JP3619282B2 - IgGFc部結合タンパク質をコードする遺伝子 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は免疫グロブリンG(IgG)のFc部分と特異的に結合するタンパク質であるIgGFc部結合タンパク質(FcγBP:Fcγ BindingProteinおよびIgGFcBPと記載することもある)をコードする遺伝子、該遺伝子を含有する組換えベクター、該組換えベクターにより形質転換された宿主細胞、該宿主細胞を培養して得られる組換えタンパク質の製造方法、ならびに上記方法で得られる組換えIgGFc部結合活性を示すタンパク質に関する。
【0002】
【従来の技術】
マクロファージは免疫担当細胞の1つとして、生体外から侵入してきた異物やそのイムノグロブリンG(IgG)複合体を貧食作用(phagocytosis)により細胞内に取り込み、消化し、またリンパ球による抗体産生を誘起させるために、抗原提示作用を示す能力も有する。このような貧食機構の主たる入口がマクロファージの細胞表面上に存在するIgGのFcレセプター(Fcγレセプター:FcγR)である。FcγレセプターはIgGのFc部を結合するレセプターであるが、その本来の機能は、IgGによっておおわれた(オプソニン化)病原体あるいは抗原−IgG免疫複合体を除去することにある。
【0003】
従来Fcγレセプターには大別して3種類の存在が知られており、これらはRI、RII RIIIと名付けられている(J.V.Ravetch and J.−P.Kinet,Annu.Rev.Immunol.(1991),9:457−492)。これらのレセプターはいずれもすでにそのcDNAがクローニングされている。さらに、1990年〜1991年にはいくつかのグループによって、これらFcγレセプターに会合しており、Fcγレセプターがその結合物を内部に取り込むために必要な動きを始めるためのタンパク質が見いだされ、スイッチ機構の糸口が明らかにされた(L.L.Lanier,G.Yu and J.H.Phillips,Nature(1989),342:803−805;T.Kurosaki and J.V.Ravetch,Nature(1989),342:805−807;D.G.Orioff,C.Ra,S.J.Frank,R.D.Klausner and J.−P.Kinet,Nature(1989),347:189−191;P.Anderson,M.Caligiuri,C.O’Brien,T.Manley,J.Ritz and S.F.Schlossman,Proc.Natl.Acad.Sci USA(1990),87:2274−2278;T.Kurosaki,I.Gander and J.V.Ravetch,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1991),88:3837−3841;L.Azzoni,M.Kamoun,T.W.Salcedo,P.Kanakaraj and B.Perussia,J.Exp.Med.(1992),176:1745−1750;A.T.Ting,L.M.Karnitz,R.A.Schoon,R.T.Abraham and P.J.Leibson,J.Exp.Med.(1992),176:1751−11755)。
【0004】
一方、小林らはヒト小腸および大腸上皮細胞、特にゴブレット細胞にIgGのFc部と特異的に結合でき、かつ従来のFcγレセプターとは異なるタンパク質FcγBPの存在を報告した。このタンパク質のIgGFc部との特異的結合はホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識物を用いて確認されている。すなわち、FcγBPはIgGのFc部とのみ結合し、IgGFab、IgA、IgMとは結合しない。またFcγBPはFcγレセプターI、II、III抗体と交差反応しない(K.Kobayashi,M.J.Blaser and W.R.Brown,J.Immunol.(1989),143:2567−2574)。
【0005】
さらに、彼らはFcγBPをヒト大腸上皮細胞から部分精製し、これを抗原としてマウスモノクローナル抗体を作製した。これらの抗体とFcγBPが結合するだけでなく、マウスIgGとも結合することが確認された(K.Kobayashi,Y.Hamada,M.J.Blaser and W.R.Brown,J.Immunol.(1991),146:68−74)。
【0006】
また、部分精製FcγBPをドデシル硫酸ナトリウム(SDS)電気泳動した後、モノクローナル抗体を用いたウエスタンブロット解析に付したところ、FcγBPは分子量78kDaのタンパク質を含む200kDa以上の会合体を形成していることが明らかとなった(K.Kobayashi,Y.Hamada,M.J.Blaser and W.R.Brown,J.Immunol.(1991),146:68−74)。
【0007】
【発明が解決すべき課題】
上記FcγBPはIgGのFc部と結合できるという点においてはFcγレセプターと同様の性質を示す。しかしながら、FcγBPのタンパク質としての定性、構造およびその生体内の役割については何ら明らかではなかった。したがって、FcγBPを解析し、その構造と機能を明らかにすることは極めて興味深い。
【0008】
さらに後述するように、FcγBPは粘液とともに粘膜上に分泌され、IgG抗体とともに、体内に侵入しようとする病原菌やウイルスなどを粘液中にトラップし、体外に排泄し易くすることで、感染防御の一端をになっていると推定される。また、炎症の起こった粘膜で過剰に産生された自己抗体は、補体系を活性化したり、マクロファージなどによる細胞障害を起こさせたりして、炎症の悪化につながるが、FcγBPはこのような自己抗体のFc部をブロックして炎症の進展を防ぐと推定される。このようなFcγBPの機能から感染防御剤、および潰瘍性大腸炎やクローン病などの自己免疫疾患に対する抗(消)炎症剤や診断薬などの医薬用途に利用できる可能性を有している。
【0009】
そこでFcγBPをこのような医薬用途に用いるにはこれを大量にかつ均一に得る必要があった。しかしながら、FcγBPを動物組織自体、またはその産生細胞の培養上清から単離する方法では大量に均一なFcγBPを得ることは困難であった。したがって、遺伝子組換え技術を用いてFcγBPを大量に製造することが望まれていた。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、FcγBPに対するモノクローナル抗体を用いてFcγBPのcDNAのクローニングを行って、FcγBPをコードする遺伝子の塩基配列を明らかにすることに成功した。
【0011】
また、このcDNAを適当なベクターに挿入して得られる発現ベクターで宿主細胞を形質転換し、得られる形質転換体を培養し、次いで産生された目的タンパク質を分離、精製したところ、産生タンパク質はヒトIgGと特異的に結合する性質を有していた。これによりFcγBPを大量かつ均一に製造することができることも明らかにした。
【0012】
したがって、本発明はFcγBPをコードする遺伝子を提供する。
【0013】
本発明はまた、FcγBPをコードする遺伝子を含む組換えベクターを提供する。
【0014】
本発明はさらに、FcγBPをコードする遺伝子を含む組換えベクターによって形質転換された原核もしくは真核宿主細胞を提供する。
【0015】
本発明はさらに、FcγBPをコードする遺伝子を含む組換えベクターによって形質転換して得られた形質転換体を培養し、産生された目的タンパク質を分離、精製することを特徴とする、FcγBPの製造方法を提供する。
【0016】
本発明はさらに、上記製造方法で製造されたIgGFc部結合活性を示すタンパク質を提供する。
【0017】
本発明はさらに、FcγBPをコードする遺伝子またはその一部を、FcγBPmRNAの合成組織を同定するためのノーザンブロット解析法またはインサイチュハイブリダイゼーション法のプローブとして使用する方法を提供する。
【0018】
【具体的な説明】
FcγBPをコードするcDNAは、例えばFcγBPを産生する細胞などからmRNAを調製した後、既知の方法により二本鎖cDNAに変換することにより得られる。mRNAの供給源としては、本発明ではヒト大腸粘膜上皮細胞を用いたが、これに限らず、ヒト小腸、十二指腸、胃、顎下腺、舌下腺、総胆管、気管支などのFcγBPが分布している組織のホモジェネートなどを用いてもよい。また、ヒト大腸癌細胞由来HT29−18−N2株およびその亜種はFcγBPを産生していることが知られているので、これらの株化細胞をmRNAの供給源として用いてもよい。
【0019】
mRNAを調製するには、例えば本発明で用いたように、AGPC法(P.Chomczynski et al.Analytical Biochem.162:156−159,1987)の改変法の他、Chirgwinら(Biochemistry18:5294−5299,1979)の方法にしたがって、全RNAを調製できる。また、他の生理活性タンパク質の遺伝子をクローン化するときに用いられた方法、例えばバナジウム複合体などのリボヌクレアーゼインヒビター存在下に界面活性剤処理、フェノール処理を行うことによっても実施することができる
こうして得られたmRNAから二本鎖cDNAを得るには、例えばmRNAを鋳型にして、3’末端にあるポリA−鎖に相補的なオリゴ(dT)またはランダムプライマー、あるいはFcγBPのアミノ酸配列の一部に相応する合成オリゴヌクレオチドをプライマーとして逆転写反応を行い、mRNAに相補的なDNA(cDNA)を合成する。
【0020】
本発明では、Gubler & Hoffmanの改良法を用いて、Amersham社製またはInVitrogen社製のcDNA合成キットとランダムプライマーを用いて、ポリアデニル化RNAから逆転写反応によりcDNAを作製した。
【0021】
このcDNAにアダプターを連結させた後、λgt11ベクターのEcoRI部位に挿入した。このようにして作製したcDNAライブラリーを、Stratagene社のファージin vitroパッケージングキットGigapackIIGoldを用いて、λファージにパッケージングした後大腸菌に発現させた。発現したcDNAのタンパク質をモノクローナル抗体をプローブとしてスクリーニングを行った。
【0022】
上記クローニングに用いる抗体は、IgGFcとFcγBPとの間の結合を阻害する3種類のモノクローナル抗体(K9、K10、K17)(Kobayashi et al J.Immunology 146:68−74,1991;Kobahashi et al.J.Immunology 143:2567−2574,1989)の中から、ウエスタンブロット解析においてFcγBPを検出できる抗体を選択した。すなわち、非還元条件下ではK9抗体で分子量約200kDaより大きいバンドが、還元条件下ではK17抗体で70−80kDaと130−140kDaにバンドがそれぞれ認められた。以上の結果より、クローニングにはこの2種の異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体を用いた。
【0023】
このスクリーニングの結果、K9抗体では、約100万個のクローンより1個のクローン(プローブQと命名:600bp)を、またK17抗体では、約60万個のクローンより7個のクローン(そのうちの700bpのDNA断片をプローブAと命名;600bpのDNA断片をプローブBと命名)を得た。
【0024】
プロープQを用いて既知タンパク質のmRNAと比較することによって、FcγBP mRNAのサイズを推定した。その結果、FcγBP mRNAの分子サイズは約17kbpであると推定された(図1)。
【0025】
次いでプローブQ、AおよびBを用いてλgt10にパッケージングした第2cDNAライブラリーのスクリーニングを行った。まずプローブA、BまたはQのいずれかとハイブリダイズするcDNAクローンを分離した。これらのうちから、Aとのみハイブリダイズするクローンを得て、Aとは反対側の末端部をプローブXとして、プローブX(約700bp)とハイブリダイズするcDNAクローンを分離した。得られたクローンはXを中心部にし、一端にA−B領域をもっており、これをX1と命名した。続いて、クローンX1のA−B領域とは反対側の部分約800bpをプローブYとして、再びcDNAライブラリーをスクリーニングし、プローブYとハイブリダイズするcDNAクローンを得た。このクローンをY1と命名した。クローンY1は一端にX領域の一部を有し、中心部にY領域を有する。このクローンY1のX領域とは反対側の端にある約150bpをプローブY150とした。再びcDNAライブラリーをプローブY150を用いてスクリーニングした。この中からY150領域と反対側に最も長く伸びたクローンを選び、クローンC72とした。次に、クローンC72がもつY150領域とは反対側の端近くにある約450bpをプローブZとし、プローブZとハイブリダイズするcDNAクローンを分離した。これらの中からクローンC72と重複しない部分ができるだけ長いものを分離し、クローンNZ4とした。
【0026】
一方、A、BおよびQのいずれともハイブリダイズするcDNAクローンの中から、A−B領域の塩基配列がクローンX1のA−B領域の塩基配列と同一のものを選び出し、これをクローンV11とした。
【0027】
以上の5個のクローン、X1、Y1、C72、NZ4およびV11の塩基配列を決定し、タンパク質のアミノ酸配列を確認したところ、ATGを開始コドンとする1本のオープンリーディングフレームを見いだした(図2参照)。
【0028】
さらに、これらのクローンからFcγBPをコードする部分cDNA(約7.8kbp)を得て、その塩基配列を決定した(配列番号6に塩基配列およびアミノ酸配列を示す)。
【0029】
さらに、上記プローブA、BまたはQを用いたハイブリダイゼーションによるスクリーニングで得られた複数のcDNAクローンをそれぞれ大腸菌内で増幅した後、プローブA、B、Qを用いてマッピングを行った。その結果、FcγBPのcDNAは全長16.4kbpの中に3.5kbpをユニットとする単位(プローブA、B、Qのそれぞれと相同な配列がA→B→Qの順に連なった単位)がタンデムに複数回繰り返した構造を有することが推定された。
【0030】
そこでプローブBとハイブリダイズするcDNAクローンについて、プローブの塩基配列の一部をPCRにより増幅させ、得られたフラグメントの塩基配列を解析することにより、FcγBPの全長cDNAは図8に示す構造を有し、配列表の配列番号7に示す塩基配列とアミノ酸配列を有することが明らかとなった。
【0031】
このようにして得られたクローン化されたFcγBPをコードする遺伝子は適当なベクターに組み込むことにより、原核細胞または真核細胞の宿主細胞を形質転換することができる。
【0032】
さらに、これらのベクターに適当なプロモーターや形質発現にかかわる配列を導入することにより、それぞれの宿主細胞において遺伝子を発現することが可能である。また、目的とする遺伝子に他のポリペプチドをコードする遺伝子を連結して、融合タンパク質として発現させ、精製を容易にしたり、発現量を上げたり、また精製工程において適当な処理を施すことにより、目的タンパク質を切り出すことも可能である。
【0033】
一般に、真核生物の遺伝子はヒトインターフェロン遺伝子で知られているように、多形現象を示すと考えられ、この多形現象によって1個またはそれ以上のアミノ酸が置換される場合もあれば、塩基配列の変化はあってもアミノ酸は全く変わらない場合もある。
【0034】
また、配列表の配列番号6または7あるいはその一部に示すアミノ酸配列中の1個またはそれ以上のアミノ酸を欠くかまたは付加したポリペプチド、あるいはアミノ酸が1個またはそれ以上のアミノ酸で置換されたポリペプチドでもIgGFcへの結合性を有することがある。例えば、ヒトインターロイキン2(IL−2)遺伝子のシステインに相当する塩基配列をセリンに相当する塩基配列に変換して得られたポリペプチドがIL−2活性を保持することも既に公知になっている(Wang et al.,Science 224:1431,1984)。
【0035】
また、真核細胞で発現させた場合、その多くは糖鎖が付加されるが、アミノ酸を1個ないしそれ以上変換することにより糖鎖付加を調節することができるが、この場合でもIgGFc部結合活性を有することがある。それゆえ、本発明におけるFcγBPの遺伝子を人工的に改変したものを用いて、得られたポリペプチドがIgGFc部結合活性を有する限り、それらのポリペプチドをコードする遺伝子はすべて本発明に含まれる。
【0036】
さらに、得られたポリペプチドがIgGFc部結合活性を有し、配列番号6または7あるいはその一部に示す遺伝子とハイブリダイズする遺伝子も本発明に含まれる。なお、ハイブリダイゼーション条件は、通常行われているプローブハイブリダイゼーションの条件を適用することができる(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Mannual,Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)
【0037】
以上のように、免疫グロブリンG(IgG)のFc部分と特異的に結合するタンパク質を発現できるDNAであれば、配列表の配列番号6または7に示すアミノ酸をコードする塩基配列に限らず、種々の修飾体のDNAが本発明に含まれるし、またその機能を有するDNA断片も本発明の遺伝子の一部であることは明白である。
【0038】
本発明の発現ベクターは、複製起源、選択マーカー、プロモーター、RNAスプライス部位、ポリアデニル化シグナルなどを含む。
【0039】
本発明の発現系に用いる宿主のうち原核生物宿主細胞としては、例えば、大腸菌、枯草菌などが挙げられる。また、真核生物のうち、真核微生物の宿主細胞としては、例えばイースト、粘菌が挙げられる。あるいは、Sf9などの昆虫細胞を宿主細胞として使用してもよい。さらに、動物細胞由来の宿主細胞としては、例えば、COS細胞、CHO細胞、C127細胞および3T3細胞などが挙げられる。
【0040】
以上のようにして目的とするFcγBPをコードする遺伝子で形質転換した形質転換体を培養し、産生されたIgGFc部結合活性を有するタンパク質は細胞内または細胞外から分離し、精製することができる。
【0041】
なお、本発明の目的タンパク質であるIgGFc部結合活性を有するタンパク質の分離、精製には実施例に記載する方法に限定されることなく、通常のタンパク質で用いられる分離、精製方法を使用することができる。例えば、各種クロマトグラフィー、限外濾過、塩析、透析などを適宜選択、組み合わせて使用することができる。
【0042】
かくして得られた組換えタンパク質が天然型FcγBPと同様のヒトIgGとの結合活性を有するかを検討したところ、ヒトIgGFcと特異的に結合することが明らかとなった。
【0043】
上記したように、本発明のFcγBPの全長cDNAは図8に示す構造を有し、配列表の配列番号7に示す塩基配列とアミノ酸配列を有するものであるが、さらに本発明で用いた一連のcDNAが単一のmRNAに由来するものであることを以下のようにして再確認した。すなわち、発現に用いた5’末端cDNAを含むpNV11SRとは別のリピート構造内のcDNA断片をタンパク質発現させ、FcγBPを認識するモノクローナル抗体であるK9およびK17と反応させたところ、これらのcDNA産物がK9とK17のいずれかまたは両方により認識されることを確認した。
【0044】
さらに、FcγBPのmRNAの発現の組織特異性を試験したところ、ヒト胎盤における発現が確認された。したがって、本発明のFcγBPをコードする遺伝子またはその一部をプローブとして用いて、ノーザンブロット解析またはインサイチュハイブリダイゼーションによってFcγBP mRNAの合成組織を同定することができる。
さらに、FcγBPの染色体遺伝子上の多型性の存在を制限酵素の利用により示し得た。
【0045】
本発明のFcγBPをコードする遺伝子を得る方法、該遺伝子を有する組換えベクターおよびこれを含有する形質転換体ならびに該形質転換体を培養して得られる目的タンパク質、ならびにそれぞれの製造方法について、以下の実施例で詳細に説明するが、この実施例によって本発明が限定されるものではない。
【0046】
【実施例】
実施例1:モノクローナル抗体を用いたFcγBPをコードする部分cDNAのクローニング(A:cDNAライブラリーの作製)
(1)ヒト大腸粘膜上皮細胞の調製
ヒト大腸組織片を10%FBSを含むRPMI培地でよく洗浄した後、粘膜筋板の部位から機械的に剥離させ、上皮細胞と粘膜固有層を分離した。これを中心棒に固定するようにして、10%FBS/5mM EDTA/PBS(−)中で氷冷しながら90分間スターラーで激しく撹拌し、上皮細胞を分離した。上皮細胞を含む溶液を1500rpmで10分間遠心し、細胞の沈殿を得た。
【0047】
(2)mRNAの精製
粘膜上皮細胞からの全RNAの抽出はAGPC法(P.Chomczynski et al.,Analytical Biochem.,(1987)162:156−159)を改変して行った。すなわち、細胞ペレット1mlに対し、9mlの変性溶液(4Mチオシアン酸グアニジン、25mMクエン酸ナトリウム(pH7)、0.5%サルコシル、0.1M 2−メルカプトエタノール)を加え、細胞を溶解した後、1mlの2M酢酸ナトリウム(pH4)、10mlの水飽和フェノール溶液、2mlのクロロホルム/イソアミルアルコール(49:1)を順次加えた。10秒間撹拌し、15分間氷冷した後、10,000×gで15分間遠心し、上清を回収した。上清8mlに対し、同様に0.8mlの酢酸ナトリウム、8mlの水飽和フェノール、1.6mlのクロロホルム/イソアミルアルコールを加え、10秒撹拌、15分氷冷、10,000×gで15分間遠心し、上清を回収した。上清7mlに対し、等量のクロロホルム/イソアミルアルコールを加え撹拌後、遠心分離により上清を得た。上清に対し、等量のイソプロパノールを加え、−20℃で30分間冷却後、10,000×gで15分間遠心し、全RNAの沈殿を回収した。
【0048】
全RNA1mgの溶液に溶出バッファー(10mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、0.1% SDS)を加え、全量で1mlとした後、OligoTex−dT30<Super>(宝酒造社製)1mlを加え、65℃で5分間加熱し、氷上で3分間急冷した。5M NaCl 0.2mlを加え、37℃で10分間保温した後、15,000rpmで3分間遠心分離し、上清を注意深く除去した。ペレットを洗浄バッファー(10mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、0.5M NaCl、0.1% SDS)2.5mlに懸濁した後、15,000rpmで3分間遠心分離し、上清を注意深く除去した。ペレットを滅菌水1mlに懸濁し、65℃で5分間加熱し、氷上で3分間急冷した。15,000rpmで3分間遠心分離した後、上清を回収した。50μlの5M NaClと2.5mlのエタノールを加えた後、−20℃で30分冷却し、遠心(3,000rpm、4℃)して、ポリアデニル化RNAの沈殿を回収した。
【0049】
(3)cDNAの合成
mRNAからのcDNAの合成は、GublerおよびHoffman(U.Gubler and B.J.Hoffman(1983)Gene 25:263)の改良法により、Amersham社製またはInVitrogen社製のcDNA合成キットを用いて行った。すなわち、大腸粘膜上皮細胞より調製したポリアデニル化RNA5μgを42℃にて90分間、50ユニットのヒト胎盤リボヌクレアーゼインヒビター、1mM dATP、1mM dGTP、1mM dCTP、0.5mM dTTP、100ユニットのAMV逆転写酵素、ピロリン酸ナトリウムを含む緩衝液(Amersham社製)50μl中で、750ngのランダムベキサヌクレオチドまたは4μgのオリゴ(dT)プライマーと共にインキュベートした。この反応液50μlを4.0ユニットの大腸菌リボヌクレアーゼH、115ユニットの大腸菌DNAポリメラーゼIを含む緩衝液(Amersham社製)中で、12℃で60分間、次いで22℃で60分間反応させた後、70℃で10分間インキュベートした。氷中に戻し、10ユニットのT4 DNAポリメラーゼを加え、37℃で10分間反応させた後、10μlの0.25M EDTA(pH8)を加えて反応を停止させた。反応液250μlに対し、等量の7.5M酢酸アンモニウムと、4倍量のエタノールを加え、撹拌後、−21℃にて30分間冷却し、遠心分離によりcDNAを回収した。cDNAを10μlの滅菌水に溶かし、1μlを用いて0.8%アガロースゲル電気泳動を行い、合成の確認と濃度の定量を行った。
【0050】
(4)アダプターの連結
上記(3)で得た合成cDNAに対して10倍量のモル比となるようにアダプター(EcoRI−NotI−BamHIアダプター、宝酒造社製)を加え、全体量の8倍量のライゲーション溶液A(ライゲーションキット、宝酒造社製)と1倍量のライゲーション溶液B(ライゲーションキット、宝酒造社製)を加えた。十分撹拌した後、16℃で30分間インキュベートし、アダプターをcDNAへ連結させた。
【0051】
この反応液をTAE緩衝液系で1%の低融点アガロースゲル(Sea Plaqueアガロース、宝酒造社製)で電気泳動を行い、0.5kbp以上のcDNA画分を含むゲルを回収した。この操作により、cDNAに結合しなかったアダプターも同時に除いた。回収したゲルの湿重量に対し、2倍量のTE緩衝液を加え、65℃で10分間保温し、アガロースゲルを溶解した後、全体量に対し等量のトリス飽和フェノールを加え、十分に撹拌後、氷冷した。遠心分離により水相を回収し、等量のトリス飽和フェノール処理を再び行った。遠心分離により水相を回収し、最後に等量のクロロホルムを加え、十分撹拌後遠心分離した。その後、水相を回収し、1/10量の3M酢酸ナトリウム、20μgのグリコーゲン(ベーリンガーマンハイム社製)、2.5倍量のエタノールを加え、−20℃で30分間冷却した後、15,000rpmで10分間4℃で遠心し、cDNAの沈殿を得た。
【0052】
(5)λgt11ライブラリーの作製
上記(4)で得たアダプターを連結したcDNAを96μlの500mM Tris−HCl(pH7.5)、100mM MgCl2、10mM DTT、10mM ATPからなる溶液に溶解し、40ユニットのポリヌクレオチドキナーゼを加え、37℃で60分間インキュベーションし、アダプターの5’末端をリン酸化した。反応終了後、200μlのTE緩衝液を加え、300μlのトリス飽和フェノールを加え、撹拌後、遠心分離(15,000rpm、室温、2分間)により上清を回収した。同様の遠心分離処理をトリス飽和フェノール・クロロホルム(1:1)溶液、続いて2%イソアミルアルコールを含むクロロホルム溶液によって行い、最終的に250μlの上清を得た。この上清に250μlの4M酢酸アンモニウム溶液、1250μlのエタノールを加え、−20℃、30分間冷却後、遠心分離(15,000rpm、4℃、10分間)により沈殿を回収した。cDNAの沈殿に1μgのEcoRI消化脱リン酸λgt11アーム(#234211、Stratagene社製)を加え、終濃度100mM Tris−HCl(pH7.6)、5mM MgCl2、300mM NaClの溶液5μlに溶解した。ライゲーション溶液B(DNAライゲーションキット、宝酒造社製)を5μl加え、十分撹拌した後、26℃で10分間反応させた。cDNAをλファージにパッケージするために、cDNAを含むライゲーション反応液4μlを、10μlのFreeze/Thaw抽出液(GigapackIIgold、Stratagene社製)に加え、直ちにSonic抽出液(GigapackII gold)を加え、ゆっくり撹拌した。22℃にて2時間インキュベーションした後、500μlのファージ希釈用溶液(5g NaCl、2g MgSO4・7H2O、50ml 1M Tris−HCl(pH7.5)、5ml 2%ゼラチン/リットル)と、10μlのクロロホルムを加え、インビトロパッケージング反応を終了した。このファージ溶液は4℃に保存し、スクリーニングに用いた。
【0053】
実施例2:モノクローナル抗体を用いたFcγBPをコードする部分cDNAのクローニング(B:抗体を用いたcDNAライブラリーのスクリーニング)
(1)スクリーニング
実施例1で作製した、λファージにパッケージングをした大腸粘膜上皮細胞のcDNAライブラリーの1×104pfu、200μlを、一晩培養した大腸菌株Y1090γ− 200μlと混ぜ合わせ、37℃で15分間インキュベーションした。LB培地を混合した0.8%トップアガロースを溶解した後、55℃に保温したもの5mlをファージと大腸菌のプレインキュベーション液に加えて混ぜ合わせ、1.5% LBアガロースプレート(10×14cm)上に均一に広げた。42℃のインキュベーター中にて3.5時間保温し、小さなプラークが確認された後、あらかじめ10mM IPTGをしみこませた後風乾させておいたナイロン強化ニトロセルロースフィルター(#BA−S85、Schleicher & Schnell社製)を重ね、37℃にて3.5時間保温した。フィルターをプレートからはがし、洗浄液(0.05% TWeen−20、25mM Tris−HCl(pH7.5)、150mM NaCl、3mM KCl)中、室温で30分間振とうした。次に、5%スキムミルクを含むPBS(−)中、室温で30分間振とうし、ブロッキング処理を行った後、洗浄液にて20分間、2回洗浄した。次いで、大腸粘膜上皮細胞中のFcγBPに対して作製されたマウスモノクローナル抗体(Kobayashi et al.,J.Immunology(1991)146:68−74;Kobayashi etal.,J.Immunology(1989)143:2567−2574)であるK9またはK17を含むハイブリドーマ培養上清を、ニトロセルロース膜1枚に対し5mlに浸し、室温で2時間振とうした後、洗浄液で20分間、2回洗浄した。洗浄液にて1/1000倍に希釈したホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)結合抗マウスIgG(H+L)ヤギ抗血清(ザイメット社製)中、室温で1時間振とうした後、洗浄液で20分間、2回洗浄した。TWeen−20を含まないTBS溶液で10分間洗浄した後、50mlのジアミノベンチジン溶液(1mg/ml 0.1M Tris−HCl(pH7.2))と、50mlの0.02% H2O2溶液と50μlの8% NiCl2溶液の混合液に浸し、陽性プラークの検出を行った。
【0054】
(2)λDNAの抽出
K9モノクローナル抗体を用いたスクリーニングにより、約100万個のプラーク中から1個の約600塩基対の挿入cDNAを含むクローンを得た。このプラークをつまようじでピックアップして、200μlの培地(20mM MgSO4、0.2%マルトース、5μlのY1090γ−大腸菌株の一晩培養懸濁液を含むLB培地)で、λファージを37℃、4時間培養した。このファージを含む培養液2μl(1×107pfu/μl)を、10ml LB培地(20mMMgSO4と0.25mlのY1090γ−大腸菌株の一晩培養懸濁液を含む)に添加、感染させ、37℃、5時間振とう培養し、λファージを増殖させた。
【0055】
5〜6時間培養後、溶菌を確認してから、50μlのクロロホルム、2mlの5M NaClを加え、37℃、10分間振とうした。3,500rpm、15分間遠心した上清に対して10%となるようポリエチレングリコール6000を加え、氷上で30〜60分置いた後、4℃、4,000rpmで15分間遠心分離し、ファージを沈殿させた。沈殿を1mlのA緩衝液(0.5% NP−40、30mM Tris−HCl(pH7.5)、5mM MgCl2、125mM KCl、3.6mM CaCl2、0.5mM EDTA、0.25%デオキシコール酸ナトリウム、60mM 2−メルカプトエタノール)に懸濁し、100μg/ml RNaseA、20μg/ml DNaseIと共に37℃、30分間インキュベートした。A緩衝液と等量のクロロホルムを加え、撹拌後、15,000rpm、2分間、室温で遠心分離し、上清を回収した。再び同量のクロロホルムを加えて同様に遠心分離して上清を回収した。その後、上清液に50mM Tris−HCl(pH8)、20mM EDTA、0.5% SDS、100μg/mlプロテアーゼKとなるようにそれぞれ添加し、55℃、60分間インキュベートした。λDNAを精製するため、定法通り順次フェノール処理、フェノール/クロロホルム処理、クロロホルム処理を行い、DNAase、プロテアーゼなどを失活させた後、1/20量の5M NaClと1倍量のイソプロパノールを加え、cDNAフラグメントが挿入されたλDNAの沈殿を得た。
【0056】
(3)プローブDNAの作製
上記(2)で精製したcDNAフラグメントを含むλDNAからBamHI制限酵素部位を用いて挿入DNAを切り出し、第2cDNAライブラリーのスクリーニングのためのプローブ(これをプローブQと命名した)とした。
【0057】
同様の方法で、K17モノクローナル抗体を用いて得られた7個のλクローンのうち最長の挿入部(約1300塩基)をもつクローンよりBamHIによって切り出される700塩基と600塩基のDNAプローブを得た。このうちK17抗体のエピトープをコードするcDNAを含むと推定される700塩基のDNA断片をプローブA、600塩基の断片をプローブBとし、第2cDNAライブラリーのスクリーニングに用いた。
【0058】
(4)ノーザンブロッティング
抗体によるスクリーニングによって得られたA、Qの各プローブが同一のmRNAとハイブリダイズすることをノーザンブロットにより確認した。
【0059】
大腸粘膜上皮細胞よりAGPC法により抽出した全RNA15μgを4.5μlの滅菌水に溶かした後、2μlの5×MOPS緩衝液、3.5μlのホルムアルデヒド、10μlのホルムアミドと混合し、60℃、15分間熱変性した後、ホルムアルデヒド存在下で1%アガロースゲル上で電気泳動した。電気泳動終了後、RNAをナイロン膜(バイオダインA、ポール社製)へキャピラリー法にて一晩トランスファーを行った。UV架橋によりRNAをナイロン膜に固定した後、10mlのハイブリダイゼーション溶液(5×SSPE、5×Denhardt’s溶液、50%ホルムアミド、0.5% SDS、100μg/ml熱変性サケ精子DNA)中にて42℃、8時間、プレハイブリダイゼーションを行った。
【0060】
次に抗体スクリーニングにより得られたプローブAおよびQを各々、α[32P]dCTPを用い、メガプライムラベリングキット(Amersham社製)によって放射性標識した。各プローブ1×108dpmを各々、5mlのハイブリダイゼーション溶液と共にプレハイブリダイゼーション処理したナイロン膜に加え、密封した後、42℃、一晩ハイブリダイゼーションを行った。ナイロン膜の洗浄は0.2×SSC、0.2% SDSを含む溶液中で、65℃、40分間の洗浄操作を3回繰り返し行った。ナイロン膜を乾燥後、X線フィルムに一晩露光した。
【0061】
以上の方法より、プローブAおよびQを用いて推定約17kbpのバンドが一本それぞれ検出され、2種類のプローブが分子量的に同一のmRNAとハイブリダイズすることを確認した。
【0062】
実施例3:FcγBPをコードするcDNAの第2のクローニング(A:cDNAライブラリーの作製)
(1)ヒト大腸粘膜上皮細胞の調製
ヒト大腸組織片を10%FBSを含むRPMI培地でよく洗浄した後、粘膜筋板の部位から機械的に剥離させ、上皮細胞と粘膜固有層を分離した。これを中心棒に固定するようにして、10%FBS/5mM EDTA/PBS(−)中で氷冷しながら90分間スターラーで激しく撹拌し、上皮細胞を分離した。上皮細胞を含む溶液を1500rpmで10分間遠心し、細胞の沈殿を得た。
【0063】
(2)mRNAの精製
粘膜上皮細胞からの全RNAの抽出はAGPC法(P.Chomczynski et al.,Analytical Biochem.,(1987)162:156−159)を改変して行った。すなわち、細胞ペレット1mlに対し、9mlの変性溶液(4Mチオシアン酸グアニジン、25mMクエン酸ナトリウム(pH7)、0.5%サルコシル、0.1M 2−メルカプトエタノール)を加え、細胞を溶解した後、1mlの2M酢酸ナトリウム(pH4)、10mlの水飽和フェノール溶液、2mlのクロロホルム/イソアミルアルコール(49:1)を順次加えた。10秒間撹拌し、15分間氷冷した後、10,000×gで15分間遠心し、上清を回収した。上清8mlに対し、同様に0.8mlの酢酸ナトリウム、8mlの水飽和フェノール、1.6mlのクロロホルム/イソアミルアルコールを加え、10秒撹拌、15分氷冷、10,000×gで15分間遠心し、上清を回収した。上清7mlに対し、等量のクロロホルム/イソアミルアルコールを加え撹拌後、遠心分離により上清を得た。上清に対し、等量のイソプロパノールを加え、−20℃で30分間冷却後、10,000×gで15分間遠心し、全RNAの沈殿を回収した。
【0064】
全RNA1mgの溶液に溶出バッファー(10mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、0.1% SDS)を加え、全量で1mlとした後、OligoTex−dT30<Super>(宝酒造社製)1mlを加え、65℃で5分間加熱し、氷上で3分間急冷した。5M NaCl 0.2mlを加え、37℃で10分間保温した後、15,000rpmで3分間遠心分離し、上清を注意深く除去した。ペレットを洗浄バッファー(10mM Tris−HCl(pH7.5)、1mM EDTA、0.5M NaCl、0.1% SDS)2.5mlに懸濁した後、15,000rpmで3分間遠心分離し、上清を注意深く除去した。ペレットを滅菌水1mlに懸濁し、65℃で5分間加熱し、氷上で3分間急冷した。15,000rpmで3分間遠心分離した後、上清を回収した。50μlの5M NaClと2.5mlのエタノールを加えた後、−20℃で30分冷却し、遠心(3,000rpm、4℃)して、ポリアデニル化RNAの沈殿を回収した。
【0065】
(3)cDNAの合成
mRNAからのcDNAの合成は、GublerおよびHoffmanの改良法により、Amersham社製またはInVitrogen社製のcDNA合成キットを用いて行った。すなわち、大腸粘膜上皮細胞より調製したポリアデニル化RNA5μgを42℃にて90分間、50ユニットのヒト胎盤リボヌクレアーゼインヒビター、1mM dATP、1mM dGTP、1mM dCTP、0.5mM dTTP、100ユニットのAMV逆転写酵素、ピロリン酸ナトリウムを含む緩衝液(Amersham社製)50μl中で、750ngのランダムヘキサヌクレオチドまたは4μgのオリゴ(dT)プライマーと共にインキュベートした。この反応液50μlを4.0ユニットの大腸菌リボヌクレアーゼH、115ユニットの大腸菌DNAポリメラーゼIを含む緩衝液(Amersham社製)中で、12℃で60分間、次いで22℃で60分間反応させた後、70℃で10分間インキュベートした。氷中に戻し、10ユニットのT4 DNAポリメラーゼを加え、37℃で10分間反応させた後、10μlの0.25M EDTA(pH8)を加えて反応を停止させた。反応液250μlに対し、等量の7.5M酢酸アンモニウムと、4倍量のエタノールを加え、撹拌後、−20℃にて30分間冷却し、遠心分離によりcDNAを回収した。cDNAを10μlの滅菌水に溶かし、1μlを用いて0.8%アガロースゲル電気泳動を行い、合成の確認と濃度の定量を行った。
【0066】
(4)アダプターの連結
上記(3)で得た合成cDNAに対して10倍量のモル比となるようにアダプター(EcoRI−NotI−BamHIアダプター、宝酒造社製)を加え、全体量の8倍量のライゲーション溶液A(ライゲーションキット、宝酒造社製)と1倍量のライゲーション溶液B(ライゲーションキット、宝酒造社製)を加えた。十分撹拌した後、16℃で30分間インキュベートし、アダプターをcDNAへ連結させた。
【0067】
この反応液をTAE緩衝液系で0.8%の低融点アガロースゲル(Sea Plaqueアガロース、宝酒造社製)で電気泳動を行い、約4kbp以上のcDNA画分を含むゲルを回収した。この操作により、cDNAに結合しなかったアダプターも同時に除いた。回収したゲルの湿重量に対し、2倍量のTE緩衝液を加え、65℃で10分間保温し、アガロースゲルを溶解した後、全体量に対し等量のトリス飽和フェノールを加え、十分に撹拌後、氷冷した。遠心分離により水相を回収し、等量のトリス飽和処理を再び行った。遠心分離により水相を回収し、最後に等量のクロロホルムを加え、十分撹拌後遠心分離した。その後、水相を回収し、1/10量の3M酢酸ナトリウム、20μgのグリコーゲン(ベーリンガーマンハイム社製)、2.5倍量のエタノールを加え、−20℃で30分間冷却した後、15,000rpmで10分間4℃で遠心し、cDNAの沈殿を得た。
【0068】
(5)λgt10ライブラリーの作製
上記(4)で得たアダプターを連結したcDNAを96μlの500mM Tris−HCl(pH7.5)、100mM MgCl2、10mM DTT、10mM ATPからなる溶液に溶解し、40ユニットのポリヌクレオチドキナーゼを加え、37℃で60分間インキュベーションし、アダプターの5’末端をリン酸化した。反応終了後、200μlのTE緩衝液を加え、300μlのトリス飽和フェノールを加え、撹拌後、遠心分離(15,000rpm、室温、2分間)により上清を回収した。同様の遠心分離処理をトリス飽和フェノール・クロロホルム(1:1)溶液、続いて2%イソアミルアルコールを含むクロロホルム溶液によって行い、最終的に250μlの上清を得た。この上清に250μlの4M酢酸アンモニウム溶液、1250μlのエタノールを加え、−20℃、30分間冷却後、遠心分離(15,000rpm、4℃、10分間)により沈殿を回収した。cDNAの沈殿に1μgのEcoRI消化脱リン酸λgt10アーム(#233211、Stratagene社製)を加え、終濃度100mM Tris−HCl(pH7.6)、5mM MgCl2、300mM NaClの溶液5μlに溶解した。ライゲーション溶液B(DNAライゲーションキット、宝酒造社製)を5μl加え、十分撹拌した後、26℃で10分間反応させた。cDNAをλファージにパッケージするために、cDNAを含むライゲーション反応液4μlを、10μlのFreeze/Thaw抽出液(GigapackIIgold、STRATAGENE社製)に加え、直ちにSonic抽出液(GigapackII gold)を加え、ゆっくり撹拌した。22℃にて2時間インキュベーションした後、500μlのファージ希釈用溶液(5g NaCl、2g MgSO4・7H2O、50ml 1M Tris−HCl(pH7.5)、5ml 2%ゼラチン/リットル)と、10μlのクロロホルムを加え、インビトロパッケージング反応を終了した。このファージ溶液は4℃に保存し、スクリーニングに用いた。
【0069】
実施例4:FcγBPをコードする全長cDNAのクローニング(B:DNAプローブを用いたcDNAライブラリーのスクリーニング)
(1)ブロッティング
λファージにパッケージングを行った大腸粘膜上皮細胞のcDNA(2×104pfu)を、一晩培養した大腸菌株C600hfl 200μlに感染させた後、37℃で15分間保温した。55℃に保温した0.8%トップアガロース/LB培地を加えた後直ちにLBプレート(10×14cm)上に広げた後、37℃にて12時間インキュベートした。プラークの直径が1mm程度になったところで、ナイロン膜(BiodyneA、孔径0.2μm,ポール社製)を重ね、4℃、10分間冷却した。ナイロン膜をプレートよりはがし、ブロッティング溶液I(0.5M NaOH,1.5M NaCl)、ブロッティング溶液II(1M Tris−HCl(pH7.4))、ブロッティング溶液III(0.5MTris−HCl(DH7.4)、1.5M NaCl)で各々5分間処理した後、UVクロスリンク装置(UV Stratalinker2400,STRATAGENE社製)を用いて1200μジュールにてDNAをナイロン膜に固定した。
【0070】
(2)ハイブリダイゼーション
λDNAを固定したナイロン膜1枚当り、10mlのハイブリダイゼーション溶液(5×SSPE,5×Denhardt’s溶液、50%ホルムアミド、0.5%SDS、100μg/ml熱変性サケ精子DNA)を加え、ハイブリダイゼーションバッグに密封した後、42℃で8時間プレハイブリダイゼーションを行った。次に、抗体スクリーニングにより得られたプローブQ,A,Bを各々α[32P]dCTPを用いてランダムプライミング法により放射性標識した。プローブQ,A,Bの各1×108dpmを5mlのハイブリダイゼーション溶液と共にプレハイブリダイゼーションの終了したナイロン膜に加え、密封後、42℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。インキュベーションの終了後、ナイロン膜を0.2×SSC、0.2%SDSの溶液で65℃40分間洗浄する操作を3回くり返した後、X線フィルムに一晩露光した。
【0071】
以上のスクリーニングにより、プローブA,B,Qの1種または、複数とハイブリダイズする69個のラムダクローンを得た。それぞれから、前述の通りの方法でλDNAを調製し、制限酵素EcoRIで処理した後、電気泳動し、挿入DNAのサイズの確認を行った。
【0072】
実施例5:FcγBPmRNAのサイズ推定
実施例2で得たプローブQを用いてFcγBPmRNAのサイズを推定した。比較のための既知タンパク質のmRNAとして、14.0kbpのDystrophin mRNA(M.Koenig et al.(1988)Cell 53:219−228)と、15.2kbpのRyanodine Receptor mRNA(F.Zarzato et al.(1990)J.Biol.chem.,265:2244−2256)を用いた。これらの対照mRNAに対するcDNAプローブは、いずれも文献から得られる塩基配列をもつ合成プローブを調製し、これらを用いてポリメラーゼチェインリアクション(PCR)法により作製し、それぞれプローブDYSおよびプローブRDRとした。
【0073】
Dystrophin mRNAとRyanodine ReceptormRNAの供給源はヒト骨格筋ポリアデニル化RNA(Clontech社製)である。
【0074】
大腸粘膜上皮細胞より得られたポリアデニル化RNA2μgまたはヒト骨格筋ポリアデニル化RNA1μg、あるいは両者の混合物を実施例2の(4)と同様の方法で電気泳動を行い、ナイロン膜上にトランスファーした。このナイロン膜をプローブQを用いてハイブリダイゼーションを行い、オートラジオグラフィーにより検出した。
【0075】
次いで同じ膜で対照mRNAのハイブリダイゼーションを行うため、このナイロン膜を50mM Tris−HClバッファー(DH7.5)、1.25mMEDTA、3xSSC、1XDenhard’s溶液、1%SDS、50%ホルムアミドを含む溶液20mlとともに、70℃、1時間インキュベーションした。次いで、0.2xSSC、0.1%SDSを含む洗浄液で室温、10分間振とうし洗浄する操作を2回行った。その後、ナイロン膜でオートラジオグラフィーを行い、バンドの消失されたこと(デハイブリダイゼーション)を確認した。
【0076】
次に、上記と同様の方法にて、プローブDYSによるハイブリダイゼーションを行い、オートラジオグラフィーにより検出した。このナイロン膜を上記と同様の方法でデハイブリダイゼーションを行った後、オートラジオグラフィーでバンドの消失されたことを確認した。最後にプローブRDRによるハイブリダイゼーションを同様に行い、オートラジオグラフィーによるバンドの検出を行った。
【0077】
以上の結果より得られたDystrophin mRNA、Ryanodine Receptor mRNAの各バンドの移動度を分子サイズに対してプロットを行い、標準曲線を得て、FcγBPmRNAの移動度よりその分子サイズを約17kbpと推定した(図1)。
【0078】
実施例6:FcγBPをコードするcDNAの塩基配列の決定(1)
IgGFc部結合能をもつタンパク質のアミノ酸配列をコードする領域の塩基配列を決定するために、上記実施例4で得られた69個のλクローンの中から、必要な5個のクローンを以下の方法で選択し、DNAシーケンサー(モデル373A、Applied Biosystems社製)で塩基配列を決定した。
【0079】
(1)クローンX1
プローブA、BおよびQとのハイブリダイゼーションによるスクリーニングにより得られたcDNAクローンの中で、プローブQおよびBとはハイブリダイズせず、プローブAとのみハイブリダイズするクローンを得た。このクローンの挿入cDNAの中でプローブAとは反対側の末端でEcoRIとSmaIによって切り出される約700bpのフラグメントを回収し、これをプローブXとした。次に、プローブXを用いて実施例3と同様の方法でcDNAライブラリーのスクリーニングを行い、プローブXおよびプローブA、BとハイブリダイズするクローンX1を得た。そして、クローンX1の挿入部cDNAをEcoRIで切断し、アガロースゲル電気泳動により約3300bpのDNAを分離した後回収し、プラスミドベクターpBluescript SK(+)のEcoRI部位に挿入した。この後、制限酵素地図の作製および塩基配列の決定を行った。
【0080】
(2)クローンY1
クローンX1のcDNAの中で、プローブBを含む部分とは反対側でEcoRIとSacIによって切り出される約800bpのフラグメントを回収し、これをプローブYとした。プローブYを用いて実施例3と同様の方法でcDNAライブラリーのスクリーニングを行い、得られたクローンのうち、最長のcDNAをもつクローンであるクローンY1を得た。そして、クローンY1の挿入部cDNAをEcoRIで切断し、アガロースゲル電気泳動により約1900bpのDNAを分離した後回収し、プラスミドベクターpBluescript SK(+)のEcoRI部位に挿入した。この後、制限酵素地図の作製および塩基配列の決定を行った。
【0081】
(3)クローンC72
クローンY1のcDNAの中で、プローブXを含む部分とは反対側でSacIとSphIによって切り出される約150bpのフラグメントを回収し、これをプローブY150とした。プローブY150を用いて実施例3と同様の方法でcDNAライブラリー(cDNAサイズが2から4kbpのもの)のスクリーニングを行い、9個のクローンを得た。得られたクローンの挿入cDNA部分の中で、Y150を境としてY領域とは反対側に最も長く伸び、かつY150を含むcDNAを得て、これをクローンC72とした。そして、クローンC72の挿入部cDNAをEcoRIで切断し、アガロースゲル電気泳動により約1200bpのDNAを分離した後回収し、プラスミドベクターpBluescript SK(+)のEcoRI部位に挿入した。この後、制限酵素地図の作製および塩基配列の決定を行った。
【0082】
(4)クローンNZ4
クローンC72の挿入部cDNAの中で、プローブY150を含む部分とは反対側でEcoRIとSacIによって切り出される約450bpのフラグメントを回収し、これをプローブZとした。ヒト大腸癌由来培養細胞HT29−18−N2株を用いて、実施例3(2)−(5)と同様の方法でλgt10 cDNAライブラリーを作製し、プローブZを用いて実施例3と同様にスクリーニングを行い、4個のクローンを得た。得られたクローンのうち、C72と重複しない部分を最も長く含むクローンNZ4を得た。そして、クローンNZ4の挿入部cDNAをNotIで切断し、アガロースゲル電気泳動により約900bpのDNAを分離した後回収し、プラスミドベクターpBluescript SK(+)のEcoRI部位に挿入した。この後、制限酵素地図の作製および塩基配列の決定を行った。
【0083】
(5)クローンV11
プローブA、BおよびQによるスクリーニングでいずれともハイブリダイズするcDNAクローンのプローブA、Bとハイブリダイズする部分の塩基配列を解析し、先に塩基配列を決定したクローンX1の末端側にあるA−B領域と同一の塩基配列をもつクローンを得て、クローンV11とした。クローンV11の挿入部cDNAをEcoRIで切断し、アガロースゲル電気泳動により約3700bpのDNAを分離した後回収し、プラスミドベクターpBluescriptSK(+)のEcoRI部位に挿入した。この後、制限酵素地図の作製および塩基配列の決定を行った。
【0084】
実施例7:クローンNZ4がFcγBP mRNAの5’末端近傍であることの推定
実施例6で得られた5種のクローンがNZ4−C72−Y1−X1−V11の順に5’末端方向または3’末端方向に向かって伸展しているが、それらの塩基配列をアミノ酸に翻訳したところ、5’末端方向へ伸びていることが推定された。そこで、現在最上流に位置するクローンNZ4DNAをプローブとしてランダムプライミングで作製したライブラリーをスクリーニングしたところ、13種の独立したクローンが得られたが、NZ4よりも5’側に伸長したクローンは得られなかった。また、NZ4の塩基配列をアミノ酸へ翻訳したところ、オープンリーディングフレーム上、予想される最も5’上流に位置するメチオニンに対するATGコドン近傍はKozak則に類似していたため、このATGが開始メチオニンである可能性が示唆された。しかし、このATGコドンの最初のAは、クローンNZ4では僅か9番目に位置し、その9塩基内にはin frameにストップコドンは存在しないことから転写産物のみならず翻訳レベルでも5’(N末端)方向へcDNAの配列が伸長している可能性を否定できない。したがって、プライマーエクステンション法により転写開始部位の検証ならびに翻訳開始部位を推定する目的で以下の実験を行った。
【0085】
(1)全RNAとポリアデニル化RNAの調製
ヒト大腸粘膜上皮細胞およびHT29−18−N2細胞から、実施例1の(2)または実施例3の(2)と同様に全RNAとポリアデニル化RNAを調製した。
【0086】
(2)エクステンションプライマーの合成
2種のプライマー、プライマー1:GCTGATAGTTCTGCAGGAAGGCTGTGAGGAATTCCTCTCTGCCAGTGTT−50mer、プライマー2:GCTCCAGCCCAGAGTATCCACCAGCTCCATAGG−33merは、DNA合成機(Model 394、Applied Biosystems社製)にて合成し、OPCカラム(Applied Biosystems社製)にて精製した。各プライマー100pmolをγ[32P]ATPにてT4ポリヌクレオチドキナーゼにより末端ラベルし、MicrospinTMS−200HRカラム(Pharmacia社製)により精製し、各0.5pmolを各反応に用いた。
【0087】
(3)プライマーアニーリングとエクステンション反応
ヒト大腸粘膜上皮細胞およびHT29−18−N2由来の全RNA(20μg)とポリアデニル化RNA(2.5μg)をそれぞれプライマーとアニーリングバッファー(10mM Tris−HCl pH7.5、1mM EDTA、250mM KCl)中で混合し、95℃、5分間加熱変性し、58℃、1時間、さらに室温または37℃で1.5時間インキュベートすることによりハイブリダイゼーションを行った。続いて、エクステンション反応を行うため、アニーリングサンプルをエタノール沈殿し、この沈殿をRTaseバッファー(33mM Tris−HCl pH8.3、20mM KCl、13.3mM MgCl2、13.3mM DTT、0.33mM dNTPs、50μg/mlアクチノマイシンD)に溶解後、20unitの逆転写酵素(RNaseH−free MMLV RTase、TOYOBO社製)を加え、42℃、1時間インキュベートした。反応後、95℃で3分処理しRTaseを失活させた後、10μg/mlとなるようにRNaseAを加え、37℃、30分間インキュベートしてテンプレートRNAを分解した。その後フェノール/クロロホルム、クロロホルム抽出、エタノール沈殿を順次行った後、5%のシークエンスゲルにて泳動し、泳動後ゲルは固定液(10%酢酸、15%メタノール)で処理し、乾燥後オートラジオグラフィーを行った。なお、マーカーとしてM13mp18をシークエナーゼver2.0 DNAシークエンシングキット(TOYOBO社製)で反応させたものを用いた。
【0088】
以上の方法により次に述べる結果が得られた。いずれの全RNA標品をテンプレートとして用いても、プライマー1でのエクステンションの結果、プライマーより118塩基付近の位置に強いバンドが見られ、またいずれのポリアデニル化RNA標品をテンプレートに用いたものでも118塩基付近だけでなく、157塩基付近の位置に弱いエクステンションバンドが見られた。現在最も5’側のクローンと考えられるNZ4の5’末端を便宜上+1とすると、これらはそれぞれ+27、−13に相当した。この+27でエクステンション反応が止まった理由として、NZ4の5’末端近傍の2次構造の形成を予測させるパリンドロミックな構造が存在することが挙げられる。事実できるだけそうした2次構造を抑える目的で合成したより5’側にあるプライマー2での結果では−10から−16付近にかけて強いブロードなバンドが、さらに−23に相当する位置に弱いシングルバンドが検出された。そして、−23より高分子領域にはバンドは検出されなかった。
【0089】
以上の結果から、NZ4の5’末端より10から20塩基上流付近に転写開始部位の存在が示唆され、この範囲にin frameでのATGコドンが存在しない場合には現在ORF上最も5’端にあるATGが翻訳開始部位である可能性が強く推定された。これらの事実はクローンNZ4がNZ4−C72−Y1−X1−V11の順で極めてN末端に近いことを示している。
【0090】
実施例8:発現cDNA/ベクター系の構築(A:発現に用いた部分cDNAの調製)
タンパク質発現のために、FcγBPの部分cDNAの挿入されたλDNAクローン(#NZ4、#C72、#Y1、#X1、#V11)を、EcoRIまたはNotIにて切断した後、挿入部のcDNAを還状プラスミドpBluescript SK(+)へサブクローニングし、それぞれpNZ4、pC72、pY1、pX1、pV11と命名した。
【0091】
(1)pNZ4:λクローン(#NZ4)をNotIで完全消化した後、アガロースゲル電気泳動にて約900bpの挿入部を分離・精製し、pBluescript SK(+)のNotI部位に結合させた。cDNAのタンパク質コードストランドの5’→3’方向がプラスミド中のLacZ遺伝子の方向と逆向きに挿入されたクローンを選択した。挿入部の全塩基配列を配列番号1に示す。
【0092】
なお、本発明の塩基配列表においては、cDNA由来の塩基配列を大文字で、pBluescript SK(+)由来の塩基配列を小文字で、また合成アダプターおよび合成オリゴヌクレオチド由来の塩基配列を小文字のアンダーラインでそれぞれ示した。
【0093】
また、アミノ酸配列は、Kozak配列と一致するATGを開始コドンとし、塩基配列よりユニバーサルコドンにより推定した配列を示した。
【0094】
(2)pC72:λクローン(#C72)をEcoRIで完全消化した後、アガロースゲル電気泳動にて約1300bpの挿入部を分離・精製し、pBluescript SK(+)のEcoRI部位に結合させた。cDNAの5’→3’方向がプラスミド中のLacZ遺伝子の方向と逆向きに挿入されたクローンを選択した。挿入部の全塩基配列を配列番号2に示す。
【0095】
(3)pY1:λクローン(#Y1)をEcoRIで完全消化した後、アガロースゲル電気泳動にて約1900bpの挿入部を分離精製し、pBluescript SK(+)のEcoRI部位に結合させた。同じサイズのDNA挿入部をもつクローンを選択した。挿入部の全塩基配列を配列番号3に示す。
【0096】
(4)pX1:λクローン(#X1)をEcoRIで完全消化した後、アガロースゲル電気泳動にて約3300bpの挿入部を分離・精製し、pBluescript SK(+)のEcoRI部位に結合させた。同じサイズのDNA挿入部をもつクローンを選択した。挿入部の全塩基配列を配列番号4に示す。
【0097】
(5)pV11:λクローン(#V11)をEcoRIで完全消化した後、アガロースゲル電気泳動にて約3700bpの挿入部を分離・精製し、pBluescript SK(+)のEcoRI部位に結合させた。同じサイズのDNA挿入部をもつクローンを選択した。挿入部の全塩基配列を配列番号5に示す。
【0098】
実施例9:発現cDNA/ベクター系の構築(B:タンパク質発現のための部分cDNAの連結)
(1)pNZC7の調製
cDNAクローンを挿入したプラスミドpNZ4(5μg)を制限酵素XhoI及びBglII(各々50ユニット)で完全消化した後、低融点アガロースゲル電気泳動する。FcγBPのcDNAの5’末端を含む約400bpのフラグメントを分離し、フェノール抽出した後、エタノール沈殿により回収した(フラグメント1)。次に第2番目のプラスミドpC72(5μg)をXhoIとBglIIで完全消化し、ベクター部分を含む約4.2kbpのフラグメントを同様の方法で電気泳動により単離した(フラグメント2)。フラグメント1とフラグメント2を各々10μlのTE緩衝液に溶解し、各2μlを16μlのA溶液(DNAライゲーションキット、宝酒造社製)、4μlのB溶液と混合し、16℃にて30分間インキュベートし連結させた。この混合液5μlを100μlのコンピテントE.coli(XL1−Blue)を形質転換し、アンピシリン(100μg/ml)を含むLBプレート上で37℃1晩培養した。生成したコロニーよりプラスミドDNAを精製し、フラグメント1とフラグメント2の連結したプラスミドpNZC7を得た。
【0099】
(2)フラグメント5の調製
pNZC7(5μg)を各々50ユニットのXhoIとBstXIで完全消化した後、電気泳動により約1300bpのフラグメントを回収した(フラグメント3)。第3番目のプラスミドpY1(5μg)を各50ユニットのBstXIとHincIIで完全消化した後、電気泳動により約420bpのフラグメントを回収した(フラグメント4)。フラグメント3とフラグメント4を同様の方法でDNAリガーゼにより連結し、電気泳動を行い両者が1分子ずつBstXI部位で連結した約1750bpのフラグメントを回収した(フラグメント5)。
【0100】
(3)pXV2の調製
第4番目のプラスミドpX1(5μg)をHincII及びBamHI(各50ユニット)で完全消化し電気泳動により、約2780bpのフラグメントを回収した(フラグメント6)。第5番目プラスミドpV11をBamHI(50ユニット)で完全消化し電気泳動により約3350bpのフラグメントを回収した(フラグメント7)。フラグメント6とフラグメント7をDNAリガーゼを用いて連結させ、両者が1分子ずつ連結された約6100bpのフラグメントを電気泳動により回収した(フラグメント8)。このフラグメント8をHincIIとBamHIで消化したpBluescript SK(+)にDNAリガーゼで連結した後コンピテントE.coliを形質転換した。複数の形質転換体よりプラスミドを回収した後、各々の塩基配列を決定し、フラグメント6とフラグメント7の方向性が正しく連結されたフラグメント8を含むプラスミドクローンを得て、フラグメント8の5’→3’方向がプラスミド中のLacZ遺伝子の方向と逆向きに挿入されたものをpXV2とした。
【0101】
(4)pNV11の調製
pXV2をXhoIとHincIIで完全消化後、電気泳動的に約9.1kbpのベクター部分を含むフラグメントを回収した(フラグメント9)。フラグメント9と前記フラグメント5をDNAリガーゼを用いて連結した後、コンピテントE.coli(XL1−Blue)を形質転換した。形質転換体より、約7.8kbpのcDNA(フラグメント10)を含む約10.8kbpのプラスミドpNV11を得た。
【0102】
(5)ストップコドン(UAGに対応するもの)を含むオリゴヌクレオチドアダプターの合成
DNA合成機(model394、Applied Biosystems社製)を用いてフレームを異にする3個のTAGを含み、両端にNotI部位とSpeI部位をそれぞれもつ次のオリゴオキシヌクレオチド、(1)5’−CTAGTT AGT TAG TTA GGG TAC CGC−3’,(2)5’−GGC CGC GGT ACC CTA ACT AAC TAA−3’を合成した。オリゴヌクレオチド1及び2各10nmolを混合し(合計146μl)た後、95℃、1分間、次いで85℃、10分間、次いで0.33℃/分の速さで40℃まで徐々に冷却を行い、停止コドンを含むアダプターを作製した(TA−IIIアダプター)。このアダプター(2.1nmol)の5’末端をATPとポリヌクレオチドキナーゼを用いて標準方法にてリン酸化した。
【0103】
pB1uescript SK(+)ベクター0.83pmolをNotIとSpeIにて完全消化した後リン酸化したTA−IIIアダプター250pmolと混合し、DNAライゲーションキットを用いて16℃30分間インキュベートし連結させた後、エタノール沈殿した。この沈殿を50μl中にてNotIで完全消化し、アダプターシークエンス1回だけ持たせるようにした後、低融点アガロースゲル電気泳動を行い約3kbpのバンドを回収し、フェノール抽出した後、エタノール沈殿を行った。得られた沈殿を、DNAライゲーションキットを用いて自己連結させた後、コンピテントE.coli(XL1−Blue)を形質転換した。アンピシリンを含むLBプレート上で一晩培養し生じたコロニーより得られたプラスミドのうち、TA−IIIアダプターが挿入されたプラスミドを選択した(pBLS/TAIII)。
【0104】
(6)pNV11−STの調製
5μgのプラスミド(pNV11)をSpeIで完全消化した後、電気泳動的に約7.8kbpのフラグメントを回収し、10μlのTE緩衝液に溶解した(フラグメント11)。2μgのプラスミド(pBLS/TAIII)をSpeIで完全消化し、バクテリアアルカリホスファターゼ(2ユニット)を用いて末端を脱リン酸化した後、フェノール/クロロホルム処理を2回行い、エタノール沈殿した。沈殿を10μlのTE緩衝液に溶解した(フラグメント12)。各2μlのフラグメント10とフラグメント11を混合し、DNAライゲーションキット(宝酒造社製)を用いて連結させた後、コンピテントE.coli(XL1−B1ue)を形質転換し、アンピシリンを含むLBプレート上で一晩培養した。生じたコロニーのうち、挿入したcDNAの3’末端側にTA−IIIアダプターが連結されているプラスミドを制限酵素地図及び塩基配列を調べる事により選択した。得られたクローンがpNV11−STである。
【0105】
前記プラスミドpNV11−STを含有する大腸菌はEscherichiacoli XL1−B1ue[pNV11−ST]として工業技術院生命工学技術研究所(茨城県つくば市東1丁目1番3号)に平成6年4月1日に生命研条寄第4625号(FERM BP−4625)としてブタペスト条約に基づき国際寄託された。
【0106】
なお、FcγBPの発現に用いた部分cDNA(クローンpNV11−ST)(約7.8kbp)、ならびにその構築に用いた実施例6に記載のクローンNZ4、C72、Y1、X1およびV11の相互の関係を図2に示す。
【0107】
実施例10:発現cDNA/ベクター系の構築(C:タンパク質発現ベクターへの組込み)
(1)pcDL−SRα/NOTベクターの作製
cDNAの組込みを行えるよう次の様にpcDL−SRα296ベクター(国立予防衛生研究所、武部豊博士より恵与された:以下SRαと記載することもある)の制限酵素部位を改変した。まず、2μgのSRαをEcoRIで完全消化した後、エタノールで沈殿した。沈殿をKlenow緩衝液(70mM Tris・HCl(pH7.5)、1mM EDTA、200mM NaCl、70mM MgCl2、各1mM dATP、dCTP、dGTP、dTTP)に溶解し、0.4ユニットのKlenowフラグメントと共に37℃15分間インキュベートし、プラスミドの末端を平滑化した。エタノール沈殿の後、TE緩衝液に溶解し、5’末端がリン酸化されたNotIリンカーをDNAライゲーションキットを用いて連結した。エタノール沈殿を行った後、NotIで完全消化し、アガロースゲル電気泳動を行い約3.7kbpのDNAを切出し、フェノール抽出にてDNAを回収した。回収したDNAをライゲーションキットにて自己連結した後、コンピテントE.coli(XL1−Blue)を形質転換した。EcoRIで消化されず、NotIで消化されるような目的のプラスミド(pcDL−SRα/NOT)を選択した。
【0108】
(2)発現cDNAの挿入
蛋白発現ベクター(pcDL−SRα/NOT)をNotIとKpnIで完全消化し、電気泳動により約3.7kbpのフラグメントを回収した(フラグメントA)。
【0109】
cDNA挿入ベクター(pNV11−ST)をNotIとKpnIで完全消化し、電気泳動により約7.8kbpのフラグメントを回収した(フラグメント13)。フラグメント13の全塩基配列を配列番号6に示す。
【0110】
この塩基配列およびそこから演繹されるアミノ酸配列をGenBank Re1.80により検索したところ、塩基配列およびアミノ酸配列とも新規であることが確認された。
【0111】
フラグメントAとフラグメント13をDNAライゲーションキットを用いて連結した後、コンピテントE.coli(XL1−Blue)を形質転換した。アンピシリン(100μg/ml)を含むLBプレート上で培養し生じたコロニーのうち、フラグメント13が挿入されたプラスミドを制限酵素切断により選択した。得られたクローンがpNV11−SRである。
【0112】
実施例11:COS7細胞でのFcγBP部分cDNAの発現
(1)発現cDNA/ベクターの大腸菌からの回収
実施例10で得られたFcγBP cDNA発現プラスミド(pNV11−SR)にて形質転換した大腸菌を10mlのLB培地で一晩37℃で振とう培養した。これを500mlのLB培地に加え、OD600が0.8になるまで振とうを続けた。OD600が0.8に達したら2.5mlのクロラムフェニコール溶液(34mg/ml)を加え、一晩培養した。菌を遠心分離した後、常法通りアルカリ法にてプラスミドDNAを調製した。塩化セシウムの密度勾配による超遠心分離(90,000rpm、3時間)を2回行ったのち、TE緩衝液で透析しプラスミドを精製し蛋白発現に用いた。
【0113】
(2)COS7細胞へのトランスフェクション
FcγBPの約7.8kbpの部分cDNAを組み込んだプラスミドベクター(pNV11−SR)をCOS7細胞へ一過性に発現させて、タンパク質の性質を調べるために次の様にトランスフェクションを行った。COS7細胞2×105個を35mmディッシュに加え、10%FBSを含むRPMI1640培地(0.2%炭酸水素ナトリウム、10ユニット/mlペニシリン、0.01%ストレプトマイシンを含む)で一晩培養した。40−60%コンフルエントになったところで、血清を含まないRPMI1640培地で細胞を2回洗浄した。
【0114】
10μgのpNV11−SRプラスミドを250μ1のRPMI1640培地に溶解したものと、10μlのリポフェクション試薬(Transfectam、Sepracor社製)を250μlのRPMI1640培地に溶解したものを混合し、直ちにCOS7細胞上に加える。37℃で6時間培養後、培地を除き、10%血清を含むRPMI1640培地を2ml加え、37℃、5%CO2で2日間培養した。
【0115】
(3)発現タンパク質の確認
pNV11−SRをトランスフェクションしたCOS7細胞を培養したディッシュ(φ35mm)を2mlのPBS(−)で2回洗浄した。99.5%エタノールを2ml加え、室温で5分間固定した。2mlのPBS(−)で2回洗浄した。ラムダファージのスクリーニングに用いたFcγBPに対するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ(K9及びK17)の培養上清1mlをそれぞれ加え、室温で1時間インキュベートした。PBS(−)にて3回洗浄した後、ホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)を結合したヤギ抗マウスIgG(H+L)F(ab’)2フラグメント(Zymed社製)を加え室温で30分間インキュベートした。2mlのPBS(−)で3回洗浄した後、0.036%過酸化水素水溶液と0.1%ジアミノベンチジン/0.1M Tris HCl(pH7.2)溶液の1:1を加え、室温にて10分間発色させ、タンパク質の発現する細胞を確認した。一次抗体を加えずに、二次抗体としてHRP結合ヤギ抗マウスIgG(H+L)F(ab’)2フラグメントのみを加えたものを対照として用いた。
【0116】
結果を図3に示す。K9モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ(図3、A)およびK17モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ(図3、B)培養上清を加えたものでは、いずれもこれらと特異的に反応する細胞が観察されたが、対照(図3、C)では観察されなかった。
【0117】
実施例12:組換えタンパク質のヒトIgG結合能の検出と性状
(1)ヒトIgGの結合の確認
FcγBPの部分cDNAを組み込んだプラスミドpNV11−SRをトランスフェクトしたCOS7細胞(φ35mm dish)をPBS(−)で2回洗浄した。99.5%エタノールを2ml加え室温で5分間固定した。2mlのPBS(−)で2回洗浄した。次に、アフィニティークロマトで精製したヒトIgG画分(Cappel社製)を、10%FBSを含むRPMI1640培地にて10μg/mlの濃度に調製し、その1mlをディッシュに加え室温で1時間インキュベートした。2mlのPBS(−)で3回洗浄した後、HRPを結合させたヤギ抗ヒトIgG F(ab’)2画分(#109−D36−088、コスモバイオ社製)にて室温で30分間インキュベートした。2mlのPBS(−)で3回洗浄した後、0.036%過酸化水素水溶液と、0.1%ジアミノベンチジン/1.0M Tris HCl(pH7.2)溶液の1:1混液を加え室温にて10分間発色させ、発現タンパク質へのIgGの結合を確認した。
【0118】
(2)IgGの特異的結合
pNV11−SRをトランスフェクトしたCOS7細胞(φ35mmディッシュ)を2mlのPBS(−)にて2回洗浄した。99.5%エタノールを2ml加え室温で5分間固定する。2mlのPBS(−)で2回洗浄した。
【0119】
次に、HRPを結合したアフィニティー精製ヒトIgG画分(#55902、Cappel社製)を10%FBSを含むRPMI1640培地にて10μg/mlの濃度に調製した(溶液1)。溶液1に対し、次のイムノグロブリン(500μg/ml)を拮抗阻害物質として加えた:
▲1▼クロマトグラフィー精製ヒトIgG画分(#55908、Cappel社製)
▲2▼クロマトグラフィー精製ヒトIgG Fc画分(#55911,Cappel社製),
▲3▼クロマトグラフィー精製ヒトIgG F(ab’)2画分(#55910,Cappel社製)、
▲4▼クロマトグラフィー精製ヒトIgM画分(#55916,Cappel社製)
▲5▼クロマトグラフィー精製ヒト血清IgA(#55906,Cappel社製)
▲6▼クロマトグラフィー精製ヒト分泌型IgA(#55905,Cappel社製)。
【0120】
溶液1に上記▲1▼から▲6▼の各拮抗阻害物質を各々別々に加えた溶液1mlを、細胞を固定したディッシュに加え、室温で1時間インキュベートした。2mlのPBS(−)で3回洗浄した後、0.036%過酸化水素水溶液と、0.1%ジアミノベンチジン/0.1% Tris HCl(pH7.2)溶液の1:1の混液を加え、室温にて10分間発色させ、発現タンパク質へのIgGの結合を検討した。溶液1のみで拮抗阻害物質を何も加えなかったものを対照として用いた。
【0121】
結果を図4および図5に示す。対照実験である無添加条件では細胞が染色される(図4、A)が、精製ヒトIgG画分(図4、B)と精製ヒトIgG Fc画分(図4、C)を添加すると細胞は染色されなかった。一方、他の添加物IgGF(ab’)2画分(図5、D)やヒトIgM画分(図5、E)、ヒト血清IgA(図5、F)、ヒト分泌型IgA(図5、G)ではHRP結合ヒトIgGの結合を阻害できなかった。このことはヒト抗体の場合IgGFc部にFcγBPが特異的に結合することを示している。
【0122】
実施例13:FcγBP mRNA発現の組織特異性
FcγBPのヒト組織での発現の特異性を調べるために、ノーザンブロッティング解析によりmRNAの発現を調べた。ヒト心臓、脳、胎盤、肺、肝臓、骨格筋、腎臓、膵臓の各組織から精製したポリアデニル化RNA2μgをブロッティングしたナイロン膜(Human Multiple Northern Blots、#7760−1、Clontech社製)を、実施例2の(4)と同様の条件でプレハイブリダイゼーションを行った後、[32P]でラベルしたプローブYを用いてハイブリダイゼーションを行った。洗浄の後、オートラジオグラフィーにてバンドの検出を行った。−80℃で2日間オートラジオグラムを行った結果、胎盤において約17kbp付近にバンドを検出できた(図6)が、その他の組織においては陰性であった。したがって、胎盤においてFcγBPのタンパク発現が推定された。
【0123】
実施例14:3種の異なるプローブによるノーザンブロット解析
実施例2の(3)で得たプローブQとA、および実施例6の(2)で得たプローブYがいずれも同一のmRNAとハイブリダイゼーションすることを確認するために、大腸粘膜上皮細胞から抽出したmRNAのノーザンブロット解析を上記3種のプローブQ、A、Yを用いて行った。
【0124】
大腸粘膜上皮細胞よりAGPC法により抽出した全RNA15μgを4.5μlの滅菌水に溶かした後、2μlの5×MOPS緩衝液、3.5μlのホルムアルデヒド、10μlのホルムアミドと混合し、60℃、15分間熱変性した後、ホルムアルデヒド存在下で1%アガロースゲル上で電気泳動した。電気泳動終了後、RNAをナイロン膜(バイオダインA、ポール社製)へキャピラリー法にて一晩トランスファーを行った。UV架橋によりRNAをナイロン膜に固定した後、10mlのハイブリダイゼーション溶液(5×SSPE、5×Denhardt’s溶液、50%ホルムアミド、0.5% SDS、100μg/ml熱変性サケ精子DNA)中にて42℃、8時間プレハイブリダイゼーションを行った。
【0125】
次いで3種のプローブA、Q、Yを各々、α[32P]dCTPを用い、メガプライムラベリングキット(Amersham社製)によって放射性標識した。各プローブ1×108dpmを各々、5mlのハイブリダイゼーション溶液と共にプレハイブリダイゼーション処理したナイロン膜に加え、密封した後、42℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。ナイロン膜の洗浄は0.2×SSC、0.2% SDSを含む溶液中で、65℃、40分間の洗浄操作を3回繰り返し行った。ナイロン膜を乾燥後、X線フィルムに一晩露光した。
【0126】
以上の結果、プローブA、Q、Yを用いて推定約17kbpのバンドが1本それぞれ検出され、3種類のプローブが分子量的に同一のmRNAとハイブリダイズすることを確認した(図7)。
【0127】
実施例15:FcγBPをコードするcDNAの塩基配列の決定(2)
IgGFc部結合能をもつタンパク質のアミノ酸配列をコードするcDNAのうち、5’末端から約7.8kbp(7826塩基)までの塩基配列の決定については実施例4および6に記載した。残された塩基配列約8.6kbpの塩基配列決定法を以下に記載する。
【0128】
(1)cDNAの構造と分類
上記実施例4において、プローブA、BまたはQを用いたハイブリダイゼーションによるスクリーニングで得られた複数のcDNAクローンを、それぞれ大腸菌内で増幅した後、プローブA、B、Qを用いてマッピングを行った。その結果、各クローンは3種のプローブの1つまたは複数とハイブリダイズし、cDNA上にA→BまたはB→QまたはQ→Aの順にプローブ相同部位が位置するものであった。
【0129】
これらの結果から、FcγBPの遺伝子には、プローブA、B、Qのそれぞれと相同な配列がA→B→Qの順に連なった単位がタンデムに複数回繰り返した構造を有することが推定された。そこで、プローブBとハイブリダイズするcDNAクローンについて、プローブBの塩基配列の一部(約280塩基対)を次のプライマーを用いてPCRにより増幅させた。
プライマー(P−1):
5’−GCC TGC GTG CCC ATC CAG−3’
プライマー(P−2):
5’−CTC ATA GTT GGG CAG GCAC−3’
PCRにより増幅したフラグメントをアガロースゲル電気泳動にて分離後ゲルから回収し、塩基配列を解析した。この塩基配列の違いから、プローブBとハイブリダイズするcDNAクローンを次の3群に分類し、プローブBとハイブリダイズしないcDNAクローンを第4群とした。
第1群:クローンV11の増幅フラグメントと同一の配列をもつ群。
第2群:第1群の配列と比較して5塩基の置換があり、フラグメント中にHincII部位を含まない群。
第3群:第1群の配列と比較して7塩基の置換があり、フラグメント中にHincII部位を含む群。
第4群:プローブBとハイブリダイズしない群。
【0130】
(2)クローンT5
3’末端側のポリA部分をもつcDNAを分離するために、実施例3においてオリゴdTプライマーを用いて作製したcDNAライブラリーを、プローブA、BまたはQを用いて実施例4と同様の方法でスクリーニングを行ったところ、プローブQのみとハイブリダイズした。得られたcDNAクローンのうち最長のcDNA挿入部をもつものをクローンT5とした。
【0131】
クローンT5の挿入cDNAをEcoRIで切断し、アガロースゲル電気泳動により分離、精製し、プラスミドベクターpBluescript SK(+)のEcoRI部位に挿入した。この後、T5の制限酵素地図の作製および全塩基配列の決定を行った。
【0132】
また、クローンT5挿入部のcDNAのうちで、ポリ(A+)から約1キロ塩基対5’側のBamHI部位と、同じくポリ(A+)から約1.6キロ塩基対5’側のPstI部位に挟まれた約550塩基対をプローブVとした。プローブVはクローンNZ4、C72、Y1、X1、V11、A53、A40およびA31とはハイブリダイズせず、T5に特異的な配列であった。
【0133】
(3)クローンA43
プローブA、BまたはQとハイブリダイズするcDNAクローンをプローブVを用いて実施例4の(2)と同様の方法でハイブリダイゼーションを行い、プローブAおよびBとはハイブリダイズせず、プローブVおよびQとのみハイブリダイズするクローンを得た。このクローンの挿入cDNAをEcoRIで切断し、アガロースゲル電気泳動により分離、精製し、プラスミドベクターpBluescript SK(+)のEcoRI部位に挿入した。この後、制限酵素地図の作製および全塩基配列の解析を行った。
【0134】
塩基配列解析の結果、プローブQとハイブリダイズする部分を含む約2キロ塩基対の部分がT5と重複する部分の配列と一致することを確認した。
【0135】
(4)クローンA8
クローンA43より5’方向に伸長したcDNAを得るため、クローンA43の5’付近の塩基配列(約240塩基対)を増幅可能な次のプライマーを合成した。
プライマー(P−3):
5’−TGT TGG GAC GAA TGT CGG−3’
プライマー(P−4):
5’−TCA CAG CCA ACC TGT GCC−3’
実施例15の(1)において分類した第1群、第2群、第3群のcDNAクローンを上記プライマー(P−3)および(P−4)を用いてPCRを行った。PCRにより増幅したフラグメントをアガロースゲル電気泳動にて分離後回収し、塩基配列を解析した。これにより、実施例15の(1)において分類した第3群のcDNAクローンの中で、PCRフラグメントの配列がA43と同一の塩基配列をもつものを選択し、クローンA8とした。クローンA8の全塩基配列を解析し、3’側の塩基配列がA43の5’側の重複する配列と完全に一致することを確認した。
【0136】
(5)クローンA53およびクローンA40
第2群に属するcDNAクローンのうち、プローブQおよびAとハイブリダイズする部分を5’側にもつ2つの異なるクローンを制限酵素地図より選択した。このうち、クローンV11の3’側と重複する部分のより長い方をクローンA53、より短い方をクローンA40とした。
【0137】
クローンA53およびクローンA40の全塩基配列を解析し、クローンA53の3’側とクローンA40の5’側の重複する部分(約2.4キロ塩基対)の塩基配列が同一であることを確認した。また、V11の3’側とA53の5’側の重複する約1.8キロ塩基対を比較したところ、1塩基(第6273塩基;V11ではAであり、A53ではG)を除いてこれらの塩基配列が完全に一致することを確認した。
【0138】
(6)クローンA31
クローンA40より3’方向に伸長したcDNAをスクリーニングするために次の操作を行った。クローンA53およびクローンA40において、プライマー(P−3)およびプライマー(P−4)によって増幅されるフラグメントの塩基配列が第1群のV11の配列と異なり、また第3群のA8の配列とも異なっていたため、この部分の配列を指標に次のスクリーニングを行った。すなわち、全クローン69個のうち第1群と第3群を除くcDNAクローンについてプローブA、BまたはQとハイブリダイズするcDNAクローンを、プライマー(P−3)およびプライマー(P−4)を用いてPCRを行い、増幅したフラグメントの塩基配列を決定した。この塩基配列がクローンA53およびA40と同一であるcDNAクローンを選択した。この中から、PCRの増幅配列を5’側の端にもち、3’側に伸長するクローンを選択し、これをクローンA31とした。
【0139】
クローンA31の全塩基配列を解析した結果、A31の5’側の配列がクローンA40の3’側の重複する部分と、またA31の3’側の配列がクローンA8の5’側の重複する部分の配列と同一であることを確認した。
【0140】
実施例16:FcγBPをコードするcDNAの塩基配列の決定(3)
FcγBPのcDNAは全長16.4キロ塩基対の中に、3.5キロ塩基対をユニットとする配列(プローブA、B、Qと相同部分を含む)の3回のタンデムリピートが存在し、それぞれの繰り返し配列が互いに95%以上の相同性を有する構造をしていた(図8)。
【0141】
このリピート構造内の塩基配列の決定に用いたcDNAは、前述の通り、A、BまたはQの各プローブと強い反応性を有することでクローニングされてきた。そして各々の塩基配列を比較することにより重複する部分の塩基配列が同一であることを確認して、cDNA同士の連なりを明らかにし、これにより一連のcDNA断片が単一のmRNA(遺伝子)に由来するものであることを明らかにしてきた。この事実を再確認するために、既に発現に用いた5’末端cDNAを含むpNV11SRとは別のリピート構造内のcDNA断片をタンパク質発現させ、FcγBPを認識するモノクローナル抗体であるK9およびK17によりこの発現タンパク質断片が認識されるかどうかの検定を行った。
【0142】
(1)開始コドンを含むアダプターの合成
ベクターに組み込む各cDNA断片を、その5’部分から全長を発現させるには、cDNAの5’部分に翻訳開始コドン(ATG)を連結させなくてはならない。また、翻訳するタンパク質がFcγBPと同一のフレームで翻訳されるために、開始コドン(ATG)とcDNAの5’端の間でフレームを調節する必要がある。そこで、以下の2つの条件を満足するアダプター用オリゴヌクレオチドを合成した。
【0143】
合成オリゴヌクレオチドは、FcγBPの本来の開始コドン(ATG)を含むpNV11SRの開始領域と同じ7塩基配列(GCCATGG)を含み、Kozak則に合致するものとする。
【0144】
また、このオリゴヌクレオチドには、ベクターへの挿入が容易となるように、5’端側にHindIII部位を、3’端側にEcoRI部位を付加する。フレームを調節するために、次の3つのオリゴヌクレオチド(FR−1S、FR−2S、FR−3S)を作製した。そして、それぞれのオリゴヌクレオチドと相補的なFR−1A、FR−2A、FR−3Aをも併せて合成した。
アダプター用合成オリゴヌクレオチド
FR−1S: 5’−A GCT TCT GCA GCC ATG GG−3’
FR−1A: 3’−AGA CGT CGG TAC CCT TAA−5’
FR−2S: 5’−A GCT TCT GCA GCC ATGGGG−3’
FR−2A: 3’−AGA CGT CGG TAC CCC−5’
FR−3S: 5’−A GCT TCT GCA GCC ATG GGAG−3’
FR−3A: 3’−AGA CGT CGG TAC CCT CTT AA−5’
各オリゴヌクレオチドは、DNA合成機(model 1394、ABI社製)を用いて合成した後、精製を行った。
【0145】
次に、実施例9−(5)と同様の方法にて、FR−1SとFR−1A、FR−2SとFR−2A、FR−3SとFR−3Aを各々アニーリングした後、5’末端のヌクレオチドをリン酸化した。作製した各アダプターをアダプターFR−1、アダプターFR−2、アダプターFR−3とする。
【0146】
(2) TAIII/SKベクターの改変
実施例9−(5)により作製したストップコドンを含むベクターpBLS/TIIIにXbaI部位を付加するために以下の操作を行った。
【0147】
すなわち、実施例10−(1)と同様の方法で、pBLS/TAIIIを制限酵素XhoIで完全消化後、末端を平滑化した。末端をリン酸化したXbaIリンカーを連結後、XbaIで再消化し、自己連結した後、コンピテントE.coliを形質転換する操作により、pBLS/TAIIIのXhoI部位にXbaI部位が挿入されたベクターpBLS/TAIII2を得た。
【0148】
(3)開始コドンを含むオリゴヌクレオチドの挿入
pBLS/TAIII2をEcoRIとHindIIIで完全消化後、アガロースゲル電気泳動にて約3キロ塩基対のベクター部分を回収した。実施例9−(5)と同様の方法で、アダプターFR−1、FR−2、FR−3を各々、上記pBLS/TAIII2に挿入した。塩基配列を解析し、FR−1、FR−2、FR−3の各アダプターが1つずつ正しく挿入されたプラスミドを得て、各々をFr1−SK2、Fr2−SK2、Fr3−SK2とした。
【0149】
(4)FcγBP cDNA断片の挿入
cDNAクローンA53をFcγBPと同じフレームで発現させるために、A53のcDNA部分をEcoRIで切り出した後、Fr3−SK2のEcoRI部位に挿入した。cDNAの5’末端がFr3−SK2の開始コドン側にある方向のプラスミドを選択し、これをpiF−A53とする。
【0150】
同様にクローンA8の挿入cDNAをFr2−SK2に挿入してpiF−A8を得た。
【0151】
piF−A53とpiF−A8は実施例11−(1)と同様にして精製後、タンパク発現の実験に用いた。
【0152】
(5)piF−A53およびpiF−A8の発現
実施例11−(2)と同様の方法にて、piF−A53およびpiF−A8をCOS7細胞にトランスフェクションした。2日間培養後、実施例11−(3)と同様の方法でモノクローナル抗体(K9/K17混液)を用いて細胞染色を行い、一過性に発現したタンパク質を検出した。その結果、piF−A53およびpiF−A8のいずれをトランスフェクトした細胞もモノクローナル抗体による染色が認められ、両cDNAがK9とK17のいずれかまたは両方により認識されるタンパク質の一部をコードすることが示された(図9のA、B参照)。これより、A53およびA8がFcγBPの全cDNAの中の反復配列の一部であることが確定された。
【0153】
実施例17:クローンNZ4がFcγBP mRNAの5’末端近傍であることの推定2
実施例7でのプライマーエクステンションの結果より、現在最も5’側に存在するクローンNZ4の上流およそ20塩基内に転写開始部位が存在し、NZ4内に存在する9番目のATGが翻訳開始部位である可能性が推定された。そこで、NZ4の上流にin frameのATGあるいはストップコドンが存在するかどうかを確認する目的で、ゲノムDNAライブラリーよりFcγBP遺伝子を単離し、部分塩基配列を決定した。
【0154】
(1)ゲノムDNAライブラリー
ライブラリーは市販のヒト白血球由来(ベクター、EMBL3 SP6/T7:CLONTECH社製)のものを用いた。
【0155】
(2)プローブ
スクリーニングに用いるプローブとして、cDNAクローンNZ4をBamHIでベクターより切り出したもの、および実施例7で用いた合成オリゴヌクレオチド(プライマー2:GCTCCAGCCCAGAGTATCCACCAGCTCCATAGG、33mer)をそれぞれα[32P]dCTP、γ[32P]ATPでランダムプライミングによる標識(NZ4)、あるいは末端標識(プライマー2)したものを用いた。
【0156】
(3)スクリーニング
プローブNZ4によるスクリーニングは実施例3で述べたcDNAライブラリーのスクリーニングの方法に準じて行った。合成オリゴヌクレオチドプローブを用いたスクリーニングでは、ハイブリダイゼーション溶液のホルムアミド濃度を20%とし、また洗浄は0.3×SSC/0.1% SDSを含む溶液中で45℃、30分間の洗浄操作を5回繰り返して行った。
【0157】
各プローブに対し、およそ100万のライブラリーについてスクリーニングを行い、その結果NZ4プローブについて2つの、また合成オリゴヌクレオチドプローブについて1つの陽性プラークが得られ、それぞれすべてのプラークが陽性となるまで繰り返してスクリーニングを行った。
【0158】
(4)λDNAの抽出
各陽性クローンは、宿主大腸菌LE392を用い、実施例2で述べた方法に準じて増殖させ、DNAを抽出した。
【0159】
(5)部分マッピングとシークエンス
(4)で得た各々のλDNA(GHFc−1,2,3)を制限酵素(ApaI、BamHI、EcoRI、HindIII、KpnI、NcoI、PstI、SacI、ScaI、SmaI、SpeI、SphI、StuI、XbaI、XhoI)で完全消化し、1%アガロースゲル電気泳動後、サザンブロッティングを行った。ナイロンメンブレンへのトランスファーはゲルを0.25N HClに30分間浸し、続いて変性緩衝液(0.4N NaOH/1.5M NaCl)中で15分間×2回室温にて振とう放置し、さらに中和緩衝液(1M NH4OAc/0.02N NaOH)中で15分間×2回室温にて振とう放置した。その後、ゲル1枚につきメンブレン2枚へ同時にトランスファー(bidirectional transfer)した。2枚のメンブレンは各々NZ4プローブおよび合成オリゴヌクレオチドプローブにてハイブリダイゼーションを行った。
【0160】
GHFc−1,2(ApaI、EcoRI、SacI、XhoI)およびGHFc−3(BamHI、EcoRI、XbaI)の各陽性フラグメントをpBluescriptベクター(TOYOBO社製)にサブクローニングし、一部シークエンス反応を行った。シークエンス反応は実施例6の方法に準じて行った。
【0161】
(6)結果
クローンGHFc−1,2,3とも部分的なマッピングとシークエンシングの結果、インサートサイズがおよそ15kb(GHFc−1,2)、13kb(GHFc−3)のそれぞれ独立したクローンであり、GHFc−1と2は一部重複していた。また、FcγBP cDNAの63、64番目に相当する塩基間および1311、1312番目に相当する塩基間にGT/AG則に一致したイントロン(図10参照)が存在しており、また1311番目までのエキソン部分の塩基配列はcDNAのものと完全に一致していた(図11参照)。さらに、cDNAクローンNZ4の5’上流はGHFc−3に含まれていたが、実施例7において記載した推定上の翻訳開始ATGより87塩基、すなわちNZ4(配列番号1)の5’端より79塩基上流にin frameでのストップコドン(TGA)が存在し、その間に他のin frameでのATGは認められなかった。したがって、これらの結果はクローンNZ4に存在する9塩基目からのATGがFcγBP遺伝子の翻訳開始ATGである可能性を強く支持する。
【0162】
実施例18:ヒトFcγBPの構造とIgGFc結合活性機能との相関関係
これまでに得られたFcγBPのcDNAの全塩基配列より推定されたアミノ酸配列をもつタンパク構造は、約400アミノ酸残基より成るユニットのくり返しが合計12回存在し(R1−R12部)、その前後に約450アミノ酸(H部)と約200アミノ酸(T部)のユニークな配列を有するものであった。図12に示すように、R部のくり返しユニットの内、R3,R6,R9は相互に95%以上の相同性を有し、同様にR4,R7,R10の3者、R5,R8,R11の3者もまた95%以上の相同性があった。一方、R1からR5の各ユニットは相互に約40%程度の相同性があった。そこで、これらの蛋白質ドメインの機能を検討するために、cDNA中にいくつかの欠損部位を持たせた変異クローンを分離し、それらをCOS細胞に発現させ、IgG結合活性などの機能を検討した。
【0163】
Fc結合活性の測定のため、動物細胞に発現させた部分cDNAプラスミドpNV11は図12に示したように、H,R1,R2,R3,R4,R5及びR6の一部の各ユニットで構成されるが、これらのうちどこにFc結合活性が存在するのかを確かめるために、以下の実験を行った。即ち、制限酵素による切断・再結合または、連結するクローンの組合せによりNV11の一部をアミノ酸に対するフレームが合う様に欠除したcDNA断片を、発現ベクターSRαに挿入後、大腸菌XL1−Bを形質転換した。表1に示したように、NV11より一部を削除した後の配列をDNAの塩基番号で示した。尚、NV11のcDNA部分のうち、タンパク質への翻訳の始まる最初の塩基を1番とし、最後の塩基を7776番とする。
【0164】
各cDNA断片を含む発現ベクターを大腸菌より精製した後、実施例11と同様の方法で、COS7細胞に一過性に発現させた後、ヒトIgG Fc部による染色、及びFcγBP特異的モノクローナル抗体K9,K17による染色を行った。
【0165】
更に、IgG Fcの結合に対するモノクローナル抗体の阻害を調べるために、次の染色を行った。cDNAを一過性に発現させたCOS7細胞をエタノールで固定した。熱変性したヒトIgGを1μg/mlとなるように、阻害抗体K9とK17の1つあるいは両方、または抗FcγRIII(コントロール抗体)を含むハイブリドーマ培養上清にてそれぞれ希釈し、固定細胞とインキュベートした。室温で1時間放置後、PBS(−)にて洗浄し、HRPを結合した抗ヒトIgG(H+L)抗体F(ab’)2フラグメントと同様にインキュベートし、変性ヒトIgGの結合を検出した。
【0166】
以下に結果を示す。まず、遺伝子発現産物がIgG Fc結合活性を有するかを検討するために、ヒトIgGを一次抗体とし、二次抗体としてHRP標識抗ヒトIgG抗体を用いた。IgGの結合活性を示すのは、H部の全配列及び、それに加え、少なくとも1つ以上のR部の全領域を含有するクローン(NV11,NX,NZCY,△BssH,△Tth,△Sp1,△BssH/Tth,NX△BssH,NZCV11)であった。また、IgGの結合活性を示す染色性の強度は、R部の含有数が増加するにつれて強度も増加する傾向にあった。しかし、H部の全部または一部を削除したクローン(△Hinc,△Hinc/BssH,V11,X1)及び、R部の一部しかもたないクローン(NZC)ではIgGの結合活性は示さなかった。
【0167】
一方、モノクローナル抗体での遺伝子産物の染色性については、R5配列の全部又は一部をもつクローン(NV11,△Hinc,△BssH,△Tth,△Sp1,△BssH/Tth,△Hinc/BssH,NZCV11,V11)ではモノクローナ ル抗体K9の染色が認められ、また、R3またはR6の全部または一部をもつクローン(NZCYとNZCを除く全てのクローン)ではモノクローナル抗体K17の染色が認められた。これらの結果により、H部を欠くクローン(△Hinc/BssH,V11,X1)ではFcγBP特異的抗体で反応する蛋白質が発現産生されているにもかかわらず、IgG結合活性は得られず、H部はR部産物にIgG活性を与えるに必須な機能を有していることが示唆された。また、クローンNZCがIgG活性およびK9/K17染色に対して陰性であることから、R部(R1〜R5)はIgGの結合部位に対応することも示唆された。
【0168】
続いて、モノクローナル抗体K9,K17によるIgG結合の阻害結果を示す。各クローンに対する阻害効果は表1にまとめて示したが、
▲1▼ R3とR5に加えて、他の1つ以上のR領域を含むクローン(NV11,△Tth,NZCV11)では、K9またはK17によりある程度のIgG結合の阻害が認められ、両者を加えたときより強く阻害されたが、完全には阻害されなかった。
▲2▼ R3に加えて他の1つ以上のR領域を含むクローン(NX)では、K17によりある程度のIgG結合の阻害が認められたが、完全には阻害されなかった。また、K9によっては全く阻害されなかった。
▲3▼ R3領域のみを含むクローン(NX△BssH)では、K17により結合が完全に阻害されたが、K9は影響しなかった。
▲4▼ R5領域のみを含むクローン(△BssH/Tth)ではK9により結合が完全に阻害されたがK17は影響しなかった。
▲5▼ R3及びR5領域を両方とも含まないクローン(NZCY)では、K9,K17ともIgGの結合を全く阻害しなかった。
▲6▼ 全てのクローンにおいて、コントロール抗体の抗FcγRIII抗体によるIgG結合の阻害はみられなかった。
【0169】
以上の事より、IgG Fcの結合部位は、R3領域及びR5領域を含めてR1〜R5領域に存在し、それぞれのR領域が独立でIgGを結合する事が可能である事が推定された。また、NV11等R領域を複数含むcDNAクローンでは複数のIgGを結合する可能性をもつ事が示された。これらの事実は、アミノ酸配列の相同性から、R1〜R12がいずれもIgG結合部位を持ち得ることを推定させる。
【0170】
【表1】
【0171】
実施例19:FcγBPゲノム遺伝子の部分解析(転写開始部位の確定)
実施例7でのプライマーエクステンションの結果より、現在最も5’側に存在するクローンNZ4の上流およそ20塩基内に転写開始部位が存在し、NZ4内に存在する9番目のATGが翻訳開始部位である可能性が推定されたが、そのNZ4の上流にin frameのATGあるいはストップコドンが存在するかどうかを確認する目的でゲノムDNAライブラリーよりFcγBP遺伝子を単離し、部分塩基配列を決定した。
【0172】
また、S1マッピングを行い、より正確な転写開始部位の決定を行った。
(1)ゲノムDNAライブラリー
ライブラリーは市販のヒト白血球由来(ベクター、EMBL3 SP6/T7:CLONTECH社)のものを用いた。
(2)プローブ
スクリーニングに用いるプローブとしてcDNAクローンNZ4をBamHIでベクターより切り出したもの、および実施例7で用いた合成オリゴヌクレオチド(プライマー2:GCTCCAGCCCAGAGTATCCACCAGCTCCATAGG,33mer)をそれぞれα[32P]dCTP、γ[32P]ATPでランダムプライミングによる標識(NZ4)、あるいは末端標識(オリゴヌクレオチド)したものを用いた。
(3)スクリーニング
プローブNZ4によるスクリーニングは実施例4で述べたcDNAライブラリーのスクリーニングの方法に準じて行った。合成オリゴヌクレオチドプローブを用いたスクリーニングでは、ハイブリダイゼイション溶液のホルムアミド濃度を20%とし、またWashingは0.3xSSC/0.1%SDSを含む溶液中で45℃,30分間の洗浄操作を5回繰り返して行った。
各プローブに対し、およそ100万のライブラリーについてスクリーニングを行い、その結果NZ4プローブについて2つの、また合成オリゴヌクレオチドプローブについて1つの陽性プラークが得られ、それぞれすべてのプラークが陽性となるまで繰り返しスクリーニングを行った。
(4)λDNAの抽出
各陽性クローンは、宿主大腸菌LE392を用い、実施例2で述べた方法に準じて増殖させ、DNAを抽出した。
(5)部分マッピングとシークエンス
4で得た各々のλDNA(GHFc−1,2,3)を制限酵素(ApaI,BamHI,EcoRI,HindIII,KpnI,NcoI,PstI,SacI,ScaI,SmaI,SpeI,SphI,StuI,XbaI,XhoI)で完全消化し、1%アガロースゲル電気泳動後、サザンブロッティングを行った。ナイロンメンブレンへのトランスファーはゲルを0.25N HCl,0.4N NaOH/1.5M NaCl,1M NH4Ac/0.02N NaOHでそれぞれ15分、2回処理した後、ゲル1枚につきメンブレン2枚へ同時にトランスファー(bidirectional transfer)した。2枚のメンブレンは各々NZ4プローブおよび合成オリゴヌクレオチドプローブにてハイブリダイゼーションを行った。
GHFc−1,2(ApaI EcoRI,SacI,XhoI)およびGHFc−3(BamHI,EcoRI,XhoI)の各陽性フラグメントをpBluescriptベクター(TOYOBO社)にサブクローニングし、一部シークエンス反応を行った。シークエンス反応は実施例6での方法に準じて行った。
(6)S1マッピング
S1プローブ作製用テンペレートとして、クローンGHFc−3のEcoRI/SacI断片(cDNAクローンNZ4の上流約2kbに相当)をpBluescriptSK+にサブクローニングした後、ヘルパーファージVCSM13により調製したssDNAを用いた。このテンペレートにプライマーエクステンションで用いたラベルされたプライマー2をアニールし、BcaBESTポリメラーゼ(TAKARA)により65℃、10分間合成を行った。これをBamHI消化し、熱変性後8M尿素を含む7.5%ポリアクリルアミドゲルにて分離し目的とするバンドを切り出した。切り出したゲルはG緩衝液(1M NH4OAc/20mM Mg(OAc)2/0.1M EDTA/0.2% SDS/10ug/ml yeast tRNA)中、37℃で一晩インキュベートしてプローブを溶出した。このS1プローブ(1x105cpm)をヒト大腸上皮由来全RNA(40μg)とpolyA+RNA(1.5μg)を混合し、エタノール沈澱後それぞれ20μlのS1ハイブリダイゼーション液(80%ホルムアミド/40mM PIPES/400mM NaCl/1mM EDTA)に溶解した。これを80℃で10分処理した後、42℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。これに200μlのS1溶液(30mM NaOAc(pH4.6)/280mM NaCl/1mM ZnSO4/1mg/ml ssDNA/150unit S1ヌクレアーゼ)を加え37℃40分間消化した。これを6%のシークエンスゲルにて泳動しゲルは固定、乾燥後、オートラジオグラフィーを行った。
【0173】
結果と考察
クローンGHFc−1,2.3とも部分的なマッピングとシークエンシングの結果、インサートサイズがおよそ15kbp(GHFc1,2),13Kbp(GHFc3)のそれぞれ独立したクローンでありGHFclと2は一部overlapしていた。また、FcγBPcDNAの63、64番目に相当する塩基間および1311,1312番目に相当する塩基間にGT/AG則に一致したイントロンが存在しており1311番目までのエキソン部分の塩基配列はcDNAのものと完全に一致していた(図10,11参照)。さらに、cDNAクローンNZ4の5’上流はGHFc3に含まれており、推定上の翻訳開始ATGより87base,NZ4 の5’端より79base上流にin frameでのストップコドン(TGA)が存在し、その間に他のin frameでのATGは認められなかった。従って、これらの結果はクローンNZ4に存在する9番目のATGがFcγBP遺伝子の翻訳開始ATGである可能性を強く支持するものである。また、NZ4の5’上流およそ2kbp内にTATA/CCAT等の典型的なプロモーターモチーフは含まれていなかった。さらに、S1マッピングの結果から、このATGより8,9,10塩基上流に相当する長さのバンドが見られ、その内−10のA残基でもっともそのシグナルが強いことから、このA残基より転写が開始するものと考えられた。
【0174】
実施例20:FcγBP遺伝子多型の解析
FcγBP cDNAのシークエンスの結果、コーディング領域内の特定部位に遺伝子多型の存在が示唆された。すなわちFcγBP cDNAの5120,8723,12326番目に存在するSmaI部位についてクローンA52の同領域ではCCCGGGからCCTGGGへの塩基の置換が認められた。cDNAクローニングに用いたライブラリーは単一個体由来ではなく数人の遺伝子をその由来とするために、この塩基置換が個体間で認められるものかあるいは同一個体において半数体ゲノムあたり存在する主要な3回の繰り返し領域間に認められるものかどうかを確認するために以下の実験を行った。
【0175】
Forward側プライマーとして
BC1:ACCACTCCTTCGATGGCC,
GS1:ACCTGTAACTATGTGCTGGC,の2種、
Reverse側プライマーとして
GS2:TGGTGGTGACGGTGAAGGG,
GS3:ACAGCAGGGTTGCCCCGG,
GS4:TGGTGCCGAGGGCAGCCACG,
BC2:TGGGTCACTGAAATCCG,の4種を合成した。
また6名の健常人白血球並びに4名の担癌患者大腸の正常部位より上皮細胞を分離後、Nelson等の方法によりDNAを抽出した。各DNA20ngにプライマーセットBC1/BC2,BC1/GS3,BC1/GS4,GS1/GS3,GS1/GS4を終濃度20pmoleで加え、PCR緩衝液(10mMTris HCl pH8.3,50mM KCl,1.5mM MgCl2,200μM dNTPs,0.001% gelatin,2.5unit taqポリメラーゼ)中、(94℃ 1min−60℃ 1.5min−72℃2.5min x 30サイクル)の条件でPCRを行った。PCR産物はSmaI消化後2%アガロースゲルにて泳動し、EtBrにて染色を行った。
【0176】
以上の結果、各プライマーセットに対するPCR産物をSmaI処理することによりプライマーBC1/BC2を除いた各セットで遺伝子多型が存在することが明かとなった。
【0177】
すなわち、10種のDNA標品の内、1つはSmaIにて完全消化されることからこのサンプルは少なくとも対立遺伝子を含めた6カ所の繰り返し部位すべてにSmaI部位が存在し、他のサンプルではSmaIでの消化、未消化産物の割合が各種の頻度で観察された。逆に、これら10サンプルの内SmaIサイトをも全くもたないものは存在しなかった。また、HT−29N2細胞において同じプライマーセットを用いてRT−PCRした後、SmaIにて消化したところ、全てそのサイトを含んでいた。
【0178】
また、プライマーBC1/BC2で多型が認められなかった理由としてPCR産物の鎖長が約1.8kbpあることからプライマーGS4とプライマーBC2の間におよそ1.6kbpのイントロンが存在し、このイントロンの5’側にSmaI部位が存在することが示唆された。この部位と多型を示す目的のSmaI部位間の長さが非常に短く、BC1/BC2での増幅産物とそのSmaI消化産物との鎖長差が僅かであるために多型が検出されなかったものと推定された。
【0179】
実施例21:誘導型高発現CHO細胞株の分離とFcγBPの検出
実施例11で示したFcγBPフラグメントを多量に、安定して発現する細胞株を樹立する目的で、動物細胞用発現ベクター、pMSXNDを用いてFcγBP部分cDNA、NV11STを発現させた。pMSXNDベクターは蛋白発現の誘導がナトリウムブチレートなどにより可能なメタロチオネインプロモーターを発現プロモーターとして有し、染色体DNAに組み込まれた後に遺伝子増幅を可能にするdhfr遺伝子をもつ様構築されている。
【0180】
(1) pMSXNDベクターの改変
まず、pMSXNDの cDNAクローニング部位であるXhoIにてプラスミドを完全消化した後、0.4単位のKlenow Fragmentにて15分間処理し、末端平滑化した。
次に、NotIリンカー(5’−pGCGGCCGC−3’)をベクターにライゲーションした後NotIで完全消化し、自己連結させてからコンピテントE.Col XL1−Bを形質転換した。得られたクローンを解析し、pMSXNDのXhoI部位にNotIリンカーが挿入されたプラスミドpMSXND−NOTを得た。
【0181】
(2) cDNAの挿入
pMSXND−NOTをNotIで完全消化した後、アルカリフォスファターゼ処理により脱リン酸化を行った。次に、実施例6−(6)で作製したFcγBPcDNAを組み込んだプラスミドであるpNV11−STをNotIで完全消化し、アガロースゲル電気泳動にて8kbpのcDNA部分を分離、回収した。これらの発現ベクターとcDNA挿入部分をライゲーションし、コンピテントE.col(XL1−B)を形質転換した。アンピシリンを含むLBプレート上で培養し生じたコロニーのうち、メタロチオネインプロモーターに対しセンスの方向でcDNAが挿入されたプラスミドを選択し、pNV11−MSXを得た。
【0182】
(3) CHO細胞でのIgG FcBP部分cDNAの発現
実施例11と同様の方法にてpNV11−MSXプラスミドを含む大腸菌を培養し、増幅したプラスミドを精製した。このプラスミド10μgを250μlのF−12培地(ヌクレオチド添加)に溶解したものと、10μlのリポフェクション試薬(Transfectum,SEPRACOR社)を250μlに溶解したものを混合し、直ちにCHO細胞(dhfr欠損株)上に加えた。37℃で6時間培養後、10%血清を含むF−12培地で置換し3日間培養した。次に、培地を1mg/mlのG418、10%牛胎児血清を含むα−MEM培地(ヌクレオチド不含、GIBCO社製)に置換し、3日毎に培地交換しながら14日間培養し、プラスミドの挿入された細胞を選択した。このようにして数十個のコロニーを形成したディッシュより、限界希釈法にて細胞をクローニングした。得られた細胞クローンのうちFc結合活性の高い蛋白発現を示すものを選択し、より多くの発現量を得るために次に遺伝子増幅を行った。
【0183】
(4) 遺伝子増幅
pNV11−MSXがCHO細胞の染色体に組み込まれ、安定にFcγBPフラグメントを発現する細胞クローンの蛋白質産生量を増加させるために、メトトレキセート処理によって組み込み遺伝子の増幅を行った。
即ち、前記の安定発現細胞クローンを、0.005μMのメトトレキセート、500μg/mlのG418含むα−MEM培地(ヌクレオチド不含)にて3−4週間培養し、生育する細胞を選択した。次に、メトトレキセート濃度を4倍(0.02μM)に増加し、同様の方法で3−4週間培養した。メトトレキセート濃度を4倍に増加させ培養する操作をくり返し、最終的に6.4μM〜25μMのメトトレキセート存在下で増殖する細胞を得た。この細胞を限界希釈法にてクローニングを行い、FcγBPフラグメントを高発現する細胞株を得た。発現量の増加は、実施例11および12におけると同様に、K9/K17モノクローナル抗体による組織化学的染色またはIgG結合能の検出法による第一次的判定によった。
【0184】
(5) 細胞試料の作製
FcγBPフラグメントを安定的に高発現するCHO細胞株5×105細胞をφ100mmディッシュに移し、6.4μMメトトレキセート、1mg/ml G418を加えたα−MEM培地にて培養した。必要に応じて終濃度5mMとなるようナトリウムブチレートを添加し、蛋白質の発現誘導を行った。3日後に、培養上清(SUP1)を採取し、さらにSUP1から細胞片を除くため100,000xg,60分間遠心後、上清(SUP2)を回収した。細胞は、500μlの細胞溶解緩衝液(50mM Tris−HCl(pH7.5),150mMNaCl,1mM EDTA,1mM PMSF,10mM monoiodo acetamide,10μg/ml approtinine,10μg/ml leupeptin)に懸濁後、超音波処理(30秒×3回)を行い、10,000xg,10分間4℃の遠心を行った。遠心後の上清(LYS1)を除き、残渣に、1%NP−40を含む細胞溶解緩衝液400μlを加え、超音波処理後、遠心し上清を回収した(LYS2)。更にこの残渣に1%NP−40,0.1%SDS,0.5%デオキシコール酸ナトリウムを含む細胞溶解緩衝液200μlに溶解後、遠心し上清を回収した(LYS3)。残渣は100μlの細胞溶解緩衝液に懸濁した(LYS4)。また、コントロールとして大腸上皮細胞の溶解液(1/100〜1/3200希釈)を用いた。
【0185】
(6) サンドイッチELISA
産生されたFcγBPフラグメントを定量的に検出するために、FcγBPに対する特異的モノクローナル抗体K9およびK17を用いたサンドイッチELISA系の開発を行った。アフィニティー精製したK9抗体を5μg/mlとなるよう0.5M炭酸緩衝液(pH9.2)にて調製し、50μl/ウェルでELISAプレート(PRO−BIND,ファルコン社製)に加えた後、4℃で一晩放置した。ウェルを洗浄溶液(0.05%Tween−20を含むPBS(−))で3回洗浄した後、ブロッキング溶液(10%血清を含むRPMI1640培地)を50μl/ウェル加え、温室で60分間放置した。
【0186】
ブロッキング溶液を除き、(5)にて調製した試料を各々50μl加え、室温2時間放置した。洗浄溶液にて3回洗浄し、ブロッキング溶液にて4mg/mlに希釈したHRP結合K17抗体を50μl加え、室温1時間放置した。洗浄溶液にて3回洗浄後、50μlの発色液(20mg O−phenylenediamine,80μl H2O2(30%)を50mlのクエン酸緩衝液に溶解)を加え、室温で3分間発色させた。50μlの2.5M H2SO4溶液を加え反応を停止してから492nmの吸光度を測定した。
【0187】
〔結果〕
(i)得られた代表的なFcγBP発現CHO細胞株について
メトトレキセート存在下で培養後、ナトリウムブチレート処理後および未処理後3日目におけるFcγBPフラグメントの発現量をK9/K17モノフローナル抗体による細胞染色法により検出した。図13に示すように、高発現株が分離できた。
(ii)ELISAによるFcγBPフラグメントの定量結果
FcγBPフラグメントの安定高発現株から調製された各試料をサンドイッチELISA法にて測定した結果、次の表2の吸光度が示す様に、FcγBPフラグメントは細胞溶解液中(LYS1〜4)に比べて、培養上清中(SUP1,2)により多く検出された。この事実は発現させたFcγBPフラグメントは細胞内に蓄積するのではなく細胞外に分泌されることを示している。
【0188】
【表2】
【0189】
【発明の効果】
本発明により、IgGFc部結合活性を示すタンパク質を大量かつ均一に生産することが可能となった。したがって、本発明によって得られるIgGFc部結合活性を示すタンパク質を、感染防御剤および潰瘍性大腸炎やクローン病などの自己免疫疾患に対する抗(消)炎症剤や診断薬などの医薬用途に利用する可能性を有している。
【0190】
【配列表】
【0191】
【配列番号1】
【0192】
【配列番号2】
【0193】
【配列番号3】
【0194】
【配列番号4】
【0195】
【配列番号5】
【0196】
【配列番号6】
【0197】
【配列番号7】
【図面の簡単な説明】
【図1】プローブQを用いて行ったFcγBP mRNAのハイブリダイゼーションの結果を示す図(電気泳動の写真)である。
【図2】FcγBPの発現に用いた部分cDNA(約7.8kbp)、ならびにクローンNZ4、C72、Y1、X1およびV11の相互の関係を示す。
【図3】ベクターpNV11−SRを用いて形質転換したCOS7細胞の発現するタンパク質を確認する図(生物の形態を示す写真)である。一次抗体として、AはK9モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ培養上清、BはK17モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ培養上清を用いた。Cは一次抗体を加えない対照。いずれのものにも二次抗体としてHRP結合ヤギ抗マウスIgG(H+L)F(ab’)2フラグメントを加えた。
【図4】ベクターpNV11−SRを用いて形質転換したCOS7細胞の発現するタンパク質のヒトIgG結合能を示す図(生物の形態を示す写真)である。いずれのものにも一次抗体としてHRP結合ヒトIgGを用いた。拮抗剤として用いた二次抗体は以下の通り;A:加えず(対照)、B:クロマトグラフィー精製ヒトIgG画分、C:クロマトグラフィー精製ヒトIgG Fc画分。
【図5】ベクターpNV11−SRを用いて形質転換したCOS7細胞の発現するタンパク質のヒトIgG結合能を示す図(生物の形態を示す写真)である。いずれのものにも一次抗体としてHRP結合ヒトIgGを用いた。拮抗剤として用いた二次抗体は以下の通り;D:クロマトグラフィー精製ヒトIgG F(ab’)2画分、E:クロマトグラフィー精製ヒトIgM画分、F:クロマトグラフィー精製ヒト血清IgA、G:クロマトグラフィー精製ヒト分泌型IgA。
【図6】FcγBP mRNAのヒト組織での発現の特異性を示すノーザンブロットの図(電気泳動の写真)である。
【図7】プローブQ、AおよびYを用いて実施した大腸粘膜上皮細胞中のFcγBPmRNAのノーザンブロット解析を示す図(電気泳動の写真)である。
【図8】FcγBPの全長cDNAの構造を示す図である。
【図9】プラスミドpiF−A53およびpiF−A8を用いて形質転換したCOS7細胞とモノクローナル抗体K9/K17混液との結合能を示す図(生物の形態を示す写真)である。A:piF−A53、B:piF−A8。
【図10】FcγBPのエキソン/イントロン境界領域の塩基配列の比較を示す図である。大文字(ボックス)はエキソン、小文字はイントロンを示す。また下線部は高度に保存された配列を示す。R:プリン、y:ピリミジン。
【図11】FcγBPゲノムDNAの5’側翻訳開始部位近傍の塩基配列を示す図である。大文字はエキソン、小文字はイントロンを示す。下線で示した部分はcDNAと同一の部分を、またshadeされた太文字はin frameでのTGAストップコドンおよび翻訳開始部位と推定されるATGコドンを示す。なお、数字はcDNAクローンNZ4の5’末端を+1とし、エキソンの上にのみ番号を付けた。
【図12】ヒトFcγBPの構造と、本発明で用いた各クローンの対応する位置を示す。
【図13】FcγBPフラグメントを発現するCHO細胞を示す(生物の形態を示す写真)。(A)はメトトレキセート6.4μM、ナトリウムブチレート非処理;(B)はメトトレキセート6.4μM、5mM ナトリウムブチレート処理後を示す。
Claims (9)
- 以下のものから選ばれるDNA:
(1)配列表の配列番号6に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(2)配列表の配列番号6に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列からなり、かつIgGFc部結合活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(3)配列表の配列番号6に示す塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAと、0.2×SSC、0.2% SDSを含む溶液中で、65℃、40分間の洗浄条件下でハイブリダイズし、かつIgGFc部結合活性を有するタンパク質をコードするDNA。 - プラスミドpNV11−ST(生命研条寄第4625号:FERMBP−4625)中に挿入されている請求項1記載のDNA。
- 以下のものから選ばれるDNA:
(1)配列表の配列番号7に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするDNA、
(2)配列表の配列番号7に示すアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失もしくは付加したアミノ酸配列からなり、かつIgGFc部結合活性を有するタンパク質をコードするDNA、
(3)配列表の配列番号7に示す塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAと、0.2×SSC、0.2% SDSを含む溶液中で、65℃、40分間の洗浄条件下でハイブリダイズし、かつIgGFc部結合活性を有するタンパク質をコードするDNA。 - 請求項1または3記載のDNAを含有する組換えベクター。
- 請求項4記載の組換えベクターにより形質転換された原核または真核宿主細胞。
- 請求項5記載の宿主細胞を培養し、産生されたタンパク質を分離、精製することを特徴とする組換えタンパク質の製造方法。
- 組換えタンパク質がIgGFc部結合活性を示す請求項6記載の組換えタンパク質の製造方法。
- 請求項5記載の宿主細胞を培養して得られる培養物を細胞内または細胞外から分離、精製して得られる組換えIgGFc部結合活性を示すタンパク質。
- 配列表の配列番号6に示す塩基配列からなるDNAまたは600bp以上の大きさのそのDNA断片、あるいは配列表の配列番号7に示す塩基配列からなるDNAまたは600bp以上の大きさのそのDNA断片をプローブとして用いて、ノーザンブロット解析またはインサイチュハイブリダイゼーション法によってIgGFc部結合タンパク質のmRNAの合成組織を同定する方法。
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