JP3616830B2 - メッキ又は接着のためのポリプロピレン成形品の表面改質方法 - Google Patents

メッキ又は接着のためのポリプロピレン成形品の表面改質方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明はプロピレン成形品の表面に容易にメッキをするため、又はポリプロピレン同士又は他の樹脂や金属等との接着をさせるための表面改質方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリプロピレンの表面は疎水性でそのままではメッキ又は接着をすることが出来ない。ポリプロピレン表面にメッキを施すためには、クロム−硫酸液によるエッチング、SOガスによるエッチングなどで極性化と表面に凹凸を付ける方法が知られている。
【0003】
接着のためにも同様なエッチングを行い、その上にプライマー塗布をした上で接着剤を塗って接着を行っている。しかし、これ等の処理法ではあらゆるグレードのポリプロピレンに対応出来るものではなく、又コスト、設備、環境対策などの面でも問題が多い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はフッ素を用いて容易にポリプロピレンの表面を改質し、親水性を付与し、その上に無電解メッキを施す方法及び接着方法を開発することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
この課題は、ポリプロピレン成形品を、フッ素と接触させるに際し、特にフッ素濃度0.1〜10%の雰囲気下で1〜30分、好ましくは1〜15分間接触せしめて、表面の接触角を80度以下にして親水化させることにより解決される。
【0006】
フッ素でポリオレフィン樹脂の表面を処理し疎水性を向上させ撥水性にし、ガソリンの容器として使用することは知られている。しかし乍らフッ素でポリオレフィン樹脂を処理したら、親水性になることは知られていなかった。フッ素濃度が濃く温度が高めの条件ではポリオレフィンの水素が全てフッ素に置換されて撥水性となる。
【0007】
本発明者等はポリプロピレン成形品を特にフッ素濃度0.1〜10%の雰囲気に1〜30分、好ましくは1〜15分接触させることで、その表面を親水化させ接触角を80度以下に出来、惹いてはその表面に接着性良くメッキ出来ることを見いだした。又この表面に接着剤を塗布しその上に同じ処理したポリプロピレン、又は他の樹脂や金属等を接着させると良い接着力を示すことを見いだした。
【0008】
【発明の作用】
希薄なフッ素濃度で短時間、しかも常温でポリプロピレン成形品の表面処理をすると、その表面の水に対する接触角が低下し、通常90〜100度であるものが80度以下、良い場合は70度以下にまで低下することが本発明者の研究により見いだされた。
【0009】
ポリプロピレンホモポリマーに対するフッ素化を10分間、フッ素濃度を変化させて行い、接触角への影響を調べた。結果を表1に示した。
【0010】
【表1】
Figure 0003616830
【0011】
フッ素濃度が濃くなると接触角が大きくなっていくことが認められた。
フッ素濃度を2%にしてフッ素化時間による影響を調べた結果を表2に示した。時間が長くなると接触角が大きくなることが認められた。
【0012】
【表2】
Figure 0003616830
【0013】
但し表1は室温で、ポリプロピレン成形品としては「ホモポリマーJ115G」を使用したものであり、又表2は表1に於いてフッ素濃度2%の場合について、そのフッ素化時間だけを変えたものである。
【0014】
フッ素を窒素で希釈した希薄ガスで穏和にポリオレフィンの水素をフッ素と置換すると、フッ素が炭素と−CHF−CHF−又は−CH−CFの共有結合を形成していることがESCAの測定結果で明らかとなった。ESCAの測定結果を図1〜3に示す。
【0015】
図1は表面の深さ方向のスペクトルである。フッ素のFsのスペクトルは、表面の最上部に最大の強度が示され、すぐに減衰している。このことは表面の極上部のみがフッ素化されていることを示している。
【0016】
図2はFsの結合エネルギーを示し、69leVの吸収は共有結合であることを示している。
【0017】
図3は炭素Cs結合エネルギーを示している。287.9eVの吸収は−CFH−CFH−の結合を示し、286.8eVの吸収は−C−CF−の結合を示している。これらは共有結合ではあるが共有結合よりも少し低エネルギー側にあり、イオン性が強いことを示している。
【0018】
又ヨウ化メチレンと水の2種の溶媒を用いて接触角を測定し、そのデータから表面エネルギーを計算した。結果を表3に示した。但し表3の表面エネルギー(mJ/m)は、
【0019】
分散力成分(γ)+極性力成分(γ)=表面エネルギー(mJ/m
という関係式が成立する。
【0020】
【表3】
Figure 0003616830
【0021】
表3から明らかな通り表面エネルギーの極性力成分が1.6mJ/mから25.0mJ/mへと大きくなり、固体表面のエネルギーとしては31.3mJ/mから47.7mJ/mへと大きく変化し、表面が極性化された事を示している。
【0022】
親水性を示すポリプロピレンの表面が極性化したのはC−Fの共有結合内で原子として最大の電気陰性度を示すフッ素により、電子の局在化が起こされた為に、イオン性になったからであると考えられる。
【0023】
更にポリプロピレンの表面をフッ素化の前後で電子顕微鏡写真を撮り、表面の状態を調べたが、表面の荒れには差が認められなかった。
【0024】
今までの表面処理の方法では極性化はされるが、同時にエッチングにより表面が凹凸にされていた。そのためメッキの付着性又は接着は表面の極性とアンカー効果の寄与によりされるものと考えられていた。
【0025】
しかし、本発明の処理方法により、フッ素化されたポリプロピレンの表面は平坦である。従ってフッ素により発現された強い極性力によりメッキが付着し、又接着力を発現すると考えられる。濃い濃度のフッ素ガス又は長時間処理すると撥水性の方向になるのでフッ素ガス濃度0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%で1〜30分、好ましくは1〜15分、特に好ましくは1〜10分の処理で親水化させるのが良い。
【0026】
ポリプロピレンの表面をフッ素で処理後、無電解メッキし、その表面をJISH8630の方法で剥離テストを行った。その結果接触角が80度以下のものは全然剥離しなかった。80度を越えるとメッキが付かなかった。この結果接触角が80度以下でないとメッキの付着性に好結果は得られない。
【0027】
ポリプロピレンの表面をフッ素で処理し、接着剤を塗布し、その上に同じ処理したポリプロピレン又は金属等を接着し接着強度をJIS K−6850の方法で引っ張り試験を実施した。接触角が80度以下のものは良い接着性を示した。
【0028】
フッ素処理していないポリプロピレン表面にエポキシ系接着剤のアラルダイト(商品名)を塗布しても接着剤が乾固後シート状に剥離を起こし全然接着性を示さなかった。
【0029】
本発明に於いて使用するポリプロピレンとしては、ホモポリマーばかりでなく、コーポリマーも含まれる。コーポリマーとしてはランダムコーポリマー及びブロックコーポリマーが含まれ、ポリプロピレン以外の他のモノマーとしてはエチレンである。
【0030】
本発明に於けるフッ素濃度0.1〜10%はフッ素ガスと他の不活性ガスとの混合ガス中にフッ素が0.1〜10%含有されているものを指し、この際の不活性ガスとしては、たとえばN、アルゴンヘリウム、炭酸ガス等が使用される。この際該濃度が0.1%未満の場合は所期の効果が得難く、又10%より高くなると既に述べた通り接触角を80度以下とすることは出来ない。
【0031】
接触せしめる手段は特に制限されず、要はポリプロピレン成形品表面が全面均一に接触する手段であれば良い。
【0032】
本発明法により得られる表面改質されたポリプロピレン成形品はこれにメッキを施したり、接着剤で接着可能となる。
【0033】
メッキを施すに際しては、従来のメッキ方法に従ってメッキを施せば良く、通常無電解メッキが適用される。
【0034】
接着に際しては、本発明法により処理したポリプロピレン成形体に更にポリプロピレン成形体を接着するに際しては、両者とも本発明の処理を行った後で接着することが好ましい。
【0035】
又他の各種の成形体とも接着出来、たとえば他の樹脂、各種金属、セラミックス、木材等と通常の接着方法で接着することが出来る。
【0036】
接着方法並びに接着剤は各種の方法や接着剤が適宜に選択されて使用される。たとえばプライマーを予め塗布し又はせずに接着剤を用いて接着すれば良い。使用される接着剤としては特に限定されないが、たとえばエポキシ系やシアノアクリレート系接着剤を好ましいものとして挙げることが出来る。
【0037】
【実施例】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明する。
【0038】
【実施例1】
3種類のポリプロピレンのシートを容器内に入れ、容器を真空にした。そこに室温で1%F/99%N又は5%F/95%Nの混合ガスを導入し、10分後窒素で容器内を置換してから、サンプルを取り出し接触角を測定した。接触角は協和界面科学(株)のCA−DT型接触角測定装置を用いて超純水で測定した。
【0039】
用いたポリプロピレンサンプルは以下の通りである。
A :エチレン/プロピレン ブロックポリマー
B :エチレン/プロピレン ランダムポリマー
C :ホモポリマー
BL:ブランク値(無処理)
1 :1%F/99%N
2 :5%F/95%N
結果を表4に示した。
【0040】
【表4】
Figure 0003616830
Figure 0003616830
【0041】
これ等の接触角は1.5ケ月後に測定しても変化はなかった。この結果フッ素化された表面は経時変化しないことが確認された。
【0042】
【実施例2】
実施例1で得られたサンプルに、ニッケルの無電解メッキを行った。サンプルの表面を超純水で洗浄後、塩化すず(SnCl:40g/L,HCl(37%):40mL/L)の溶液に室温で3分間浸漬した。水洗後塩化パラジウム(PdCl:0.2g/L,HCL(37%):3mL/L)の溶液に室温で3分間浸漬した。水洗後ニッケルメッキ浴(次亜燐酸ニッケル:26.7g/L、ほう酸:12.0g/L、硫酸アンモニウム:2.6g/L、硫酸ナトリウム:4.9g/L)に25〜30℃で1時間浸漬してメッキした。メッキした試験片を60℃、1時間安定化処理してから、その表面に1mm間隔で切り目を入れ、粘着テープを張り付け、引きはがして100個の格子のうちメッキ皮膜の剥がれた数を評価値とした。テスト結果を表5に示した。剥離度は全然剥がれなかった場合が0%である。
【0043】
【表5】
Figure 0003616830
【0044】
【実施例3】
実施例1で得られたサンプルに銅の無電解メッキを行った。サンプルの表面を超純水で洗浄後、塩化すず(SnCl:40g/L,HCl(37%):40mL/L)の溶液に室温で3分間浸漬した。水洗後塩化パラジウム(PdCl:0.2g/L,HCL(37%):3mL/L)の溶液に室温で3分間浸漬した。水洗後銅メッキ浴(硫酸銅:12.0g/L、ロッセル塩:30.0g/L、36%ホルマリン液:40mL/L,チオ尿素:1mg/L,pH=12.5)に50〜70℃で1時間浸漬してメッキした。メッキした試験片を60℃、1時間安定化処理してから、その表面に1mm間隔で切り目を入れ、粘着テープを張り付け、引きはがして100個の格子のうちメッキ皮膜の剥がれた数を評価値とした。テスト結果を表6に示した。剥離度は全然剥がれなかった場合が0%である。
【0045】
【表6】
Figure 0003616830
【0046】
【実施例4】
ポリプロピレンホモポリマーシート2枚を0.5%フッ素濃度で10分間処理した後、アラルダイトを塗布して接着させ、24時間後引っ張りテストを実施した。引っ張り強度20N/mmと良い強度を示した。
【0047】
【実施例5】
ポリプロピレンホモポリマーシートを0.5%フッ素濃度で10分間処理した後、アラルダイトを塗布しその上にアルミニウムシートを接着させ、24時間後引っ張りテストを実施した。引っ張り強度25N/mmと良い強度を示した。
【0048】
【実施例6】
ポリプロピレンホモポリマーのシート2枚を0.5%フッ素濃度で10分間処理した後、商品名シアノボンド(シアノアクリレート系接着剤)を塗布して接着させ、24時間後引っ張りテストを実施した。引っ張り強度25N/mmと良い強度を示した。
【図面の簡単な説明】
【図1】フッ素処理されたポリプロピレン成形体のESCAの測定結果であり、表面の深さ方向のフッ素(Fs)のスペクトルを示す。
【図2】フッ素処理されたポリプロピレン成形体のESCAの測定結果であり、フッ素(Fs)の結合エネルギーを表す。
【図3】フッ素処理されたポリプロピレン成形体のESCAの測定結果であり、炭素(Cs)の結合エネルギーを表す。

Claims (1)

  1. ポリプロピレン成形品を、フッ素濃度0.1〜10%で且つ酸素を含まない雰囲気に1〜30分接触させて、その表面を親水化させ、接触角を80度以下にすることを特徴とするメッキ又は接着のためのポリプロピレン成形品の表面改質方法。
JP13730595A 1994-09-01 1995-05-10 メッキ又は接着のためのポリプロピレン成形品の表面改質方法 Expired - Fee Related JP3616830B2 (ja)

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