JP3649207B2 - 単結晶四ほう酸リチウムの製造方法 - Google Patents

単結晶四ほう酸リチウムの製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、単結晶四ほう酸リチウム(単結晶Li247 、または単結晶LBO)を用いた光学変換素子の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
本発明の単結晶LBOを光学変換素子として用いた光学装置として、第2高調波、第4高調波、第5高調波などを発生する波長変換素子、この波長変換素子を用いた各種のレーザ装置、光パラメトリック発振装置、波長変換素子を用いたプリズム、そのプリズムを用いた偏光装置、単結晶LBOを用いた光導波素子、単結晶LBOを非線形光学変換素子として用いる装置などが知られている。
【0003】
波長が短いレーザ光を用いると記録密度を大きくできるという利点を有している。そのため、記録媒体へのデータ記録、記録媒体からデータの読みだしの光源として、短い波長のレーザ光を出射する光源が要望されている。
また短い波長のレーザ光を材料の加工に使用すると微細な加工が可能になる。さらに医療用の光源、超LSIのリソグフィ用光源なども短い波長のレーザ光を出射する光源が要望されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、500nm以下の波長の光を出射する光源の適切なものが存在しない。
たとえば、半導体レーザは波長400nm程度までのレーザ光は出射できるものが知られてきたが、出力が非常に低いという問題がある。
短波長大出力レーザとしては、エキシマレーザが知られている。エキシマレーザは、1970年にソビエト連邦のBasovらによって、液体キセノン(Xe)を電子ビームで励起する方法で初めて実現され、さらに1976年に、放電励起によって発振することにも成功した。放電励起方式のエキシマレーザは、紫外線のパルス繰り返し発振レーザで、ArF(193nm),KrF(248nm),XeCl(308nm)などの化合物が発する紫外光を光共振器により増大させ、レーザ光として取り出したものである。エキシマレーザは、高分子材料のアブレーション加工、表面改質、マーキング、薄膜作製、医薬品の製造、同位体分離などに応用が期待されている。しかしながら、エキシマレーザは、例えば繰り返し数百pps(pulse per second)のパルスレーザの場合、10-2秒毎に10-9秒間のパルス光しか発生せず、インターバルに比べてレーザの発光時間が著しく短いことから、応用分野における加工や成膜過程で問題がある。またエキシマレーザは、媒質ガスの寿命が短いこと、レーザ装置の小型化が困難であること、保守性が悪いこと、運転コストが高いこと、有毒ガスを用いること等の問題を有している。
現在、常温で、長時間安定的に、紫外線領域の光を発生する半導体レーザなどの実用化が達成されていない。
【0005】
そこで、第2高調波発生(SHG:secondary harmonic-wave generation)素子などの非線形光学素子の研究が近年活発化している。SHG素子は入射光の波長の1/2の波長の光を発生するから、たとえば、赤外線領域のレーザ光から紫外線領域の光を発生することができ、各種応用分野への工業的価値はきわめて大きい。特に、高密度情報記録・再生を行う光情報処理分野、ディスプレイ、光計測、加工、医療、LSI製造などの分野では、小型、軽量、長寿命且つ高安定な可視光または紫外光が必要とされている。
【0006】
SHG素子のような波長変換素子として用いられている結晶としては、たとえば、特開平3−65597号公報に開示されているKTP(KTiOPO4 )が知られている。しかしながら、KTPを用いた波長変換素子は、レーザ入射光の波長に対してKTPの透明領域が、0.25〜4.5μmで広い反面、1μm以下では位相整合しないという不利益を有している。その結果、KTPを用いた波長変換素子は、入射レーザ光をYAGレーザ光とした場合、その光の周波数の2倍の周波数(1/2の波長)の光しか発生できない。しかしながら、最近は、さらに高い高調波、たとえば、第4高調波、第5高調波などの光を発生することが要望されている。また、KTPを用いた波長変換素子は結晶の大型化が難しいうえ、結晶内部で屈折率が変化する。したがって一個の結晶から切り出したKTP素子でも、屈折率が異なるので位相整合角度が異なるから、高い精度の波長変換素子を実現することが難しいという不利益を有している。さらに、KTPは結晶内にいわゆる”巣”が入りやすいので、高い品質のKTPを大量に提供しにくいという不利益を有している。
【0007】
SHG素子のような波長変換素子として用いられている他の結晶としては、たとえば、特開昭63−279231号公報に開示されているBBO(β−BaB24 )が知られている。しかしながら、BBOは、耐レーザ損傷はKTPよりも大きいが、水に溶けるという潮解性を有し、取扱性に難点があると共に、大型結晶の作成が困難であるという不利益がある。
【0008】
本発明の目的は、長期的に安定して動作し、長寿命を示し、加工性に富み、小型、軽量、低価格な光学変換素子の製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、溶融させた多結晶四ほう酸リチウム(Li247 )を所定の引き上げ方位でチョクラルスキー法で引き上げて単結晶四ほう酸リチウムを製造する方法において、融液表面と融液直上10mmの間の温度勾配を30℃/cm〜200℃/cm、それより上部の温度勾配を5℃/cm〜50℃/cm、引き上げ速度を0.1mm/時間〜2mm/時間で、引き上げ、屈折率変動が10-5/mm以下、および、転位密度が約1×103 個/cm2 以下の単結晶Li247 を製造することを特徴とする単結晶四ほう酸リチウムの製造方法が提供される。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明の上記および他の目的および特徴は、添付図面に関連づけた下記の好適実施例の記述から一層明瞭になる。
【0011】
本願の発明者は、単結晶・四ほう酸リチウム(単結晶Li247 または単結晶LBOと略す)を研究した結果、単結晶LBOは、レーザ入射光の波長に対する透明領域が広く、耐レーザ損傷性が大きく、良質の大型結晶の作成が容易であり、加工性に優れ、潮解性が小さく取り扱いも容易な優れた、光学変換素子としての利用価値を見出した。
以下、本発明の単結晶LBO、および、この単結晶LBOを光学変換素子に用いた場合の種々の好適実施形態(EMBODIMENTS)を下記に詳細に述べる。
【0012】
なお、「本発明の単結晶LBO(または本実施例の単結晶LBO)という場合、下記の方法で製造した単結晶LBOをいい、「通常の単結晶LBO」というとき、SAW素子などに使用する従来の単結晶LBOを言う。「単結晶LBO」と特に断らない場合、両者を意味する。
【0013】
単結晶LBOの基本事項
以下、主として本発明の光学変換素子としての単結晶LBOの基本的事項について述べる。
【0014】
製造方法
本発明の好適な単結晶LBOの製造方法(育成方法)を述べる。
図1に示すチョクラルスキー法(CZ法)による単結晶LBOの引き上げ装置110を用いて、多結晶LBOから本発明の単結晶LBOを製造する。
引き上げ装置110は、多結晶のLBOが融解されている白金坩堝101を有する。Li247 は酸化物の中では低融点なので白金坩堝で育成が可能である。白金坩堝101の周囲には、断熱材102,103を介して、白金坩堝101内の多結晶LBOを融解させるためのヒータ104、例えば抵抗加熱ヒータが設けられている。白金坩堝101の上部には、断熱壁105,106が二重に設けられており、種結晶が取り付けられる引き上げ軸107が、断熱壁105,106を貫通している。
この引き上げ装置110を用いて、多結晶LBOから光学変換素子としての用途に応じた特性を示す単結晶LBOを育成し、その後、使用目的に応じて、単結晶LBOを光軸に対して所定の角度でカットするなどの加工を行う。
単結晶LBOの育成条件の1例について述べる。
所定モル比の多結晶LBOを白金坩堝101内に充填し、ヒータ104で融解した後、引き上げ方位(110)で単結晶LBOを引き上げる。このとき、融液表面と融液直上10mmの間の温度勾配を30℃/cm〜200℃/cm、好ましくは50〜150°C/cm、それより上部の温度勾配を5℃/cm〜50℃/cm、好ましくは、10〜40°C/cmとし、単結晶LBOの直胴部を引き上げる際の引き上げ速度を0.1mm/時間〜2mm/時間、好ましくは、0.3〜1mm/時間とする。
【0015】
融液表面と融液直上10mmの間の雰囲気の温度勾配を30℃/cm〜200℃/cmとする理由を述べる。温度勾配が30℃/cm未満であると引き上げられるLBOが多結晶化しやすくなる。温度勾配が200℃/cmより大きいと熱歪みによって、引き上げられた単結晶LBO中に転位が生じやすくなる。
【0016】
融液直上10mmより上部の雰囲気の温度勾配を5℃/cm〜50℃/cmとする理由を述べる。温度勾配を小さくすることで、育成後期の熱膨張差によるクラックを抑制できる。
【0017】
引き上げ速度を0.1mm/時間〜2mm/時間とする理由を述べる。この値より引き上げ速度を高めると、表面弾性波素子などに用いる通常のLBO結晶のように、結晶中に白濁、すなわち「巣」が発生しやすくなる。通常のLBOの製造方法およびその特性については後述する。
【0018】
本発明の単結晶LBO育成方法では、直径1インチ以上の単結晶を育成することができる。実施例によれば、直径4インチの単結晶を育成できた。
【0019】
転位密度
後で種々の実験結果を示すように、通常の単結晶LBOでも、KTP、BBOなどに比較して優れた光学変換素子と機能することが見出された。しかしながら、より望ましい光学変換素子としての観点から考察すると、通常の単結晶LBOをSAWデバイスの基板材料として用いる場合には問題とならなかった転位や不純物の取り込みなどの欠陥が、レーザ光を吸収・散乱させて、波長変換素子の波長変換効率がそれほど高くない(出射光のビーム品質が高くない)。もちろん、通常の単結晶LBOでも、KTP、BBOよりは高い光学的特性を示すが、より高い非線形光学定数が望まれた。
【0020】
上述した製造条件で製造した本発明の単結晶LBOは転位密度は小さい。研究の結果、転位密度が小さい本発明の単結晶LBOを光学変換素子として用いると、通常の単結晶LBOより、レーザ光を吸収したり散乱させることが少なく、光学的特性を適正に発揮できることが見出された。すなわち、転位密度の小さな本発明の単結晶LBOを波長変換素子に用いると、レーザ光の吸収・散乱が小さくなり、変換効率が高くなる(出射光のビーム品質が高くなる)ことが見出された。
以上の育成方法および条件で多結晶LBOから本発明の単結晶LBOを育成すると、転位密度が1×103 個/cm2 以下と小さい値になる。屈折率変動を測定すると、10-5/mm以下であった。
転位密度の測定方法は、たとえばエッチングによるエッチピットの観察やX線トポグラフ法による観察により行われる。
光波長変換素子に用いる本発明の単結晶LBOの転位密度は、0〜1×102個/cm2 以下が好ましい。
なお、SAWデバイスの基板材料などに用いる通常の単結晶LBOの転位密度は1×103 個/cm2 より大きく、白濁、いわゆる「巣」が存在する場合が多い。もちろん、このような単結晶LBOを用いても、BBO、KTPより光学変換素子としての機能が上であることも判った。
【0021】
光学的特性
本発明者の研究によれば、図2に示すように、単結晶LBOの光軸(c軸)に対して特定の角度で、所定波長のレーザ光を照射した場合に、波長変換を行うことができることを見出した。
その角度の基準として、位相整合角度θmが用いられる。基本波を光学軸に対してある角度θmで入射すると、基本波と同じ方向に位相整合された2次高調波が発生する。この角度θmを位相整合角度と言う。単結晶LBOは、負の一軸結晶である。そして、位相整合条件はタイプIの結晶である。したがって、図2に示すように、位相整合条件としては、位相整合角度θmのみを考慮すれば良いことを見出した。
【0022】
特徴
1.単結晶LBOは組成が均一であるから、結晶の上部と下部で組成ズレを起こさない。
2.単結晶LBOは、波長変換素子を構成する他の公知の結晶に比較して潮解性が低く、安定であり、取扱性に優れている。ちなみに潮解性が大きい場合には、光学変換素子を密閉容器などに収容し、湿度を制御する必要があるから、装置構成が複雑になり、寸法も大きくなる。しかし、単結晶LBOはその問題が起こらない。
3.単結晶LBOは、結晶の硬さも水晶と同程度であり、研磨および切断などの加工性も良好である。
4.単結晶LBOは、波長変換素子を構成する他の結晶に比較して製造価格も安価である。
5.単結晶LBOは、常誘電体であるので分極処理が不要である。しかも、双晶を用いて疑似位相整合(QPM;Quasi-phase Matching)に似た現象を生じさせ、入射光の波長を高効率で波長変換することができる。なお、この場合、C+軸の向きを180度回転させた方式の波長変換を、疑似位相整合(QPM)による波長変換と呼ぶ。このQPMの特徴は、周期長の設定により位相整合波長を自由に設定できることである。また、単結晶LBOは双晶により複数の周期を作りつけることにより、位相整合波長域を広げることができる。さらに単結晶LBOは、位相整合に必要な温度許容幅は2倍以上に大きくなる。さらにまた単結晶LBOは、バルク状でも、光導波路状でも使用できる。さらに単結晶LBOは、非線形光学定数d(33)を用いることができる。これらQPMは、双晶によりC+ 軸の向きを180度回転させて作成するので、強誘電体にしか適用できないと考えられていたが、本発明者の研究により、常誘電体の本発明の単結晶LBOでも適用できることを見出した。
以上の特徴は、単結晶LBOを光学変換素子として実用化するためには特に重要である。
【0023】
単結晶LBOの用途
1.波長変換素子
本発明者は、本発明の単結晶LBOの光学特性について研究した結果、KTPやBBOと同等以上の波長変換が可能であることを見い出した。
特に、単結晶LBOを用いた波長変換素子を用いることにより、たとえば、代表的な例として、Nd:YAGレーザ(波長1064nm)から、コヒーレンスが高い4倍波(266nm)、5倍波(213nm)の波長の光を作り出すことに成功した。4倍波あるいは5倍波の波長の光を作り出すことができれば、既に大出力の装置が開発されている赤外レーザを用いて、紫外線領域またはそれに近い領域のレーザ光を容易に作り出すことができる。したがって、さらに微細加工が可能になると共に、マーキング、リソグラフィ、各種半導体プロセス、医療などの多様な分野への応用が可能になる。
本発明者は、単結晶LBOを波長変換素子(装置)として用いた場合に、入射する光の波長に対する透明領域が、他の結晶に比べて広く、波長変換素子として実用的に適していることを見い出した。透明領域が広くなければ、特定の波長の光に対してのみしか波長変換素子として用いることができないが、本発明に係る波長変換素子は、広領域の光に対して波長変換素子として用いることができる。
単結晶LBOを波長変換素子に用いた場合、非線形光学定数が小さいが、良質の大型結晶を作り易く(現在では、直径4インチの単結晶LBOの作成が可能である)、大型結晶にすることで、変換効率を上げることができる。レーザ出力は、入射光の強度の2乗、結晶長の長さの2乗に比例して効率が上がる。
本発明者は、単結晶LBOを波長変換素子として用いた場合に、耐レーザ損傷しきい値が、他の結晶に比べて著しく大きく、波長変換素子として実用的に適していることを見い出した。耐レーザ損傷しきい値が小さいと、小さなレーザのエネルギーによっても結晶が損傷するおそれがあり、波長変換素子としての耐久性が問題になる。本発明に係る波長変換素子では、耐レーザ損傷しきい値が大きく、より大出力のレーザ出力が可能になると共に、耐久性に優れている。
【0024】
2.各種レーザ装置
本発明に係る単結晶LBOを用いる波長変換方法として、単結晶LBOにレーザ光を透過させることにより、当該レーザ光の波長を変換するが、単結晶LBOを用いた波長変換素子に2種または3種以上のレーザ光を同時に照射し、それらのレーザ光の波長の和周波または差周波のレーザ光を得るレーザ装置を構成することもできることを見出した。
【0025】
3.光パラメトリック発振装置
本発明者は単結晶LBOを波長変換素子に用いて光パラメトリック発振を行うこともできることも見い出した。
【0026】
以下、単結晶LBOを光学変換素子として用いる光学装置のそれぞれに適した、単結晶LBOの具体的な例(EXAMPLE)を、その用途の装置に関連づけて詳細に説明する。
【0027】
第1実施例
本発明の第1実施例として、第2高調波素子(波長変換素子)として用いる単結晶Li247 (単結晶LBO)について述べる。
本実施例の単結晶LBOの製造(育成)
図1に示した引き上げ装置110を用いて、所定モル比(化学量論組成)の純度99.99重量%の多結晶LBO、1300gを、直径90mm、高さ100mmの白金坩堝101に充填し、チョコラルスキー(CZ)法で単結晶LBOを育成した。
図2は単結晶LBOの位相整合角度の定義を示すグラフである。この図の内容は前述した。
【0028】
本実施例の単結晶LBOの加工
図3に示すように、光学軸(C軸)に対するカット面32の角度が45度であるように、単結晶LBOをカットし、入出射面であるカット面32を光学研磨し、15mm×15mm×10mmの単結晶LBOの光学変換素子30Aを作成した。この光学変換素子30Aは、レーザ光などのコヒーレントな光iが入射すると、入射波長の半分の波長の光oを出射させる、第2高調波発生(SHG)用光学変換素子(波長変換素子)として機能する。したがって、本発明の単結晶LBOを、たとえば、波長532nm(0.532μm)の入射光が入射すると、その半分の波長266nm(0.266μm)の光を出射する第2高調波(SHG)用波長変換素子30Aとして使用できる。
【0029】
本実施例の単結晶LBOの屈折率変動
Mach−Zender干渉計で本実施例の単結晶LBOの屈折率変動を測定したところ、10-6/mmであった。
【0030】
実験例1
実験例1として、波長変換素子30Aに、後述する光パラメトリック発振器(Spectra Physics社製)から486〜1265nmの範囲のレーザ光を入射させたところ、243〜633nmの範囲の第2高調波の可干渉(コヒーレント)な光が得られた。透過波面での干渉縞の乱れは観察されなかった。
位相整合角度
図4は、図3に示す45度カット面32に直交する方向へのレーザ光入射角度を0度とし、c軸方向をプラス、(110)方向をマイナスとして単結晶LBOを回転させたときに、光パラメトリック発振器から発生させた各レーザ光の波長で、位相整合したときのレーザ光の入射角度を示している。この入射角度から、各波長における位相整合角度θmを求めることができる。
図4は、本実験例の単結晶LBOに、位相整合条件を満足させて、所定の波長のコヒーレント光を入射させると、その波長の半分の波長の光が出射されることを示している。以下の実験例、実施例においては、代表例として、YAGレーザからの波長1064nmのコヒーレント光を用いる場合が多いが、1064nmの入射コヒーレント光に限らず、本実験例の単結晶LBOは、図4に図解した範囲の入射光の波長の半分の波長の光を出射する性能を有していることが確かめられた。KTP、BBOなどは通常、YAGレーザからの波長1064nmのコヒーレント光を半分の波長に変換できることが知られているが、本発明の単結晶LBOを用いた本実験例によれば、波長1064nmのコヒーレント光に限らず、任意波長のコヒーレント光を半分の波長の光に変換できることが検証された。しかも、最短波長209nmまで変換できることが検証された。以下の単結晶LBOを用いた装置、たとえば、波長変換装置、レーザ装置などにおいては、好適実施例においては、上述した好適条件の単結晶LBOを用いた場合を例示するが、本発明の種々の単結晶LBOを用いることができる。
図2に図解したように、所定角度からレーザ光を結晶に照射すると、スネルの法則に従い、レーザ光は屈折率に応じて結晶中を屈折して進む。位相整合角度θmは、たとえば、単結晶LBOをSHG用波長変換素子として用いるときは、二次高調波を発生した時の屈折したレーザ光とc軸との角度である。
図4に例示したグラフから明らかなように、波長1064nmのレーザ光を単結晶LBOの面32に入射させるときの入射角度は約プラス19度である。すなわち、波長1064nmのレーザ光を出射するYAGレーザの基本波を入射したときには、入射角度が約プラス19度で位相整合する。単結晶LBOの屈折率は約1.6なので、屈折角度は約12度である。従って、c軸との角度、すなわち、位相整合角度は約33度として求められる。同様な方法で、各波長毎の位相整合角度を決定できる。
【0031】
各波長と位相整合角度との関係を表1に示す。
【0032】
【表1】
Figure 0003649207
【0033】
表1の内容は、本発明の単結晶LBOを用いてある波長の光をその半分の波長の光に波長変換したときの単結晶LBOの屈折率と位相整合角度を示している。入射波長は、光パラメトリック発振装置からのコヒーレント光を用いた。さらに、波長1064.0nmの光はYAGレーザからの光も用い、532.0nmの光はYAGレーザの光をSHGとしてのKTPを用いて半分の波長にしたものを用いた。
位相整合方法には、本発明者が行った複屈折を利用した角度位相整合と屈折率の温度依存性を利用した温度位相整合方法がある。もちろん後者の位相整合方法を適用することも可能である。
【0034】
表1と図4の内容
図4のグラフは、上述した入射光1064nmをその半分の波長=532nmに波長変換するだけでなく、本研究者の研究により、本実施例の単結晶LBOを用いれば、その他の入射光に対しても、入射角度を図4に図解した値にして本実施例の単結晶LBOに入射させることにより、入射光の波長の半分の波長の光を本発明の単結晶LBOから出射できることを示している。従来、入射光1064nm以外の入射光に対する波長変換の研究は行われていない。
表1は図4に図解したグラフの具体的な数値のいくつかを例示している。ただし、表1においては、図4の入射角度に代えて、位相整合角度で表している。このように、いくつかの波長における単結晶LBOの屈折率を測定し、操作過程を適合させることによってSellmeier方程式が求められる。なお、Sellmeier方程式を解くことによって各波長における屈折率が算出でき、位相整合角度を求めるという方法もある。
【0035】
図5は、上述した単結晶LBOを波長変換素子として用いて、532nmの入射波長を半分の波長266nmの出射波長に変換するときの、位相整合角度θmと入射角度との関係を幾何学的に表わした図である。
【0036】
波長変換機能
単結晶LBOに限らず、KTPも,BBOもSHGとして機能する。しかしながら、後述するように、単結晶LBOは、2つの異なる波長のコヒーレント光の和または差をとることにより(以下、総称して、和周波混合と呼ぶ)、YAGレーザの出射光の波長1064nmの1/3または1/5の波長を出射することができるが、KPTはそのような波長変換機能を有しない。BBOは、2つの異なる波長のコヒーレント光の和または差をとることにより、単結晶LBOと同様、YAGレーザの出射光の波長1064nmの1/3または1/5の波長を出射することが可能であるが、ウォークオフ角度が大きいので、大型の結晶を使用できず、変換効率を高くできない。
これに対して、本発明の転位密度の低い単結晶LBOを用いると、高い変換効率で、所定の波長の入射コヒーレント光の1/3または1/5の光を出射できる。代表的には、YAGレーザの出射光の波長1064nmの1/3または1/5の波長を安定に出射することができる。
【0037】
耐レーザ光損傷
本実施例の単結晶LBOから成る波長変換素子の耐レーザ光損傷を、以下の測定方法により測定したところ、表2に示すように、数十GW/cm2 〜100GW/cm2 であり、本実施例の単結晶LBOの耐レーザ光損傷がBBOの5倍以上であることが確認された。耐レーザ光損傷は、結晶に照射しているレーザの出力を除々に大きくし、目視で結晶が損傷を受けたことを確認し、その出力を測定すると共に、結晶の所定位置でのレーザビーム径を測定し、単位面積当りの出力を計算により求めることにより行った。
【0038】
【表2】
Figure 0003649207
【0039】
透明度
本実施例の単結晶LBOを用いた波長変換素子30に入射するレーザ光の波長に対する透明領域を調べたところ、表2に示すように、170nm〜3500nmの波長の光に対して透明性があり、透明領域が広いことが確認された。
【0040】
取扱性、加工性など
本実施例の単結晶LBOから成る波長変換素子30Aは、表2に示すように、潮解性も極小であり、研磨性も良好であり、取扱性に優れていることが確認できた。
【0041】
単結晶の大きさ
大型結晶の可能性について調べたところ、直径4インチ以上の単結晶LBOの生成が可能であることが確認できた。
【0042】
耐劣化性
本実施例の単結晶LBOから成る波長変換素子30Aは、紫外光に対してBBOよりも劣化しにくいので、寿命が長い。
【0043】
参考例1
本実施例の単結晶LBOと通常の単結晶LBOとを対比検討した。
通常の単結晶LBOを、図1に示す引き上げ装置110を用いて単結晶LBOを育成した。ただし、第1実施例の育成条件とは育成条件を変えた。参考例1では、融液表面と融液直上10mmの間の温度勾配を250°C/cm、それより上部の温度勾配を70°C/cmとし、単結晶の直胴部を引き上げる際の引き上げ速度を2.5mm/時間とした。すなわち、参考例1では、第1実施例の引き上げ条件に対して、温度勾配を大きくし、引き上げ速度を速くした。上記の条件以外は、前記実施例1と同様にして参考例1の単結晶LBOを育成した。その後、その単結晶LBOを、本実施例と同様、図3に図解したようにカットし、その単結晶LBOの入射面を光学的に研磨した。結晶の大きさはほぼ同じである。
このような通常の単結晶LBOに、YAGレーザの第2高調波、波長532nmの出射光を入射したところ、本実施例の単結晶LBOと同様、半分の波長のレーザ光が認められ、通常の単結晶LBOも本実施例の単結晶LBOと同様に光波長変換機能を有していることが判った。
しかしながら、通常の単結晶LBOには白濁が介在しており、出射光の強度は本実施例の単結晶LBOによる出射光の強度より弱かった。
通常の単結晶LBOの結晶内部の屈折率変動をMach−Zender干渉計が測定したところ、屈折率変動は約10-4/mmであった。本実施例の単結晶LBOの屈折率変動、10-6/mmより変動が大きい。
【0044】
以上のように、本実施例によれば、所定の位相整合角度を満足するように、光軸に対して所定の面でカットした通常の単結晶四ほう酸リチウム(Li247 )の光入射面に所定の入射角度で、波長1000nm以下のコヒーレント光を入射させ、前記入射光の波長のほぼ1/2の波長の光を射出させることができる。
【0045】
第2実施例
本発明の第2実施例として、単結晶LBOを第2高調波用波長変換素子として用いる例を述べる。
【0046】
本実施例の単結晶LBOの製造方法
図1に示した引き上げ装置110を用いて、本実施例の単結晶LBOを育成した。すなわち、所定モル比の純度99.99%の多結晶LBO、1300gを直径90mm,高さ100mmの白金坩堝101内に充填し、ヒータで融解したのち、引き上げ方位(110)で直径2インチの単結晶LBOを引き上げた。
第2実施例における引き上げ条件は、融液表面と融液直上10mmの間の温度勾配を80°C/cm、それより上部の温度勾配を30°C/cmとし、単結晶LBOの直胴部を引き上げる際の引き上げ速度を0.5mm/時間とした。
このようにして育成した単結晶LBOの転位密度を、エッチング法によって測定したところ、5×10個/cm2 であった。充分小さな転位密度である。
【0047】
加工
この単結晶LBOの第2次高調波特性を評価するために、本実施例の単結晶LBOを、位相整合角θm≒17°を満足するようカットし、当該単結晶の入出射面を光学研磨した。結晶の大きさは、直径10mmおよび長さ25mmとした。
この単結晶に、出力100mJ,波長532nmのレーザ光を照射し、透過した光を観察、評価した。その結果、この光は第4次高調波である波長266nmの出射光であり、本実施例で得られた単結晶LBOは波長変換特性に優れた材料であることが確認できた。また、レーザ光入射出力とレーザ光出射出力とから、波長変換効率を計算により求めた結果、約15%であった。
【0048】
参考例2
参考例2として、SAW素子などに使用する通常の単結晶LBOの製造条件に従って単結晶LBOを製造した。すなわち、図1に示す引き上げ装置110を用いて単結晶LBOを育成した。ただし、第2実施例の育成条件とは育成条件を変えた。すなわち、参考例2では、融液表面と融液直上10mmの間の温度勾配を250°C/cm、それより上部の温度勾配を70°C/cmとし、単結晶の直胴部を引き上げる際の引き上げ速度を2.5mm/時間とした。すなわち、参考例1では、第2実施例の引き上げ条件に対して、温度勾配を大きくし、引き上げ速度を速くした。上記の条件以外は、前記実施例2と同様にして参考例の単結晶LBOを育成した。
エッチング法を用いて測定したところ、参考例2の単結晶LBOの転位密度は2×104 個/cm2 であり、単結晶LBO中に白濁が観察された。したがって、参考例2で示した条件が製造した通常の単結晶LBOは、光学変換素子としては品質が低い。
第2次高調波特性を評価するために、比較例の単結晶LBOを、第2実施例と同様にカットし、当該単結晶の入出射面を光学研磨した。結晶の大きさも同じである。この単結晶に、出力100mJ,波長532nmのレーザ光を照射し、透過した光を観察、評価した。その結果、波長266nmの光は観察されたが、波長変換効率は低かった。波長変換効率を計算により求めたが、約9%であり、参考例2による単結晶LBOは本実施例の単結晶LBOに比較して、変換効率に劣ることが確認された。換言すれば、本実施例の単結晶LBOは光学変換素子として用いた場合、変換効率が高いことを示している。
【0049】
第3実施例
本発明の第3実施例として、単結晶LBOを5倍高調波用波長変換素子に用いる場合を述べる。
【0050】
本実施例の単結晶LBOの製造
図1に示した引き上げ装置110を用いて、所定モル比(化学量論組成)の純度99.99重量%の多結晶LBO、1300gを、直径90mm、高さ100mmの白金坩堝101に充填し、CZ法で単結晶LBOを育成した。
引き上げ条件は第1実施例または第2実施例といずれのものと同じでよい。
本実施例の単結晶LBOの加工
育成した単結晶LBOを、(110)面と(001)面とにカットし、入出射面である(110)面を光学研磨し、15mm×15mm×30mmの単結晶LBOから成る波長変換素子30Bを作成した。
【0051】
実験例2
基本波ω(入射波長λ2 =1064nm)のレーザ光(出力1J)と、光パラメトリック発振器(Spectra Physics社製)から発生させた基本レーザ光の4倍の周波数、4ω(入射波長の1/4の波長λ1 =266nm)の補助レーザ光(出力250mJ)とを同時に波長変換素子30Bに入射させたところ、二つの光の混合(和周波)によって、入射波長λ2 =1064nmの5倍の周波数:5ω(1/5の波長213nm)の光(出力150mJ)が発生した。すなわち、単結晶LBOを用いた波長変換素子30Bから、1064nm/5≒213nmの波長の光が発生した。
この時の位相整合角度を実験例1と同様にして求めたところ、約79度であった。和周波による最短波長は209nmであり、その時の位相整合角度は、約90度であった。
各入射波長と位相整合角度との関係を下記の表3に示す。
【0052】
【表3】
Figure 0003649207
【0053】
波長x=209nmの出射光を得る場合、前記第1のコヒーレント光の波長は、任意のw(nm)、たとえば、981(nm)であり、前記第2のコヒーレント光の波長は、1/〔(1/x)−(1/w)〕(nm)、たとえば、266(nm)である。
さらに、単結晶Li247 の入射面に第1の波長の第1のコヒーレント光と第1のコヒーレント光のほぼ1/2またはほぼ1/4の波長の第2のコヒーレント光とを所定の角度で入射させ、少なくとも前記第1のコヒーレント光の波長のほぼ1/3またはほぼ1/5の波長のコヒーレント光を出射させることができる。
表3に示す位相整合角度は、単結晶LBOの屈折率を1.6として計算して求めたので、厳密な意味では正確ではない。なぜなら、結晶の屈折率は、温度や入射波長などによって変化するからである。しかしながら、上記表の値は、正確な値に近い値であり、上記の表の値に±10度の範囲に正確な位相整合角度があると考えられる。もちろん、屈折率が正確に求められれば、実験例1に示した手法により、容易に正確な位相整合角度を求めることができる。
位相整合方法としては、複屈折を利用した角度位相整合と屈折率の温度依存性を利用した温度位相整合を適用した。もちろん後者の単結晶LBOに温度位相整合方法を適用することも可能である。
いくつかの波長における単結晶LBOの屈折率を測定し、操作過程を適合させることによってSellmeier方程式が求められる。Sellmeier方程式を解くことによって各波長における屈折率が算出でき、位相整合角度を求める方法もある。
【0054】
参考例3
参考例1または参考例2で述べた通常の単結晶LBOを1/5波長変換に用いた。その結果、本実施例の単結晶LBOと同様、位相整合角度=約79度であり、和周波による最短波長は209nmであり、その時の出力は50〜120mJであった。通常の単結晶LBOは白濁が介在しており、Mach−Zender干渉計による屈折率変動の測定結果は10-4/mmであった。
白濁がなく、屈折率変動が10-6/mmの本実施例の単結晶LBOを用いて1/5波長変換した場合、安定な5倍高調波が得られた。
すなわち、通常の単結晶LBOを用いても5倍高調波が得られるが、本実施例の単結晶LBOを用いたほうが、安定し、変換効率の高い5倍高調波が得られることを示している。
【0055】
比較例1
本発明の単結晶LBOの波長変換素子30BをKTPで構成した以外は、前記実験例2と同様にして、変換波長特性、耐レーザ損傷、透明領域、潮解性、良質の大型結晶の可能性について調べた。結果を表2に示す。この結果から、本発明の単結晶LBOを波長変換素子30Bに用いた場合の優位性が確認された。
【0056】
比較例2
本発明の単結晶LBOを波長変換素子30BをBBOで構成した以外は、前記実験例1と同様にして、変換波長特性、耐レーザ損傷、透明領域、潮解性、良質の大型結晶の可能性について調べた。結果を表2に示す。この結果から本発明の単結晶LBOを用いた波長変換素子30Bの優位性が確認された。BBOは、フラックス法で育成するので、不純物を取り込み易く、収率は低いが、本発明の単結晶LBOは収率が高い。また、BBOに紫外光を照射すると、結晶の劣化によってカラーセンタが発生するという問題があるが、本発明の単結晶LBOを用いた波長変換素子30Bはその問題がない。
【0057】
比較例3
本発明の単結晶LBOを波長変換素子30BをKDPで構成した以外は、前記実験例1と同様にして、変換波長特性、耐レーザ損傷、透明領域、潮解性、良質の大型結晶の可能性について調べた。結果を表2に示す。その結果、本発明の単結晶LBOの優位性が確認された。
【0058】
以上のごとく、本実施例によれば、和周波混合現象を利用して、たとえば、波長x=209nmの出射光を得る場合、前記第1のコヒーレント光の波長は、任意のw(nm)、たとえば、981(nm)であり、前記第2のコヒーレント光の波長は、1/〔(1/x)−(1/w)〕(nm)、たとえば、266(nm)である。また、前記単結晶Li247 の入射面に第1の波長の第1のコヒーレント光と第1のコヒーレント光のほぼ1/2またはほぼ1/4の波長の第2のコヒーレント光とを所定の角度で入射させ、少なくとも前記第1のコヒーレント光の波長のほぼ1/3またはほぼ1/5の波長のコヒーレント光を出射させることができる。
好適には、光軸に対して所定の面でカットした、屈折率変動が10-5/mm以下、および/または、転位密度が約1×103 個/cm2 以下の単結晶四ほう酸リチウム(Li247 )を用いる。
【0059】
第4実施例
本実施例は、単結晶LBOが、上述したように、4倍または5倍の波長変換機能を有することを用いて、単結晶LBOを波長変換素子として用い、赤外線領域の光から紫外線領域の光を射出するレーザ装置を実現した例であり、図6を参照して示す。
図6に示したレーザ装置100は、赤外線領域の波長1064nmの可干渉光(コヒーレント光)を出射する固体レーザであるNd:YAGレーザ10と、波長266nmのコヒーレント光を出射する二次光源20と、本発明の単結晶LBOからなる波長変換素子30Bと、ハーフミラー40とを有する。
【0060】
二次光源20は、たとえばNd:YAGレーザから発せされた波長1064nmのレーザ光を、波長変換素子、たとえば、入射光の半分の波長の光に変換するβ−BaB2 O4 (BBO)単結晶を用いた波長変換素子を2度波長変換して、または本発明のSHG用単結晶LBOから成る波長変換素子に2度通過させて、波長1064nmの1/4の波長、266nmのレーザ光に変換して出力する。第1の光路では、Nd:YAGレーザ10から発せられた波長1064nmのレーザ光がハーフミラー40を透過して波長変換素子30Bに入射する。第2の光路では、二次光源20からの波長266nmのレーザ光がハーフミラー40で反射されて、Nd:YAGレーザ10からレーザ光とともに、波長変換素子30Bに入射する。すなわち、第1の光路及び第2の光路から波長変換素子30Aに照射されたレーザ光は、当該波長変換素子30Bを通過すると、和周波されて、Nd:YAGレーザ10からレーザ光の波長1064nmの約1/5の波長、213nmの短波長レーザ光に変換されることになる。
【0061】
このように、レーザ装置100は、常温で赤外線領域の光、波長1064nmを射出する固体レーザである、Nd:YAGレーザ10と、波長1064nmの1/4の波長の光を発する二次光源20と、単結晶LBOを用いた波長変換素子30Bによって、赤外線領域の光、波長1064nmから、その1/5の波長、すなわち、213nmの紫外線領域の短波長レーザ光を出射させることができる。
Nd:YAGレーザ10は、透明で絶縁体の結晶、YAGを母体として不純物イオンNdを混入させている。Nd:YAGレーザ10は常温で連続的に赤外線領域の光、波長1.05〜1.12μmのうち、特に、1.064μmの光を強く発振する。
【0062】
また上述したように、単結晶LBOは、広範囲の波長にたいして透明度が高く、レーザ光による損傷が少ない。また、良質で大型の結晶を容易に製造できる。さらに、単結晶LBOは、加工性に優れ、潮解性が小さく取り扱い性にも優れている。単結晶LBOは寿命も長い。
上述したNd:YAGレーザ10と、このNd:YAGレーザ10の光を用いた二次光源20と、上述した単結晶LBOを用いた波長変換素子30Bと、ハーフミラー40からなる、本発明に係るレーザ装置100は、小型化で、動作が安定しており、長寿命である。しかも、常温で、高いエネルギーの、短波長の紫外光線、上述した例では、波長213nmのレーザ光が得られる。このレーザ装置100は、エキシマレーザに代替えできる。すなわち、このようなレーザ装置100は、印刷や製版、光計測、超LSIなどのリソグラフィ等の分野への応用が期待できる。
【0063】
第5実施例
本発明の第5実施例として、本発明の単結晶LBOを第5高調波用波長変換素子として用いた、他のレーザ装置について述べる。
製造方法
図1に示した引き上げ装置110を用いて、CZ法で単結晶LBOを育成した。
育成方向はc軸引き上げでは気泡の介在が多く、c軸から垂直方向にある(100),(110)方向では気泡の介在が少なかった。
加工
育成結晶から、(100),(001)面試料(およそ30mm*30mm*40mm)を作製した。
【0064】
動作実験
図6に示したレーザ装置に類似する図7に示したレーザ装置で、実験を行い、まずNd:YAGレーザ(図示せず)の基本波(ω)を2倍波・4倍波発生ユニット42へ入射させ、それを本発明の単結晶LBOを用いた波長変換素子30Cへ入射させて、波長変換素子30Cから5倍波を発生させた。この時の条件は、10Hz,10nsecでNd:YAGレーザの基本波出力:400mJ,4倍波:110mJを、位相整合角79度に入射させ、5倍波出力70mJを得た。次に、結晶を(001)方向に回転させながら、光パラメトリック発振器41で1064nmの波長を徐々に変えて単結晶LBOに当てながら、変換波長を測定した。(100)面試料に殆ど垂直に入射する条件で、最短波長は209nmであった。
以上のとおり、本発明の単結晶LBOを波長変換素子30Cに用いたレーザ装置には、広い波長範囲にわたって変化するレーザ光が確認された。
【0065】
第6実施例
本発明の第6実施例として、本発明の単結晶LBOを第5高調波用波長変換素子として用いた、さらに他のレーザ装置について述べる。
製造方法
図1に示した引き上げ装置110を用いて、CZ法で単結晶LBOを育成した。
育成方向はc軸引き上げでは気泡の介在が多く、c軸から垂直方向にある(100),(110)方向では気泡の介在が少なかった。
加工
育成結晶から切り出して、(001)面から79度傾けた面を光入射面とした単結晶LBOを作成した。その単結晶の寸法は、20mm×20mm×45mmであった。
【0066】
動作実験
この本実施例の単結晶試料を、図8に示すように、波長変換素子30Dとして、フィルター60,62間に配置し、YAGロッド50、Qスイッチ52、ミラー54,55で構成されるYAGレーザ10aから周波数ωの基本波を出力させ、SHG用結晶56,58を通して変換素子30Dの光入射面に光を入射させた。SHG結晶56,58は、たとえば単結晶LBOまたはBBOなどで構成される。
79度切断の単結晶試料30Dをステージに載せて、図2に示したc軸方向に回転させた所、79度±10度で5倍波(5ω)の発生を確認した。
その出力光の最大の強度は、YAGレーザ(1.5J、10HZ)を用いて、120mJであった。
【0067】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、長期的に安定して動作し、長寿命を示し、加工性に富み、小型、軽量、低価格な光学変換素子が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は本発明の単結晶・四ほう酸リチウム(Li247 、LBO)を製造する引き上げ装置を示す断面図である。
【図2】図2は単結晶LBO中の位相整合角度の定義を示す概略図である。
【図3】図3は本発明の一実施例に係る単結晶LBOのカット面と位相整合角度との関係を示す図である。
【図4】図4は本発明の一実施例における単結晶LBOで位相整合したときのレーザ光の入射角度と基本波との関係を示す図である。
【図5】図5は本発明の一実施例に係る単結晶LBOを第2高調波用波長変換素子として利用する場合の位相整合角度と入射光角度との関係を示す図である。
【図6】図6は本発明の第3実施例としての、単結晶LBOを第5高調波用波長変換素子として用いたレーザ装置を示す構成図である。
【図7】図7は本発明の第4実施例としての、単結晶LBOを第5高調波用波長変換素子として用いた他のレーザ装置の構成図である。
【図8】図8は本発明の第5実施例としての、単結晶LBOを波長変換素子として用いたシングルパス型レーザ装置の構成図である。
【符号の説明】
1…白金るつぼ、2,3,5,6…断熱材、4…ヒーター

Claims (1)

  1. 溶融させた多結晶四ほう酸リチウム(Li247 )を所定の引き上げ方位でチョクラルスキー法で引き上げて単結晶四ほう酸リチウムを製造する方法において、
    融液表面と融液直上10mmの間の温度勾配を30℃/cm〜200℃/cm、それより上部の温度勾配を5℃/cm〜50℃/cm、
    引き上げ速度を0.1mm/時間〜2mm/時間で、引き上げ、
    屈折率変動が10-5/mm以下、および、転位密度が約1×103 個/cm2以下の単結晶Li247 を製造することを特徴とする単結晶四ほう酸リチウムの製造方法。
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