JP3619400B2 - 厚手プレートディスククラッチ用鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車のオートマチックトランスミッションに組み込まれるプレートディスククラッチに適した鋼板に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車のオートマチックトランスミッションに組み込まれるプレートディスククラッチはプレートの摩擦力により遊星歯車にクラッチ、ブレーキとして働き、変速比を変える役割をはたしている。このプレートディスククラッチは、焼鈍されたS35C等のSC材を冷延した鋼板を用い、打ち抜きし、表面に摩擦紙を貼った、ドライブプレートと呼ばれるものと、そのままで使用される、ドリブンプレートと呼ばれるものを交互に配置した機構になっている。これらのプレートの接触摩擦により、遊星歯車のブレーキ、クラッチの働きをする。前者は摩擦紙が存在するため、鋼板表面の耐磨耗性を必要としなく、打ち抜き面のみの耐磨耗性を必要とする。後者は、鋼板表面および打ち抜き面共に耐磨耗性が要求される。また、変速時毎に急激な応力が交番的にプレートに加わるため疲労特性、衝撃特性も耐磨耗性と共に必要である。打ち抜きのまま製品として用いられるため、打ち抜き寸法精度も厳しい。
【0003】
従来のS35Cの焼鈍−冷延鋼板は鋼板表面の耐磨耗性は優れているが、打ち抜き面の耐磨耗性に問題があり、鋼板中にある炭化物が打ち抜き時にクラックとなり、疲労破壊の起点となることがあった。冷延加工度を高く取らなければ、耐磨耗性を確保できないため、必然的に高冷延率となるため、現行の製鉄設備では厚手の鋼板を製造できなく、また製品の衝撃特性も問題がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
鋼の耐磨耗性の改善手段については種々の技術が開示されているが、プレートディスククラッチ打ち抜き面の耐磨耗性の改善と疲労特性、衝撃特性を同時に解決する技術の開示はない。鋼板表面および打ち抜き面の耐磨耗性が優れ、かつ、疲労特性、衝撃特性が優れた厚手のプレートディスククラッチ用に適した鋼板を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明は、プレートディスククラッチ用鋼板について、鋼成分、製造条件等を広範囲に検討し、得られた知見に基づき完成したものである。
【0006】
本発明の要旨は、以下の通りである。
【0007】
(1) 重量%で、
C:0.3%以下、
Mn:0.6〜1.5%、
Si:0.35%以下、
P:0.02%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.005〜0.06%、
N:0.006%以下、
残部Feおよび不可避的不純物からなり、厚み1.8mm以上であることを特徴とするプレートディスククラッチ用鋼板。
【0008】
(2) 重量%で、
C:0.25%以下、
Mn:0.9〜1.5%、
であることを特徴とする上記(1)記載のプレートディスククラッチ用鋼板。
【0009】
(3) さらに 重量%で、
Ti:0.01〜0.1%
を含有することを特徴とする上記(1)または(2)のいずれかに記載のプレートディスククラッチ用鋼板。
【0010】
(4) さらに 重量%で、
Ti:0.01〜0.1%、
B:0.001〜0.004%
を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載のプレートディスククラッチ用鋼板。
【0011】
(5) 鋼板の厚みが1.8mm以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプレートディスククラッチ用鋼板。
【0012】
(6) 上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の成分の鋼を熱延し、脱スケールを行い、焼鈍を行うことなく1.8mm以上の厚みに冷延率30%以下で冷延することを特徴とするプレートディスククラッチ用鋼板の製造方法。
(7) 1.8mm以上の厚みに冷延率30%以下で冷延することを特徴とする請求項6記載のプレートディスククラッチ用鋼板の製造方法。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の鋼板は、プレートディスククラッチ用鋼板に具備する特性の鋼板表面および打ち抜き面の耐磨耗性、打ち抜き性、疲労特性、衝撃特性を兼備し、しかも製造コストが安価で、厚手鋼板も容易に製造可能なように成分設計したものである。ここでいう打ち抜き性は打ち抜き寸法精度が良好で打ち抜き面のクラック等の欠陥がないことである。低コスト化は鋼の溶製コストが安く、製造歩留まりが良好でしかも熱延後の焼鈍工程を省略が可能とすることである。
【0014】
▲1▼プレートディスククラッチの耐磨耗性は基本的には鋼板の硬度に比例する。同一硬さであれば、TiC、セメンタイト等の硬質析出物が多いほど良好になる。したがって、鋼板表面の耐磨耗性は鋼板の硬さを高くすれば良く、打ち抜き断面の耐磨耗性は打ち抜き面の加工硬化が大きいほど優れる。
【0015】
▲2▼疲労特性は、基本的に鋼板の硬さで決まるが、打ち抜き面のクラックが入り易い場合に劣化する。疲労破壊は打ち抜き面から発生し、クラック等がない場合は、打ち抜き面の加工硬化が大きいほど優れる。打ち抜き面の加工硬化を大きくするには、冷延圧下率が小さいほど、Mn量が高いほど良好になる。
【0016】
▲3▼衝撃特性は同一硬さの場合、冷間圧延率が小さいほど良好になる。
【0017】
▲4▼打ち抜き断面のクラックは、パーライトのような比較的大きな相の混合組織、大きな介在物が存在する時に生じ易い。このため、現行のS35Cは熱延板を焼鈍し、パーライトを分解させ、フェライトとセメンタイト組織にしてから、冷延により硬度の調整を行っている。
【0018】
▲5▼打ち抜き寸法精度は鋼板の異方性が大きいと劣る。鋼板の異方性は冷延圧下率が高いほど大きくなる。熱延板を焼鈍することなく冷延すると、焼鈍後に冷延したものより大きくなる。したがって、現行のS35Cを焼鈍することなく、冷延すると打ち抜き精度が劣化すると同時に打ち抜き時にクラックが発生しやすく、疲労特性が劣化する。
【0019】
▲6▼焼鈍を省略し、低冷延率で所定の硬さを得、かつ、打ち抜き性、疲労特性を良好にするにはC量を低め、Mn量を高くすれば良い。
【0020】
以上の知見から本発明は鋼成分の内、C量を低くし、Mn量を高くすることにより、熱延板の強度が高くなり、低冷延率でも耐磨耗性に必要な硬さが得られ、同時に焼鈍を省略しても打ち抜き性が良好な鋼板が得られる。焼鈍を省略し、低冷延率で製造できると、衝撃特性も良好となり打ち抜き面の加工硬化量も大きくなるので、打ち抜き面の耐磨耗性が向上し、熱延、酸洗工程を通板する時の板厚も必然的に薄くなり、工程能力が障害となることなく、厚い製品の製造か可能となる。
【0021】
以下、本発明の鋼組成について説明する。
【0022】
C:0.3%以下
先述したように、C量が高いと熱延後の焼鈍を省略した場合、打ち抜き性、疲労特性が劣化する。すなわち、C量が0.3%以上になると熱延板の組織はフェライト+パーライトの混合組織となり、打ち抜き時に硬いパーライト部とフェライトの境界部にクラックが生じ易くなり、疲労破壊の原因となる。したがって、本発明の目的である熱延板の焼鈍を省略する方法では、C量を0.3%以下にする必要がある。好ましい範囲は同様の理由から0.25%以下である。C量の下限は特に限定する必要がないが、C量があまり低くなりすぎると熱延板の強度が低下し、耐磨耗性に必要な硬さを得るに必要な冷延率が高くなるため、0.05%以上とすることが好ましい。
【0023】
Mn:0.6〜1.5%
Mnは焼鈍省略して低冷延率で耐磨耗性の確保と打ち抜き断面の耐磨耗性のために必要な元素である。Mn量が0.6%以下になると打ち抜き断面の耐磨耗性が不十分な上に、表面の耐磨耗性を満足させるためには冷延率を高く取る必要となり、本発明の目的である、厚手鋼板の製造が困難となるばかりでなく、衝撃特性も劣化する。したがって、0.6%以上添加する必要がある。一方、Mn量が1.5%を超えると打ち抜き面にクラックが生じ易くなるため、上限を1.5%に特定した。好ましい範囲は同様の理由から0.9〜1.2%である。
【0024】
Si:0.35%以下
Siは脱酸剤として使用する場合、必然的に含有し、鋼板の強化元素として有効であるが、0.35%以上になるとスケール疵等の表面欠陥の原因となるため、上限を0.35%の範囲で添加することとしたが、0.2%以下とすることが好ましい。
【0025】
P:0.02%以下
Pは不純物として、不可避的に混入するが、0.02%を超えると打ち抜き性を阻害するので0.02%以下にすることが好ましい。
【0026】
S:0.02%以下
SはMnと結合し、介在物となり、やはり打ち抜き性を阻害するため、0.02%以下にすることが好ましい。
【0027】
Al:0.005〜0.06%
溶鋼の脱酸剤として使用される成分であり、添加量が少ないと鋼板の打ち抜き時にクラックが生じ易くなる。一方、Al量が多くなるとアルミ酸化物が増加し、表面欠陥が増え、製品歩留まりを低下させるため、0.005〜0.06%としたが、0.01〜0.06%の範囲で添加することが好ましい。
【0028】
N:0.006%以下
NはAl、Si窒化物を形成し、耐磨耗性を向上させるが、添加量が多くなると衝撃特性を劣化させるので、上限を0.006%の範囲にすることが好ましい。
【0029】
Ti:0.01〜0.1%
Tiは鋼中のN、Cと結合し、窒化物、炭化物を形成し、耐磨耗性の向上に有効な元素である。一方、添加量が多くなると衝撃特性を劣化させることがある。したがって、特に耐磨耗性が必要な時にTiを添加する場合は、0.01〜0.1%としたが、0.01〜0.06%の範囲で添加することが好ましい。
【0030】
B:0.001〜0.004%
Bは粒界に偏析し、粒界強度を高める元素であることが良く知られている。本発明の場合、特に疲労特性を必要とする場合は、打ち抜き面のミクロクラックを無くする目的でBを添加する。B量が0.001%未満の添加ではその効果を発揮できなく、0.004%を超えて添加すると粒界に(Fe、B)炭化物が生成し易くなり、逆にミクロクラックが増加するため、0.001〜0.004%の範囲で添加することが好ましい。
【0031】
厚み1.8mm以上本発明は熱延板を焼鈍することなく冷延し、製品を提供できる。この理由は、低C化、高Mn化により、パーライト量を少なくできるため焼鈍を省略しても、打ち抜き性、疲労強度に悪影響を及ぼさなく、熱延板の強度を高くすることで、30%以下の低冷延率で耐磨耗性に必要硬さが得られるためである。この特徴により、従来の方法に比べて同一熱延板厚では厚い製品が得られる。したがって、従来製造ができなかった厚手の製品が得られる。打ち抜き時の寸法精度、歪、打ち抜き面のクラックが発生等は製品厚みが厚いほど悪くなる。しかし、本発明はこれらの特性が優れているため、特性上からも厚手製品が製造可能で、1.8mm以上でこの特徴が発揮される。とりわけ、2.4mm以上の厚みで顕著な効果を発揮する。
【0032】
【実施例】
表1の組成を持つ鋼を転炉で溶製し、連続鋳造でスラブとし、表1に記載の条件で熱間圧延、冷間圧延して、鋼板を製造した。これらの鋼板を図1に示すような形状のドリブンプレートを打ち抜きで作成した。この時、寸法および歪を測定した。寸法精度は圧延方向と圧延方向と90度方向の直径差で評価した。打ち抜き歪は打ち抜き製品を定盤に乗せ、そのときの定盤と製品との最大隙間で評価した。これらのプレートをオートマチックトランスミッションに組み込み、耐久試験を行いプレートディスククラッチ用に適しているかを評価した。耐久試験後にオートマチックトランスミッションを分解し、ドリブンプレートにクラック等の外観欠陥が観察されるか、打ち抜き面、表面に明らかに磨耗が観察されるものを×、外観欠陥がないが、打ち抜き面、表面に磨耗が観察されるものを△、外観欠陥も磨耗も観察されないものを○の評点を付け、評価した。これとは別に、磨耗性、衝撃性、疲労特性を調査した。耐磨耗性は打ち抜き面および板面の磨耗試験を行い、それぞれ評価した。衝撃性は、2mmUノッチ試験片を作り、常温での衝撃値で評価した。疲労特性は試験片中央に直系5mmの打ち抜き穴の切り欠き疲労試験を行い、疲労限で評価した。
【0033】
本発明範囲の実施例のA、B、C、D、E、Fは、耐久試験の評価が良好であるのは勿論、耐磨耗性が優れており、とりわけ、打ち抜き面の耐磨耗性が比較材との比較で優れていることが分かる。また、疲労特性、衝撃特性が良好であり、優れたプレートディスククラッチ用鋼板に供せる。また、比較例に比べて、冷延率が低くても、良好なプレートディスククラッチ用鋼板が必要とする特性が発揮できるので、冷延工程より前の製造工程能力に左右されることなく、厚手の鋼板が製造可能である。
【0034】
一方、Cが本発明範囲外のG、Hは耐久試験と表面の耐磨耗性が良好であるが、打ち抜き時の歪、打ち抜き精度が劣り、プレート製造時の生産性、歩留まり低下となる。また、本発明の実施例に比較して、打ち抜き面の耐磨耗性、衝撃特性、疲労特性が劣る。
【0035】
Mn量が本発明範囲外のJは耐久試験で磨耗が観察される。これは耐磨耗性試験結果とも一致しており、耐磨耗性、疲労特性、衝撃値も低く、プレートディスククラッチ用鋼板に適さないことが分かる。
【0036】
Mn、Cが本発明範囲外のIは耐磨耗性が劣り、打ち抜き性も悪く、しかも、疲労特性、衝撃特性も劣っている。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【発明の効果】
以上の実施例で見てきたように、本発明は優れた耐磨耗性と衝撃、疲労特性を有し、打ち抜き性も良好なプレートディスククラッチ用鋼板である。とりわけ、最終冷延率を小さくしても、プレートディスククラッチ用鋼板に必要な特性が得られるので、厚手鋼板の製造に適している。
【図面の簡単な説明】
【図1】ドリブンプレートの形状を示す図である。
【符号の説明】
1 ドリブンプレート
Claims (7)
- 重量%で、
C:0.3%以下、
Mn:0.6〜1.5%、
Si:0.35%以下、
P:0.02%以下、
S:0.02%以下、
Al:0.005〜0.06%、
N:0.006%以下、
残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とするプレートディスククラッチ用鋼板。 - 重量%で、
C:0.25%以下、
Mn:0.9〜1.5%、
であることを特徴とする請求項1記載のプレートディスククラッチ用鋼板。 - さらに 重量%で、
Ti:0.01〜0.1%
を含有することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載のプレートディスククラッチ用鋼板。 - さらに 重量%で、
Ti:0.01〜0.1%、
B:0.001〜0.004%
を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプレートディスククラッチ用鋼板。 - 鋼板の厚みが1.8mm以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプレートディスククラッチ用鋼板。
- 請求項1〜4のいずれか1項に記載の成分の鋼を熱延し、脱スケールを行い、焼鈍を行うことなく冷延率30%以下で冷延することを特徴とするプレートディスククラッチ用鋼板の製造方法。
- 1.8mm以上の厚みに冷延率30%以下で冷延することを特徴とする請求項6記載のプレートディスククラッチ用鋼板の製造方法。
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