JP3616904B2 - テンセグリッド構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種施設の屋根架構として有効なテンセグリッド構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
大規模施設の屋根架構に適用するものとして、フレームとケーブルとを組み合わせることで軽量で大スパン架構を可能とする張弦梁構造や張弦アーチ構造、ケーブルドーム構造等が周知である。また、同様にフレームとケーブルを組み合わせたものとして、図11に示すような張力安定トラス構造も試みられている。張力安定トラス構造は、(a)に示すように4本のトラス材aをピン接合した不安定トラス構造にポストbとケーブルcを利用して自己釣り合い張力を導入して安定化させたトラスユニットTを単位構造とし、これを集積して全体としてたとえば(b)、(c)に示すような円筒状の屋根架構を構成するというものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記のような構造は、いずれも、必ずしも自由な曲面を構成できない、形態によっては境界部に大きな負担がかかる、施工性が良くない、応力制御や変形制御が必ずしも容易ではない、といった問題を残しており、より有効な構造の開発が進められている。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記課題を解決するもので、請求項1の発明のテンセグリッド構造は、圧縮材を枠状に組んでなるフレーム体の内側に束材を配して該束材の両端と前記フレーム体の各頂点との間にケーブルを張設してなるグリッドユニットを構成要素とし、該グリッドユニットのフレーム体の頂点どうしを互いに連結することにより、それらフレーム体および各フレーム体間に形成される空隙を升目とするグリッドフレームを構成するとともに、隣接するグリッドユニットの束材どうしを引張材により連結して該引張材に張力を付与してなり、前記各グリッドユニットのフレーム体を正方形状とし、かつそれらフレーム体間に形成される空隙を菱形状とすることにより、前記グリッドフレームは前記フレーム体により形成される正方形の升目とそれらフレーム体間に形成される菱形状の升目を有するものである。
【0007】
請求項2の発明のテンセグリッド構造は、前記圧縮材および束材として鋼管を用い、前記引張材としてケーブルを用いたものである。
【0008】
請求項3の発明のテンセグリッド構造は、前記引張材として屋根材となる膜材を用いたものである。
【0009】
請求項4の発明のテンセグリッド構造は、前記フレーム体どうしの連結部をボールジョイントによるピン接合としたものである。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の実施形態を説明するに先立ち、その基本となったテンセグリッド構造について参考例として図1〜図5を参照して説明する。本参考例のテンセグリッド構造は、図2に示すグリッドユニットUを構成要素とするものである。そのグリッドユニットUは、圧縮材としての4本の鋼管1aを正方形枠状に組んでなるフレーム体1の内側に、同じく圧縮材としての鋼管からなる束材2を配し、その束材2の上下両端とフレーム体1の各頂点の間にケーブル3を張設して所定の張力を付与した構成のものである。
【0014】
上記のグリッドユニットUは図11(a)に示した従来の張力安定トラス構造におけるトラスユニットTと実質的に同様のもの(テンセグリティーとも称される)であるが、張力安定トラス構造においては図11(b)に示されるように構面全体がトラスユニットTのみで構成され、隣接しているトラスユニットTはトラス材aを共有する状態で組み立てられているものであるのに対し、本参考例のテンセグリッド構造ではグリッドユニットUの頂点どうしを連結してそれらグリッドユニットUの間に空隙Sを確保し、かつそれらグリッドユニットUどうしを張力を付与したケーブル4(本例では上部ケーブル4aおよび下部ケーブル4b)により連結しており、その点で従来の張力安定トラス構造とは異なる構造のものである。
【0015】
すなわち、本参考例のテンセグリッド構造は、上記のグリッドユニットUを図1に示すように千鳥状に配列して各フレーム体1の頂点どうしを互いに連結することにより、それらフレーム体1間にフレーム体1と同一の正方形状の空隙Sを形成し、全体として正方形の升目を有するグリッドフレームFを構成している。そして、隣接しているグリッドユニットUの束材2の上端部どうしおよび下端部どうしをそれぞれ引張材としての上部ケーブル4a、下部ケーブル4bにより連結し、それらケーブル4a,4bに所定に張力を付与してグリッドフレームF全体を安定に支持するものとなっている。
【0016】
なお、フレーム体1どうしの連結部は任意の方向に相対回転可能なピン接合とされ、本参考例では図3に示すようなボールジョイントを採用している。すなわち、フレーム体1の頂点(鋼管1aどうしの連結部)を円弧状に形成しておくとともにそこに半球形状のほぞ穴1bを設けておき、そのほぞ穴1bにジョイント用のボール1c(鋼球)を嵌合させることで双方のフレーム体1どうしを接合し、各鋼管1aの芯の交点をボール1cの中心と合致させることで双方のフレーム体1どうしが任意の方向に相対回転可能としている。
【0017】
上記のテンセグリッド構造は、圧縮材としてのフレーム体1と束材2および引張材としてのケーブル3,4a、4bのみにより構成されるものであり、圧縮材としてのフレーム体1と束材2としてはいずれも小径の鋼管を用いることで十分であるので、架構全体として十分な軽量化を実現でき、意匠的にも軽快で好ましいものである。そして、ケーブル3,4の張力や束材2の長さを調整することで応力制御や変形制御を簡便かつ容易に行うことが可能であるし、後述するようにその施工も困難ではない。また、各グリッドユニットUが自己釣合形であるので境界部の支持条件に依存することがなく、したがって任意形状の曲面を自由に構成することが可能なものであり、たとえば図4に示すような大スパン平板状の屋根架構に適用することはもとより、図5に示すような種々の曲面すなわち(a)に示すような円筒形、(b)に示すような帽子形、(c)に示すような山形ラーメン形、(d)に示すようなドーム形、(e)に示すような任意曲面形、等を自由に構成することができる。なお、図4に示すような平板状架構とする場合には、(b)に示すように水平ブレースとして機能するケーブル5を架構全体にわたるように付加することで面外剛性を確保することが好ましい。
【0018】
図6は本発明のテンセグリッド構造の実施形態を示す概要図である。これは、上記参考例と同様のグリッドユニットUを用いるものであるが、それらグリッドユニットUの間に形成する空隙Sを菱形状としたもの、つまりグリッドフレームFの形態を、フレーム体1により形成される正方形の升目とそれらフレーム体1間に形成される菱形状の升目からなるものとしている。この場合も参考例のものと同様の作用効果を奏するが、図4に示すような平板状とした場合にもケーブル5を設けることなく自ずと面外剛性を確保できる。ただし、図6(a)に示しているようにいずれかの空隙Sに水平ブレースとして機能するケーブル6を設けることが好ましい場合があり、必要に応じて任意の位置にそのようなケーブル6を設ければ良い。
【0019】
以上、本発明のテンセグリッド構造の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限らず種々の変形、応用が可能である。たとえば上記実施形態では束材2の上下両端をそれぞれ上部ケーブル4aおよび下部ケーブル4bにより連結するようにしたが、架構の形態や荷重の方向によっては束材2の上端部もしくは下端部のいずれか一方のみをケーブル4により連結することで十分な場合があり、そのような場合にはいずれか一方を省略することも可能である。また、上記構造の架構に対して取り付ける屋根材としては膜材を用いることが好適であるが、その膜材がグリッドユニットUどうしを所望の張力で連結し得るものであれば、それをケーブル4に代えて引張材として採用してケーブル4を省略することも可能である。また、軽量化を図る上では支障とはなるが、意匠上その他の事情によってはケーブル4や膜材に代えて鋼管等の部材を引張材として採用することも妨げるものではない。勿論、フレーム体1や束材2は圧縮材としての強度を確保できるものであれば鋼管に限らずアルミ材や木材、FRP材等の他の素材も採用可能である。
【0020】
なお、上記構造では各部材に与える初期釣合応力(自重や地震力、風、積雪等の一般的な設計荷重が作用していない状態で架構全体を安定させるために各部材に予め導入する応力)を設定する必要がある。その初期釣合応力は、架構全体が外力を受けた際に引張材(ケーブル3およびケーブル4a,4b)の軸力が抜けず、圧縮材(フレーム体1の各鋼管1aおよび束材2)の軸力が引張にならないように設定し、かつその初期釣合応力は可及的に小さくすることが好ましい。そのような初期釣合応力の設定には、たとえば単純遺伝的アルゴリズム等の解析手法が好適に採用可能である。
【0021】
次に、上記実施形態のテンセグリッド構造の施工方法について説明する。以下で説明する施工方法は、上述した実施形態のテンセグリッド構造による図7(b)に示すようなドーム状あるいはアーチ状の構造物を施工する場合に適用したものである。なお、この構造物は一端側がピン支承とされ他端側はローラ支承とされるものである。
【0022】
図7に示す施工方法では、(a)に示すように地表部においてグリッドユニットUを連結してグリッドフレームFを地組するとともに、各束材2の下端部どうしを連結する下部ケーブル4bを配設し、その下部ケーブル4bには束材2下端部に対する定着点をマークしておく。また、束材2の上端部の間には予め設定長とした上部ケーブル4aを定着しておく。
【0023】
そして、下部ケーブル4bの両端部にジャッキ10を配し、グリッドフレームFから反力を取って下部ケーブル4bを緊張する。これにより、グリッドフレームFは自ずと上方へ迫り上がっていき、下部ケーブル4bに設定張力を導入すれば(b)に示すようにグリッドフレームFは自ずと設計形状となり、その状態で下部ケーブル4bの各定着点をそれぞれ束材2の下端部に対して定着すれば各部材には自ずと初期応力が導入される。
【0024】
なお、下部ケーブル4bの緊張によりグリッドフレームFを迫り上げる際には必要に応じてジャッキ11により補助的にグリッドフレームFをジャッキアップしても良い。また、このような形態の構造物では束材2の下端部どうしを連結する下部ケーブル4bは不可欠であるが、上述したように状況によっては束材2の上端部どうしを連結する上部ケーブル4aは省略することも可能であり、上部ケーブル4aを省略した場合においても下部ケーブル4bを緊張することのみでグリッドフレームFを迫り上げて架構全体を完成させることができる。
【0025】
図8は上記の変形例であり、束材2間の各下部ケーブル4bをそれぞれ個別にジャッキ12により順次緊張するようにしたものであり、この場合も同様にグリッドフレームFを迫り上げることができ、各部材に初期応力を導入できる。
【0026】
図9に示す施工方法では、各グリッドユニットUの束材2を設計長よりも短くしておき、それらグリッドユニットUを適宜仮支持して互いに連結してグリッドフレームFを形成するとともに各束材2どうしの間にケーブル4a,4bを設定長として定着し、しかる後に、各束材2をジャッキ13により設計長となるまで伸張させることで各ケーブル3,4a,4bを緊張し、各部材に初期応力を導入するようにしたものである。
【0027】
図10に示す施工方法では、上記の各施工方法もしくは他の適宜の方法により(a)に示すようなグリッドフレームFの分割体F1を地表部において完成させ、(b)に示すようにそれら分割体F1を仮設構台14により仮支持した状態で分割体F1どうしの間にケーブル4a,4bを配設し、それらケーブル4a,4bをジャッキ15により緊張して定着するようにしたものである。
【0028】
上記いずれの施工方法によっても、本発明のテンセグリッド構造によるドーム状あるいはアーチ状ないしそれに類する任意の形態の大規模構造物を容易に施工することができる。
【0029】
【発明の効果】
請求項1の発明のテンセグリッド構造は、圧縮材を枠状に組んでなるフレーム体の内側に束材を配して該束材の両端と前記フレーム体の各頂点との間にケーブルを張設してなるグリッドユニットを構成要素とし、該グリッドユニットのフレーム体の頂点どうしを互いに連結することにより、それらフレーム体および各フレーム体間に形成される空隙を升目とするグリッドフレームを構成するとともに、隣接するグリッドユニットの束材どうしを引張材により連結して該引張材に張力を付与してなるものであるから、架構全体として十分な軽量化を実現でき、意匠的にも軽快で好ましいものであり、引張材に付与する張力や束材の長さを調整することで応力制御や変形制御を簡便かつ容易に行うことが可能であり、しかも任意形状の曲面を自由に構成することが可能である。
【0031】
特に、請求項1の発明のテンセグリッド構造は、グリッドユニットのフレーム体を正方形状としてそれらフレーム体間に形成される空隙を菱形状とすることにより、グリッドフレームはフレーム体により形成される正方形の升目とフレーム体間に形成される菱形状の升目を有するものとしたので、自ずと面外剛性に優れるものとなる。
【0032】
請求項2の発明のテンセグリッド構造は圧縮材および束材として鋼管を用い、引張材としてケーブルを用いるので、何等特殊な部材を必要とせず、コストや施工性の点で有利である。
【0033】
請求項3の発明のテンセグリッド構造は、引張材として屋根材を兼ねる膜材を用いるのでより合理的である。
【0034】
請求項4の発明のテンセグリッド構造は、フレーム体どうしの連結部をボールジョイントによるピン接合としたので、簡便な構造でフレーム体どうしを確実にピン接合することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の基本となったテンセグリッド構造を参考例として示す図である。
【図2】同、グリッドユニットを示す図である。
【図3】同、フレーム体の接合部を示す図である。
【図4】同構造による架構の例を示す図である。
【図5】同、他の架構の例を示す図である。
【図6】本発明のテンセグリッド構造の実施形態を示す図である。
【図7】同、施工方法を示す図である。
【図8】同、他の施工方法を示す図である。
【図9】同、変形例を示す図である。
【図10】同、さらに他の施工方法を示す図である。
【図11】従来の張力安定トラス構造を示す図である。
【符号の説明】
U グリッドユニット
F グリッドフレーム
S 空隙
1 フレーム体
1a 鋼管(圧縮材)
2 束材
3 ケーブル
4a、4b ケーブル(引張材)
Claims (4)
- 圧縮材を枠状に組んでなるフレーム体の内側に束材を配して該束材の両端と前記フレーム体の各頂点との間にケーブルを張設してなるグリッドユニットを構成要素とし、該グリッドユニットのフレーム体の頂点どうしを互いに連結することにより、それらフレーム体および各フレーム体間に形成される空隙を升目とするグリッドフレームを構成するとともに、隣接するグリッドユニットの束材どうしを引張材により連結して該引張材に張力を付与してなり、
前記各グリッドユニットのフレーム体を正方形状とし、かつそれらフレーム体間に形成される空隙を菱形状とすることにより、前記グリッドフレームは前記フレーム体により形成される正方形の升目とそれらフレーム体間に形成される菱形状の升目を有するものであることを特徴とするテンセグリッド構造。 - 請求項1記載のテンセグリッド構造であって、前記圧縮材および束材として鋼管を用い、前記引張材としてケーブルを用いてなることを特徴とするテンセグリッド構造。
- 請求項1記載のテンセグリッド構造であって、前記引張材として屋根材となる膜材を用いてなることを特徴とするテンセグリッド構造。
- 請求項1、2または3記載のテンセグリッド構造であって、前記フレーム体どうしの連結部をボールジョイントによるピン接合としたことを特徴とするテンセグリッド構造。
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