JP3643872B2 - 酸化物セラミックス複合材料の形成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、セラミックス複合材料の新規な形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
耐摩耗性溶射皮膜の形成法としては、高硬度セラミックス材料を基材上に溶射する方法が、最も簡便である。しかしながら、この方法では、硬質セラミックスのみで構成される低靱性の皮膜が形成されるので、セラミックス本来の優れた耐摩耗性を必ずしも生かし切れないという問題点を有する。
【0003】
一般に、セラミックス材料の様な脆性材料においては、靱性をあげることにより、その硬度(およびそれに相関する耐摩耗性)が向上することが知られており、そのためには、結晶粒径の微細化が有効である。しかしながら、溶射法では、溶射材料を溶融して基材に吹きつけた後、急冷凝固することにより、溶射皮膜を形成させるので、特に高硬度セラミックス材料を溶射材料とする方法では、皮膜中の結晶粒径を制御することは、非常に困難である。また、金属材料と高硬度セラミックス材料との混合材料を使用する方法では、溶射材料中の一次粒子径が小さくなるほど、溶射中の加熱により、硬質相の変質が大きくなり、耐摩耗性を低下させる。この様に、従来の溶射方法では、溶射皮膜中の結晶粒径を制御することおよび/または硬質相の変質を抑制することは、実際上不可能である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、酸化物セラミックス複合材料を形成するに際し、材料中の結晶粒子径を制御することにより、硬度および耐摩耗性に優れたセラミックス複合材料を容易に形成し得る新たな技術を提供することを主な目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、従来技術の問題点に留意しつつ、研究を重ねた結果、それぞれ粒径を制御したAl2O3粉末と特定のセラミックス粉末とを含む造粒セラミックス材料を用いて基材に対する溶射を行った後、形成されたアモルファス(非晶質)の溶射皮膜を特定条件下に熱処理する場合には、粒子径を10nm〜10μmの範囲で制御した結晶を析出・分散し、高硬度で、靱性に優れた溶射皮膜が得られることを見出した。
【0006】
さらに、上記の手法により得られた溶射皮膜を基材から剥離することにより得られるシート状などの溶射堆積物を上記と同様にして熱処理する場合には、やはり粒子径を制御した結晶を析出・分散し、高硬度で、靱性に優れた新規な材料が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、下記の酸化物セラミックス複合材料の形成方法を提供する。
1.酸化物セラミックス複合材料の形成方法において、セラミック材料を用いる溶射法により形成した複酸化物非晶質材料を熱処理して、複数種の結晶粒子を析出させることを特徴とする酸化物セラミックス複合材料の形成方法。
2.セラミック溶射材料が、それぞれ粒径1μm以下の微粉末である(1) Al2O3と(2) Y2O3、ZrO2、Gd2O3およびEr2O3から選ばれた少なくとも1種とから得られた造粒物である上記項1に記載の複合材料の形成方法。
3.セラミック溶射材料の組成が、各々の共晶組成±10wt%(Al2O3基準)である上記項1〜2のいずれかに記載の複合材料の形成方法。
4.結晶粒子析出のための熱処理を800℃以上かつ構成成分の共晶温度未満で行う上記項1〜3のいずれかに記載の複合材料の形成方法。
5.熱処理を900〜1400℃で行う上記項4に記載の複合材料の形成方法。
6.結晶粒径を10nm〜10μmの範囲で制御する請求項1〜5のいずれかに記載の複合材料の形成方法。
7.複合材料が、基材上に皮膜として存在する上記項1〜6のいずれかに記載の複合材料の形成方法。
8.複合材料が、基材から分離された単一材料である上記項1〜6のいずれかに記載の複合材料の形成方法。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明方法において、セラミック材料の溶射堆積層の支持体となるべき基材(被溶射体)は、溶射が可能である限り、特に限定されない。この様な基材としては、公知の被溶射体である金属、セラミックスなどが例示される。また、冷却操作を必要とするが、プラスチック、布帛、紙などを支持体として使用することも可能である。
【0009】
本発明による複合材料は、用途に応じて、種々の形態とすることができる。例えば、高温で使用されるタービン用部品、ジェットエンジン用部品などの表面に耐熱性皮膜として形成することができる。
【0010】
或いは、本発明による複合材料は、平板基材上に堆積された溶射層を基板から分離することにより、板状或いはシート状材料として形成することもできる。
【0011】
或いは、本発明による複合材料は、所定形状の部品に対応する形状を有する型内にセラミック材料を溶射した後、溶射堆積物を型から分離することにより、所望の部品の形態で得ることもできる。
【0012】
溶射材料は、Al2O3粒子とY2O3、ZrO2、Gd2O3およびEr2O3から選ばれた少なくとも1種の粒子とを組み合わせたセラミック材料粒子とからなる造粒物である。これらのセラミック材料の各粒子は、通常粒径1μm以下であり、操作性に劣る。本発明においては、溶射材料の取り扱い性を改善し、かつ均質で安定した材料を形成させるために、これら材料の粒子を各々の組み合わせにおける共晶組成もしくはその±10mol%Al2O3以内となる共晶近傍の組成で混合し、造粒することにより、溶射材料とする。例えば、Y2O3-Al2O3系(共晶組成:Al2O3=79mol%、共晶点温度:1820℃)を使用する場合の組成比は、Al2O3=79±10mol%とし、残余をY2O3とする。
【0013】
ZrO2-Al2O3系(共晶組成:Al2O3=62mol%、共晶点温度:1710℃)を使用する場合の組成比は、Al2O3=62±10mol%とし、残余をZrO2とする。
【0014】
Gd2O3-Al2O3系(共晶組成:Al2O3=78mol%、共晶点温度:1760℃)を使用する場合の組成比は、Al2O3=78±10mol%とし、残余をGd2O3とする。
【0015】
Er2O3-Al2O3系(共晶組成:Al2O3=80±10mol%、共晶点温度:1885℃)を使用する場合の組成比は、Al2O3=80±10mol%とし、残余をEr2O3とする。
【0016】
造粒物の粒径は、通常20〜100μm程度であり、好ましくは25〜70μm程度である。溶射材料は、常法に従って、セラミック材料粉末をバインダーとともにスラリー化し、スプレードライする方法などにより、造粒することができる。
【0017】
基材に対する上記溶射材料の溶射手法は、基材上に溶射皮膜或いは溶射堆積層を形成出来る限り限定されない。溶射法としては、公知の減圧プラズマ溶射法、常圧プラズマ溶射法、高周波誘導プラズマ法、フレーム溶射法などが例示される。溶射時の雰囲気は、基材の種類などに応じて、不活性雰囲気(Ar、N2など)、大気雰囲気などとすることができる。これらの溶射法の中では、減圧プラズマ溶射法がより好ましい。
【0018】
上記の様な溶射操作により、基材上に所定の厚さで非晶質(アモルファス)の溶射皮膜或いは溶射堆積層を形成させることができる。次いで、この溶射皮膜を或いは基材から分離した溶射堆積物を800℃以上かつ共晶温度未満(より好ましくは、900〜1400℃程度)で所定の時間熱処理することにより、α-Al2O3と複酸化物とが結晶化する。熱処理時間は、溶射皮膜を設けた基材の組成と用途、溶射堆積物の組成と用途などに応じて、適宜選択することが出来る。この熱処理時には、温度と時間とを適切に選択することにより、溶射皮膜或いは溶射堆積物中に形成される結晶粒子径を10nm〜10μm程度の範囲で制御することが可能である。一般に、低温度域で熱処理を行う場合には小さな粒径での制御が容易となり、高温度域で熱処理を行う場合には大きな粒径が短時間で形成される。
【0019】
この熱処理により、溶射皮膜中或いは溶射堆積物中にそれぞれの組成に応じた結晶粒子が析出する。
【0020】
【発明の効果】
一般に、溶射皮膜(溶射堆積物についても同様)の硬度および耐摩耗性は、分散した粒子の径が小さいほど向上する。換言すれば、溶射皮膜の機械的特性は、その結晶粒径に大きく依存する。本発明によれば、溶射皮膜或いは溶射堆積物中の結晶粒子径の制御が容易となるので、要求される特性に応じた材料設計が可能となり、過酷な環境にさらされる部材の耐久性・性能の向上につながる。
【0021】
例えば、本発明により耐熱性基材上に溶射皮膜として形成されるAl2O3/Y3Al5O12共晶複合材料は、高温での曲げ強さ、クリープ特性などに優れているので、高効率発電タービン、ジェットエンジンなどの高温部材における皮膜として、極めて有用である。
【0022】
また、所定形状の型内に溶射することにより堆積物の形態で得られるAl2O3/Y3Al5O12共晶複合素材は、必要に応じ仕上げ加工された後、それ自体耐熱性、耐摩耗性などに優れた構造部品として有用である。
【0023】
【実施例】
実施例1
予めスプレードライ法により調製したAl2O3-Y2O3造粒粉末(モル比でAl2O3:Y2O3=8:2、粒径=25〜63μm)を溶射材料として用いて、減圧プラズマ溶射法(溶射ガン:“F4MB”、Sulzer Metco社製)により、基材としての耐熱鋼表面に溶射皮膜を形成した後、基材から溶射皮膜を剥離した。次いで、得られた溶射皮膜試料(SA)或いはSAをさらに大気中所定の温度(1000℃、1200℃および1400℃)で24時間熱処理した後、各試料(SA、S10、S12およびS14)について、各種の評価を行った。
【0024】
なお、実施例1および比較例1における溶射条件は、いずれも下記表1に示す通りである。
【0025】
【表1】
図1は、溶射しただけの剥離皮膜試料(SA)および溶射後に熱処理した本発明による剥離皮膜試料3種(S10=1000℃処理、S12=1200℃処理、S14=1400℃処理)のX線回折図を示す。
【0026】
図1から明らかな様に、溶射のみにより得られた試料SAでは、結晶相のピークは、殆ど認められず、アモルファス構造であることを示している(小さなピークは、α-Al2O3によるものと推測される)。熱処理温度が高くなるに従って、各形成相のピークが大きくなっている。より詳細には、溶射後に1000℃で熱処理した試料S10において、すでにα- Al2O3とY3Al5O12(ガーネット)の生成が始まっていることが明らかである。さらに、溶射後に1200℃で熱処理した試料S12および溶射後に1400℃で熱処理した試料S14においては、α-Al2O3とY3Al5O12のピークが大きくなる以外は、新たな結晶相の析出などは全く見られなかった。
【0027】
図2〜4は、試料SA、S12およびS14のSEMによる断面組織写真を電子的に処理した画像データを示す図面である。図2から明らかな様に、ラメラ毎に濃淡が見られることから、試料SA全体ではアモルファスになっているものの、ラメラ毎に組成が異なっていることがわかる。また、図3からは、S12では、マトリックス(Y3Al5O12と思われる)中に粒径100nm程度のα-Al2O3(黒い粒子)が微細に分散している様子が観察された。図4からは、試料S14では、α-Al2O3が粒径1μm程度にまで大きく成長していた。
比較例1
Al2O3-Y2O3混合粉末(モル比でAl2O3:Y2O3=8:2、粒径=25μm)を溶射材料として用いる以外は実施例1と同様にして、各種の剥離皮膜試料(熱処理なし=MA;熱処理温度1000℃=M10、熱処理温度1200℃=M12および熱処理温度1400℃=M14)を調製した。
【0028】
図5は、比較例1による試料MA、M10、M12およびM14のX線回折図を示す。図5から明らかな様に、溶射のみで得られた試料MAは、主にγ-Al2O3とY2O3とにより構成されていること、および溶射後に1000℃で熱処理した試料M10においても、大きな変化が認められないことが明らかである。溶射後に1200℃で熱処理した試料M12においては、γ-Al2O3がα-Al2O3へと変態し、また、Y3Al5O12(ガーネット)の生成が始まっている。溶射後に1400℃で熱処理した試料M14においては、α-Al2O3とY3Al5O12とが大きく成長するとともに、Y2O3のピークが非常に小さくなっている。
【0029】
図6〜図9は、比較例1による試料MA、M10、M12およびM14のSEMによる断面組織写真を電子的に処理した画像データを示す図面である。図6から明らかな様に、熱処理を行わない試料MAでは、Al2O3(図中の黒色部分)とY2O3 (図中の白色部分)とが積層した構造となっている。さらに、図7〜図9から明らかな様に、熱処理を行った試料M10、M12およびM14では、Al2O3とY2O3との界面での反応により、YAGが生成するが、組織としては、熱処理前の積層構造に大きな変化は認められない。これらの観察結果は、図5に示すX線回折の結果とも良く一致している。
参考例1
図10は、実施例1による溶射皮膜試料SA、S10およびS12ならびに比較例1による溶射皮膜試料MA、M10およびM12の硬度を対比して示すグラフである。本発明による試料S10およびS12は、熱処理により硬度が大幅に改善されていることが明らかである。
実施例2
予めスプレードライ法により調製したAl2O3-ZrO2造粒粉末(モル比でAl2O3:ZrO2=38:62、粒径=25〜63μm)を溶射材料として用いる以外は実施例1と同様にして、剥離皮膜試料を調製した。
【0030】
得られた試料は、Al2O3-Y2O3材料と同様の良好な特性を発揮した。
実施例3
予めスプレードライ法により調製したAl2O3-Gd2O3造粒粉末(モル比でAl2O3: Gd2O3=22:78、粒径=25〜63μm)を溶射材料として用いる以外は実施例1と同様にして、剥離皮膜試料を調製した。
【0031】
得られた試料は、Al2O3-Y2O3材料と同様の良好な特性を発揮した。
実施例4
予めスプレードライ法により調製したAl2O3-Er2O3造粒粉末(モル比でAl2O3: Er2O3=20:80、粒径=25〜63μm)を溶射材料として用いる以外は実施例1と同様にして、剥離皮膜試料を調製した。
【0032】
得られた試料は、Al2O3-Y2O3材料と同様の良好な特性を発揮した。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1で得られた各試料のX線回折図である。
【図2】実施例1で得られた試料SAのSEMによる断面組織写真を電子的に処理した画像データを示す図面である。
【図3】実施例1で得られた試料S12のSEMによる断面組織写真を電子的に処理した画像データを示す図面である。
【図4】実施例1で得られた試料S14のSEMによる断面組織写真を電子的に処理した画像データを示す図面である。
【図5】比較例1で得られた各試料のX線回折図である。
【図6】比較例1で得られた試料MAのSEMによる断面組織写真を電子的に処理した画像データを示す図面である。
【図7】比較例1で得られた試料M10のSEMによる断面組織写真を電子的に処理した画像データを示す図面である。
【図8】比較例1で得られた試料M12のSEMによる断面組織写真を電子的に処理した画像データを示す図面である。
【図9】比較例1で得られた試料M14のSEMによる断面組織写真を電子的に処理した画像データを示す図面である。
【図10】実施例1による溶射皮膜試料SA、S10およびS12ならびに比較例1による溶射皮膜試料MA、M10およびM12の硬度を対比して示すグラフである。
Claims (5)
- 酸化物セラミックス複合材料の形成方法において、それぞれ粒径1μm以下の微粉末である (1)Al 2 O 3 と (2) Y 2 O 3 、 ZrO 2 、 Gd 2 O 3 および Er 2 O 3 から選ばれた少なくとも 1
種とから得られた造粒物であって、各々の共晶組成± 10wt%(Al 2 O 3 基準 ) の組成を有するセラミック材料を用いる溶射法により形成した複酸化物非晶質材料を、 800 ℃以上かつ構成
成分の共晶温度未満で熱処理して、複数種の結晶粒子を析出させることを特徴とする酸化物セラミックス複合材料の形成方法。 - 熱処理を900〜1400℃で行う請求項1に記載の複合材料の形成方法。
- 結晶粒径を10nm〜10μmの範囲で制御する請求項1又は2に記載の複合材料の形成方法。
- 複合材料が、基材上に皮膜として存在する請求項1〜3のいずれかに記載の複合材料の形成方法。
- 複合材料が、基材から分離された単一材料である請求項1〜3のいずれかに記載の複合材料の形成方法。
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