JP3645295B2 - 潤滑硬質膜被覆ドリル - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は工具鋼、高速度鋼、又は超硬合金又はサ−メットを含む硬質合金を母材としてなるドリルの耐凝着性又は耐溶着性を向上させた潤滑性硬質膜被覆ドリルに関する。
【0002】
【従来の技術】
硬質被覆膜を有するドリルについては近年PVDが一般化したのを契機として急速に技術の発展があり、現在金色を呈するTiNコ−ティングが施された高速度ドリルを初めとしてTiCN等のコ−ティングが施された高速度鋼製又は超硬合金製のドリルに適用されている。これらは主として耐摩耗性や切削における耐熱性が重視されて開発が進められているが特殊用途の切削工具では全く効果のない範疇の被削材も存在している。これらの中にはアルミや銅といった軟質材料があり、これらに対しては従来より主として超硬合金などが使用されてきている。CrNについては切削工具では使用されないが各種部品や金型に使用され、また、耐食性が高いといわれている。金属プレス工業出版会が1993年6月1日発行した雑誌『金属プレス』1993年6月号33頁〜38頁、あるいは同『金属プレス』1994年6月号11頁〜15頁には、CrNコ−ティングの各種応用が記載されているが、その特性等の記載は少ない。切削工具への応用例がないことは『金属プレス』1994年6月号12頁の表−1に示すように摩擦係数が大きいことが主たる要因と考えられている。これら従来技術は主に膜の硬度や膨張係数に着目したCrNコ−ティングの各種応用を示すもので、本発明品とは本質的に異なる。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
切削現象には工具材料の耐摩耗性や耐熱性といった摩耗や熱に関する基本的なものの他に凝着や溶着という特異な現象を伴うのが一般的である。切削現象は工具刃先の受ける力が摩擦を伴い、被削材の分断あるいは切粉の生成過程でこの摩擦現象が重要な役割を演じることになる。純銅とアルミニウム等ではその挙動においても要求される切削工具の機能は異なるものであるがいずれも摩擦現象において同様な理由により工具の性能が著しく制限されている。アルミニウムの場合は比較的凝着又は溶着し易くまた、凝着物又は溶着物が成長し易い。一方、純銅では全体的な凝着又は溶着は余りみられないが刃先先端では凝着物又は溶着物の成長があり、凝着又は溶着した塑性流動状態の被削材料が硬度上昇を引き起こすといった問題があった。このような現象は切削現象では溶着摩耗又は凝着摩耗の発生として比較的低速側の切削条件で生じるが、ドリルのように切れ刃部の切削速度が0から始まるような工具においては形状的な問題もあるが工具をより高性能に引き上げるためには従来の工具材料又は表面材種では避け得ない問題であった。
本発明の課題は、工具鋼、高速度鋼及び超硬合金又はサ−メットを含む硬質合金を母材としてなるドリルの耐凝着性又は耐溶着性を向上させた潤滑性硬質膜被覆ドリルを提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
このため本発明は、工具鋼、高速度鋼、又は超硬合金又はサ−メットを含む硬質合金を母材としてなるドリルにおいて、
ドリルのランド幅/溝幅の比が1.2〜2.0の範囲にあり、
ドリルの切れ刃部を含むドリル有効長の一部ないし全部の範囲に0.05μm〜5.0μmのCrNx(原子比で0.3≦x≦1.0、を満足する)よりなる硬質被覆がなされており、
前記硬質被覆の最表層にCrOy(原子比で0.3≦y≦1.5を満足する)で構成されその膜厚が0.01μm〜2.0μmの硬質表層被覆がなされており、
そして
前記硬質表層被覆膜にAスケ−ルロックウエル硬度計を用いて押圧した場合に生ずる圧痕を100倍の倍率で観察した結果が、前記圧痕の外周1mm以上の範囲で膜とドリル母材との間で剥離が認められない、ことを特徴とする潤滑硬質膜被覆ドリルを提供することによって上述した従来技術の課題を解決した。
【0005】
CrNxの上にCrOyを成膜する方法としてPVDの方法ではイオンプレ−ティングやスパッタイオンプレ−ティングさらには真空蒸着が用いられている。CrOyはCrNxのイオンプレ−ティングやスパッタイオンプレ−ティング中にNを止め連続あるいは断続的に酸素を導入することにより得られる。この方法の他、イオンプレ−ティングあるいはPVDのその他の方法で行いCrNx、(原子比で0.3≦x≦1.0、を満足する)を形成するか、形成後にCrの蒸着を行い酸化雰囲気中で加熱反応させる方法、あるいは陽極酸化を用いてCrOy、(原子比で0.3≦y≦1.5、を満足する)を成膜することも可能である。このような硬質被膜は密着性が必要となるため、下層としてCrNxを配置した。下層となるCrNxはイオンプレ−ティングによるTiNと比較すると脆く、実際鋼の切削では一般的にTiN被覆に比べ性能が低い。CrNx硬質被覆は膜厚が0.05μm〜5.0μmのと限定されているのは、5.0μmをこえる膜厚は切刃のシャープさがなくなり面粗さに影響するおそれがあり、0.05μm未満では効果が望めないからである。原子比で0.3≦x≦1.0、を満足すると限定されているのは硬質被覆の硬さを1400HV以上にするためである。
【0006】
前記CrNx硬質被覆の最表層のクロム酸化物CrOyの被覆については粉体の潤滑性については知られているが被膜についてこれまで例がなく、その特性は非常に脆い性質のものである。被膜とは異なる粉体ではラップ粉として使用されることが多い。粉体の場合の塗布では粒子はすぐ脱落するため、性能の向上は望めない。一方、銅やアルミニウムのドリル切削では切削抵抗の上昇は主に切粉の排出条件が重要なものであるので、ランド幅/溝幅の比率を1.2〜2.0の範囲に限定した。この比率が、1.2未満であると切粉詰まりを生じ易く、2.0を越えると軟質材においては抵抗が大きくなりドリル本体の剛性が不足し加工精度に影響する場合があるからである。又、CrOy(原子比で0.3≦y≦1.5、を満足する)の膜厚については0.01μm〜2.0μmの範囲に限定したのは、2.0μmをこえる膜厚は切削抵抗の急激な上昇を引き起こし、被膜の剥離を引き起こし、0.05μm未満では効果が望めないからである。又CrOyで原子比で0.3≦y≦1.5、と限定したのはこの範囲が母材と被削材との凝着又は溶着を防止するに適度な範囲で0.3より少ないと効果がなく、又1.5を越えて大きくできないからである。
【0007】
【発明の効果】
銅やアルミニウムのドリル切削で上述したような凝着又は溶着といった現象により工具性能に制限が加えられるような場合、凝着又は溶着しにくい材料を工具表面に被覆することが重要となる。そこで出願人は各種材料について調査研究を行い最上層にCrの酸化物を形成したので摩擦係数が低減された。この現象は単に摩擦係数を下げる作用として凝着物や溶着物が成長を起こす以前に滑り除去される効果によるものである。このような作用を生み出すためには比較的付着力の強いCrの酸化物を形成する必要があり、ある程度の密着性を得るためにはPVDの場合CrNxを形成するのが良い。このCrNxの上にCrOyを成膜した被膜を合わせ持つドリルの作用は極めて仕上げ面粗さを向上させることであり、その主な作用は自己潤滑による凝着又は溶着の防止がその大きな作用となり、切削性能を飛躍的に増大するものとなった。図1に本発明品と、それより付着力の弱いCrNxの上にCrOyを成膜した試作品の場合の、それぞれのロックウエル圧痕の状態(×100倍)を示す。
選択的に、前記母材にTiN、TiC又はTiCNを含むコ−ティングがすでに施され、それらの最上層に前記硬質被覆膜が施されてた請求項1記載の潤滑硬質膜被覆ドリルも同様の効果を挙げることができる。
【0008】
【実施例】
〔実施例1〕ドリルのランド幅/溝幅の比率が1.3である高速度鋼製φ6ドリルに、イオンプレ−ティングによりCrNxの上にCrOyを各々2.3μm及び0.3μm成膜し、エマルジョンを使用して純銅の切削を行った。成膜した被膜の成分はCrNxがx=0.7、CrOyがy=1.2の平均組成であった。切削条件は、切削速度:50m/min 、送り速度:0.25mm/r、被削材:純銅 厚み 25m、Through 切削とした。切削による面粗さがRmax=5μmの加工数は、同様の切削条件で、無処理ドリルの2.5倍以上の性能が得られ、CrNxがx=0.7、膜厚2.3μmのCrN被覆と比べても1.5倍以上の性能が得られた。図2にその結果を示す。
【0009】
〔実施例2〕ドリルのランド幅/溝幅の比率が1.8である高速度鋼製φ6ドリルにイオンプレ−ティングによりCrNxの上にCrOyを各々1.5μm及び0.5μm成膜し、エマルジョンを使用してアルミ 6063 の切削を行った。被膜の成分はCrNxがx=0.65、CrOyがy=1.0の平均組成であった。切削条件は、切削速度:150m/min、送り速度:0.15mm/rev、被削材:アルミ 6063 厚み 15mm 、Through 切削とした。切削による面粗さがRmax=10μmの加工数は、同様の切削条件で、無処理ドリルの3.5倍以上の性能が得られ、CrNxがx=0.65、膜厚1.5μmのCrN被覆と比べても1.4倍以上の性能が得られた。図3にその結果を示す。
【0010】
〔実施例3〕ドリルのランド幅/溝幅の比率が1.6である超硬合金製φ4.3ドリルにイオンプレ−ティングによりCrNxの上にCrOyを各々3.5μm及び0.3μm成膜し、油ミスト潤滑を使用してアルミ 5052 の切削を行った。被膜の成分はCrNxがx=0.8、CrOyがy=1.4の平均組成であった。切削条件は、切削速度:150m/min、送り速度:0.15mm/rev、被削材:アルミ 5052 厚み 10mm 、Through 切削とした。切削による面粗さがRmax=3μmの加工数は、同様の切削条件で、無処理ドリルの2.0倍以上の性能が得られ、膜厚3.5μmのTiN被覆ドリルと比べても2.9倍以上の性能が得られた。図4にその結果を示す。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明品と、それより付着力の弱いCrNxの上にCrOyを成膜した試作品の場合の、それぞれのロックウエル圧痕の状態(×100倍)を示す説明図。
【図2】ドリルのランド幅/溝幅の比率が1.3である高速度鋼製φ6ドリルに、イオンプレ−ティングによりCrNxの上にCrOyを各々2.3μm及び0.3μm成膜し、エマルジョンを使用して純銅の切削を行い、これと同様に、膜厚3.5μmのTiN被覆ドリル及び無処理ドリルを使用してアルミ5052の切削を行った、それぞれの穴明け個数を示すグラフ。
【図3】ドリルのランド幅/溝幅の比率が1.8である高速度鋼製φ6ドリルに、イオンプレ−ティングによりCrNxの上にCrOyを各々1.5μm及び0.5μm成膜し、エマルジョンを使用してアルミ 6063 の切削を行い、これと同様に、無処理ドリル及び膜厚1.5μmのCrN被覆ドリルを使用してアルミの切削を行った、それぞれの穴明け個数を示すグラフ。
【図4】ドリルのランド幅/溝幅の比率が1.8である超硬合金製φ4.3ドリルに、イオンプレ−ティングによりCrNxの上にCrOyを各々3.5μm及び0.3μm成膜し、エマルジョンを使用してアルミ 5052 の切削を行い、これと同様に、膜厚3.5μmのTiN被覆ドリル及び無処理ドリルを使用してアルミ5052の切削を行った、それぞれの穴明け個数を示すグラフ。
Claims (2)
- 工具鋼、高速度鋼、又は超硬合金又はサ−メットを含む硬質合金を母材としてなるドリルにおいて、
ドリルのランド幅/溝幅の比が1.2〜2.0の範囲にあり、
ドリルの切れ刃部を含むドリル有効長の一部ないし全部の範囲に0.05μm〜5.0μmのCrNx(原子比で0.3≦x≦1.0、を満足する)よりなる硬質被覆がなされており、
前記硬質被覆の最表層にCrOy(原子比で0.3≦y≦1.5を満足する)で構成されその膜厚が0.01μm〜2.0μmの硬質表層被覆がなされており、
そして
前記硬質表層被覆膜にAスケ−ルロックウエル硬度計を用いて押圧した場合に生ずる圧痕を100倍の倍率で観察した結果が、前記圧痕の外周1mm以上の範囲で膜とドリル母材との間で剥離が認められない、ことを特徴とする潤滑硬質膜被覆ドリル。 - 前記母材にTiN、TiC又はTiCNを含むコ−ティングがすでに施され、それらの最上層に前記硬質被覆膜が施されていることを特徴とする請求項1記載の潤滑硬質膜被覆ドリル。
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JP29198994A JP3645295B2 (ja) | 1994-11-02 | 1994-11-02 | 潤滑硬質膜被覆ドリル |
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Family Applications (1)
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JP29198994A Expired - Lifetime JP3645295B2 (ja) | 1994-11-02 | 1994-11-02 | 潤滑硬質膜被覆ドリル |
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