JP3623303B2 - スライドプレート洗浄液及びそれを含むキット - Google Patents

スライドプレート洗浄液及びそれを含むキット Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、顕微鏡を用いた蛍光抗体法や酵素抗体法等に用いるスライドグラス等のスライドプレートを洗浄する際に用いる洗浄液及びそれを含むキットに関し、詳しくは、スライドプレートの乾燥及びそれに由来する被検物質の損傷等を防ぐための洗浄液に関する。本発明の洗浄液及びキットは、特に自動化された洗浄装置に好適に用いることができる。
【0002】
【従来の技術】
顕微鏡を用いた臨床検査及び研究には、蛍光抗体法、酵素抗体法、病理組織化学などがあり、これらの方法では染色及び洗浄工程を含むものが多い。
【0003】
蛍光抗体法は、抗核抗体、抗DNA抗体(クリシディア法)、抗胃壁細胞抗体、抗平滑筋抗体、抗ミトコンドリア抗体、抗好中球細胞質抗体等を検出する自己免疫性疾患検査や、EBウィルス、風疹ウィルス抗体、ヘルペスウィルス抗体(抗原)、サイトメガロウィルス抗体、クラミジア トラコマティス抗体(抗原)、クラミジア シッタシ抗体(抗原)、エンドトキシン、トキソプラズマ抗体、FTA−ABS等を検出する感染症検査や、癌の組織診断等に用いられている検査法である。
【0004】
この検査法は、直接法と間接法に分類され、直接法では、被験者の組織、細胞等をスライドプレート上に固定し、これに蛍光標識された抗体を反応させ、その免疫的染色像を顕微鏡で観察する。また、間接法では、通常スライドプレート上に細胞や組織等の抗原を予め固定し、被験サンプル中のこの抗原に対する抗体を反応させた上で、蛍光標識され、かつ、前記抗体に結合する第2の抗体を更に反応させ、被験サンプル中の目的抗体の存在を、その免疫的染色像を蛍光顕微鏡で観察することにより検出する。
【0005】
酵素抗体法は、上記蛍光抗体法の蛍光標識された抗体のかわりに、ペルオキシダーゼやアルカリ性フォスファターゼのような酵素で標識した抗体または、ビオチン−アビジン結合を介して酵素が間接的に結合し得るビオチン標識抗体を用いて、酵素反応により発色する基質の色を光学顕微鏡で観察することをによって、免疫学的な検出を行う方法であって、この点を除けば、全く蛍光抗体法と同等の方法である。
【0006】
これまでの顕微鏡を用いた間接蛍光抗体法や間接酵素抗体法では、スライドグラス上に被験サンプルや試薬を分注することと、スライドグラスをビーカーなどの洗浄層中で生理食塩水などで洗浄することの2種類の操作が交互に繰り返されるため、検査工程の自動化が最も困難な分野であった。
【0007】
抗核抗体の間接蛍光抗体法を例にとり、一般的な検査手順を以下に示す。
1)用いられるスライドグラスは複数の検査用穴を持ち、その部分はガラスが露出しており、その他の部分はテフロンなどで撥水コーティングされている。このガラスの露出した検査用穴の部分にガン細胞HEp2(核抗原を有する)が固定されているものを用意する。
2)患者血清を生理食塩水などで稀釈したものを、スライドグラス上に載せ、血清中の特異抗体(抗核抗体)とスライドグラス上の抗原と反応させる。
3)スライドグラスをビーカー中の生理食塩水に漬けて洗浄する。
4)蛍光で標識された抗イムノグロブリン抗体をスライドグラス上の検査用穴に載せ、スライドグラス上の抗原に結合した特異抗体と反応させる。
5)スライドグラスをビーカー中の生理食塩水に漬けて洗浄する。
6)グリセリン水溶液(封入剤)をスライドグラスに載せ、カバーグラスを被せて蛍光顕微鏡で観察する。
【0008】
このように、スライドグラスを用いた検査の工程では、スライドグラス上への試料や抗イムノグロブリン抗体の分注とビーカー中でのスライドグラスの洗浄が繰り返されるので、自動化が行い難く、ほとんどの工程が手作業で行われている。その結果、このような顕微鏡を用いた臨床検査は、それ以外の臨床検査の多くが自動化されてきた中でもっとも自動化の遅れた分野となっている。
【0009】
このような現状に対し、本発明者らは、既にスライドグラス上に着脱可能な通孔を有する上方部材を装着することにより、上記で述べたように困難であった自動化を可能とする装置を発明し、特許出願した(特願平6−247750号)。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
上記の様な自動洗浄機構を細胞の固定されたスライドグラスに適用した場合、これまで手作業による洗浄に使用されてきた洗浄用水溶液を使用したのでは、いくつかの不都合が存在することが知見された。
【0011】
従来の手洗浄では、洗浄液として、生理的食塩水(通常0.8〜0.9%程度のNaCl水溶液)または、これにリン酸等の緩衝液を加えpHを中性付近としたもの(例えば、「PBS」と呼ばれるもの)などが使用されている。これを、ビーカー等の洗浄槽に満たし、洗浄用のかごに入れたスライドグラスを浸漬した後、かごごとスライドグラスを取り出す。この作業を繰り返す事により、スライドグラスの洗浄を行う。
【0012】
一方、自動洗浄機を用いた洗浄では洗浄液をノズルから注入した後、吸引用ノズルから吸引することを繰りかえす。この吸引の過程は、減圧ポンプなどの吸引力によって洗浄液を取り去るので、洗浄液を十分に除去するにはある程度強い吸引力が必要となり、洗浄液が無くなった後は洗浄部分に気流を起こすことになり洗浄面の乾燥を起こしやすい。間接蛍光抗体法や間接酵素抗体法では、スライドグラス上には、動物や微生物の細胞が抗原として固定されており、これらの固定化抗原はこのようなタイプの乾燥に極めて弱い性質を有する。その為、従来の洗浄液を用いて、自動洗浄機による洗浄を行うと、固定化された抗原(細胞)の乾燥に伴う変形、損傷やスライドグラスからの脱離が観察される。そこで自動洗浄機により、スライドグラスの洗浄を行うには、洗浄中にスライドグラスの乾燥を防ぐ手だてが必要であることが判明したのである。
【0013】
また、このような検査に用いられるスライドグラスは、通常前記したようにスライドグラス上の検査用穴以外の部分はテフロンなどで撥水コーティングされている。この撥水コーティングにより、サンプルや試薬が検査用穴間で混合してしまうことを防いでいるので、このコーティングの撥水性は検査の上で極めて重要である。従来の洗浄法では、スライドグラスごと洗浄槽に浸漬するため、洗浄液中に界面活性剤を添加するとこの撥水性が急速に失われ、洗浄以降の工程に支障を来すことになる。このため、従来の洗浄法用の洗浄液には界面活性剤や高濃度のタンパク質などコーティングの撥水性を低下させる物質を添加することは実質的に不可能であった。
【0014】
そこで本発明では、スライドグラス用の洗浄液に改良を加え、上記したスライドグラスの自動洗浄機構による効率的な洗浄を行うことを目的とした。
さらに、本発明に至る過程で、従来の洗浄液では手洗浄であっても、スライドグラス面の乾燥に由来する抗原細胞の変形、脱落が知見され、これを防ぐことも本発明の課題とし得るものである。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、蛍光抗体法または接酵素抗体法等に用いる洗浄液に保湿剤を含有させ、洗浄時に乾燥による固定化抗原の変形、損傷、脱離を防ぐことにより、洗浄をより効率的に行うことができることを見い出した。即ち、保湿剤を含む洗浄液をスライドグラスの洗浄面に注入し、吸引することを繰り返す。このようにすると、吸引時に強い吸引力により空気の流れができても洗浄面が乾燥を防ぐことができる。このようにすれば、自動洗浄機を用いてもスライドグラスの洗浄が可能となることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は、検出対象である抗体に結合する抗原を含む細胞又は組織が固定化されたスライドプレートと、標識物質で標識され、かつ、前記抗体に結合する標識化抗体とを用い、前記抗原、標識化抗体及び試料中の測定対象である抗体との反応により結合した標識をスライドプレート上で顕微鏡を用いて検出することによって前記抗体を検出するに際し、あるいは、
検出対象である抗原を含む細胞又は組織が固定化されたスライドプレートと、標識物質で標識され、かつ、前記抗原に結合する標識化抗体、又は前記抗原に結合する抗体並びに標識物質で標識され、かつ、前記抗体に結合する標識化抗体とを用い、前記抗体及び/又は標識化抗体と前記抗原との反応により結合した標識をスライドプレート上で顕微鏡を用いて検出することによって前記抗原を検出するに際し、
未反応の抗体及び/又は標識化抗体をスライドプレートから除去するために用いる洗浄液であって、保湿剤を含有することを特徴とするスライドプレート洗浄液である。
【0017】
本発明はまた、顕微鏡を用いた抗体法により、抗原を含む細胞又は組織を検出するためのキットであって、前記細胞又は組織を固定化するためのスライドプレートと、前記の洗浄液とを含むキット、及び
顕微鏡を用いた抗体法により、抗体を検出するためのキットであって、前記抗体に結合する抗原を含む細胞又は組織が固定化されたスライドプレートと、前記の洗浄液とを含むキットを提供する。
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、本発明の洗浄液について説明する。
本発明の洗浄液に添加するに適する保湿剤としては、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのポリアルコール類;ブドウ糖、ショ糖、乳糖、ガラクトース、マルトース、ソルビトール、トレハロースなどの糖類または糖アルコール類;血清アルブミン、血清グロブリン、ゼラチン、ゼラチン加水分解物、カゼイン、カゼイン加水分解物、オバルブミン、などのタンパク質またはタンパク質の加水分解物;Tween20、Tween40、Tween80、Triton X−100、脂肪酸糖エステル、脂肪酸アミノ酸エステルなどの界面活性剤;デキストラン、フィコール(ファルマシア社)、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドンなどの水溶性ポリマーなどが挙げられる。
【0019】
本発明の洗浄液は、上記のような保湿剤を含むことを特徴とするものであり、保湿剤以外の成分については、従来、蛍光抗体法または酵素抗体法等に用いる洗浄液と特に変わるところはない。従来の洗浄液としては、生理食塩水やこれに緩衝液成分を含んだものが用いられているが、本発明の洗浄液も、これらを基本とすることができるが、これに限られるわけではない。具体的には、1〜500mM、好ましくは5〜50mM程度のリン酸緩衝液、pH4〜10、好ましくはpH6〜8のような洗浄液を基本とすることができる。緩衝液はリン酸以外のもの、例えば、ホウ酸、グリシン、バルビタール、トリスヒドロキシアミノメタン,HEPESなど通常用いられるあらゆる緩衝液成分が利用可能である。また、洗浄液に適度の浸透圧を与えるもの、例えば、0.01〜2.5%、好ましくは0.8〜0.9%のNaCl等を含んでいてもよい。
【0020】
洗浄液に添加する保湿剤の量としては、ポリアルコール類、例えばグリセリンでは好ましくは0.1〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%であり、タンパク質、例えばウシ血清アルブミン、ゼラチン加水分解物、カゼイン加水分解物では好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは、0.1〜1重量%であり、界面活性剤、例えばTween20, Triton X−100では、好ましくは0.001〜0.5重量%、より好ましくは、0.01〜0.1重量%であり、水溶性ポリマー、例えばデキストランでは好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.1〜5重量%である。
【0021】
界面活性剤は、保湿効果だけでなく洗浄効果も大きい。しかし、前述したように従来の洗浄法では、テフロンなどで撥水コーティングしたスライドグラスには実質的には適用が困難なものであった。しかしながら、本発明者が開発したスライドプレートへの洗浄液の注入及び吸引を自動的に行う自動洗浄機を用いた自動洗浄法に適用する場合には、洗浄液の中に界面活性剤を添加することができ、尚かつ洗浄効率を向上させることができるので極めて有用である。
【0022】
本発明において、保湿剤は、単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いてもよい。例えば、グリセリンとTween20(界面活性剤)を組み合わせると十分な保湿効果と洗浄効果を得ることができる。
【0023】
また、間接蛍光抗体法、間接酵素抗体法では染色工程の終了後、グリセリンやポリエチレングリコール水溶液を封入剤として極少量(例えば検査用穴あたり約5μl)加えた後、カバーグラスを被せることが一般に行われている。グリセリン、ポリエチレングリコールなどのポリアルコール類を洗浄液に添加した場合、洗浄後に洗浄液をスライドグラス等の支持体から完全に取り去ってしまうのは実質的には不可能なので、その少量の洗浄残液がそのまま封入剤の役割を果たすことになり、封入剤の分注の手間が省けるという副次的効果もある。
【0024】
次に、本発明のキットについて説明する。
本発明の第1のキットは、顕微鏡を用いた抗体法により、抗原を含む細胞又は組織を検出するためのキットであって、
▲1▼前記細胞又は組織を固定化するためのスライドプレートと、
▲2▼上記の洗浄液と、を含む。
【0025】
上記キットは、直接蛍光抗体法、直接酵素抗体法等の直接法により抗原を含む細胞又は組織を検出するのに用いられる。本発明のキットは、1種類の抗体(標識化抗体)を用いる方法に適用する場合には、標識物質で標識され、かつ、前記抗原に結合する標識化抗体(標識化抗体)を用いる。また、2種類の抗体(1次抗体及び標識化2次抗体)を用いる二重抗体法に適用する場合には、前記抗原に結合する抗体(1次抗体)、及び標識物質で標識され、かつ、前記抗体に結合する標識化抗体(標識化2次抗体)を用いる。これらの標識化抗体、又は1次抗体及び標識化2次抗体は、キットとは別に用意してもよく、またキットに含ませてもよい。
【0026】
1種類の抗体を用いる方法では、検体である細胞又は組織をスライドプレートに固定化し、これに標識化抗体を加えてスライドプレート上の細胞又は組織に含まれる抗原に標識化抗体を結合させ、抗原に未結合の標識化抗体を洗浄液を用いて洗浄することによって除去した後、標識を検出する。また、二重抗体法では、検体である細胞又は組織を固定化したスライドプレートに1次抗体を加えて抗原に抗体を結合させ、抗原に未結合の標識化抗体を洗浄液を用いて洗浄することによって除去し、次いで標識化2次抗体を加えて1次抗体に標識化2次抗体を結合させ、1次抗体に未結合の標識化2次抗体を洗浄して除去した後、標識を検出する。
【0027】
また、本発明の第2のキットは、顕微鏡を用いた抗体法により、抗体を検出するためのキットであって、
▲1▼’前記抗体に結合する抗原を含む細胞又は組織を固定化したスライドプレートと、
▲2▼’上記の洗浄液と、を含む。
【0028】
上記キットは、間接蛍光抗体法、間接酵素抗体法等の間接法により抗体を検出するのに用いられる。すなわち、抗原を含む細胞又は組織が固定化されたスライドプレートに検体を加えて検体中の抗体を抗原に結合させ、抗原に未結合の抗体を洗浄液を用いて洗浄することによって除去し、次いで標識物質で標識され、かつ、前記抗体に結合する標識化抗体を加えて検出対象である抗体に標識化抗体を結合させ、未結合の標識化2次抗体を洗浄して除去した後、標識を検出する。標識化抗体は、キットとは別に用意してもよく、またキットに含ませてもよい。
【0029】
本発明の洗浄液及びキットは、洗浄液として保湿剤を含む以外は、通常の蛍光抗体法や酵素抗体法に用いられる洗浄液やキットと特に変わるところはなく、通常使用されている成分や要素を適用することができる。例えば、上記の要素以外に、検体稀釈用の緩衝液、酵素抗体法に用いる場合は酵素に対する発色基質などを含んでもよい。また、細胞又は組織をスライドプレートに固定するには、通常行われている方法を採用することができる。
【0030】
尚、キットの構成要素の一部だけを別途販売されることもあるが、実質的な検査にはこれらが組み合わせて使用される。
スライドプレートとしては、スライドグラス、ガラス以外の相当品、例えばポリスチレンなどのプラスチックプレートなどが挙げられる。スライドグラスとしては、複数の検査用穴を有し、それ以外の部分はテフロンなどでコーティングされているものが好適に用いられるが、このような構造は必ずしも必要ではない。
【0031】
被検物質としては、抗原を含む細胞もしくは組織又は抗体、例えば、ガン細胞、ウィルス感染細胞等の細胞、抗核抗体、抗DNA抗体(クリシディア法)、抗胃壁細胞抗体、抗平滑筋抗体、抗ミトコンドリア抗体、抗好中球細胞質抗体、抗EBウィルス抗体、風疹ウィルス抗体、ヘルペスウィルス抗体(又は抗原)、サイトメガロウィルス抗体、クラミジア トラコマティス抗体(又は抗原)、クラミジア シッタシ抗体(又は抗原)、エンドトキシン、トキソプラズマ抗体、FTA−ABSが挙げられる。
【0032】
被検物質が細胞又は組織である場合には、通常、細胞又は組織は患者等から採取したものであり、被検物質が抗体である場合には、細胞又は組織は、検出しようとする抗体が結合する抗原を含む細胞をヒトや他の動物から採取したものであってもよく、前記抗原を含む培養細胞やウィルス感染細胞等であってもよい。例えば、抗胃壁細胞抗体の検出には、ヒト胃壁から採取した組織などを用いることができ、ヘルペスウィルス抗体の検出には、ヘルペスウィルスを感染させた培養細胞などを用いることができる。
【0033】
第1のキットにおける標識化抗体又は1次抗体は、被検物質である抗原に特異的に結合する抗体であり、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよい。また、第1のキットにおける標識化2次抗体及び第2のキットにおける標識化抗体は、1次抗体または被検物質である抗体が由来する動物のイムノグロブリンに結合する抗体であって、他の動物(例えばヤギ、ウサギ、マウス、ラットなど普通に用いられる動物)で調製されたものを使用することができる。
【0034】
標識物質としては、通常の免疫測定法に用いられる標識物質を用いることができる。そのような標識物質としては、発色反応を触媒する酵素、蛍光物質、ラジオアイソトープ、ビオチン等が挙げられるが、顕微鏡下での検出には、酵素及び蛍光物質が好ましい。酵素としては、ペルオキシダーゼ、アルカリ性フォスファターゼなどが、蛍光物質としては、FITC(フルオロセインイソチオシアネート)、ロ−ダミン、フィコエリスリン、フィコシアニンなどが挙げられる。また、前記酵素に対する基質としては、ジアミノベンチジンなどが使用可能である。標識物質としてビオチンを用いた場合には、さらにアビジンを結合させた酵素や蛍光物質を結合させることにより、検出を行うことができる。抗体をこれらの標識物質で標識するには、通常酵素抗体法に用いられている方法を採用することができる。
【0035】
標識の検出は、例えば標識物質が酵素である場合には、支持体にその酵素に対する基質を加えて反応させ、生じる発色によって行われる。また、標識物質が蛍光物質である場合には、スライドプレートに励起光を照射し、生じる蛍光を検出することによって、標識を検出することができる。
【0036】
本発明の洗浄液又はキットを用いれば、洗浄工程においてスライドプレートから洗浄液を除去しても、乾燥による細胞や組織の変形、損傷やスライドプレートからの脱離を防ぐことができる。
【0037】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態を具体的に説明する。
<1>洗浄液
はじめに、洗浄液の形態を例示する。
(1)グリセリンを含む洗浄液
10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)、
150mM NaCl
5%グリセリン
【0038】
(2)界面活性剤(Tween20)を含む洗浄液
10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)、
150mM NaCl
0.01% Tween20
【0039】
(3)グリセリン及びTween20を含む洗浄液
10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)、
150mM NaCl
5%グリセリン
0.01% Tween20
【0040】
(4)ウシ血清アルブミンを含む洗浄液
10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)、
150mM NaCl
0.5% ウシ血清アルブミン
【0041】
(5)水溶性ポリマー(デキストラン)を含む洗浄液
10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)、
150mM NaCl
0.5% デキストラン
【0042】
<2>抗核抗体検出キット
次に、本発明のキットの形態として、抗核抗体検出用のキットを例示する。
下記要素よりキットを構成する。
【0043】
▲1▼ガン細胞Hep2(核抗原を有する)が固定されたスライドグラス(図1)(スライドグラスは、複数の検査用穴を持ち、その部分はガラスが露出し、その他の部分はテフロンなどで撥水コーティングされており、ガン細胞Hep2は、前期検査用穴に固定されている。)
▲2▼洗浄液(10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)、150mM NaCl、5%グリセリン、0.01% Tween20)
▲3▼生理食塩水
▲4▼蛍光色素で標識されたウサギ抗ヒトイムノグロブリン抗体溶液
【0044】
<3>本発明のキットを用いた抗核抗体の検出例
(1)複数(2×8個)の検査用穴1を持ち、その部分はガラスが露出しており、その他の部分はテフロンなどで撥水コーティングされているスライドグラス2の検査用穴に、ガン細胞Hep2が固定されているものを用意する。細胞の固定は、例えば、細胞を接着させたスライドグラスをアセトンで処理することによって行う。
【0045】
(2)スライドグラス6枚を並べて収容できる箱形の下方部材3に、下方部材3の内寸に略等しい大きさの平板状のシール4を入れ、その上に上記のスライドグラス2を乗せる。下方部材3の長辺内側には、スライドグラスを固定するために突起5が設けられている。さらにその上に、検査用穴2に対応した複数(12×8個)の通孔6を持ち、下方部材3の内寸に略等しい大きさの上方部材7を下方部材3に挿入し、スライドグラス2に圧着させ、検査用筒を形成させる(図1)。
【0046】
尚、下方部材、シール、及び上方部材は、本発明のキットを用いた抗原や抗体の検出に必須ではないが、これらを用いることにより操作が簡便となる。特に試薬の注入及び洗浄を自動化する上でこれらの部材は有用である。
【0047】
(3)患者血清を生理食塩水などで稀釈したものを、検査用筒に自動分注機で分注し血清中の特異抗体(抗核抗体)とスライドグラス2上の抗原と反応させる。
(4)洗浄液の注入、吸引を自動的に行う自動洗浄機を用い、検査用筒への洗浄液の注入、吸引を2回以上繰り返す。こうして、スライドグラス2上の抗原と反応しなかった抗体(イムノグロブリン)を除去する。
【0048】
(5)蛍光色素で標識されたウサギ抗ヒトイムノグロブリン抗体を自動分注機で検査用穴に分注し、スライドグラス2上の抗原に結合した特異抗体と反応される。
【0049】
(6)自動洗浄機を用い、検査用筒に洗浄液の注入、吸引を2回以上繰り返す。こうして、スライドグラス2上の抗核抗体と結合しなかった蛍光標識抗イムノグロブリンを除去する。
【0050】
(7)スライドグラス2から上方部材7を外し、グリセリン水溶液をスライドグラスに載せ、カバーグラスを被せて蛍光顕微鏡で観察する。
【0051】
【実施例】
以下に、実施例を用いてさらに具体的に説明する。この実施例は抗核抗体検査の間接蛍光抗体法に関するものである。
<試薬の調製>
(1)細胞固定スライドグラス
ヒトガン細胞HEp2を培養し、HEp2細胞懸濁液(MEM培地中)を作成した。この細胞懸濁液をスライドグラス2上の検査用穴1に乗せ、細胞をスライドグラス面に接着させ、アセトン処理することによって細胞をスライドグラスに固定した。スライドグラス2は、検査用穴1以外の部分は、テフロンなどをバインダーとする印刷インキを使用して着色及び撥水処理し、被験サンプルや試薬を分注した際に液が検査用穴からはみ出て他のサンプルと混ざることを防止した。
【0052】
(2)標識化抗体液
ウサギ抗ヒトガンマグロブリン抗体をFITCで標識し、ウシ血清アルブミンを1%含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS)にて稀釈した。
【0053】
(3)洗浄液
10mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.5)、150mM NaCl、5%グリセリン、0.01% Tween20となるように洗浄液を調製した。
【0054】
<抗核抗体の検出>
膠原病患者などの血清検体をPBSで20倍に稀釈した。次に、前記の細胞固定スライドグラス2に、前記実施の形態の項<3>(2)と同様の下方部材3、シール4及び上方部材7を用い、下方部材3の上にシール4、スライドグラス2、上方部材7を順に乗せ圧着させて検査用筒を形成させ(図1)、この検査用筒に、稀釈検体を50μlづつ分注し、30分間室温で放置した。
【0055】
洗浄液の注入機構と吸引機構を持つ自動洗浄機を用いて、検査用筒へ上記の洗浄液を注入した後、検査用筒から洗浄液を吸引した。この操作を5回繰り返した。1回の注入量は300μlとした。この時、対照として上記の洗浄液から保湿剤成分(グリセリン及びTween20)を除いた洗浄液を使用した。
【0056】
洗浄後、標識化抗体液を検査用筒に50μlづつ分注し、30分間室温に放置した後、上記と同じ洗浄操作を5回繰り返した。
次に、上方部材7をスライドグラス2から取り外し、スライドグラス2にカバーグラスを被せた。尚、上記した洗浄液はグリセリンを含むので、洗浄残液があれば特に封入剤は必要ない。対照とした保湿剤を含まない洗浄液を用いた場合は、1検査用穴あたり 10μlの10%グリセリンを封入剤として加えた。
【0057】
上記のようにして作製したスライドグラス上の検体について、蛍光顕微鏡で蛍光を観察した。得られた蛍光画像の模式図を図2及び図3に示す。この図に示されるように、本発明の洗浄液を用いた場合は、損傷のない細胞が観察され(図2)、従来の洗浄液を用いた場合は細胞の損傷、脱離が観察された(図3)。
【0058】
【発明の効果】
本発明による洗浄液を用いれば、蛍光抗体法及び酵素抗体法等の抗体法におけるスライドグラスの洗浄を効率的に行う事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の検査装置の構造を示す外観図(斜視図)。
【図2】本発明の洗浄液を用いて自動洗浄機で洗浄した場合の蛍光画像の概念図である。
【図3】対照の洗浄液を用いて自動洗浄機で洗浄した場合の蛍光画像の概念図である。
【符号の説明】
1.検査用穴
2.スライドグラス
3.下方部材
4.シール
5.突起
6.通孔
7.上方部材

Claims (14)

  1. 検出対象である抗体に結合する抗原を含む細胞又は組織が固定化されたスライドプレートと、標識物質で標識され、かつ、前記抗体に結合する標識化抗体とを用い、前記抗原、標識化抗体及び試料中の測定対象である抗体との反応により結合した標識をスライドプレート上で顕微鏡を用いて検出することによって前記抗体を検出するに際し、あるいは、検出対象である抗原を含む細胞又は組織が固定化されたスライドプレートと、標識物質で標識され、かつ、前記抗原に結合する標識化抗体、又は前記抗原に結合する抗体並びに標識物質で標識され、かつ、前記抗体に結合する標識化抗体とを用い、前記抗体及び/又は標識化抗体と前記抗原との反応により結合した標識をスライドプレート上で顕微鏡を用いて検出することによって前記抗原を検出するに際し、未反応の抗体及び/又は標識化抗体をスライドプレートから除去するために、スライドプレートへの洗浄液の注入及び吸引を自動的に行う自動洗浄機用洗浄液であって、保湿剤を含有することを特徴とする自動洗浄機用スライドプレート洗浄液。
  2. 前記保湿剤がポリアルコール類から選ばれることを特徴とする請求項1記載の洗浄液。
  3. 前記保湿剤が、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールから選ばれることを特徴とする請求項2記載の洗浄液。
  4. 前記保湿剤が、洗浄液全量に対して0.01重量%以上のタンパク質であることを特徴とする請求項1記載の洗浄液。
  5. 前記洗浄液が、洗浄液全量に対して0.001重量%以上の界面活性剤を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の洗浄液。
  6. 前記標識物質が酵素又は蛍光物質である請求項1〜5のいずれか一項に記載の洗浄液。
  7. 顕微鏡を用いた抗体法により、抗原を含む細胞又は組織を検出するためのキットであって、前記細胞又は組織を固定化するためのスライドプレートと、請求項1〜6のいずれか一項に記載の洗浄液とを含むキット
  8. 顕微鏡を用いた抗体法により、抗体を検出するためのキットであって、前記抗体に結合する抗原を含む細胞又は組織が固定化されたスライドプレートと、請求項1〜6のいずれか一項に記載の洗浄液とを含むキット
  9. 検出対象である抗体に結合する抗原を含む細胞又は組織が固定化されたスライドプレートと、標識物質で標識され、かつ、前記抗体に結合する標識化抗体とを用い、前記抗原、標識化抗体及び試料中の測定対象である抗体との反応により結合した標識をスライドプレート上で顕微鏡を用いて検出することによって前記抗体を検出するに際し、あるいは、検出対象である抗原を含む細胞又は組織が固定化されたスライドプレートと、標識物質で標識され、かつ、前記抗原に結合する標識化抗体、又は前記抗原に結合する抗体並びに標識物質で標識され、かつ、前記抗体に結合する標識化抗体とを用い、前記抗体及び/又は標識化抗体と前記抗原との反応により結合した標識をスライドプレート上で顕微鏡を用いて検出することによって前記抗原を検出するに際し、検出対象である抗原又は抗体とそれを検出するための抗体及び/または標識化抗体とを反応させた後、未反応の抗体及び/又は標識化抗体をスライドプレートから除去するために、保湿剤を含有するスライドプレート 洗浄液を用いて前記スライドプレートを洗浄することを特徴とする、スライドプレート洗浄方法
  10. 前記保湿剤がポリアルコール類から選ばれることを特徴とする請求項9記載の洗浄方法
  11. 前記保湿剤が、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールから選ばれることを特徴とする請求項9記載の洗浄方法
  12. 前記保湿剤が、洗浄液全量に対して0.01重量%以上のタンパク質であることを特徴とする請求項9記載の洗浄方法
  13. 前記洗浄液が、洗浄液全量に対して0.001重量%以上の界面活性剤を含有することを特徴とする請求項9〜12のいずれか一項に記載の洗浄方法
  14. 前記標識物質が酵素又は蛍光物質である請求項9〜13のいずれか一項に記載の洗浄方法
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