剥離は一切起こらず、Si薄膜およびSiC薄膜は形成されなかった。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態における半導体薄膜製造装置の例を示す図である。
【図2】第1の実施例試料の断面の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】第1の実施例および第1の比較例のRBSスペクトルを示す図である。
【図4】第1の実施例および第1の比較例のRBSスペクトルの規格化収量を示す図である。
【図5】第2の実施例で用いたレーザ照射装置の模式図である。
【図6】SiCウエハと密着させ、10分間のレーザ照射を行った石英ガラス基板の光学顕微鏡写真である。
【符号の説明】
1 SiCウエハ
2 水素イオン注入領域
3 切断面
4 表面層
50 エキシマレーザ装置
51 ミラー
52 Qレンズボックス
53 偏向電磁石
54 レーザ入射窓
55 XeClレーザ光
56 試料室
57 コントロールパネル
58 制御装置
60 イオンビーム装置
61 イオン源
Claims (11)
- 半導体結晶の表面から所定深さの領域に所定の元素をイオン注入してイオン注入領域を形成する工程と、前記半導体結晶に第1のレーザ光を照射することにより前記半導体結晶の表面層を前記イオン注入領域において剥離させて半導体薄膜を形成する工程と、前記半導体結晶の前記表面層を基板に接触させつつ前記第1のレーザ光と同じかまたは異なる第2のレーザ光を照射することにより前記半導体結晶の前記表面層を基板に接着させる工程とを備え、
前記半導体結晶は、バンドギャップのエネルギーに相当する波長より長い所定の波長に光吸収ピークを有し、前記第1のレーザ光の波長は、前記光吸収ピークの波長であることを特徴とする半導体薄膜の形成方法。 - 半導体結晶の表面から所定深さの領域に所定の元素をイオン注入してイオン注入領域を形成する工程と、前記半導体結晶に第1のレーザ光を照射することにより前記半導体結晶の表面層を前記イオン注入領域において剥離させて半導体薄膜を形成する工程と、前記半導体結晶の前記表面層を基板に接触させつつ前記第1のレーザ光と同じかまたは異なる第2のレーザ光を照射することにより前記半導体結晶の前記表面層を基板に接着させる工程とを備え、
前記半導体結晶は、バンドギャップのエネルギーに相当する波長より長い所定の波長に光吸収ピークを有し、前記第2のレーザ光の波長は、前記光吸収ピークの波長にあることを特徴とする半導体薄膜の形成方法。 - 半導体結晶の表面から所定深さの領域に所定の元素をイオン注入してイオン注入領域を形成する工程と、前記半導体結晶に第1のレーザ光を照射することにより前記半導体結晶の表面層を前記イオン注入領域において剥離させて半導体薄膜を形成する工程と、前記半導体結晶の前記表面層を基板に接触させつつ前記第1のレーザ光と同じかまたは異なる第2のレーザ光を照射することにより前記半導体結晶の前記表面層を基板に接着させる工程とを備え、
前記基板は前記第1および第2のレーザ光のうち一方または両方のレーザ光を吸収し、前記半導体結晶は前記第1および第2のレーザ光のうち一方または両方のレーザ光を透過し、前記第1および第2のレーザ光のうち一方または両方のレーザ光を前記半導体結晶側から照射することを特徴とする半導体薄膜の形成方法。 - 前記第2のレーザ光を照射する工程は、前記第1のレーザ光を照射する工程と同時、前記第1のレーザ光を照射する工程後、前記第1のレーザ光を照射する工程前、または前記第1のレーザ光を照射する工程と交互に行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の半導体薄膜の形成方法。
- 前記第1および第2のレーザ光を前記半導体結晶の前記表面層の一部領域に照射して照射された領域の前記半導体結晶の前記表面層を剥離させるとともに前記基板に接着させることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の半導体薄膜の形成方法。
- 前記第1のレーザ光の波長は、前記半導体結晶のバンドギャップのエネルギーに相当する波長にほぼ等しいか、または前記半導体結晶のバンドギャップのエネルギーに相当する波長よりも短いことを特徴とする請求項2または3記載の半導体薄膜の形成方法。
- 前記第2のレーザ光の波長は、前記半導体結晶のバンドギャップのエネルギーに相当する波長にほぼ等しいか、または前記半導体結晶のバンドギャップのエネルギーに相当する波長よりも短いことを特徴とする請求項1、3または6記載の半導体薄膜の形成方法。
- 前記基板は前記第1および第2のレーザ光のうち一方または両方のレーザ光を透過し、前記第1および第2のレーザ光のうち一方または両方のレーザ光を前記基板側から照射することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の半導体薄膜の形成方法。
- 前記所定の元素は水素であることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の半導体薄膜の形成方法。
- 前記半導体結晶は、ケイ素、炭化ケイ素、ダイヤモンドまたは窒化ガリウムであることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の半導体薄膜の形成方法。
- 前記剥離した半導体薄膜の剥離側の面を酸化させる工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の半導体薄膜の形成方法。
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