JP3629926B2 - インクジェットヘッド洗浄液およびその製造方法ならびにそれを用いたインクジェットヘッドの洗浄方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インクジェット記録装置のインクジェットヘッドを洗浄するための洗浄液、およびその洗浄液の製造方法、ならびにその洗浄液を用いたインクジェットヘッドの洗浄方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
インクジェット記録方式の原理は、ノズル、スリットあるいは多孔質フィルム等から液体あるいは溶融固体インクを吐出し、紙、布、フィルム等に記録を行うものである。インクを吐出する方法については、静電誘引力を利用してインクを吐出させる、いわゆる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用してインクを吐出させる、いわゆるドロップオンデマンドの圧力パルス方式、高熱により気泡を形成、成長させることにより生じる圧力を利用してインクを吐出させる、いわゆる熱インクジェット方式等、各種の方式が提案されており、これらの方式により、極めて高精細の画像を得ることができる。
【0003】
インクジェット記録方式に使用するインクとしては、各種の水溶性の染料を水と水溶性有機溶媒からなる液状媒体に溶解させた水性染料インク、各種の顔料を水と水溶性有機溶媒からなる液状媒体に分散させた水性顔料インク、油溶性染料を有機溶媒に溶解させた油性染料インク等が知られている。このようなインクの中でも、水性インクは、主溶媒が水であるため、安全性に優れており、インクジェット記録用インクの主流となっている。
【0004】
このような水性インクを、インクジェット記録に使用するためには、インクジェット記録ヘッド内に存在する場合は液体状態で安定にヘッド内に保持され、乾燥による目詰まりが起こらないことが要求されている。しかし、一方で、紙などの記録媒体上へ印字された場合、インクは速やかに浸透乾燥し、定着するという相反する性能が要求される。
【0005】
インクジェットヘッドの目詰まりを防止しつつ、速やかに浸透乾燥し、定着するインクを得るために、インク組成の観点から、インクに保湿剤、浸透剤、増粘剤等を添加し両者のバランスをとることが検討されているが、水性インクは主溶媒に水を用いているため、本質的には乾燥するものであり、長期保管時や、高温低湿保管時の乾燥による目詰まりの問題を避けることは難しい。
従って、目詰まりが生じた場合に、これを容易に回復する手段が求められていた。
【0006】
また、インクジェットヘッドは、メーカーが出荷前にインクを充填し、印字検査後にインクを除去・洗浄して出荷されるが、出荷後、市場で長期保管等の強いストレス条件下にさらされ、使用開始後の早い時期に目詰まりや印字不良等の問題を起こす場合もある。これは、インクを除去・洗浄した後に、インクジェットヘッド内に残存する洗浄液等に起因するものである。
従って、使用せずに長期保管する等の場合にも、インクジェットヘッドを正常に維持する手段が求められていた。
【0007】
そこで、水性インクを用いた場合のインクジェットヘッドの洗浄液、洗浄方法について、種々の提案がなされている。
たとえば、特開昭63−260451号公報には、インクより粘性率が低い洗浄液を用いた洗浄方法が提案されている。また、特開平4−115954号には、水と有機溶剤と界面活性剤を含む洗浄液が提案されている。また、特開平6−8471号には、高アルカリ溶液や界面活性剤溶液の洗浄液を用いた洗浄方法が提案されている。
しかしながら、これらの洗浄液や洗浄方法を用いても、洗浄液に高粘度材料が含まれる場合には、洗浄後の残留物が凝集高粘度化し、インクジェットヘッドの細い流路を閉塞したり、ノズル面に付着して印字不良を起こしやすいといった問題がある。また、洗浄液が高アルカリ溶液であると、残留した洗浄液がノズル内で乾燥した場合、アルカリが非常に高濃度で付着しヘッド部材を腐食する問題がある。また、殺菌・滅菌等を行わないため、洗浄液中には生菌数が多く、インクジェットヘッド内に残留する洗浄液が劣化し悪影響を及ぼしたり、長期保管で洗浄液が劣化したりする問題がある。
さらに、特開昭58−71170号公報には、洗浄液とインクを置換した後、空気により洗浄液を排出する方法が提案されている。これは、洗浄液を排出することにより、残存洗浄液の変質等に由来する目詰まり等を防止するものである。
しかしながら、インクジェットヘッド内から洗浄液を排出し、インクジェットヘッドを空にした状態で保管等しても、排出後の残留物により、上記と同様の問題を生じる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、目詰まり等の問題を起こしたプリントヘッドを正常な状態に回復させるため、及び高温や長期にわたる保管においてプリントヘッドを正常に保ち高画質を維持するための、インクジェットヘッドの洗浄液、およびその洗浄液の製造方法、ならびにインクジェットヘッドの洗浄方法を提供するである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、インクジェットヘッドの目詰まりの原因となるインク中の蒸発残留成分の溶解性と洗浄後に目詰まりや印字不良を生じる残留成分に着目して、鋭意検討を行った結果、洗浄後の残留成分には、25℃での粘度が10mPas以上の物質、25℃で固体の物質、菌の繁殖に由来する物質が多く含まれていること、および、目詰まりを起こす残留成分が水や低級アルコール等の低粘度のプロティックな極性溶媒に溶解することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、第1の本発明は、水性インクを用いてプリントを行うインクジェットプリンターのインクジェットヘッド洗浄液において、少なくとも水とアルコールとを含有すると共に、水を80重量%以上含み、25℃での粘度が10mPas以上の物質および/または固体の物質の含有量が0.1 重量 % 以下であり、生菌数が0.5個/ml以下であり、25℃での粘度が0.6〜3.0mPasであり、25℃での導電率が3×10-2〜3×10-5S/mであることを特徴とするインクジェットヘッド洗浄液である。
また、第2の本発明は、水性インクを用いてプリントを行うインクジェットプリンターのインクジェットヘッド洗浄液において、非イオン性界面活性剤を含むと共に、水を 80 重量 % 以上含み、 25 ℃での粘度が 10mPas 以上の物質および/または固体の物質の含有量が 0.1 重量 % 以下であり、生菌数が 0.5 個 /ml 以下であり、 25 ℃での粘度が 0.6 〜 3.0mPas であり、 25 ℃での導電率が 3 × 10 -2 〜 3 × 10 -5 S/m であることを特徴とするインクジェットヘッド洗浄液である。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明で用いる水は、本発明の洗浄液の主成分であり、25℃での粘度が10mPas以上の物質および/または固体の物質の含有量が0.1 重量 % 以下であり、生菌数が0.5個/ml以下であり、25℃での粘度が0.6〜3.0mPasであり、25℃での導電率が3×10-2〜3×10-5S/mである洗浄液を得るためには、ある程度、精製されたものであることが好ましく、たとえば、超純水、純水、イオン交換水、蒸留水等の他、超音波処理水、磁化水、電解水、イオン化水等を用いることができる。また、水中に存在する溶存酸素等の気体を脱気した水を用いてもよい。
特に、洗浄液の導電率は、原料である水の導電率に左右されるため、25℃での導電率が、2×10-4S/m以下であることが好ましく、25℃での導電率が8×10-5S/m以下である水を用いることがより好ましい。
【0013】
これらの精製された水は、従来公知の方法により得ることができる。
たとえば、超純水であれば、図1に示すように、水道水や井戸水を原水として、粗大粒子等を除去するための活性炭吸着処理等の前処理を行った後、微粒子を除去するための逆浸透膜処理、溶解しているイオン類を除去するためのイオン交換処理、処理工程で発生する微粒子を除去するための中間ろ過処理、イオン性物質をさらに除去し精製度を高めるためのイオン交換処理、殺菌のための紫外線照射処理を順次行い、最終ろ過処理を行って、生菌数が0.01個/ml以下、25℃での粘度が0.9mPas、25℃での導電率が7×10−7S/mである超純水を得ることができる。
【0014】
本発明の洗浄液は、主成分として水を80重量%以上含有する。水以外の成分が20重量%以上になると洗浄液の溶解能力が急激に減少してしまい目的の効果が得られなくなる。また、高粘度物質等その他の物質の量が増え過ぎ、洗浄後インクジェットヘッド内に洗浄液が残留した場合、水分等の蒸発による残留高粘度物質の発生や固形分の析出によるノズル閉塞やノズル面に付着する残留物による印字不良の問題が生じる。
【0015】
本発明の洗浄液には、水以外の成分としては、水溶性有機溶剤としてのアルコール又は界面活性剤を含有している。このような成分は、水の持つ溶解能力を最大限に発揮させるためには、含まない方が好ましいが、インクジェットヘッド内部への洗浄液の浸透や内部壁面への濡れ性を制御し、インクジェットヘッド内部の広範囲の洗浄をより効率的に行うために有効である。
特に、低粘度の水溶性有機溶剤は洗浄液のインクジェットヘッド内への浸透を大きく助けるので好ましい。
【0016】
水溶性有機溶剤の具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、グリセリン、チオジグリコール等の多価アルコール類やポリアルキレングリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類、またエタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール等のアルコール類、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン類などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0017】
この中でも、グリコールエーテル類は比較的低粘度で、浸透性を高める効果を持つので、プリントヘッド内に効率的に洗浄液が行き渡る様にできる点で好ましい。また、低級アルコール類もグリコールエーテル類と同様の効果があり、さらに沸点も低いため、洗浄後の乾燥を助ける上で好ましい。これら低級アルコール類の中でも、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、sec−ブタノール、ベンジルアルコールが特に好ましい。
【0018】
界面活性剤としては、ノニオン界面活性剤を添加する。ノニオン性界面活性剤が、洗浄液の導電率上昇を小さくできる点で好ましい。アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、あるいは両性界面活性剤等のイオン性界面活性剤を添加する場合は、導電率が微量でも急激に上昇するため、0.01重量%以下にすることが好ましい。
【0019】
非イオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンドデシルフェニルエーテル、等の、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロック共重合体、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物、グリセリンのエチレンオキサイド付加物、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミド等が挙げられる。この中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレン/ポリオキシプロピレンブロック共重合体、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が、特に好ましい。
【0020】
また、必要に応じて、防腐剤、防カビ剤、殺菌剤等を添加してもよい。このような成分は、水の持つ溶解能力を最大限に発揮させるためには、含まない方が好ましいが、菌の増殖を抑制するために有効である。
防腐剤、防カビ剤、殺菌剤としては、安息香酸、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム等を用いることができる。
【0021】
本発明の洗浄液では、25℃での粘度が10mPas以上の物質および/または固体の物質の含有量が0.1 重量%以下である。25℃での粘度が10mPas以上の物質および/または固体の物質は、洗浄後にインクジェットヘッド内に残留して凝集高粘度化し易く、これを1重量%以上添加すると、洗浄後の乾燥による高粘度物質の凝集によりノズル閉塞やノズル面に付着する残留物による印字不良を起こしやすくなる。
従って、前記した水溶性有機溶剤であっても、多価アルコール類やポリアルキレングリコール類は、粘度が高いものが多いため、1重量%以下にしなければならない。本発明では、 0.1 重量%以下である。
さらに、洗浄液中の0.2μm以上の微粒子数が、100個/ml以下にすることで、洗浄後のヘッド内の残留洗浄液が蒸発する際の残渣が極めて少なくなり、プリントヘッドの信頼性が向上する。
【0022】
本発明の洗浄液中の生菌数は0.5個/ml以下であり、より好ましくは、生菌数が0.25個/ml以下である。
洗浄液中の生菌数が0.5個/mlより多くなると洗浄液の保管中に、菌類が増殖し、液中の固形分が増加するため、洗浄液が劣化してしまう。また、ノズル中に残留した洗浄液中で菌類が増殖しやすく、ノズル閉塞や印字不良が発生し、インクジェットヘッドの性能が劣化する。
【0023】
本発明の洗浄液の25℃での粘度は0.6〜3.0mPasの範囲にあり、より好ましくは、0.7〜1.5mPasの範囲である。粘度が0.6mPas以下になると、ヘッド内部の非水溶性微粒子等の異物を押し流す能力が低下し、インクジェットヘッドの性能を劣化させる。一方、3.0mPas以上になると、ヘッド内の微細な流路への洗浄液の浸透が遅くなり、洗浄効率が低下する。
【0024】
本発明の洗浄液の25℃での導電率が3×10−5〜3×10−2S/mの範囲にあり、より好ましくは、3×10−5〜1×10−2S/mの範囲である。
本発明の洗浄液は、インク中の固形分及び保湿剤等の高粘度成分に対して高い溶解能力を有し、この高い溶解能力は、洗浄液の導電率を3×10−2S/m以下に保つことで維持される。これは、水溶液の溶解能力は、水和配位可能な水分子や水クラスターの存在に支配され、水和配位可能な水分子や水クラスターを消費してしまう様なイオン性物質や水性高粘度物質などが水中に存在すると導電率の上昇に伴い溶解能力が低下するためであると考えられる。一方、導電率が3×10−5S/mより低いと、洗浄液が帯電しやすくなり空気中のごみ等を取り込みやすくなり、この洗浄液を使用すると、インクジェットヘッド内にごみが残留しやすくなり、インクジェットヘッドの性能を劣化させる。
【0025】
本発明の洗浄液は、上記原料成分を混合して製造されるが、原料成分由来の高粘度物質、固形物、菌等や製造途中で混入した高粘度物質、固形物、菌等を除去するために、原料混合後に、洗浄液原液の紫外線照射による殺菌工程、孔径が0.5μm以下のメンブランフィルターでろ過する工程、限外ろ過膜でろ過する工程、および逆浸透膜でろ過する工程から選ばれる少なくとも一種の工程を有することが好ましく、殺菌能力に優れる点で、少なくとも紫外線による殺菌工程を有していることがより好ましい。また、これらの工程を行う前に、粗大粒子を除去するための中間ろ過処理工程を設けてもよく、さらに、必要があれば、最終工程で、洗浄液中に溶存する酸素等の気体を脱気する工程を設けてもよい。
【0026】
紫外線照射による殺菌工程は、主に、洗浄液原液中の生菌を死滅させ、菌の繁殖を防ぐための工程で、高輝度UVランプを用いて紫外線を照射して行われる。メンブランフィルターでろ過する工程は、孔径が0.5μm以下のメンブランフィルターを用いて行われ、0.5μmを超える、主に、液中の粒子不純物や雑菌等を除去する工程である。限外ろ過膜でろ過する工程は、主に、0.01μm以下の微粒子や雑菌を除去するための工程で、市販の限外ろ過装置により行われる。逆浸透膜でろ過する工程も、主に、0.01μm以下の微粒子や雑菌を除去するための工程で、市販の逆浸透膜ろ過装置を用いて行われる。
また、これらの工程は、適宜、組み合わせて用いることもできる。
【0027】
図2のa〜dは、本発明の洗浄液の製造方法の例を示す工程図である。
製造方法aは紫外線照射による殺菌工程、および限外ろ過膜でろ過する工程を有し、製造方法bは紫外線照射による殺菌工程、および逆浸透膜でろ過する工程を有し、製造方法cは紫外線照射による殺菌工程、および孔径が0.5μm以下のメンブランフィルターでろ過する工程を有し、製造方法dは孔径が0.5μm以下のメンブランフィルターでろ過する工程を有する。
【0028】
本発明の洗浄液は、インクジェットヘッドのいかなる洗浄方法においても、使用することができ、洗浄後、残留洗浄液をプリントヘッド内に充填した状態で保管等することもできる。
しかしながら、洗浄液を除去した場合の方が液漏れ等に対する信頼性が高いこと等を考慮すれば、長期保管等に際しては、インクジェットヘッドを洗浄液で洗浄する工程、洗浄後にインクジェットヘッド内部の液体を除去する工程を有する洗浄方法を用いるのが好ましい。
また、従来の洗浄液は、洗浄後、プリントヘッドの内部の液体を除去する工程を経ても完全に液体を除去することはできず、残留した洗浄液が増粘したりして、プリントヘッドにインクを最充填し印字使用した際に画質劣化等の問題を引き起こしていたが、本発明の洗浄液を用いた場合、蒸発残渣が非常に少なく、乾燥時の増粘も小さいため、このような問題は起こらない。
【0029】
インクジェットヘッドを洗浄液で洗浄する工程とは、洗浄液をインクジェットヘッドの流路内に導入し、洗浄する工程であり、洗浄液をインクジェットヘッドの流路内に導入する方法としては、プリントヘッドのインク流路側から、チューブ、洗浄液タンク等を用いて洗浄液を供給する方法や、スプレー等でノズル面に洗浄液を吹きつけて洗浄液を供給する方法等があげられる。この中でも、インクジェット記録装置内において、インクジェットヘッドの洗浄を行える点で、洗浄液タンク等を用いて洗浄液を供給する簡易な方法が好ましい。さらに、洗浄液を効率的にプリントヘッド内に供給するために、洗浄液を加圧供給や減圧供給、あるいはプリントヘッドを駆動させ噴射による流れを形成し供給する手段を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
また、インクジェットヘッドの流路内を洗浄する方法としては、洗浄液に熱エネルギーを作用させて洗浄液を液滴にする操作と、加圧または吸引を交互に行うことによって実施するのが好ましい。これらの操作を繰り返す回数は1〜10回がよいが、洗浄効果を上げるためには3〜10回がより好ましい。
【0031】
洗浄後にインクジェットヘッド内部の液体を除去する工程とは、洗浄後の洗浄液をインクジェットヘッド内部から外部へと排出する工程である。
排出の方法には、加圧または吸引によってノズルから洗浄液を排出させる方法や、プリントヘッドを駆動させて、液滴を排出させる方法がある。
【0032】
特に、プリントヘッドとインクタンクに分離できるヘッドタンク分離型のプリントヘッドユニットからなるインクジェットヘッドの場合には、洗浄液タンクをインクタンクと置換可能に構成することにより、インクタンクと洗浄液タンクを交換するだけで、インクジェットヘッドの洗浄を行うことができる。これにより、装置内に別途、洗浄液タンクを具備する必要がなくなり、また、インクジェットヘッドだけでなく、流路全体を洗浄することができるので好ましい。
【0033】
また、洗浄液タンク等を用いて洗浄液を供給する場合は、装置内での洗浄液の漏れを防止するため、内部に洗浄液保持部材を有することが好ましい。洗浄液保持部材としては、たとえば、発泡性材料、可液体包含部材、多孔質体、化学繊維材料その他の繊維材料等、インク保持部材として公知のものを使用することができる。
【0034】
【実施例】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。
【0035】
参考例(以下、「実施例1」は「参考例」と読み替える。)
水道水を原水とし、図3に示すフローに従い、原水を、ミリポア社製の活性炭入りプレフィルターで前処理した後、逆浸透膜処理とともに、イオン交換処理、0.2μmのフィルターろ過処理を行える逆浸透膜装置(商品名「ミリRX12」;ミリポア社製)で処理し、続いて、限外ろ過処理とともに、活性炭処理、イオン交換処理、紫外線照射処理を行える限外ろ過装置(商品名「ミリQSPTOC」;ミリポア社製)により処理を行って、洗浄液1を得た。
【0036】
実施例2
上記の原料を上記組成で混合溶解し、洗浄液2を得た。
【0037】
実施例3
実施例1で得られた洗浄液1 99.9重量%
ポリオキシエチレンノニルエーテル
(固体;30モル エチレンオキサイト゛付加物) 0.1 重量%
上記の原料を上記組成で混合溶解し、洗浄液3を得た。
【0038】
実施例4
上記の原料を上記組成で混合溶解し、洗浄液4を得た。
【0039】
実施例5
上記の原料を上記組成で混合溶解し、洗浄液5を得た。
【0040】
実施例6
上記の原料を上記組成で混合溶解し、洗浄液6を得た。
【0041】
実施例7
上記の原料を上記組成で混合溶解し、洗浄液7を得た。
【0042】
実施例8
上記の原料を上記組成で混合溶解し、洗浄液8を得た。
【0043】
実施例9
実施例2で得られた洗浄液2を、孔径0.2μmのメンブランフィルター(商品名「デュラポア」;ミリポア社製)でろ過し、洗浄液9を得た。
【0044】
実施例10
実施例2で得られた洗浄液2を、限外ろ過装置(商品名「プレップスクールTFF−1」;ミリポア社製)により、「PLBC,VFカートリッジ」(ミリポア社製)を用いて限外ろ過を行って、洗浄液10を得た。
【0045】
実施例11
上記の原料を上記組成で混合溶解し、洗浄液11を得た。
【0046】
比較例1
水道水を採取して、そのまま洗浄水12として使用した。
【0047】
比較例2
上記の原料を上記組成で混合溶解し、洗浄液13を得た。
【0048】
比較例3
上記の原料を上記組成で混合溶解し、洗浄液14を得た。
【0049】
比較例4
上記の原料を上記組成で混合溶解し、洗浄液15を得た。
【0050】
比較例5
上記の原料を上記組成で混合溶解し、洗浄液16を得た。
【0051】
比較例6
上記の原料を上記組成で混合溶解し、洗浄液17を得た。
【0052】
比較例7
市販のメタノール(JIS特級)を、そのまま洗浄水18として使用した。
【0053】
比較例8
水道水を原水とし、図4に示すフローに従い、原水を、ミリポア社製の活性炭入りプレフィルターで連続処理し、洗浄水19を得た。
【0054】
上記の洗浄液について、下記の特性評価および洗浄性能評価を行った。特性評価の結果は表1に、洗浄性能評価の結果は表2に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
(特性評価)
1) 導電率測定
25℃の環境下で、導電率計(電気化学計器(株)製)により測定した。
2) 粘度測定
25℃の環境下で、粘度計(レオマット(株)製)により測定した。
3) 微粒子数測定
JIS K0554(1990)の超純水中の微粒子測定方法に準じて、0.2μmの微粒子補足用ろ過膜上の粒子数を光学顕微鏡で測定した。
4) 生菌数測定
JIS K0554(1990)の超純水中の細菌数試験方法の短時間培養での細菌数試験に準じて測定した。
【0058】
(洗浄性能評価)
1) インクジェットヘッド洗浄試験1
図5は、洗浄試験1で使用する、洗浄液タンクを取り付けたインクジェット記録装置の概略断面図である。
洗浄液をインクタンクと同様のタンクに充填し、洗浄液タンク1とした。洗浄液タンク1は、プリントヘッド2と連結され、キャリッジ3に収納されている。プリントヘッド2の先端は、ノズル面4となっており、ノズル面4には、開口面積は2×10−4mm2 の320本のノズル孔が設けられている。また、プリントヘッド2と対向する位置にプリントヘッド2と圧着可能に構成されたキャップ5が設けれており、キャップ5は、支持体上に備え付けられ、吸引ポンプ6に接続されている。また、キャップ5が設けられた支持体上には、ワイパーブレード7が設けられており、さらに、ワイパーブレード7を清掃するための、ワイパークリーナー8がプリントヘッド2の下流側に設けられている。
図6に示す洗浄動作フローに従い、プリントヘッド2をキャップ5と圧着した状態で吸引ポンプ6により吸引し、洗浄液を、洗浄液タンク1から、プリントヘッド2に供給した。次に、キャップ5をプリントヘッド2から離して、ノズル面4を、ワイパーブレード7で拭き取った後、プリントヘッド2を駆動させ、ノズル面4より洗浄液を噴射させた。その後、洗浄液タンク1をキャリッジ3から取外し、再び、プリントヘッド2をキャップ5と圧着した状態で吸引ポンプ6により吸引し、洗浄液を図示されていない廃液タンクへと排出させた。さらに、プリントヘッド2を駆動させ、噴射により、毛管力で残留している洗浄液を図示されていない廃液タンクへと排出させてインクジェットヘッドを洗浄した。
その後、洗浄終了直後にインクタンクをインクジェットヘッド部に装着しインクジェットヘッド部へのインク充填動作を行い、印字特性を評価した。さらに、洗浄終了後、試作したインクジェットプリンターにインクジェットヘッド部のみを装着した状態で、35℃,85%RHの環境下に3ヵ月保管した後、インクタンクをインクジェットヘッド部に装着し、インクジェットヘッド部へのインク充填動作を行い、印字特性を評価した。
印字特性の評価基準を下記に示す。
○ 画質ディフェクトの未発生
△ 白筋、白抜け等の画質ディフェクトが少し発生する
× 白筋、白抜け等の画質ディフェクト多発する
【0059】
2) インクジェットヘッド洗浄試験2
図7は、洗浄試験2で使用する、洗浄液スプレーノズルを取り付けたインクジェット記録装置の概略断面図である。
キャップ5の内部には、洗浄液スプレーノズル9が設置されており、洗浄液スプレーノズル9は、洗浄液噴射用ポンプ10に接続されている。なお、図7において、図5のインクジェット記録装置と同一の構成については、同一符号を付して、説明を省略する。
プリンター上で、通常の回復動作では、回復しない目詰まりが発生したプリントヘッド2に対して、図7の装置を用い、プリントヘッド2をキャップ5と圧着した状態で、洗浄液スプレーノズル9に、洗浄液噴射用ポンプ10から、洗浄液を供給し、プリントヘッド2の先端のノズル面4に吹き付け、ノズル面4を洗浄した。
その後、通常の回復動作を行った後、印字を行い、目詰まりが回復しているかどうかを評価した。目詰まり回復の評価基準を下記に示す。
○ 全ノズルが回復し、画質ディフェクトが無い
△ 全ノズルが回復するが、画質ディフェクトが若干観られる
× 回復しないノズルがあり、画質ディフェクトが多い
【0060】
【発明の効果】
上記のように、本発明の洗浄液、及びこの洗浄液を用いたインクジェットヘッドの洗浄方法により、高温保管、長期保管、強い衝撃、気圧低下等のストレスに対しても、インクジェットヘッドを、インク漏れ、乾燥等に起因する故障から保守し印字画質をストレス前の状態に安定に保つことができる。さらに、本発明の洗浄液は、低粘度で溶解能力が高いため、インクジェットヘッドのノズル面に、インク成分の強固な析出固着による目詰まりが存在しても、析出物の微細なすき間にも容易に浸入し、析出成分を溶解できるため、この洗浄液及びこの洗浄液を用いたインクジェットヘッドの洗浄方法により、ノズルに目詰まりを起こしたインクジェットヘッドを、極めて簡単に正常状態に回復することも可能である。
このため、メーカーが印字検査後にこのような洗浄を行い出荷すれば、市場での信頼性が向上する。また、市場で長期保管等の強いストレス条件下にさらされることが予測される場合に、このような洗浄を行うことにより画質劣化等の問題を回避できる。さらに、市場でのストレスにより、目詰まり等の問題を起こしたインクジェットヘッドも容易に回復できる。
また、洗浄液によるインクジェットヘッドの洗浄について述べてきたが、本発明にはさらに別の効果がある。インクジェットヘッドの洗浄はすなわちメンテナンスパーツの洗浄を同時に行っている。印字枚数が極度に多いユーザの使用するプリンタや5年程度経過したプリンタに関してはメンテナンスパーツ、すなわち、ノズル面を清掃するワイパー、ノズルキャップ部品、吸引メンテナンス用ポンプ、排インク吸収体への流路等が、インクの付着により異常動作を起こすことことがありうる。その際は本発明の洗浄液を用いたインクジェットヘッドの洗浄方法により、ヘッド洗浄と同時にメンテナンスパーツの洗浄を行うことでメンテナンス装置の正常復帰が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】超純水の製造方法を示す工程図である。
【図2】本発明の洗浄液の製造方法の例を示す工程図である。
【図3】本発明の実施例1の洗浄液の製造方法を示す工程図である。
【図4】本発明の比較例1の洗浄液の製造方法を示す工程図である。
【図5】本発明の洗浄試験1で使用する、洗浄液タンクを取り付けたインクジェット記録装置の概略断面図である。
【図6】本発明の洗浄試験1の洗浄動作フローを示す工程図である。
【図7】本発明の洗浄試験2で使用する、洗浄液スプレーノズルを取り付けたインクジェット記録装置の概略断面図である。
【符号の説明】
1 洗浄液タンク
2 プリントヘッド
3 キャリッジ
4 ノズル面
5 キャップ
6 吸引ポンプ
7 ワイパーブレード
8 ワイパークリーナー
9 洗浄液スプレーノズル
10 洗浄液噴射用ポンプ
Claims (8)
- 水性インクを用いてプリントを行うインクジェットプリンターのインクジェットヘッド洗浄液において、
少なくとも水とアルコールとを含有すると共に、水を80重量%以上含み、
25℃での粘度が10mPas以上の物質および/または固体の物質の含有量が0.1 重量 % 以下であり、生菌数が0.5個/ml以下であり、25℃での粘度が0.6〜3.0mPasであり、25℃での導電率が3×10-2〜3×10-5S/mであることを特徴とするインクジェットヘッド洗浄液。 - 前記アルコールが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso-プロパノール、sec-ブタノール、およびベンジルアルコールから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェットヘッド洗浄液。
- 水性インクを用いてプリントを行うインクジェットプリンターのインクジェットヘッド洗浄液において、
非イオン性界面活性剤を含むと共に、水を 80 重量 % 以上含み、
25 ℃での粘度が 10mPas 以上の物質および/または固体の物質の含有量が 0.1 重量 % 以下であり、生菌数が 0.5 個 /ml 以下であり、 25 ℃での粘度が 0.6 〜 3.0mPas であり、 25 ℃での導電率が 3 × 10 -2 〜 3 × 10 -5 S/m であることを特徴とするインクジェットヘッド洗浄液。 - 請求項1から3までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッド洗浄液を製造する製造方法であって、
原料混合後に、紫外線による殺菌工程、孔径が0.5μm以下のメンブランフィルターでろ過する工程、限外ろ過膜でろ過する工程、および逆浸透膜でろ過する工程から選ばれる少なくとも一種の工程を有することを特徴とするインクジェットヘッド洗浄液の製造方法。 - インクジェットヘッドを洗浄液で洗浄する工程、洗浄後にインクジェットヘッド内部の液体を除去する工程を有するインクジェットヘッドの洗浄方法において、
請求項1から3までのいずれか一項に記載のインクジェットヘッド洗浄液を用いることを特徴とするインクジェットヘッドの洗浄方法。 - 前記洗浄液が洗浄液タンクから供給されることを特徴とする請求項5に記載のインクジェットヘッドの洗浄方法。
- プリントヘッドとインクタンクに分離できるヘッドタンク分離型のプリントヘッドユニットからなるインクジェットヘッドの洗浄方法であって、
前記洗浄液タンクがインクタンクと置換可能に構成されてなることを特徴とする請求項5に記載のインクジェットヘッドの洗浄方法。 - 前記洗浄液タンクが、内部に洗浄液保持部材を有することを特徴とする請求項6または7に記載のインクジェットヘッドの洗浄方法。
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