JP3630657B2 - クラッチ用スレーブシリンダ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動二・三輪車や四輪自動車等の各種走行車両の液圧式クラッチに用いられるスレーブシリンダに係り、詳しくは、スレーブシリンダのピストンのシール構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動二輪車等に用いられる液圧式クラッチのスレーブシリンダとして、例えば特開昭58−689号公報に示されるものがある。
このスレーブシリンダは、ミッションケースの一側壁外面にシリンダボディを固着して取り付けされ、該シリンダボディのシリンダ孔に内挿されるピストンと、ミッションケースの内部に配設されたクラッチとの間にプッシュロッドを介装し、前記シリンダ孔の底壁に画成される液圧室に昇圧した作動液を供給して、前記ピストンとプッシュロッドとをミッションケース方向へ押動することにより、前記クラッチの切り離しを行い、また前記液圧室への作動液の供給を解除することにより、前記ピストンとプッシュロッドとをスレーブシリンダ方向へ移動させて、前記クラッチの接続を行うようになっている。
【0003】
ピストンの外周面に凹設された2条のシール溝には、それぞれリップ状のカップシールが嵌着され、各カップシールの外側で液圧室方向へ拡径するリップ部をシリンダ孔の内周面に圧接させて、液圧室を液密にシールしている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、ピストンのシール材にこのようなカップシールを用いると、外周面のリップ部が液圧室へ供給される作動液によって圧縮変形するため、液圧室のボリュームが増大して液圧損失を招き、クラッチの断続作動が立ち後れたり作動力の損失が懸念される。
【0005】
また、ピストン外周の2つのカップシールは、リップ部を液圧室側へ向けて液圧室内の作動液のシール性を高めるようにしており、ミッションケースに充填される潤滑油をシールするためには、別途ミッションケースの側壁にシール材を用いる必要がある。さらに、液圧室内の作動液とミッションケース内の潤滑油とが他方へ漏れ出して混ざり合うことのないよう、スレーブシリンダとミッションケースとの間にスペースを設定しているが、このような設定は装置の大型につながるため、好ましくない。
【0006】
そこで本発明は、作動時の液圧損失を極力防止して、クラッチの俊敏な断続作動と作動効率の向上を図り、併せて装置の小型化が可能なクラッチ用スレーブシリンダを提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するため、本発明は、クラッチとトランスミッションとを内装したミッションケースにシリンダボディが取り付けられて、該シリンダボディに穿設された有底のシリンダ孔がミッションケース内に開口して設けられ、該シリンダ孔にピストンを内挿して、該ピストンと前記シリンダ孔の底壁との間に液圧室を画成するとともに、前記ピストンとクラッチとの間にプッシュロッドを介装し、該プッシュロッドと前記ピストンとを前記液圧室に供給される作動液にてシリンダ軸方向へ移動して、前記クラッチを断続作動するクラッチ用スレーブシリンダ装置において、前記ピストンの外周面に複数のシール溝を凹設し、該シール溝に前記シリンダ孔との間をシールするシール材を嵌着するとともに、最も液圧室側のシール溝に嵌着されるシール材にノンリップシールを用い、最もクラッチ側に配設されてミッションケース内の潤滑油をシールするシール材にリップ状シールを、リップ部をクラッチ側に向けて前記ミッションケース方向に拡径して用いる。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1は、参考例を示すもので、スレーブシリンダ1は、クラッチとトランスミッション(いずれも図示せず)とを内装したミッションケース2の一側壁2aに筒状部2bを設け、該筒状部2bに外側より差し込んだシリンダボディ3をボルト止めしてミッションケース2に取り付けされている。
【0010】
シリンダボディ3には、有底のシリンダ孔4がミッションケース2内へ開口して設けられ、該シリンダ孔4に、ピストン5がOリング6,7を介して液密且つ移動可能に内挿されるとともに、ピストン5とシリンダ孔4の底壁との間に液圧室8が画成されている。
【0011】
スレーブシリンダ1のピストン5は、液圧室8とミッションケース2の内部との間を直接仕切っていて、従来これらの間に設定されていたミッションケースの側壁とスペースとは省略されているため、ピストン5のシリンダ孔開口側面がミッションケース2に充填された潤滑油に浸ることとなるが、液圧室8とミッションケース2の内部とはピストン外周に嵌着したOリング6,7によって液密に仕切られている。
【0012】
シリンダ孔4の底壁には、作動液導入口10が液圧室8に連通して設けられ、またピストン5とクラッチとの間にはプッシュロッド11が介装されている。ピストン5には、外周面に2条のシール溝5a,5bが凹設され、シリンダ孔開口側面中央に球面状凹部5cが形成されるとともに、液圧室側面中央に周溝5dが形成されている。シール溝5a,5bには、前述のOリング6,7が嵌着され、またシリンダ孔4の底壁と周溝5dとの間にリターンスプリング12を縮設して、プッシュロッド11の一端11aをピストン5の球面状凹部5cに当接させている。
【0013】
ピストン5のシール溝5a,5bに嵌着される2つのOリング6,7は、リップ状部分を持たない本発明でいうノンリップシールで、シリンダ孔4にピストン5を収容した状態では、外周側がシリンダ孔4の内周面に圧接されるために断面を楕円形に変形させており、液圧室側のOリング6は、液圧室8内の作動液がミッションケース2へ浸入するのを有効に防止し、またクラッチ側のOリング7では、ミッションケース2内の潤滑油が液圧室8へ浸入するのを有効に防止している。
【0014】
本参考例は、以上のように構成されており、運転者がクラッチ操作を行うと、別途の図示しない液圧マスタシリンダで昇圧した作動液が、スレーブシリンダ1の作動液導入口10から液圧室8へ入って、ピストン5をシリンダ孔4の開口部方向へ押動し、さらにピストン5がプッシュロッド11をミッションケース2の内部方向へ押動して、クラッチの切り離しが行われる。
【0015】
また、上述のクラッチ操作を解除すると、液圧マスタシリンダからスレーブシリンダ1の液圧室8へ供給された作動液が、作動液導入口10を通して液圧マスタシリンダ側へ還流していき、液圧室8の作動液による押動を解かれたピストン5とプッシュロッド11とがスレーブシリンダ方向へ復帰して、クラッチの接続が行われる。
【0016】
液圧室側のシール溝5aに嵌着したOリング6には、液圧室8へ供給される作動液の液圧(動圧)が圧縮力として作用するが、Oリング6は、大きな圧縮変形の要因となるリップ部を持たないノンリップシールであるため、液圧による変形は極めて小さなものに抑えられる。この結果、液圧室8のボリュームの増大による液圧損失が極力防止されるので、立ち上がりが俊敏で効率のよいクラッチの断続作動を行うことができる。
【0017】
また、クラッチ側のシール溝5bに嵌着されるOリング7には、ミッションケース2内の潤滑油が作用するが、この潤滑油はミッションケース2に収容されるだけの静圧であるために、Oリング7はこれをよく液封し、さらに液圧室側のOリング6と相俟って、液圧室8の作動液とミッションケース2の潤滑油との混入を確実に防止する。
【0018】
さらに、スレーブシリンダ1のピストン5は、スレーブシリンダ1の液圧室8とミッションケース2の内部との間を直接仕切り、かつこれらの間を、2つのOリング6,7が高い性能でシールするので、従来スレーブシリンダとの間に設けられていたミッションケースの側壁やこの側壁に装着されるシール材、スレーブシリンダとミッションケースの側壁との間に設定されていたスペースを省略できて、スレーブシリンダ1とミッションケース2の小型・軽量化が図れる。
【0019】
図2は、本発明の第1形態例を示すもので、液圧室側のシール溝5aには、参考例と同じOリング6が用いられ、クラッチ側のシール溝5bには、参考例のOリングに代えてカップシール20が用いられている。
【0020】
カップシール20は、ピストン5のシール溝5bに収容されるベース部20aと、該ベース部20aの外周側からシール溝5bを出てミッションケース方向へテーパ状に図2において上下方向に拡径し、先端外周をシリンダ孔4の内周面に液密且つ移動可能に押圧されるリップ部20bとからなるリップ状シールで、リップ部20bをクラッチ側へ向けて配設したことから、ミッションケース2の潤滑油の静圧に対するシール性は第1形態例のOリング7よりも高い。
【0021】
本形態例はこのように、液圧室側のOリング6によって、液圧室8の液圧損失を極力防止して、立ち上がりが俊敏で効率のよいクラッチの断続作動を行いつつ、クラッチ側に採用したリップ状のカップシール20によって、ミッションケース2の潤滑油をより確実にシールする。
【0022】
図3は、本発明の第2形態例を示すもので、クラッチ側のシール溝5bに嵌着されるリップ状シールとして、Xシール30を用いている。Xシール30は、シール溝5bに圧着されるリップ部30a,30aと、シリンダ孔4の内周面に圧着されるリップ部30b,30bとを有する断面X字状に形成されており、第1形態例のカップシール20と同様に、ミッションケース2の潤滑油をシール性を一層高めるものとなっている。
【0023】
さらに、第1,第2形態例では、液圧室側のノンリップシールとクラッチ側のリップ状シールとの組み合わせにより、参考例と同様に、ミッションケースの側壁やミッションケース側壁のシール材、スレーブシリンダとの間のスペースを省略できて、スレーブシリンダとミッションケースの小型・軽量化が可能である。
【0024】
なお、本発明のノンリップシールとして、形態例のOリング以外に、例えば角シールを用いてもよく、またピストンのクラッチ側に用いるリップ状シールとして、形態例のカップシールやXシール以外に、オイルシールを用いることができる。
【0025】
また本発明は、ピストンに複数のシール材を用いる場合に、少なくとも最も液圧室側のシール材としてノンリップシールを用いるだけでも、所期の目的を達成することができる。さらに、ピストンのシール材を3つとしてもよく、この場合には、液圧室側にノンリップシールを、またクラッチ側にリップ状シールをそれぞれ適用することが望ましく、中間のシール材は、ノンリップシール及びリップシールのいずれであっても差し支えない。
【0026】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のクラッチ用スレーブシリンダは、ピストン外周に複数のシール材を用い、このうち、少なくとも最も液圧室側のシール材をノンリップシールとすることにより、シール性能を高めることができる。さらに、このようなシール性能の向上によって、従来スレーブシリンダとの間に設けられていたミッションケースの側壁やこの側壁に装着されるシール材、スレーブシリンダとミッションケースの側壁との間に設定されていたスペースを省略できて、スレーブシリンダとミッションケースの小型・軽量化が図れる。さらに、クラッチ側のシール材をリップ状シールとすることにより、クラッチが配設されるミッションケース内部の潤滑油のシール性を一層高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】参考例を示すスレーブシリンダの断面図
【図2】本発明の第1形態例を示すスレーブシリンダの要部断面図
【図3】本発明の第2形態例を示すスレーブシリンダの要部断面図
【符号の説明】
1…スレーブシリンダ、2…ミッションケース、2a…一側壁、2b…筒状部、3…シリンダボディ、4…シリンダ孔、5…ピストン、5a,5b…シール溝、6,7…Oリング(本発明のノンリップシール)、8…液圧室、11…プッシュロッド、20…カップシール(本発明のリップ状シール)、30…Xシール(本発明のリップ状シール)
Claims (1)
- クラッチとトランスミッションとを内装したミッションケースにシリンダボディが取り付けられて、該シリンダボディに穿設された有底のシリンダ孔がミッションケース内に開口して設けられ、該シリンダ孔にピストンを内挿して、該ピストンと前記シリンダ孔の底壁との間に液圧室を画成するとともに、前記ピストンとクラッチとの間にプッシュロッドを介装し、該プッシュロッドと前記ピストンとを前記液圧室に供給される作動液にてシリンダ軸方向へ移動して、前記クラッチを断続作動するクラッチ用スレーブシリンダ装置において、前記ピストンの外周面に複数のシール溝を凹設し、該シール溝に前記シリンダ孔との間をシールするシール材を嵌着するとともに、最も液圧室側のシール溝に嵌着されるシール材にノンリップシールを用い、最もクラッチ側に配設されてミッションケース内の潤滑油をシールするシール材にリップ状シールを、リップ部をクラッチ側に向けて前記ミッションケース方向に拡径して用いたことを特徴とするクラッチ用スレーブシリンダ装置。
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