JP3618036B2 - アルミナ質焼結体の製法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は強度および靭性に優れたアルミナ質焼結体に関して、特に耐摩部品、エンジン部品等に使用される構造材料あるいは高温構造材料の各用途に適したアルミナ質焼結体製法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、アルミナ質焼結体は耐高温性、耐環境性および強度に優れる点で構造部材の用途分野にて注目されてきた。
【0003】
ところで、このような焼結体に対して、さらに強度を向上させ、特に破壊靭性を改善するという技術開発がおこなわれている。たとえばアルミナにSiC、ZrO2 、La含有系β−Alを分散した複合材料の焼結体であれば、かかる分散をしないアルミナ質焼結体と比べ、強度および靭性を向上させることができた(特開昭61−122164号、特開昭63−139044号および特開昭63−134551号参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上述した複合材料系アルミナ質焼結体の場合には、次のような問題点があった。
すなわち、SiCを分散させた場合には高温酸化雰囲気で使用することで化学的安定性に劣り、また、ZrOを分散させると、900℃以上の温度で強度特性が急激に低下していた。他方、La系β−Alを分散させたアルミナ質焼結体においては強度と靭性が双方ともに高くなり、高温下での強度低下も小さいが、その反面、ヤング率が低いβ−Al相が20体積%以上含まれることで、硬度が低下したり、耐摩耗性が低くなるなどの問題点があった。
【0005】
したがって本発明の目的は化学的安定性を損ねることなく、室温および高温での強度を向上させるとともに、硬度も高めたアルミナ質焼結体製法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記事情に鑑みて鋭意研究に努めた結果、アルミナ質焼結体を成すAl結晶粒内にTiO 、Al TiO RETi(RE:希土類元素)から選ばれた1種類以上の化合物およびMgAlとの両者を、所定の平均粒径以下の微粒状体として、ある体積比率で分散含有させることで、強度や靭性、さらに硬度が改善されることを知見した。
【0008】
本発明のアルミナ質焼結体の製法は、Al原料にTi含有化合物およびMg含有化合物の各原料を、もしくはTi含有化合物、Mg含有化合物、RE含有化合物の各原料を添加混合し、次いで所望の形状に成形し、しかる後に下記3工程A〜Cを順次おこなう焼成を経て、理論密度比95%以上の焼結体を得るようにしたことを特徴とする。
【0009】
A工程:TiおよびMgとがAl結晶中に固溶されるように焼成する。B工程:Al結晶中のMg固溶量を減少させて、Al結晶粒内にMgAlが析出されるように加熱する。C工程:Al結晶中のTi固溶量を減少させて、Al結晶粒内にTiO 、Al TiO RETiから選ばれた1種類以上の化合物が析出されるように加熱する。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に本発明のアルミナ質焼結体の製法について詳述する。本発明のアルミナ質焼結体はAl結晶粒を主体とし、その結晶粒内にMgAlと、さらにTiO 、Al TiO RETi(RE:希土類元素)のうち1種類以上の化合物とを両者合計して0.5体積%以上、特に1〜5体積%の比率で析出させ、かかる析出による粒状体を平均粒径0.3μm以下、特に0.2μm以下にして分散含有させたことが特徴である。
【0011】
この粒状体(分散相)はAlと同様に酸化物からなるので、化学的安定であって、しかも、Al結晶粒の母相に対して、その内部に分散含有させることで、分散相と母相との間での結晶構造の物理的特性の差異、ならびに熱的特性上の差異に起因して、粒内分散相の周囲に微小な応力場が生じることになる。そして、かかる応力場が存在することで、外部応力作用下での転位移動やクラックの進展に対して抑制作用が働き、その結果、アルミナ質焼結体の強度や靭性を向上させる。
【0012】
上記粒状体(分散相)はMgAlと、TiO 、Al TiO RETiのうち1種類以上の化合物とを双方ともに析出させることで、いずれか一方だけの析出の場合とくらべ(たとえばMgAlのみの場合)、Al結晶粒内により多くの析出量となり、しかも、強度や靭性などが一段と改善される。また、Al結晶粒界に析出させた場合よりも、Al結晶粒自体の強度を高めることができ、焼結体の高強度化、高硬度化をはかることができる。
【0013】
また、上記粒状体の含有量は、焼結体の全量に対し0.5体積%以上、好適には1体積%以上であることがよく、これによって強度や靭性などが顕著に高められる。
【0014】
さらにまた、この粒状体(分散相)は平均粒径が0.3μm以下、好適には0.2μm以下になるように分散させるとよく、これにより、Al結晶粒内での母相との界面での相互作用が大きくなり、強度や靭性などが高められる。
【0015】
上記希土類元素であるREについては、スカンジウムSc、イットリウムY、ランタンLa、セリウムCe、プラセオジムPr、ネオジムNd、プロメチウムPm、サマリウムSm、ユーロピウムEu、ガドリニウムGd、テルビウムTb、ジスプロシウムDy、ホロミウムHo、エルビウムEr、ツリウムTm、イッテルビウムYb、ルテチウムLuの17元素がある。これらRE化合物は、後に析出したTiと反応し、高温安定性に優れた複合酸化物を形成し、これによって特性の改善に効果的である。
【0016】
かくして本発明のアルミナ質焼結体の製法によれば、上述のとおりAl2O3結晶粒内に分散相を0.5体積%以上の比率で、かつ平均粒径0.3μm以下の粒状体として分散含有させることで、強度や靭性などが向上した。
【0017】
また、かかる分散相をAl結晶粒の粒界に析出させてもよく、これによってAl結晶粒の粒成長を抑制し、これによって強度や靭性がさらに向上する。その場合には、Al結晶粒径を平均0.5〜10μmにするのが適当である。
【0018】
次に本発明のアルミナ質焼結体の製法を述べる。
先ず、出発原料としてAl粉末にTi含有化合物、Mg含有化合物、RE含有化合物を添加し、混合する。このような化合物には酸化物粉末、金属粉末、有機塩類、無機塩類およびその溶液のいずれでもよい。そのAl粉末は平均0.1〜1μmにするのが、後者の化合物は粉末して0.1〜2μmにするのが適当である。
【0019】
そして、上記混合物を従来周知の成形手段、たとえば金型プレス、冷間静水圧プレス、射出成形、押出し成形等により任意の形状に成形する。
【0020】
次に上記成形体を公知の焼結法、たとえばホットプレス法、常圧焼成法、ガス加圧焼成法、マイクロ波加熱焼成法などによって焼結し、あるいはこれらの焼結体に対し、さらに熱間静水圧処理(HIP)処理およびガラスシール後のHIP処理をほどこすなどして、理論密度比95%以上の緻密な焼結体を得る。
【0021】
本発明の製法によれば、上記焼結工程において、下記工程A〜工程Cを順次おこなうことが特徴である。A工程:TiおよびMgとがAl結晶中に固溶されるように焼成する。B工程:Al結晶中のMg固溶量を減少させて、MgAlが析出されるように加熱する。C工程:Al結晶中のTi固溶量を減少させて、TiO 、Al TiO RETiから選ばれた1種類以上の化合物が析出されるように加熱する。
【0022】
従来、分散相を含むアルミナ質焼結体の製法においては、焼結とともに分散相が生成するが、それが大きく成長して、しかも、ほとんどAl結晶粒界に生成する傾向にある。これに対して、本発明の製法においては、上述のとおり3段階に焼成・加熱してAl結晶粒内にサイズの小さい分散相が多量に析出させる。
【0023】
以下、各工程を述べる。
A工程
この工程において、TiとMgをAl結晶中に固溶させる。すなわち、通常、Mg原子はAl結晶粒中にほとんど溶解しないが、Ti原子とともに焼成することで、双方の原子が固溶される。TiとMgの両原子固溶量は、それぞれTiOおよびMgO換算で総量が3重量%以上の割合でアルミナ結晶の格子中に固溶できる。
【0024】
この工程は酸化雰囲気であればよく、その処理(焼成)温度については、高温になるほどにMgとTiの固溶量が増加する傾向にあり、これによってAlの結晶成長が促進されて、強度低下になるので、その温度を1700℃以下、好適には1600℃以下にするとよく、下限に含めて1300℃〜1700℃、好適には1350℃〜1600℃の範囲にするのがよい。
【0025】
B工程
この工程にて、Al結晶中のMg固溶量を減少させて、MgAlを析出させる。すなわち、A工程にてTiとMgをAl結晶中に固溶させた後に、還元性雰囲気で加熱すると、固溶体中のTiはTi+4からTi+3に還元され、これに伴ってAl結晶中での溶解度が増加して、たとえば4重量%程度にまで増すが、その反面、Al結晶中のMg溶解度が大きく低下し、MgAlとして析出される。
【0026】
この工程での加熱温度は高ければ、析出相が大きく粒成長して所要とおりの特性が得られず、逆に低すぎると、拡散速度が遅くなり、析出相が多量に得られない。そこで、加熱温度を900℃〜1600℃、好適には1100℃〜1500℃にするのがよい。
【0027】
C工程
この工程において、Al結晶中のTi固溶量を減少させて、TiO 、Al TiO RETiから選ばれた1種類以上の化合物を析出させる。すなわち、酸化雰囲気にて加熱すると、Al結晶中に固溶したTi+3はTi+4に酸化され、その溶解度が大幅に低下し、これによってAl結晶母体よりTiO 、Al TiO RETiの各種酸化物が析出される。
【0028】
この工程の加熱温度が高い場合には、前工程にて析出されたMgAlがAl結晶中に溶解されやすく、他方、低すぎると上記Tiの各種酸化物の析出速度が著しく遅くなる。したがって、900℃〜1700℃、好適には1100℃〜1600℃の範囲にするのがよい。
【0029】
かくして本発明のアルミナ質焼結体の製法によれば、上述したようなA工程〜C工程を順次おこなう焼成を経ることで、Al結晶粒内にTiO 、Al TiO RETiから選ばれた1種類以上の化合物およびMgAlとの両者を合計して0.5体積%以上の比率で、かつ平均粒径0.3μm以下の粒状体として分散含有され、その結果、強度や硬度などが顕著に向上した。
【0030】
【実施例】
平均粒径0.5μmのアルミナ(Al)粉末、平均粒径0.7μmの酸化チタン(TiO)粉末、平均粒径0.6μmの水酸化マグネシウム(Mg(OH))、場合によっては平均粒径1.0μmの酸化イットリウム(Y)、さらにSc、La、Er、Yb、Luを用いて、表1に示す組成比率で秤量混合し、混合粉末を得た。そして、この混合粉末を1トン/cmの圧力で金型成形し、続けて3トン/cmの圧力で静水圧処理を加え、成形体を作製した。その後に表1に示すように大気雰囲気でのA工程、水素雰囲気でのB工程、さらに大気雰囲気でのC工程から成る焼成条件でもって各種アルミナ質焼結体を作製した。
【0031】
【表1】
Figure 0003618036
【0032】
かくして得られた各試料に対して、X線回折測定をおこなって結晶相の同定をしたところ、Al結晶粒内に表2に示すような析出相が検出された。そこで、各試料を薄膜状態に加工して、透過型電子顕微鏡から析出相(粒状体)の面積を画像解析により求め、これを体積比率とした。これを表2に示す。
【0033】
【表2】
Figure 0003618036
【0034】
さらに各試料に対して、JISR1601に基づく4点曲げ強度(室温および1200℃)、焼結体鏡面のビッカース硬度および理論密度比を測定したところ、表2に示すような結果が得られた。
【0035】
表2の結果から明らかなとおり、本発明の各試料については、室温曲げ強度600MPa以上、1200℃高温強度380MPa以上、ビッカース硬度18.5GPa以上の優れた特性が得られた。しかるにAl単体である試料No.16、析出相の量が少ない試料No.17、析出相が実質上存在しない試料No.18、MgAlだけが析出された試料No.19、析出相のサイズが大きい試料No.20については、いずれも本発明の試料とくらべ、特性上劣化していた。
【0036】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明のアルミナ質焼結体の製法によれば、A工程:TiおよびMgとがAl結晶中に固溶されるように焼成する、B工程:Al結晶中のMg固溶量を減少させて、Al結晶粒内にMgAlが析出されるように加熱する、およびC工程:Al結晶中のTi固溶量を減少させて、Al結晶粒内にTiO 、Al TiO RETiから選ばれた1種類以上の化合物が析出されるように加熱する、という3工程の焼成をおこなうことで、Alの結晶粒内にRETiから選ばれた1種類以上の化合物およびMgAlとの両者を合計して0.5体積%以上の比率で、かつ平均粒径0.3μm以下の粒状体として分散含有されたことで、化学的安定性を損ねることなく、室温および高温での強度を向上させ、しかも、硬度も高められた優れた特性のアルミナ質焼結体を容易に得ることができた。

Claims (1)

  1. Al原料にTi含有化合物およびMg含有化合物の各原料を、もしくはTi含有化合物、Mg含有化合物およびRE含有化合物(RE:希土類元素)の各原料を添加混合し、次いで所望の形状に成形し、しかる後に下記3工程A〜Cを順次おこなう焼成を経て、理論密度比95%以上の焼結体を得るようにしたアルミナ質焼結体の製法。A工程:TiおよびMgとがAl結晶中に固溶されるように焼成する。B工程:Al結晶中のMg固溶量を減少させて、Al結晶粒内にMgAlが析出されるように加熱する。C工程:Al結晶中のTi固溶量を減少させて、Al結晶粒内にTiO 、Al TiO RETi(RE:希土類元素)から選ばれた1種類以上の化合物が析出されるように加熱する。
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