JP3640760B2 - グラフト共重合体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐熱クリープ性の改良された改質エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の製造方法に関する。さらに詳しくは、特定のオリゴアミドをグラフトした0チレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
エチレン・不飽和カルボン酸共重合体にポリアミド成分をグラフトさせて耐熱性を改良する各種の試みがなされている。例えば
(1)特公昭44−29262号公報には、エチレンと少割合のカルボキシル基含有モノマーの共重合体の存在下に、ε−カプロラクタム又はε−アミノカルボン酸を溶融状態で反応させ、ポリカプロラクタムがグラフトした共重合体が得られることが開示されている。具体的には共重合体としては、エチレン・アクリル酸共重合体を用いた1例を除いてはエチレン・アクリル酸エチル共重合体が使用され、これにε−カプロラクタムを反応させた例が示されている。多くはカプロラクタムを多量に使用する例であり、しかも高温で長時間の反応時間を要している。本発明者らの検討でも、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体とε−カプロラクタムの反応は起こりがたく、高温度で長時間の反応が必要であることが推定できる。またこのようなラクタムやアミノカルボン酸タイプのグラフトでは、それらのポリアミドの融点からみて、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体の耐熱性改良には限界があることが想定される。
【0003】
(2)またアメリカ特許5130372号明細書には、比較的低分子量のα−オレフィン・不飽和カルボン酸共重合体に、1〜250のアミノ酸重合単位の平均長さを有するグラフトポリマーのアイオノマーについて開示されており、該グラフトポリマーとしてアミノカルボン酸やラクタム、あるいはそのオリゴマーやポリマーを反応して製造する方法が記載されている。同様にジアミンとジカルボン酸から作られるポリアミドを反応させる方法も開示されている。後者のようなポリアミドがグラフトしたものは、アミノカルボン酸やラクタムからのグラフトポリマーに比べ、一層耐熱性が改良されたものとなることが期待できる。ところが実際には、このようなポリアミドを使用した場合は反応性に乏しいため、グラフト反応を円滑に進めることは容易でない。加えてポリアミド鎖が長いため、ベースポリマーであるエチレン共重合体の物性が大きく変化することが考えられる。
【0004】
(3)更に特開昭55−21489号公報にはエチレン・不飽和モノカルボン酸共重合体の2価金属アイオノマーに、片末端がN−アルキルアミドで封止された1級アミノ基を有する重合度が6〜35のポリアミドオリゴマーをグラフトしたグラフト共重合体が開示されている。上記ポリアミドオリゴマーは、ラクタム又はω−アミノカルボン酸と1級アミンから製造されるものである。そしてポリアミドオリゴマーは20〜75重量%の割合を占めている。このグラフト側鎖の末端は、N−アルキルアミド基で封鎖されており、上記(1)、(2)の提案によるものとはグラフト側鎖が若干異なっている。
【0005】
(4)公表公報WO89/04853には平均重合度が5〜35である両末端に1級アミノ基を有するポリアミドオリゴマーを反応させた2価金属アイオノマーの開示がある。この変性共重合体は、ポリアミドオリゴマーを介してイオン架橋しているものと考えられており、これも上記(1)、(2)の公報に開示のグラフト共重合体とは構造的にも若干異なるものである。
【0006】
上記(3)及び(4)の公報で開示された発明において、ポリアミドオリゴマーとして重合度がもっと小さいものを使用した場合には、耐熱性の改良が充分でないと記載されている。すなわち重合度が5〜6よりも小さいポリアミドオリゴマーを使用したのでは、耐熱性の優れたグラフト共重合体が得られないという認識があった。またこれら2公報ともアイオノマーの使用が必須となっており、イオン化されていないエチレン・不飽和モノカルボン酸共重合体に反応をさせるものではない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、イオン化していないエチレン・不飽和モノカルボン酸共重合体に対して適用することができ、上記(1)、(2)などの公報で開示のグラフト共重合体及びその製法と異なり、エチレン・不飽和モノカルボン酸共重合体の優れた特性を生かしつつ、簡単な方法でしかも効果的に耐熱性を改善する方法について検討を行った。その結果、特定のナイロン塩を用いると容易にグラフトできること、また側鎖のポリアミド鎖が極めて短いにもかかわらず、効果的に耐熱性の改善が達成できることを知った。またエチレン・不飽和カルボン酸共重合体の代わりにそのアイオノマーに対してこの方法を用いた場合にも同様の結果が得られることを知った。
したがって本発明の目的は、耐熱性の改良されたグラフト共重合体を効果的に製造する方法を提供するにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、不飽和カルボン酸含量が1〜30重量%のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーと、ジアミンとジカルボン酸からなるナイロン塩を、押出機中で溶融混練することを特徴とするグラフト共重合体の製造方法に関する。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明で使用されるエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、不飽和カルボン酸含量が1〜30重量%、好ましくは5〜25重量%の共重合体であり、エチレンと不飽和カルボン酸の他に、他の単量体が共重合されたものであってもよい。このような他の単量体は、0〜40重量%、好ましくは0〜30重量%の如き量で共重合されていてよい。
【0010】
不飽和カルボン酸として具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチルなどを例示することができる。特に好ましい不飽和カルボン酸は、アクリル酸又はメタクリル酸である。不飽和カルボン酸の含量があまり少ないとグラフト速度が遅く、また大きな改質効果で期待できない。不飽和カルボン酸成分はまた、部分的に金属塩の形になっていても良く、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムのような1価金属、マグネシウム、カルシウム、亜鉛のような2価金属などの塩であってもよい。この場合の中和度としては、0〜80%、好ましくは0〜60%程度である。
【0011】
エチレン、不飽和カルボン酸の他に共重合することができる単量体としては、例えば酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸nブチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸nデシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸イソブチル、マレイン酸ジエチルのような不飽和カルボン酸エステル、一酸化炭素、二酸化硫黄などを例示することができる。
【0012】
このようなエチレン・不飽和カルボン酸共重合体としては、グラフト反応の容易性やグラフト共重合体の成形加工性や機械的強度等を勘案すると190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.1〜2000g/10分、好ましくは1〜500g/10分程度のものである。このようなエチレン・不飽和カルボン酸共重合体は、高圧法ポリエチレンの製法に準じ、エチレン及び不飽和カルボン酸、必要に応じさらに他の単量体を、高温、高圧の条件下でラジカル共重合すればよい。また上記部分金属塩としては、かくして得られたラジカル共重合体に所望の金属塩を反応させればよく、かかる方法はすでによく知られている。
【0013】
本発明のグラフト反応において用いられるナイロン塩はナイロン製造用原料として用いられるもので、式H2 NRNH2 で示されるジアミンと式HOOCR′COOHで示されるジカルボン酸からなる塩である。ここにR及びR′は2価の炭化水素基である。
【0014】
上記ジアミン成分としてはテトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミンのような脂肪族ジアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、1,4−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタンのような脂環式ジアミン、1,3−キシリデンジアミンのような芳香族ジアミンなどを例示することができる。
【0015】
また上記ジカルボン酸成分としては、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸のような脂環式ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸のような芳香族カルボン酸などである。
【0016】
これらのジアミンとジカルボン酸とから得られるナイロン塩としてとくに一般的なものは、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610などの塩である。
【0017】
本発明のグラフト反応においては、両原料の反応を円滑に進めるため、また生成グラフト共重合体の物性を考慮すると、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体100重量部あたり、ナイロン塩を1〜40重量部、好ましくは2〜30重量部の割合で使用することが望ましい。
【0018】
グラフト化反応は、押出機中で行われる。押出機としては、グラフト反応を円滑に短時間で進行させるために、反応水の除去装置例えばベントを備えた混練効率の優れた押出機中で行うのが好ましく、例えば単軸押出機、二軸押出機が使用できるが、とくに二軸押出機の使用が望ましい。前記アメリカ特許5130372号公報明細書においては、グラフト反応を大気圧下で行うことが好ましいとしているが、本発明においては押出機中において剪断力がかかる加圧条件下の反応が望ましいのである。
【0019】
押出機としては、L/Dが10〜50程度、好ましくは20〜40程度のものを使用することが好ましく、ニーディングディスクのような特に混練を強化する部分が、L/Dで5〜30、とくに8〜25程度備えているようなものを使用するのがよい。押出条件は任意に設定できるが、ナイロン塩の反応性を考慮すると、押出機中の温度を200〜300℃、樹脂圧力を2〜50kg/cm2 、とくに5〜40kg/cm2 、比エネルギーを0.1〜1.0kwh/kg、とくに0.3〜0.8kwh/kg、滞留時間が0.5〜20分、とくに1〜10分の如き条件を選択するのが好ましい。
【0020】
グラフト反応を円滑に進めるために、適当な触媒、例えばリン酸、メタリン酸のような酸性触媒を用いることができる。このような酸性触媒は、例えば0.1〜1重量%のような量で添加することができる。反応終了後は、所望に応じて未反応のナイロン塩を水等により抽出除去し、グラフト共重合体の純度を高めることができる。
【0021】
本発明ではこのような反応によって、通常はグラフト効率が50〜100%を達成することができ、したがって後述のオリゴポリアミド単位が0.5〜40重量%、好ましくは1〜30重量%グラフトした共重合体を容易に得ることができる。またさらに製品の成形加工性や機械的性質を考慮すると、グラフト共重合体の240℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.01〜100g/10分、とくに0.1〜50g/10分程度のものを製造するように調製することが望ましい。
【0022】
本発明方法により得られたグラフト共重合体についての示差熱分析結果の例では、示差走査熱量計(DSC)による吸熱ピークとして、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーによる40〜90℃程度の主吸熱ピークと、グラフトしたオリゴアミドに基づく170〜280℃程度の吸熱ピークが観察される。後者の吸熱ピークは、鎖状オリゴアミドの1量体の吸熱ピークと4量体の吸熱ピークの間の温度に認められるものである。例えばナイロン66に関し、鎖状オリゴアミドの吸熱ピークとして、1量体は193℃、2量体は221〜222℃、3量体は246〜248℃、4量体は247〜249℃と報告されているが、本願発明でナイロン66オリゴアミドをグラフトした共重合体のDSC吸熱ピークが上記193〜248℃の間にあるもの、例えば236〜244℃に認められるものを容易に得ることができる。このことは本発明で得られたグラフト物は、オリゴアミドが1〜4量体程度の鎖長でグラフトしているものと推定される。
【0023】
このように本発明では、エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーのカルボキシル基を介して、−(HNRNHCOR′CO)n−からなるオリゴアミド単位がグラフトしたグラフト共重合体、特に上記式におけるnが例えば1〜10個、好ましくは1〜4の如き短いオリゴポリアミド単位のグラフト鎖を有するグラフト共重合体が得られので、本質的に原料のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーが有する優れた特性を保持しつつ、耐熱クリープ性を改良することができる。
【0024】
本発明ではまた、120℃における貯蔵弾性率(E′)が105 Pa以上、好ましくは150℃におけるE′が105 Pa以上を示すグラフト共重合体を容易に得ることができる。
【0025】
本発明で得られるグラフト共重合体には、必要に応じ各種添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、例えば酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、ブロッキング防止剤、顔料、染料、無機充填剤、繊維強化剤などを例示することができる。
【0026】
本発明で得られるグラフト共重合体は、押出成形、射出成形、ブロー成形、圧縮成形、真空成形など各種成形方法により、フィルム、シート、チューブ、管、中空容器、各種形状の成形品に成形して使用することができる。かかるグラフト共重合体はまた、ポリアミド、ポリエステル、各種オレフィン重合体又は共重合体などの熱可塑性樹脂の改質剤として使用することができる。例えば、ポリアミドに配合することにより、引裂強度を改良し、あるいは溶融粘度を増加することによりその加工性を改良することができる。また他の材料と積層して、積層フィルムや積層シートとして、あるいは積層容器として利用することもできる。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば短いオリゴポリアミド鎖を有するグラフト共重合体を簡単な方法により、高いグラフト化率で得ることができ、これによってエチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーが有する優れた特性を保持し、しかも側鎖のポリアミド鎖が短いにもかかわらず、耐熱クリープ性が効果的に改善されるので、各種成形品として広い用途に使用できるのみならず、引裂強度の改良や、溶融粘度増加を目的として他の熱可塑性樹脂の改質剤として使用することができる。
【0028】
【実施例】
以下に本発明を実施例により具体的に説明する。
なお、実施例及び比較例において使用した原料、生成物の物性測定方法等は以下のとおりである。
【0029】
1.原料
(1)エチレン共重合体及びそのアイオノマー
(1) エチレン共重合体
組成:エチレン/メタクリル酸=85/15(wt/wt)
MFR:25g/10min
(2) Na中和エチレン共重合体
上記(1) のエチレン・メタクリル酸共重合体のNaアイオノマー
(Na中和度:29mol%)
MFR:2.8g/10min
(3) Zn中和エチレン共重合体
上記(1) のエチレン・メタクリル酸共重合体のZnアイオノマー
(Zn中和度:23mol%)
MFR:5.0g/10min
【0030】
(2)ナイロン塩製造原料
(1) ジアミン
ヘキサメチレンジアミン(旭化成(株)製)
(2) ジカルボン酸
アジピン酸(本州化学(株)製)
セバシン酸(小倉合成(株)製)
【0031】
(3)グラフト化原料
(1) アミノカルボン酸
12−アミノドデカン酸(宇部興産(株)製)
(2) ナイロン樹脂
ナイロン66樹脂(CM3001−N、東レ(株)製)
ナイロン610樹脂(CM2001、東レ(株)製)
(3) カプロラクタム
ε−カプロラクタム(宇部興産(株)製)
(4) ポリアミドオリゴマー
PAO(重合度18〜20のε−カプロラクタムオリゴマーの片末端をモノアルキルアミンで封止)
【0032】
3.物性測定法
(1)MFR:
JIS K7210に準拠、190℃、230℃、240℃の内のいずれかの温度で測定。
【0033】
(2)曲げ剛性(ステッフネス)
ASTM D−747に準拠、オルゼン式曲げ剛性率測定器(東洋精機製作所製)で測定。
【0034】
(3)VICAT軟化点:
JIS K7206に準拠、VICAT軟化点測定装置(東洋精機製作所製)を使用し、昇温速度50℃/hで30℃からスタート。
【0035】
(4)引裂強度
JIS K6781に準じ、試験片は射出成形で作成。
【0036】
(5)示差熱分析(DSC):
Thermal Analyst 2000(Du Pont社製)を使用し、昇温速度10℃/min、0〜290℃の範囲で測定。
【0037】
(6)FTIR:
30μm厚みのフィルムをホットプレスで作成し、Perkin Elmer1600FTIRで測定。
【0038】
(7)動的粘弾性(DVE):
DVE RHEOSPECTOLER(DVE−V4 Type,RHEOLOGY Co.,Ltd)を用い、−150〜170℃、周波数(正弦波)10Hzで測定。
【0039】
(8)流動特性(キャピログラフ):
CAPIROGRAPH1B(オリフィスL=25.4mm,D=0.760mm、東洋精機製作所製)を使用し、220℃で測定。剪断速度測定範囲10〜6000cm-1。
【0040】
(9)クリープテスト:
2枚のアルミ板間に幅25mm、厚み50μmの板状測定試料をはさみ、プレス接着(200℃×2分予熱後、9.81MPa、1分間加圧)した後、幅20mmの間隔で、積層板を切断し、試験片を作成した。上部を固定した支持部に試験片の片方のアルミ板を垂直に取り付け、もう片方のアルミ板に1kgの荷重をかけて、昇温速度0.4℃/minで40℃→200℃に昇温し、アルミ接着面で試料樹脂が流動する温度(アルミの剥離)を測定した。
【0041】
[製造例1](ナイロン66塩の調製)
アジピン酸1800g(12.3mol)をメチルアルコール/エチルアルコール(1:1)混合溶媒6リットルに溶解し、溶液の温度が55℃以上にならないように冷却しながら、60℃で溶解したヘキサメチレンジアミン1360g(11.7mol)を撹拌しながら徐々に滴下した。ヘキサメチレンジアミンを添加するにつれて、ナイロン66塩が析出し、反応容液はスラリー状となり増粘するためメタノール/水(1:1)500mlを途中で添加した。析出したナイロン66塩をフィルターで濾別した後、80℃で24時間、減圧乾燥してナイロン66塩(融点182〜185℃)が得られた。
【0042】
[製造例2](ナイロン610塩の調製)
製造例1において、アジピン酸の代わりにセバシン酸を用い、ヘキサメチレンジアミン1090g(9.4mol)と、セバシン酸2000g(9.9mol)とを、製造例1と同様にして反応させ、ナイロン610塩(融点169〜173℃)を得た。
【0043】
[実施例1]
エチレン共重合体85重量部に対し製造例1で製造されたナイロン66塩を15重量部の割合でドライブレンドし、混合物10kgを調製した。この混合物を、ニーディングディスクから成る反応ゾーンL/D=16.5と絞りリングを有するスクリューセグメント配置を持つ二軸押出機TEX44mmφを使用し、反応設定温度を240℃、押出量18kg/hでベントポートを0.03MPaの減圧下で押出し、グラフト反応させた。得られたグラフト反応生成物から、水抽出により未反応塩を除去し、乾燥後、得られたグラフト化物について下記の分析と測定を行い、構造確認及び物性の評価を行った。
【0044】
(1)FTIRスペクトルを測定した結果、1540及び1636cm-1にアミド基に帰属される吸収ピークが認められた。
【0045】
(2)エチレン共重合体とナイロン66樹脂の配合比を変えてメルトブレンドした配合物のFTIRスペクトル中のνCO1540cm-1/δCH720cm-1の吸光度比から得られる検量線を用いて、ナイロン66塩の転化率を求めた結果、転化率80%であった(表2)。
【0046】
(3)また、その示差熱分析(DSC)の測定結果、融点240から245℃の吸熱ピークがあり、ナイロン66塩の重縮合が起きており、融点値からグラフト共重合体中のポリアミドの重縮合度ηは3から4であることが推定された。
【0047】
(4)また動的粘弾性(DVE)のE′貯蔵弾性率を測定した結果、160℃付近までE′貯蔵弾性率105 Pa以上を保持している(表3)。
【0048】
(5)次にナイロン塩がグラフト化していることの確認のため、キャピログラフによる生成物の溶融流動性を測定した。
もしナイロン分子がエチレン共重合体の分子鎖にグラフトしていれば低剪断速度ではナイロン分子によりエチレン共重合体の分子鎖は動きを抑制され、高剪断速度ではナイロン分子も動きやすくなることから、単なるブレンド物よりも溶融粘度の剪断依存性が大きくなると推定される。測定の結果では実施例1で得られたものは、ナイロン66樹脂を実施例1と同様にして二軸押出機中で溶融混練させて得られた比較例5のものに比べ、溶融粘度の剪断速度依存性が大きいことからグラフト化されているが、ナイロン樹脂ブレンドしたものは溶融粘度の剪断速度依存性が小さいことから、グラフト化率は極めて低く、ほとんどがナイロン樹脂とのブレンドの状態にあるものと推定される。
【0049】
(6)MFR、クリープ温度、VICAT軟化点、DSCによる融点及び曲げ剛性を測定した結果を実施例2、比較例1、2の結果とともに結果を表1に示す。またクリープ温度について、実施例2、4、比較例5〜8と比較した結果を表3に示す。
【0050】
[実施例2]
実施例1において、エチレン共重合体の代わりにNa中和エチレン共重合体を、またナイロン66塩の代わりに製造例2で得られたナイロン610塩を用い、両者を85重量部/15重量部の割合で、実施例1と同様にして二軸押出機中でグラフト反応を行い、グラフト物の物性を測定した。結果を表1に示す。
【0051】
[比較例1]
実施例1で幹ポリマーとして用いたエチレン共重合体を、グラフト重合させないでそのまま物性を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
[比較例2]
実施例2で幹ポリマーとして用いたNa中和エチレン共重合体を、グラフト重合させないでそのまま物性を測定した。結果を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
表1において、ナイロン塩グラフト化物(実施例1および2)を、それぞれ対応する幹ポリマーであるエチレン共重合体(比較例1)及びそのNa中和エチレン共重合体(比較例2)と比較した結果、本発明実施例のものは、クリープ温度、Vicat軟化点及び曲げ剛性とも高い値を示し、ナイロン塩によるグラフト化により、物性改良の効果が現れていることが明らかである。またDSCによる融点から、グラフト化されていることがわかる。
【0055】
[実施例3]
実施例1において、エチレン共重合体の代わりにZn中和エチレン共重合体をを用い、Zn中和エチレン共重合体/ナイロン66塩=85重量部/15重量部の割合で、実施例1と同様にして二軸押出機中でグラフト反応を行い、グラフト化反応の転化率及びグラフト物のMFRを測定した。実施例1、比較例3、4の結果とともに結果を表2に示す。
【0056】
[比較例3]
実施例1において、ナイロン66塩の代わりにε−カプロラクタムを用い、エチレン共重合体/ε−カプロラクタム=85重量部/15重量部の割合で、実施例1と同様にして二軸押出機中でグラフト反応を行い、グラフト化反応の転化率とグラフト物のMFRを測定した。結果を表2に示す。
【0057】
[比較例4]
実施例3において、ナイロン66塩の代わりにε−カプロラクタムを用い、Zn中和エチレン共重合体/ε−カプロラクタム=85重量部/15重量部の割合で、実施例1と同様にして二軸押出機中でグラフト反応を行い、グラフト化反応の転化率とグラフト物のMFRを測定した。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】
【0059】
表2の結果から、ナイロン塩を用いたグラフト化反応は、ε−カプロラクタムによる反応に較べて、転化率がはるかに高く、本発明のナイロン塩を用いる方法がグラフト共重合体の製造法として有利であることがわかる。
【0060】
[実施例4]
実施例1において、ナイロン66塩の代わりにナイロン610塩を用い、エチレン共重合体/ナイロン610塩=85重量部/15重量部の割合で、実施例1と同様にして二軸押出機中でグラフト反応を行い、生成物のクリープ温度及びMFRを測定した。
【0061】
[比較例5]
実施例1において、ナイロン66塩の代わりに、ナイロン66樹脂を用い、エチレン共重合体/ナイロン66樹脂=88重量部/12重量部の割合で、実施例1と同様にして二軸押出機中で混合し、生成物のクリープ温度及びMFRを測定した。
【0062】
[比較例6]
比較例5において、ナイロン66樹脂の代わりに、ポリアミドオリゴマーPAOを用い、エチレン共重合体/ポリアミドオリゴマーPAO=88重量部/12重量部の割合で、実施例1と同様にして二軸押出機中で混合し、生成物のクリープ温度及びMFRを測定した。
【0063】
[比較例7]
比較例5において、ナイロン66樹脂の代わりに、ナイロン610樹脂を用い、エチレン共重合体/ナイロン610樹脂=85重量部/15重量部の割合で、実施例1と同様にして二軸押出機中で混合し、生成物のクリープ温度及びMFRを測定した。
【0064】
[比較例8]
比較例7において、エチレン共重合体の代わりに、Na中和エチレン共重合体を用い、Na中和エチレン共重合体/ナイロン610樹脂=85重量部/15重量部の割合で、実施例1と同様にして二軸押出機中で混合し、生成物のクリープ温度及びMFRを測定した。
【0065】
上記各実施例及び比較例の結果により、ナイロン塩グラフト化物(実施例1,4及び2)とそれに相当するナイロン樹脂ブレンド物(比較例5,7および8)及びポリアミドオリゴマーPAOブレンド物(比較例6)のクリープ温度の比較を表3に示した。
【0066】
【表3】
【0067】
表3の結果から明らかなように、実施例1、2及び4の各実施例で得られたものは、長鎖分子構造であるナイロン樹脂を二軸押出機中で溶融混練させて得られた対応する比較例5、7及び8と比べ、またポリアミドオリゴマーPAOとを溶融混練させて得られた実施例6の生成物に比べても、クリープ温度が高いことから、ナイロン樹脂とを混練したものはグラフト化率が低いのに対し、本発明のナイロン塩との溶融混練により得られた生成物は効率よくグラフト化されていることがわかる。
【0068】
また動的粘弾性(DVE)のE′貯蔵弾性率(150℃)が、ナイロン66樹脂をブレンドして得られた比較例5の生成物では104 Paであるのに対し、実施例1で得られたグラフト化物は、160℃付近まで105 Pa以上を保持しており、高温での弾性挙動の優れたものが得られる。
【0069】
[実施例5]
実施例3において、ナイロン66塩の代わりにナイロン610塩を用い、Zn中和エチレン共重合体/ナイロン610塩=85重量部/15重量部の割合で、実施例1と同様にして二軸押出機中でグラフト反応を行い、グラフト物のDSCによる融点及び曲げ剛性を測定した。結果を表4に示す。
【0070】
[比較例9]
実施例5において、ナイロン610塩の代わりに12−アミノウンデカン酸を用い、Zn中和エチレン共重合体/12−アミノウンデカン酸=85重量部/15重量部の割合で、実施例5と同様にして二軸押出機中でグラフト反応を行い、グラフト物のDSCによる融点及び曲げ剛性を測定した。結果を表4に示す。
【0071】
【表4】
【0072】
表4の結果から明らかなように、ナイロン塩によるグラフト化物はアミノカルボン酸によるグラフト化物に比較し融点が高く、また曲げ剛性値も高い。本発明のナイロン塩(ジアミンとジカルボン酸の複塩)によるグラフト化はアミノカルボン酸(単塩)によるグラフト化に比べ、より融点の高く、より曲げ剛性が高い変性物が得られる特徴がある。
【0073】
[実施例6]
エチレン共重合体(a) 、ナイロン610樹脂(b) 及び実施例4で得られたナイロン610塩グラフト化エチレン共重合体(c) の3者の混合物を、(a)/(b)/(c) =70/30/5(重量比)の割合で実施例1と同様にして二軸押出機中で行い、得られたブレンド物のMFR、引裂強度及び硬度を測定した。結果を表5に示す。
【0074】
[比較例10]
実施例6において、ナイロン610塩グラフト化エチレン共重合体(C) を配合せず、エチレン共重合体(a) 、ナイロン610樹脂(b) のみのブレンドを、(a)/(b) =70/30(重量比)の割合で実施例1と同様にして二軸押出機中で行い、得られたブレンド物のMFR、引裂強度及び硬度を測定した。結果を表5に示す。
【0075】
[実施例7]
実施例6においてエチレン共重合体の代わりにZn中和エチレン共重合体(a')を、またナイロン610塩グラフト化エチレン共重合体の代わりに実施例5で得られたナイロン610塩グラフト化Zn中和エチレン共重合体(c')を用い、(a')/(b)/(c') =70/30/5(重量比)の割合で実施例1と同様にして二軸押出機中で3者のブレンドを行い、得られたブレンド物のMFR、引裂強度及び硬度を測定した。結果を表5に示す。
【0076】
[比較例11]
実施例7において、ナイロン610塩グラフト化Zn中和エチレン共重合体(c')を配合せず、Zn中和エチレン共重合体(a')、ナイロン610樹脂(b) のみのブレンドを(a')/(b)=70/30(重量比)の割合で実施例1と同様にして二軸押出機中で行い、得られたブレンド物のMFR、引裂強度及び硬度を測定した。結果を表5に示す。
【0077】
【表5】
【0078】
表5の結果から、実施例6及び実施例7の組成物は、それぞれ比較例10及び比較例11のエチレン共重合体またはZn中和エチレン共重合体/ナイロン610樹脂の組成物に本発明方法で得られたナイロングラフト化共重合体をわずか5wt%添加したものであるにもかかわらず、MFRが、大幅に低下しており増粘効果が顕著に現れ、引裂強度も向上してている。また、ナイロングラフト化エチレン共重合体を添加することにより、エチレン共重合体とナイロン樹脂との相溶性が改良されていることが透過電子顕微鏡によるモルホロジーから確認されており、樹脂改質剤としての効果が優れている。
Claims (5)
- 不飽和カルボン酸含量が1〜30重量%のエチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーと、ジアミンとジカルボン酸とのナイロン塩を、押出機中で溶融混練することを特徴とするグラフト共重合体の製造方法。
- エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマーの190℃、2160g荷重におけるメルトフローレートが0.1〜2000g/10分である請求項1記載のグラフト共重合体の製造方法。
- エチレン・不飽和カルボン酸共重合体又はそのアイオノマー100重量部あたり、ナイロン塩1〜40重量部を用いる請求項1記載のグラフト共重合体の製造方法。
- グラフト共重合体が、側鎖に重合度が1〜10個のオリゴポリアミド単位のグラフト鎖を有するものである請求項1記載のグラフト共重合体の製造方法。
- 押出機が二軸押出機である請求項1記載のグラフト共重合体の製造方法。
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