JP3614849B2 - 前処理剤、前処理方法、前処理された試料による測定法、測定用キット及び試料の判定方法 - Google Patents

前処理剤、前処理方法、前処理された試料による測定法、測定用キット及び試料の判定方法 Download PDF

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本発明は、リムルス反応に対する反応妨害因子を含む試料の前処理剤、その前処理方法、前処理された試料による測定法、その測定法に使用される測定用キット、および試料の判定方法に関し、特に、カブトガニ・アメボサイト・ライセートを用いたリムルス反応による測定において、その反応を妨害する因子を含む生体由来試料、特に血液由来試料中の(1→3)−β−D−グルカン測定法に関するものであり、殊に真菌感染症患者の血液由来試料中の(1→3)−β−D−グルカンを高い精度で測定して真菌感染症を診断するために有効な上記血液由来試料の処理および前記測定法に関するものである。
従来から、生化学反応を利用した生体試料中の目的物質の測定が、臨床診断と関わりながら広く行われている。例えば、典型的な生化学的診断として、リムルス反応を利用した真菌あるいはグラム陰性菌の検出が挙げられる。リムルス反応は、リムルス試薬を用いる生化学反応である。
リムルス試薬に含まれるカブトガニ・アメボサイト・ライセート(以下、単に「ライセート」ということもある)には、エンドトキシンと反応して活性化されるカスケードタイプの凝固系(C因子系)と(1→3)−β−D−グルカン(以下「β−グルカン」ということもある)と反応して活性化されるカスケードタイプの凝固系(G因子系)とが共存しており(図1)、前者の系のみを利用してエンドトキシンを特異的に測定する方法、後者の系のみを利用してβ−グルカンを特異的に測定する方法がそれぞれ知られている(非特許文献1)。また、真菌感染症の患者は血液中のβ−グルカンが増加し、グラム陰性菌感染症の患者は血液中のエンドトキシンが増加する。血液中のβ−グルカンまたはエンドトキシンを測定することによってそれぞれ真菌感染症またはグラム陰性菌感染症を診断できることも知られている。
このようなG因子系を利用するβ−グルカンおよびC因子系を利用するエンドトキシンの測定法は、検出感度が非常に高いため生体試料中の上記各物質の微量検出に適しており、特に深在性真菌感染症およびグラム陰性菌感染症の診断への有効性が検討確認され、臨床検査に使用され始めている。ところで、生体試料、特に血液中のβ−グルカンおよびエンドトキシンをそれぞれライセートのG因子系およびC因子系によるカスケード反応を利用して測定する場合には、該反応がライセート中のセリンプロテアーゼの反応を利用するため、その中に含まれる種々の反応妨害因子(例えば、トロンビンやXa因子はライセート中の凝固酵素と類似の作用を示すため、偽陽性因子となり、α2−プラスミンインヒビター、α1−アンチトリプシンおよびアンチトロンビンIIIは反応を強力に阻害し、偽陰性因子となる)を失活あるいは除去するための前処理が必要である。この目的のために従来は、血液試料に特定の処理を施して多血小板血漿(PRP)を調製し、さらに過塩素酸を加えて37℃で加温処理した後に、変性析出物を遠心分離して除去し、その上澄液を採取し、アルカリで中和して被検液とする方法が採用されていた(非特許文献1)が、変性析出物の分離操作が煩雑で全操作工程も多く、操作中に反応系に影響を与える物質による汚染の危険性があるなどの問題があった。
ところで、エンドトキシンやβ−グルカンを測定するための上記のような前処理法は、すべて試験管中で前処理を行い、しかも、このように前処理された試料の一部を他の試験管に取り出してリムルス反応を行うことにより実施されていた。さらに、測定を合成基質法で行う際には、リムルス反応後、基質が開裂して生成したp−ニトロアニリンをジアゾ化反応によって赤色色素に変換して吸光度を測定するというエンドポイント法が一般的に使用されていた。エンドポイント法は、通常、操作が煩雑で測定時間も長い方法であり、多数の検体を短時間で一度に処理できる方法が望まれている。試験管の代わりにマイクロプレートを使用すれば、多数の検体を同時に扱うことができるが、エンドポイント法では連続的な自動測定は困難である。
そこで、このようなマイクロプレートを使用でき、かつ基質の変化を直接自動測定できるカイネティック法(特許文献1)による測定が望まれているが、マイクロプレートの反応液量は少なく、反応液の濁り等の影響により精度よく測定できないという問題があった。
Obayashi T.et al.,Clin.Chim.Acta,(1985),149,55−65 特開平3−220456号公報
本発明は、上記の従来の前処理法の問題点を解決しようとするもので、リムルス反応に対する反応妨害因子、例えば、リムルス反応におけるG因子系に対する反応妨害因子を含む血液由来試料中の該妨害因子を簡単な処理で除去又は変性し、変性析出物の分離操作を必要としない方法で、かつリムルス反応による測定時に濁りが生じない方法を採用することによって血液由来試料中のβ−グルカンを極めて高い検出率で、迅速に効率よく測定できる前処理剤、前処理方法、測定方法、測定用キット、及び試料の判定方法を提供するものである。
本発明は、以下の手段からなり、これらにより上記課題を解決することができる。
1) リムルス反応を利用して試料中の(1→3)−β−D−グルカンを測定する際に、リムルス反応に対する反応妨害因子を含む試料をリムルス反応に先立って処理するために使用する前処理剤であって、アルカリ金属水酸化物を試料中の濃度が0.04〜0.4モル/lとなるように含有する水溶液である前処理剤。
2)複数の溶液として保存され、使用時に該溶液が混合されることを特徴とする上記1)記載の前処理剤。
3)リムルス反応に対する反応妨害因子を含む試料中に含まれる(1→3)−β−D−グルカンを、該反応を利用して検出する際に、リムルス反応に先立って試料を処理するための前処理方法において、上記1)または2)に記載された前処理剤と試料を混合し、加温することを特徴とする前処理方法。
4)試料が血液由来の試料である上記3)記載の前処理方法。
5)リムルス反応を利用して試料中の(1→3)−β−D−グルカンを測定する方法であって、試料を上記3)または4)に記載の方法で前処理し、処理後の試料をリムルス試薬と混合して反応させ、基質の変化を検出することを特徴とする測定法。
6)少なくとも下記の構成試薬からなることを特徴とする(1→3)−β−D−グルカンを測定するための測定用キット。
(A)上記1)記載の前処理剤。
(B)カブトガニ・アメボサイト・ライセートを原料として得られたリムルス試薬。
7)(B)のリムルス試薬が、(1→3)−β−D−グルカンに特異的に反応するリムルス試薬である上記6)記載の測定用キット。
8)構成試薬として、さらに下記(C)を含むことを特徴とする上記6)記載の測定用キット。
(C)(1→3)−β−D−グルカンの一定量を含む標準試薬。
9)生体由来の試料中の(1→3)−β−D−グルカンを請求項5の測定法で定量し、該物質の測定値が一定量を超えたときに感染症に罹患した生体に由来する試料であると判定することを特徴とする試料の判定方法。
以下本発明を具体的に説明する。
本発明は、種々の生化学反応が適用される血液等の生体試料の前処理を効果的に行うことができる前処理剤を提供でき、特に、G因子系反応妨害因子を含む血漿、血清等の生体由来試料中のβ−グルカンを測定する際に、該試料をアルカリ金属水酸化物水溶液である前処理剤で処理するという簡便な手段を採用することによって上記反応妨害因子の反応系への影響を完全に除去するとともに、処理後の被検液の濁度の上昇を抑制することができた。また、処理後に変性析出物を分離除去する必要がないので全操作程を短縮することができた。さらに、本発明の測定法は、生体試料由来中のβ−グルカンをマイクロプレート中でカイネティック法により自動測定することができるので、簡易、迅速かつ高精度で再現性の高い結果が得られる。本発明の測定法を臨床検査に応用することによって、通常の検査法では診断がきわめて困難な深在性真菌感染症の診断を迅速かつ正確に行うことができる。
本発明の前処理剤において対象とする「リムルス反応に対する反応妨害因子を含む試料」とは、リムルス反応により測定される目的物質を含む可能性のある試料であって、反応妨害因子の一種以上をリムルス反応に影響を及ぼす程度に含むものである。該試料は典型的には、生体由来試料であり、特に血液由来試料である。血液由来試料としては、典型的にはヒトを含む哺乳動物から採取された血液を公知の方法で処理して得られた血漿又は血清そのもの、あるいはプロテアーゼ類、プロテアーゼインヒビター類、血液由来の蛋白製剤等を含む血漿又は血清等である。ここで、「反応妨害因子」とはリムルス反応とは無関係に反応する因子(偽陽性因子)又はいずれかの段階における反応に阻害的に作用する因子(偽陰性因子)で、典型的には血液中に含まれる前記因子等である。
血液から血漿を調製するためには通常、血液にヘパリン等の血液凝固阻止剤を添加し、遠心分離して血球を沈澱させればよい。その際、遠心分離を低回転数(例えば、150×g程度)で行うと、血小板を多く含んだ多血小板血漿(PRP)が得られ、高回転数(例えば、1000×g程度)で行うと、貧血小板血漿(PPP)が得られる。本発明で測定対象とする血液由来試料が血漿である場合、PRP又はPPPのいずれであってもよい。
また血清は、血液から血球といくつかの血液凝固因子を取り除いたものであり、通常採取した血液を容器中に放置し、生成した血餅を分離除去することによって調製される。上記血液由来試料等を、本発明の前処理剤で処理することによって反応妨害因子によるリムルス反応への影響が除去される。
本発明において「リムルス反応」とは、カブトガニのアメボサイト(血球細胞)を低張液等で抽出したライセート(カブトガニ・アメボサイト・ライセート)のG因子系成分(少なくともG因子と凝固酵素前駆体を含む成分)とβ−グルカンとの反応を包含する意味で使用する。「リムルス試薬」および「カブトガニ・アメボサイト・ライセートを原料として得られたリムルス試薬」は、いずれも上記リムルス反応によってβ−グルカンを測定するための試薬を意味し、リムルス・ポリフェムス、タキプレウス・トリデンタツス、タキプレウス・ギガス、カルシノスコルピウス・ロツンディカウダ等のカブトガニの血リンパ液から、公知の方法(例えば、J. Biochem.,80,1011−1021(1976)参照)で調製した通常のカブトガニ・アメボサイト・ライセートを含有し、必要に応じて後述のペプチド合成基質を添加した試薬である。「β−グルカンに特異的に反応するリムルス試薬」とは、上記ライセートのC因子を特異的に阻害または吸着、除去すること(例えば、WO91/19981、WO92/16651)、またはG因子系成分を分画、再構成すること(Obayashi T.et al.,Clin.Chim.Acta,149,55−65(1985))により調製される。従って、β−グルカン用リムルス試薬は、エンドトキシンでは活性化されずβ−グルカンによって特異的に反応系が活性化されるように調製したものである。
本発明において利用し得るリムルス試薬は前記のような機能を有するものであればよく、製法、組成等には限定されない。該リムルス反応においては、β−グルカンを測定しようとする場合の反応妨害因子としては、G因子系反応に影響を及ぼす因子が挙げられる。ここで、「反応妨害因子」は、β−グルカンによって開始される、図1に示したライセートのG因子系の段階的酵素反応(カスケード反応)のいずれかの段階においてβ−グルカンとは無関係に反応する前記偽陽性因子又は偽陰性因子である。
以下、本発明の前処理剤について具体的に述べる。
本発明は、アルカリ金属水酸化物を試料中の濃度が0.04〜0.4モル/lとなるように含有する水溶液であるβ−グルカン測定用前処理剤(β−グルカン測定用前処理剤B)を提供する。
このアルカリ金属水酸化物は、カリウム、リチウム、ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物であり、具体的には水酸化カリウム(KOH)、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)等である。該前処理剤としては単独又は複数のアルカリ金属水酸化物を含む水溶液が使用される。最も好ましいのはKOH及びNaOHである。
発明の前処理剤は複数の溶液として保存し、使用時に該溶液を混合してもよい
上記前処理剤を用いた試料の処理は、基本的には試料に添加混合し、加温することにより行うことができる。そして、所望により攪拌、あるいは振動等を与えながら加温することもできる。この際の処理温度は、試料の種類により適宜、選定され、通常、25〜70℃、特に37〜56℃の範囲が好ましく、処理時間は5〜40分、特に5〜20分の範囲が好ましい。
リムルス反応を利用して試料中のβ−グルカンを測定する方法は、本発明の前処理剤で処理された試料をカブトガニ・アメボサイト・ライセートから得られたリムルス試薬と混合して反応させ、基質の変化を検出することにより行うことができる。
前処理された試料は、遠心分離や中和処理をすることなく、直接リムルス反応に付することができる。リムルス反応を利用する測定法は、リムルス試薬を前処理した試料に加え、混合液を約37℃、pH7〜9で適当な時間反応させ、基質の変化を基質に応じた反応測定手段によって測定し、予め標準試薬を用いて作成した検量線からβ−グルカンの試料中の含有量を算出することによって行われる。
また、本発明のβ−グルカン測定用前処理剤Bで処理した試料を、少なくともβ−グルカンと反応するG因子系成分を含有したリムルス試薬と混合、反応させることが必要であり、該リムルス試薬としてβ−グルカンのみと特異的に反応するものを選択することが極めて好ましい。このようなリムルス試薬としては、G因子系成分を含有し、C因子系成分は、除去もしくは阻害されたものが挙げられる。
従って、β−グルカンを測定する際の反応混合液は、G因子系の至適pH付近に調整されることが好ましく、通常pH7〜9になるように従来公知の緩衝液により所望に調整される。なお、本発明の前処理で失活した偽陽性因子、偽陰性因子は、後述の実施例等から活性が再生することはないことが判明している。また、逆に、該前処理剤で処理された比較的高濃度の塩基性物質を含む被検液とリムルス試薬との混合において、該前処理剤が該G因子系中の各成分の反応性に悪影響を与えることがないのも該緩衝作用によるものであると考えられる。
該反応混合液において、上記被検液のβ−グルカンを測定するには、前述したように図1のライセートのG因子系カスケード反応によって活性化されて生成するクロッティングエンザイムの、基質に対するアミダーゼ活性又はプロテアーゼ活性を公知の方法で測定すればよい。ここで、基質とは、合成のものでも天然のものでも任意であり、クロッティングエンザイムによって加水分解されて容易に検出可能な生成物に導かれ、反応混合液に酵素反応に基づく変化を生じさせる基質であり、この変化を定性または定量的に測定できればかまわない。
例えば、β−グルカン測定用のライセートと、ペプチド合成基質を含む反応系を被検液と接触させて反応を行うことによってアミダーゼ活性を測定することができる。このようなペプチド合成基質としては、上記クロッティングエンザイムの基質となり得るペプチド(例えば、メトキシカルボニル−D−ヘキサヒドロチロシル−Gly−Arg;N末端が保護されたLeu−Gly−Arg、Ile−Glu−Ala−Arg等の配列からなるペプチド)のC末端のアルギニンのカルボキシル基に発色性残基(例えば、p−ニトロアニリン、p−(N,N−ジエチルアミノ)アニリン、p−(N−エチル−N−β−ヒドロキシエチル)アニリン等)、発蛍光性残基(例えば、7−アミノメチルクマリン等)、発光性残基あるいはアンモニアなどがアミド結合により置換したペプチド合成基質が例示される。すなわち、アミダーゼ活性の測定はクロッティングエンザイムがこれらの合成基質に作用して生成する反応生成物(p−ニトロアニリン、アンモニア等)を測定することによって行うことができる。具体的には、上記前処理を施した被検液と、ライセートのG因子系成分を含む反応系に上記ペプチド合成基質を共存させて反応(カスケード反応および必要に応じて生成物の他色素等への変換反応)させ、反応によって生成する色素、発蛍光物質、発光物質またはアンモニアを、それぞれ分光光度計(特公昭63−26871、特公平3−66319等)、蛍光光度計、化学発光測定装置、アンモニア検出用電極(特開昭62−148860)等によって測定するという方法を例示することができる。
特に、本発明の前処理剤は、マイクロプレート中で該前処理剤で前処理を行い、引き続いてリムルス反応を行う測定に有効に使用される。特にカイネティック法における2波長同時測光による測定に好適に使用できるので、迅速、的確な所望物質の測定が可能である。
一方、クロッティングエンザイムのプロテアーゼ活性の測定には、例えば、凝固酵素の天然基質であるコアギュローゲンを含有するβ−グルカン測定用のリムルス試薬に、カスケード反応で生成した凝固酵素が作用して生成するコアギュリンゲル形成反応を、例えば適当な機器(例えば、濁度測定装置、粘度測定装置等)で測定するか、または肉眼で判定するエンドトキシンの測定に採用されている方法(特公平4−14310等)を利用することができる。上記反応に使用されるリムルス試薬としては、ライセートのC因子を特異的に阻害または吸着、除去した試薬(β−グルカン用)が好適に使用される。これらのリムルス試薬には通常コアギュローゲンが含まれているが、もちろん別途添加してもよい。
本発明によるβ−グルカンの測定法は、真菌感染症、特に診断が極めて困難な深在性真菌感染症の早期診断に有用である。真菌感染症の診断を行うためには、真菌感染症が疑われる患者から採取した血液由来試料を本発明の前処理剤で処理した後、β−グルカンを測定し、血液中のβ−グルカンが一定量(正常値)を超えたときに患者が真菌感染症に罹患していると判断することができる。
本発明においては、本発明の前処理剤と、β−グルカン測定用リムルス試薬とを組み合わせることにより、所望の測定用キットを構成することができる。
本発明のキットは、必要により他の任意の構成試薬を付加することができる。そのような試薬としては、β−グルカンの一定量を含有する標準試薬、ブランクテスト用蒸留水、反応試薬溶解・反応用緩衝液等を挙げることができる。該緩衝液としては、グッド緩衝液(例えば、HEPES(N−2−ヒドロキシエチルピペラジン−N′−2−エタンスルホン酸)緩衝液等)、トリス−塩酸緩衝液等が例示できる。
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1−1:PRPへのβ−グルカン添加回収試験(前処理剤のKOH濃度)
血液1ml当たりヘパリンを5ユニット添加して採血した健常人の血液2mlを、150×g、10分間遠心分離して、多血小板血漿(PRP)を得た。
このPRP試料190μlにブクリョウ菌(Poria cocos)由来のβ−グルカン調製品(パキマン;斉藤ら、Agric.Biol.Chem.,32,1261−1269(1968)の方法に従って調製)の0.01M水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液(1.0ng/ml)を10μl加え、よく混合した後、その5μlをβ−グルカン・フリーのマイクロプレート(トキシペットプレート96F、生化学工業(株)販売、商品名)にとり、0〜1.0モル/lの範囲内で選択された水酸化カリウム(KOH)水溶液〔前処理剤〕20μlを加え(被検液中のKOH濃度は0〜0.8モル/lとなる)、37℃で10分間加温保持し、これを被検液とした。
被検液に存在するβ−グルカンの量は、以下の方法で定量した。Obayashi,T.et al.(Clin.Chim.Acta,149,55−65(1985))の方法にしたがってカブトガニ・アメボサイト・ライセートから調製したG因子系成分と発色合成基質(Boc−Leu−Gly−Arg−pNA(p−ニトロアニリド))とを含むβ−グルカン測定用発色合成基質法試薬凍結乾燥品(以下「Gテスト」という)を使用し、被検液25μlに0.2モル/lトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)で溶解したGテスト液50μlと蒸留水50μlを加え、37℃で30分間加温して反応させ、次いで0.04%(重量/容量)の亜硝酸ナトリウム(1モル/l塩酸溶液)50μl、0.3%(重量/容量)スルファミン酸アンモニウム50μlならびに0.07%(重量/容量)N−1−ナフチルエチレンジアミン二塩酸塩(14%(重量/容量)N−メチル−2−ピロリドン溶液)50μlを順次加えてジアゾカップリングし、マイクロプレートリーダーにより630nmを対照波長として545nmで吸光度を測定(545−630nm)することによって定量した。
表1に前処理剤溶液のKOH濃度を種々変化させて被検液中のKOH濃度を種々調整した場合のβ−グルカン添加回収率を、同一条件で前処理されたβ−グルカン無添加のPRPについての測定結果(吸光度)とともに示す。
Figure 0003614849
なお、表1中、KOH濃度(モル/l)はPRPを処理するときの被検液における濃度を示し、β−グルカン無添加被検液の吸光度は、β−グルカン無添加前処理PRPについての545−630nm測定の吸光度を示す。β−グルカン添加回収率は、β−グルカンを添加した被検液(β−グルカン添加前処理PRP)の回収率を、対照の測定値を100%とした場合の百分率として示す。該対照は、PRPの代わりに注射用生理食塩水を用い、前処理剤の代わりに注射用蒸留水を使用し、β−グルカンを添加したものと無添加について測定した値を基準とする。
表1によれば、注射用蒸留水のみによる処理では、β−グルカンは全く検出されず、被検液のKOHの濃度を増やして行くと回収率が著しく増加することが判る。また、KOHの濃度が0.6モル/lを超えるか、0.03モル/lより低濃度ではβ−グルカンの回収率が低下するが、0.04〜0.4モル/l程度の濃度となるように使用すれば、G因子系反応の偽陽性因子ならびに阻害因子(偽陰性因子)の影響を無くすことができ、PRP中のβ−グルカンの真の値を正確かつ高い信頼度を以て再現性よく検出することが可能であることが明らかである。
すなわち、β−グルカン無添加前処理PRPの吸光度が、β−グルカン無添加の対照のそれと同値であるような場合、PRP中のG因子系反応偽陽性因子が完全に変性されたことを示し、また、β−グルカンを添加して測定した実施例(β−グルカン添加前処理PRP)におけるβ−グルカンの回収率が100%である場合にPRP中のG因子系反応阻害因子(偽陰性因子)が完全に変性されていることを意味する。従って、これらの反応妨害因子を同時に変性失活させることができる条件、つまり、β−グルカン無添加前処理PRPの測定値が対照とほぼ同値で、かつβ−グルカン添加前処理PRPのβ−グルカン添加回収率がほぼ100%となる条件が理想的である。
表1の結果から被検液のKOH濃度が0.04〜0.4モル/lであるときが上記の理想的条件を満足する条件であることが示された。
実施例1−2:PRPへのβ−グルカン添加回収試験(前処理剤のNaOH濃度)
実施例1−1と同様の手段により調製したPRP試料190μlに実施例1−1と同じβ−グルカン調製品(パキマン)の0.01MNaOH水溶液(1.0ng/ml)を10μl加え(被検液中のNaOH濃度は、0〜0.8モル/lとなる)、よく混合した後、その5μlをトキシペットプレート96Fにとり、0〜0.8モル/lの範囲内で選択されたNaOH水溶液〔前処理剤〕20μlを加え、37℃で10分間保持加温し、これを被検液とした。
被検液に存在するβ−グルカンの量は、Gテストを使用し、実施例1−1と同様にして測定した。表2にNaOH濃度を種々変化させた場合のβ−グルカン添加回収率を、同一条件で前処理されたβ−グルカン無添加のPRPについての測定結果(吸光度)とともに示す。
Figure 0003614849
なお、表2中、NaOH濃度(モル/l)はPRPを処理するときの被検液における濃度を示し、β−グルカン無添加被検液の吸光度は、β−グルカン無添加前処理PRPについての545−630nm測定の吸光度を示し、β−グルカン添加回収率は、β−グルカンを添加した被検液(β−グルカン添加前処理PRP)の回収率を、対照の測定値を100%とした場合の百分率として示す。該対照は、PRPの代わりに注射用生理食塩水を用い、前処理剤の代わりに注射用蒸留水を使用し、β−グルカンを添加したものと無添加について測定した値を基準とする。
表2によれば、注射用蒸留水のみによる処理では、β−グルカンは全く検出されず、被検液中のNaOHの濃度を増やして行くと回収率が著しく増加することが判る。表2の結果から、実施例1−1のKOH水溶液を前処理剤として使用した場合と同様に、被検液中のNaOH濃度が0.04〜0.4モル/lとなるようなNaOH水溶液を前処理剤として使用したときに、PRP中の偽陽性因子及び偽陰性因子の影響を除去できることが判った。
実施例1−3:血清へのβ−グルカン添加回収試験(処理時間)
抗凝固剤を入れないで採血した健常人の血液3mlを4℃に1時間静置した後、1,000×g、10分間遠心分離して血清を得た。
この血清試料190μlに10pgの実施例1−1と同じβ−グルカン調製品(パキマン)を含有する水溶液10μlを添加した後、その5μlをトキシペットプレート96Fにとり、0.1モル/lのKOH水溶液〔前処理剤〕20μlを加え、37℃において所定の時間加温保持し、これを被検液とした。
そして、上記被検液に添加されたβ−グルカンを実施例1−1の場合と同様の手段により測定した。
各加温時間についての測定結果を実施例1−1の場合と同様に表3として示す。
Figure 0003614849
表3によると、加温時間0すなわち、該前処理剤を添加した後、直ちに被検液とした場合にはβ−グルカンの回収率は非常に低い。これに対して5分〜40分の加温時間を経たものを使用すれば血清に添加したβ−グルカンを定量的に検出することができた。すなわち、このような条件で前処理した際には偽陽性因子及び阻害因子を変性することができ、血清中のβ−グルカンの真の値を正確かつ高い信頼度を以て再現性よく検出することが可能であることが明らかである。
実施例1−4:PPPへのβ−グルカン添加回収試験(前処理温度)
血液1ml当たりヘパリンを5ユニット添加して採血した健常人の血液2mlを1,000×g、10分間遠心分離して、貧血小板血漿(PPP)を得た。このPPP試料190μlに40pgのアルカリゲネス・フェカリス・バール・ミキソゲネス(Alcaligenes faecalis var.myxogenes)IFO 13140由来のβ−グルカン(カードラン;和光純薬工業(株)販売)を含有する0.01モル/lNaOH水溶液10μlを添加した後、その5μlをトキシペットプレート96Fにとり、0.1モル/lKOH溶液20μlを加え、所定の温度において10分間加温保持し、これを被検液とした。
そして、上記被検液に添加されたβ−グルカンを実施例1−1の場合と同様の手段により測定した。各加温温度についての測定結果を実施例1−1の場合と同様に表4として示す。
Figure 0003614849
表4によれば、処理温度が4℃の場合にはβ−グルカンの回収率が低かったが、25℃以上の温度で処理すればPPPに添加したβ−グルカンを定量的に検出することができた。
実施例1−5:真菌感染症患者PRP検体の測定
真菌感染症の罹患が疑われる患者から実施例1と同様の方法で採血し、PRP検体を調製した。その5μlをトキシペットプレート96Fの各ウェルにとり、さらに0.1モル/lNaOH水溶液〔前処理剤〕20μlを加え、37℃で10分間加温保持し、被検液とした。以後実施例1−1と同様の手段によりGテストと反応させ、吸光度を測定した。実施例1−4と同じ既知量のカードランを標準試薬として用い、別に作成した検量線より上記被検液中のβ−グルカン含量を換算した結果を表5に示す。
Figure 0003614849
表5に示したように全例(No.1〜No.6)において高濃度のβ−グルカンが検出され(健常人のβ−グルカン含量:0.2±0.3pg/ml)、そのうちの3例(No.1〜No.3)については、血培にて、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)およびクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)をそれぞれ検出し、1例(No.4)は血培では陰性であったが、死亡後の解剖による組織病理学的検査によりアスペルギルス・フミガツス(Aspergillus fumigatus)を検出した。残り2例(No.5、No.6)については、臨床症状、経過、薬剤感受性等から真菌感染を強く疑ったにもかかわらず血培では陰性であったが、抗真菌剤(ミコナゾール)投与により、臨床的に顕著な改善を見たことから真菌に感染していたものと考えられる。
従って、真菌感染症患者のPRPを本発明の前処理剤で処理した後にβ−グルカンを測定することによって、真菌感染症、とりわけ通常の検査法では診断がきわめて困難な深在性真菌感染症の診断を迅速かつ正確に行うことができた。
実施例1−6:真菌感染症患者血清検体の測定
真菌感染症の罹患が疑われる患者から実施例1−3と同様の方法で採血し、血清検体を調製した。その5μlをトキシペットプレート96Fの各ウェルにとり、さらに0.1モル/lKOH水溶液〔前処理剤〕20μlを加え、37℃で10分間加温保持し、被検液とした。以後実施例1−1と同様の手段によりGテストと反応させ、吸光度を測定した。実施例1−4と同じ既知量のカードランを標準試薬として用い、別に作成したの検量線より上記被検液中のβ−グルカン含量を換算した結果を表6に示す。
Figure 0003614849
表6に示したように全例(No.1〜No.5)において高濃度のβ−グルカンが検出され(健常人のβ−グルカン含量:0.2±0.2pg/ml)、そのうちの2例(No.1、No.2)については、血培にて、カンジダ・グリエルモンディ(Candida guilliermodi)およびカンジダ・クルセイ(Candida krusei)をそれぞれ検出し、1例(No.3)は血培では陰性であったが、死亡後の解剖による組織病理学的検査によりアスペルギルス・フミガツス(Aspergillus fumigatus)を検出した。残り2例(No.4、No.5)については、臨床症状、経過、薬剤感受性等から真菌感染を強く疑ったにもかかわらず血培では陰性であったが、抗真菌剤(アムホテリシンB、フルコナゾール)投与により、臨床的に顕著な改善を見たことから真菌感染症に感染していたものと考えられる。
従って、真菌感染症患者の血清を本発明の前処理剤で処理した後にβ−グルカンを測定することによって、真菌感染症、とりわけ通常の検査法では診断がきわめて困難な深在性真菌感染症の診断を迅速かつ正確に行うことができた。
実施例1−7:β−グルカン測定用ゲル化法(比濁法)キット
下記の構成試薬からなる、β−グルカン測定用ゲル化法(比濁法)キット(50検体用)を作成した。
(A)前処理剤 1.0ml
0.1モル/lNaOH水溶液
(B)G因子系反応試薬(凍結乾燥品) 適量
リムルス・ポリフェムス由来の市販ライセート(リムルスHSII−テストワコー,和光純薬工業(株)販売)に15%(W/V)デキストラン(分子量70,000)を添加し、3,500rpmで10分間遠心分離後、多孔性セルロースゲル(セルロファインGC−200m,生化学工業(株)販売)と混合し、ガラスフィルターで濾過し、その濾液を凍結乾燥したもの。
(C)G因子系反応試薬溶解・反応用緩衝液 5.0ml
0.1モル/lトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)
(D)標準β−グルカン試薬(凍結乾燥品) 適量
市販カードラン(実施例1−4参照)
(E)標準β−グルカン試薬溶解用蒸留水(β−グルカン・フリー)1.0ml
(F)ブランクテスト用蒸留水(β−グルカン・フリー)1.0ml
実施例1−8:β−グルカン測定用発色合成基質法キット
下記の構成試薬からなる、β−グルカン測定用発色合成基質法キット(100検体用)を作成した。
(A)前処理剤 2.0ml
0.1モル/lKOH水溶液
(B)G因子系反応試薬(凍結乾燥品) 適量
タキプレウス・トリデンタツス由来のライセートに15%(W/V)デキストラン(分子量40,000)を添加し、3,500rpmで10分間遠心分離後、孔径0.20μmのナイロン膜フィルター(ナルゲンシリンジフィルター,直径25mm,ナルジェ社製)を通過させ、通過液をMS混液(0.8M塩化マグネシウムと6mM Boc−Leu−Gly−Arg−pNAとを含む)に添加し、凍結乾燥したもの。
(C)G因子系反応試薬溶解・反応用緩衝液 5.0ml
0.2モル/lトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)
(D)標準β−グルカン試薬(凍結乾燥品) 適量
ブクリョウ菌由来のβ−グルカン調製品(パキマン)(実施例1−1参照)
(E)標準β−グルカン試薬溶解用蒸留水(β−グルカン・フリー)2.0ml
(F)ブランクテスト用蒸留水(β−グルカン・フリー) 2.0ml
カブトガニ・アメボサイト・ライセートの(1→3)−β−D−グルカン及びエンドトキシンによるカスケード反応の反応機構を示す。

Claims (9)

  1. リムルス反応を利用して試料中の(1→3)−β−D−グルカンを測定する際に、リムルス反応に対する反応妨害因子を含む試料をリムルス反応に先立って処理するために使用する前処理剤であって、アルカリ金属水酸化物を試料中の濃度が0.04〜0.4モル/lとなるように含有する水溶液である前処理剤。
  2. 複数の溶液として保存され、使用時に該溶液が混合されることを特徴とする請求項1記載の前処理剤。
  3. リムルス反応に対する反応妨害因子を含む試料中に含まれる(1→3)−β−D−グルカンを、該反応を利用して検出する際に、リムルス反応に先立って試料を処理するための前処理方法において、請求項1または2に記載された前処理剤と試料を混合し、加温することを特徴とする前処理方法。
  4. 試料が血液由来の試料である請求項3記載の前処理方法。
  5. リムルス反応を利用して試料中の(1→3)−β−D−グルカンを測定する方法であって、試料を請求項3または4に記載の方法で前処理し、処理後の試料をリムルス試薬と混合して反応させ、基質の変化を検出することを特徴とする測定法。
  6. 少なくとも下記の構成試薬からなることを特徴とする(1→3)−β−D−グルカンを測定するための測定用キット。
    (A)請求項1記載の前処理剤。
    (B)カブトガニ・アメボサイト・ライセートを原料として得られたリムルス試薬。
  7. (B)のリムルス試薬が、(1→3)−β−D−グルカンに特異的に反応するリムルス試薬である請求項6記載の測定用キット。
  8. 構成試薬として、さらに下記(C)を含むことを特徴とする請求項6記載の測定用キット。
    (C)(1→3)−β−D−グルカンの一定量を含む標準試薬。
  9. 生体由来の試料中の(1→3)−β−D−グルカンを請求項5の測定法で定量し、該物質の測定値が一定量を超えたときに感染症に罹患した生体に由来する試料であると判定することを特徴とする試料の判定方法。
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