JP3640171B2 - 塩素系溶剤の精製方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、塩素系溶剤を主成分とする液体や気体から塩素系溶剤が分解することによって生ずる酸性物質もしくは塩素系溶剤を使用することによって混入された酸性物質を尿素を用いて中和除去することによる塩素系溶剤の精製方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ドライクリーニング、金属の脱脂洗浄及び乾燥、一般溶剤、その他各種の工業用原料としてテトラクロロエチレンが、金属の脱脂洗浄及び乾燥、一般溶剤、その他各種の工業用原料としてトリクロロエチレンに代表される塩素系溶剤が一般的に使用されている。使用済みの該塩素系溶剤の廃液はその環境汚染防止のためにできる限り回収して再生利用することが重要である。かかる廃液は通常蒸留操作によってガス化した後冷却することによって精製液としたり、塩素系溶剤を含有するガスを活性炭吸着させた後に加熱操作を行い該塩素系溶剤を活性炭から脱着したのち冷却して精製液とする方法によって精製されている。
【0003】
しかしながら、テトラクロロエチレン等の塩素系溶剤の一部は僅かな水分の存在と高温に曝されることや紫外線等により分解することが知られており、例えばテトラクロロエチレンは酸性物質であるトリクロロ酢酸と塩化水素とを、トリクロロエチレンは同様に酸性物質であるジクロロ酢酸と塩化水素を生成する。即ち、塩素系溶剤を使用する場合や、廃液を精製する場合の加熱によって上記酸性物質が生成し、該酸性物質を含有した塩素系溶剤をそのまま循環使用するとプラント設備の腐食を引き起こしたり、塩素系溶剤の品質性能が低下して再使用できないという問題があった。
【0004】
この問題を解決するためには通常回収された塩素系溶剤を含む廃液を精製したのちに該精製塩素系溶剤にフェノール類、エポキシド、アミン、アルコール類、ニトリルなどの安定剤を添加して、保存中あるいは使用中における分解反応を抑制する方法がある。該安定剤は高価であると共に、間欠的に添加するには常時回収された塩素系溶剤の品質を分析して、異常があった場合に添加するという手間がかかること、また連続的に添加すると高価な安定剤を過剰に使用することになること、更にこれらの安定剤は該塩素系溶剤中に残存して用途によっては不純物となるといった不具合があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、前記従来技術の現状に鑑み、鋭意検討を重ねた。その結果、テトラクロロエチレン等の塩素系溶剤を水分が存在する系で加熱を行う等、使用した後に生成する酸性物質を尿素で中和除去することにより、該塩素系溶剤を循環再使用してもプラント設備の腐食劣化がなく、生産運転の長期安定化と、再使用する塩素系溶剤の品質を安定化できることを見い出し、この知見に基づき、本発明を完成した。以上の記述から明らかなように、本発明の目的は、種々の産業で溶剤として用いられる塩素系溶剤を有効に再利用するにあたり、水分の存在と、高温に加熱されることにより発生する塩素系溶剤の分解した酸性物質または塩素系溶剤を使用する際に混入する酸性物質がプラント設備を腐食するという問題と、塩素系溶剤を再使用する際の品質の安定化という課題を解決した塩素系溶剤の精製方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は下記によって示される。
(1)塩素系溶剤中の酸性物質を尿素で中和除去することを特徴とする塩素系溶剤の精製方法。
【0007】
(2)塩素系溶剤がトリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、塩化メチル、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化エチル、1,2−ジクロロエタンおよび1,2−ジクロロエチレンの中から選ばれる1種以上である前記第1項記載の塩素系溶剤の精製方法。
【0008】
(3)塩素系溶剤がテトラクロロエチレンである前記第1項記載の塩素系溶剤の精製方法。
【0009】
(4)尿素充填ゾ−ンに塩素系溶剤を通過させ尿素と接触させて該塩素系溶剤中の酸性物質を中和除去することを特徴とする前記第1項〜第3項の何れか1項記載の塩素系溶剤の精製方法。
【0010】
(5)尿素が、尿素粒子の投影面積円相当径の加重平均値が1mmから10mmであることを特徴とする前記第1項もしくは第4項のいずれか1項記載の塩素系溶剤の精製方法。
【0011】
(6)水分が共存する塩素系溶剤中の酸性物質を尿素で中和したのち、水溶性中和物を分離器を用いて塩素系溶剤から除去することを特徴とする前記第4項記載の塩素系溶剤の精製方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
(1)塩素系溶剤
本発明で用いる塩素系溶剤は、水分の存在下、加熱等により、使用された塩素系溶剤が加水分解等によって酸性物質を生じる溶剤であれば特に限定されない。例として塩化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化エチル、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等が挙げられる。
【0013】
(2)尿素
尿素自体は中性物質であるが、尿素は酸性物質と付加化合物をつくり、尿素が吸着剤として酸性物質を吸着する働きをする。一方、通常尿素中に存在する塩基性物質のアンモニアは、塩素系溶剤が分解する等によって発生する酸性物質が水と共に存在し、該水分が固形の尿素の充填層を通過することによって尿素を溶解しつつ、同時に固形の尿素に含まれるアンモニアが酸性物質を中和する。尿素充填層における該固形尿素の充填量は多ければ多いほど尿素の補充期間を永くすることができるため有効である。
【0014】
尿素は粒状であればその平均粒径は特に限定されないが、粒子の投影面積円相当径の加重平均値が通常1〜10mm、更に好ましくは1.5〜5mmの粒状の尿素が好ましい。投影面積円相当径とは、粒子の投影面積と同じ面積である真円の直径であり、具体的にはピアス−IV(PIAS−IV、株式会社ピアス製)等の市販の測定機器を用いることにより測定することができる。粒状物の総表面積をできるだけ大きくするためには粒径が小さいほど酸性物質の除去効率が良いが、該範囲以下であれば塩素系溶剤と接触させる装置の圧力損失が大きくなってしまう。該範囲以上であっても酸性物質の除去効果は得られるが、尿素表面積の低下により酸性物質の中和効率が低下し、大型の尿素の充填塔が必要となり高コストとなる。尿素は前述のように粒状固形物であってもまたは水溶液として用いても構わない。水溶液として用いる場合は、該水溶液中に塩素系溶剤ガスを通気する方法や、塩素系溶剤の液体を尿素水溶液と撹拌混合した後塩素系溶剤と水を分離する方法等が適当である。また、これらの固体尿素接触と尿素水溶液処理を組み合わせることも可能であり、いずれも本発明の精製方法の範疇である。
【0015】
(3)酸性物質の中和除去
塩素系溶剤ガスを蒸留操作や活性炭式吸着脱着操作を行った後に冷却することにより得られる凝縮液及び水分とこれに含まれる酸性物質は尿素を充填した層を通過させることによって該酸性物質の吸着もしくは中和処理される。酸性物質を除いた後の塩素系溶剤及び系中に存在する水分は通常の水分離器を用いて塩素系溶剤と水に分離することができる。塩素系溶剤は回収再使用され、一方水と共に含まれる中和物は適宜排出処分を行う。このように塩素系溶剤液を尿素を充填した層に通し、尿素に接触させて酸性物質を中和除去する方法と、塩素系溶剤ガスを尿素を充填した層に通すことにより、尿素に接触させて酸性物質を中和除去する方法および上述した尿素水溶液中に塩素系溶剤ガスを通気する方法や、塩素系溶剤の液体を尿素水溶液と撹拌混合した後塩素系溶剤と水を分離する方法等がある。尿素が充填された層を塩素系溶剤液体や気体が通過する時間すなわち、該充填層の空塔速度や滞留時間は特に限定されないが例えば空塔速度0.001m/秒〜0.1m/秒好ましくは0.005〜0.05m/秒を提示でき、滞留時間もしくは接触時間は5秒以上好ましくは20秒〜60秒を提示することができる。これは塩素系溶剤中の酸性物質量が極微量の場合であり、酸性物質量の割合によっては滞留時間を長くする等の方法によって酸性物質の除去効果を高めることができる。また、該尿素に接触させるときの温度条件は特に限定はなく、3℃〜35℃の温度が好ましい。固形の尿素を用いて塩素系溶剤中の酸性物質を中和
除去する場合、該塩素系溶剤中に水分が共存しているとその中和除去の効率が高くなる。
【0016】
【実施例】
以下、本発明を塩素系溶剤としてテトラクロロエチレンを用いた被覆尿素肥料の製造について実施例、比較例を用いて説明するが、本発明は塩素系溶剤中の酸性物質を除去する方法であって、これに限定されるものではない。
【0017】
(1)回収テトラクロロエチレン液体中に含まれる酸性物質の分析方法。
回収されたテトラクロロエチレン液体50gを純水50gとともに分液漏斗に入れた後、十分に振り混ぜて混合したのち、上部の水相を容器に抜き出す。容器に抜き出された水をpH(ペーハー)計(堀場製作所製F−14)で測定したpH値を実施例におけるテトラクロロエチレンのpH値として記載した。
【0018】
実施例1
図1に示す、塩素系溶剤としてテトラクロロエチレンを用いた被覆肥料製造プロセスを使用して実施例を示す。
塔径250mm、高さ2000mm、空気噴出口径50mm、円錐角50度の形状を有する噴流塔1を使用し、尿素10kgを噴流させた状態で、予め溶解槽11において、テトラクロロエチレン回収タンク19から採取したテトラクロロエチレンに被覆材料の組成(重量部)としてポリエチレン(低密度ポリエチレン d=0.918 [g/cm3](密度 JIS K6760)、MI=22[g/10min](メルトインデックス JIS K6760))50、コーンスターチ5、タルク(平均粒経10μm)45を100℃±2℃で混合撹拌した5重量%溶解分散液を、流速20kg/hでスプレーノズル4から尿素粒子に吹き付け、それと同時に約145℃に加熱した噴流用ガスでテトラクロロエチレンを蒸発させて、最終的に被覆尿素粒状物中の被覆材料重量が12重量%となるまで被覆操作を行った。この間噴流塔の排ガスはコンデンサー14で約15℃に冷却し、凝縮液が除かれたガス(空気を主成分とし、コンデンサーで除かれなかったテトラクロロエチレンガスと水分を含む)はブロワー10、熱交換器8を経由して約145℃に加熱し、噴流塔1の噴流用ガスとして循環使用した。凝縮液の出口には尿素充填層16として内径23mm、長さ240mmの槽に尿素(ピアス−IV(PIAS−IV、株式会社ピアス製)を用いて測定した投影面積円相当径の加重平均値が1.5〜5mmの粒子)70gを充填し、1ケ月毎に更新した。この槽の下部から上部に19kg/hの速度で凝縮液を通過させた後、水分離器18において水分などの不純物を分離してからテトラクロロエチレンを回収タンク19に戻した。また被覆尿素を噴流塔から抜き出した後に脱溶剤タンクで被覆尿素からテトラクロロエチレンを除去し、回収されたテトラクロロエチレン液体も上述の尿素を充填した槽16に通液させた。このような運転方法で3日、6ヶ月、1年間連続運転した後、回収テトラクロロエチレンのpHを測定した。その結果を表1に示した。尚、水分の混入としては、原料のコーンスターチ、尿素等から発生する水分、原料尿素を噴流塔に仕込む際に伴う空気中の水分、噴流ガスの循環系内の圧力を調節するためのブロワー10の吸入部に入る空気中の水分およびフィルター13の目詰まり防止の為の逆洗用空気中の水分等の混入が考えられる。
【0019】
比較例1
尿素を充填した槽に循環ガスの凝縮液及び脱溶剤タンク排ガスから回収された凝縮液を通過させることなく上記実施例1と同様に連続的に75時間運転した後回収テトラクロロエチレンのpHを測定した。その結果を表1に示した。
【0020】
【表1】
Figure 0003640171
【0021】
【発明の効果】
本発明の塩素系溶剤の精製方法によれば、回収再使用される塩素系溶剤中の酸性物質が除去され、pHも中性領域に保たれるので、該塩素系溶剤を循環再使用しても設備の腐食劣化を充分に抑制することができるとともに、回収塩素系溶剤中の酸性物質が充分除去されているために、フレッシュな塩素系溶剤と混合使用しても使用塩素系溶剤の品質を低下させることが無く安定した品質を保持することができ、長期間の使用が可能になるとともに長期間、安定して設備の運転を継続出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】塩素系溶剤としてテトラクロロエチレンを用いた被覆肥料製造プロセス図
【符号の説明】
1.噴流塔
2.尿素粒子投入口
3.排ガス出口
4.スプレーノズル
5.尿素
6.ポンプ
7.被覆尿素粒子抜き出し口
8.熱交換器
9.オリフィス流量計
10.ブロワー
11.溶解槽
12.被覆材料とテトラクロロエチレンの混合溶解液
13.フィルター
14.コンデンサー
15.凝縮液の通るライン
16.尿素充填槽
17.尿素
18.テトラクロロエチレンの水分離タンク
19.回収テトラクロロエチレンタンク
T1.熱風温度
T2.尿素粒子温度
T3.排ガス温度
ST.スチーム
RST.スチームドレン
BR.入り冷媒
RBR.返り冷媒
LQ.テトラクロロエチレン及び水の凝縮液出口

Claims (5)

  1. トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、塩化メチル、ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、塩化エチル、1,2−ジクロロエタンおよび1,2−ジクロロエチレンの中から選ばれる1種以上である塩素系溶剤中の酸性物質を、尿素を用いて中和除去することを特徴とする塩素系溶剤の精製方法。
  2. 塩素系溶剤がテトラクロロエチレンである請求項1記載の塩素系溶剤の精製方法。
  3. 尿素充填ゾ−ンに塩素系溶剤を通過させ該尿素と接触させて該塩素系溶剤中の酸性物質を中和除去することを特徴とする請求項1または2記載の塩素系溶剤の精製方法。
  4. 尿素が、尿素粒子の投影面積円相当径の加重平均値が1mmから10mmであることを特徴とする請求項1もしくは請求項のいずれか1項記載の塩素系溶剤の精製方法。
  5. 水分が共存する塩素系溶剤中の酸性物質を尿素で中和したのち、水溶性中和物を分離器で塩素系溶剤から分離除去することを特徴とする請求項記載の塩素系溶剤の精製方法。
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