JP3614496B2 - 耐食性に優れたエンボス仕上げステンレス鋼板及び製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、意匠性や防眩性が付与され、且つ耐食性に優れたエンボス仕上げステンレス鋼板及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ステンレス鋼は、代表的な耐食材料として各種用途で使用されている。特に最近では、屋根材,外装材等の建築用資材として使用され始めている。この種の用途では、単に腐食による穴開きが生じないという機能面が要求されるだけでなく、発銹に起因した見栄えの劣化も嫌われる。
屋根材,外装材等の建築用資材として使用される鋼材には、SUS304,SUS316等に代表されるオーステナイト系ステンレス鋼がある。しかし、オーステナイト系ステンレス鋼では、海塩粒子が飛散する海岸地区等の環境では顕著な発銹があり、外観が著しく損なわれる。また、オーステナイト系ステンレス鋼は、フェライト系ステンレス鋼に比較して熱膨張係数が大きく、長尺の屋根材として使用した場合に温度サイクルに起因して材質が劣化する。このようなことから、フェライト系ステンレス鋼が屋根材,外装材等として使用されるようになってきた。
【0003】
フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼に比較して一般的に耐食性が劣る。たとえば、代表鋼種であるSUS430は、腐食環境の緩やかな田園地帯においても比較的短時間で赤錆が発生し、耐食性や耐候性が十分でない。また、溶接時の加熱・冷却によって粒界腐食が発生し易い欠点もある。耐候性はCr量の増加やMoの添加,Nb,Ti等の安定化元素の添加によって改善され、低炭素・低窒素30Cr−2Mo−Nb鋼,22Cr−1.2Mo−Nb−Ti−Al鋼のように耐候性に優れた材料が開発されている。なかでも、Nb,Ti及びAlを複合添加した鋼は、酸洗後の耐候性に優れており、建築用途に好適な材料である。
ところで、屋根材等の建築用資材として使用されるステンレス鋼は、表面光沢を抑えた防眩性が望まれている。しかし、フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼に比較して酸洗仕上げ後の表面が光沢に富み、屋根材等として使用する上では不利になる。そこで、ダル仕上げ,エンボス仕上げ等によって、フェライト系ステンレス鋼に防眩性を付与している。特に、壁材やフロント材等では防眩性だけではなく、意匠性を付与するためにエンボス仕上げを採用する場合が多い。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
各種の仕上げを工業生産ベースで行う場合、仕上げごとに鋼種を変更することは経済的に不利であり、同一鋼種で各種仕上げに適用できることが必要となる。具体的には、Nb,Ti及びAlを複合添加した鋼についてみると、2D仕上げ或いはダル仕上げだけでなく、エンボス仕上げにも適用できる必要がある。
エンボス仕上げ材を製造する従来の工程では、大気中で焼鈍・酸洗処理を施した冷延鋼板を、エッチング加工されたエンボスロールで軽圧延し、光輝焼鈍によって歪み取りしている。しかし、Alを含むステンレス鋼を光輝焼鈍すると、Alが優先酸化し、光輝焼鈍後の耐食性が著しく低下する。
単に歪み取りだけであれば、ダル仕上げ材の製造方法として特開平6−182401号公報で紹介されているように、エンボス圧延後に大気焼鈍し、酸洗処理することが考えられる。しかし、意匠性が要求されるエンボス仕上げ材では、常法に従って焼鈍・酸洗すると意匠性,表面色調の均質性等に問題が生じる。
【0005】
エンボス仕上げでは、ダル仕上げと異なり、圧延後にロール周面のパターンを被仕上げ材の表面に均一に転写させることが要求される。しかも、エンボス仕上げに使用される圧延ロールの表面に付けた凹凸は、ダルロール周面の凹凸と異なり、結果として仕上げ材の凹凸も大きく異なる。すなわち、ショット等によって部分的に凹を付けたダルロールを用いるダル仕上げでは、板の表面に部分的な凸が生じるだけである。他方、エッチングによって部分的に凸部を残したエンボスロールを用いるエンボス仕上げでは、板の表面に凹部が形成される。凹部は、圧延後に焼鈍・酸洗を施した場合、スケールを残存させる原因となり、これによって耐食性は勿論、意匠性や色調均質性も損なわれるものと推察される。
【0006】
屋根材,外装材等としての用途では、複数枚のステンレス鋼板を張り合せることが多い。張り合せた各ステンレス鋼板の間で色調に相違があると、施工後の屋根や外壁等の見栄えが劣化する。この色調の相違は、ステンレス鋼を単板で観察したときにはほとんど認識できないものであるが、複数のステンレス鋼板を張り合せることによって強調される。そのため、各ステンレス鋼単板の間で僅かに相違する色調も問題となる。
しかし、耐候性に優れている高Crフェライト系ステンレス鋼は、一般的に酸洗性が悪く、酸洗後の表面状態が不安定である。たとえば、通常の方法で製造した高Crフェライト系ステンレス鋼は、微妙な酸洗条件の違いやダル圧延条件の影響を受けて、色調が変化する場合がある。
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、エンボス圧延された鋼板の酸洗前後における表面状態を制御することにより、耐食性,耐候性に優れ、極めて高度の意匠性をもち、建築用資材として適したエンボス仕上げステンレス鋼板を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のエンボス仕上げステンレス鋼板は、その目的を達成するため、Cr:16〜35重量%及びMo:6重量%以下、必要に応じて更にAl:0.005〜0.3重量%を含むステンレス鋼を基材とし、エンボス加工後における材料の表面粗さRZ(μm)と3μm以上の差を持つ凹凸の単位長さ当りの個数n(個/mm)との積RZ×nが100以下であり、酸洗ままの表面に占める微細な化合物の残存率が20%以下であることを特徴とする。本発明では、更にNb:0.01〜1.0重量%,Ti:0.01〜0.5重量%,V:0.01〜0.3重量%及びCu:0.5重量%以下の1種又は2種以上を含むステンレス鋼板も使用可能である。
このエンボス仕上げステンレス鋼板は、Cr:16〜35重量%及びMo:6重量%以下を含むフェライト系ステンレス鋼を、エンボス加工後における材料の表面粗さRZ(μm)と3μm以上の差を持つ凹凸の単位長さ当りの個数n(個/mm)との積RZ×nが100以下となるようにエンボス圧延した後、大気雰囲気で焼鈍し、濃度5%以上の硝酸水溶液中で1A/dm2以上の電流密度で電解酸洗し、5%以上の硝酸及び0.5%以上のフッ酸を含み、硝酸:フッ酸の比率が2〜10の範囲に調整された混酸に浸漬する酸洗を施し、酸洗ままの表面に占める微細な化合物の占有面積率が20%以下に調整することにより製造される。エンボス圧延に先立って、調質圧延又はテンションレベラーにより形状修正することが好ましい。
【0008】
【作用】
本発明者等は、エンボス仕上げしたステンレス鋼板について、焼鈍及び酸洗条件が耐食性に及ぼす影響を調査・研究した。その結果、エンボス加工によって意匠性を高めたステンレス鋼板では、Alの優先酸化をきたす光輝焼鈍に替え、大気雰囲気での焼鈍が耐食性の確保に有効であることを見い出した。また、多くの実験結果から、RZ×n≦100の条件を満足させるエンボス加工と特定条件下の電解酸洗−混酸酸洗とを組み合わせることによって、エンボス加工特有の意匠性を損なうことなく、耐食性を向上できることを見い出した。
基材であるステンレス鋼板としては、たとえばC:0.05重量%以下,N:0.05重量%以下,Si:1.0重量%以下,Mn:1.0重量%以下,P:0.04重量%以下,S:0.03重量%以下,Ni:0.6重量%以下,Cr:16〜35重量%及びMo:6重量%以下を含むフェライト系ステンレス鋼が使用される。また、Alを含むフェライト系ステンレス鋼も、有効である。なかでも、比較的多量のCr及びMoを含む系は、酸洗時のデスケールが困難であるため、微細な化合物層の残存が生じる可能性が高く、本発明を適用したときの作用が顕著に発揮される。フェライト系ステンレス鋼は、更にNb,Ti,V,Cu等の1種又は2種以上を含むことができる。
【0009】
以下、本発明で使用するフェライト系ステンレス鋼に含まれる合金元素,含有量,表面状態等を説明する。
C,N:それぞれ0.05重量%以下
何れも不可避的にステンレス鋼に含まれる元素であり、C,Nの含有量を低減すると軟質になり、加工性が向上すると共に炭窒化物の生成が少なくなる。また、C,N含有量の低減に伴って、溶接性及び溶接部の耐食性が向上する。そこで、本発明においては、C及びN含有量の上限をそれぞれ0.05重量%に規定した。
Si:1.0重量%以下
溶接部の高温割れや靭性に対して有害な元素であると共に、ステンレス鋼を硬質にする。そのため、Si含有量は低いほど好ましく、本発明では上限を1.0重量%に規定した。
【0010】
Mn:1.0重量%以下
ステンレス鋼中に微量に存在するSと結合して可溶性硫化物MnSを形成し、耐候性を低下させる有害元素である。そこで、本発明では、Mn含有量の上限を1.0重量%に規定した。
P:0.04重量%以下
母材及び溶接部の靭性を損なうことから、P含有量は低いほど好ましい。しかし、含Cr鋼であるステンレス鋼の脱Pは困難であり、製造コストの上昇を招く。そこで、本発明においては、P含有量の上限を0.04重量%に規定した。
S:0.01重量%以下
耐候性及び溶接部の高温割れに悪影響を及ぼす有害な元素であり、S含有量は低いほど好ましい。そこで、本発明では、S含有量の上限を0.01重量%,より好ましくは0.003重量%に規定した。
【0011】
Ni:0.6重量%以下
フェライト系ステンレス鋼の靭性改善に有効な合金元素である。しかし、多量のNi含有は、鋼材コストを上げるばかりでなく、硬さを上昇させる原因となる。そこで、本発明においては、通常のフェライト系ステンレス鋼で不可避的不純物として混入されるレベルである0.6重量%に上限を規定した。
Cr:16〜35重量%
ステンレス鋼の耐食性を向上させる主要な合金元素であり、耐候性,耐孔食性,耐隙間腐食性及び一般耐食性を著しく向上させる。耐食性の改善は、16重量%以上のCr含有で顕著になる。しかし、35重量%を超える多量のCrが含まれると、著しい脆化が生じ、薄板製造,製品加工等が困難になる。
【0012】
Mo:6重量%以下
Crとの併用添加で鋼材の耐候性を向上させる有効な合金元素であり、その効果はCr含有量の増加に応じて大きくなる。また、Moは、溶液中に溶けてインヒビターの作用を持つ酸化物となり、仮に腐食が発生した場合でも腐食の進行を抑制する。このようなMoの作用は、0.8〜1.0重量%以上の添加で顕著になる。しかし、6重量%を超える多量のMo含有は、鋼材を硬質化し、靭性を低下させるため、薄板製造,製品加工等が困難になる。
Nb:0.01〜1.0重量%
必要に応じて添加される元素であり、C,N,S等を固定化し、本発明で規定したCレベルのフェライト系ステンレス鋼において問題とされる粒界腐食を防止する作用を呈する。Nbは、Tiと比較すると耐孔食性向上の効果は小さいが、0.01重量%以上の添加でC,Nを固定する効果が顕著になる。しかし、1重量%を超える多量のNb含有は、溶接部の靭性を阻害する。
【0013】
Ti:0.01〜0.5重量%
必要に応じて添加される元素であり、Sを固定してMnSの生成に起因した耐孔食性の低下を防止すると共に、C,Nを固定して粒界腐食を防止する作用を呈する。Tiの作用は、0.01重量%以上の含有量で顕著になる。しかし、0.5重量%を超えて多量のTiが含まれると、クラスター状の介在物TiNが生成し、素材に表面傷を発生させる原因となるばかりでなく、溶接部の靭性不良に起因して高周波造管性を低下させる。
V:0.01〜0.3重量%
必要に応じて添加される元素であり、Nb,Tiと同様にCを固定して粒界腐食を抑制することにより耐食性を向上させる作用を有する。この効果を発現させるためには、0.01重量%以上のVを含有されることが必要である。しかし、0.3重量%を超えるVを含有させても、Vの効果が飽和し、却って不経済になる。
【0014】
Cu:0.5重量%以下
必要に応じて添加される元素であり、亜硫酸ガス腐食環境下における耐候性を改善する作用を呈する。そのため、高濃度の亜硫酸ガス腐食環境に曝される建材としての用途では、有効な合金元素である。ただし、0.5重量%を超える多量のCu含有量は、固溶強化によって材料を硬質化し、加工性を低下させる欠点が生じる。
Al:0.005〜0.3重量%
必要に応じて添加される元素であり、酸洗後の皮膜を改質し、耐食性を向上させる作用を呈する。また、Tiと複合添加した場合、加熱時に優先的に酸化皮膜が形成されるため、Crの酸化損失が防止され、再不動態化能の低下が抑制される。しかし、Alは光輝焼鈍後の表面に濃縮する傾向が強く、光輝焼鈍仕上げ材やエンボス仕上げ材の耐食性を低下させる欠点をもつ。Al含有量が0.005重量%未満では、Al酸化皮膜が形成されにくい。逆に、0.3重量%を超えるAl含有量では、表層の皮膜がAl皮膜だけになり、Cr系不動態皮膜の生成が阻害される。
【0015】
エンボス圧延後の表面状態:
エンボス圧延した鋼板の防眩性及び色調は、表面の粗さ,換言すれば凹凸の深さ及び単位長さ当りの凹凸の個数によって影響される。なかでも、エンボス圧延後に焼鈍・酸洗処理する場合、酸洗後における凹凸と平滑部との境界に微細な酸化物層或いは化合物層が残存するため、材料の耐食性も表面粗さ及び3μm以上の差をもつ凹凸の個数による影響を受ける。本発明者等の研究結果から、表面粗さRzと3μm以上の差をもつ凹凸の単位長さ当りの個数n(個/mm)との積Rz×nを100以下とすることにより、良好な防眩性及び色調を確保し、且つ耐食性も改善されることが判明した。
積Rz×nは、鋼材表面にある微細な酸化物層或いは化合物層が残存する程度を経験的に求めた指標である。比較的酸洗性の良好なステンレス鋼では、積Rz×nが100以下であれば十分な耐食性が確保される。しかし、酸洗性の悪い高Crステンレス鋼では、積Rz×nが50を超えると多量の化合物層が残存する。そこで、本発明においては、積Rz×nを100以下,好ましくは50以下に規定した。
【0016】
酸洗条件:
エンボス仕上げした高Crステンレス鋼では、意匠性及び防眩性を確保しながら耐食性を向上させる上で、硝酸浴を使用した高電流密度の電解酸洗及び硝酸−フッ酸の混酸を使用した浸漬酸洗が有効である。硝酸電解は、酸洗プロセスの中でデスケールの役割を担っているため、1A/dm2 以上の電流密度及び5%以上の硝酸濃度が必要である。他方、混酸酸洗では、デスケール及び不動態化の双方を目的とすることから、硝酸:フッ酸の比率が2〜10で5%以上の硝酸濃度及び0.5%以上のフッ酸濃度が必要とされる。
酸洗条件によって孔食電位が異なる理由を、本発明者等は次のように推察した。酸洗工程で使用する混酸は、デスケール及び不動態化の両機能をもっている。なかでも、硝酸は不動態化の役割を担っており、フッ酸はデスケールの役割を担っている。そして、通常の冷延焼鈍材(2D材)では混酸浸漬までの段階でほとんどのスケールが除去されているのに対し、エンボス仕上げされた焼鈍材では、凹部のデスケールが不十分となり易く、混酸酸洗時にフッ酸によるデスケール作用を強くする必要があり、この差が図4に示したピーク値の相違となって表れるものと考えられる。
【0017】
形状修正:
エンボスロールの摩耗防止及びそれに伴うエンボス仕上げ材に付けた柄を均一化するために、エンボス圧延に先立って調質圧延又はテンションレベラーによる形状修正を行う。一般に、焼鈍・酸洗仕上げの材料は、焼鈍中及び冷却途中の熱歪みにより形状の崩れを発生している。このままの材料をエンボス圧延すると、柄が鮮明に転写される部分と不鮮明に転写される部分が発生する。柄の均一性を確保するために強度の圧下力でエンボス圧延すると、高価なエンボスロールの摩耗が大きくなる。また、圧延中にロールの柄が変化し、表面の柄が均一な製品が得られない。このような問題は、エンボス圧延に先立って、通常の平滑なロールを使用した調質圧延或いはテンションレベラーによる形状修正で解消され、鋼板とエンボスロールとの当りが均一化され、均一で鮮明なエンボス柄が鋼板表面に施される。
【0018】
【実施例】
実施例1:(焼鈍,エンボス加工,酸洗条件等が及ぼす影響の調査)
本発明では、(1)エンボス圧延後に大気焼鈍で歪み取りし、(2)エンボス圧延後の表面状態を積Rz ×n≦100に調整し、(3)エンボス圧延後の酸洗として特定条件下での電解酸洗及び混酸浸漬を採用している。そこで、これらの条件が及ぼす影響を調査した結果に基づき、条件(1)〜(3)の技術的意義を具体的に説明する。
0.16重量%のAlを含む30Cr−2Mo−Nb−Ti鋼を冷間圧延した素材に、実験室で表1に示す条件下の焼鈍を施した、焼鈍後に酸洗した素材の孔食電位を測定した。測定結果を併せ示す表1にみられるように、光輝焼鈍された材料は、何れの条件においても孔食電位が低くなっていた。これに対し、大気焼鈍した材料は、孔食電位が高く、優れた耐孔食性を示していることが判った。光輝焼鈍材の低い孔食電位は、表面分析の結果、材料表面に形成されているAlが著しく濃縮した層に由来するものと推察される。
【0019】
【表1】
【0020】
0.16重量%のAlを含む30Cr−2Mo−Nb−Ti鋼の冷延鋼板を、小柄のエンボス及び大柄のエンボスを付けた2種類のエンボスロールを使用して圧延した。エンボス仕上げされた鋼板の表面を三次元粗さ計で測定し、鋼板表面の粗さ及び凹凸のプロフィールを調査した。調査結果を、三次元的な斜視図として図1に示す。
2種類のエンボス仕上げ材それぞれを焼鈍酸洗し、80℃の20%NaCl水溶液中で孔食電位を測定した結果を図2に示す。孔食電位は、エンボス圧延されたままでは低い値を示すが、エンボス圧延によって著しく向上していることが図2から読み取れる。なかでも、図1(a)に示すような小柄のエンボスを付けたものでは、図1(b)の大柄エンボスを付けた鋼板に比較して孔食電位に大きなバラツキがあり、孔食電位自体も相対的に低い値を示した。
エンボスの程度が孔食電位に及ぼす原因を解明するため、エンボス圧延後に焼鈍酸洗した2種類の材料の表面を電子顕微鏡で観察し、オージェ電子分光分析装置で分析した。測定結果を示す図3のSEM像にみられるように、鋼板表面を大きく二つの領域に分けることができる。領域▲1▼は通常の鋼板表面にある平滑な部分、領域▲2▼はエンボス圧延で形成された凹部の底に当る。領域▲1▼のオージェ電子分光分析結果は、通常の不動態皮膜と同様な元素濃度分布を示している。しかし、領域▲2▼のオージェ電子分光分析結果をみると、大柄エンボス(b)を付けた鋼板の表面に比較して、小柄エンボス(a)を付けた鋼板表面では、深さ方向に関する酸素濃度が若干高くなっている。
【0021】
同様な調査を、他のエンボス柄及び酸洗条件で仕上げた材料についても行った。その結果、同一酸洗条件で処理したものでは、エンボス表面の凹凸が深く、密度が高いものほど、鋼板表面に残存する化合物が多く、孔食電位が低下する傾向を示した。そして、多数の実験結果を整理したところ、エンボス加工後における材料の表面粗さRz(μm)と3μm以上の差を持つ凹凸の単位長さ当りの個数n(個/mm)との積Rz×nを100以下とするとき、高い孔食電位が示され、耐孔食性に優れたエンボス仕上げ材となることが判った。
更に、同一のエンボス圧延材を使用して酸洗条件の影響を検討した。その結果、硝酸浴を使用した電解酸洗時の電流密度、化学酸洗に使用する混酸の硝酸濃度及びフッ酸濃度が高いものほど、良好な耐食性が得られる傾向にあることを見い出した。また、硝酸とフッ酸の比率も、耐食性の向上に影響していることが判った。
具体的には、通常の冷延材及びエンボス圧延材を焼鈍した後、ソルト浸漬及び5%の硫酸浸漬を経て、10%硝酸を使用して電流密度2.5A/dm2で電解酸洗した。そして、硝酸とフッ酸との濃度比率を変化させた混酸に電解酸洗後の鋼板を浸漬し、酸洗した材料の孔食電位を測定した。測定結果を硝酸とフッ酸との濃度比率で整理したところ、図4に示す結果が得られた。図4から明らかなように、冷延焼鈍材(2D材)では硝酸/フッ酸=5〜15で高い孔食電位が得られているのに対し、エンボス圧延材を焼鈍酸洗した場合には高い孔食電位が得られる適正範囲は硝酸/フッ酸=2〜10の範囲になっていた。
【0022】
実施例2:(各種ステンレス鋼のエンボス仕上げ)
本実施例では、表2に示した組成をもつ板厚1.5mmのステンレス冷延鋼帯を使用した。各冷延鋼帯を伸び率0.5%で調質圧延した後、柄が異なる3種類のエンボスロールを使用したエンボス圧延を施した。エンボス仕上げされた鋼帯から試験片を切り出し、実験室で大気焼鈍及び酸洗を施した。大気焼鈍としては、大気雰囲気に維持された電気炉で鋼帯を1050℃に加熱した。焼鈍された試験片を500℃のソルト中に浸漬した後、次の工程で酸洗した。
(1)55℃の5%硫酸浴への浸漬
(2)60℃の10%硝酸浴中で電流密度2.5A/dm2 で電解酸洗
(3)硝酸とフッ酸との濃度比率を種々変化させた55℃の混酸を使用した浸漬処理
酸洗後の孔食電位を測定し、エンボス仕上げ後の表面状態及び酸洗条件の相違が与える影響を調査した。表面状態を表す指標としては、エンボス仕上げ材の表面粗さRz と3μm以上の差をもつ凹凸の単位長さ当りの個数n(個/mm)との積Rz ×nを使用した。酸洗条件としては、混酸中における硝酸濃度,フッ酸濃度及び硝酸/フッ酸の濃度比を使用した。孔食電位の測定結果を、耐候性と併せて表3に示す。
【0023】
【表2】
【0024】
【表3】
【0025】
表3にみられるように、本発明例1〜3では、鋼種記号A,Bの組成が異なるものの、何れも良好な耐食性が示されていた。他方、酸洗条件が本発明で規定した範囲を外れる比較例4,5及びエンボス圧延後の表面状態が本発明で規定した範囲を外れる比較例6では、参考までに示したSUS316以上の孔食電位を呈するものの、本発明例1〜3と比較したとき十分な耐食性が得られていない。この対比から明らかなように、エンボス仕上げされた表面状態がRz ×n≦100を満足し且つ酸洗後の表面に占める化合物層の割合が20%以下であるとき、良好な高耐食性をもつエンボス仕上げ材となることが確認された。
【0026】
【発明の効果】
以上に説明したように、本発明においては、表面粗さ及び凹凸の個数との間に適正バランスをとった表面状態をエンボス仕上げで形成すると共に、酸洗後の鋼板表面に占める微細な化合物の残存率を低減することにより、意匠性及び防眩性に優れ、しかも耐食性が良好なエンボス仕上げステンレス鋼板を得ている。耐食性の改善は、特にAlを含む高Crフェライト系ステンレス鋼に対して有効である。また、エンボス圧延前に鋼板を形状修正するとき、均一性の高いエンボス柄が付けられ、意匠性に優れたエンボス仕上げステンレス鋼板が製造される。このようにして製造されたステンレス鋼板は、屋根材,内装材,貯水槽や屋外タンク等の外装構造材として広範な分野で使用される。
【図面の簡単な説明】
【図1】大柄エンボス模様及び小柄エンボス模様を付けたロールを使用してエンボス圧延した鋼板それぞれの表面状態を三次元表面粗さで示す。
【図2】エンボス仕上げ後に酸洗処理した鋼板の孔食電位をエンボス柄ごとに示したグラフ
【図3】エンボス仕上げ後に酸洗処理した鋼板の微視的表面状態及び元素濃度分布をエンボス柄ごとに示した図表
【図4】冷延焼鈍後とエンボス圧延焼鈍後で酸洗条件の適正範囲が異なることを示したグラフ
Claims (5)
- Cr:16〜35重量%及びMo:6重量%以下を含むステンレス鋼を基材とし、エンボス加工後における材料の表面粗さRZ(μm)と3μm以上の差を持つ凹凸の単位長さ当りの個数n(個/mm)との積RZ×nが100以下であり、酸洗ままの表面に占める微細な化合物の残存率が20%以下である耐食性に優れたエンボス仕上げステンレス鋼板。
- 請求項1記載のステンレス鋼が更にAl:0.005〜0.3重量%を含むものであるエンボス仕上げステンレス鋼板。
- 請求項1又は2記載のステンレス鋼が更にNb:0.01〜1.0重量%,Ti:0.01〜0.5重量%,V:0.01〜0.3重量%及びCu:0.5重量%以下の1種又は2種以上を含むものであるエンボス仕上げステンレス鋼板。
- 請求項1〜3の何れかに記載の基材ステンレス鋼を、エンボス加工後における材料の表面粗さRZ(μm)と3μm以上の差を持つ凹凸の単位長さ当りの個数n(個/mm)との積RZ×nが100以下となるようにエンボス圧延した後、大気雰囲気で焼鈍し、濃度5%以上の硝酸水溶液中で1A/dm2以上の電流密度で電解酸洗し、5%以上の硝酸及び0.5%以上のフッ酸を含み、硝酸:フッ酸の比率が2〜10の範囲に調整された混酸に浸漬する酸洗を施し、酸洗ままの表面に占める微細な化合物の占有面積率が20%以下に調整するエンボス仕上げステンレス鋼板の製造方法。
- 請求項4記載のエンボス圧延に先立って、調質圧延又はテンションレベラーにより形状修正するエンボス仕上げステンレス鋼板の製造方法。
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KR102326257B1 (ko) * | 2021-05-31 | 2021-11-16 | 주식회사 포스코 | 친수성 및 도전성이 우수한 강판 |
KR102326258B1 (ko) * | 2021-05-31 | 2021-11-16 | 주식회사 포스코 | 친수성 및 도전성이 우수한 강판 |
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1995
- 1995-02-28 JP JP06509595A patent/JP3614496B2/ja not_active Expired - Fee Related
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KR102326257B1 (ko) * | 2021-05-31 | 2021-11-16 | 주식회사 포스코 | 친수성 및 도전성이 우수한 강판 |
KR102326258B1 (ko) * | 2021-05-31 | 2021-11-16 | 주식회사 포스코 | 친수성 및 도전성이 우수한 강판 |
WO2022255731A1 (ko) * | 2021-05-31 | 2022-12-08 | 포스코홀딩스 주식회사 | 친수성 및 도전성이 우수한 강판 |
WO2022255732A1 (ko) * | 2021-05-31 | 2022-12-08 | 포스코홀딩스 주식회사 | 친수성 및 도전성이 우수한 강판 |
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JPH08239778A (ja) | 1996-09-17 |
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