JP3613395B2 - 熱間工具鋼 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明鋼は熱間鍛造用金型、押し出し型及びダイカスト金型等の素材として使用される熱間工具鋼に関し、特に、ミクロ偏析比を制御して被削性を向上させた熱間工具鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱間工具鋼の被削性の改善は、成分調節による被削性の改善が特開平10−60585号公報、特開平9−217147号公報、特開平4−358040号公報、特開平11−269603号公報で提案されている。組織による被削性の改善は熱処理39巻5号第225乃至226頁、特開平12−54068号公報で提案されている。更に、非金属介在物の量を増やし、形態を球状にすることにより、被削性を向上させることが提案されている(電気製鋼64巻3号第191乃至201頁と図2及び図4、特開平11−61331号公報、特開平10−6055号公報)。
【0003】
更に、偏析比の軽減が、靭性改善効果を有することが特許第2809622号で開示されている。また、ソーキング処理による方法が靭性の向上に有効であることが開示されている(特許第2809622号、第2952245号)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、被削性を改善するために、成分又は介在物量を変更すると、材料の基本性能が大きく変わってしまうという問題点がある。また、鋼塊の位置により偏析及び介在物量が変化するために、被削性が鋼材の位置により大きく変わるという問題点もある。
【0005】
なお、マクロ偏析と被削性の関係は、鋼材一般について、古くから検討されており、マクロ偏析をなくすことが被削性の向上に有効であることは周知である(特開平4−35840)。
【0006】
このため、偏析が強い高C及び高Cr系の鋼材では、成分の適正化及びソーキングにより、∨偏析及び炭化物の密集等のマクロ的な偏析を軽減することにより、被削性を改善している。
【0007】
しかし、靭性が要求される熱間工具鋼のような材料は偏析を嫌う。このため、熱間工具鋼では、もともと偏析が少ない成分系が選択されているため、マクロ偏析が少ない。そこで、熱間工具鋼を高温ソーキング処理する場合は、溶解後の鋼塊に対し、又は鍛造工程後の鋼塊に対して実施され、これらは靭性を改善するために実施されている(特許第2809622号)。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、成分の適正化によることなく、熱処理により基地組織を適正化することにより被削性を向上させることができ、本来有している鋼材の基本特性を著しく低下することなく、被削性を著しく改善することができる熱間工具鋼を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る熱間工具鋼は、C:0.20乃至0.55質量%、Si:0.10乃至0.80質量%、Mn:0.40乃至1.00質量%、P:0.007乃至0.011質量%、Cr:3.70乃至5.50質量%、W及びMoを単独又は複合で(1/2W+Mo):0.20乃至12.00質量%、V:0.10乃至3.00質量%、S:0.150質量%以下、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有し、Cr、Mo及びVの各成分について、偏析部/非偏析部の濃度比が1.4乃至1.9であることを特徴とする。この場合に、Ni:0.30質量%以下、Co:6.50質量%以下を含有することができる。
【0010】
この熱間工具鋼において、偏析部/非偏析部の面積率が0.40乃至0.60であることが好ましい。
【0011】
また、40HRC以上の硬度に調質されていると共に、偏析部と非偏析部のマイクロビッカース硬度差(偏析部−非偏析部)がHV110乃至182であることが好ましい。
【0012】
更に、非金属介在物の清浄度がJIS dA0.005%以下、d(B+C)0.020%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明者は、熱間工具鋼に高温ソーキング処理を十分に行い、完全にマクロ偏析及びミクロ偏析を消去すると、勒性が改善されるものの、処理をしない現用鋼に比べて逆に被削性が悪化することを見出した。この現象をさらに詳細に調査すると、高温ソーキング処理により、切削後の切削工具の刃先摩耗は小さくなるものの、境界摩耗が現用鋼に比べて大きくなることが判明した。このソーキング処理を適正化すると、刃先摩耗と境界摩耗を小さくすることが可能となり、著しく被削性が改善することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について更に詳細に説明する。図1は高温ソーキング処理の温度と工具寿命及び摩耗量との関係を模式的に示す図であり、図2はエンドミルにより試料を切削試験したときの刃先摩耗及び境界部摩耗を示す写真である。この図2における切削試験は、以下の条件により行った。
【0015】
「切削条件」
被削材(試料)硬さ:46±0.2 HRC
工具:TiN+ハイス製のエンドミル(直径10mm、2枚刃)
切削速度:16.3m/秒(520rpm)
送り速度:40mm/秒
切削油剤:なし
切り込み量:15mm幅、0.5mm深さ
切削量:2m
切削方向:ダウンカット。
【0016】
図2に示すように、現用鋼(高温ソーキング処理なし)の場合は、上記被削性試験で、刃先部に欠けが発生したが、切削工具の前記刃先部と基部との境界部の摩耗は良好のままであった。一方、1250℃で高温ソーキング処理した場合は、刃先部は良好であったものの、境界部は悪化した。これに対し、1100℃で高温ソーキング処理した場合は、刃先部及び境界部の双方が良好であった。従って、図2に示すように、処理温度が高い程、境界摩耗の摩耗量が増大し、逆に刃先摩耗の摩耗量は高温になる程低下する。よって、境界摩耗及び刃先摩耗の双方が少なく、極めて長い工具寿命が得られる処理温度の適正範囲が存在する。
【0017】
本発明者らは、この工具寿命にとって適切な処理温度範囲(上限値及び下限値)が存在する原因について究明すべく、種々実験研究した結果、種々の成分系においても、マクロ偏析がある場合には、高温ソーキング処理によりマクロ偏析をなくし、その後にミクロ偏析を適正化する新熱処理工程を挿入することにより、ミクロ組織中のミクロ偏析比が1.4〜1.9で硬度差がある組織を均一に分散させることにより、著しく被削性が改善することを見出した。
【0018】
本発明は、マクロ偏析が少ない熱間工具鋼の成分組成において、従来検討がなされていなかったミクロ縞状偏析の効果に着目したものである。本発明者等は、従来周知のように、偏析をなくすことにより被削性を改善するのでなく、一般的な常識に反して、適度な熱処理によりミクロ偏析部をあえて残した組織にすることで、著しい被削性改善効果を得る方法を提案するものである。
【0019】
マクロ偏析が少ない低C−高Cr系の熱間工具鋼において、1200℃を超えるソーキング処理を実施すると、従来周知のように靭性が改善される。しかしながら、この1200℃を超えるソーキング処理を実施した熱間工具鋼は、高温でのソーキング処理を実施しない現用鋼より被削性が悪化することを、本願発明者等が見出した。このことから、マクロ偏析が大きい材料と同じような方法では、マクロ偏析が少ない低C−高Cr系の熱間工具鋼において、被削性の改善効果がないことが明らかである。図3(c)に示すように、1200℃を超える温度でソーキング処理すると、偏析が全く存在しない均一な素材となる。そうすると、切り屑排出性が悪く、工具が発熱し、工具摩耗が増大する。
【0020】
しかし、本願発明者等の研究で、マクロ偏析が少ない低C−高Cr系の熱間工具鋼において、成分が適正でなく、前記の新熱処理を実施しないような場合、図3(a)に示すように、偏析部に密集する炭化物が多量に残留しているために、切削工具の刃先が欠けてしまうために、被削性が悪化する。また、高温ソーキングを実施すると、図3(c)に示すように基地の合金濃度が高くなり、境界摩耗が著しく大きくなり、被削性が悪化する。本願発明者等は、現用鋼とソーキング処理材の切削工具の損傷が違うことに着目し、両者の短寿命原因を抑制するために、ソーキング温度より低い温度で焼き入れる前工程を実施し、その後、焼なまし工程を実施した。このことにより、焼なまし状態での被削性の改善が行われ、更にその後の焼入焼戻処理を実施した材料においても、被削性を著しく改善できる。本発明においては、図3(b)に示すように、偏析帯を残しておくことにより、偏析帯と基地(非偏析部)との間に割れが発生するため、切り屑の排出性が優れており、また、偏析帯が薄いため、工具に欠けが発生しない。
【0021】
本発明者等の実験研究の結果、炭化物を生成するCr、Mo、V等の元素の偏析比を1.4〜1.9にすることにより、被削性を著しく向上させることができることが判明した。また、焼き入れ後の直彫り加工において、基地の偏析部と非偏析部の硬度差が110〜182HVであるとき、著しい被削性の改善効果が認められることを見出した。
【0022】
次に、図4のフローチャートを参照して本発明の熱間工具鋼の製造方法について説明する。一般に鋼材を製造する場合、溶解後、インゴット(鋼塊)の上部から下部までのマクロ組織を均一化するために高温ソーキングを実施する。この高温ソーキング処理の条件は、例えば、1200乃至1250℃に2時間以上保持するものである。その後、冷却し、所定の形状とするために熱間鍛造し、その後、焼き鈍し処理を実施する。例えば、熱間鍛造温度は1180乃至1050℃、焼き鈍し処理条件は、860℃に3時間以上保持した後徐冷するものである。
【0023】
本発明においては、上述の一般的な製造方法に加えて、鍛造工程後に、更にミクロ的な偏析を適度に残すために新工程を実施し、その後、焼き鈍し処理を実施する。この新工程は、例えば、700℃まで一旦加熱した後、更に1100℃±80℃以内の温度に2時間以上加熱し、その後、Ms点以下の温度まで急冷するものである。
【0024】
本発明は、適切なミクロ偏析と炭化物を残すことにより、被削性とヒートチェック性を改善するものである。
【0025】
本発明は、熱間加工用工具として必要な元素を含有し、Cr、Mo、Vの各元素について、偏析部/非偏析部の濃度比を1.4乃至1.9にする。また、面積率が0.40非偏析部/偏析部0.60であり、40HRC以上の硬度に調質された熱間工具鋼において、偏析部と非偏析部のマイクロビッカース硬度差がHV110〜182であることが好ましい。更に、非金属介在物の清浄度がJIS dA0.005%以下、d(B+C)0.020%以下であることが好ましい。
【0026】
先ず、本発明の熱間工具鋼の組成限定理由について説明する。
【0027】
C:0.20乃至0.55質量
Cは焼入れ加熱時に基地に固溶して必要な焼入れ硬さを与え、また焼もどし時特殊炭化物形成元素との間に特殊炭化物を形成し、析出して、焼もどしにおける軟化抵抗と高温強度を与え、また残留炭化物を形成して高温での耐摩耗性を付与し、焼入れ加熱時の結晶粒の粗大化を防ぐ作用を有する。Cが多すぎると炭化物量が過度に増加し、熱間工具としての必要な靭性を保持できず、また高温強度の低下もまねくので、Cは0.55質量%以下とし、Cが低すぎると、上記添加の効果が得られないので0.20質量%以上とする。
【0028】
Si:0.10乃至0.80質量%
Siは0.10質量%未満となると、ミクロ偏析が発生せず、被削性が悪化する。Siが0.80質量%を超えると、縞状偏析が激しくなり、切削工具の刃先がチッピングし、靭性が低下するため、Siは0.10乃至0.80質量%とする。
【0029】
Mn:0.40乃至1.00質量%
Mnは、基地に固溶して焼入れ性を高める効果が高い上に、ミクロ偏析を助長する元素であるため、0.40質量%以上添加する。Mnが1質量%を超えると、切削時に加工硬化するため、被削性が悪化する。このため、Mnは0.40乃至1.0質量%とする。
【0030】
P:0.007乃至0.011質量%
Pは、凝固時に粒界に偏析し、熱間加工後の縞状部の偏析度を高める。このため、Pの添加は被削性の向上に有効である。そのため、被削性に優れた性能を維持するための基本元素として、Pは0.007質量%以上添加することが必要であり、熱間工具鋼の靭性低下を抑制するため、上限値を0.011質量%とする。
【0031】
S:0.150質量%以下
SはMnS等の硫化物を形成し、熱間加工方向に伸びて分布し、T方向の靭性の低下をまねく。このため、T方向の靭性を維持させるために、Sは0.150%以下とする。
【0032】
Cu、B、Be:総量3.00質量%以下
Cu、B、Beは金属間化合物を形成し、その析出効果により、昇温時の軟化抵抗及び高温強度を改善する効果を有する。これらの元素が多すぎると、靭性を低下させるので、単独又は複合添加で、総量を3.00質量%以下とする。
【0033】
O:0.0030質量%以下
Oは酸化物を形成し、熱間加工方向に方向性を持って分散分布し、T方向の靭性の低下をまねく。このT方向の靭性を維持させるために、Oの上限値を0.0030質量%以下とする。
【0034】
Cr:3.70乃至5.50質量%
Crは工具として必要とされる焼入れ性を与えるために最も重要な元素である。また、耐酸化性及びAl変態点の上昇、残留炭化物を形成することによる焼入れ加熱時の結晶粒の粗大化の抑制、耐摩耗性の向上、焼もどし時に特珠炭化物を析出して昇温時の軟化抵抗の改善、及び高温強度の向上等に有効であるために、添加される。また、Crは、ミクロ偏析を発生させるために、少なくとも3.70質量%以上添知する必要がある。Crが5.50質量%を超えると、偏析部に共晶炭化物が生成するため、著しく被削性が劣化する。このため、Crの上限値は5.50質量%とする。
【0035】
Mo、W:(1/2W+Mo)が0.20乃至12.00質量%
W及びMoはミクロ偏析を助長する上に特殊炭化物を形成するもので、残留炭化物形成により焼入れ加熱時の組織粗大化を防止し、また焼もどし時微細な特殊炭化物を析出し、焼もどし軟化抵抗と高温強度を高めるために、最も重要な添加元素である。Wは特に高温強度、耐摩耗性を高める効果が大きく、一方Moは靭性の点でWの場合より有利である。これらの元素が多すぎると、粗大な炭化物を形成し、靭性の過度の低下をまねくので、W及びMoを単独又は複合添加で、(1/2W+Mo)が0.20乃至12.00質量%となるように、添加する。
【0036】
Ni:0.30質量%以下
Niは基地に固溶して靭性を高め、また焼入性を高めるために目的、用途により添加される。多すぎると焼なまし硬さを過度に高くし、被切削性を低下させ、またAl変態点の過度の低下をまねくので、0.30質量%以下とする。
【0037】
Nb:0.5質量%以下
Nbは強力な炭化物形成元素で、結晶粒の微細化及び焼もどし時の凝集抵抗が特に大きな微細炭化物の析出により、650℃以上の高温域における軟化抵抗及び高温強度を高める効果がある。このような効果を得るために、Nbを添加する。Nb量が多すぎると、粗大な固溶しにくい炭化物を形成し、靭性の低下をまねくので、その添加量は0.5質量%以下とする。
【0038】
V:0.10乃至3.00質量%
Vはミクロ偏析が生じやすく、強力な炭化物形成元素であり、残留炭化物を形成して、結晶粒を微細化する効果が大きく、また高温での耐摩耗性向上効果が優れている。また、焼もどし時、微細な炭化物を基地中に析出させ、W、Moとの共同添加により、600乃至650℃以上の高温域での強度を高める効果が大きく、またAl変態点を高める効果を有する。しかし、Vの添加量が多すぎると、粗大な炭化物を形成し、靭性及び被削性の低下をまねく。このため、Vは3.00質量%以下とする。また、Vの添加効果を得るために、Vは0.10質量%以上含有させる必要がある。
【0039】
Co:6.50質量%以下
Coは基地に固溶して高温強度を高める作用を有する。また、焼入加熱時のオーステナイト中への炭化物の固溶限を高め、焼もどし時の特殊炭化物の析出量を増加させ、また昇温時の析出炭化物の凝集抵抗を高め、この面からも高温強度特性を改善する効果を与える。また工具の使用時の昇温により表面に緻密な密着性の酸化被膜を形成させ、高温での耐摩耗性、耐焼付性を高める効果を与える。しかし、Coが多すぎると、靭性を低下させるので、Coの添加量は6.50質量%以下とする。
【0040】
N:0.20質量%以下
Nは基地及び炭化物中に固溶して結晶粒を微細化し、靭性を高めるために、またオーステナイトフォーマーとして低Cの場合にも焼入加熱時のフェライト残存を防ぎ、靭性が優れた合金組成の組合せを可能とするものである。しかし、Cr等の熱間工具鋼の合金組成の範囲内で、添加可能な限界量が存在するため、Nの0.20質量%以下とする。
【0041】
ミクロ偏析比
熱問工具鋼においてミクロ偏析が強くて、偏析部の硬度が高い場合には、切削中に工具刃先が折損し、短寿命となる。また、偏析比が小さく、硬度のバラツキがない均一組織にすると、基地の合金濃度が高くなり、境界摩耗が著しくなる。このため、偏析比と内部組織の硬度を適正化することで、著しい被削性の改善が得られた。
【0042】
ミクロ偏析部の炭化物構成元素であるCr、Mo,Vの偏析比が1.4乃至1.9のときに、被削性の改善効果があり、更にこれらの偏析比を1.4〜1.5にすることにより、更に一層顕著な被削性改善効果が得られた。
【0043】
硬度差:110乃至182
更に、非偏析部の硬度に比べて、硬度がHV110乃至182だけ高い偏析部があると、被削性の改善効果があり、更に硬度差(偏析部−非偏析比)がHV160乃至182であると、更に一層著しい被削性改善効果がある。
【0044】
図2に横軸に偏析部と非偏析部の硬度差をとり、縦軸に工具寿命及び摩耗量をとって両者の関係を示すように、現用鋼のように硬度差(偏析部−非偏析比)がHV182を超えるように高いと、図3(a)(現用鋼)に示すように、切削工具の先端が切削中に欠け、切削工具の刃先摩耗が大きくなり、被削性が悪化する。一方、硬度差(偏析部−非偏析比)がHV110未満となると、図3(c)(完全均一化処理材)に示すように、切り屑排出性が悪くて切削工具が発熱し、切削工具側の境界摩耗が大きくなり、被削性が悪化する。このため、硬度差は110乃至182とする。なお、この切削工具の境界摩耗は、硬度差の下限をHV160にすると、更に著しい被削性の改善効果がある。
【0045】
偏析部/非偏析部の面積率:0.40乃至0.60
ソーキング処理などを実施した場合、偏析部/非偏析部の面積率が0.60を超えると、結晶粒界に多く析出する炭化物が固溶し、結晶粒が粗大化し、ヒートチェック性を劣化させる。一方、偏析部/非偏析部の面積率が0.40未満となると、結晶粒近くにある偏析が広くなり、切削工具が欠損する原因となり、被削性を悪化させる。
【0046】
【実施例】
以下、本発明の実施例について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して具体的に説明する。SKD61及び種々の組成の鋼材を10kgVIF炉にて溶製し、得られた鋼塊を鍛造により40×80×250mmの大きさに鍛造し、830℃で焼き鈍し処理した。全ての溶製材は、非金属介在物の清浄度がJIS dA0.005%以下で、d(B+C)0.020%以下であり、炭化物のアスペクト比は1.3〜1.0である。
【0047】
被削性、耐ヒートチェック性及び耐溶損性等の素材の評価は、素材を980〜1050℃に30分間加熱して焼き入れ処理した後、500〜670℃に2回焼戻処理し、硬さを43〜53HRCに調整し、SKD61の素材の性能を1.0として、指数化することにより性能を比較した。
【0048】
被削性の評価は、直径が10mmのハイス製のTiNコーティングしたエンドミルにて、回転速度が520rpm、送り速度が40mm/分、切り込みの幅(ミル長手方向)が15mm、切り込みの奥行き(ミル半径方向)が0.5mmで、乾式により側面加工を実施し、2m切削加工して工具の損耗状態を判断し、工具の寿命は、折損又は溶融するまで実施した。
【0049】
ヒートチェック試験においては、直径が30mm、長さが50mmの試験材を高周波誘導加熱にて加熱し、表面温度が650℃に達した時に水をかけ、50℃まで冷却することを、1000回繰り返し、クラックの平均長さ(μm)を測定した。その後、介在物を保持するSKD61の試験材のクラック平均長さを1.0として、実施例及び比較例のクラック平均長さを指数化した。
【0050】
溶損性の評価は、ダイキャストで一般的に使用されるJIS規格ADC12のアルミニウム合金(Al−0.43Zn−0.20Mn−10.85Si−2.00Cu−1.01Fe−0.24Mg)を、650℃に加熱した容器内で溶解し、直径が5mm、長さが30mmの実施例及び比較例の素材を前記アルミニウム合金の溶湯内で500rpmで回転して、前記アルミニウム合金を撹拌し、その状態に20分間保持して溶損処理した。その後に、実施例及び比較例の素材をアルミニウム合金から引き出し、苛性ソーダ−にてAl合金を除去した後に、素材の溶損処理前と溶損処理後の損耗量(g)を測定し、介在物を保持するSKD61の損耗量を1.0として、実施例及び比較例の損耗量を指数化した。
【0051】
偏析比は、X線マイクロアナライザーのビーム径を3μmに調整し、測定領域が鋼材中のミクロ偏析部である結晶粒を10乃至30個通過するようにするため、1回当たりの測定長さを3mmとし、これを10回繰り返した。その測定領域内での最高濃度部から最大値として10点測定値を抽出してこれを平均し、最低濃度部から最低値として10点抽出してこれを平均し、最高濃度のCPS(最大値)を最低濃度のCPS(最低値)で除して算出した。
【0052】
非偏析部と偏析部の硬度測定は、マイクロビッカース硬度計で100g荷重にて実施した。偏析帯と直交するように、200μmピッチで30mm測定し、最高硬度部から最大値として10点測定値を抽出してこれを平均化し、最低硬度部から最低値として測定値を10点抽出してこれを平均化し、算出した。
【0053】
1030℃から焼入れ処理した後、550℃で焼戻した熱間工具鋼について得られた測定結果を下記表1に示す。下記表1は、偏析部/非偏析部の濃度比と、偏析部/非偏析部の面積率と、被削性、耐ヒートチェック性及び耐溶損性との関係を示す。
【0054】
【表1】
Figure 0003613395
【0055】
この表1に示すように、偏析部/非偏析部の濃度比と、偏析部/非偏析部の面積率とが、夫々本願請求項1及び2の範囲内である場合は、焼鈍後の被削性、焼入れ後の被削性、耐ヒートチェック性、及び耐溶損性の全てが優れたものであった。
【0056】
下記表2乃至表5は、本発明の実施例及び比較例の組成を示す。また、下記表6及び表7は、同じく非金属介在物量を示す。更に、下記表8及び表9は、不均一拡散処理の条件及びCr,Mo,V,Sの偏析部・成分偏析強度比を示す。そして、下記表10及び表11は、偏析部と非偏析部との硬度差(偏析部−非偏析部)と、偏析部/非偏析部の面積率と、被削性、耐ヒートチェック性及び耐溶損性との関係を示す。
【0057】
【表2】
Figure 0003613395
【0058】
【表3】
Figure 0003613395
【0059】
【表4】
Figure 0003613395
【0060】
【表5】
Figure 0003613395
【0061】
【表6】
Figure 0003613395
【0062】
【表7】
Figure 0003613395
【0063】
【表8】
Figure 0003613395
【0064】
【表9】
Figure 0003613395
【0065】
【表10】
Figure 0003613395
【0066】
【表11】
Figure 0003613395
【0067】
なお、表4及び表5のAlは不純物である。また、表8及び表9の不均一拡散処理は、図4の製造工程を示す図において、新工程として記載されたものである。温度及び時間は、この熱処理で加熱された温度及び加熱時間である(図4では1100℃±80℃及び2時間以上と記載)。その後、急冷又は徐冷している。
【0068】
表8及び表9に示すように、本発明の実施例1乃至26はCr,Mo,V及びSの偏析部/非偏析部の濃度比が、本願請求項1の範囲を満足するため、表10及び表11に示すように、焼き鈍し材及び焼入れ焼戻し材の被削性、耐ヒートチェック性及び耐溶損性が優れたものであった。
【0069】
また、この表10及び表11に示すように、本発明の実施例1乃至26は、偏析部−非偏析部の硬度差が、本願請求項3にて規定する範囲内であるため、焼き鈍し材及び焼入れ焼戻し材の被削性、耐ヒートチェック性及び耐溶損性が優れたものであった。
【0070】
更に、本発明の実施例23乃至26は、非金属介在物量が本願請求項4を満足するため、表10及び表11に示すように、他の実施例に比して、被削性が優れている。
【0071】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、靭性等の熱間工具鋼としての必要特性を劣化させることなく、被削性を向上させることができ、工具寿命を著しく向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】高温ソーキング処理の温度と工具寿命及び摩耗量との関係を模式的に示す図である。
【図2】エンドミルにより試料を切削試験したときの刃先摩耗及び境界部摩耗を示す金属顕微鏡写真である。
【図3】(a)乃至(c)は、現用鋼、均一化処理材及び不完全処理材の研削改善機構を示す図である。
【図4】本発明の熱間工具鋼の製造方法を示すフローチャート図である。

Claims (5)

  1. C:0.20乃至0.55質量%、Si:0.10乃至0.80質量%、Mn:0.40乃至1.00質量%、P:0.007乃至0.011質量%、Cr:3.70乃至5.50質量%、W及びMoを単独又は複合で(1/2W+Mo):0.20乃至12.00質量%、V:0.10乃至3.00質量%、S:0.150質量%以下、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有し、Cr、Mo及びVの各成分について、偏析部/非偏析部の濃度比が1.4乃至1.9であることを特徴とする熱間工具鋼。
  2. C:0.20乃至0.55質量%、Si:0.10乃至0.80質量%、Mn:0.40乃至1.00質量%、P:0.007乃至0.011質量%、Cr:3.70乃至5.50質量%、W及びMoを単独又は複合で(1/2W+Mo):0.20乃至12.00質量%、V:0.10乃至3.00質量%、Ni:0.30質量%以下、Co:6.50質量%以下、S:0.150質量%以下、残部Fe及び不可避的不純物からなる組成を有し、Cr、Mo及びVの各成分について、偏析部/非偏析部の濃度比が1.4乃至1.9であることを特徴とする熱間工具鋼。
  3. 偏析部/非偏析部の面積率が0.40乃至0.60であることを特徴とする請求項1又は2に記載の熱間工具鋼。
  4. 40HRC以上の硬度に調質されていると共に、偏析部と非偏析部のマイクロビッカース硬度差(偏析部−非偏析部)がHV110乃至182であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の熱間工具鋼。
  5. 非金属介在物の清浄度がJIS dA0.005%以下、d(B+C)0.020%以下であることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の熱間工具鋼。
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