JP3613943B2 - 音源特性認識方法及び装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は音源特性認識方法及び装置に関し、特に多数の独立した音源信号の特性(信号の大きさ・周波数特性)を認識する方法及び装置に関するものである。
【0001】
【従来の技術】
一般に、騒音低減のためには、音源対策や伝播特性の改善を行うが、そのためには、音源位置・音源特性(信号の大きさ・周波数特性)の把握や伝播経路の把握が必要であり、これらを、正確かつ迅速に行う手法が求められる。
【0002】
実際の機械騒音では、独立した音源が一つである場合は希であり、多数の独立した音源が混在して同時に音を放射している場合が多い。
【0003】
図3は、K個の互いに独立した音源信号ui (i = 1,2, ・・・,K) をN個の入力信号(例えばコンポーネント近接音)測定用マイクと1個の出力信号(例えば車外騒音)測定用マイクで測定する多入力単出力 (MISO) システムを示す。
【0004】
N個の入力信号はxj (j = 1,2, ・・・,N) 、音源信号との線形伝達関数はgijで表わされる。また、yは出力信号、hijは入出力信号間の線形伝達関数を示す。
【0005】
通常、音源信号を直接測定することは困難であり、また、音源数は不明であるのでN>Kであり、音源及び入力信号の相互スペクトル行列をそれぞれ、[SUU] ,[Sxx] とし、音源、入力信号間の線形伝達行列を [G] とすると、次式の関係が得られる。
【数1】
【0006】
xj は線形重ね合わせによって互いに独立ではない。ここで、[Sxx] に特異値分解(SVD )を適用すると、次式のようになる。
【数2】
これは独立した各軸成分がどの位の大きさであるかを示すものである。ただし、[Σ] は [Sxx]の特異値を含む対角行列、[V] はユリタリ行列、[V]H は [V] エルミート行列である。
式(2) より、独立した音源数Kは、[Sxx] のランク、すなわち、[Σ] の0でない特異値の数により求まる。
【0007】
しかしながら、実際の入力信号には、測定・計算誤差によるノイズが含まれるから、独立した音源数は、[Σ] における物理的に意味のある特異値の数から推定することになる。また、N個の入力信号測定マイクから、最適なK個を選択することにより、独立した音源の位置を概略把握することができる。
【0008】
選択したK個の入力信号を独立な音源信号の組み合せとすると、出力信号スペクトルSYYP は、次式で与えられる。
【数3】
ここで、 [H] は選択したK 個の入力信号と出力信号間の伝達関数ベクトルであり、入出力信号間の相互スペクトルベクトル[SXY]を用いて次式で求められる。
【数4】
【0009】
以上により、多入力単出力システムの同定が可能となる。
上記の最適な入力信号の選択方法としては従来より、主に以下の2種類の手法が報告されている。
【0010】
(1)条件数を用いた方法(コンディションナンバー法):任意のK 入力信号における最大特異値σ1 と最小特異値σk の比である条件数cn=σ1/σk が、最小となる組み合わせを音源位置に最も近い入力信号の最適な組み合わせとして選択する方法である。この手法では、最適な信号の組み合わせを選択するために、全ての組み合わせ(N!/K!(N−K)!通り)の計算を行う。
【0011】
(2)偏関連度関数(パーシャルコヒーレンス)を用いた方法:N個の各入力信号xi と出力信号yの関連度関数γxiy=|Sxiy|2/Sxixiを求め、その値が最大となる(最も関連している)入力信号xi1を第1に選択する。次にこの入力信号xi1に相関のある成分を除いた入力信号と出力信号の偏関連度関数γxiy・xil 2=|Sxiy・xil|2/Sxixi・xilSyy・Xilを求め、その値が最大となる入力信号xi2を第2に選択し、同様に音源数K個の入力信号を選択する。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来の入力信号選択方法により騒音低減のために音源対策を検討する場合、音源信号の大きさや周波数特性を考慮していないため、音源寄与率の把握や音源変更時の出力信号予測ができず、有効な音源対策ができないという課題があった。
【0013】
また、その音源となる物体が狭い空間内に配置されているような場合には、従来より知られている音響インテンシティ法や音響ホログラフィ法等を適用して音源位置・音源特性を把握することは物理的に不可能である。
【0014】
したがって本発明は、多数の独立して同時に放射される音源信号の中から選択した音源信号の特性を認識できる方法及び装置を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
多入力単出力系の測定信号から、上記の如く従来より知られている方法により選択された音源位置に最も近い入力信号で構成される相互スペクトル行列に、特異値分解を適用すると、音源数に等しい特異値がその大きさ順に得られる。得られた特異値は、音源位置に最も近い入力信号を、数学的に独立した信号に変換したものであり、音源信号が互いに独立であることから、両者は対応すると考えられる。
【0016】
ただし、上述の様に、特異値はその大きさ順に算出されるため、この結果から、音源信号の大きさや周波数特性を、直接読み取ることはできない。そこで、本発明では、この特異値を並べ替え、音源特性を把握し得るようにしたものである。これを以下に具体的に説明する。
【0017】
上記の如く選択されたK個の入力信号で構成される相互スペクトル行列 [SXX] に、特異値分解を適用すると、上記の式(2) と同様に次式が得られる。
【数5】
ここで、[Σ]は [SXX]の特異値を含む対角行列、[V]はユニタリ行列、[V]Hは[V]のエルミート行列である。
【0018】
[Σ]の対角成分に大きさ順に並んでいる特異値の並べ替えを行うために、並べ替え行列[ R ]KXK暫定行列[B]KXKを定義し、先ず、[B]の要素bij( i,j=1,2,・・・,K)を次式に示すように、[V]の要素vijのノルムと等しいと置く。
【数6】
【0019】
次に、行列[B]の最大要素を見出す。最大要素がbr1c1であれば、行列[R], [B]のr1行c1列における各要素を次式のとおりとする。
【数7】
【0020】
なお、行列[R]の要素は、rijである。同様に、行列[B]の新しい最大要素を見出し、式(7) に従う。この操作をK回繰り返すことで、各行各列に“1”の値を持つ要素が1個のみ存在し、他は“0”である行列[R]の全要素が定義される。
【0021】
この行列[R]を用いて、並べ替え特異値を含む行列[Σ*]が次式により求められる。
【数8】
【0022】
したがって、[Σ*]の各行毎の並べ替え特異値を観察することで、音源特性を把握できる。
【0023】
以上のことから、本発明に係る音源特性認識方法では、多数の独立した音源信号の複数の任意点の音圧信号を測定し、該測定した信号を周波数領域の信号に変換するとともに該変換した信号の内、音源位置に最も近い音源信号として選択された所定数の信号で構成される相互スペクトル行列に特異値分解を適用して特異値を算出し、該特異値を音源信号の大きさや周波数特性を把握するための並べ替え行列を用いて並べ替えし該観測点での騒音の音源特性を認識することを特徴としている。
【0024】
この場合、並べ替え行列は、最大要素に対応して各行各列に1の値を持つ要素が1個だけ存在し他は0であり、該並べ替え行列を該相互スペクトル行列に掛ければよい。
【0025】
また、上記の本発明に係る音源特性認識方法を実施するために使用される装置としては、多数の独立した音源信号の複数の任意点の音圧信号を測定するマイクと、該測定した信号を周波数領域の信号に変換する周波数分析器と、該周波数分析器で変換した信号の内、音源位置に最も近い音源信号として選択された所定数の信号で構成される相互スペクトル行列に特異値分解を適用して特異値を算出し、該特異値を音源信号の大きさや周波数特性を把握するための並べ替え行列を用いて並べ替えし観測点で問題となる騒音の音源特性を認識する演算部と、を備えたことを特徴とするものであればよい。
【0026】
この場合、該演算部は、該並べ替え行列が、最大要素に対応して各行各列に1の値を持つ要素が1個だけ存在し他は0であり、該並べ替え行列を該相互スペクトル行列に掛ければよい。
【0027】
なお、従来の“メンバーシップ行列”を用いた方法では、式(7) の第1式のみを考慮した行列[R]を用いているため、ノイズを多く含む実際のデータでは、特異値の交差部で、精度が大きく落ちるが、本発明ではこのような欠点は回避することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明に係る音源特性認識方法及び装置の検証を目的として行った試験装置を示す。信号発生器SG1〜SG3から発生された図示のような3つの互いに無相関な波形の音源信号(u1,u2,u3)を各スピーカSP1〜SP3から放射する。
【0029】
そして、6個の入力信号測定用マイクM1〜M6で入力信号(x1,x2,x3,x4,x5,x6)を測定する。測定した各信号は、周波数分析器FAに一旦入力されて時間領域信号から周波数領域信号に変換された後、コンピュータCOMに送られ、上記の演算処理が実行される。
【0030】
この試験では、従来より知られた方法により選択された、音源位置に最も近い3個の入力信号(x1,x2,x3)に、特異値分解及び“特異値の並べ替え法”を適用し、音源信号が把握できることを検証する。
【0031】
図2(a)は、全ての入力信号(x1,x2,x3,x4,x5,x6)から成る相互スペクトル行列に、上記の式(5) により特異値分解を適用し、得られた特異値を図示したものである。値の大きな3本(実線特性▲1▼、破線特性▲2▼、一点鎖線特性▲3▼)が音源信号によるものを表わし、他の特性群▲4▼はノイズによるものである。
【0032】
同図(b)は、選択された3個の入力信号(x1,x2,x3)から成る相互スペクトル行列に、特異値分解を適用した結果であり、同図(a)における実線特性▲1▼、破線特性▲2▼、一点鎖線特性▲3▼のみが残った形となっている。
【0033】
同図(c)は、同図(b)の特異値を上記の式(8) に従って並べ替えた結果である。同図(c)より、3個の無相関音源信号(u1,u2,u3)を把握できることが分かる。
【0034】
すなわち、同図(b)の場合には、3個の入力信号(x1,x2,x3)に特異値分解を適用したことにより、その特異値は常に大きい方から順番に並んでおり、最も大きい特性▲1▼は常に最も大きい値を取り、特性▲2▼は常に2番目に大きい値を取り、そして特性▲3▼は常に最小の値を取っている。これは、特異値分解の数学的な演算結果によるものであるからである。
【0035】
一方、同図(c)の場合には、特性▲1▼が常に大きいのではなく、最初は最小値を取り、その後、特性▲2▼と交差して2番目に大きい値を取り、次に特性▲2▼と交差して最大値を取る。その後、今度は逆に特性▲3▼より小さくなり、さらに特性▲2▼よりも小さくなって最小値を取るようになる。
【0036】
これらの特性▲1▼〜▲3▼は図1の音源信号(u1,u2,u3)の波形(周波数特性)と比較すると、非常に類似していることが分かる。
【0037】
このような特性▲1▼〜▲3▼による各音源の周波数特性を得ることにより、どうしてそのような音源が発生するのかを経験的に知ることが出来る。例えば、特性▲1▼は最もピークが顕著なものとなっており、この音源が車両エンジンのオイルパンに位置していれば、そのオイルパンの共振と推定することができる。これにより、その騒音対策を講じることが可能となる。
【0038】
また、上記の本発明の応用例として、“特異値の並べ替え法”により把握した音源信号と、測定した入出力信号間の伝達関数を用いて、出力信号予測モデルを構築し、音源寄与率の把握や音源信号変更時の出力信号予測が可能となる。このために、マイクMOで出力信号(y)を測定する。
【0039】
音源数K個の場合の出力信号スペクトルSYYPは上記の式(3)で与えられる。
【0040】
したがって、m番目(m=1,2,・・・,K)の音源寄与率CFISmは、次式で求めることができる。
【数9】
【0041】
ただし、[Im]KXKは、m行m列目の要素のみが“1”で、他は全て“0”の行列であり、SYYPmは、音源mのみが存在する場合の出力信号スペクトル計算値である。
【0042】
また、音源信号変更時の出力信号予測においては、m番目の音源信号umをam倍すると、次式のようになる。
【数10】
【0043】
この場合の出力信号スペクトル計算値SYYP’は、次式で求められる。
【数11】
【0044】
ここで、[A]kxkは、m行m列目の要素のみがam 2で、他は全て0の行列である。
【0045】
【発明の効果】
以上のように本発明に係る音源特性認識方法及び装置によれば、多入力単出力系の測定信号から、既知の方法により選択された音源位置に最も近い入力信号で構成される相互スペクトル行列に特異値分解を適用して算出された特異値を並べ替えて物理的に意味のある値にし、該観測点での騒音の音源特性を認識するように構成したので、数学的に独立した信号から物理的な音源信号を把握することが可能となる。
【0046】
この結果、音源寄与率の把握や音源変更時の出力信号予測が可能となり、有効な音源対策を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る音源特性認識方法の実施に使用される装置の一実施例を示したブロック図である。
【図2】本発明に係る音源特性認識方法及び装置により得られる音源信号の周波数特性を示したグラフ図である。
【図3】音源信号に関する一般的な多入力単出力システムを説明するためのブロック図である。
【符号の説明】
u1,u2,u3 音源信号
SG1〜SG3 信号発生器
SP1〜SP3 スピーカ
M1〜M6 入力信号測定用マイク
FA 周波数分析器
COM コンピュータ
図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
本発明は音源特性認識方法及び装置に関し、特に多数の独立した音源信号の特性(信号の大きさ・周波数特性)を認識する方法及び装置に関するものである。
【0001】
【従来の技術】
一般に、騒音低減のためには、音源対策や伝播特性の改善を行うが、そのためには、音源位置・音源特性(信号の大きさ・周波数特性)の把握や伝播経路の把握が必要であり、これらを、正確かつ迅速に行う手法が求められる。
【0002】
実際の機械騒音では、独立した音源が一つである場合は希であり、多数の独立した音源が混在して同時に音を放射している場合が多い。
【0003】
図3は、K個の互いに独立した音源信号ui (i = 1,2, ・・・,K) をN個の入力信号(例えばコンポーネント近接音)測定用マイクと1個の出力信号(例えば車外騒音)測定用マイクで測定する多入力単出力 (MISO) システムを示す。
【0004】
N個の入力信号はxj (j = 1,2, ・・・,N) 、音源信号との線形伝達関数はgijで表わされる。また、yは出力信号、hijは入出力信号間の線形伝達関数を示す。
【0005】
通常、音源信号を直接測定することは困難であり、また、音源数は不明であるのでN>Kであり、音源及び入力信号の相互スペクトル行列をそれぞれ、[SUU] ,[Sxx] とし、音源、入力信号間の線形伝達行列を [G] とすると、次式の関係が得られる。
【数1】
【0006】
xj は線形重ね合わせによって互いに独立ではない。ここで、[Sxx] に特異値分解(SVD )を適用すると、次式のようになる。
【数2】
これは独立した各軸成分がどの位の大きさであるかを示すものである。ただし、[Σ] は [Sxx]の特異値を含む対角行列、[V] はユリタリ行列、[V]H は [V] エルミート行列である。
式(2) より、独立した音源数Kは、[Sxx] のランク、すなわち、[Σ] の0でない特異値の数により求まる。
【0007】
しかしながら、実際の入力信号には、測定・計算誤差によるノイズが含まれるから、独立した音源数は、[Σ] における物理的に意味のある特異値の数から推定することになる。また、N個の入力信号測定マイクから、最適なK個を選択することにより、独立した音源の位置を概略把握することができる。
【0008】
選択したK個の入力信号を独立な音源信号の組み合せとすると、出力信号スペクトルSYYP は、次式で与えられる。
【数3】
ここで、 [H] は選択したK 個の入力信号と出力信号間の伝達関数ベクトルであり、入出力信号間の相互スペクトルベクトル[SXY]を用いて次式で求められる。
【数4】
【0009】
以上により、多入力単出力システムの同定が可能となる。
上記の最適な入力信号の選択方法としては従来より、主に以下の2種類の手法が報告されている。
【0010】
(1)条件数を用いた方法(コンディションナンバー法):任意のK 入力信号における最大特異値σ1 と最小特異値σk の比である条件数cn=σ1/σk が、最小となる組み合わせを音源位置に最も近い入力信号の最適な組み合わせとして選択する方法である。この手法では、最適な信号の組み合わせを選択するために、全ての組み合わせ(N!/K!(N−K)!通り)の計算を行う。
【0011】
(2)偏関連度関数(パーシャルコヒーレンス)を用いた方法:N個の各入力信号xi と出力信号yの関連度関数γxiy=|Sxiy|2/Sxixiを求め、その値が最大となる(最も関連している)入力信号xi1を第1に選択する。次にこの入力信号xi1に相関のある成分を除いた入力信号と出力信号の偏関連度関数γxiy・xil 2=|Sxiy・xil|2/Sxixi・xilSyy・Xilを求め、その値が最大となる入力信号xi2を第2に選択し、同様に音源数K個の入力信号を選択する。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上記のような従来の入力信号選択方法により騒音低減のために音源対策を検討する場合、音源信号の大きさや周波数特性を考慮していないため、音源寄与率の把握や音源変更時の出力信号予測ができず、有効な音源対策ができないという課題があった。
【0013】
また、その音源となる物体が狭い空間内に配置されているような場合には、従来より知られている音響インテンシティ法や音響ホログラフィ法等を適用して音源位置・音源特性を把握することは物理的に不可能である。
【0014】
したがって本発明は、多数の独立して同時に放射される音源信号の中から選択した音源信号の特性を認識できる方法及び装置を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
多入力単出力系の測定信号から、上記の如く従来より知られている方法により選択された音源位置に最も近い入力信号で構成される相互スペクトル行列に、特異値分解を適用すると、音源数に等しい特異値がその大きさ順に得られる。得られた特異値は、音源位置に最も近い入力信号を、数学的に独立した信号に変換したものであり、音源信号が互いに独立であることから、両者は対応すると考えられる。
【0016】
ただし、上述の様に、特異値はその大きさ順に算出されるため、この結果から、音源信号の大きさや周波数特性を、直接読み取ることはできない。そこで、本発明では、この特異値を並べ替え、音源特性を把握し得るようにしたものである。これを以下に具体的に説明する。
【0017】
上記の如く選択されたK個の入力信号で構成される相互スペクトル行列 [SXX] に、特異値分解を適用すると、上記の式(2) と同様に次式が得られる。
【数5】
ここで、[Σ]は [SXX]の特異値を含む対角行列、[V]はユニタリ行列、[V]Hは[V]のエルミート行列である。
【0018】
[Σ]の対角成分に大きさ順に並んでいる特異値の並べ替えを行うために、並べ替え行列[ R ]KXK暫定行列[B]KXKを定義し、先ず、[B]の要素bij( i,j=1,2,・・・,K)を次式に示すように、[V]の要素vijのノルムと等しいと置く。
【数6】
【0019】
次に、行列[B]の最大要素を見出す。最大要素がbr1c1であれば、行列[R], [B]のr1行c1列における各要素を次式のとおりとする。
【数7】
【0020】
なお、行列[R]の要素は、rijである。同様に、行列[B]の新しい最大要素を見出し、式(7) に従う。この操作をK回繰り返すことで、各行各列に“1”の値を持つ要素が1個のみ存在し、他は“0”である行列[R]の全要素が定義される。
【0021】
この行列[R]を用いて、並べ替え特異値を含む行列[Σ*]が次式により求められる。
【数8】
【0022】
したがって、[Σ*]の各行毎の並べ替え特異値を観察することで、音源特性を把握できる。
【0023】
以上のことから、本発明に係る音源特性認識方法では、多数の独立した音源信号の複数の任意点の音圧信号を測定し、該測定した信号を周波数領域の信号に変換するとともに該変換した信号の内、音源位置に最も近い音源信号として選択された所定数の信号で構成される相互スペクトル行列に特異値分解を適用して特異値を算出し、該特異値を音源信号の大きさや周波数特性を把握するための並べ替え行列を用いて並べ替えし該観測点での騒音の音源特性を認識することを特徴としている。
【0024】
この場合、並べ替え行列は、最大要素に対応して各行各列に1の値を持つ要素が1個だけ存在し他は0であり、該並べ替え行列を該相互スペクトル行列に掛ければよい。
【0025】
また、上記の本発明に係る音源特性認識方法を実施するために使用される装置としては、多数の独立した音源信号の複数の任意点の音圧信号を測定するマイクと、該測定した信号を周波数領域の信号に変換する周波数分析器と、該周波数分析器で変換した信号の内、音源位置に最も近い音源信号として選択された所定数の信号で構成される相互スペクトル行列に特異値分解を適用して特異値を算出し、該特異値を音源信号の大きさや周波数特性を把握するための並べ替え行列を用いて並べ替えし観測点で問題となる騒音の音源特性を認識する演算部と、を備えたことを特徴とするものであればよい。
【0026】
この場合、該演算部は、該並べ替え行列が、最大要素に対応して各行各列に1の値を持つ要素が1個だけ存在し他は0であり、該並べ替え行列を該相互スペクトル行列に掛ければよい。
【0027】
なお、従来の“メンバーシップ行列”を用いた方法では、式(7) の第1式のみを考慮した行列[R]を用いているため、ノイズを多く含む実際のデータでは、特異値の交差部で、精度が大きく落ちるが、本発明ではこのような欠点は回避することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明に係る音源特性認識方法及び装置の検証を目的として行った試験装置を示す。信号発生器SG1〜SG3から発生された図示のような3つの互いに無相関な波形の音源信号(u1,u2,u3)を各スピーカSP1〜SP3から放射する。
【0029】
そして、6個の入力信号測定用マイクM1〜M6で入力信号(x1,x2,x3,x4,x5,x6)を測定する。測定した各信号は、周波数分析器FAに一旦入力されて時間領域信号から周波数領域信号に変換された後、コンピュータCOMに送られ、上記の演算処理が実行される。
【0030】
この試験では、従来より知られた方法により選択された、音源位置に最も近い3個の入力信号(x1,x2,x3)に、特異値分解及び“特異値の並べ替え法”を適用し、音源信号が把握できることを検証する。
【0031】
図2(a)は、全ての入力信号(x1,x2,x3,x4,x5,x6)から成る相互スペクトル行列に、上記の式(5) により特異値分解を適用し、得られた特異値を図示したものである。値の大きな3本(実線特性▲1▼、破線特性▲2▼、一点鎖線特性▲3▼)が音源信号によるものを表わし、他の特性群▲4▼はノイズによるものである。
【0032】
同図(b)は、選択された3個の入力信号(x1,x2,x3)から成る相互スペクトル行列に、特異値分解を適用した結果であり、同図(a)における実線特性▲1▼、破線特性▲2▼、一点鎖線特性▲3▼のみが残った形となっている。
【0033】
同図(c)は、同図(b)の特異値を上記の式(8) に従って並べ替えた結果である。同図(c)より、3個の無相関音源信号(u1,u2,u3)を把握できることが分かる。
【0034】
すなわち、同図(b)の場合には、3個の入力信号(x1,x2,x3)に特異値分解を適用したことにより、その特異値は常に大きい方から順番に並んでおり、最も大きい特性▲1▼は常に最も大きい値を取り、特性▲2▼は常に2番目に大きい値を取り、そして特性▲3▼は常に最小の値を取っている。これは、特異値分解の数学的な演算結果によるものであるからである。
【0035】
一方、同図(c)の場合には、特性▲1▼が常に大きいのではなく、最初は最小値を取り、その後、特性▲2▼と交差して2番目に大きい値を取り、次に特性▲2▼と交差して最大値を取る。その後、今度は逆に特性▲3▼より小さくなり、さらに特性▲2▼よりも小さくなって最小値を取るようになる。
【0036】
これらの特性▲1▼〜▲3▼は図1の音源信号(u1,u2,u3)の波形(周波数特性)と比較すると、非常に類似していることが分かる。
【0037】
このような特性▲1▼〜▲3▼による各音源の周波数特性を得ることにより、どうしてそのような音源が発生するのかを経験的に知ることが出来る。例えば、特性▲1▼は最もピークが顕著なものとなっており、この音源が車両エンジンのオイルパンに位置していれば、そのオイルパンの共振と推定することができる。これにより、その騒音対策を講じることが可能となる。
【0038】
また、上記の本発明の応用例として、“特異値の並べ替え法”により把握した音源信号と、測定した入出力信号間の伝達関数を用いて、出力信号予測モデルを構築し、音源寄与率の把握や音源信号変更時の出力信号予測が可能となる。このために、マイクMOで出力信号(y)を測定する。
【0039】
音源数K個の場合の出力信号スペクトルSYYPは上記の式(3)で与えられる。
【0040】
したがって、m番目(m=1,2,・・・,K)の音源寄与率CFISmは、次式で求めることができる。
【数9】
【0041】
ただし、[Im]KXKは、m行m列目の要素のみが“1”で、他は全て“0”の行列であり、SYYPmは、音源mのみが存在する場合の出力信号スペクトル計算値である。
【0042】
また、音源信号変更時の出力信号予測においては、m番目の音源信号umをam倍すると、次式のようになる。
【数10】
【0043】
この場合の出力信号スペクトル計算値SYYP’は、次式で求められる。
【数11】
【0044】
ここで、[A]kxkは、m行m列目の要素のみがam 2で、他は全て0の行列である。
【0045】
【発明の効果】
以上のように本発明に係る音源特性認識方法及び装置によれば、多入力単出力系の測定信号から、既知の方法により選択された音源位置に最も近い入力信号で構成される相互スペクトル行列に特異値分解を適用して算出された特異値を並べ替えて物理的に意味のある値にし、該観測点での騒音の音源特性を認識するように構成したので、数学的に独立した信号から物理的な音源信号を把握することが可能となる。
【0046】
この結果、音源寄与率の把握や音源変更時の出力信号予測が可能となり、有効な音源対策を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る音源特性認識方法の実施に使用される装置の一実施例を示したブロック図である。
【図2】本発明に係る音源特性認識方法及び装置により得られる音源信号の周波数特性を示したグラフ図である。
【図3】音源信号に関する一般的な多入力単出力システムを説明するためのブロック図である。
【符号の説明】
u1,u2,u3 音源信号
SG1〜SG3 信号発生器
SP1〜SP3 スピーカ
M1〜M6 入力信号測定用マイク
FA 周波数分析器
COM コンピュータ
図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
Claims (4)
- 多数の独立した音源信号の複数の任意点の音圧信号を測定し、該測定した信号を周波数領域の信号に変換するとともに該変換した信号の内、音源位置に最も近い音源信号として選択された所定数の信号で構成される相互スペクトル行列に特異値分解を適用して特異値を算出し、該特異値を音源信号の大きさや周波数特性を把握するための並べ替え行列を用いて並べ替えし該観測点での騒音の音源特性を認識することを特徴とした音源特性認識方法。
- 請求項1において、
該並べ替え行列が、最大要素に対応して各行各列に1の値を持つ要素が1個だけ存在し他は0であり、該並べ替え行列を該相互スペクトル行列に掛けることを特徴とした音源特性認識方法。 - 多数の独立した音源信号の複数の任意点の音圧信号を測定するマイクと、該測定した信号を周波数領域の信号に変換する周波数分析器と、該周波数分析器で変換した信号の内、音源位置に最も近い音源信号として選択された所定数の信号で構成される相互スペクトル行列に特異値分解法を適用して特異値を算出し、該特異値を音源信号の大きさや周波数特性を把握するための並べ替え行列を用いて並べ替えし観測点で問題となる騒音の音源特性を認識する演算部と、を備えたことを特徴とする音源特性認識装置。
- 請求項3において、
該演算部は、該並べ替え行列が、最大要素に対応して各行各列に1の値を持つ要素が1個だけ存在し他は0であり、該並べ替え行列を該相互スペクトル行列に掛けることを特徴とした音源特性認識装置。
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