JP3617148B2 - 楽音合成装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、電子楽器の音源として用いて好適な楽音合成装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、自然楽器の発音メカニズムをシミュレートした電気的モデルを動作させ、これにより自然楽器の楽音を合成する装置が知られている。このうち、ギターなどの弦楽器による楽音を合成する楽音合成装置としては、弦の弾性特性ををシミュレートした非線形素子と弦の振動周期に相当する遅延回路とを閉ループ接続したものが知られている。そして、このループ回路を共振状態とし、ループを循環する信号が弦楽器の楽音を模した楽音信号として取り出されるようになっている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、かかる閉ループ回路は、弦の減衰振動をシミュレートするのが主目的のために、基本的には、遅延させた信号に遅延させる前の信号を加算する回路、すなわち積分回路である。このため、減衰時の振動については、確かに精度良くシミュレートすることができるが、撥弦直後のように弦の振動が急激に変化する部分については、積分により波形が鈍って損なわれる結果、この部分の特徴を抽出することができないという問題があった。
また、かかる閉ループ回路は、シミュレートする自然楽器に応じて個々に構成しなくてはならないので、多くの自然楽器をシミュレートする場合には対応しきれないという問題もあった。
【0004】
この発明は、上述した問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、撥弦直後のように、音色が急激に変化する部分の特徴を比較的構成により抽出することができるとともに、多様性に富む楽音合成装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決するために、請求項1に記載の発明にあっては、入力信号を遅延させる遅延手段と濾波するフィルタ手段とを有し、これらの出力信号を当該入力信号に加算して循環させる遅延循環手段と、前記入力信号および当該入力信号を遅延させた信号の差分を抽出する差分抽出手段と、前記遅延循環手段による循環信号と前記差分抽出手段による差分信号とを任意にミキシングする混合手段とを具備することを特徴としている。
【0006】
請求項2に記載の発明にあっては、入力信号を遅延させる遅延手段と濾波するフィルタ手段とを有し、これらの出力信号を当該入力信号に加算して循環させる第1の遅延循環手段と、前記第1の遅延循環手段による循環信号を遅延させる遅延手段と濾波するフィルタ手段とを有し、これらの出力信号を、前記第1の遅延循環手段による循環信号に加減算して循環させ、その特性が前記第1の遅延循環手段の特性からその逆特性まで変化する第2の遅延循環手段と、前記第1および第2の遅延循環手段による循環信号を任意にミキシングする混合手段とを具備することを特徴としている。
【0007】
請求項3に記載の発明にあっては、請求項2に記載の発明において、前記入力信号の立ち上がり時に、前記第1の遅延循環手段の循環信号のレベルが小さいほど、レベルが大きく、時間経過とともにレベルがゼロに近づく第1信号を生成し、当該第1信号を前記第1の遅延循環手段の循環信号に重畳させる、または、前記入力信号の立ち上がり時に、前記第2の遅延循環手段の循環信号のレベルが小さいほど、レベルが大きく、時間経過とともにレベルがゼロに近づく第2信号を生成し、当該第2信号を、前記第2の遅延循環手段の循環信号に重畳させることを特徴としている。
【0008】
(作用)
請求項1に記載の発明によれば、差分抽出手段が入力信号の差分を抽出し、さらに、混合手段が差分信号と循環信号とを任意に混合するので、例えば差分信号の比率を高くすれば、入力信号の特徴を活かしつつも変化が激しい部分が強調される一方、循環信号の比率を高くすれば、楽音の減衰時が程良くシミュレートされる。このように、混合比率を適宜調整することにより、合成された音色が多様性に富むことになる。
【0009】
請求項2に記載の発明によれば、第2の遅延循環手段の特性は、遅延手段等の出力信号と当該入力信号との加減算を調整することにより、第1の遅延循環手段の特性からその逆特性まで変化する。そして、混合手段は、第1および第2の循環信号を任意に混合するので、例えば、両者の混合比率を同じとし、第2の遅延循環手段の特性を第1の遅延循環手段とは逆特性に設定すれば、アタック時と減衰時との双方の特徴を抽出した楽音合成を行なうことが可能となる。また、第1の遅延循環手段の循環信号を、第2の遅延循環手段の入力信号としたので、例えば、第2の遅延循環手段の特性を第1の遅延循環手段とは逆特性に設定すれば、結局、元の入力信号を再現することができる。
【0011】
請求項3に記載の発明によれば、第1信号が第1の遅延循環手段に、または、第2信号が第2の遅延循環手段に供給されると、遅延手段により遅延され、フィルタ手段により濾波されて循環する結果、発振が励起されることとなる。さらに、この励起信号の供給は、入力信号の立ち上がり後、時間経過とともに減衰するので、自然楽器で見られるようなアタック時のノイズ的性質を自然に再現することができ、また、新規な楽音を創る場合にも、楽音としての質を高めることも可能となる。
【0012】
【発明の実施の形態】
1:全体構成
以下、この発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、この実施形態に係る楽音合成装置の電気的構成を示すブロック図であり、図2は、この合成装置の信号やデータの流れを示すブロック図である。この実施形態は、何らかの入力音、例えば、実際の生楽器により発生させた楽音に、電気的な種々の変化(例えば、アタック部をより強調させるなどの効果)を与え、当該生楽器の楽音の特徴を生かしつつも、従来にない楽音を合成を可能にしようとするものである。
【0013】
図1において、符号10はCPUであり、バスを介して各部を制御するものである。なお、図示はしないが、バスには、CPU10の制御プログラム等を記憶するROMや、各種変数等を一時的に記憶するRAMも接続されている。
符号20は音色設定部であり、合成すべき音色を設定し、設定された音色を示す音色情報TCを出力する。また、符号30は、ペダルやホィールなどの演奏補助操作子であり、合成した楽音に変化を加える場合に操作され、その操作量に応じた操作量情報Pcontを出力する。これら音色情報TCおよび操作量情報Pcontは、いずれもバスを介してCPU10に供給されるようになっている。
【0014】
一方、STRING(1)〜(6)の各々は、実際の撥弦楽器、例えばギターにおける6つの各弦の振動を図示しないピックアップによりそれぞれ検出し変換した電気信号であり、A/D変換器40によりディジタルの楽音信号INPUTSIG(1)〜(6)に変換されてDSP(ディジタル信号処理プロセッサ)1およびDSP2に供給される。DSP1は、楽音信号INPUTSIG(1)〜(6)の各信号を解析・分析して、当該撥弦に関する種々の情報をCPU10に供給する。そして、CPU10は、これら情報や、音色情報TC、操作量情報Pcontから、パラメータ群PARST(1)〜(6)およびPAROBを生成しDSP2に供給する。DSP2は、各楽音信号INPUTSIG(1)〜(6)毎に遅延ループ回路を構築して、当該楽音信号を循環させた後、合成する音源合成回路であり、詳細については後述する。そして、DSP2の出力は、D/A変換器50によりアナログ信号に変換されて、図示しないアンプやスピーカ等から構成されるサウンドシステムにより外部に発音されるようになっている。
【0015】
ここで、DSP1における電気信号STRING(1)〜(6)の解析・分析により生成される各種情報について説明する。
・Pitch(n)
この情報は、各弦に対応してディジタルに変換された信号INPUTSIG(n)のピッチすなわち周波数、音楽的に言えば音高を示すものである。なお、nは1から6までの整数であり、(n)とは、説明の便宜上、STRING(1)〜(6)に対応するものを一般的に示す表記とする。また、このピッチ情報Pitch(n)は、音声分析等の分野で一般に用いられる公知の技術、例えば、周期測定法や自己相関関数法などの技術により生成されるものであり、後述する遅延ユニットにおいてピッチ(音高)に対応させて制御すべき各種係数、例えば、フィルタ特性や、ループゲイン、遅延時間などの設定をするのに用いられる。
・PickPos(n)
この情報は、各弦における撥弦の位置を示すものであり、遅延ユニットにおけるフィルタ特性や、非線形テーブルなどの特性などを変化させて、音色の制御をする際に用いられる。
・PickTouch(n)
この情報は、各弦における撥弦の強度を示すものであり、遅延ユニットにおけるループゲインなどの振幅や、さらに、音色の制御をする際にも用いられる。
・PickOn(n)
この情報は、各弦における撥弦タイミングを示す情報であり、後述する相関ユニットにおいてアタックの制御等に用いられる。
【0016】
次に、これら情報に基づいてCPU10において生成されるパラメータ群PARST(1)〜(6)およびPAROBの内容について説明する。
・PARST(n)
このパラメータ群は、楽音信号INPUTSIG(n)信号に対応して設けられる遅延ユニットに供給されるパラメータの集合体である。したがって、実際には、ゲインやフィルタ係数など複数種類があるが、詳細についてはさらに後述する。
・PAROB(n)
このパラメータ群は、音源合成回路として作用するDSP2の出力として、遅延ユニットの各出力を合算する出力ユニットに供給されるパラメータの集合体である。したがって、このパラメータ群も、実際には、ゲインやフィルタ係数など複数種類があるが、詳細についてはさらに後述する。
【0017】
1−1:DSP2(音源)で構築されるアルゴリズム
次に、DSP2において構築されるアルゴリズムの概略について図3を参照して説明する。この図に示すように、楽音信号INPUTSIG(1)〜(6)の各々が、それぞれ遅延ユニット110(1)〜110(6)に入力し、これらの出力信号が出力ユニット101により合成されてDSP2のL出力およびR出力としてD/A変換器50(図1参照)に供給される。ここで、遅延ユニット110(1)〜110(6)の各々には、それぞれパラメータ群PARST(1)〜(6)が、CPU10からそれぞれ供給されて各遅延ユニット110(1)〜110(6)の特性が制御されるようになっている。同様に、出力ユニット101にはパラメータ群PAROBがCPU10から供給されて、内部のゲイン等が制御されるようになっている。
【0018】
1−1−1:DSP2の出力ユニット
ここで、DSP2で構築される出力ユニット101の詳細構成について図4を参照して説明する。この図において、符号101ST(n)は、遅延ユニット110(n)に対応して設けられるミキシングユニットであり、後述する遅延ユニット110(n)の出力(1)〜(5)(図においては丸数字)の各々に、それぞれ乗算器M1(n)〜M5(n)により乗算係数OMix(1)〜(5)を乗算する。すなわち、遅延ユニット110(1)〜110(6)の各々には、それぞれミキシングユニット101ST(1)〜101ST(6)が対応して設けられ、さらに、各遅延ユニットの出力(1)〜(5)にそれぞれ乗算係数OMix(1)〜(5)が乗算される。
【0019】
そして、これらミキシングユニット101ST(1)〜101ST(6)の各乗算結果が、加算器101aにより加算され、ハイパスフィルタ101aにより、パラメータOHpFrqで定められるカットオフ周波数で濾波される。ハイパスフィルタ101aの出力には、歪付与器101cによりパラメータDISTOで定められる歪みが、パラメータDisGainで定められるゲインで付与され、さらに、この出力は、フィルタ101dにより、パラメータOutFlFrqで定められる周波数特性で、パラメータOutFlQiで定められるQ値で濾波される。そして、フィルタ101dの出力は、乗算器101eで乗算係数OutVが乗算された後、パンニング回路101fでステレオにおける左のL出力と右のR出力とに振り分けた後に、出力ユニット101の出力、すなわちDSP2の出力としてD/A変換器50(図1参照)に供給される。
【0020】
1−1−2:DSP2の遅延ユニット
次に、DSP2によりそれぞれ構築される遅延ユニット110(1)〜110(6)の詳細構成について、一般的な遅延ユニット110(n)を例にとって説明する。図5は、遅延ユニット110(n)の構成を示すブロック図である。この図に示すように、遅延ユニット110(n)は、入力ユニット200、差分回路300、分析ループ回路400、合成ループ回路500、および相関ユニット600に大別される。以下、これらについて構成毎に説明する。
【0021】
1−1−2−1:入力ユニット
まず、入力ユニット200について同図を参照して説明する。楽音信号INPUTSIG(n)は、そのまま遅延ユニット110(n)の出力(1)になるとともに、乗算器206により乗算係数WvFlVで乗算されて、加算器207の加算入力端の1つに供給される。
一方、符号201は、情報PickOn(n)によりノイズを発生するノイズジェネレータであり、このノイズは、ローパスフィルタ202およびバンドパスフィルタ203により所定のフィルタ処理が並列的に施され、次に、それぞれ乗算器204および205により乗算係数NzLpfVおよびNzBpfVで乗算されて、加算器207の加算入力端に供給される。
そして、加算器207の加算結果は、ハイパスフィルタ208によってフィルタ係数FIRにて定まる特性で直流成分がカットされ、そのまま遅延ユニット110(n)の出力(2)になるとともに、差分回路300および分析ループ回路400に供給される。ここで、直流成分をカットするのは、後段の分析ループ回路400あるいは合成ループ回路500で直流成分が累積するのを防止するためである。かかる構成により、出力(1)は、何ら処理を受けていない信号INPUTSIG(n)となり、また、出力(2)は、信号INPUTSIG(n)のアタック(立ち上がり時)にノイズを適度に付加した信号となる。
【0022】
1−1−2−2:差分回路
次に、差分回路300の構成について図5を参照して説明する。この差分ループ回路300は、入力ユニット200によりノイズが付加された信号INPUTSIG(n)の差分成分を抽出するものである。なお、差分成分は、後述する分析ループ回路400でも抽出可能であるが、かかる分析ループ回路400では、LPFやAPFにより入力波形が損なわれる傾向があるため、アタック時の差分成分が精度良く抽出できない。このため、差分成分のみを純粋に求める差分回路300が別途設けられているのである。
【0023】
符号310は遅延回路であり、その遅延時間は、パラメータDDLYの整数部分に対応している。詳細には、この遅延回路310は、データを順次書き込んでおき、パラメータDDLYの整数部が示す時間経過後、書き込んだデータを順次読み出すことによって当該データを所定時間だけ遅延させるメモリ、あるいは、パラメータDDLYの整数部分に対応して記憶したデータをシフトさせるシフトレジスタ等から構成される。次に、符号311は、パラメータDDLYの小数部分に対応した遅延を行なう遅延補間回路である。そして、減算器302により、入力ユニット200の出力信号から遅延補間回路311の出力信号が減算され、この減算結果が、すなわち差分が、遅延ユニット110(n)の出力(5)として、出力ユニット101(図3および図4参照)に供給される。
【0024】
ところで、この差分は、入力した楽音信号のピッチにしたがって求めるべきものであるため、パラメータDDLYは、入力たる信号INPUTSIG(n)のピッチに対応するようにピッチ情報Pitch(n)から計算されて求められる。このため、パラメータDDLYが示す遅延時間は、小数部分を伴うものとなる。遅延回路310は、その構造上、整数段での遅延しかできないので、小数部分の遅延を遅延補間回路311で行なうことによって、パラメータDDLYが示す遅延時間の遅延を正確に行なって、差分成分が精度良く抽出されるようになっている。
なお、遅延素子310および遅延補間回路311の詳細原理については、例えば、特開平2−281297号公報に開示されている。
【0025】
1−1−2−3:分析ループ回路
次に、分析ループ回路400の構成について図5および図6を参照して説明する。
まず、入力ユニット200の出力信号は、乗算器401により係数LoopIn1が乗算されて、加算器402の加算入力端(+)に供給される。そして、この減算結果は、加算器403の一方の入力端に供給され、さらに、この加算結果は、加算器404の一方の入力端に供給されて遅延回路410に入力される。
【0026】
遅延回路410は、入力データを当該パラメータADLYの整数部分に対応した時間だけ遅延させる遅延回路であり、符号411は、パラメータADLYの小数部分に対応した遅延を行なう遅延補間回路である。これらの遅延回路410および遅延補間回路411は、それぞれ遅延回路310および遅延補間回路311とほぼ同構成である。
【0027】
ところで、この分析ループ回路400における1巡当たりの総遅延時間は、入力した楽音信号のピッチにしたがうべきものであるが、ループには、遅延回路410および遅延補間回路411のみならず、遅延時間に影響を与えるLPFなど各種フィルタが介挿されるので、これらフィルタ特性や、これらフィルタへ信号を振り分ける乗算器の乗算係数によっても、ループ1巡あたりの遅延時間が変化する。このため、遅延回路410および遅延補間回路411の遅延時間を設定するパラメータADLYは、各フィルタ特性を設定するパラメータ等が定まった後、当該パラメータによるフィルタ特性の遅延時間も考慮しつつ、ループ1巡当たりの全体の遅延時間が入力信号のピッチに対応したものとなるように設定される。が、この分析ループ回路400は、差分(微分)から合成(積分)までの特性が変化することを主目的とし、後述する合成ループ回路500のように積分成分を抽出するものではないので、それほど厳密に設定する必要はない。
【0028】
さて、遅延補間回路410の出力結果は、LPF421および乗算器423に供給される。LPF421のフィルタ特性は、パラメータLoopLPF1により設定されるもので、このパラメータは、音色設定部20(図1参照)により設定された音色情報TCによって決定される。これは、信号波形を、LPF421により音色に応じて変化させ、新たな周波数成分を付加するためである。
そして、加算器424は、LPF421の出力を乗算器422により係数(1−LpfRof1)だけ乗算した乗算結果と、遅延補間回路411の出力結果を乗算器423により係数LpfRof1だけ乗算した乗算結果とを加算する。これにより、加算器424の加算結果は、LPF421を介した信号と介さない信号とを係数LpfRof1によって重みづけしたものとなる。
かかる加算器424の加算結果はAPF412に供給される。このAPF412は、図5および図6では1段であるが実際には複数段が縦続接続されており、パラメータAPhase1によりそのフィルタ特性が設定される。これにより、入力信号の位相がズレて、周波数特性に応じた遅延量が設定され、倍音関係の特徴が際立つようになっている。
【0029】
次に、APF412の出力信号は、それぞれ乗算器431および432に供給され、乗算器431では、係数FdG1が乗算されて加算器437の一方の入力される一方、乗算器432では、係数NLInV1が乗算されて非線形テーブル433の入力端に入力される。非線形テーブル433は、弦の弾性特性ををシミュレートすべく、入力信号に歪みを与えるものであり、その入力対出力の特性は、非直線、例えば図6に示されるような飽和曲線であり、この特性はパラメータANLにより設定される。
この非線形テーブルの出力はLPF434に供給されて濾波される。ここで、LPF434のフィルタ特性にあっては、パラメータNLFl1QiでそのQ値が設定され、パラメータNLFl1Frqでそのカットオフ周波数が設定される。
LPF434により濾波された信号は、さらに、HPF435に供給されて直流成分がカットされる。ここで、HPF435のカットオフ周波数は、パラメータNLHp1Frqにより設定される。このHPF435が設けられるのは、非線形テーブル433での非直線変換により信号が歪む結果、多少なりとも直流成分が重畳される場合があるので、かかる直流成分がループ内を循環するのを防止するためである。
そして、HPF435の出力結果は、乗算器436により係数NLG1で乗算されて、加算器437の他方の入力端に供給される。
【0030】
結局、加算器437は、APF412の出力信号であって非線形テーブル433を介した信号と介さない信号とを、それぞれ係数NLG1と係数FdG1とで乗算した後、加算することになる。
かかる加算結果は、加算器402の減算入力端(−)、乗算器441、加算器404の他方の入力端、および乗算器442に供給される。ここで、乗算器441に供給された加算器437の加算結果は、乗算係数SubGだけ乗算されて加算器403の他方の入力端に供給される一方、乗算器442に供給された加算器437の加算結果は、乗算係数Balだけ乗算されて加算器444の一方の入力端に供給される。
また、加算器403の加算結果は、後述する合成ループ回路500への出力信号として供給される一方、乗算器443で乗算係数(1−Bal)だけ乗算されて加算器444の他方の入力端に供給される。そして加算器444の加算結果が、遅延ユニット110(n)の出力(3)となる。
【0031】
ここで、乗算係数SubGおよびBalについて考えてみる。
いま、乗算係数SubGが「0」だとすると、加算器437の加算結果が加算器402および404によって互いに打消し合うから、ループに循環する信号、すなわち、遅延回路410への入力信号は、乗算器401を介した入力ユニット200の出力信号そのものとなり、ループによる変化を受けない。
しかし、合成ループ回路500への出力信号たる加算器403の加算結果は、加算器404による打消の影響を受けないので(前段に位置するため)、入力ユニット200の出力信号からループ信号を減算した差分信号となる。この際、乗算係数Balも「0」とすれば、出力(3)は、同様な差分信号となる。一方、乗算係数Balを「1」とすれば、出力(3)は、1巡のループ信号となる。乗算器442および443の乗算係数Balおよび(1−Bal)は互いに排反的な関係にあるから、結局、乗算係数SubGを「0」に保ったまま乗算係数Balを「0」から「1」まで変化させると、出力(3)が、差分信号から1巡したループ信号まで変化するようになっている。
【0032】
一方、乗算係数SubGが「1」だとすると、加算器437の加算結果が加算器402および403によって互いに打消し合った後、さらに加算器404によって加算されるため、遅延回路410への入力信号は、乗算器401を介した入力ユニット200の出力信号と、ループを1巡した信号との和となり、概観すれば積分回路となる。すなわち、分析ループ回路400は、後述する合成ループ回路500とほぼ同構成となる。
しかし、合成ループ回路500への出力信号たる加算器403の加算結果は、加算器402と403との打消により、乗算器401を介した入力ユニット200の出力信号そのものとなり、ループによる変化を受けない。この際、乗算係数Balを「0」とすれば、出力(3)は、同様な入力ユニット200の出力信号となる。一方、乗算係数Balを「1」とすれば、出力(3)はループした積分信号となる。すなわち、乗算係数SubGを「1」に保ったまま乗算係数Balを「0」から「1」まで変化させると、出力(3)が、入力ユニット200の出力信号そのものから積分信号まで変化するようになっている。
【0033】
このように、乗算係数SubGおよびBalが、それぞれ「0」から「1」まで変化すると、出力(3)は、純粋な差分信号から積分信号まで変化するようになっている。なお、これら乗算係数SubGおよびBalは、パラメータ群PARST(n)に属するものではなく、図示しない設定部によりユーザが任意に設定できるものである。
【0034】
1−1−2−4:合成ループ回路
次に、合成ループ回路500の構成について図5および図7を参照して説明する。
まず、分析ループ回路400の出力信号たる加算器403の加算結果は、加算器501によって、後述する相関ユニット600の出力と加算され、さらに、加算器502によって、ループ後の信号たる加算器537の加算結果と加算される。
そして、加算器502の加算結果は、LPF521および乗算器523に供給される。LPF521のフィルタ特性は、パラメータLoopLPF2により設定されるもので、このパラメータは、音色設定部20(図1参照)により設定された音色情報TCによって決定される。これは、信号波形を、LPF521により、音色に応じて変化させるためである。
加算器524は、LPF521の出力を乗算器522により係数(1−LpfRof2)だけ乗算した乗算結果と、遅延補間回路511の出力結果を乗算器523により係数LpfRof2だけ乗算した乗算結果とを加算する。この加算結果は、遅延ユニット110(n)の出力(4)となるとともに、LPF521を介した信号と介さない信号とを係数LpfRof2によって重みづけしたものとなって遅延回路510に供給される。
【0035】
遅延回路510および遅延補間回路511は、分析ループ回路400における遅延回路410および遅延補間回路411と同構成であるが、遅延後に音色変化を与えるべく、遅延回路510における出力段の信号が、乗算器514で係数TapVだけ乗算されて加算器515の一方の入力端に供給される点で若干相違する。
一方、遅延補間回路511の出力結果はAPF512に供給される。このAPF512は、図5および図7では1段であるが、APF412と同様に実際には複数段が縦続接続されており、パラメータAPhase2によりそのフィルタ特性が設定される。そして、APF512の出力結果は、乗算器513により乗算係数(1−TapV)が乗算されて、加算器515の他方の入力端に供給される。これにより、加算器515の加算結果は、APF512を介した信号と介さない信号とを係数TapVによって重みづけしたものとなる。
【0036】
次に、加算器515の出力信号は、それぞれ乗算器531および532に供給され、乗算器531では、係数FdG2が乗算されて加算器537の一方の入力端に供給される一方、乗算器532では、係数NLInV2が乗算されて非線形テーブル533の入力端に供給される。非線形テーブル533は、非線形テーブル433と同様に入力信号に歪みを与えるため設けられており、その入力対出力の特性は、非直線、例えば図7に示されるような飽和曲線であり、この特性はパラメータSNLにより設定される。この非線形テーブルの出力はLPF535に供給されて濾波される。ここで、LPF534のフィルタ特性にあっては、パラメータNLFl2QiでそのQ値が設定され、パラメータNLFl2Frqでそのカットオフ周波数が設定される。
LPF534により濾波された信号は、さらに、HPF535に供給されて直流成分がカットされる。ここで、HPF535のカットオフ周波数、パラメータNLHp2Frqにより設定される。このHPF535が設けられる理由は、HPF435と同様であり、非線形テーブル533での非直線変換により信号が歪む結果、多少なりとも直流成分が重畳される場合があるので、かかる直流成分がループ内を循環するのを防止するためである。
そして、HPF535の出力結果は、乗算器536により係数NLG2で乗算されて、加算器537の他方の入力端に供給される。
【0037】
結局、加算器537は、加算器515の加算結果であって非線形テーブル533を介した信号と介さない信号とを、それぞれ係数NLG2と係数FdG2とで乗算した後、加算することになる。
かかる加算結果は、ループ後の信号として加算器502の他方の入力端に供給されるとともに、後述する相関ユニット600の入力信号とされる。
【0038】
1−1−2−5:相関ユニット
次に、相関ユニット600の構成について図5を参照して説明する。
通常、相関ユニット600と合成ループ回路500とが、図5に示すように接続される場合、相関ユニット600は、撥弦時に弦に与えられる励起振動に相当する信号を求めるものであるが、この実施形態では、かかる信号を循環信号に重畳させて、出力(4)から、アタック時にランダム性のある信号(カオス)を有する楽音信号が出力されることを目的として設けられる。
【0039】
まず、合成ループ回路500において循環した信号、すなわち加算器537の加算結果は、加算器601の減算入力端(−)に供給される。一方、加算器601の加算入力端(+)には、後述する信号ExNLOfs1が供給される。
次に、加算器601の加算(減算)結果は、この相関ユニット600による作用の大きさを決めるものとなり、乗算器602に乗算係数として供給されるとともに、非線形フィルタ603に供給される。ここで、非線形フィルタ603のフィルタ特性は、音色情報TCに応じて、パラメータExNLFlQiによりそのQ値が設定され、パラメータExNLFlFrqによりその周波数特性が設定されるようになっている。
非線形フィルタ603の出力には、加算器604により信号ExNLOfs2が加算され、この加算結果は、さらに乗算器605により係数ExNLInGで乗算され、非線形テーブル606の入力とされる。この非線形テーブル606の変換特性は、パラメータINLにより定められる。
そして、非線形テーブル606の出力は、乗算器602によって減算器601の減算結果が包絡線として乗算され、さらに、乗算器607によって係数ExNLOGをゲインとして乗算されて、合成ループ回路500への循環信号として重畳される。
【0040】
ここで、信号ExNLOfs1、信号ExNLOfs2、および係数ExNLOGについて図8(a)および(b)を参照して説明する。これら信号あるいは係数は、同図(a)に示すように、DSP2に別途設けられるエンベロープ発生器610により、音色情報TC、PickOn(n)、およびPickTouch(n)を考慮して求められる。また、これら信号あるいは係数は、同図(b)に示すように、それぞれ撥弦開始を示すPickOn(n)の供給タイミングから入力波形のアタックに相当する部分で急激に立ち上がった後、徐々に減衰するものである。なお、この音色情報TCおよびPickTouch(n)を一定とした場合の一例であり、実際には、これら情報によっても、図8(b)に示した特性の振幅や時間軸が変化するようになっている。
【0041】
合成ループ回路500によるループ信号(加算器537の加算結果)は、時間経過とともに減衰するので、アタック直後における加算器601の加算(減算)結果は、以前の撥弦から時間が経過して循環信号のレベルが小さいときは大きくなり、また、この相関ユニット600の出力の大きさを決定づける係数ExNLOGは、撥弦から所定時間経過した後は「0」となるから、結局、相関ユニット600の出力はアタック時に最も作用することとなる。そして、この相関ユニット600の出力は、分析ループ回路400の出力信号と加算され、合成ループ回路500のループを循環した後、再び、加算器601の減算入力端(−)に供給されるので、これらの相互作用の結果や入力ユニット200により付加されたノイズとあいまって、出力(4)は、アタック時には各種自然楽器に見られるようなノイズ的性質を有する一方、アタック以後には実際の弦の減衰をシミュレートした楽音信号となる。
【0042】
以上述べた出力(1)〜(5)の各々が、図4におけるミキシングユニット101ST(n)の入力となり、乗算器M1(n)〜M5(n)により重みづけされて、他のミキシングユニットと混合される。したがって、乗算係数OMix1(n)〜OMix5(n)をユーザが図示しない設定部により所望値に設定することにより、あるいは音色等により自動的に設定されることにより、出力(1)〜(5)の特徴を適切に活かして楽音を合成することができるようになっている。例えば、出力(5)の重みを大きくすれば、アタック時における特徴が強調され、出力(4)の重みを大きくすれば、減衰時の特徴が強調される。また、出力(1)の重みを大きくすれば、入力した信号STRING(n)の特徴をそのまま強調することもできる。
【0043】
2:変形例
本願では、上述した実施形態のほかに以下のような変形例が可能である。
実施形態では、入力ユニット200の差分信号を、乗算係数SubGおよびBalの影響を受けずに得るために、差分回路300を分析ループ回路400から独立に構成したが、構成を簡略化するならば、図5あるいは図6における破線に示すように構成しても良い。すなわち、図6に示すように、減算器310を別途設けることにはなるが、この減算器310によって、乗算器401の乗算結果から遅延補間回路411の遅延結果を減算し、この減算結果を出力(5)とするのである。いずれにしても、出力(5)は、INPUTSIG(n)の差分信号であることには変わりはない。
【0044】
また、上述した実施形態では、相関ユニット600は、合成ループ回路500に対し作用するようにしていたが、分析ループ回路500に対して作用しても良いし、両者に対して作用するように構成しても良い。
さらに、実施形態では、差分回路300、分析ループ回路400、および合成ループ回路500の個数をそれぞれ「1」としたが、本願はこれにとらわれない。これらを複数個数用意して任意に組み合わせる構成としても良い。
【0045】
また、実施形態は、実際のギターによる撥弦による演奏音を取り込み、この信号や演奏補助操作子30の操作情報Pcontから遅延ユニット110(n)への各種パラメータや係数を生成したが、一般の電子楽器による楽音信号を入力とし、MIDI信号により遅延ユニット110(n)への各種パラメータや係数を生成する構成として良い。
【0046】
さらに、実施形態における分析ループ回路400は、乗算係数SubGを「1」と設定することにより、実質的に合成ループ回路500と等価になる。このため、合成ループ回路500は、分析ループ回路400と同じ構成を用いることができる。従って、かかる分析ループ回路を複数用意して、任意に組み合わせることができる構成とすれば、さらに楽音合成の自由度を広げることが可能となる。
【0047】
【発明の効果】
以上説明したように、この発明によればそれぞれ次のような効果がある。
撥弦直後のように、音色が急激に変化する部分の特徴を比較的構成により抽出することができ、多様性に富んだ楽音合成が可能となる(請求項1)。
第2の遅延循環手段の特性と混合手段の混合比率とを個々に調整することにより、入力信号の特徴を活かした楽音合成を行なうことが可能となる(請求項2)。
第2の遅延循環手段による影響を第1の遅延循環手段による特性に与えることができるので、より複雑な楽音合成を行なうことが可能となる(請求項3)。
自然楽器で見られるようなアタック時のノイズ的性質を自然に再現することができ、楽音としての質を高めることも可能となる(請求項4)。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明による実施形態の楽音合成装置の構成を示すブロック図である。
【図2】同実施形態のデータの流れを示すブロック図である。
【図3】同実施形態におけるDSP2の構成を示すブロック図である。
【図4】DSP2における出力ユニットの構成を示すブロック図である。
【図5】DSP2における遅延ユニット110(n)の構成を示すブロック図である。
【図6】同実施形態における分析ループ回路の構成を示すブロック図である。
【図7】同実施形態における合成ループ回路の構成を示すブロック図である。
【図8】(a)は、相関ユニットにエンベロープ発生器の構成を示すブロック図であり、(b)は、同エンベロープ発生器によって供給される信号および係数における撥弦指示からの時間経過を示す一例である。
【符号の説明】
101……出力ユニット(混合手段)、
310、410、510……遅延回路、311、412、512……遅延補間回路(遅延回路とともに遅延手段)、
434、534……LPF(フィルタ手段)、400……分析ループ回路(第1の遅延循環手段)、500……合成ループ回路(遅延循環手段、第2の遅延循環手段)、600……相関ユニット(励起信号供給手段)
Claims (3)
- 入力信号を遅延させる遅延手段と濾波するフィルタ手段とを有し、これらの出力信号を当該入力信号に加算して循環させる遅延循環手段と、
前記入力信号および当該入力信号を遅延させた信号の差分を抽出する差分抽出手段と、
前記遅延循環手段による循環信号と前記差分抽出手段による差分信号とを任意にミキシングする混合手段と
を具備することを特徴とする楽音合成装置。 - 入力信号を遅延させる遅延手段と濾波するフィルタ手段とを有し、これらの出力信号を当該入力信号に加算して循環させる第1の遅延循環手段と、
前記第1の遅延循環手段による循環信号を遅延させる遅延手段と濾波するフィルタ手段とを有し、これらの出力信号を、前記第1の遅延循環手段による循環信号に加減算して循環させ、その特性が前記第1の遅延循環手段の特性からその逆特性まで変化する第2の遅延循環手段と、
前記第1および第2の遅延循環手段による循環信号を任意にミキシングする混合手段と
を具備することを特徴とする楽音合成装置。 - 前記入力信号の立ち上がり時に、
前記第1の遅延循環手段の循環信号のレベルが小さいほど、レベルが大きく、時間経過とともにレベルがゼロに近づく第1信号を生成し、当該第1信号を前記第1の遅延循環手段の循環信号に重畳させる、
または、
前記入力信号の立ち上がり時に、
前記第2の遅延循環手段の循環信号のレベルが小さいほど、レベルが大きく、時間経過とともにレベルがゼロに近づく第2信号を生成し、当該第2信号を、前記第2の遅延循環手段の循環信号に重畳させる
ことを特徴とする請求項2に記載の楽音合成装置。
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