JP3612487B2 - 方向性結合器の特性測定方法及びその方法を用いた方向性結合器及びこの方向性結合器を備えたプラズマ処理装置 - Google Patents

方向性結合器の特性測定方法及びその方法を用いた方向性結合器及びこの方向性結合器を備えたプラズマ処理装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、方向性結合器の方向性、結合度の測定方法、及びこの測定方法によって方向性、結合度を測定する方向性結合器、及びこの方向性結合器を備えた機器、特にインピーダンスモニタリングを行うプラズマ処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、プラズマを用いて試料に所望の処理を行うRIE、プラズマCVD等の半導体製造装置が広く用いられている。この種の半導体製造装置には、VHF、UHF帯の周波数の電源が用いられることもあるが、主として、13.56MHzまたは2.56GHzの高周波数の電源が用いられる。このような高周波数の電源による電力を制御するため、半導体製造装置には、電源から装置内に入射する進行波と、半導体製造装置から反射される反射波とを方向性結合器によって測定し、その測定結果に基づいて装置の消費電力をモニタリングする電力モニタリング装置が備えられる。
【0003】
方向性結合器を用いた電力モニタリングを行う電力モニタリング装置の概略構成を図5に示す。
【0004】
この電力モニタリング装置は、高周波数の発振電力を発振する発振器1と、この発振器1による発振電力によりプラズマ処理等の反応を行う反応容器9とを有しており、発振器1及び反応容器9の間には、サーキュレータ10、方向性結合器2、位相差測定器8が、発振器1から反応容器9にかけて伝送線路4を介して順番に設けられている。また、サーキュレータ10には、伝送線路4を介して反射波を発生させない無反射終端5が接続されている。
【0005】
発振器1により発振される発振電力は、進行波となって、伝送線路4を介して、サーキュレーター10、方向性結合器2、位相差測定器8を順番に進行して、反応容器9に入射する。
【0006】
反応容器9に入射した進行波は、プラズマ等の処理のために消費されるが、一部は、反射波となって、伝送線路4を介して、位相差測定器8及び方向性結合器2に反射する。
【0007】
サーキュレータ10は、発振器1から発振される進行波電力を方向性結合器2に伝送するとともに、方向性結合器2から伝送される反射波電力を無反射終端5に伝送する。
【0008】
方向性結合器2は、発振器1からの進行波及び反応容器9からの反射波からピックアップした出力電圧を測定することにより、進行波及び反射波の電力をそれぞれ測定する。
【0009】
方向性結合器2からサーキュレーター10に伝搬した反射波は、伝送線路4を介して無反射終端5に伝送され、この無反射終端5にて消費される。
【0010】
このような電力モニタリング装置では、反応容器9に入射する進行波に対して、反応容器9から反射される反射波の割合、即ち反射率は、反応容器9の入力インピーダンスに依存している。したがって、方向性結合器2によって進行波及び反射波の振幅を測定し、同時に位相差測定器8により進行波と反射波との位相差を測定し、この振幅及び位相差に基づいて反射率を求めれば、反応容器9の入力インピーダンスがモニタリングされる。
【0011】
この時、方向性結合器2は、前記進行波及び反射波の振幅を測定し、位相差測定器8により進行波と反射波との位相差を測定することにより、インピーダンスモニタリングを行っているが、方向性結合器2のみでは、進行波電力、反射波電力しかモニタリングできない。これは、方向性結合器2中を伝播する進行波、反射波と方向性結合器2の出力信号との関係を表す結合度及び方向性が実数で示され、前記進行波、反射波の振幅しか得られないためである。
【0012】
次に、従来技術における方向性結合器の進行波及び反射波に基づく方向性及び結合度の測定方法について説明する。
【0013】
方向性結合器2は、その内部を伝播する進行波及び反射波における、進行波のみに依存する進行波出力信号及び反射波のみに依存する反射波信号をそれぞれピックアップする。
【0014】
しかし、実際には、進行波のみしか依存しないはずの前記進行波出力信号中にも、僅かながら反射波の影響が含まれ、また反射波のみしか依存しないはずの反射波出力信号にも、進行波の影響が含まれることになる。
【0015】
この時、前記進行波出力信号の進行波に対する依存性、また反射波出力信号の反射波に対する依存性を結合度と呼び、逆に前記進行波出力信号の反射波に対する依存性、また反射波出力信号の進行波に対する依存性を方向性と呼び、一般に以下のように表される。進行波出力信号をvs、反射波出力信号をvrとし、進行波電圧をVs、反射波電圧をVrとすると、進行波出力信号vs及び反射波出力信号vrは、次の(1)式のように表される。
【0016】
【数1】
Figure 0003612487
(1)式において、k11、k12、k21、k22は、それぞれ、方向性結合器2の結合特性値と呼ばれる定数である。具体的には、k11は、方向性結合器2の進行波ピックアップ部の結合度、k12/k11は進行波ピックアップ部の方向性を示し、k22は反射波ピックアップ部の結合度、k21/k22は反射波ピックアップ部の方向性を示している。
【0017】
次に、方向性結合器2の方向性及び結合度を求める方法について、図6に基づいて説明する。
【0018】
方向性結合器2は、発振器1に接続される入力端子2aと、任意の負荷に接続される出力端子2bと、負荷から反射してくる反射波電力をピックアップする反射波ピックアップ部2cと、進行波電力をピックアップする進行波ピックアップ部2dとを有する4開孔回路から形成されている。反射波ピックアップ部2c及び進行波ピックアップ部2dは、図示しない吸収抵抗に接続されている。
【0019】
このような方向性結合器2では、出力端子2bを反射波が発生しない無反射終端に接続し、発振器1により電圧を入力端子2aに印加すると、方向性結合器2内部にあらわれる反射波は、非常に小さくなる。
【0020】
この時、進行波電力をPi、反射波電力をPr、進行波ピックアップ部2dに生じる電力をPi’、反射波ピックアップ部2cに生じる電力をPr’とすると、進行波ピックアップ部2dの結合度Cは、次の(2)式で定義される。
【0021】
【数2】
Figure 0003612487
また、反射波ピックアップ部2cの方向性結合度(以下、方向性と略す)Dは、次の(3)式で定義される。
【0022】
【数3】
Figure 0003612487
(2)式及び(3)式を変形すると、それぞれ次の(4)式及び(5)式となる。
【0023】
【数4】
Figure 0003612487
【0024】
【数5】
Figure 0003612487
(4)式において、10−C/10は、(1)式の|k11に相当し、(5)式において、10−D/1010−C/10は、(1)式の|k21に相当する。
【0025】
また、このような構成とは逆に、入力端子2aに無反射終端を接続し、出力端子2bに発振器1を接続し、進行波ピックアップ部2dと反射波ピックアップ部2cにピックアップされる電圧を測定すれば、進行波ピックアップ部2dの方向性及び反射波ピックアップ部2cの結合度が求められる。
【0026】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、反射波が発生しないとされる無反射終端5を方向性結合器2に接続した場合においても、実際には、方向性結合器2の内部には、反射波が僅かながら存在する。このため、上記の結合度及び方向性の測定方法においても、反射波が存在することに起因する誤差を含んでいる。
【0027】
また、進行波ピックアップ部2d、反射波ピックアップ部2cのそれぞれの結合度及び方向性は、別々に測定されるため、方向性結合器2の内部の進行波及び反射波の位相関係が不明になっている。
【0028】
方向性結合器2の内部に反射波が存在することに起因する誤差について、図7及び8に基づいて検証する。
【0029】
図7は、従来技術による方向性結合器2の進行波ピックアップ部2dの結合度を測定する構成を示す概略図である。図8は、同じく、従来技術による進行波ピックアップ部2dの方向性を測定する構成を示す概略図である。
【0030】
図7及び8において、図5及び6と同じ構成については同一の符号を付している。方向性結合器2の進行波ピックアップ部2dには、進行波ピックアップ部2dの電圧と発振器1の電圧とをモニタリングするオシロスコープ11が接続されている。
【0031】
ここで、発振器1の出力インピーダンスと、伝送線路4の特性インピーダンスと、方向性結合器2の特性インピーダンスと、無反射終端5の入力インピーダンスは全て同じ値のものを用いる。例えば、発振器1の出力インピーダンスが通常使用される50Ωである場合、伝送線路4及び方向性結合器2及び無反射終端5としては、各インピーダンスが50Ωのものを用いるか、または、インピーダンスを50Ωに調整する。
【0032】
方向性及び結合度を測定するには、前述したように、進行波ピックアップ部2dの方向性及び結合度と、反射波ピックアップ部2cの方向性及び結合度とは、それぞれ個別に測定される。
【0033】
まず、進行波ピックアップ部2dの結合度を測定する方法について説明する。
【0034】
発振器1より発振される発振電圧Vは、伝送線路4を介して方向性結合器2に伝送され、方向性結合器2内を進行波電圧Vsとして通過し、無反射終端5に伝送される。無反射終端5に到達した進行波電圧Vsは、ほとんどが無反射終端5において消費されるが、一部が反射波電圧Vrとして反射される。この反射波電圧Vrは僅かであるが、反射波として、再度、伝送線路4を通って方向性結合器2に戻る。このため、方向性結合器2の内部では、進行波とわずかな反射波が混在している。
【0035】
進行波電圧Vs及び反射波電圧Vr及び発振器1が発振する電圧Vは、位相を考慮すると、以下の(6)〜(8)式で表される。
【0036】
【数6】
Figure 0003612487
【0037】
【数7】
Figure 0003612487
【0038】
【数8】
Figure 0003612487
この場合に、進行波ピックアップ部2dにピックアップされる出力信号vsは、前記(1)式により、次の(9)式のように表される。
【0039】
【数9】
Figure 0003612487
進行波ピックアップ部2dの結合度は、(9)式において、k11で表されるので、進行波ピックアップ部2dの結合度は、(9)式をk11について変形した次の(10)式により表される。
【0040】
【数10】
Figure 0003612487
ここで、伝送線路4における損失は、ほとんど存在しないので、|V/Vs|≒1と近似することができる。さらに、反射波電圧Vrは進行波電圧Vsに比較して非常に小さいため、|Vr/Vs|≒0と近似することができる。したがって、進行波ピックアップ部2dの結合度k11は、次の(11)式のように求められ、オシロスコープ11によって、複素数の絶対値のみがモニタリングされる。
【0041】
【数11】
Figure 0003612487
(10)式と(11)式とを比較して分かるように、より僅かではあるが実際に存在する反射波を無視するため、(11)式で表される従来技術によって求められた結合度には、原理的に誤差が含まれ、またその絶対値しか分からない。
【0042】
次に、進行波ピックアップ部2dの方向性について説明する。
【0043】
図8に示すように、方向性結合器2の入力端子2aに無反射終端5を接続し、出力端子2bに発振器1を接続する。進行波ピックアップ部2dには、オシロスコープ11が接続されている。発振器1の出力電圧をV’、方向性結合器内部の進行波電圧をVs’、反射波電圧をVr’、進行波ピックアップ部2dに検出される出力電圧をvs’とすると、次の(12)式が得られる。
【0044】
【数12】
Figure 0003612487
したがって、この(12)式により、次の(13)式が得られる。
【0045】
【数13】
Figure 0003612487
この(13)式において、|V’/Vs’|≒1、|Vr’/Vs’|≒0と近似することができるので、進行波ピックアップ部2dの出力電圧vs’の振幅|vs’|と、発振器1の出力電圧の振幅|V’|を用いて、次の(14)式が得られる。
【0046】
【数14】
Figure 0003612487
したがって、オシロスコープ11により、この(14)式の|k12|をモニタリングし、(11)式及び(14)式により、進行波ピックアップ部2dの方向性の複素数の絶対値|k12|/|k11|が決定される。
【0047】
(13)式と(14)式とを比較して分かるように、より僅かではあるが実際に存在する反射波を無視するため、(14)式で表される従来技術によって求められた方向性には、原理的に誤差が含まれ、またその絶対値しか分からない。
【0048】
また、反射波ピックアップ部2cの結合度及び方向性も同様の考え方から、次の(15)式及び(16)式により求められる。
【0049】
【数15】
Figure 0003612487
【0050】
【数16】
Figure 0003612487
上記の結合度及び方向性を測定する方法の手順について、図9に基づいて説明する。
【0051】
まず、方向性結合器2の入力部2aに発振器1を接続し、出力部2bに無反射終端5を接続し、図7に示す構成とする(ステップS1)。
【0052】
発振器1から発振電圧Vを印加し、進行波ピックアップ部2dの出力電圧vs及び反射波ピックアップ部2cの出力電圧vrを測定する(ステップS2、ステップS3)。
【0053】
上記(11)式から、|k11|を算出し(ステップS4)、上記(15)式から|k21|を算出する(ステップS5)。
【0054】
次に、方向性結合器2の入力端子2aに無反射終端5を接続し、出力端子2bに発振器1を接続し、図8に示す構成とする(ステップS6)。
【0055】
発振器1から発振電圧V’を印加し、進行波ピックアップ部2dの出力電圧vs’及び反射波ピックアップ部2cの出力電圧vr’を測定する(ステップS7、ステップS8)。
【0056】
上記(14)式から、|k12|を算出し(ステップS9)、上記(16)式から|k22|を算出する(ステップS10)。
【0057】
そして、算出された|k11|、|k12|、|k21|、|k22|に基づき、進行波ピックアップ部2dの結合度|k11|及び方向性|k12|/|k11|並びに反射波ピックアップ部2cの結合度|k22|及び方向性|k22|/|k21|を算出する。
【0058】
このようにして得られる進行波ピックアップ部2dの結合度及び方向性は、僅かではあるが実際に存在する反射波を無視しているため、原理的に反射波が存在することに基づく誤差を含んでいる。また、本来複素数である結合度及び方向性が複素数の絶対値でしか得ることができない。
【0059】
さらに、進行波ピックアップ部2d及び反射波ピックアップ部2cの結合度及び方向性はそれぞれ別に算出しているため、進行波ピックアップ部2d及び反射波ピックアップ部2cの位相関係が不明である。
【0060】
以上に示した理由により、方向性結合器2の各ピックアップ部2c及び2dにおける反射率Γを精密に求めることができない。したがって、このような精密に求められない反射率Γに基づいて得られるインピーダンスも精密ではないので、方向性結合器2を用いたモニタリングが精密なものとはならないという問題がある。
【0061】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、結合度及び方向性に含まれる誤差の影響を低減し、また、結合度及び方向性を複素数で求めることができて両者の位相関係を明らかにすることができる進行波及び反射波の結合度及び方向性の測定方法及び該方法を利用したプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【0062】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本発明の請求項1は、電源の出力端を方向性結合器の入力端に接続し、方向性結合器の出力端をインピーダンス終端器の入力端に接続し、該方向性結合器の内部を伝播する電磁波に応じた方向性結合器の出力信号を測定することによって該方向性結合器の結合度及び方向性を測定する方向性結合器の特性測定方法であって、前記インピーダンス終端器として、反射波を発生するインピーダンス終端器を用いることを特徴とするものである。
【0063】
請求項2は、電源の出力端を方向性結合器の入力端に接続し、方向性結合器の出力端をインピーダンス終端器の入力端に接続し、該インピーダンス終端器として、反射波を発生するn種(n≧3)のインピーダンス終端器を用いて終端させ、インピーダンスZpを持つ第i(1≦i≦n)のインピーダンス終端器を接続した時の方向性結合器のピックアップ部分における反射率をΓ、電源の発振電圧をVとし、方向性結合器の進行波ピックアップの出力電圧振幅|vf|と、反射波ピックアップの出力電圧振幅|vr|と、互いの位相差(Arg[vf]−Arg[vr])とをそれぞれ測定し、Zin=(|vr|/|vf|)exp[Arg[vr]−Arg[vf]]で表される定数をそれぞれ算出するステップと、方向性結合器の進行波ピックアップの結合度k11、方向性k12/k11、反射波ピックアップの結合度k21、方向性k22/k21を用いて、k12’=k12/k11、k21’=k21/k11、k22’=k22/k11=(k22/k21)×(k21/k11)、Q=−Zin−ZinΓ12’+k21’+k22’Γを定義し、Σ|Qを最小にするk12’、k21’、k22’をそれぞれ算出するステップと、k11=|vf|/{|V||1+k12’Γ|}を算出するステップとを含むものである。
【0064】
請求項3は、請求項1または2に記載の方向性結合器の特性測定方法において、前記インピーダンス終端器は、気体を媒質とした容量によって構成することを特徴とするものである。
【0065】
請求項4の方向性結合器は、請求項1〜3に記載のいずれかの方法により方向性及び結合度を測定するものである。
【0066】
請求項5のプラズマ処理装置は、請求項4に記載の方向性結合器を備えたものである。
【0067】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
(方向性結合器の方向性及び結合度の測定方法)
図1は、本発明の方向性結合器の方向性及び結合度の測定方法を実施する概略構成を示す概略構成図である。
【0068】
図1に示す装置は、発振電圧を発振する発振器21を有しており、この発振器21には、伝送線路26aを介して、サーキュレータ22に接続されている。サーキュレータ22は、伝送線路26bを介して方向性結合器23の入力部23aに接続されている。方向性結合器23の出力部23bは、伝送線路27を介して既知インピーダンス24に接続されている。また、方向性結合器23は、方向性結合器23内を伝播する進行波の進行波電圧Vfをピックアップする進行波ピックアップ部Pfと、方向性結合器23の内部を伝播する反射波の反射波電圧Vrをピックアップする反射波ピックアップ部Prとを有している。各ピックアップ部Pf及びPrにてピックアップされる出力電圧vf及びvrは、オシロスコープ25の各出力端A及びBにそれぞれ接続されている。
【0069】
ここで、方向性結合器23の特性インピーダンスはZ、伝播定数はγ(=α+jβ)となっており、伝送線路26及び27の特性インピーダンス及び伝播定数は、方向性結合器23と同様に特性インピーダンスZ及び伝播定数γを有している。また、既知インピーダンス24のインピーダンス値はZpであり、既知インピーダンス24から方向性結合器23の各ピックアップ部Pf及びPrまでの電気的長さは、それぞれLとなっている。
【0070】
発振器21から発振する発振電圧Vは、進行波として伝送線路26、サーキュレータ22、方向性結合器23、伝送線路27に伝送され、既知インピーダンス24に入射する。既知インピーダンス24に入射した進行波は、その一部若しくは全部が反射し、進行波とは逆方向に進む反射波として、伝送線路27、方向性結合器23、伝送線路26b、サーキュレータ22へと伝播し、サーキュレータ22により伝送線路26cを介してダミーロード28へと伝播され、このダミーロード28にて全ての電力が消費される。
【0071】
この場合に、方向性結合器23内の進行波及び反射波の出力電圧Vf及びVrと、進行波及び反射波と既知インピーダンス24のインピーダンスZpとの間には、高周波分布定数理論により、次の(17)式の関係が存在する。
【0072】
【数17】
Figure 0003612487
Γは、方向性結合器23における反射率を示しており、この反射率Γは、(17)式に示すように、既知インピーダンス24のインピーダンスZpの値により変動する。各ピックアップ部Pf及びPrにてピックアップされ、各ピックアップ部Pf及びPrから出力される出力電圧を、vf及びvrとすると、この出力電圧vf及びvrは、それぞれ次の(18)式のよう表される。
【0073】
【数18】
Figure 0003612487
この(18)式中、k11、k12、k21、k22は、それぞれ方向性結合器23の結合特性値を示している。この結合特性値k11〜k22は、各ピックアップ部Pf及びPrの出力電圧vf及びvrと進行波電圧Vf及び反射波電圧Vrとが位相情報を含む複素数であることから、k11〜k22もそれぞれ複素数となる。
【0074】
ここで、各ピックアップ部Pf及びPrの出力電圧vf及びvrの振幅比及び位相差から得られる定数Zinを次の(19)式のように定義する。
【0075】
【数19】
Figure 0003612487
この(19)式において、|vr|/|vf|は出力電圧の振幅比、Exp[Arg(vr)−Arg(vf)]は位相差を示している。
【0076】
また、この定数Zinは、(18)式により、次の(20)式のように表すことができる。
【0077】
【数20】
Figure 0003612487
この(19)式から、次の(21)式及び(22)式を定義する。
【0078】
【数21】
Figure 0003612487
【0079】
【数22】
Figure 0003612487
上記の(21)式及び(22)式は、方向性結合器23のk11〜k22、各ピックアップ部Pf及びPrにおける反射率Γ、各ピックアップ部Pf及びPrの出力電圧比Zinの間に常に成り立つものである。
【0080】
したがって、方向性結合器23の結合特性値k11〜k21が算出されれば、各ピックアップ部Pf及びPrの出力電圧vf及びvrがオシロスコープ25によってモニタリングされることにより、Zin(=vr/vf)が算出される。このようにして算出されたZin及びk12’及びk21’及びk22’に基づいて、方向性結合器23の出力側のインピーダンスが算出される。
【0081】
ここで、k12’、k21’、k22’が複素数であることから、このk12’、k21’、k22’を次の(23)式のように表すことができる(x12’〜x22’は実数)。
【0082】
【数23】
Figure 0003612487
そして、既知インピーダンス24に様々なインピーダンス値Zpi(i=1〜n)を設定することにより、様々な反射率Γiに対する出力電圧vfi及びvriをオシロスコープ25によってモニタリングし、(23)式に代入することにより、次の(24)式が得られる。
【0083】
【数24】
Figure 0003612487
各定数Re[Zin]等及びx12’〜y22’は、実数であることから、既知インピーダンス24に3つの異なる既知インピーダンスZp、Zp、Zpを設定し、各々の出力電圧比Zin=vr/vfを測定し、6元線形連立方程式を解けば、各x12’〜y22’を求めることができる。
【0084】
また、出力電圧vf及びvrの測定誤差を考慮して、既知インピーダンス24にn種(n>3)の既知インピーダンスZpnに対する出力電圧vfn及びvrnを測定し、次の(25)式にしたがって、最小自乗法によって、k12’〜k22’の再確値を決定することもできる。
【0085】
【数25】
Figure 0003612487
さらに、発振器1の出力電圧Vと方向性結合器23の出力電圧vfとの比から、次の(26)式に示すように、ピックアップ定数k11を求めることもできる。
【0086】
【数26】
Figure 0003612487
ただし、k11は、iとしてi=1〜nのいずれか一つを選択して算出するか、すべてのiについてk11を算出し、その平均値を求めるか、どちらでもよい。
【0087】
次に、本実施の形態の結合度を測定する方法の手順について、図4に基づいて説明する。
【0088】
まず、発振器21、サーキュレータ22、方向性結合器23、オシロスコープ25、ダミーロード28及び伝送線路26及び27を、図1に示すように配置する(ステップS1)。
【0089】
次に、n個あるうちの第1番目の既知インピーダンス24を方向性結合器23の出力端子23bに接続する(ステップS2)。
【0090】
次に、(17)式により、反射率Γを算出する。また、発振器21から発振電力を発振し、方向性結合器23の各ピックアップ部Pf及びPrに出力される出力電圧vf及びvrをオシロスコープ25によってモニタリングし、(19)式により、出力電圧比Zinを算出する(ステップS3)。
【0091】
その後、方向性結合器3に第2の既知インピーダンス24を接続し、反射率Γを算出し、方向性結合器3の各ピックアップ部Pf及びPrの出力電圧vf及びvrをオシロスコープ25によってモニタリングして、出力電圧比Zinを算出する。この操作をn個の既知インピーダンス24について繰り返し行う(n≧3)(ステップS4)。
【0092】
上記により、n回繰り返して測定されたそれぞれの出力電圧vf及びvr、また出力電圧比Zinと反射率ΓとインピーダンスZpを(1≦i≦n)、(25)式にしたがって最小自乗法によって、k12/k11、k21/k11、k22/k11の最確値を複素数にて算出する(ステップS5)。
【0093】
さらに、発振器21の出力電圧Vと、方向性結合器23の進行波ピックアップ部Pfによって出力される出力電圧vfとから、(26)式に基づいて、進行波ピックアップ部Pfの結合度|k11|を算出する(ステップS6)。
【0094】
このように、本実施の形態においては、反射波を無視することなく、方向性結合器23の方向性及び結合度を算出しているので、反射波を無視することに起因する誤差が含まれず、方向性及び結合度の精度が向上する。また、方向性及び結合度を複素数で求めることができる。
【0095】
ここで、複素数として求められる結合特性値の測定精度は、既知インピーダンス24のインピーダンス値Zpの精度及び各ピックアップ部Pf及びPrの出力電圧vf及びvrの精度により決定される。既知インピーダンス24として、金属、半導体、絶縁体、誘電体等の物質を用いて、実抵抗、容量、インダクタンスを構成する場合、金属等の物質の抵抗率、誘電率等の測定誤差が既知インピーダンス24のインピーダンス値Zpの誤差に影響し、結合特性値の測定精度が低下する。
【0096】
したがって、既知インピーダンス24には、気体を媒質として用いることが望ましい。気体を媒質として用いれば、容量を構成する誘電体の比誘電率εrをεr=1.0とおくことができ、既知インピーダンス24のインピーダンスZpの精度をさらに向上させることができる。
【0097】
また、本実施の形態では、結合特性値を同時に算出し、しかも複素数として算出しているので、進行波及び反射波の振幅のみでなく、進行波及び反射波の位相関係を求めることができる。
【0098】
以上のことにより、プラズマ処理等を行う反応容器のインピーダンスを正確にモニタリングすることができる。
(方向性結合器を備えたプラズマ処理装置)
上記方向性及び結合度の測定方法による方向性結合器を備えたプラズマ処理装置について説明する。
【0099】
図2は、方向性結合器を備えたプラズマ処理装置30の概略構成図である。
【0100】
プラズマ処理装置30は、マッチング装置部分31と、このマッチング装置部分31の一方の端部に接続された方向性結合器部分32と、方向性結合器部分32の他方の端部に接続された反応容器部分33とを有している。
【0101】
マッチング装置部分31は、外径Dの円筒状をした外導体41bと、この外導体41bの軸心部に同軸状態で配置された外径dの中心導体41aとからなる同軸線路41を有している。この同軸線路41の方向性結合器部分32側の端部の側方に、ボックス部42が設けられており、このボックス42は、同軸線路41の外導体41bを通って中心導体41aに連通しており、ボックス42内に同軸線路41の外導体41b内の容量を変更する可変容量43が設けられている。ボックス42の外側には、ボックス部42内の可変容量43に接続されたコネクタ44が設けられている。
【0102】
同軸線路41の外導体41b内には、軸心方向に沿って、移動可能に配置された可動短絡端45が設けられている。可動短絡端45は、同軸線路41の端部に設けられたハンドル46によって、軸方向に沿って移動される。この可動短絡端45の移動により、プラズマ処理装置30への入力インピーダンスが調整される。
【0103】
方向性結合器部分32は、マッチング装置部分31の同軸線路41の中心導体41aと同心状態で連続された外径dの中心導体51aと、同軸線路41の外導体41bと同心状態で一体的に連続された外径Dの外導体51bとを有する方向性結合器51を有している。この方向性結合器51の側部には、進行波電力をピックアップする進行波ピックアップ部Psと、この進行波ピックアップ部Psに対向した位置に配置され、反射波電力をピックアップする反射波ピックアップ部Phとが設けられている。
【0104】
反応容器部分33は、方向性結合器51の中心導体51aと同心状態で一体的に連結される外径dの中心導体61aを有している。中心導体61aは、方向性結合器51の外導体51bの内径と同径の円筒状の内部61bを有する円筒状の反応容器61の軸心部に沿って配置されている。中心導体61aの先端部61cは、プラズマ処理を行う試料の載置面となっており、この先端部61cに対向して、試料表面上のプラズマ処理がなされる空間のギャップを調整するギャップ調整装置62が設けられている。反応容器61の側部には、反応ガスを導入するための反応ガス導入口63が形成されている。また、反応容器61の方向性結合器部分32側の端部には、反応ガス導入口63から導入される反応ガスが方向性結合器51に流出しないように隔壁64が設けられている。
【0105】
ここで、マッチング装置部分31の可変容量43から可動短絡端45までの距離をLB、方向性結合器51の進行波ピックアップ部Ps及び反射波ピックアップ部PhからプラズマPが発生される反応容器61の中心導体61aの先端61cまでの電気的な距離をLpとする。
【0106】
また、マッチング装置部分31の同軸線路41と、方向性結合器部分32の方向性結合器51と、反応容器部分33の反応容器61とは、全体として、外径dの中心導体と外径Dの外導体とからなる同軸線路を形成しており、その特性インピーダンスをZ、伝播定数をγとする。この全体としての同軸線路は、プラズマPを発生する反応容器61の中心導体61aの先端61cのプラズマ処理部を容量、マッチング装置部分31の可動短絡端45を短絡とする同軸共振器となっている。
【0107】
次に、上記構成を有するプラズマ処理装置30の動作について説明する。
【0108】
プラズマ処理装置30への入力インピーダンスZinが、(50+0j)[Ω]に一致するように、まずマッチング装置部分31の可変容量43の容量C及び同軸線路41の長さLBをハンドル46にて調整する。
【0109】
調整後、図示しない外部の電源をコネクタ44に接続し、周波数f[Hz]の高周波電圧をマッチング装置部分31に印加する。
【0110】
プラズマ処理装置30に導入された高周波電圧は、方向性結合器51を経て、長さがLpの同軸線路を通じて反応容器61の中心導体61aの先端61cに伝送される。
【0111】
反応容器61の反応ガス導入口63からは、反応ガスが導入され、中心導体61aの先端61cに伝送された高周波電圧により発生するプラズマPによって、反応種が発生し、中心導体61aの先端61cに載置された試料へのプラズマ処理が行われる。
【0112】
試料へのプラズマ処理が行われている間、方向性結合器51の進行波ピックアップ部Psは、進行波電圧Vsから出力電圧vsをピックアップし、反射波ピックアップ部Phは、反射波電圧Vhから出力電圧vhをピックアップする。各ピックアップ部Ps及びPhの出力電圧vs及びvhは、前記の(20)式と同様に、進行波電圧Vs及び反射波電圧Vhによって、次の(27)式のように表すことができる。
【0113】
【数27】
Figure 0003612487
また、方向性結合器51の各ピックアップ部Ps及びPhによる反射率Γと反応容器61の中心導体61aの先端61cのインピーダンスZpとの関係は、中心導体61aの先端61cと方向性結合器61との間の電気的な距離Lpにより、次の(28)式となる。
【0114】
【数28】
Figure 0003612487
そして、中心導体61aの先端61cに空気を媒質とした容量を構成し、ギャップ調整装置62により、反応容器61の容量を種々の値に変化させ、反応容器61のインピーダンスZpを変化させたときの各ピックアップ部Ps及びPhの出力電圧vs、vhの振幅比vs/vh及び位相差(Arg[vh]−Arg[vs])を測定し、前述した(17)式〜(25)式を用いて、k12’、k21’、k22’を算出し、結合度及び方向性を算出する。
【0115】
そして、算出された結合度及び方向性により、反射率Γを算出し、反応容器61のインピーダンスをモニタリングする。
【0116】
ここで、実際に、ギャップ調整装置62を調整することにより、先端61cに空気を媒質として構成された容量を変動させたときのピックアップ部Ps、Phの出力電圧vs、vhの振幅比vs/vh、及び位相差(Arg[vh]−Arg[vs])を測定し、前述の(17)式〜(25)を用いて、k12’、k21’、k22’を算出し、この算出されたk12’等に基づいてプラズマ処理部である反応容器61のインピーダンスZpを求めた。このインピーダンスを図3に示す。
【0117】
図3から分かるように、反応容器61に設定された容量による実際のインピーダンスZpと、出力電圧vs、vh及びk12’、k21’、k22’から算出されたインピーダンスZpがよく一致し、本実施の形態の方式が正確であることが確認された。
【0118】
【発明の効果】
以上説明したことからも明らかなように、本発明によれば、方向性結合器内部の進行波電圧Vs及び反射波電圧Vrと、方向性結合器の出力電圧vsとvrとの位相関係、また、VsとVr間の位相関係が分かるので、方向性結合器における反射率Γ(=Vr/Vs)、方向性結合器におけるインピーダンス、さらには、反応容器の入力インピーダンスZpが方向性結合器のみで算出され、反応容器のインピーダンスZpをモニタリングすることができる。このことにより、エッチングの終点検出などを行うプラズマ処理装置、またプラズマインピーダンスを測定する装置を構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の進行波及び反射波の方向性及び結合度を測定する方法の実施に使用される装置の概略図である。
【図2】本発明の方向性及び結合度を測定する方法を用いたプラズマ処理装置を示す概略構成図である。
【図3】方向性及び結合度を測定する方法により算出されたインピーダンスを示すグラフである。
【図4】本発明の方向性及び結合度を測定する方法の手順を示すフローチャートである。
【図5】方向性結合器を用いて電力モニタリングを行う電力モニタリング装置の構成を示す構成概略図である。
【図6】方向性結合器の概略を説明する概略図である。
【図7】従来の方法により結合度を測定する構成を示す概略構成図である。
【図8】従来の方法により方向性を測定する構成を示す概略構成図である。
【図9】従来の方法により方向性及び結合度を測定する際の手順を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
21 発振器
22 サーキュレーター
23 方向性結合器
24 既知インピーダンス
25 オシロスコープ
26 伝送線路
27 伝送線路
28 ダミーロード
Pf 進行波ピックアップ部
Pr 反射波ピックアップ部

Claims (5)

  1. 電源の出力端を方向性結合器の入力端に接続し、方向性結合器の出力端をインピーダンス終端器の入力端に接続し、該方向性結合器の内部を伝播する電磁波に応じた方向性結合器の出力信号を測定することによって該方向性結合器の結合度及び方向性を測定する方向性結合器の特性測定方法であって、
    前記インピーダンス終端器として、反射波を発生するインピーダンス終端器を用いることを特徴とする方向性結合器の特性測定方法。
  2. 電源の出力端を方向性結合器の入力端に接続し、方向性結合器の出力端をインピーダンス終端器の入力端に接続し、該インピーダンス終端器として、反射波を発生するn種(n≧3)のインピーダンス終端器を用いて終端させ、
    インピーダンスZpを持つ第i(1≦i≦n)のインピーダンス終端器を接続した時の方向性結合器のピックアップ部分における反射率をΓ、電源の発振電圧をVとし、方向性結合器の進行波ピックアップの出力電圧振幅|vf|と、反射波ピックアップの出力電圧振幅|vr|と、互いの位相差(Arg[vf]−Arg[vr])とをそれぞれ測定し、Zin=(|vr|/|vf|)exp[Arg[vr]−Arg[vf]]で表される定数をそれぞれ算出するステップと、
    方向性結合器の進行波ピックアップの結合度k11、方向性k12/k11、反射波ピックアップの結合度k21、方向性k22/k21を用いて、k12’=k12/k11、k21’=k21/k11、k22’=k22/k11=(k22/k21)×(k21/k11)、Q=−Zin−ZinΓ12’+k21’+k22’Γを定義し、Σ|Qを最小にするk12’、k21’、k22’をそれぞれ算出するステップと、
    11=|vf|/{|V||1+k12’Γ|}を算出するステップと
    を含む、方向性結合器の特性測定方法。
  3. 前記インピーダンス終端器は、気体を媒質とした容量によって構成することを特徴とする請求項1または2に記載の方向性結合器の特性測定方法。
  4. 請求項1〜3に記載のいずれかの方法により方向性及び結合度を測定する方向性結合器。
  5. 請求項4に記載の方向性結合器を備えたプラズマ処理装置。
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