JP3641918B2 - 電力需要量予測値補正方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種電力系統における中央給電指令所または地方給電指令所、系統制御所等において、系統制御用計算機または汎用電子計算機により得た電力需要量の予測値を補正する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
電力系統における例えば翌日の電力需要量(日負荷曲線)の予測作業は、熟練運用者の経験と直感的知識により行われていることが多く、そのほぼすべての作業を手作業に頼っている。
このため、予測作業を自動化するものとして、電力系統内の代表地点の気象情報等を用いた重回帰分析に代表される統計的手法により、またはニューラルネットワークを用いて予測する方法が近年提案され、確立されつつある。
【0003】
これらの方法による予測値を更に高精度化させるために、電力需要量の伸びを補正する方法が大別して二つある。その一方は電力需要量の年増加分を大きく補正する方法であり、他方は予測対象日至近の増減傾向を反映させるために行う細かな補正である。
【0004】
前者の年増加分の補正は、主にニューラルネットワークの補正に用いられる。ニューラルネットワークは、学習に用いた年度相当にしか出力できないため、電力需要量の年増加分を補正しなくてはならない。従来、この年増加分の補正に用いる補正係数としては、春季・秋季等の冷暖房需要を含まない季節における需要量の伸びから機械的に求めた係数(基本年増加係数)を用いていた。
一方、回帰式による予測方法の場合には、過去の電力需要量の伸びに応じて出力が線形的に増えるため、上述したような年増加分の補正処理は不要となる。
しかるに、ニューラルネットワーク、回帰式いずれの方法でも、猛暑や冷夏のように予測年の気象が特異な場合や、いわゆるバブル崩壊等により経済状況が変わったときには、良好に予測することが困難である。
【0005】
このような予測年の気象や経済状況の変化に対応するために、予測モデルの出力と予測対象日至近の実績値との誤差からより詳細な補正係数(年増加係数)を求め、この係数を用いて補正する方法もある。実際には、一日ごとの誤差はその格差が大きいことから、数日間の移動平均等の方法により年増加係数を求めている。
しかし、この方法においても、気温感応度が急激に変化するときには追随できない場合があり、線形的な補正しかできなかった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
電力系統を運用するためには厖大な専門的知識が必要であるが、近年では、この知識を有する熟練運用者が特に減少の一途をたどっている。一方、電力需要量、特に日最大電力需要量の予測は、系統運用の基盤とも言うべき発電計画立案の基礎となるものであり、その予測精度の向上と自動化が切望されている。
過去の実績値から構築した予測モデルによる予測値を基本年増加係数により補正する方法は、基本的に過去の電力需要量の伸びに従っているため、異常気象や経済状況の急変、気温感応度の変化に対し的確に追随することはできなかった。また、予測対象日至近の予測誤差から年増加係数を求める方法でも、気温感応度が急激に変わるときには追随できないことがあった。
更に、従来の方法は基本的に補正係数を予測モデルの出力値に乗じて補正するので線形的な補正となり、補正係数が正確であったとしても予測モデルが非線形性の強い電力需要を正確に表現しきれていない場合には、その予測精度に限界があった。
【0007】
これらの問題を解決するために、本発明者は特願平9−26226号として、ニューラルネットワークを用いた電力需要量予測値補正方法を提案した。
しかしこの方法においても、電力需要の特性によっては良好な補正が行われない場合がある。
そこで本発明は、多様な電力需要特性に対応して年増加補正を良好に行なうことにより、電力需要量の予測精度を更に向上させるようにした電力需要量予測値補正方法を提供しようとするものである。
【0008】
まず、先の特願平9−26226号における請求項1の発明は、計算機により、過去の電力需要量の実績値や気象データに基づいて構築した予測モデルを用いて予測対象日の電力需要量を予測する方法において、予測対象日よりも前の一定期間の予測モデルの出力、電力需要量の実績値、気象データを用いて学習した補正用ニューラルネットワークにより、予測モデルの出力を補正するものである。また、請求項2記載の発明は、上記請求項1記載の電力需要量予測値補正方法において、基準日に対する電力需要量の比率が一定値以上の日を、補正用ニューラルネットワークの学習対象日として選択するものである。請求項3記載の発明は、上記請求項1または2記載の電力需要量予測値補正方法において、補正用ニューラルネットワークの学習対象期間を、電力需要量の変化特性に応じて変化させるものである。例えば、ある期間内に電力需要量が単調に増加または減少している場合には学習対象期間を比較的短期間とし、電力需要量が増加した後に減少して過去のある時期とほぼ同一の値になるような場合には比較的長期間に設定する。更に、請求項4記載の発明は、上記請求項1,2または3記載の電力需要量予測値補正方法において、予測対象日における予測モデルの出力が補正用ニューラルネットワークの学習時の範囲内である場合には補正用ニューラルネットワークのみにより予測モデルの出力を補正し、予測対象日における予測モデルの出力が補正用ニューラルネットワークの学習時の範囲外である場合には、いわゆる外挿と判断して他の方法(例えば補正用ニューラルネットワークによる補正と他の手法による補正との組み合わせ)により、予測モデルの出力を補正するものである。
【0009】
すなわち、特願平9−26226号では、ニューラルネットワークからなる予測モデルによって予測した電力需要量を、年増加補正用ニューラルネットワークにより補正している。しかるに、ニューラルネットワーク自体の課題として、入出力データの正規化範囲内の出力しか得られないという性質がある。つまり、ニューラルネットワークが学習したデータの範囲内であれば、良好な出力を得ることができるが、学習したデータの範囲外(外挿)については、適切な出力が得られない。
【0010】
従って、特願平9−26226号の例えば請求項1の発明は、年増加補正用ニューラルネットワークの出力(年増加分補正用の係数、年増加分の絶対量、電力需要量の予測値そのもの等)が比較的一定である場合には十分な効果を得ることができるものの、これらの出力が増加または減少傾向にあるときには年増加補正用ニューラルネットワークが外挿となり、良好な補正を行うことができない。
その場合の対策として、特願平9−26226号では、請求項4の発明により、外挿時には他の手法により年増加補正を行うようにしており、この方法は、根本的にはニューラルネットワークの外挿を防ぐことによって解決可能な問題である。
そこで本発明は、上記特願平9−26226号の拡張、改良として、年増加補正用モデルとして重回帰式を用いる方法(請求項1,2)、ニューラルネットワークを用いる場合の改良方法(請求項3,4)を提供しようとするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、計算機により、過去の電力需要量の実績値や気象データに基づいて構築した予測モデルを用いて予測対象日の電力需要量を予測する方法において、予測対象日よりも前の一定期間の予測モデルの出力、電力需要量の実績値、気象データを用いて構築された重回帰式により、予測モデルの出力を補正する電力需要量予測値補正方法であって、重回帰式を構築するためのサンプルデータを、基準日に対する電力需要量の比率が一定値以上である日のサンプルデータとしたものである。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の電力需要量予測値補正方法において、重回帰式を構築するためのサンプルデータを収集する期間を、電力需要量の特性変化に応じて変化させるものである。
【0014】
請求項3記載の発明は、計算機により、過去の電力需要量の実績値や気象データに基づいて構築した予測モデルを用いて予測対象日の電力需要量を予測する方法であって、予測対象日よりも前の一定期間の予測モデルの出力、電力需要量の実績値、気象データを用いて学習した補正用ニューラルネットワークにより、予測モデルの出力を補正する電力需要量予測値補正方法において、補正用ニューラルネットワークの学習タイミングごとの電力需要量及び気象データの変化傾向に基づいて決定される補正用ニューラルネットワークの正規化範囲を、予測モデルの正規化範囲に対して異ならせたものである。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項3に記載した電力需要量予測値補正方法において、電力需要量及び気象データの変化傾向を過去の複数年のデータから求めるものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、図に沿って本発明の参考形態及び実施形態を説明する。まず、本発明の参考形態を述べる。図1は、この参考形態における予測モデル及び年増加補正用ファジィ推論モデルの相互関係を示すもので、10は回帰式またはニューラルネットワーク(NN)により構成された予測モデル、20は予測モデル10の出力を補正するための年増加補正用ファジィ推論モデルである。なお、予測モデル10には、気象予報から得られる予測対象日の最高・最低気温、予測対象日至近の一定期間の気象データや電力需要量の実績値等が入力され、予測モデル10はこれらの入力データを用いて予測対象日の電力需要量を予測する。
【0020】
年増加補正用ファジィ推論モデル20は、予測モデル10の出力や、必要に応じて入力データの一部(最高・最低気温等)を用いて構築する。このモデル構築は、一般的には試行錯誤的に行われているが、例えば遺伝的アルゴリズム、ニューラルネットワーク等の技術を適用し、自動的に構築及び調整を行うことも可能である。自動的に構築及び調整を行う場合には、予測対象日至近の一定期間、または、予測開始時から予測対象日至近までの全期間のデータを用いる。ここで、ファジィ推論モデル20を自動的に構築する方法は本発明の要旨ではないため、詳述を省略する。
このように補正をファジィ推論モデルを用いて行うことにより、年増加分の補正に留まらず、予測モデルが表現しきれなかった非線形分も表現することができる。また、外挿時にも良好な補正を行えるようにメンバシップ関数を構築することができる。
【0021】
図2は、上記一連の処理を示すフローチャートであり、年増加補正用ファジィ推論モデル20の構築ステップ(S11)、入力データを用いた予測モデル10による予測ステップ(S12)、年増加補正用ファジィ推論モデル20により、予測モデル10の出力や入力データの一部(最高・最低気温等)を用いて予測モデル10の出力を補正する補正ステップ(S13)からなっている。
ここで、年増加補正用ファジィ推論モデル20が出力する値は、年増加分補正用の係数、年増加分の絶対量、電力需要量の予測値そのもの等である。
【0022】
(参考例)
次に、本参考形態の参考例を説明する。この参考形態では、予測モデル10として、前年から過去5年分の気象データや電力需要量の実績値を用いて学習させたニューラルネットワークを用いた。年増加補正用ファジィ推論モデル20は、前年相当の電力需要量で出力される予測モデル10の出力値を、予測対象年相当に補正するために用いられる。
【0023】
以下にファジィ推論モデル20の例を示す。
この例では、ファジィ推論モデル20の入力情報として、予測対象日至近の予測モデルの出力誤差(例えば、過去1週間の予測モデルの出力誤差の平均値)と予測対象日の最高気温とを用いている。また、ファジィ推論モデル20の出力情報は年増加分補正用の係数である。従って、予測モデル10の出力値にファジィ推論モデル20の出力値を乗算すれば最終的な電力需要量予測値を得ることができる。
更に、この例では、図3(a),(b)に示す如くファジィ推論の入力情報が2変数でそれぞれ3つのメンバシップ関数から構成されているため、下記のように9種類の年増加補正用ルール1〜9を構築する。
なお、電力需要と気象条件との相関が異なるとルールを変更する必要があるから、この年増加補正用ルールは季節ごとに構築する必要がある。ここでは、夏季の例を示してある。
また、年増加補正用ルールの構成とメンバシップ関数のパラメータは、遺伝的アルゴリズム(GA)、ニューラルネットワーク等により自動的に構築、調整することも可能である。
【0024】
【0025】
次に、請求項1に記載した発明の実施形態を説明する。前述したように、この発明は特願平9−26226号の請求項1の発明における年増加補正用ニューラルネットワークを重回帰式に置き換えることにより、年増加補正手段を改良したものである。すなわち、図4に示すように、予測モデル10の出力を補正するための重回帰式30を構築する。この年増加補正用重回帰式30は、図1と同様に予測モデル10の出力や、必要に応じて入力データの一部(最高・最低気温等)を用いて構築する。重回帰分析を行うためのサンプルデータとしては、予測対象日至近の一定期間、または、予測開始時から予測対象日至近までの全期間のデータを用いる。年増加補正を重回帰式30によって構築することにより、多変数の相関関係を線形近似することができるため、特願平9−26226号の請求項1の発明の如く年増加補正用ニューラルネットワークを用いる場合には外挿となる場合でも、本発明では外挿とならないため、良好な補正が可能になる。
【0026】
図5は、上記一連の処理を示すフローチャートであり、年増加補正用重回帰式30の構築ステップ(S21)、入力データを用いた予測モデル10による予測ステップ(S22)、年増加補正用重回帰式30により、予測モデル10の出力や入力データの一部(最高・最低気温等)を用いて予測モデル10の出力を補正する補正ステップ(S23)からなっている。
ここで、年増加補正用重回帰式30が出力する値は、年増加分補正用の係数、年増加分の絶対量、電力需要量の予測値そのもの等である。
【0027】
予測モデル10としては、過去5年分の気象データや電力需要量の実績値を用いて学習させたリカレントネットワーク等のニューラルネットワークを用いることができる。
なお、リカレントネットワークは、周知のようにフィードバック結合を含むニューラルネットワークであり、1ステップ前の情報をネットワーク内に持つことで、電力需要量等の時系列データの把握に有用なものである。
【0028】
上述した例では、重回帰分析のサンプルデータの対象期間が休日を含む全日の場合も含んでいる。このように休日を含む全日を対象期間とした場合には、一般に休日には電力需要量が減少するため、平日のみの場合に比べて良好に学習することができず、精度が上がらない場合がある。
また、平日であっても飛び石連休のなか日であったり、大型連休の前日や直後の日など、電力需要量が通常の平日に比べて極端に異なる日がある。
従って、予測精度を向上させるために、これらの特異日の異常データを重回帰分析のサンプルデータから排除(スクリーニング)することが必要である。
【0029】
そこで、上述した特異日以外の通常の平日を基準日とし、この基準日の電力需要量に対する対象期間内のそれぞれの日の電力需要量の比率を求め、この比率が一定値に達しない日を特異日として、重回帰分析のサンプルデータの対象日から除外するようにした。
すなわち、サンプルデータの対象期間を平日とした場合でも、単に暦の上の平日を対象日とするのではなく、上記比率を計算してその値が一定値以上の日のみを重回帰分析のサンプルデータの対象日とするものである。
【0030】
この実施形態における処理のフローチャートは図6に示すとおりであり、サンプルデータの対象期間内のそれぞれの日の比率を求めるステップ(S31)と、この比率が一定値以上の日を対象日として選択するステップ(S32)とが、ステップS21の前段に追加されている。ステップS21では、この比率が一定値以上である対象日のサンプルデータを用いて、前記同様に年増加補正用重回帰式30を構築する。
【0031】
次いで、請求項2に記載した発明の実施形態を説明する。この発明は、特願平9−26226号の請求項3の発明を改良したものである。
すなわち本発明は、年増加補正用重回帰式30に対するサンプルデータの対象期間を、電力需要量の変化特性に応じて調整するものであり、上記特性としては電力需要量の値自体、または気象条件を用いる。
【0032】
本実施形態におけるサンプルデータの対象期間の調整概念を図7、図8を参照しつつ説明する。
図7のように電力需要量が単調に増加または減少している場合(例えば、日一日と電力需要量が徐々に増加または減少していく春季・秋季等)には、これとは傾向の異なる古いデータは学習精度を悪化させるおそれがある。従って、この場合には、予測対象日を基準として対象期間をある程度短くした方が、至近データの傾向を強く反映させることができる。
一方、図8に示すように、電力需要量が増加から減少に転じて以前とほぼ同様な値を示す場合(例えば、季節の始めと終わりで電力需要量がほぼ等しくなる夏季・冬季等)に対象期間を短く制限すると、過去の電力需要量の傾向を学習に反映させることができない。従ってこの場合には、対象期間を長くする方が良好な学習を行える。
【0033】
そこで、本発明では、電力需要量の変化傾向を判断して最適な対象期間を設定することにより、年増加補正用重回帰式30の学習精度、補正精度ひいては全体的な予測精度を向上させようとするものである。
図9はこの実施形態における処理を示すフローチャートであり、電力需要量の変化傾向を判断するステップ(S41)と、その傾向に応じて重回帰分析のサンプルデータの対象期間を決定するステップ(S42)とが、図5におけるステップS21または図6におけるステップS31の前段に追加されている。
【0034】
図9のステップS41では、ある一定期間内の電力需要量の変化傾向を判断する。つまり、電力需要量が単調に増加・減少しているか、増加から減少に移行しているか、または減少から増加に移行しているか等を判断する。
具体的判断方法としては種々考えられるが、需要量の変化を微分量として検出する方法等がある。また、電力需要量と気象、季節は密接な関係があるので、気象条件から判断する方法、予測時期が属する季節から判断する方法等が考えられる。
【0035】
図9のステップS42では、ステップS41で判断した傾向に従って重回帰分析のサンプルデータの対象期間を適切に設定する。適切な対象期間は、地域や予測年など様々な要因によって異なるが、一つの目安として以下の方法がある。
すなわち、電力需要量が単調に増加・減少している時には対象期間を一定にする。電力需要量が増加から減少、または減少から増加に移行している時には、対象期間を季節始めから予測対象日至近までというように延長する。
【0036】
次に、年増加補正用ニューラルネットワークの外挿問題を回避するための手段を説明する。通常のシグモイド関数を持つニューラルネットワークにおいて、外挿となる場合には、出力層ニューロンへの入力がいくら大きくなっても出力層の出力値、すなわちニューラルネットワークの出力値は変化しない。しかし、この出力層ニューロンの伝達関数を線形関数とすることにより、入力の変化に応じて出力値を変化させることができる。
【0037】
(実施例)
本実施形態の実施例を、図10を参照して説明する。図10は、年増加補正用ニューラルネットワークの構成を示しており、入力層41、中間層42及び出力層43から構成されている。入力層41には予測モデル10の出力値と、最高気温・最低気温が入力されており、出力層43からは年増加補正後の電力需要量予測値が出力される。中間層42のニューロンの伝達関数はy=1/{1+exp(−x)}で表される非線形のシグモイド関数、出力層43のニューロンの伝達関数はy=ax+bで表される線形関数となっている。
このように構成することにより、入出力の非線形関係を保持しながら、年増加補正用ニューラルネットワークの学習範囲外の値を出力することができ、外挿問題を回避することが可能になる。
【0038】
次に、請求項3に記載した発明の実施形態を説明する。この発明は、特願平9−26226号の請求項1の発明を、ニューラルネットワークの正規化範囲を利用することにより改良したもので、ニューラルネットワークの外挿問題の回避を目的としてなされたものである。
一般的には、ニューラルネットワークに学習、想起させるデータは、全てのデータが0〜1の範囲の値となるように正規化される。また、想起時にある程度外挿が予想される場合には、0.1〜0.9のような正規化範囲をとることもある。
本発明では、過去の実績データを用いて構築した予測モデルによって電力需要量を予測し、年増加補正用ニューラルネットワークにより年増加分の補正を行う方法において、年増加補正用ニューラルネットワークの正規化範囲を、予測モデルのニューラルネットワークの正規化範囲と異なるように構築することで、ニューラルネットワークの役割を明確にし、予測精度の向上を図ろうとするものである。例えば、予測モデルの正規化範囲を通常の0〜1としておき、年増加補正用ニューラルネットワークの正規化範囲を0.2〜0.8のように狭くするものである。
【0039】
(実施例)
本実施形態の実施例を、図11を参照して説明する。図11は、予測モデル及び年増加補正用ニューラルネットワークの正規化範囲を示しており、上述のように、予測モデルの正規化範囲が0〜1、年増加補正用ニューラルネットワークの正規化範囲が0.2〜0.8となっている。
シグモイド関数は0.0〜1.0の範囲でしか出力し得ないので、学習データの最小値が0、最大値が1となるように正規化した場合には、学習したデータを超える値は出力されない。しかし、例えば学習データの最小値が0.2、最大値が0.8となるように正規化すれば、学習範囲外のデータについてもある程度出力可能となり、外挿問題を回避することができる。
【0040】
次いで、本実施形態において、年増加補正用ニューラルネットワークの適切な正規化範囲を自動的に算出する方法を述べる。
【0041】
図12は本発明の実施形態における処理を示すフローチャートであり、年増加補正用ニューラルネットワークの出力データの傾向を計算するステップ(S71)と、補正用ニューラルネットワークの入力データの傾向を計算するステップ(S72)と、正規化範囲を自動的に計算するステップ(S73)とを有する。
ステップS71では、補正用ニューラルネットワークの学習タイミングごとに、前回の学習タイミングまでの出力データ(電力需要量データ)の傾向を算出する。電力需要量データの傾向としては、平均や一次式等が考えられる。
次のステップS72では、上記ステップS71と同様に、気象データについて同様の計算を行う。
最後のステップS73では、ステップS71,S72により計算された値から、補正用ニューラルネットワークの正規化範囲を決定する。具体的には、電力需要量データの傾向を示す値として今回計算された値と前回計算された値との比率を求める。また、同様にして気象データの傾向を示す値についても、今回計算された値と前回計算された値との比率を求める。
これらの比率を学習データの最小値または最大値に乗算し、仮想的な最小値、最大値を作成すると共に、これらの仮想的な最小値、最大値を用いて補正用ニューラルネットワークを正規化する。
【0042】
(実施例)
以下、本実施形態の実施例を説明する。
(1)補正用ニューラルネットワークの出力データ傾向計算(S71)
補正用ニューラルネットワークの学習タイミングが1週間ごとであるとすると、ステップS71では、過去1週間分の電力需要量データの傾向を算出する。例えば、毎週日曜日に補正用ニューラルネットワークの学習が行われていれば、金曜日〜月曜日までの5日分の平日の電力需要量Pの平均値avgP(i)を算出する。ここで、iは週の順を示す。従って、avgP(i)の計算時点では、avgP(i−1)以前のデータも計算されており、利用可能ということになる。
【0043】
(2)補正用ニューラルネットワークの入力データ(気象データ)傾向計算(S72)
上記ステップS71と同様に、気象データについて同様の計算を行う。例えば、電力需要量に対し最も相関の高い最高気温について、前週の金曜日〜月曜日までの5日分の平日の最高気温Tの平均値avgT(i)を計算する。
【0044】
(3)正規化範囲計算(S73)
ステップS71,S72により計算された、傾向を示す値を用いて、補正用ニューラルネットワークの正規化範囲を決定する。
まず、電力需要量の平均値を用いて、前回の補正用ニューラルネットワークの学習時点から現在までの電力需要量の変動値(rateP(i))を計算する。ここでは、以下の数式のように、rateP(i)を電力需要量平均値の前週と今週との比率として算出する。
rateP(i)=avgP(i)/avgP(i−1)
同様に、気象データについても、以下の数式により変動値(rateT(i))を計算する。
rateT(i)=avgT(i)/avgT(i−1)
【0045】
ここで、rateP(i),rateT(i)がそれぞれ1.2,1.1であったとすると、今週の電力需要量は前週の1.2倍、今週の最高気温は前週の1.1倍になっていることになる。従って、来週についても、同様の比率で増加すると考えて、以下の計算を行う。
補正用ニューラルネットワークの学習データに関して、まず、出力値すなわち年増加補正後の電力需要量の最小値が18000〔MW〕、最大値が20000〔MW〕であったとすると、来週の電力需要量の最大値は20000〔MW〕の1.2倍の24000〔MW〕になる可能性があることになる。この場合では、電力需要は増加傾向であるため、最大値側のみを考えればよい。従って、最小値としての18000〔MW〕が0に、最大値としての24000〔MW〕が1になるように正規化を行う。
補正用ニューラルネットワークの学習データの入力値についても、同様に最高気温の変化傾向に基づいて正規化範囲を決定する。
また、電力需要量、最高気温などが減少傾向にある場合には、上記のrateP(i),rateT(i)はいずれも1未満の値となる。この場合には、本来の学習データの最小値にrateP(i),rateT(i)を乗算して正規化すればよい。
【0046】
最後に、請求項4に記載した発明の実施形態を説明する。この発明は、請求項3による正規化範囲の決定の実効を期すためのものである。
すなわち、請求項3の発明では、予測対象日の至近のデータを用いて年増加補正用ニューラルネットワークの正規化範囲を決定しているが、予測対象日の至近に長期休日等がある場合には、電力需要量の平均値や比率が適切な値とは言えない可能性もある。
そこで請求項4記載の発明では、前年または過去数年の同時期のデータを用いて正規化範囲を決定することにより、予測対象日の至近のデータのみを用いて決定する場合の不都合を解消するようにした。
【0047】
本発明の実施形態の処理のフローチャートは図12と同様である。
以下、この実施形態の実施例として、処理の内容を具体的に説明する。
(実施例)
(1)補正用ニューラルネットワークの出力データ傾向計算(S71)
補正用ニューラルネットワークの学習タイミングが1週間ごとであるとすると、ステップS71では、前年同時期の過去1週間分の電力需要量データの傾向を算出する。例えば、毎週日曜日に補正用ニューラルネットワークの学習が行われていれば、前年同時期の金曜日〜月曜日までの5日分の平日の電力需要量Pの平均値avgP(i)を算出する。ここで、iは週の順を示す。
また、前年ばかりでなく、過去数年間にわたる同時期の金曜日〜月曜日までの5日分の平日の平均値avgP(i)を算出し、過去数年間にわたる当該時期の電力需要量の変化傾向を正規化範囲の決定に用いても良い。
【0048】
(2)補正用ニューラルネットワークの入力データ(気象データ)傾向計算(S72)
ステップS71と同様に、気象データについて同様の計算を行う。例えば、電力需要量に対し最も相関の高い最高気温について、前年同時期または過去数年の同時期の金曜日〜月曜日までの、平日最高気温Tの平均値avgT(i)を計算する。
【0049】
(3)正規化範囲計算(S73)
ステップS71,S72により計算された、傾向を示す値を用いて、補正用ニューラルネットワークの正規化範囲を決定する。
なお、その具体的方法は前述したステップS73の説明で明らかであるため、ここでは省略する。
【0050】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、従来の基本年増加係数を用いる方法において気象状態急変時に良好な予測が望めない問題、更に、従来の年増加係数の算出方法において気温感応度急変時に追随できず線形的な補正しかできない不都合を解消し、従来よりも非線形的に年増加分を補正可能として予測精度の向上に寄与することができる。
また、年増加分ばかりでなく、予測モデルが気象と電力需要量との非線形関係を十分に表現し切れていない場合でも、同時に補正することが可能である。
【0052】
特に、請求項1,2記載の発明は、予測モデルの出力の補正に重回帰式を用いるものである。
重回帰式を適用する効果としては、線形の関係しかモデル化できないものの、補正用ニューラルネットワークのような外挿問題が起こらず、また、多変数間の複雑な相関関係のモデル化が可能なため、良好な補正を期待することができる。
【0054】
請求項3記載の発明は、補正用ニューラルネットワークの正規化範囲と予測モデルの正規化範囲とを異ならせて構築し、各ニューラルネットワークの役割分担の明確化を図るものである。
すなわち、予測モデルの正規化範囲を0〜1のようにしておき、学習データの非線形性を効果的にモデル化できるようにする。一方、補正用ニューラルネットワークの正規化範囲を例えば0.2〜0.8のようにしておき、補正能力に余力を持たせておくことで、非線形性を有しつつニューラルネットワークの外挿問題を解決することができる。
【0055】
ニューラルネットワークの正規化範囲は、通常は0〜1、外挿が予想される場合には、0.1〜0.9のようにほぼ決まった値がとられる。しかし、シグモイド関数は0〜1の範囲でしか出力できないため、学習データの最大値を1に正規化すると学習データ以上の大きい値は出力されず、逆に正規化範囲を余りに狭くすると線形性が強い範囲になってしまうので精度悪化の原因となる可能性がある。
これらの課題に対して、請求項4の発明によれば、自動的に実績データに基づいた正規化範囲が決定されるため、外挿問題を解決し、かつ、非線形性も考慮した良好な予測を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の参考形態における予測モデルと年増加補正用ファジィ推論モデルとの関係を示す図である。
【図2】本発明の参考形態の処理を示すフローチャートである。
【図3】本発明の参考形態におけるメンバシップ関数の説明図である。
【図4】請求項1に記載した発明の実施形態における予測モデルと年増加補正用重回帰式との関係を示す図である。
【図5】請求項1に記載した発明の実施形態の処理を示すフローチャートである。
【図6】請求項1に記載した発明の実施形態の処理を示すフローチャートである。
【図7】請求項2に記載した発明の実施形態におけるサンプルデータの対象期間の調整概念の説明図である。
【図8】請求項2に記載した発明の実施形態におけるサンプルデータの対象期間の調整概念の説明図である。
【図9】請求項2に記載した発明の実施形態の処理を示すフローチャートである。
【図10】年増加補正用ニューラルネットワークの構成図である。
【図11】請求項3に記載した発明の実施形態における予測モデル及び年増加補正用ニューラルネットワークの正規化範囲の説明図である。
【図12】請求項3及び4に記載した発明の実施形態の処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
10 予測モデル
20 年増加補正用ファジィ推論モデル
30 年増加補正用重回帰式
41 入力層
42 中間層
43 出力層
Claims (4)
- 計算機により、過去の電力需要量の実績値や気象データに基づいて構築した予測モデルを用いて予測対象日の電力需要量を予測する方法において、
予測対象日よりも前の一定期間の予測モデルの出力、電力需要量の実績値、気象データを用いて構築された重回帰式により、予測モデルの出力を補正する電力需要量予測値補正方法であって、重回帰式を構築するためのサンプルデータを、基準日に対する電力需要量の比率が一定値以上である日のサンプルデータとしたことを特徴とする電力需要量予測値補正方法。 - 請求項1に記載した電力需要量予測値補正方法において、
重回帰式を構築するためのサンプルデータを収集する期間を、電力需要量の特性変化に応じて変化させることを特徴とする電力需要量予測値補正方法。 - 計算機により、過去の電力需要量の実績値や気象データに基づいて構築した予測モデルを用いて予測対象日の電力需要量を予測する方法であって、予測対象日よりも前の一定期間の予測モデルの出力、電力需要量の実績値、気象データを用いて学習した補正用ニューラルネットワークにより、予測モデルの出力を補正する電力需要量予測値補正方法において、
補正用ニューラルネットワークの学習タイミングごとの電力需要量及び気象データの変化傾向に基づいて決定される補正用ニューラルネットワークの正規化範囲を、予測モデルの正規化範囲に対して異ならせたことを特徴とする電力需要量予測値補正方法。 - 請求項3に記載した電力需要量予測値補正方法において、
電力需要量及び気象データの変化傾向を過去の複数年のデータから求めることを特徴とする電力需要量予測値補正方法。
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