JP3649413B2 - キシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの製造方法および該エキスを含む食品並びにキシロオリゴ糖の製造方法 - Google Patents
キシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの製造方法および該エキスを含む食品並びにキシロオリゴ糖の製造方法 Download PDFInfo
- Publication number
- JP3649413B2 JP3649413B2 JP26605994A JP26605994A JP3649413B2 JP 3649413 B2 JP3649413 B2 JP 3649413B2 JP 26605994 A JP26605994 A JP 26605994A JP 26605994 A JP26605994 A JP 26605994A JP 3649413 B2 JP3649413 B2 JP 3649413B2
- Authority
- JP
- Japan
- Prior art keywords
- oligosaccharide
- extract
- xylo
- hemicellulose
- enzyme
- Prior art date
- Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
- Expired - Fee Related
Links
Images
Landscapes
- Preparation Of Fruits And Vegetables (AREA)
- Preparation Of Compounds By Using Micro-Organisms (AREA)
Description
【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、柑橘類じょうのう膜からのキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの製造方法および該製造方法によって得られるキシロオリゴ糖含有かゆ状エキス、含有かゆ状エキスを含む食品に関する。本発明は、また、1段階工程によるキシロオリゴ糖の新規製造方法にも関する。
【0002】
【従来技術】
キシロオリゴ糖はキシロース(β−D−キシロピラノース)2〜3分子がα−1,4結合したオリゴ糖であり、2分子が重合したものをキシロビオース、3分子が重合したものをキシロトリオースという。キシロオリゴ糖は白色粉末で砂糖と同等の上品な甘味を有しており、砂糖を100%とした場合の甘味度は約40%である。
【0003】
このキシロオリゴ糖は、(1)0.7g/日の摂取により腸内のビフィズス菌を有意に増殖活性化する、(2)人の便の水分含量を理想的と言われる80%前後に調整することにより、下痢、便秘ぎみのいずれの人の便性をも正常な便性に改善する、(3)唾液、胃液、膵液、腸液で分解されず大腸まで到達してビフィズス菌の増加に役立つ、(4)虫歯菌(Streptococcus mutans,S.sorbinus)に分解、資化されないので、甘味料として用いても虫歯になりにくい、など様々な生理活性を有している。また、水分活性低下や不凍性機能などの物理化学的特性も同時に有する利用価値の高いオリゴ糖としても知られている(Yasyda,T.,New Food Industry Vol.35,No.2,1993)。
【0004】
従来、キシロオリゴ糖は、木材(志水ら、特開昭62−278961)、わら(福本ら、農化、447〜,44,10,1970)、小麦ふすま(佐々木ら、特開平4−53496)、綿実穀(志水ら、特開昭62−278961)、バガス、とうもろこし外皮などの原料から、アルカリ抽出、蒸気圧処理、脱繊維素処理、蒸煮処理などの抽出操作を行うことによって食物繊維である粗ヘミセルロース(キシラン)を抽出し、さらにこれにキシラナーゼ活性の高い酵素を作用させる酵素法によるか、または酸・アルカリ加水分解によってヘミセルロースを分解することにより生産されてきた。即ち、ヘミセルロースの抽出工程と、キシロオリゴ糖への分解工程の2段階工程によって製造されている。
【0005】
【発明が解決すべき課題】
しかしながら、これらの原料はいずれもリグニンやセルロースを多く含み、そのままでは食用にできないものばかりで、一度ヘミセルロースだけを抽出して、非食用成分を分離することが不可欠であった。さらに、これらの2段階工程による操作は繁雑であり、また、アルカリを使用するための危険性を伴うものであった。このため操作を単純化し、または生産性を高めるための研究が多数行われてきたが、いずれも画期的に工程を少なくするには至らず、満足のいく結果は得られていないのが現状である。
【0006】
この発明は、かかる現状に鑑み創案されたものであって、その目的とするところは、キシロオリゴ糖製造方法の従来法の欠点を解消し、柑橘類じょうのう膜から1段階工程で直接キシロオリゴ糖含有かゆ状エキスを製造する方法、該製造方法によって得られるかゆ状エキス、該かゆ状エキスを含む食品ならびに柑橘類じょうのう膜からキシロオリゴ糖を製造する新規方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成するために、鋭意研究した結果、柑橘類じょうのう膜に直接酵素を作用させることにより、キシロオリゴ糖が製造できることを見いだし本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、柑橘類じょうのう膜にキシラナーゼおよび細胞破壊(マセレーション)酵素を直接作用させてキシロオリゴ糖を得ることからなるキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの製造方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、上記製造方法で得られたキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスを含む食品を提供する。
【0010】
本発明の製造方法に使用する原料は柑橘類じょうのう膜である。じょうのう膜とは、外果皮の内側にあって果肉を直接包む”うす皮”をいう。本発明の方法に使用できる柑橘類は温州みかん、オレンジ、レモン、グレープフルーツなど、そのじょうのう膜にキシランを含むものであれば何でもよい。具体的にはこれらの柑橘類から果汁を搾汁した残りの粕を用いる。本発明は搾汁粕を原料として用いるので、産業廃棄物の有効利用という観点からも極めて大きい産業上の利用価値を有する。
【0011】
従来、温州みかんの搾汁粕は、そのまま廃棄すると土壌を酸性土にするため、消石灰などで中和して土壌に埋めなければならず、無害化処理をしないと廃棄できない産業廃棄物として取り扱われてきた。温州みかんは我が国の果実収穫量の約1/3から1/4を占める生産量であり、そのうちの約20%がみかん果汁の加工に利用され、搾汁粕はこの20%のうちの8〜9%にも昇る。このような莫大な量の廃棄物に対する有効利用法を確立することは以前から切望されていたにもかかわらず、研究範囲はごく限られたものであり、ペクチンやフラボノイドなどの有効成分を抽出したり、物理的に圧搾して家畜の飼料にするなどに過ぎなかった。
【0012】
本発明では、温州みかんの場合では果汁搾汁粕のうちの約3〜10%を占める柑橘類のじょうのう膜を原料とする。本発明のキシロオリゴ糖の製造方法では、水分をある程度含んだ状態の柑橘類生じょうのう膜にキシラナーゼ活性を有する酵素および細胞遊離(マセレーション)酵素を直接作用させる。キシラナーゼ活性を有する酵素としては、市販のトリコデルマ菌(例えば、Trichoderma viride)やアスペルギルス菌(例えば、Aspergillus niger)由来のキシラナーゼ活性をもつ酵素を使用できるが、これに限定されない。
【0013】
Trichoderma viride由来の酵素としては、例えば、セルラーゼオノズカRS(Cellulase ”Onozuka” RS:ヤクルト薬品工業社製)、研究用や、セルラーゼオノズカ3S、食品用(ヤクルト薬品工業社製)を使用できる。
【0014】
Aspergillus niger由来の酵素としては、例えば、セルラーゼY−NC、食品用(ヤクルト薬品工業社製)を使用できる。
【0015】
細胞遊離酵素は、従来法のアルカリ加水分解に代えて細胞膜を破壊する酵素であり、例えば、市販のRhizopus属由来のマセレーション活性を有する酵素を使用できるが、これに限定されない。
【0016】
Rhizopus属由来の細胞遊離酵素としては、例えば、マセロチームA、食品用(ヤクルト薬品工業社製)を使用できる。
【0017】
細胞遊離酵素を用いずに、キシラナーゼ活性を有する酵素のみを反応させた場合にはキシロオリゴ糖は得られず、また膜も溶解せずに反応前と変化がない。従って、本発明の方法ではキシラナーゼ活性を有する酵素と細胞遊離酵素とを一緒に作用させることが必要である。
【0018】
反応温度は、40〜60℃の範囲で行うことができ、好ましくは45〜55℃で行う。反応時間は使用するじょうのう膜の重量や酵素量によるが、通常18〜24時間である。じょうのう膜と酵素との反応を促進するために、撹拌、振とうなどを行ってもよい。
【0019】
反応終了後、90〜100℃で15〜20分加熱することにより酵素を失活させると、白色かゆ状の反応生成物が得られる。温州みかんの生じょうのう膜から得られたこの反応生成物をメンブランフィルターで濾過し、濾液をHPLC(高性能液体クロマトグラフィー)に付したところ、キシロビオースの生成が確認された。キシロビオース以外にも膜中の有効成分(水溶性食物繊維や水溶性オリゴ糖)が観察された。
【0020】
従来法によりヘミセルロースを抽出し、これにキシラナーゼおよび細胞破壊酵素を作用させてキシロオリゴ糖を生成する2段階方法も行い、これから得られるキシロオリゴ糖の量と比較したところ、本発明の製造方法で得られるキシロオリゴ糖はヘミセルロースを経由する方法で得られるキシロオリゴ糖の約1/3の量であった。
【0021】
本発明の製造方法で得られるキシロオリゴ糖を含有するかゆ状エキスは上記したように、キシロビオース以外にも食物繊維、カルシウム、カリウム、ビタミンB1 なども失うことなく含み、そのまま食品材料として各種食品に混合することができる。みかんのじょうのう膜は、みかんを生果のまま食べる時に昔から食べられて来た安全性の高いものであり、また本発明の方法では従来法のように製造工程においてアルカリ(NaOHなど)を使用していないので、本発明のキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスは極めて安全な食品材料となりうる。
【0022】
混合する食品としては、例えば、インスタントかゆ、キャンディー、ガム、離乳食、和菓子、チョコレート、ビスケット、アイスクリーム、飲料などが挙げられるが、これに限定されない。食品中のかゆ状エキスの含量は使用目的に応じて適宜変更することができるが、例えば、インスタントかゆの場合においては、固形分に対して約10倍量程度の範囲で調節できる。
【0023】
また、上記かゆ状エキスからキシロオリゴ糖を単離して食品に添加することもできる。かゆ状エキスからキシロオリゴ糖を単離するには、かゆ状エキスを濾過または遠心することにより水溶性画分と固形画分とに分離し、水溶性画分にはキシロオリゴ糖を含む各種オリゴ糖やその他の水溶性成分を含む。これをカラムクロマトグラフィーなどの公知の方法を用いて分離することができる。得られるキシロオリゴ糖は虫歯になりにくい甘味料としてキャンデー、ガム、ヨーグルト、飲料などに添加することができる。
【0024】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0025】
【実施例1】
〔温州みかんじょうのう膜からのヘミセルロースの調製〕
温州みかんを手で剥皮し、じょうのう膜のみを切り出して水洗いしたものを乾燥し、2〜5mmのフレーク状に粉砕し原料とした。
【0026】
この原料5gに水500mlを加え、50℃で撹拌し、余分な果汁、砂じょう、さらにじょうのう膜表面のペクチン質を除去し、ガーゼで吸引濾過して水分を取り除いた。これに200mlの10%水酸化ナトリウム水溶液を加え、室温において18時間撹拌溶解させ、その溶液を遠心分離後、上清をpH4.5に調整した。その液に等量のアセトンを加えて撹拌後、遠心分離し、ヘミセルロースを沈殿させた。補集した沈殿は50%アセトン水で洗浄した後、アセトン、エタノール、ジエチルエーテルを用いて順次洗浄し、乾燥させた。5gの乾燥じょうのう膜から0.72g(約14.1%)の粗ヘミセルロース粉末を得た。
【0027】
粗ヘミセルロース粉末0.72gに19mlの1N水酸化ナトリウム水溶液を加え、ボルテクスミキサーにて撹拌し完全に溶解させ、遠心分離後の上清をpH4.5に調整した。その液に等量のアセトンを加え撹拌後、遠心分離し、ヘミセルロースを沈殿させ、ここまでの操作を2回繰り返した後、50%アセトン水、アセトン、エタノール、ジエチルエーテルを用いて順次洗浄後、風乾させた。以上の操作によって、乾燥じょうのう膜(水分10%)5gから0.38g(約7.6%)の白色、精製ヘミセルロース粉末を得た。
【0028】
【実施例2】
〔じょうのう膜からのヘミセルロースの収率〕
温州みかん生じょうのう膜(水分86%)から実施例1と同様に精製ヘミセルロースを抽出したところ、1.2%にあたる重量の精製ヘミセルロースが得られた。この収率は乾燥フレーク(水分10%)の重量を100とした場合、7.6%に相当する量で、福本の風乾したイネワラからアラビノキシランを抽出した研究(菓子総合技術センター編:農林水産省食品流通局委託事業、飲食料品用機能性素材有効利用技術シリーズN0.8「水溶性コーンファイバー(アラビノキシラン)」、1991)や、Shibataらの小麦ふすまからアラビノキシランを抽出した研究(Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi, 39:1147−1155, 1992)とほぼ同じ結果であった。従って、温州みかんじょうのう膜は、ヘミセルロースを抽出するための原料として現在よく使われている原料と同等な回収率で使用できる有用な農業廃棄物であることが判明した。
【0029】
【実施例3】
〔精製ヘミセルロースの全糖量およびその構成単糖と組成比〕
精製ヘミセルロースの全糖量をフェノール硫酸法(福井作蔵、生物化学実験法1、還元糖の定量法、学会出版センター、p.50〜、1990)で測定した結果、糖含有率は62.3%であった。
【0030】
次いで、精製ヘミセルロースを1N塩酸で加水分解後、中和してTLC(薄層クロマトグラフィー)およびHPLCで分析を行ない、構成単糖とその組成比を調べた。
【0031】
この結果、精製ヘミセルロース中にはその重量を100%とした場合、グルコースが16.9%、キシロースが15.5%、ガラクトースが6.6%、マンノースが9.3%含まれていた。また、この組成比をモル比で表すと、キシロース1に対して、グルコース、マンノース、ガラクトースが各々0.90、0.50、0.36であった。
【0032】
以上の結果から得られた温州みかんじょうのう膜からのヘミセルロースの性状を表1にまとめて示す。
【0033】
【表1】
【0034】
Cerezoらは紅藻からヘミセルロースを分離した結果、この組成はキシロース、ガラクトース、マンノース、グルコースから成り、少なくとも2つの主要成分(ヘミセルロース)の混合物であることを示唆した(Carbohydr.Res.,19:289,1993)。本実験においても上記の4種類の単糖を含むヘミセルロースが抽出、精製されたことから、温州みかんじょうのう膜ヘミセルロースは、少なくともキシラン系、マンナン系、ガラクタン系などの2つ以上のヘミセルロースが混合している混合ヘミセルロースであると推測された。
【0035】
さらに、ヘミセルロース分解物からはペクチン由来のガラクツロン酸は検出されず、アルカリ抽出前にじょうのう膜を温水で洗浄することでペクチンが除去されたと考えられる。従って、温水でじょうのう膜を洗浄することは、汚れや異物を洗うだけでなく、じょうのう膜に含まれる大量のペクチン質を簡単に取り除くことができる有効な方法であると言える。
【0036】
【実施例4】
〔精製ヘミセルロースに対する酵素反応〕
実施例1で得られた精製ヘミセルロース19.5mgに1.2mlの蒸留水を加え、湯浴中で溶解し、50mM酢酸、酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)0.4ml(最終濃度10mM)とセルラーゼオノズカRS(ヤクルト社製)水溶液(40U/ml)0.4mlを加えて混合し、ヘミセルロースを分解した。酵素反応は50℃、18時間振とうして行い、反応終了後、反応液を常法に従い過熱して失活させた後、遠心分離した上清をメンブランフィルターで濾過し、酵素反応液とした。
【0037】
酵素反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲルは和光純薬社製)にて、アセトニトリル:水=17:3をキャリアー溶液として各2mlずつ50本のフラクションに分画した。
【0038】
各フラクションから少量を取ってフェノール硫酸法によって各フラクションの全糖量を測定した。各フラクションのフェノール硫酸法による糖含有率を図1に示す。
【0039】
フェノール硫酸法によって糖の含有が確認されたいくつかのフラクションについて未分解のままHPLCにて分析を行い、スタンダード溶液としてキシロビオース水溶液を用いた。ここでキシロビオースと同じリテンションタイムを示す二糖類をSaccharideX2 と呼ぶこととした。
【0040】
その結果、SaccharideX2 のみが検出されたNo.37について塩酸加水分解を行い、HPLCで分析したところ、SaccharideX2 のピークが消失したかわりに、キシロースのピークのみが出現した。
【0041】
このSaccharideX2 は、塩酸加水分解によってキシロースのみを生じ、また、その分子量がゲル濾過HPLCでスタンダードのキシロビオースと全く一致したことから、キシロビオースであることがわかった。
【0042】
【実施例5】
〔温州みかん生じょうのう膜と精製ヘミセルロースに対する酵素反応比較〕
温州みかん生じょうのう膜と精製ヘミセルロースにキシラナーゼであるセルラーゼオノズカRS(ヤクルト社製)および細胞破壊酵素であるマセロチームA(ヤクルト社製)を作用させた。温州みかん生じょうのう膜は和歌山県産のみかんから切り出して使用した。精製ヘミセルロースは実施例1で得られたものを使用した。
【0043】
精製ヘミセルロース25.1mgに水4.0mlを加えて、40〜55℃の温浴中で溶解し、そのうち1ml(6.275mg/ml)を基質溶液とした。
【0044】
温州みかんじょうのう膜は、50℃の温水で1〜2回洗浄して水を切ったものを500mgとり基質とした(じょうのう膜500mg中には、実施例1の結果から計算して、6.2mgの精製ヘミセルロースが含まれることになる)。
【0045】
各々の基質に対し、以下の酵素:
A:セルラーゼオノズカRS(20U/0.5ml)、水0.5mlの計1ml;
B:セルラーゼオノズカRS(20U/0.5ml)、マセロチームA(20U/0.5ml)の計1ml;
を作用させ、50℃で18時間反応させた。反応終了後、常法に従い酵素を加熱失活させた後、溶液をメンブランフィルターにて濾過し、濾液中の生成物をHPLCにて検出して比較した。
【0046】
酵素Aを用いて得られたHPLCチャートを図2[図中、(1)はヘミセルロースを基質とし、(2)は温州みかんじょうのう膜を基質とした場合を示す]に示し、酵素Bを用いて得られた結果を図3[図中、(1)はヘミセルロースを基質とし、(2)は温州みかんじょうのう膜を基質とした場合を示す]に示す。
【0047】
図2から明らかなように、セルラーゼオノズカRSのみをヘミセルロースに作用させた場合には、キシロビオースを生成するが、じょうのう膜に直接させた場合にはキシロビオースは生成されず、膜も溶解せずに反応前と変化がない状態が観察された。
【0048】
これに対して、図3から明らかなように、セルラーゼオノズカRSとマセロチームAの両方を作用させた場合には、ヘミセルロースからもじょうのう膜からもキシロビオースが生成された。肉眼的に見てもマセロチームAを入れたものはかゆ状になり、キシロビオース以外の膜中の有効成分(水溶性食物繊維や水溶性オリゴ糖)もチャート上に多く観察された。
【0049】
このことは、じょうのう膜がマセレーションされることで膜を構成する細胞が液中に分散され、酵素が細胞壁に接触する面積が増加したため、より多くのキシランが分解されたと考えられる。
【0050】
【実施例6】
〔HPLCによるキシロビオースの定量〕
実施例5で得られた濾液を用いて、HPLCによりキシロビオースの定量を行った。HPLCはShimazu LC−6A(島津製作所社製)システムにより行った。検出器には示差屈折検出器Shimazu−RID−6A、カラムはゲル濾過カラム(Shodex SC−1011、8φ×300mm、昭和電工社製)で行った。標準品にはキシロビオース水溶液(1μg/μl)を用いてピーク面積を指標とした絶対検量線法で濃度を算出した。得られた結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示すように、キシロビオースの生成量は、ヘミセルロースに対してはA、Bともに9%前後の値を示し、生じょうのう膜に対しては、マセロチームAを同時に作用させたBの場合のみ、じょうのう膜の重量100に対して0.04%のキシロビオースが産生された。
【0053】
この値は、じょうのう膜中に含まれるヘミセルロースの量を100とするとキシロビオースが3.2%生成されたことになり、一度抽出したヘミセルロースにキシラナーゼを作用させた場合の約1/3量のキシロビオースが得られたことになる。
【0054】
【実施例7】
実施例7:キシロビオース含有かゆ状エキスを含む食品の製造
実施例5で得られたキシロビオース含有かゆ状エキスを用いて以下の食品を調製した。
【0055】
[ハードキャンディ]
溶解釜に砂糖と水飴およびキシロビオース含有かゆ状エキスを夫々必要量づつ添加し、これを煮釜で130〜140℃,バキューム550〜680mmHgで煮つめた後、これを一定温度まで冷却して賦香・色素・酸味料等を適宜量添加したものを成型機で所定形状に成型し、これを包装する。かゆ状エキスは殆どが水分なので、添加量を増加させたい場合、溶解釜で適宜の濃度(ブリクッス80〜83℃)まで煮つめてから、煮釜に送ることができるため、添加量は広い範囲で調整することができる。
【0056】
[粥]
洗浄された所要量の米にキシロビオース含有かゆ状エキスを添加し、これを炊く。全粥の場合、キシロビオース含有かゆ状エキスの添加量は、米に対し7〜8倍量であり、五分粥またはおもゆの場合には、10〜11倍量を添加する。このようにして得られた粥は、レトルトパック等に包装され、或は、缶詰に密封されて製品化される。勿論、おもゆの場合には、こされたものが包装され、或は、缶詰めされる。
【0057】
[その他]
菓子や飲料に対してキシロビオース含有かゆ状エキスを添加する場合には、上記と同様で、加水する部分をキシロビオース含有かゆ状エキスに置き換えて添加することができる。
【0058】
【発明の効果】
本発明による柑橘類じょうのう膜からキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスを製造する方法は、従来法に比べて製造工程が少なくコストの低下が期待できる。また、本発明の原料となる柑橘類じょうのう膜は従来産業廃棄物として処理した後に大量に廃棄されていたものである。本発明はこのような産業廃棄物の有効利用法として極めて大きな利用価値を有する。さらに、本発明で得られるキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスは安全かつ有用な食品材料として各種用途に応用が可能である等、幾多の優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】ヘミセルロースに酵素を作用させたときの糖含有量を示すクロマトグラムである。横軸は2mlずつ分画したときのフラクション番号を示し、縦軸は480nmにおける吸光度を示す。
【図2】ヘミセルロースおよび温州みかんじょうのう膜にセルラーゼオノズカRSを作用させたときのHPLCクロマトグラムを示す。図中、(1)はヘミセルロースを基質とし、(2)は温州みかんじょうのう膜を基質とした場合を示す。また、X2 はキシロビオースを示す。
【図3】ヘミセルロースおよび温州みかんじょうのう膜にセルラーゼオノズカRSとマセロチームAとを作用させたときのHPLCクロマトグラムを示す。図中、(1)はヘミセルロースを基質とし、(2)は温州みかんじょうのう膜を基質とした場合を示す。また、X2 はキシロビオースを示す。
【産業上の利用分野】
この発明は、柑橘類じょうのう膜からのキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの製造方法および該製造方法によって得られるキシロオリゴ糖含有かゆ状エキス、含有かゆ状エキスを含む食品に関する。本発明は、また、1段階工程によるキシロオリゴ糖の新規製造方法にも関する。
【0002】
【従来技術】
キシロオリゴ糖はキシロース(β−D−キシロピラノース)2〜3分子がα−1,4結合したオリゴ糖であり、2分子が重合したものをキシロビオース、3分子が重合したものをキシロトリオースという。キシロオリゴ糖は白色粉末で砂糖と同等の上品な甘味を有しており、砂糖を100%とした場合の甘味度は約40%である。
【0003】
このキシロオリゴ糖は、(1)0.7g/日の摂取により腸内のビフィズス菌を有意に増殖活性化する、(2)人の便の水分含量を理想的と言われる80%前後に調整することにより、下痢、便秘ぎみのいずれの人の便性をも正常な便性に改善する、(3)唾液、胃液、膵液、腸液で分解されず大腸まで到達してビフィズス菌の増加に役立つ、(4)虫歯菌(Streptococcus mutans,S.sorbinus)に分解、資化されないので、甘味料として用いても虫歯になりにくい、など様々な生理活性を有している。また、水分活性低下や不凍性機能などの物理化学的特性も同時に有する利用価値の高いオリゴ糖としても知られている(Yasyda,T.,New Food Industry Vol.35,No.2,1993)。
【0004】
従来、キシロオリゴ糖は、木材(志水ら、特開昭62−278961)、わら(福本ら、農化、447〜,44,10,1970)、小麦ふすま(佐々木ら、特開平4−53496)、綿実穀(志水ら、特開昭62−278961)、バガス、とうもろこし外皮などの原料から、アルカリ抽出、蒸気圧処理、脱繊維素処理、蒸煮処理などの抽出操作を行うことによって食物繊維である粗ヘミセルロース(キシラン)を抽出し、さらにこれにキシラナーゼ活性の高い酵素を作用させる酵素法によるか、または酸・アルカリ加水分解によってヘミセルロースを分解することにより生産されてきた。即ち、ヘミセルロースの抽出工程と、キシロオリゴ糖への分解工程の2段階工程によって製造されている。
【0005】
【発明が解決すべき課題】
しかしながら、これらの原料はいずれもリグニンやセルロースを多く含み、そのままでは食用にできないものばかりで、一度ヘミセルロースだけを抽出して、非食用成分を分離することが不可欠であった。さらに、これらの2段階工程による操作は繁雑であり、また、アルカリを使用するための危険性を伴うものであった。このため操作を単純化し、または生産性を高めるための研究が多数行われてきたが、いずれも画期的に工程を少なくするには至らず、満足のいく結果は得られていないのが現状である。
【0006】
この発明は、かかる現状に鑑み創案されたものであって、その目的とするところは、キシロオリゴ糖製造方法の従来法の欠点を解消し、柑橘類じょうのう膜から1段階工程で直接キシロオリゴ糖含有かゆ状エキスを製造する方法、該製造方法によって得られるかゆ状エキス、該かゆ状エキスを含む食品ならびに柑橘類じょうのう膜からキシロオリゴ糖を製造する新規方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記目的を達成するために、鋭意研究した結果、柑橘類じょうのう膜に直接酵素を作用させることにより、キシロオリゴ糖が製造できることを見いだし本発明を完成した。
【0008】
即ち、本発明は、柑橘類じょうのう膜にキシラナーゼおよび細胞破壊(マセレーション)酵素を直接作用させてキシロオリゴ糖を得ることからなるキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの製造方法を提供する。
【0009】
本発明はまた、上記製造方法で得られたキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスを含む食品を提供する。
【0010】
本発明の製造方法に使用する原料は柑橘類じょうのう膜である。じょうのう膜とは、外果皮の内側にあって果肉を直接包む”うす皮”をいう。本発明の方法に使用できる柑橘類は温州みかん、オレンジ、レモン、グレープフルーツなど、そのじょうのう膜にキシランを含むものであれば何でもよい。具体的にはこれらの柑橘類から果汁を搾汁した残りの粕を用いる。本発明は搾汁粕を原料として用いるので、産業廃棄物の有効利用という観点からも極めて大きい産業上の利用価値を有する。
【0011】
従来、温州みかんの搾汁粕は、そのまま廃棄すると土壌を酸性土にするため、消石灰などで中和して土壌に埋めなければならず、無害化処理をしないと廃棄できない産業廃棄物として取り扱われてきた。温州みかんは我が国の果実収穫量の約1/3から1/4を占める生産量であり、そのうちの約20%がみかん果汁の加工に利用され、搾汁粕はこの20%のうちの8〜9%にも昇る。このような莫大な量の廃棄物に対する有効利用法を確立することは以前から切望されていたにもかかわらず、研究範囲はごく限られたものであり、ペクチンやフラボノイドなどの有効成分を抽出したり、物理的に圧搾して家畜の飼料にするなどに過ぎなかった。
【0012】
本発明では、温州みかんの場合では果汁搾汁粕のうちの約3〜10%を占める柑橘類のじょうのう膜を原料とする。本発明のキシロオリゴ糖の製造方法では、水分をある程度含んだ状態の柑橘類生じょうのう膜にキシラナーゼ活性を有する酵素および細胞遊離(マセレーション)酵素を直接作用させる。キシラナーゼ活性を有する酵素としては、市販のトリコデルマ菌(例えば、Trichoderma viride)やアスペルギルス菌(例えば、Aspergillus niger)由来のキシラナーゼ活性をもつ酵素を使用できるが、これに限定されない。
【0013】
Trichoderma viride由来の酵素としては、例えば、セルラーゼオノズカRS(Cellulase ”Onozuka” RS:ヤクルト薬品工業社製)、研究用や、セルラーゼオノズカ3S、食品用(ヤクルト薬品工業社製)を使用できる。
【0014】
Aspergillus niger由来の酵素としては、例えば、セルラーゼY−NC、食品用(ヤクルト薬品工業社製)を使用できる。
【0015】
細胞遊離酵素は、従来法のアルカリ加水分解に代えて細胞膜を破壊する酵素であり、例えば、市販のRhizopus属由来のマセレーション活性を有する酵素を使用できるが、これに限定されない。
【0016】
Rhizopus属由来の細胞遊離酵素としては、例えば、マセロチームA、食品用(ヤクルト薬品工業社製)を使用できる。
【0017】
細胞遊離酵素を用いずに、キシラナーゼ活性を有する酵素のみを反応させた場合にはキシロオリゴ糖は得られず、また膜も溶解せずに反応前と変化がない。従って、本発明の方法ではキシラナーゼ活性を有する酵素と細胞遊離酵素とを一緒に作用させることが必要である。
【0018】
反応温度は、40〜60℃の範囲で行うことができ、好ましくは45〜55℃で行う。反応時間は使用するじょうのう膜の重量や酵素量によるが、通常18〜24時間である。じょうのう膜と酵素との反応を促進するために、撹拌、振とうなどを行ってもよい。
【0019】
反応終了後、90〜100℃で15〜20分加熱することにより酵素を失活させると、白色かゆ状の反応生成物が得られる。温州みかんの生じょうのう膜から得られたこの反応生成物をメンブランフィルターで濾過し、濾液をHPLC(高性能液体クロマトグラフィー)に付したところ、キシロビオースの生成が確認された。キシロビオース以外にも膜中の有効成分(水溶性食物繊維や水溶性オリゴ糖)が観察された。
【0020】
従来法によりヘミセルロースを抽出し、これにキシラナーゼおよび細胞破壊酵素を作用させてキシロオリゴ糖を生成する2段階方法も行い、これから得られるキシロオリゴ糖の量と比較したところ、本発明の製造方法で得られるキシロオリゴ糖はヘミセルロースを経由する方法で得られるキシロオリゴ糖の約1/3の量であった。
【0021】
本発明の製造方法で得られるキシロオリゴ糖を含有するかゆ状エキスは上記したように、キシロビオース以外にも食物繊維、カルシウム、カリウム、ビタミンB1 なども失うことなく含み、そのまま食品材料として各種食品に混合することができる。みかんのじょうのう膜は、みかんを生果のまま食べる時に昔から食べられて来た安全性の高いものであり、また本発明の方法では従来法のように製造工程においてアルカリ(NaOHなど)を使用していないので、本発明のキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスは極めて安全な食品材料となりうる。
【0022】
混合する食品としては、例えば、インスタントかゆ、キャンディー、ガム、離乳食、和菓子、チョコレート、ビスケット、アイスクリーム、飲料などが挙げられるが、これに限定されない。食品中のかゆ状エキスの含量は使用目的に応じて適宜変更することができるが、例えば、インスタントかゆの場合においては、固形分に対して約10倍量程度の範囲で調節できる。
【0023】
また、上記かゆ状エキスからキシロオリゴ糖を単離して食品に添加することもできる。かゆ状エキスからキシロオリゴ糖を単離するには、かゆ状エキスを濾過または遠心することにより水溶性画分と固形画分とに分離し、水溶性画分にはキシロオリゴ糖を含む各種オリゴ糖やその他の水溶性成分を含む。これをカラムクロマトグラフィーなどの公知の方法を用いて分離することができる。得られるキシロオリゴ糖は虫歯になりにくい甘味料としてキャンデー、ガム、ヨーグルト、飲料などに添加することができる。
【0024】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明の範囲はこれに限定されるものではない。
【0025】
【実施例1】
〔温州みかんじょうのう膜からのヘミセルロースの調製〕
温州みかんを手で剥皮し、じょうのう膜のみを切り出して水洗いしたものを乾燥し、2〜5mmのフレーク状に粉砕し原料とした。
【0026】
この原料5gに水500mlを加え、50℃で撹拌し、余分な果汁、砂じょう、さらにじょうのう膜表面のペクチン質を除去し、ガーゼで吸引濾過して水分を取り除いた。これに200mlの10%水酸化ナトリウム水溶液を加え、室温において18時間撹拌溶解させ、その溶液を遠心分離後、上清をpH4.5に調整した。その液に等量のアセトンを加えて撹拌後、遠心分離し、ヘミセルロースを沈殿させた。補集した沈殿は50%アセトン水で洗浄した後、アセトン、エタノール、ジエチルエーテルを用いて順次洗浄し、乾燥させた。5gの乾燥じょうのう膜から0.72g(約14.1%)の粗ヘミセルロース粉末を得た。
【0027】
粗ヘミセルロース粉末0.72gに19mlの1N水酸化ナトリウム水溶液を加え、ボルテクスミキサーにて撹拌し完全に溶解させ、遠心分離後の上清をpH4.5に調整した。その液に等量のアセトンを加え撹拌後、遠心分離し、ヘミセルロースを沈殿させ、ここまでの操作を2回繰り返した後、50%アセトン水、アセトン、エタノール、ジエチルエーテルを用いて順次洗浄後、風乾させた。以上の操作によって、乾燥じょうのう膜(水分10%)5gから0.38g(約7.6%)の白色、精製ヘミセルロース粉末を得た。
【0028】
【実施例2】
〔じょうのう膜からのヘミセルロースの収率〕
温州みかん生じょうのう膜(水分86%)から実施例1と同様に精製ヘミセルロースを抽出したところ、1.2%にあたる重量の精製ヘミセルロースが得られた。この収率は乾燥フレーク(水分10%)の重量を100とした場合、7.6%に相当する量で、福本の風乾したイネワラからアラビノキシランを抽出した研究(菓子総合技術センター編:農林水産省食品流通局委託事業、飲食料品用機能性素材有効利用技術シリーズN0.8「水溶性コーンファイバー(アラビノキシラン)」、1991)や、Shibataらの小麦ふすまからアラビノキシランを抽出した研究(Nippon Shokuhin Kogyo Gakkaishi, 39:1147−1155, 1992)とほぼ同じ結果であった。従って、温州みかんじょうのう膜は、ヘミセルロースを抽出するための原料として現在よく使われている原料と同等な回収率で使用できる有用な農業廃棄物であることが判明した。
【0029】
【実施例3】
〔精製ヘミセルロースの全糖量およびその構成単糖と組成比〕
精製ヘミセルロースの全糖量をフェノール硫酸法(福井作蔵、生物化学実験法1、還元糖の定量法、学会出版センター、p.50〜、1990)で測定した結果、糖含有率は62.3%であった。
【0030】
次いで、精製ヘミセルロースを1N塩酸で加水分解後、中和してTLC(薄層クロマトグラフィー)およびHPLCで分析を行ない、構成単糖とその組成比を調べた。
【0031】
この結果、精製ヘミセルロース中にはその重量を100%とした場合、グルコースが16.9%、キシロースが15.5%、ガラクトースが6.6%、マンノースが9.3%含まれていた。また、この組成比をモル比で表すと、キシロース1に対して、グルコース、マンノース、ガラクトースが各々0.90、0.50、0.36であった。
【0032】
以上の結果から得られた温州みかんじょうのう膜からのヘミセルロースの性状を表1にまとめて示す。
【0033】
【表1】
【0034】
Cerezoらは紅藻からヘミセルロースを分離した結果、この組成はキシロース、ガラクトース、マンノース、グルコースから成り、少なくとも2つの主要成分(ヘミセルロース)の混合物であることを示唆した(Carbohydr.Res.,19:289,1993)。本実験においても上記の4種類の単糖を含むヘミセルロースが抽出、精製されたことから、温州みかんじょうのう膜ヘミセルロースは、少なくともキシラン系、マンナン系、ガラクタン系などの2つ以上のヘミセルロースが混合している混合ヘミセルロースであると推測された。
【0035】
さらに、ヘミセルロース分解物からはペクチン由来のガラクツロン酸は検出されず、アルカリ抽出前にじょうのう膜を温水で洗浄することでペクチンが除去されたと考えられる。従って、温水でじょうのう膜を洗浄することは、汚れや異物を洗うだけでなく、じょうのう膜に含まれる大量のペクチン質を簡単に取り除くことができる有効な方法であると言える。
【0036】
【実施例4】
〔精製ヘミセルロースに対する酵素反応〕
実施例1で得られた精製ヘミセルロース19.5mgに1.2mlの蒸留水を加え、湯浴中で溶解し、50mM酢酸、酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)0.4ml(最終濃度10mM)とセルラーゼオノズカRS(ヤクルト社製)水溶液(40U/ml)0.4mlを加えて混合し、ヘミセルロースを分解した。酵素反応は50℃、18時間振とうして行い、反応終了後、反応液を常法に従い過熱して失活させた後、遠心分離した上清をメンブランフィルターで濾過し、酵素反応液とした。
【0037】
酵素反応液をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲルは和光純薬社製)にて、アセトニトリル:水=17:3をキャリアー溶液として各2mlずつ50本のフラクションに分画した。
【0038】
各フラクションから少量を取ってフェノール硫酸法によって各フラクションの全糖量を測定した。各フラクションのフェノール硫酸法による糖含有率を図1に示す。
【0039】
フェノール硫酸法によって糖の含有が確認されたいくつかのフラクションについて未分解のままHPLCにて分析を行い、スタンダード溶液としてキシロビオース水溶液を用いた。ここでキシロビオースと同じリテンションタイムを示す二糖類をSaccharideX2 と呼ぶこととした。
【0040】
その結果、SaccharideX2 のみが検出されたNo.37について塩酸加水分解を行い、HPLCで分析したところ、SaccharideX2 のピークが消失したかわりに、キシロースのピークのみが出現した。
【0041】
このSaccharideX2 は、塩酸加水分解によってキシロースのみを生じ、また、その分子量がゲル濾過HPLCでスタンダードのキシロビオースと全く一致したことから、キシロビオースであることがわかった。
【0042】
【実施例5】
〔温州みかん生じょうのう膜と精製ヘミセルロースに対する酵素反応比較〕
温州みかん生じょうのう膜と精製ヘミセルロースにキシラナーゼであるセルラーゼオノズカRS(ヤクルト社製)および細胞破壊酵素であるマセロチームA(ヤクルト社製)を作用させた。温州みかん生じょうのう膜は和歌山県産のみかんから切り出して使用した。精製ヘミセルロースは実施例1で得られたものを使用した。
【0043】
精製ヘミセルロース25.1mgに水4.0mlを加えて、40〜55℃の温浴中で溶解し、そのうち1ml(6.275mg/ml)を基質溶液とした。
【0044】
温州みかんじょうのう膜は、50℃の温水で1〜2回洗浄して水を切ったものを500mgとり基質とした(じょうのう膜500mg中には、実施例1の結果から計算して、6.2mgの精製ヘミセルロースが含まれることになる)。
【0045】
各々の基質に対し、以下の酵素:
A:セルラーゼオノズカRS(20U/0.5ml)、水0.5mlの計1ml;
B:セルラーゼオノズカRS(20U/0.5ml)、マセロチームA(20U/0.5ml)の計1ml;
を作用させ、50℃で18時間反応させた。反応終了後、常法に従い酵素を加熱失活させた後、溶液をメンブランフィルターにて濾過し、濾液中の生成物をHPLCにて検出して比較した。
【0046】
酵素Aを用いて得られたHPLCチャートを図2[図中、(1)はヘミセルロースを基質とし、(2)は温州みかんじょうのう膜を基質とした場合を示す]に示し、酵素Bを用いて得られた結果を図3[図中、(1)はヘミセルロースを基質とし、(2)は温州みかんじょうのう膜を基質とした場合を示す]に示す。
【0047】
図2から明らかなように、セルラーゼオノズカRSのみをヘミセルロースに作用させた場合には、キシロビオースを生成するが、じょうのう膜に直接させた場合にはキシロビオースは生成されず、膜も溶解せずに反応前と変化がない状態が観察された。
【0048】
これに対して、図3から明らかなように、セルラーゼオノズカRSとマセロチームAの両方を作用させた場合には、ヘミセルロースからもじょうのう膜からもキシロビオースが生成された。肉眼的に見てもマセロチームAを入れたものはかゆ状になり、キシロビオース以外の膜中の有効成分(水溶性食物繊維や水溶性オリゴ糖)もチャート上に多く観察された。
【0049】
このことは、じょうのう膜がマセレーションされることで膜を構成する細胞が液中に分散され、酵素が細胞壁に接触する面積が増加したため、より多くのキシランが分解されたと考えられる。
【0050】
【実施例6】
〔HPLCによるキシロビオースの定量〕
実施例5で得られた濾液を用いて、HPLCによりキシロビオースの定量を行った。HPLCはShimazu LC−6A(島津製作所社製)システムにより行った。検出器には示差屈折検出器Shimazu−RID−6A、カラムはゲル濾過カラム(Shodex SC−1011、8φ×300mm、昭和電工社製)で行った。標準品にはキシロビオース水溶液(1μg/μl)を用いてピーク面積を指標とした絶対検量線法で濃度を算出した。得られた結果を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
表2に示すように、キシロビオースの生成量は、ヘミセルロースに対してはA、Bともに9%前後の値を示し、生じょうのう膜に対しては、マセロチームAを同時に作用させたBの場合のみ、じょうのう膜の重量100に対して0.04%のキシロビオースが産生された。
【0053】
この値は、じょうのう膜中に含まれるヘミセルロースの量を100とするとキシロビオースが3.2%生成されたことになり、一度抽出したヘミセルロースにキシラナーゼを作用させた場合の約1/3量のキシロビオースが得られたことになる。
【0054】
【実施例7】
実施例7:キシロビオース含有かゆ状エキスを含む食品の製造
実施例5で得られたキシロビオース含有かゆ状エキスを用いて以下の食品を調製した。
【0055】
[ハードキャンディ]
溶解釜に砂糖と水飴およびキシロビオース含有かゆ状エキスを夫々必要量づつ添加し、これを煮釜で130〜140℃,バキューム550〜680mmHgで煮つめた後、これを一定温度まで冷却して賦香・色素・酸味料等を適宜量添加したものを成型機で所定形状に成型し、これを包装する。かゆ状エキスは殆どが水分なので、添加量を増加させたい場合、溶解釜で適宜の濃度(ブリクッス80〜83℃)まで煮つめてから、煮釜に送ることができるため、添加量は広い範囲で調整することができる。
【0056】
[粥]
洗浄された所要量の米にキシロビオース含有かゆ状エキスを添加し、これを炊く。全粥の場合、キシロビオース含有かゆ状エキスの添加量は、米に対し7〜8倍量であり、五分粥またはおもゆの場合には、10〜11倍量を添加する。このようにして得られた粥は、レトルトパック等に包装され、或は、缶詰に密封されて製品化される。勿論、おもゆの場合には、こされたものが包装され、或は、缶詰めされる。
【0057】
[その他]
菓子や飲料に対してキシロビオース含有かゆ状エキスを添加する場合には、上記と同様で、加水する部分をキシロビオース含有かゆ状エキスに置き換えて添加することができる。
【0058】
【発明の効果】
本発明による柑橘類じょうのう膜からキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスを製造する方法は、従来法に比べて製造工程が少なくコストの低下が期待できる。また、本発明の原料となる柑橘類じょうのう膜は従来産業廃棄物として処理した後に大量に廃棄されていたものである。本発明はこのような産業廃棄物の有効利用法として極めて大きな利用価値を有する。さらに、本発明で得られるキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスは安全かつ有用な食品材料として各種用途に応用が可能である等、幾多の優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】ヘミセルロースに酵素を作用させたときの糖含有量を示すクロマトグラムである。横軸は2mlずつ分画したときのフラクション番号を示し、縦軸は480nmにおける吸光度を示す。
【図2】ヘミセルロースおよび温州みかんじょうのう膜にセルラーゼオノズカRSを作用させたときのHPLCクロマトグラムを示す。図中、(1)はヘミセルロースを基質とし、(2)は温州みかんじょうのう膜を基質とした場合を示す。また、X2 はキシロビオースを示す。
【図3】ヘミセルロースおよび温州みかんじょうのう膜にセルラーゼオノズカRSとマセロチームAとを作用させたときのHPLCクロマトグラムを示す。図中、(1)はヘミセルロースを基質とし、(2)は温州みかんじょうのう膜を基質とした場合を示す。また、X2 はキシロビオースを示す。
Claims (7)
- 柑橘類じょうのう膜にキシラナーゼ活性を有する酵素および細胞遊離酵素を直接作用させることからなるキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの
製造方法。 - 柑橘類が温州みかんである請求項1記載のキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの製造方法。
- キシラナーゼ活性を有する酵素がTrichodermaviride由来のキシラナーゼであることを特徴とする請求項1記載のキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの製造方法。
- キシロオリゴ糖がキシロビオースである請求項1記載のキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの製造方法。
- 請求項1記載のキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの製造方法によって得られるキシロオリゴ糖含有かゆ状エキス。
- 請求項5記載のかゆ状エキスを含む食品。
- 柑橘類じょうのう膜にキシラナーゼ活性を有する酵素および細胞遊離酵素を直接作用させることによってキシロオリゴ糖含有かゆ状エキスを得て、該かゆ状エキスを水溶性画分と固形画分とに分離し、さらに該水溶性画分を分精製することからなるキシロオリゴ糖の製造方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP26605994A JP3649413B2 (ja) | 1994-10-06 | 1994-10-06 | キシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの製造方法および該エキスを含む食品並びにキシロオリゴ糖の製造方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP26605994A JP3649413B2 (ja) | 1994-10-06 | 1994-10-06 | キシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの製造方法および該エキスを含む食品並びにキシロオリゴ糖の製造方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
---|---|
JPH08103287A JPH08103287A (ja) | 1996-04-23 |
JP3649413B2 true JP3649413B2 (ja) | 2005-05-18 |
Family
ID=17425814
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
---|---|---|---|
JP26605994A Expired - Fee Related JP3649413B2 (ja) | 1994-10-06 | 1994-10-06 | キシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの製造方法および該エキスを含む食品並びにキシロオリゴ糖の製造方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
---|---|
JP (1) | JP3649413B2 (ja) |
Families Citing this family (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
CN102919825B (zh) * | 2011-08-10 | 2014-04-16 | 山东东阿阿胶股份有限公司 | 一种阿胶清心膏及其制备方法 |
-
1994
- 1994-10-06 JP JP26605994A patent/JP3649413B2/ja not_active Expired - Fee Related
Also Published As
Publication number | Publication date |
---|---|
JPH08103287A (ja) | 1996-04-23 |
Similar Documents
Publication | Publication Date | Title |
---|---|---|
US5403599A (en) | Method for preparing tamarind oligosaccharides | |
FI84010C (fi) | Foerfarande foer framstaellning av en dietfiberkomposition. | |
EP0443788B1 (en) | Food composite for performing function of large bowel regulation | |
CA2368571C (en) | Process for producing l-arabinose, l-arabinose-containing enzyme-treated products, diet foods, diabetic foods and fruit or vegetable juices, and process for producing the same | |
US11771123B2 (en) | Methods for treating biomass to produce oligosaccharides and related compositions | |
CN1093544C (zh) | 水苏低聚糖及其生产方法 | |
KR20170055997A (ko) | 당류 및 당류 조성물 및 혼합물 | |
KR20110112433A (ko) | 조성물의 제조 방법, 상기 조성물 및 식품 첨가제로서의 그의 용도 | |
KR101437608B1 (ko) | 쌀 입국을 포함하는 조청 및 그 제조방법 | |
JP2639726B2 (ja) | 水溶性食物繊維およびその製造法 | |
Wang et al. | Dietary fiber extraction from defatted corn hull by hot-compressed water | |
Nsofor et al. | Production, properties and applications of xylooligosaccharides (XOS): a review | |
KR102008336B1 (ko) | 요리조청 및 그 제조방법 | |
Joshi et al. | A review on banana starch | |
JP3649413B2 (ja) | キシロオリゴ糖含有かゆ状エキスの製造方法および該エキスを含む食品並びにキシロオリゴ糖の製造方法 | |
JPH10150934A (ja) | 還元難消化性水飴およびこれを用いた食品 | |
KR20140071149A (ko) | 인삼 젤리 조성물 및 그의 제조방법 | |
KR20200126207A (ko) | 알긴산의 함량이 증진된 갈조류 효소 분해물 및 이의 제조방법 | |
KR101850082B1 (ko) | 로즈당화액, 그 제조방법 및 응용제품 | |
KR102367694B1 (ko) | 감귤류 부산물을 이용한 고순도 식이섬유의 제조방법 | |
Cruz-Guerrero et al. | Xylooligosaccharides (XOS) | |
JPS59192075A (ja) | アロエ抽出物の苦味改良法 | |
Sarangi et al. | A review on banana starch | |
Cruz-Guerrero et al. | Xylooligosaccharides (XOS) 38 | |
JPH0466546B2 (ja) |
Legal Events
Date | Code | Title | Description |
---|---|---|---|
A131 | Notification of reasons for refusal |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A131 Effective date: 20040914 |
|
A521 | Written amendment |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A523 Effective date: 20041115 |
|
TRDD | Decision of grant or rejection written | ||
A01 | Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01 Effective date: 20050125 |
|
A61 | First payment of annual fees (during grant procedure) |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61 Effective date: 20050214 |
|
R150 | Certificate of patent (=grant) or registration of utility model |
Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150 |
|
LAPS | Cancellation because of no payment of annual fees |