JP3628232B2 - 微生物識別方法、微生物識別装置、微生物識別用データベースの作成方法および微生物識別プログラムを記録した記録媒体 - Google Patents

微生物識別方法、微生物識別装置、微生物識別用データベースの作成方法および微生物識別プログラムを記録した記録媒体 Download PDF

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  • Apparatus Associated With Microorganisms And Enzymes (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、微生物識別方法、微生物識別装置、微生物識別用データベースの作成方法および微生物識別プログラムを記録した記録媒体に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、家庭等から排出される有機系廃棄物(いわゆる生ゴミ)等をコンポスト化(肥料化)する生ゴミ処理機が活発に研究開発されている。生ゴミ処理機では、細菌、原生動物等の微生物群が有機物を分解することにより肥料が作成される。
【0003】
このような生ゴミ処理機によるコンポスト化では、そのコンポスト化過程(有機物分解過程)において、温度等をモニタすることによりコンポスト化の度合いを評価する。そして、その評価に基づき良質な肥料が作成されるように生ゴミ処理機の状態を調節する。
【0004】
しかしながら、より良質な肥料を作成するためには、生ゴミ処理機の内部で機能する微生物群(少なくとも微生物の種類)の情報が必要である。この微生物群の情報は、微生物により生ゴミの分解を良好に制御するためにも必要である。また、作成された肥料の添加により土壌の改良を進める上では、土壌中の微生物群の情報を知ることも重要である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来、微生物群の情報、例えば細菌群の情報を得る方法としては、細菌群に含まれる個々の細菌を単離して生化学検査する方法等が用いられる。しかし、この方法は時間がかかる上に、単離の難しい細菌については調べることが困難であった。
【0006】
一方、DNA分析を行うことにより微生物群の情報を得る方法も考えられる。DNA分析を行うにはDNAを増幅する必要がある。DNAを増幅する方法としてPCR(Polymerase Chain Reaction;ポリメラーゼ連鎖反応)法が用いられている(米国特許第4,683,195号、第4,683,202号、第4,965,188号、第5,038,852号および第5,333,675号)。このPCR法は、増幅しようとするDNA(鋳型DNA)の両端の塩基配列に相補な塩基配列を有するプライマーおよび耐熱性DNAポリメラーゼを用い、熱変性工程、アニーリング(熱処理)工程および伸長反応工程の3段階からなるサイクルを繰り返すことにより、鋳型DNAとほぼ同じDNA断片を増幅することを可能にするものである。このPCR法を用いると、微量にしか存在しない細菌の1個のDNA中の所定の断片を例えば10万〜100万倍に増幅することができる。
【0007】
しかしながら、このPCR法を用いるためには、鋳型DNAの一領域の少なくとも両端の塩基配列が既知であることが必要である。したがって、従来のPCR法では、生ゴミ処理機の内部で機能する微生物や土壌に存在する微生物の種類および塩基配列が知られていないと、それらの微生物のDNA断片を増幅することはできない。
【0008】
そこで、単一のプライマーで塩基配列の情報なしに一種類のDNAから同時に多数の種類のDNA断片を増幅するRAPD(Random Amplified Polymorphic DNA)法もしくはAP−PCR(Arbitrarily Primed−Polymerase Chain Reaction) 法が提案されている。これらの方法では、PCRの反応時にプライマーのアニーリング温度を下げ、さらに反応液中のマグネシウムイオン濃度を上げることにより、プライマーの結合時の配列特異性を下げる。すると、プライマーはミスマッチを伴って微生物の染色体DNAに結合し、DNA断片が複製される。
【0009】
これらのRAPD法もしくはAP−PCR法によれば、増幅しようとするDNAの塩基配列の情報がなくても、単一のプライマーにより何らかのDNA断片が多量に増幅される。増幅されたDNA断片をゲル電気泳動法により分離することによりDNAフィンガープリントが得られる。このDNAフィンガープリントを分析することにより微生物の状態を分析することが可能となる。
【0010】
その反面、従来のRAPD法もしくはAP−PCR法を複数の微生物から構成される微生物群に適用する場合、増幅されるDNA断片の種類数が多すぎるために、増幅されたDNA断片と鋳型となった微生物との対応付けが困難となり、微生物群が形成する生態系を把握することが困難となる。また、増幅されたDNA断片から微生物群を構成する微生物を識別することはできない。
【0011】
本発明の目的は、微生物群を構成する複数の微生物を同時にかつ容易に識別することが可能な微生物識別方法、微生物識別装置、微生物識別用データベースの作成方法および微生物識別プログラムを記録した記録媒体を提供することである。
【0012】
【課題を解決するための手段および発明の効果】
第1の発明に係る微生物識別方法は、識別対象となる微生物を識別する微生物識別方法であって、増幅確率の異なる複数のプライマーを準備し、複数のプライマーの各々を用いて、識別対象となる微生物のDNAに対し、熱変成工程、プライマーのアニーリング工程およびポリメラーゼによる伸長反応工程をこの順序で繰り返し行うポリメラーゼ連鎖反応法を一度に適用することにより、識別対象となる微生物のDNAのDNA断片を増幅するステップと、複数のプライマーの各々を用いて増幅されたDNA断片に対して電気泳動法を適用し、各プライマーに対応する電気泳動像を得るステップと、各プライマーに対応する電気泳動像を画像データに変換するステップと、画像データに基づいて各プライマーに対応する電気泳動像のバンドを検出するステップと、画像データに基づいて各プライマーに対応する電気泳動像における検出されたバンドの位置および強度に関する情報を求めるステップと、複数のプライマーとバンドの位置および強度に関する情報との対応関係を求めるステップと、照合対象となる微生物についての対応関係が予め記憶されたデータベースを検索し、識別対象となる微生物について求められた対応関係と照合対象となる微生物についての対応関係とに基づいて、識別対象となる微生物および照合対象となる微生物についてほぼ等しい位置にあるバンドの強度の相関関係を求めるステップと、相関関係における相関係数を算出し、算出された相関係数が予め定められたしきい値よりも大きいか否かに基づいて識別対象となる微生物が照合対象となる微生物であるか否かを判定することにより識別対象となる微生物を識別するステップとを含むものである。
【0013】
本発明に係る微生物識別方法によれば、単一の微生物および複数の微生物から構成される微生物群のいずれを識別対象として用いる場合にも、微生物の識別を行うことが可能となり、さらに同定を行うことも可能となる。
【0014】
特に、微生物群を識別対象として用いる場合においては、微生物群を構成する複数の微生物を同時に識別し、さらに同定することが可能となる。このため、微生物群を構成する微生物の種類の数および種類名を明らかにすることが可能となる。
【0015】
一方、単一の微生物を識別対象として用いる場合においては、識別対象となる微生物とデータベースの照合対象となる微生物との多型を検出することも可能となる。また、識別対象となる微生物と類似した微生物を見いだすこともできる。
【0016】
ここで、この微生物識別方法においては、増幅確率の異なる複数のプライマーの各々を用いて、識別対象となる微生物のDNAに対して一度にポリメラーゼ連鎖反応法を適用し、識別対象となる微生物からDNA断片を増幅してDNA分析を行うので、生化学検査のように微生物を単離および培養する工程が不要となる。このため、容易に識別および同定を行うことが可能になるとともに、単離の困難な微生物の識別および同定も可能になる。また、上記の複数のプライマーを用いたDNAの増幅方法は、塩基配列が未知の識別対象に対して行うことが可能であるため、塩基配列の測定を行うことなく、識別対象となる微生物の識別および同定を行うことができる。
【0017】
さらに、この微生物識別方法においては、複数のプライマーを用いてそれぞれポリメラーゼ連鎖反応法を行い、複数のポリメラーゼ連鎖反応の結果を用いて識別を行うため、諸条件によって個々のポリメラーゼ連鎖反応が良好に進まない場合においても、個々のポリメラーゼ連鎖反応の影響は小さい。このため、良好な識別を安定して行うことが可能となる。
【0018】
バンドの位置に関する情報は、電気泳動像上での所定の基準位置とバンドとの間の距離で表されてもよい。あるいは、バンドの位置に関する情報は、当該バンドに含まれるDNA断片のサイズで表されてもよい。
【0019】
バンドの強度に関する情報は、電気泳動像におけるバンドの発光強度分布のピークの高さまたは面積を表し、画像データの階調分布に基づいて算出されてもよい。
【0020】
複数のプライマーとバンドの位置および強度に関する情報との対応関係は、各プライマーごとに各バンドの位置に関する情報と各バンドの強度に関する情報との対応を示してもよい。
【0023】
既知の塩基配列を有する参照用プライマーを用いて、参照用プライマーの塩基配列に相補な塩基配列を有する参照用DNAに対し、ポリメラーゼ連鎖反応法を適用することにより、参照用DNAのDNA断片を増幅するステップと、参照用プライマーを用いて増幅された参照用DNAのDNA断片に対して電気泳動法を適用し、参照用DNAに対応する電気泳動像を得るステップと、参照用DNAに対応する電気泳動像を画像データに変換するステップと、参照用DNAに対応する画像データに基づいて識別対象となる微生物に対応する画像データを補正するステップとをさらに備えてもよい。
【0024】
この場合、参照用プライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応法により、参照用DNAからDNA断片が確実に増幅される。このようにして増幅された参照用DNAのDNA断片の電気泳動像に対応する画像データに基づいて、ポリメラーゼ連鎖反応における参照用DNAのDNA断片の増幅効率を求めることが可能になる。このようにして求めた増幅効率は、識別対象となる微生物のDNA断片においても適用可能である。したがって、求めた増幅効率に基づいて識別対象となる微生物のDNA断片の電気泳動像に対応する画像データを補正し、DNA断片の量を分析することが可能になる。
【0025】
各プライマーに対応する電気泳動像を得るステップと同時に、DNAサイズマーカの電気泳動像を得るステップと、DNAサイズマーカの電気泳動像を画像データに変換するステップと、DNAサイズマーカに対応する画像データに基づいて識別対象となる微生物に対応する画像データを補正をするステップとをさらに備えてもよい。
【0026】
この場合、DNAサイズマーカの電気泳動像に対応する画像データに基づいて識別対象となる微生物に対応する画像データの階調を補正することにより、電気泳動像におけるバンドの発光強度の正確な比較が可能となる。
【0027】
電気泳動像のバンドを検出するステップは、電気泳動像において参照用DNAから増幅されたDNA断片またはDNAサイズマーカのバンドの発光強度に基づくしきい値を設定し、電気泳動像においてしきい値以上の発光強度を有するバンドを選択するステップを含んでもよい。
【0028】
この場合、発光強度がしきい値未満であるバンドは増幅効率が低く再現性の低いDNA断片のバンドである。また、発光強度がしきい値以上であるバンドは増幅効率が高く再現性の高いDNA断片のバンドである。したがって、しきい値以上の発光強度を有するバンドを選択することにより、増幅効率が高く再現性の高いDNA断片のみを分析することが可能になる。それにより、識別結果の信頼性が向上する。
【0029】
データベースには複数種類の微生物についての対応関係が記憶されてもよい。これにより、識別対象となる種々の微生物を識別することができる。
【0030】
第2の発明に係る微生物識別装置は、識別対象となる微生物を識別する微生物識別装置であって、増幅確率の異なる複数のプライマーの各々を用いて、識別対象となる微生物のDNAに対し、熱変成工程、プライマーのアニーリング工程およびポリメラーゼによる伸長反応工程をこの順序で繰り返し行うポリメラーゼ連鎖反応法を一度に適用することにより、識別対象となる微生物のDNAのDNA断片を増幅する増幅手段と、増幅手段により複数のプライマーの各々を用いて増幅されたDNA断片に対して電気泳動法を適用し、各プライマーに対応する電気泳動像を得る電気泳動手段と、電気泳動手段により得られた各プライマーに対応する電気泳動像を画像データに変換する画像データ変換手段と、画像データ変換手段により得られた画像データに基づいて各プライマーに対応する電気泳動像のバンドを検出するバンド検出手段と、画像データに基づいて各プライマーに対応する電気泳動像における検出されたバンドの位置および強度に関する情報を求めるバンド情報検出手段と、複数のプライマーとバンド情報検出手段により検出されたバンドの位置および強度に関する情報との対応関係を作成する対応関係作成手段と、照合対象となる微生物についての対応関係が予め記憶されたデータベースを検索し、識別対象となる微生物について作成された対応関係と照合対象となる微生物についての対応関係とに基づいて、識別対象となる微生物および照合対象となる微生物についてほぼ等しい位置にあるバンドの強度の相関関係を作成する相関関係作成手段と、相関関係作成手段により作成された相関関係における相関係数を算出し、算出された相関係数が予め定められたしきい値よりも大きいか否かに基づいて識別対象となる微生物が照合対象となる微生物であるか否かを判定することにより識別対象となる微生物を識別する識別手段とを備えたものである。
【0031】
本発明に係る微生物識別装置によれば、第1の発明に係る微生物識別方法を容易に行うことができる。そのため、単一の微生物および複数の微生物から構成される微生物群のいずれを識別対象として用いる場合にも、微生物の識別を行うことが可能となり、さらに同定を行うことも可能となる。
【0032】
特に、微生物群を識別対象として用いる場合においては、微生物群を構成する複数の微生物を同時に識別し、さらに同定することが可能となる。このため、微生物群を構成する微生物の種類の数および種類名を明らかにすることが可能となる。
【0033】
一方、単一の微生物を識別対象として用いる場合においては、識別対象となる微生物とデータベースの照合対象となる微生物との多型を検出することも可能となる。また、識別対象となる微生物と類似した微生物を見いだすこともできる。
【0034】
この微生物識別装置においては、増幅確率の異なる複数のプライマーの各々を用いて、識別対象となる微生物のDNAに対して一度にポリメラーゼ連鎖反応法を適用し、識別対象となる微生物からDNA断片を増幅してDNA分析を行うので、生化学検査のように微生物を単離および培養する工程が不要となる。このため、容易に識別および同定を行うことが可能になるとともに、単離の困難な微生物の識別および同定も可能になる。また、上記の複数のプライマーを用いたDNAの増幅方法は、塩基配列が未知の識別対象に対して行うことが可能であるため、塩基配列の測定を行うことなく、識別対象となる微生物の識別および同定を行うことができる。
【0035】
さらに、この微生物識別装置においては、複数のプライマーを用いてそれぞれポリメラーゼ連鎖反応法を行い、複数のポリメラーゼ連鎖反応の結果を用いて識別を行うため、諸条件によって個々のポリメラーゼ連鎖反応が良好に進まない場合においても、個々のポリメラーゼ連鎖反応の影響は小さい。このため、良好な識別を安定して行うことが可能となる。
【0036】
第3の発明に係るコンピュータ読み取り可能な記録媒体は、識別対象となる微生物を識別する微生物識別プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、微生物識別プログラムは、増幅確率の異なる複数のプライマーの各々を用いて、識別対象となる微生物のDNAに対し、熱変成工程、プライマーのアニーリング工程およびポリメラーゼによる伸長反応工程をこの順序で繰り返し行うポリメラーゼ連鎖反応法を一度に適用することにより、識別対象となる微生物のDNAのDNA断片を増幅し、複数のプライマーの各々を用いて増幅されたDNA断片に対して電気泳動法を適用することにより得られた電気泳動像を画像データとして取り込む処理と、画像データに基づいて各プライマーに対応する電気泳動像のバンドを検出する処理と、画像データに基づいて各プライマーに対応する電気泳動像における検出されたバンドの位置および強度に関する情報を求める処理と、複数のプライマーとバンドの位置および強度に関する情報との対応関係を求める処理と、照合対象となる微生物についての対応関係が予め記憶されたデータベースを検索し、識別対象となる微生物について求められた対応関係と照合対象となる微生物についての対応関係とに基づいて、識別対象となる微生物および照合対象となる微生物についてほぼ等しい位置にあるバンドの強度の相関関係を求める処理と、相関関係における相関係数を算出し、算出された相関係数が予め定められたしきい値よりも大きいか否かに基づいて識別対象となる微生物が照合対象となる微生物であるか否かを判定することにより識別対象となる微生物を識別する処理とを、コンピュータに実行させるものである。
【0037】
本発明に係る微生物識別プログラムを記録した記録媒体によれば、第1の発明に係る微生物識別方法を容易に行うことができる。
【0042】
【発明の実施の形態】
図1は本発明に係る微生物識別装置を示す図である。
【0043】
図1に示すように、微生物識別装置は、SSC− PCR増幅・解析装置1、電気泳動イメージ入力部2、解析用コンピュータ3、データベース格納部4および結果表示手段5からなる。
【0044】
SSC−PCR増幅・解析装置1については後述する。電気泳動イメージ入力部2は、例えばCCDカメラおよびスキャナにより構成される。解析用コンピュータ3は、後述する構成を有するパーソナルコンピュータからなる。データベース格納部4はハードディスク装置等からなり、結果表示手段5はディスプレイ等からなる。
【0045】
なお、SSC−PCRとはSingle Strain Counting Polymerase Chain Reactionのことであり、特定の塩基配列を有するプライマーを複数用いて未知の塩基配列を有する微生物群または単一の微生物からDNA断片を連鎖反応的に増幅する反応のことである。なお、SSC−PCRの詳細については後述する。
【0046】
図2は、図1の微生物識別装置を用いた微生物識別方法の一例を示すフローチャートである。
【0047】
図2に示すように、まず図1のSSC−PCR増幅・解析装置1を用いて、後述のSSC−PCR法により、微生物の解析実験を行う(ステップS1)。なお、この解析実験においては、単離した単一の微生物をサンプルとして用いてもよく、また、複数の微生物を含む微生物群をサンプルとして用いてもよい。
【0048】
SSC−PCR法による微生物の解析実験の詳細を図3に示す。まず、図3に示すように、微生物のDNA、ポリメラーゼ連鎖反応用バッファ溶液、プライマー、耐熱性の好熱菌DNAポリメラーゼ、MgClおよび4種の基質となる5’デオキシリボヌクレオチド三リン酸(dATP,dGTP,dCTP,dTTP)を所定量ずつ混合し、SSC−PCR用反応溶液を調製する(ステップS1−1)。
【0049】
なお、複数の微生物を含む微生物群をサンプルとして用いる場合においては、複数の微生物のDNAが混合されたものを用いてSSC−PCR用反応溶液を調製する。
【0050】
ここで、DNAポリメラーゼとは、4種の5’デオキシリボヌクレオチド三リン酸を基質とし、鋳型DNAに相補な塩基配列を有するDNA鎖の重合反応を触媒する酵素である。DNAポリメラーゼによるDNA鎖の重合の方向性は5’から3’の方向である。また、プライマーは、DNAポリメラーゼが作用するために不可欠な3’−OH基を末端に有するDNA断片(短鎖オリゴヌクレオチド)である。本発明では、特定の塩基配列および塩基長を有するプライマーを用いる。
【0051】
なお、後述するようにSSC−PCR法においては増幅確率の異なる複数のプライマーを用いるため、各々のプライマーについてSSC−PCR用反応溶液を調製する。例えば、この場合においては46種類のプライマーを用いるので、異なるプライマーを含む46種類のSSC−PCR用反応溶液を調製する。なお、46種類のPCR用反応溶液は全て同時に調製するものとする。
【0052】
上記のSSC−PCR用反応溶液の調製と同時に、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールを調製する(ステップS1−2)。
【0053】
ここで、ポジティブコントロールとは、後述のDNA断片の増幅反応の一連の工程において生じる誤差を除去するためのコントロール実験に用いる試料である。一般に、DNA断片の増幅反応における増幅効率は、一連の工程において生じる誤差、例えばSSC−PCR用反応溶液の調製時におけるDNAポリメラーゼ、マグネシウム等の濃度の誤差、用いた試薬の活性の度合い、DNA断片増幅時における温度の誤差等により影響を受けると考えられる。このような誤差を除去するために、ポジティブコントロールとして、増幅されるDNA断片の種類が既知で定量可能なDNA断片を増幅するプライマーと、このプライマーに相補な塩基配列を有する鋳型DNAとを含む反応溶液を調製する。ポジティブコントロールにおいて増幅されるDNA断片は、電気泳動法により定量することが可能である。したがって、ポジティブコントロールにおいて増幅されるDNA断片の量から、DNA断片の増幅効率を求めることができる。このようにして求めた増幅効率をもとにして46種類のSSC−PCR用反応溶液のDNA断片の量を補正することにより、DNA断片の増幅反応の一連の工程において生じる誤差の影響を除去することが可能となる。その結果、増幅されたDNA断片の量的な比較が可能となる。
【0054】
一方、ネガティブコントロールとは、増幅されたDNA断片が分析対象とする微生物群または微生物のものであることを確認するためのコントロール実験に用いる試料である。一般に、細菌等の微生物は空気中等の様々な場所に存在する。このため、SSC−PCR用反応溶液の調製時において反応溶液に微生物が混入する可能性がある。微生物が反応溶液に混入した場合、増幅されたDNA断片が分析対象とする微生物群由来のDNA断片かあるいは混入した微生物由来のDNA断片か判別不可能となる。そのため、ネガティブコントロールとして、プライマーを含むが鋳型DNAを含まないSSC−PCR用反応溶液を調製する。このネガティブコントロールを用いてSSC−PCRおよび電気泳動を行い、ネガティブコントロールの電気泳動像においてはバンドが現れないことを確認する。これにより、増幅されたDNA断片が分析対象である微生物群または微生物由来のものであることが確認できる。
【0055】
なお、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールに用いるプライマーは、46種類のプライマーのうちの1つもしくは2つと同じ塩基配列であってもよい。
【0056】
上記のようにしてSSC−PCR用反応溶液を調製した後、SSC−PCR増幅・解析装置1により、DNA断片の増幅反応を行う(ステップS1−3)。
【0057】
図4は、SSC−PCR増幅・解析装置1のDNA断片増幅装置の例を示す模式図である。図4のDNA断片増幅装置は、タイタプレートと呼ばれる支持プレート50により構成される。
【0058】
支持プレート50の上面に複数の孔部51が形成されている。この場合には、複数の孔部51に、前述の増幅確率の異なるプライマーをそれぞれ含む46種類のSSC−PCR用反応溶液がプライマーの増幅確率の順に連続的に配置される。また、孔部51aには、前述のネガティブコントロールが配置され、孔部51bには、前述のポジティブコントロールが配置される。
【0059】
このようなDNA断片増幅装置により、46種類のSSC−PCR用反応溶液、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールにおいて、以下のようなSSC−PCR法によるDNA断片の増幅が同時に行われる。
【0060】
SSC−PCR法では、従来のPCR法と同様に、次の3段階の工程を繰り返し行う。ただし、SSC−PCR法では、未知の塩基配列を有する微生物または微生物群に対して特定の塩基配列を有するプライマーを用いることにより分析可能な量のDNA断片を増幅する。
【0061】
(1)熱変性工程
DNA(初期時)またはDNA断片を加熱変性し、1本鎖(DNA鎖)にする。
【0062】
(2)プライマーのアニーリング工程(プライマーの結合工程)
プライマーがDNA鎖の増幅領域の端に結合するように熱処理を行う。
【0063】
(3)ポリメラーゼによる伸長反応工程(ポリメラーゼによる複製工程)
プライマーを起点としてポリメラーゼによって相補鎖を合成し、2本鎖化する。
【0064】
上記(1)〜(3)の工程を1サイクルとしてこのサイクルを繰り返し行う。
第1のサイクルとして、上記反応溶液を例えば94℃で2分間保持する熱変性工程、上記反応溶液を例えば45℃で2分間保持するプライマーのアニーリング工程、および上記反応溶液を例えば72℃で3分間保持するポリメラーゼによる伸長反応工程をこの順序で行う。なお、本サイクルの熱変性工程は、長い完全DNAを1本鎖に完全に分離するために下記サイクルの熱変性工程よりも長めに設定する。
【0065】
引続き、第2のサイクルとして、上記反応溶液を例えば94℃で1分間保持する熱変性工程、上記反応溶液を例えば45℃で2分間保持するプライマーのアニーリング工程および上記反応溶液を例えば72℃で3分間保持するポリメラーゼによる伸長反応工程をこの順序で例えば33回繰り返す。
【0066】
最後に、第3のサイクルとして、上記反応溶液を例えば94℃で1分間保持する熱変性工程、上記反応溶液を例えば45℃で2分間保持するプライマーのアニーリング工程および上記反応溶液を72℃で10分間保持するポリメラーゼによる伸長反応工程をこの順序で行う。なお、本サイクルのポリメラーゼによる伸長反応工程は、最後に複製を完全化するために第1および第2のサイクルのポリメラーゼによる伸長反応工程よりも長めに設定する。
【0067】
ここで、上記第1のサイクル、第2のサイクルの第1回目のサイクル、および第2のサイクルの第2回目のサイクルを図5〜図7を用いて説明する。なお、図は模式的に示しており、DNAの1本鎖等はプライマーと結合する部分の塩基配列を示している。
【0068】
図5〜図7では、GGCTTCGAATCGの塩基配列(配列番号14)を有するプライマーを用いている。なお、Tはチミン、Aはアデニン、Gはグアニン、Cはシトシンを示す。
【0069】
図5(a)に示すように最初、上記反応溶液中には複数の異なる微生物に含まれていた長いDNA(完全DNA)11が存在する。ここでは、1個の完全DNAに着目して説明する。
【0070】
最初に、図5(b)に示すように、第1のサイクルでは、第2および第3のサイクルの熱変性工程より長い熱変性工程を行うことにより、上記の長いDNA1が加熱変性し、2本鎖が互いに離れ、2つの1本鎖(DNA鎖)12a,12bの状態になる。
【0071】
次に、図5(c)に示すように、プライマーのアニーリング工程でプライマー21aがその塩基配列に適合する各1本鎖12a,12bの適合位置に配置(相補な配列)するように結合する。ここで、適合位置とはプライマーの塩基配列から見て結合すべき塩基配列の位置およびプライマーの塩基配列から見て結合すべき塩基配列と類似の塩基配列の位置である。上記SSC−PCR法では、プライマーのアニーリング工程のアニール温度を低く設定することにより、プライマーは、その塩基配列と類似の塩基配列を有するDNA鎖の部分にも結合する。すなわち、プライマーは、その塩基配列に完全に相補な塩基配列を有する1本鎖の位置に結合することができるのみならず、多少のミスマッチを伴って1本鎖に結合することもできる。なお、図5〜図7では、簡単のためにプライマーがその塩基配列から見て結合すべき塩基配列の位置に結合する場合を図示している。
【0072】
続いて、図5(d)に示すように、ポリメラーゼによる伸長反応工程でポリメラーゼによって伸長反応が起こり、1本鎖12a,12bにそれぞれ沿って1本鎖12c,12dが伸長して2本鎖化した鎖13a,13bが形成される。
【0073】
第2のサイクルの1回目のサイクルでは、第1のサイクルで2本鎖化した鎖13a,13bが熱変性工程でそれぞれ1本鎖(DNA鎖)12a,12cおよび1本鎖(DNA鎖)12b,12dとなるが、ここでは、鎖13aから分かれた1本鎖12cに着目して説明する。
【0074】
図6に示すように、熱変性工程で分離した1本鎖12cには次のプライマーのアニーリング工程でプライマー21bが適合位置に配置するように結合する。その後、ポリメラーゼによる伸長反応工程でポリメラーゼによって伸長反応が起こり、1本鎖12eに沿って1本鎖12eが伸長して2本鎖化した鎖13dとなる。
【0075】
その後、図7に示すように、第2のサイクルの第2回目のサイクルでは、上記2本鎖化した鎖13dが熱変性工程でそれぞれ1本鎖12c,12eとなるが、ここでは、鎖13dから分かれた1本鎖12eに着目して説明する。
【0076】
図7に示すように、熱変性工程で分離した1本鎖12eには、次のプライマーのアニーリング工程で、同様に、プライマー21cが適合位置に配置するように結合する。その後、ポリメラーゼによる伸長反応工程でポリメラーゼによって伸長反応が起こり、1本鎖12eに沿って1本鎖12fが伸長して2本鎖化した鎖(DNA断片)13eが形成される。
【0077】
このようにDNA断片が形成され、このDNA断片からDNA断片が形成されるとともに他の同種のDNAからもDNA断片が形成され、同様の反応が連鎖反応的に続くので、この方法によりDNA断片が増幅される。
【0078】
その後、図3に示すように、SSC−PCR用反応溶液、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールを用いて、電気泳動法により、各反応溶液において増幅されたDNA断片をサイズ(塩基対数)ごとに分画する。このとき、濃度が既知で定量可能なDNAサイズマーカを同時に電気泳動させサイズごとに分画する(ステップS1−4)。
【0079】
さらに、電気泳動法により得られた電気泳動像を蛍光色素で染色し(ステップS1−5)、紫外線照射したときの蛍光像を撮影する(ステップS1−6)。撮影には、例えばCCDカメラを用いる。このようにして得られた電気泳動像において、DNA断片がバンド(帯)として現れる。
【0080】
なお、ここで、ネガティブコントロールの電気泳動像においてバンドが現れない場合、増幅されたDNA断片が分析対象である微生物または微生物群由来のものであることが確認できる。
【0081】
続いて、図2に示すように、撮影した電気泳動像を電気泳動イメージ入力部2(図1)のスキャナで解析用コンピュータ3(図1)に画像データとして取り込み(ステップS2)、画像データに基づいて電気泳動像の各バンドを検出する(ステップS3)。
【0082】
ところで、SSC−PCR法によりDNA断片を増幅する際において、所定の塩基配列を有する鋳型DNAの適合位置にプライマーが強く結合して配置する場合は、DNA断片の増幅効率が高い。このようなプライマーにより増幅されたDNA断片は、電気泳動像において再現性の高い明瞭なバンドとして現れる。一方、プライマーと鋳型DNAの適合位置との結合が弱い場合、鋳型DNAの適合位置よりも結合が強い他の位置にプライマーが結合する。このように、DNA断片の増幅反応においては競争的に反応が進行するため、プライマーと鋳型DNAとの結合が弱い場合にはDNA断片の増幅効率が低くなる。このような結合の弱いプライマーにより増幅されるDNA断片は、電気泳動像において再現性が低く不明瞭バンドとして現れる。上記のような再現性の低いDNA断片を含むことにより、SSC−PCR法により得られたデータは全体の信頼性が低くなる。
【0083】
そこで、SSC−PCR法により得られたデータの信頼性を向上させるために、解析コンピュータ3(図1)を用いて、以下のような電気泳動像の画像データの画像補正を行う(ステップS4)。
【0084】
図8は画像補正の工程の一例を示すフローチャートである。図8に示すように、画像データにおいて、ポジティブコントロールのバンドの発光強度と量が既知であるDNAサイズマーカのバンドの発光強度とを比較することにより、ポジティブコントロールにおいて増幅されたDNA断片を定量する。さらにこの定量した値を用いてDNA増幅断片増幅反応の増幅効率を求める。この増幅効率に基づいて46種類のSSC−PCR用反応溶液のバンドの発光強度を補正する(ステップS4−1)。それにより、DNA増幅反応時における反応条件等の誤差がDNA断片の増幅効率に与える影響が除去される。
【0085】
なお、ここでの発光強度とは、発光強度分布におけるピークの高さのことである。
【0086】
また、ポジティブコントロールの定量方法としては、DNA断片精製後に260nmの紫外線吸収量を測定するなどの他の方法を用いることもできる。
【0087】
さらに、定量可能なDNAサイズマーカのバンドの発光強度を基準として用い、46種類のSSC−PCR用反応溶液のバンドの発光強度を補正する。このようにして、電気泳動像の画像データの階調補正を行う(ステップS4−2)。
【0088】
一般に、エチジウムブロマイド染色時の染色度合いおよび写真撮影時の露光の程度によって、得られる電気泳動像の階調に誤差が生じる。しかしながら、濃度が既知のDNAサイズマーカのバンドの発光強度に基づいて電気泳動像の画像データの階調補正を行うことにより、このような誤差を除去することができる。
【0089】
続いて、定量可能なDNAサイズマーカのバンドの発光強度に基づいてしきい値を設定し、しきい値未満の発光強度のバンドを削除する(ステップS4−3)。これにより、増幅効率が低く再現性の低いバンドを除去することができる。このようにして得られた増幅効率が高く再現性の高いバンドを分析することにより、信頼性の高いデータが得られる。
【0090】
図9は、上記のような画像補正を行った後の電気泳動像の画像データの例を示す図である。図9において、Lane1,10は、DNAサイズマーカの電気泳動像のデータを示している。また、Lane2〜9は、配列番号1〜8のプライマーにおける電気泳動像のデータを示している。なお、配列番号9〜46の各プライマーについても、図9に示すような電気泳動のデータがそれぞれ得られる。
【0091】
続いて、図2に示すように、各プライマーにおけるバンドの位置とDNAサイズマーカにおけるバンドの位置とを比較することにより、各プライマーにおけるバンドの位置をバンドサイズ(塩基対数)に変換して測定する。さらに、各位置のバンドについて、バンド強度(バンドの発光強度)を測定する(ステップS5)。ここでのバンド強度とは、バンドの発光強度分布におけるピークの高さのことである。
【0092】
なお、このようなバンド位置およびバンド強度の測定は、解析用コンピュータ3(図1)により行う。
【0093】
さらに、解析用コンピュータ3を用いて、上記で得られた各プライマーにおけるバンド位置およびバンド強度のデータをまとめ、バンドデータの一欄を作成する(ステップS6)。
【0094】
通常、SSC−PCR法においては、種類の異なる複数のプライマーを用いて複数のPCR反応(ポリメラーゼ連鎖反応)を行う。このため、SSC−PCRの結果、各プライマーにつき1つの電気泳動像が得られる。この場合においては46種類のプライマーを用いているので、46種類の電気泳動像が得られる。
【0095】
例えば、前述の図9のように1枚の写真に8種類のプライマーの電気泳動像を示す場合においては、合計6枚の写真に46種類のプライマーの電気泳動像が示される。したがって、各写真について画像データが得られる。
【0096】
ここで、図1の微生物識別装置の解析用コンピュータ3においては、このような複数枚の写真にわたって示された46種類のプライマーのバンドのデータを集め、1つのデータにまとめることが可能である。それにより、サンプルの微生物に関するSSC−PCRのバンドデータの一欄を作成することができる。
【0097】
解析用コンピュータ3により作成されたバンドデータの一欄には、プライマー名(配列番号)、サイズで表したバンド位置およびバンド強度が記載される。作成されたバンドデータの一欄を表1に示す。
【0098】
【表1】
Figure 0003628232
【0099】
なお、表1のプライマー名の項目においては、例えば、配列番号1のプライマーがPr1と記載される。
【0100】
上記においては、各プライマーにおけるバンドの位置をバンドサイズで表示する場合について説明したが、後述の実施例において説明するように、バンドの位置をバンドサイズで表示するのではなく、実測した距離に基づいて表示してもよい。この場合、バンドデータの一欄のバンド位置の項目には、例えば実測した距離の比が記載される。
【0101】
また、上記においては、バンド強度としてバンドの発光強度分布のピークの高さを測定する場合について説明したが、バンド強度として、バンドの発光強度分布の面積(容量)を測定してもよい。バンドの発光強度分布の面積はバンドに含まれるDNAの含有量に対応するので、発光強度分布の面積をバンド強度として用いる方がより好ましいと考えられる。
【0102】
さらに、バンド検出、画像補正およびバンド位置・バンド強度の測定を行う順番は、上記に限定されるものではなく、必要に応じて逆転する場合もある。
【0103】
続いて、図2に示すように、解析用コンピュータ3(図1)を用いて、サンプルの微生物のデータ(表1)に基づいて、データベース格納部4(図1)のデータベースに登録されている複数の微生物のデータをサーチし、サンプルの微生物のバンドデータとデータベースの複数の微生物の配列番号1〜46のプライマーPr1〜46に関するバンドデータとを比較する。さらに、サンプルの微生物およびデータベースの複数の微生物の各々における相関係数を求め、得られた相関係数に基づいてデータベースからサンプルの微生物に該当する微生物を検索する(ステップS7)。
【0104】
以下に、データベース検索(ステップS7)の詳細について、順を追って説明する。
【0105】
▲1▼サンプルの微生物およびデータベースの微生物における同一のプライマーの同一位置のバンドの検索
図1に示すように、微生物識別装置のデータベース格納部4のデータベースには、生化学検査等により同定された複数の微生物の各々に関して、SSC−PCRのデータ、例えば電気泳動像の画像データやバンドデータの一欄が登録されている。なお、データベースに登録されているバンドデータの一欄の構成は、上記において作成したサンプルの微生物のバンドデータの一欄(表1)の構成と同様である。
【0106】
例えば、表2は、データベースに登録されている微生物Aのバンドデータの一欄を示すものである。なお、この微生物Aは細菌である。
【0107】
【表2】
Figure 0003628232
【0108】
このようなデータベースに登録されている複数の微生物のバンドデータの一欄から、サンプルの微生物のバンドデータの一欄(表1)に基づいて、同一のプライマーにおける同一位置のバンドを検索する。
【0109】
なお、この検索において、データベースの微生物のバンドの位置がサンプルの微生物のバンドの位置からある範囲内でずれて存在する場合、両者は同一位置のバンドであるとみなす。この同一位置のバンドとみなす範囲は、実験の誤差に基づいて決定されるものであり、必要に応じて変更する。
【0110】
例えば、図10に示すように、サンプルの微生物のバンドデータ(表1)に基づいてデータベースの微生物Aのバンドデータ(表2)をサーチした場合には、図中の矢印で示したバンドが同一プライマーにおける同一位置のバンドとして検索される。
【0111】
データベースに登録されている微生物A以外の複数の微生物の各々についても、このような同一プライマーにおける同一位置のバンドの検索を行う。
【0112】
▲2▼サンプルの微生物のデータとデータベースの微生物のデータとを比較するための表の作成
次に、サンプルの微生物のバンドデータとデータベースの微生物のバンドデータとを1つにまとめ、サンプルの微生物およびデータベースの微生物について、各プライマーPr1〜46における全てのバンドの位置(サイズ)および強度のデータの一欄を作成する。
【0113】
例えば、表3は、サンプルの微生物のデータ(表1)と、データベースの微生物Aのデータ(表2)とをまとめてバンドデータ一欄を作成したものである。
【0114】
【表3】
Figure 0003628232
【0115】
表3に示すように、上記▲1▼の工程において検索したサンプルの微生物およびデータベースの微生物Aにおける同一プライマーの同一位置のバンド(図10の矢印で示したバンド)に関しては、表中のバンドサイズの項目に、サンプルの微生物のバンドサイズが記載される。
【0116】
また、例えばプライマーPr1のサイズ1298のバンドのように、サンプルの微生物には存在するがデータベースの微生物Aには存在しないバンドに関しては、データベースの微生物Aのバンド強度を0とする。一方、例えばプライマーPr2のサイズ3432のバンドのように、データベースの微生物Aには存在するがサンプルの微生物には存在しないバンドに関しては、サンプルの微生物のバンド強度を0とする。
【0117】
データベースに登録されている微生物A以外の複数の微生物についても、それぞれ表3に示すようなバンドデータの一欄を作成する。
【0118】
▲3▼サンプルの微生物およびデータベースの微生物における相関係数の計算
ここでは、上記において作成したバンドデータの一欄(表3)に基づいて、各バンドにおけるサンプルの微生物およびデータベースの微生物のバンド強度を比較し、両者の相関関係を調べる。
【0119】
例えば、サンプルの微生物およびデータベースの微生物Aにおけるバンドデータの一欄(表3)に基づいて、各バンドについてサンプルの微生物のバンド強度とデータベースの微生物Aのバンド強度とを比較すると、図11に示すような相関関係が得られる。図11においては、横軸にサンプルの微生物のバンド強度をとり、縦軸にデータベースの微生物Aのバンド強度をとっている。なお、図11においては全てのバンドに関するプロットを行っていないが、実際には全てのバンドに関してプロットを行って相関関係を調べる。
【0120】
このようにサンプルの微生物のバンド強度とデータベースの微生物Aのバンド強度とを比較することにより、サンプルの微生物およびデータベースの微生物Aにおける相関係数を計算する。
【0121】
また、データベースに登録されている微生物A以外の複数の微生物の各々についても、上記と同様の比較を行ってサンプルの微生物との相関関係を調べ、相関係数をそれぞれ計算する。なお、このような相関係数の計算は、解析用コンピュータ3(図1)を用いて行う。
【0122】
ここで、相関係数の計算方法は、計算に用いるデータのとり方により、図12(a)〜(c)に示す3つの方法が上げられる。以下に、3つの方法を説明する。
【0123】
(a)サンプルの微生物およびデータベースの微生物の全データを用いた相関係数の計算方法
図12(a)に示すように、この方法は、サンプルの微生物のバンド強度およびデータベースの微生物のバンド強度のデータを0のデータも含め全て用いて相関係数を計算するものである。すなわち、相関図における縦軸上のプロットおよび横軸上のプロットを含め、全てのプロットを考慮して相関係数を求めるものである。
【0124】
ここで、サンプルが複数の微生物の混合物である場合にこの方法を適用すると、サンプルとデータベースの所定の微生物との間に相関関係があっても、計算により求められた相関係数は小さな値となる。したがって、この(a)の方法は、サンプルが単一の微生物の場合に適用することが好ましい。
【0125】
(b)サンプルの微生物とデータベースの微生物との両方に存在するバンドのデータのみを用いた相関係数の計算方法
図12(b)に示すように、この方法は、サンプルの微生物のバンド強度のデータおよびデータベースの微生物のバンド強度のデータにおいて、0のデータを全て除いて相関係数を計算するものである。すなわち、相関図における縦軸上のプロットおよび横軸上のプロットを考慮せず、これ以外のプロットを考慮して相関係数を計算するものである。
【0126】
上記の(a)の方法において前述したように、サンプルが複数の微生物の混合物である場合には、データベースの微生物のバンド強度が0であるデータを除いた方が、高い相関係数が得られるので好ましい。また、PCR反応においては何らかの原因で現れるべきバンドが現れないケースがあり、この場合においては、サンプルの微生物のバンド強度が0であるデータ除いた方が高い相関係数が得られるので好ましい。
【0127】
(c)データベースの微生物に存在するバンドのデータを全て用いた相関係数の計算方法
図12(c)に示すように、この方法は、0のデータを含むサンプルの微生物のデータと、0のデータを含まないデータベースの微生物のデータとを用いて相関係数を計算するものである。すなわち、相関図における横軸上のプロットを考慮せず、縦軸上のプロットを含むこれ以外のプロットを考慮して相関係数を計算するものである。
【0128】
例えば、サンプルが複数の微生物の混合である場合には、サンプルを構成する微生物の種類を確認するために、0のデータも含めサンプルの微生物のバンドデータを全て用いて相関係数を計算すべきである。その理由は、データベースの微生物のバンドのうち数本のバンドのみがサンプルの微生物のバンドと一致し、さらにたまたまそれらのバンドが良好な相関関係を示す場合においては、サンプルの0のデータを考慮しない上記の(b)の方法により相関係数を計算すると、相関関係のあるバンドが数本であるにも係わらず実質よりも高い値の相関係数が求められるからである。これに対して、このような場合に(c)の方法を用いると、サンプルの微生物の0のデータを考慮するので、(b)の方法を用いた場合ほど相関係数が高くならない。
【0129】
▲4▼検索のためのしきい値の設定
上記のようにして、サンプルの微生物とデータベースに登録されている複数の微生物の各々との相関係数を計算した後、求めた相関係数に関してしきい値を設定する。このしきい値に基づいて、相関係数がしきい値よりも高いものを検索すべき微生物として選択する。
【0130】
しきい値は0.2〜0.6の範囲、好ましくは0.25〜0.35の範囲の数値とする。しきい値が高いほど検索の正確性が高くなる。一方、しきい値を低くすると、可能性のある微生物をデータベースから広く検索することが可能となる。
【0131】
最後に、図2に示すように、結果表示手段5(図1)により、しきい値より高い値を示した微生物の名称を相関係数の高い順に検索結果として表示する(ステップS8)。
【0132】
なお、必要に応じて以下の工程(ステップS9)を設けてもよい。
例えば、図2に示すように、画像データの比較等による確認の工程を設けてもよい。この工程においては、検索結果として表示された微生物がサンプルの微生物と同一であること、あるいはサンプルを構成する微生物の1つであることを以下のような方法により確認する。
【0133】
例えば、サンプルの微生物の電気泳動像の画像データを読み出すとともに、検索された微生物の電気泳動像の画像データをデータベース格納部4から読み出し、両者の電気泳動像の画像データの比較を行ってもよい。また、図11に示すようなサンプルの微生物のバンド強度と検索された微生物のバンド強度との相関図を表示することにより、両者の相関の状態を調べてもよい。これらの方法により、検索結果の確認を行うことが可能となる。
【0134】
また、データベースへの登録工程を設けてもよい。この工程は、単一の微生物をサンプルに用いてデータ検索を行った結果、データベースに同じ微生物が存在しないことが明らかとなった場合に、このサンプルの微生物に関するデータを新たにデータベース格納部4のデータベースに登録するものである。それにより、検索可能な微生物の範囲がより広がる。
【0135】
また、パラメータ等を変更して再び検索を行う工程を設けてもよい。この工程においては、例えば、データベース検索(ステップS7)の▲1▼の工程において説明した同一位置のバンドと見なすバンド位置の範囲や、データベース検索(ステップS7)の▲4▼の工程において説明した検索のためのしきい値の設定を変更し、再検索を行う。あるいは、データベース検索(ステップS7)▲3▼の工程において説明した相関係数の計算方法を変更し、再検索を行う。それにより、サンプルの微生物に適した検索を行って結果を得ることができる。
【0136】
さらに、サンプルの微生物と検索された微生物との間の不一致バンドの一欄を作成してこれを表示する工程を設けてもよい。この工程においては、検索された微生物のバンドとは一致しなかったサンプルの微生物のバンド(不一致バンド)の一欄を作成して表示する。
【0137】
ここで、サンプルに単一の微生物を用いて1種類の微生物が検索された場合においては、サンプルの微生物と検索された微生物との間の不一致バンドが、サンプルの微生物と検索された微生物との区別を可能にする多型(異なる性質)に相当する可能性がある。一方、サンプルが複数の微生物の混合物である場合、サンプルの微生物と検索された微生物との間の不一致バンドは、データベース4に登録されていない微生物のバンドである可能性が高い。このように、不一致バンドはサンプルの微生物に関する重要な情報となり得るので、データとして残すことが好ましい。
【0138】
以上のような本発明に係る微生物識別方法によれば、単一の微生物および複数の微生物から構成される微生物群のいずれをサンプルとして用いる場合においても、微生物の識別を行うことが可能となり、さらに同定を行うことも可能となる。
【0139】
特に、微生物群をサンプルとして用いる場合においては、微生物群を構成する複数の微生物を同時に識別し、さらに同定することが可能となる。このため、微生物群を構成する微生物の種類の数および種類名を明らかにすることが可能となる。
【0140】
一方、単一の微生物をサンプルとして用いる場合においては、サンプルの微生物とデータベースの微生物との多型を検出することも可能となる。また、サンプルの微生物と類似した微生物を見い出すこともできる。
【0141】
ここで、この微生物識別方法においては、SSC−PCRによりサンプルの微生物(または微生物群)のDNA分析を行うので、生化学検査のように微生物を単離および培養する工程が不要となる。このため、容易に識別および同定を行うことが可能になるとともに、単離が困難な微生物の識別および同定も可能になる。また、SSC−PCRは塩基配列が未知のサンプルに対して行うことが可能であるため、塩基配列の測定を行うことなくサンプルの微生物の識別および同定を行うことができる。
【0142】
さらに、この微生物識別方法においては、複数のプライマーを用いてそれぞれPCR反応を行い、複数のPCR反応の結果を用いて分析を行うため、諸条件によって個々のPCR反応が良好に進まない場合においても、個々のPCR反応の影響は小さい。このため、良好な分析を安定して行うことが可能となる。
【0143】
例えば、上記の微生物識別方法を生ごみ処理機の処理槽内または土壌中から採取した複数の微生物に適用することにより、生ごみ処理機の処理槽内または土壌中の微生物を同定することができる。また、この結果にしたがって生ごみ処理機の処理槽の条件を変えることにより、生ごみの処理を良好に行えるとともに良好な肥料を作製することができる。
【0144】
さらに、このような微生物識別方法は、水銀、砒素、ダイオキシン、環境ホルモン等の有害な汚染物質に汚染された土壌、食品等の発見、およびこれらの汚染状態を知るのに有効である。すなわち、この微生物識別方法により検索された微生物の中に汚染物質に関係のある微生物が含まれている場合には、微生物を採取した土壌等にこの汚染物質が含まれる可能性が示唆される。また、汚染物質に関係のある微生物の存在の程度により、汚染状態が示唆される。
【0145】
図13は図1の解析用コンピュータ3として用いられるパーソナルコンピュータの構成を示すブロック図である。
【0146】
図13のパーソナルコンピュータは、CPU(中央演算処理装置)310、ディスプレイ320、入力装置330、ROM(リードオンリメモリ)340、RAM(ランダムアクセスメモリ)350、記録媒体駆動装置360、スキャナ370および外部記憶装置380を備える。
【0147】
ディスプレイ320は、液晶表示パネル、CRT(陰極線管)等からなり、図1の結果表示手段5として用いられる。入力装置330は、キーボード、マウス等からなり、各種データおよび各種指令を入力するために用いられる。ROM340にはシステムプログラムが記憶される。
【0148】
記録媒体駆動装置360は、CD−ROMドライブ、フロッピィディスクドライブ等からなり、CD−ROM、フロッピィディスク等の記録媒体390に対してデータの読み書きを行う。記録媒体390には、図2の微生物識別方法におけるステップS2〜S8の処理を行う微生物識別プログラムが記録されている。
【0149】
スキャナ370はCCDカメラにより撮影された電気泳動像を画像データとして入力し、外部記憶装置380に格納する。スキャナ370は図1の電気泳動イメージ入力部2として働く。
【0150】
外部記憶装置380は、ハードディスク装置等からなり、記録媒体駆動装置360を介して記録媒体390から読み込まれた微生物識別プログラムを記憶する。また、外部記憶装置380は、上記のデータベースを記憶する。図1のデータベース格納部4は外部記憶装置360により構成される。CPU310は、外部記憶装置380に記憶された微生物識別プログラムをRAM350上で実行する。
【0151】
なお、微生物識別プログラムを記録する記録媒体390として、ROM等の半導体メモリ、ハードディスク等の種々の記録媒体を用いることができる。また、微生物識別プログラムを通信回線等の通信媒体を介して外部記憶装置360にダウンロードし、RAM350上で実行してもよい。この場合、通信媒体が記録媒体に相当する。
【0152】
本実施の形態では、図1のSSC−PCR増幅・解析装置1が増幅手段に相当し、電気泳動イメージ入力部2が画像データ変換手段に相当し、解析用コンピュータ3がバンド検出手段、バンド情報検出手段、対応関係作成手段、相関関係作成手段および識別手段を構成する。
【0153】
なお、データベース格納部4に格納されるデータベースは、照合対象となる微生物について図2のステップS1〜S6の処理を行うことにより作成される。
【0154】
【実施例】
実施例においては、まず生ゴミ処理機から単離した6種類の細菌の各々についてSSC−PCR法によりDNAの分析を行い、得られたデータをデータベースに登録した。
【0155】
次に、データベースの作成に用いた6種類の細菌と同一の細菌をサンプルとして用いて、SSC−PCR法により再度DNA分析を行った。このサンプルの分析データに基づいて、上記で作成したデータベースからサンプルの細菌の種類を検索し、サンプルの細菌と検索された細菌とが一致するか調べた。以下に詳細を説明する。
【0156】
1.データベースの作成
▲1▼生ゴミ処理機の運転方法
家庭用生ゴミ処理機である三洋電機株式会社製SNS−T1(外形寸法:580×450×795mm)を用い、この生ゴミ処理機に取り付けられている排水口へエアポンプおよび空気量調整器を接続する改良を加えた。この生ゴミ処理機を温度変化の小さい実験室に設置した。
【0157】
生ゴミ処理機の処理槽内に処理担体として25kg(含水率70%)の木質チップ(平均粒度1.5mmの杉材)を入れた。処理槽内に野菜450g、果物300g、魚40g、肉30gおよび米飯180gからなる1kgの生ゴミを1日に1回ずつ週5回投入し、生ゴミの投入後、生ゴミ処理機の攪拌羽根で処理槽内を攪拌した。
【0158】
処理槽内の木質チップの含水率を35〜45%に調節することにより良好な処理状態を保った。エアポンプからの通気の量を空気量調整器で調整することにより含水率の微調整を行った。
【0159】
▲2▼生ゴミ処理細菌の単離
細菌培養用の寒天培地を5種類作成した。細菌培養用の各寒天培地の組成を以下の表4〜表8に示す。
【0160】
【表4】
Figure 0003628232
【0161】
【表5】
Figure 0003628232
【0162】
【表6】
Figure 0003628232
【0163】
【表7】
Figure 0003628232
【0164】
【表8】
Figure 0003628232
【0165】
生ゴミ処理機を運転してから490日目の処理槽内の木質チップを10g採取し、滅菌した0.85%食塩水を90mL加えて細菌が木質チップから十分に遊離するまで懸濁した。その懸濁液をさらに10−6に希釈し、希釈した懸濁液の100μLを各寒天培地上に均一に接種した。3日間、37℃で培養後、すべてのコロニーを新しい寒天培地に移し替えることで細菌の単離を行った。
【0166】
単離したコロニーのうち種類の異なる6つの細菌をSSC−PCR用のサンプルとした。単離した細菌はそれぞれNo.1028,No.1030,No.2001,No.4004,No.5063,No.7004 であり、細菌No.1028 およびNo.1030 は表4に示す組成の培地を用い、細菌No.2001 は表5に示す組成の培地を用い、細菌No.4004 は表6に示す組成の培地を用い、細菌No.5063 は表7に示す組成の培地を用い、細菌No.7004 は表8に示す組成の培地を用いてそれぞれ単離した。
【0167】
各細菌の染色体DNAはCurrent Protocols in Molecular Biology (published by Greene Publishing Associates and Wiley−Interscience) の2.4.1 〜2.4.2 に記載の“Preparation of Genomic DNA from Bacteria”の方法に従って調製した。
【0168】
▲3▼生ゴミ処理機から単離した6種類の細菌のDNA分析
ここでは、PE Applied Biosystemの PCR System 9700および三洋電機株式会社製DNA増幅器MIR−D40を用いて、以下に示すSSC−PCR法により、各細菌について分析を行った。
【0169】
SSC−PCR法においては、以下の表9に示す46種類のプライマー(配列番号1〜46)を用いた。
【0170】
【表9】
Figure 0003628232
【0171】
また、SSC−PCR法に用いた反応溶液の組成を表10に示す。
【0172】
【表10】
Figure 0003628232
【0173】
表10において、Tris−HClのTrisは、Tris(hydroxymethyl)aminomethane の略である。dNTPmixはdATP(2−−デオキシアデノシン−5−−三燐酸)、dCTP(2−−デオキシシチジン− 5−− 三燐酸) 、dGTP(2−−デオキシグアノシン−5−−三燐酸) 、dTTP(2−−デオキシチミジン−5−−三燐酸) の等濃度混合溶液である。反応溶液量は20μLとした。
【0174】
ここでは、6種類の細菌の各々について、プライマーとして配列番号1〜46の各プライマーをそれぞれ含む46種類のSSC−PCR用反応溶液を同時に調製した。また、配列番号14のプライマーとこれに対応する塩基配列を有する鋳型DNAとを含む反応溶液をポジティブコントロールとして、また、配列番号14のプライマーを含むがDNAを含まない反応溶液をネガティブコントロールとして46種類のSSC−PCR用反応溶液と同時に調製した。
【0175】
次に、上記のようにして調製した46種類のSSC−PCR用反応溶液を図4に示すDNA断片増幅装置の46個の孔部51にそれぞれ収納するとともに、孔部51aおよび孔部51bにネガティブコントロールおよびポジティブコントロールをそれぞれ収納した。このDNA断片増幅装置を用いてSSC−PCRを行った。
【0176】
SSC−PCRのサイクルを表11に示す。
【0177】
【表11】
Figure 0003628232
【0178】
続いて、SSC−PCR後の反応溶液、ポジティブコントロールおよびネガティブコントロールの5μLを1.5%アガロースゲル電気泳動法で分析した。電気泳動条件は、3.6V/cm定電圧とした。また、この場合においては、増幅されたDNA断片のバンドの位置を測定するために、濃度が既知で定量可能なDNAサイズマーカ(ニッポンジーン株式会社製Smart Ladder)を反応溶液と同時に電気泳動させた。
【0179】
電気泳動後、ゲルをエチジウムブロマイド染色し、波長254nmの紫外線を照射したときのエチジウムブロマイド蛍光像をポラロイドカメラまたはCCDカメラで撮影した。
【0180】
なお、ポジティブコントロール、ネガティブコントロールおよび46種類のSSC−PCR反応溶液を電気泳動させる際には、1枚のアガロースゲルにおいて8種類の試料を同時に電気泳動させ、各アガロースゲルごとに撮影を行った。このようにして、計6枚の電気泳動写真(No.1〜6)を得た。この場合、各アガロースゲルの両端部においては、DNAサイズマーカを電気泳動させている。
【0181】
6枚の電気泳動写真(No.1〜6)をスキャナでコンピュータに取込んだ後、電気泳動像の画像データから、ソフトウェア(Genomic Solutions Advanced Quantifier 1−D Match )を用いて、DNAサイズマーカのバンド、各プライマーにおけるバンド、ポジティブコントロールにおけるバンドおよびネガティブコントロールにおけるバンドを検出した。
【0182】
ここでは、ネガティブコントロールの電気泳動像においてバンドが検出されなかった。このことから、現れたバンドはサンプルとして用いた細菌由来のものであることが確認できた。
【0183】
なお、この場合においては行っていないが、次のような画像補正の工程をさらに行ってもよい。画像補正として、ポジティブコントロールのバンドの発光強度をもとにして他のバンドの発光強度を補正することが考えられる。例えば、測定したポジティブコントロールのバンドの発光強度が70%であった場合、このバンドの発光強度が100%になるように補正するとともに、他のバンドの発光強度も同様の割合で補正する。これにより、DNA断片増幅反応時における反応条件等の誤差がDNA断片の増幅効率に与える影響を除去することができる。
【0184】
また、各々の電気泳動像の画像データにおいて、測定により求めたDNAサイズマーカの1000bpのバンドの発光強度が100%になるような割合で補正するとともに、他のバンドの発光強度についても同様の割合で補正を行うことも考えられる。このように画像データの階調の補正を行うことにより、各々の画像データにおける階調の誤差を除去することができる。
【0185】
さらに、測定により求めたDNAサイズマーカの200bpのバンドの発光強度の2分の1の発光強度をしきい値として定め、各プライマーにおけるバンドのうち発光強度がしきい値よりも小さなバンドを削除することも考えられる。このようにして発光強度が小さなバンドを削除することにより、SSC−PCRにおいて再現性の低いバンドが削除することができる。それにより、SSC−PCRにおける再現性の向上が図られ、得られたデータの信頼性を向上させることができる。
【0186】
▲4▼バンド強度とバンド位置の測定
上記で用いたDNAサイズマーカは、電気泳動によりバンドサイズ(塩基対の数)の異なる14本のバンドに分離される。この14本のバンドのサイズは、大きいものから10000、8000、6000、5000、4000、3000、2500、2000、1500、1000、800、600、400および200bpである。なお、この場合においては1.5%アガロースゲルを用いて電気泳動を行っているため、10000bpのバンドと8000bpのバンドとは分離しない。したがって、13本のバンドが現れる。13本のバンド間の間隔は均一ではなく、サイズが大きいバンド程、バンド間の間隔が小さくなる。
【0187】
ところで、各プライマーにおけるバンドの位置を表示する方法として、DNAサイズマーカのバンドの位置と各プライマーにおけるバンドの位置とを比較することにより各プライマーにおけるバンドの位置をバンドサイズ(塩基対の数)に変換して表示する方法がある。しかしながら、この方法においては、以下のような問題が生じる。
【0188】
例えば、200bp付近のバンドにおいては、電気泳動像におけるバンドの位置が1mm異なると、バンドサイズが40bp異なる。これに対して、5000bp付近のバンドにおいては、電気泳動像におけるバンドの位置が1mm異なると、バンドサイズが1000bp異なる。このように、5000bp付近では1mmが1000bpに相当するのに対して、200bp付近では1mmが40bpに相当する。また、スキャナで取り込んだ電気泳動像の画像データの解像度はせいぜいサブmmである。
【0189】
以上のことから、各プライマーにおけるバンドの位置をバンドサイズ(塩基対の数)で表示する場合には、バンドサイズの大きなもの程誤差が大きくなる。したがって、この場合においては、バンドサイズによって誤差の大きさを変える必要がでてくる。
【0190】
以上のことから、各プライマーにおいて得られたバンドの位置を、バンドサイズで表示するのではなく、泳動距離方向の実測値に基づいて表示する方が、バンド位置の誤差が一定の大きさになるので好ましい。
【0191】
なお、電気泳動においては、泳動時間や泳動時の温度で泳動距離が変化する。このため、電気泳動における泳動距離方向の実測値に基づいてバンドの位置を表示するためには、規格化を行う必要がある。以下に、規格化の方法を示す。
【0192】
なお、ここでは、規格化を行うために新たにDNAサイズマーカを電気泳動させ、DNAサイズマーカの電気泳動像を撮影した12枚の電気泳動写真を別途用意した。
【0193】
まず、この12枚の電気泳動写真(No.1〜12)の画像データの各々において、DNAサイズマーカの1000bpのバンドを基準とし、このバンドから他の12本のバンドまでの距離を測定した。その結果を表12に示す。
【0194】
【表12】
Figure 0003628232
【0195】
なお、この場合においては、前述のように、8000bpのバンドと10000bpのバンドとが分離しないため、8000−10000bpの1つのバンドとして処理している。また、この場合においては1000bpのバンドの実測距離を0.00とし、1000bpよりもサイズの小さなバンドの実測距離を負の値で表している。
【0196】
次に、12枚の写真(No.1〜12)の画像データの各々において、1000bpのバンドから10000bpのバンドまでの実測距離を1とし、これを基準として他のバンドの位置の規格化を行った。
【0197】
例えば、No.1の写真のデータにおいては、1000bpのバンドから10000bpのバンドまでの実測距離が1.66cmである。したがって、この値1.66で他のバンドの実測距離の値を割り、それぞれのバンドの位置の規格化を行った。この操作を他のNo.2〜No.12の写真のデータについても行った。その結果を表13に示す。
【0198】
【表13】
Figure 0003628232
【0199】
さらに、表13に示すように、各サイズのバンドについて、12枚の電気泳動写真(No.1〜12)のデータにおける平均を求めた。以上のようにして、DNAサイズマーカにおいて1000bpのバンドの位置を基準として他のバンドの相対的な位置(比)を求めた。
【0200】
さらに、上記で得られた値を見やすくするため、基準とした1000bpのバンドの位置を1000とし、1000bpからの相対的な距離が1.00である8000〜10000bpのバンドの位置を2000とした。以下、これに基づいて、他のバンドについてもバンド位置を導き出した。このようにして、DNAサイズマーカの13本のバンドについて、バンド位置(基準値)を求めた。その結果を表14に示す。
【0201】
【表14】
Figure 0003628232
【0202】
なお、上記においては、DNAサイズマーカの1000bpのバンドの位置を基準とするとともに8000−100000bpのバンドの位置を1とする規格化の方法について説明したが、規格化の方法はこれ以外であってもよい。
【0203】
次に、上記のようにして得られたDNAサイズマーカのバンド位置(基準値)に基づいて、6種類の細菌の各々について、46種類のプライマーの各々におけるバンドの位置およびバンド強度を測定した。さらに、測定により得られたデータをまとめ、細菌ごとにバンドデータの一欄を作成した。この場合においては、バンドの発光分布のピークの高さをバンド強度とした。
【0204】
なお、前述のようにこの場合においては、電気泳動像の画像データの各バンドについてポジティブコントロールのバンドの発光強度をもとにして他のバンドの発光強度を補正することは行わず、また、DNAサイズマーカの発光強度による階調補正は行わず、また、発光強度がしきい値より小さいバンドの削除を行わなかった。
【0205】
なお、このようなバンド位置およびバンド強度の測定には、前述のソフトウェア(Genomic Solutions Advanced Quantifier 1−D Match )を用いた。また、6枚の電気泳動写真の画像データのバンド位置およびバンド強度のデータを集計して一欄を作成する工程には、本発明者がMicrosoft Visual Basicで作成したソフトウェアを用いた。
【0206】
例えば表15〜17は、細菌No.2001 に関するバンドデータの一欄を示したものである。
【0207】
【表15】
Figure 0003628232
【0208】
【表16】
Figure 0003628232
【0209】
【表17】
Figure 0003628232
【0210】
他の5種類の細菌No.1028 ,No.1030 ,No.4004 ,No.5063 ,No.7004 についても、このようなバンドデータの一欄を作成した。
【0211】
▲5▼細菌のバンドデータ一欄のデータベースへの登録
上記の表15〜17に示すNo.2001 のバンドデータの一欄を検索用のデータとしてデータベースに登録した。同様にして、他の5種類の細菌No.1028 ,No.1030 ,No.4004 ,No.5063 ,No.7004 についても、バンドデータの一欄を検索用のデータとしてデータベースに登録した。
【0212】
2.単離した6種類の単一細菌の各々をサンプルとして用いた場合のデータ検索
ここでは、単一細菌をサンプルとした場合の検索をテストするために、上記のデータベースの作成時に単離した細菌No.1028, No.1030, No.4000, No.5063, No.7004, No.2001の各々について前述のSSC−PCRを行ってDNAの分析を再度行い、得られたサンプルのデータに基づいて、上記で作成したデータベースから検索を行った。
【0213】
なお、この場合のDNAの分析方法およびバンド強度・バンド位置の測定方法に関しては、データベースの作成時の▲3▼および▲4▼の工程において前述した通りである。この場合においても、前述のソフトウェア(Genomic Solutions Advanced Quantifier 1−D Match )および本発明者が作成したソフトウェアを用いた。
【0214】
この場合においては、サンプルの6種類の細菌の各々についてバンドデータの一欄を作成した後、作成したサンプルの各細菌のバンドデータと予めデータベースに登録した6種類の細菌のバンドデータとを比較し、相関係数を求めた。
【0215】
なお、相関係数の計算は、本発明者がMicrosoft Visual Basicで作成したソフトウェアを用いて行った。また、この場合のパラメータは、バンド位置の誤差(同一位置のバンドとみなすバンド位置の範囲)を±43とし、相関係数のしきい値を0.30とした。また、相関係数の計算方法は、図12(c)に示す方法を用いた。上記のようにして相関係数を計算したところ、表18に示す結果が得られた。
【0216】
【表18】
Figure 0003628232
【0217】
表18に示すように、6種類の単一細菌をサンプルとして用いた場合には、サンプルの細菌をそれぞれデータベースから検索することが可能であった。
【0218】
また、表18の解析結果から、以下のことが明らかとなった。すなわち、サンプルが単一細菌であることがわかっている場合には、相関係数のしきい値を0.6程度に設定することにより、サンプルの細菌をデータベースから確実に検索することが可能となる。一方、種類の異なる細菌間の相関係数は、細菌No.5063 をサンプルとした場合の細菌No.4004 との相関係数が0.252と最も高く、これ以外は相関係数が低い。このことから、しきい値を0.3以上に設定することにより、誤ったものを検索しないことがわかった。
【0219】
さらに、サンプルとして用いた細菌No.2001 のバンドデータと、データベースに登録した細菌No.2001 のバンドデータとの相関状態を相関図により確かめた。その結果を図14に示す。なお、図14中の直線は、相関係数が1となる場合、すなわち両者のデータが一致する場合を指定している。
【0220】
図14に示すように、サンプルとして用いた細菌No.2001 のバンドデータと、データベースに登録した細菌No.2001 のバンドデータとの間には、非常に良好な相関関係があることがわかる。このように、図14のような相関図を示すことにより、両者の良好な相関関係を視覚的に確認することができる。
【0221】
3.複数の細菌の混合物をサンプルとして用いた場合のデータ検索
ここでは、複数の細菌の混合物をサンプルとした場合の検索をテストするために、5種類の細菌(No.1028, No.1030, No.4004, No.5063, No.7004)を含むサンプル1と、2種類の細菌(No.1028, No.1030)を含むサンプル2とを用意した。各サンプル1,2を用いて前述のSSC−PCRを行ってDNAの分析を行い、得られたサンプル1,2のデータに基づいて、上記で作成したデータベースから検索を行った。
【0222】
なお、サンプル1を用いてSSC−PCRを行う場合には、5種類の細菌の染色体DNAをそれぞれ濃度1μg/Lずつ含むSSC−PCR反応溶液を調製した。また、サンプル2を用いてSSC−PCRを行う場合には、2種類の細菌の染色体DNAをそれぞれ濃度1μg/Lずつ含むSSC−PCR反応溶液を調製した。
【0223】
ここでは、上記のSSC−PCR反応溶液の調製方法以外は、データベースの作成時の▲3▼および▲4▼の工程において前述した方法と同様の方法を用いた。また、この場合においても、前述のソフトウェア(Genomic Solutions Advanced Quantifier 1−D Match )および本発明者が作成したソフトウェアを用いた。
【0224】
この場合においては、各サンプル1およびサンプル2についてバンドデータの一欄を作成した。その後、ここで作成したサンプル1およびサンプル2のバンドデータと、予めデータベースに登録した6種類の細菌のバンドデータとを比較し、相関係数を求めた。
【0225】
なお、相関係数の計算は、前述の本発明者が作成したソフトウェアを用いて行った。また、この場合のパラメータは、バンド位置の誤差(同一位置のバンドとみなすバンド位置の範囲)を±43とし、相関係数のしきい値を0.30とした。また、相関係数の計算方法は、図12(c)に示す方法を用いた。上記のようにして相関係数を計算したところ、表19に示す結果が得られた。
【0226】
【表19】
Figure 0003628232
【0227】
表19に示すように、5種類の細菌を含むサンプル1においては、混合した5種類の細菌のうち、4種類の細菌No.1028, No.1030, No.4004, No.7004がデータベースから検索された。なお、この場合においては、しきい値を0.30に設定したため、サンプル1に含まれる細菌No.5063 は検索にかからなかった。このことから、サンプル1に関しては、0.3というしきい値が細菌No.5063 にとって高いことが明らかとなった。
【0228】
一方、2種類の細菌を混合したサンプル2においては、混合した2種類の細菌No.1028, No.1030がデータベースから検索された。さらに、この場合においては、サンプル2に含まれない細菌No.5063 が検索にかかった。このことから、サンプル2に関しては、0.3というしきい値が細菌No.5063 に対して低いことが明らかとなった。
【0229】
以上の解析結果から、検索のしきい値を高め、例えば0.35に設定した場合においては、サンプルに含まれる細菌を確実に検索することが可能であることが示された。一方、検索のしきい値を低め、例えば0.25に設定した場合においては、サンプルに含まれる可能性のある細菌を広く検索することが可能であることが示された。
【0230】
【配列表】
Figure 0003628232
Figure 0003628232
Figure 0003628232
Figure 0003628232
Figure 0003628232
Figure 0003628232
Figure 0003628232
Figure 0003628232
Figure 0003628232
Figure 0003628232
Figure 0003628232
Figure 0003628232
Figure 0003628232

【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る微生物識別装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る微生物識別方法の一例を示すフローチャートである。
【図3】図2の微生物識別方法に用いるSSC−PCR法の一例を示すフローチャートである。
【図4】図3のSSC−PCR法に用いるDNA断片増幅装置の例を示す模式図である。
【図5】SSC−PCR法における第1のサイクル中の過程を示す模式図である。
【図6】SSC−PCR法における第2のサイクルの1回目のサイクル中の過程を示す模式図である。
【図7】SSC−PCR法における第2のサイクルの2回目のサイクル中の過程を示す模式図である。
【図8】図2の微生物識別方法に用いる画像処理法の一例を示すフローチャートである。
【図9】図8の画像処理法を用いて処理を行った電気泳動像の画像データである。
【図10】サンプルの微生物のバンドデータおよびデータベースのバンドデータにおける同一プライマーの同一位置のバンドの検索方法を示す図である。
【図11】サンプルの微生物のバンド強度とデータベースの微生物のバンド強度との相関関係を示す図である。
【図12】相関係数の計算方法を示す図である。
【図13】図1の解析用コンピュータとして用いられるパーソナルコンピュータの構成を示すブロック図である。
【図14】実施例におけるサンプルの細菌No.2001 のバンド強度とデータベースの細菌No.2001 のバンド強度との相関関係を示す図である。
【符号の説明】
1 SSC−PCR増幅・解析装置
2 電気泳動イメージ入力部
3 解析用コンピュータ
4 データベース格納部
5 経過表示手段
11 DNA
12a,12b,12c,12d,12e 一本鎖
13a,13b,13c,13d,13e 二本鎖
21a,21b,21c プライマー
50 支持プレート
51,51a,51b 孔部

Claims (11)

  1. 識別対象となる微生物を識別する微生物識別方法であって、
    増幅確率の異なる複数のプライマーを準備し、前記複数のプライマーの各々を用いて、識別対象となる微生物のDNAに対し、熱変成工程、プライマーのアニーリング工程およびポリメラーゼによる伸長反応工程をこの順序で繰り返し行うポリメラーゼ連鎖反応法を一度に適用することにより、前記識別対象となる微生物のDNAのDNA断片を増幅するステップと、
    前記複数のプライマーの各々を用いて増幅されたDNA断片に対して電気泳動法を適用し、各プライマーに対応する電気泳動像を得るステップと、
    各プライマーに対応する前記電気泳動像を画像データに変換するステップと、
    前記画像データに基づいて各プライマーに対応する前記電気泳動像のバンドを検出するステップと、
    前記画像データに基づいて各プライマーに対応する前記電気泳動像における前記検出されたバンドの位置および強度に関する情報を求めるステップと、
    前記複数のプライマーと前記バンドの位置および強度に関する情報との対応関係を求めるステップと、
    照合対象となる微生物についての前記対応関係が予め記憶されたデータベースを検索し、前記識別対象となる微生物について求められた前記対応関係と前記照合対象となる微生物についての前記対応関係とに基づいて、前記識別対象となる微生物および前記照合対象となる微生物についてほぼ等しい位置にあるバンドの強度の相関関係を求めるステップと、
    前記相関関係における相関係数を算出し、前記算出された相関係数が予め定められたしきい値よりも大きいか否かに基づいて前記識別対象となる微生物が前記照合対象となる微生物であるか否かを判定することにより前記識別対象となる微生物を識別するステップとを備えたことを特徴とする微生物識別方法。
  2. 前記バンドの位置に関する情報は、前記電気泳動像上での所定の基準位置とバンドとの間の距離で表されることを特徴とする請求項1記載の微生物識別方法。
  3. 前記バンドの位置に関する情報は、当該バンドに含まれるDNA断片のサイズで表されることを特徴とする請求項1記載の微生物識別方法。
  4. 前記バンドの強度に関する情報は、前記電気泳動像におけるバンドの発光強度分布のピークの高さまたは面積を表し、前記画像データの階調分布に基づいて算出されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の微生物識別方法。
  5. 前記複数のプライマーと前記バンドの位置および強度に関する情報との対応関係は、各プライマーごとに各バンドの位置に関する情報と各バンドの強度に関する情報との対応を示すことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の微生物識別方法。
  6. 既知の塩基配列を有する参照用プライマーを用いて、前記参照用プライマーの塩基配列に相補な塩基配列を有する参照用DNAに対し、前記ポリメラーゼ連鎖反応法を適用することにより、前記参照用DNAのDNA断片を増幅するステップと、
    前記参照用プライマーを用いて増幅された前記参照用DNAのDNA断片に対して電気泳動法を適用し、前記参照用DNAに対応する電気泳動像を得るステップと、
    前記参照用DNAに対応する前記電気泳動像を画像データに変換するステップと、
    前記参照用DNAに対応する画像データに基づいて前記識別対象となる微生物に対応する画像データを補正するステップとをさらに備えたことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の微生物識別方法。
  7. 各プライマーに対応する電気泳動像を得るステップと同時に、DNAサイズマーカの電気泳動像を得るステップと、
    前記DNAサイズマーカの電気泳動像を画像データに変換するステップと、
    前記DNAサイズマーカに対応する画像データに基づいて前記識別対象となる微生物に対応する画像データを補正するステップとをさらに備えたことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の微生物識別方法。
  8. 前記電気泳動像のバンドを検出するステップは、前記電気泳動像において前記参照用DNAから増幅されたDNA断片または前記DNAサイズマーカのバンドの発光強度に基づくしきい値を設定し、前記電気泳動像において前記しきい値以上の発光強度を有するバンドを選択するステップを含むことを特徴とする請求項記載の微生物識別方法。
  9. 前記データベースには複数種類の微生物についての前記対応関係が記憶されたことを特徴とする請求項1〜のいずれかに記載の微生物識別方法。
  10. 識別対象となる微生物を識別する微生物識別装置であって、
    増幅確率の異なる複数のプライマーの各々を用いて、識別対象となる微生物のDNAに対し、熱変成工程、プライマーのアニーリング工程およびポリメラーゼによる伸長反応工程をこの順序で繰り返し行うポリメラーゼ連鎖反応法を一度に適用することにより、前記識別対象となる微生物のDNAのDNA断片を増幅する増幅手段と、
    前記増幅手段により前記複数のプライマーの各々を用いて増幅されたDNA断片に対して電気泳動法を適用し、各プライマーに対応する電気泳動像を得る電気泳動手段と、
    前記電気泳動手段により得られた各プライマーに対応する前記電気泳動像を画像データに変換する画像データ変換手段と、
    前記画像データ変換手段により得られた前記画像データに基づいて各プライマーに対応する前記電気泳動像のバンドを検出するバンド検出手段と、
    前記画像データに基づいて各プライマーに対応する前記電気泳動像における前記検出されたバンドの位置および強度に関する情報を求めるバンド情報検出手段と、
    前記複数のプライマーと前記バンド情報検出手段により検出された前記バンドの位置および強度に関する情報との対応関係を作成する対応関係作成手段と、
    照合対象となる微生物についての前記対応関係が予め記憶されたデータベースを検索し、前記識別対象となる微生物について作成された前記対応関係と前記照合対象となる微生物についての前記対応関係とに基づいて、前記識別対象となる微生物および前記照合対象となる微生物についてほぼ等しい位置にあるバンドの強度の相関関係を作成する相関関係作成手段と、
    前記相関関係作成手段により作成された相関関係における相関係数を算出し、前記算出された相関係数が予め定められたしきい値よりも大きいか否かに基づいて前記識別対象となる微生物が前記照合対象となる微生物であるか否かを判定することにより前記識別対象となる微生物を識別する識別手段とを備えたことを特徴とする微生物識別装置。
  11. 識別対象となる微生物を識別する微生物識別プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体であって、
    前記微生物識別プログラムは、
    増幅確率の異なる複数のプライマーの各々を用いて、識別対象となる微生物のDNAに対し、熱変成工程、プライマーのアニーリング工程およびポリメラーゼによる伸長反応工程をこの順序で繰り返し行うポリメラーゼ連鎖反応法を一度に適用することにより、前記識別対象となる微生物のDNAのDNA断片を増幅し、前記複数のプライマーの各々を用いて増幅されたDNA断片に対して電気泳動法を適用することにより得られた電気泳動像を画像データとして取り込む処理と、
    前記画像データに基づいて各プライマーに対応する前記電気泳動像のバンドを検出する処理と、
    前記画像データに基づいて各プライマーに対応する前記電気泳動像における前記検出されたバンドの位置および強度に関する情報を求める処理と、
    前記複数のプライマーと前記バンドの位置および強度に関する情報との対応関係を求める処理と、
    照合対象となる微生物についての前記対応関係が予め記憶されたデータベースを検索し、前記識別対象となる微生物について求められた前記対応関係と前記照合対象となる微生物についての前記対応関係とに基づいて、前記識別対象となる微生物および前記照合対象 となる微生物についてほぼ等しい位置にあるバンドの強度の相関関係を求める処理と、
    前記相関関係における相関係数を算出し、前記算出された相関係数が予め定められたしきい値よりも大きいか否かに基づいて前記識別対象となる微生物が前記照合対象となる微生物であるか否かを判定することにより前記識別対象となる微生物を識別する処理とを、前記コンピュータに実行させることを特徴とする微生物識別プログラムを記録した記録媒体。
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