JP3611785B2 - 歯車2段ショットピーニング方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、歯車2段ショットピーニング方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、歯車に対しその使用時に応力集中を受ける領域の疲労強度を高めるため
の手段として例えば、歯車をショットピーニング装置に回転可能にセットするとともに、歯車を回転しつつそのショットピーニング対象領域にショット材を投射するショットピーニング法を施し残留応力を付与する方法が知られている。
【0003】
ここで、前記疲労強度をさらに高めるための手段として、高硬度で平均粒径が大小異なるショット材を2段階に投射する、いわゆる2段ショットピーニング方法を用いた場合、〔例えば、歯車のショットピーニング対象領域に高硬度(Hv700以上)で所定の平均粒子径の第1ショット材を投射する第1ショットピーニング工程を施した後、引続き、高硬度(Hv700以上)で第1ショットピーニング工程の第1ショット材よりも平均粒径が小さい第2ショット材を投射する第2ショットピーニング工程を施す場合〕、高圧縮残留応力を付与できるものの、歯車9(援用して示す実施例の図5参照)の歯端面(歯形部の軸方向の両端面)90、91と歯面920との境界角領域(角部分)aが欠損する可能性がある。
【0004】
そこで、前記第1ショットピーニング工程後、歯車に100°C〜200°Cの焼き戻し処理を施して耐衝撃性を高めた状態としてから、第2ショットピーニング工程を施すことで前記境界角領域aが欠損することを回避することができ、かつ前記歯車のショットピーニング対象領域のみに高圧縮残留応力を付与できるようにした2段ショットピーニング方法が用いられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記従来の2段ショットピーニング方法によると、第1ショットピーニング工程後、焼き戻し処理を必要とするため、連続して第1ショットピーニング工程、第2ショットピーニング工程を施すことができない。
【0006】
このため、第1ショットピーニング工程後の歯車をショットピーニング装置から取り出す作業、焼き戻し処理(焼き戻し炉での加熱及び冷却)作業及び、この後、歯車をショットピーニング装置に再度セットする必要があることなど、余分な工数を必要とし、また処理コスト面で不利となり改良の余地がある。
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたもので、第1ショットピーニング工程と第2ショットピーニング工程とを連続して歯車のショットピーニング対象領域(少なくとも歯面)に施して高圧縮残留応力を付与することができ、かつこの場合、歯車の歯端面と歯面との境界角領域(角部分)を欠損させずにすみ、前記両工程の間で歯車に焼き戻し処理を施すことなく、処理コスト面で有利な2段ショットピーニング方法を提供することを解決すべき課題とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明の歯車2段ショットピーニング方法は、回転可能なワーク保持部により軸方向の両端側から挟持された歯車を回転しつつ、そのショットピーニング対象領域に硬度Hv700以上で所定の平均粒子径の第1ショット材を投射する第1ショットピーニング工程を施した後、硬度Hv700以上で該第1ショット材よりも平均粒子径が小さな第2ショット材を投射する第2ショットピーニング工程を施す歯車2段ショットピーニング方法であって、前記ワーク保持部は、前記歯車の歯端面との当接時の衝撃を吸収、緩和する機能を備えた衝撃緩衝部材をもち、該歯車を回転可能に保持し、前記第1ショットピーニング工程と前記第2ショットピーニング工程との両方あるいはいずれか一方は、前記歯車の前記歯端面をマスキング部材でマスキングした状態で施すことを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明の歯車2段ショットピーニング方法によると、歯車は、ワーク保持部により軸方向の両端側から挟持され回転させた状態でそのショットピーニング対象領域に第1ショットピーニング工程、第2ショットピーニング工程の順に施し高圧縮残留応力を付与する場合において、歯端面がマスキング部材でマスキングされた状態でショットピーニング対象領域に第1ショットピーニング工程と第2ショットピーニング工程との両方あるいはいずれか一方が施こされる。
【0010】
すると、第1ショット材と第2ショット材との両方あるいはいずれか一方が歯端面に直接、投射されることをマスキング部材により阻止でき、かつ投射による衝撃からマスキング部材で保護することができ、ショットピーニング対象領域と歯端面との境界角領域(角部)が欠損(歯欠け)することなく、ショットピーニング対象領域に高圧縮残留応力を付与することができる。
【0011】
このため、本発明の歯車2段ショットピーニング方法の場合には、歯車に対し、第1ショットピーニング工程後に焼き戻し処理を施す必要がなく、かつ連続して第1ショットピーニング工程と第2ショットピーニング工程とを施すことができる。
【0012】
従って、連続して第1ショットピーニング工程と第2ショットピーニング工程とを施された歯車は、ショットピーニング対象領域と歯端面との境界角領域(角部)を欠損させずに、ショットピーニング対象領域の疲労強度を高めることができ、かつ品質を一段と向上し得る。
【0013】
また、前記従来の2段ショットピーニング方法で必要とされていた、第1ショットピーニング工程と第2ショットピーニング工程との間での歯車に焼き戻し処理を施す必要がないため、これに伴う種々の作業を行わずにすみ、処理コスト面で有利なものとなるとともに、さらに全工程時間を短縮できる。
【0014】
前記第1ショット材と前記第2ショット材とは、硬度Hv700以上で平均粒子径が異なり、かつ第2ショット材の平均粒子径は第1ショット材の平均粒子径よりも小さいものが用いられる。
【0015】
この理由としては、浸炭処理済の歯車のショットピーニング対象領域に対し、ショットピーニング工程を施すことによって付与される残留応力(MPa)の最大値(ピーク)は、ショット材の硬度Hvによって定まり、また前記残留応力(MPa)の最大値(ピーク)が付与される表面からの深さは、ショット材の平均粒子径の大きさによって定まる。
【0016】
このため、第1ショットピーニング工程では、表面から深い領域に高圧縮残留応力を付与するために硬度Hv700以上で大きな平均粒子径の第1ショット材を用い、第2ショットピーニング工程では、表面から浅い領域に高圧縮残留応力を付与するために硬度Hv700以上で第1ショット材よりも小さな平均粒子径の第2ショット材を用いる。これによって表面から浅い領域から深い領域にまで広い範囲に高圧縮残留応力を付与することができる。
【0017】
前記第1ショット材は、前記第1ショットピーニング工程で用いられ、硬度Hv700以上で平均粒径0.6〜1.2mmのものを用いることができる。
【0018】
前記第2ショット材は、前記第2ショットピーニング工程で用いられ、硬度Hv700以上で平均粒径0.1〜0.5mmのものを用いることができる。
【0019】
マスキング部材は、歯車の軸方向の両歯端面と歯面との境界角領域(角部分)や、前記両歯端面に直接、投射されることを阻止でき、かつ投射による衝撃から保護することができる外径を備えたものであればよい。
【0020】
すなわち、マスキング部材は、少なくともその外径が歯車の外径(歯先円)までの歯端面をマスキングできる値のものである。
【0021】
前記マスキング部材は、前記歯車の歯先円よりも大きい外径をもつものを用いることが好ましい。この場合には、歯車の歯端面をマスキング部材でマスキングした状態をより確実に行うことができる。例えば、歯車の歯端面を半径外方向側の全領域をマスキングする場合、歯車の種類によって異なる寸法公差に対応でき、かつ余裕をもって歯端面の全領域をマスキングし、保護することができる。
【0022】
また、歯車の歯端面をマスキングする場合、例えば、歯車の両端部の一方の歯端面(下方歯端面)を載置する平坦な載置面を備えたワーク下方保持部(回転載置台)を下方マスキング部材として兼用でき、また歯車の他方の歯端面(上方歯端面)に当接し、押圧して前記ワーク下方保持部とで歯車の両端部を挟持し歯車を回転可能に保持するワーク上方保持部を上方マスキング部材として兼用できる。
【0023】
前記マスキング部材としては、前記のようにワーク下方保持部(回転載置台)や、ワーク上方保持部を兼用することの他、例えば、歯車の一方の歯端面とワーク下方保持部との間、及び歯車の他方の歯端面とワーク上方保持部との間に介置できる板状のものを用いることができる。この板状のマスキング部材としては、剛性を備えた円板状のものや、リング板状のものや、歯車の歯形に相似する歯形板状のものなどである。なお、歯形板状のマスキング部材は、歯車の歯端面の全領域をマスキングした状態としたとき、半径外方向部分の他、周方向部分が若干、歯端面の外側にはみ出す大きさであることが好ましい。
【0024】
前記ワーク保持部は、前記歯車の前記歯端面との当接時の衝撃を吸収、緩和する機能を備えた衝撃緩衝部材をもつものを用いることが好ましい。この場合には、ショットピーニング装置に回転可能に保持すべき歯車に対し、所定のセット位置でワーク保持部を当接させ、押圧する場合、当接時の衝撃を吸収、緩和できるため、歯車の歯端面を損傷することを回避でき、ワーク保持部の往移動速さを低下させずに歯車に素早く当接して挟持し、回転可能に保持できるため、例えば、量産方式の生産ラインにおける工程時間の短縮に寄与できる。
【0025】
前記衝撃緩衝部材は、コイルスプリングを用いることができる。この場合には、入手(調達)しやすく、良好な衝撃緩衝機能を得ることができる。
【0026】
【実施例】
以下、本発明に係る歯車2段ショットピーニング方法の実施例を図1〜図6に基づいて説明する。
【0027】
実施例の歯車2段ショットピーニング方法は、図1に示すショットピーニング装置1を用い、歯車9を特異な状態に回転可能に保持した状態で順に、第1ショットピーニング工程、第2ショットピーニング工程を施すものである。
【0028】
ここで、予め、ショットピーニング装置1について説明する。ショットピーニング装置1は、所定位置にセットされた歯車9とともに軸心線P1を中心として回転可能なワーク下方保持部2と、ワーク下方保持部2の軸心線P1と一致する軸心線P2上でワーク下方保持部2に対向する位置に設けられたワーク上方保持部3と、ワーク下方保持部2とワーク上方保持部3とで両歯端面(下方歯端面90及び上方歯端面91)を挟持された歯車9の歯形部92(図5参照)のショットピーニング対象領域(歯面920、歯先面921、歯元の面922、歯底面923)に対し、第1ショットピーニング工程で第1ショット材40を投射する第1ショットノズル部4と、第2ショットピーニング工程で第2ショット材50を投射する第2ショットノズル部5と、それらを囲みショット室Sを形成するハウジング6と、よりなる。
【0029】
ワーク下方保持部2は、軸心線Pを中心として360°回転可能な回転基部7(図1参照)にその半径外方向R側で平面側より視認して周方向に沿う等間隔位置に複数、設けられている(図1では代表してひとつを図示する)。また、ワーク下方保持部2は、回転基部7に伴って360°回転移動し、かつ1巡する間で予め定められた複数の回転角度位置〔第1ショットピーニング工程位置(第1ショットノズル部4に対向する位置)、第2ショットピーニング工程位置(第2ショットノズル部5に対向する位置)で〕回転基部7とともに所定時間、前記周方向の回転移動を停止することができる。
【0030】
ワーク下方保持部2は、回転基部7に回転可能に保持されその上下に突出する回転軸20と、回転軸20の上方側に連設された回転載置台を兼ねる第1マスキング部材21と、回転軸20の下方側に連設され外部から伝達された回転駆動力を受ける従動側歯車22とをもつ。
【0031】
第1マスキング部材21は、歯車9が載置されたとき、歯車9の下方歯端面90を覆い、かつ下方歯端面90の外径(歯先円)D(図2参照)よりも大きい外径D1の載置面を兼ねるマスキング面210をもつ。第1マスキング部材21は剛性を備えた金属製のものを用いることができる。
【0032】
従動側歯車22は、ワーク下方保持部2が回転基部7によって、軸心線P1をワーク上方保持部3の軸心線P2に一致する位置に保持されたとき、図略の駆動力伝達用の駆動側歯車に噛み合い、かつ駆動側歯車からの駆動力を受けて従動回転し、回転軸20、第1マスキング部材21、歯車9、後記するワーク上方保持部3の第2マスキング部材32、ホルダ31、ピストン軸301を一体的に回転し得る。
【0033】
ワーク上方保持部3は、平面側より視認して前記回転基部7の周方向に所定の間隔を隔てた第1ショットピーニング工程位置及び第2ショットピーニング工程位置に複数に配設される。
【0034】
すなわち、ワーク上方保持部3は、第1ショットピーニング工程位置及び第2ショットピーニング工程位置でワーク下方保持部2の軸心線P1と一致する軸心線P2に配設され、シリンダー部300及びピストン軸301よりなるエアシリンダー装置30と、前記ピストン軸301の先端部に連結され断面略凹状(ワーク下方保持部2に対向する側に開口する有底筒状)のホルダ31と、ホルダ31内部で軸心線P2に沿って往復(図1の矢印Y1、Y2参照)移動可能に収容、保持された押さえ部材を兼ねる筒状の第2マスキング部材32と、ホルダ31と第2マスキング部材32との間に介置された衝撃緩衝材として機能するコイルスプリング33と、よりなる。
【0035】
エアシリンダー装置30のピストン軸301は、ワーク下方保持部2に接近及び遠ざかる方向に往復移動可能にシリンダー部300に保持されるとともに、軸心線P2を中心として回転可能である。
【0036】
ホルダ31は、ワーク下方保持部2に対向する側の開口に内周テーパ部310(図2参照)が形成されている。この内周テーパ部310は、後記する第2マスキング部材32の外周テーパ部320が係止するストッパとして機能する。
【0037】
第2マスキング部材32は、筒状の外周部に前記ホルダ31の内周テーパ部310が係止する外周テーパ部320が形成されるとともに、ワーク下方保持部2に対向する先端に歯車9に当接したとき、歯車9の上方歯端面91を覆い、かつ上方歯端面91の外径(歯先円)Dよりも大きい外径D2のリング状押さえ面を兼ねるマスキング面321をもつ。第2マスキング部材32は、剛性を備えた金属製のものを用いることができる。
【0038】
コイルスプリング33は、筒状の第2マスキング部材32を平面側より視認した周方向に、90°の等角度で計4個(同じもの)が位置決めされた状態(定位置)に配置されている。コイルスプリング33は、第2マスキング部材32に対し、その外周テーパ部320(図2参照)がホルダ31の内周テーパ部310に当接し得るように付勢する。コイルスプリング33は、予め、目的に応じて種々設定された圧縮強さのものを用いることができる。
【0039】
第1ショットノズル部4及び第2ショットノズル部5は、歯車9がセット位置(ワーク下方保持部2とワーク上方保持部3とで軸心線P1とP2とが一致する位置)にて保持された状態で、軸心線P1、P2を中心する回転時に、それぞれ第1ショット材40、第2ショット材50を歯車9のショットピーニング対象領域(歯面920、歯先面921、歯元の面922、歯底面923)に対し投射する機能をもつ。
【0040】
なお、第1ショットノズル部4及び第2ショットノズル部5とは、平面側より視認した場合、軸心線Pを中心として360°回転可能な回転基部7の半径外方向の同心円位置で、周方向に所定の間隔を隔てた位置に順に配置されており、かつ軸心線Pを中心として半径外方向に放射状に配置されている。なお、説明上、図1では、第1ショットノズル部4及び第2ショットノズル部5の位置と、それらに対向して軸心線P1と軸心線P2を中心とするように保持された歯車9の位置とを重ねて示す。
【0041】
実施例の歯車2段ショットピーニング方法は、前記のように設定されたショットピーニング装置1を用い、まず歯車9が図2のようにワーク下方保持部2の回転載置台を兼ねる第1マスキング部材21のマスキング面210に載置される。
【0042】
すると、歯車9の下方歯端面90は、歯車9の歯先面921(歯先円)より半径外方向にさらに伸びる領域にまで存在するマスキング面210に覆われマスキングされた状態となる。
【0043】
次いで、前記のように歯車9を載置したワーク下方保持部2は、第1ショットピーニング工程位置(軸心線P1がワーク上方保持部3の軸心線P2に一致する位置)にまで回転基部7とともに回転移動させる。この第1ショットピーニング工程位置では、ワーク下方保持部2に載置されている歯車9の上方歯端面91と、ワーク上方保持部3に保持された第2マスキング部材32のマスキング面321とが所定の間隔Lを隔てた対向位置に保持される。また、ワーク下方保持部2の回転軸20の従動側歯車22には、駆動力伝達用の駆動側歯車(図示せず。以下同じ)に噛み合い、かつ駆動側歯車からの駆動力を受けて従動回転することができる状態となる。
【0044】
ここでエアシリンダー装置1(図1参照)を作動し、ピストン軸301を往移動(図1、図3の矢印Y1参照)させると、ホルダ31、第2マスキング部材32、コイルスプリング33がピストン軸301に連動し、かつ第2マスキング部材32の先端のリング状押さえ面を兼ねるマスキング面321が歯車9の上方歯端面91に当接する。そして往移動するピストン軸301からの付勢力は、前記当接した時点より、ホルダ31からコイルスプリング33を介して第2マスキング部材32に伝達される。
【0045】
すなわち、ピストン軸301に伴って往移動するホルダ31は、第2マスキング部材32とともに図2に示す位置から図3に示す位置にまで往移動し、かつ第2マスキング部材32は、歯車9の上方歯端面91に当接して往移動を停止する。さらに、この時点よりホルダ31は、図3に示す位置から図4に示す位置にまで往移動し、内周テーパ部310を第2マスキング部材32の外周テーパ部320から離脱し、押圧代e分、コイルスプリング33をその反力に抗して弾性的に圧縮する。この後、ピストン軸301の先端302が、歯車9の中央リング部94に当接した位置でシリンダー装置1による前記往移動が停止され、この状態を保持される。
【0046】
従って、ピストン軸301の往移動による歯車9の上方歯端面91への第2マスキング部材32の当接時における衝撃は、コイルスプリング33が緩衝部材として機能するため、前記従来の押圧部材が直接、歯車9の上方歯端面91に当接することにより受ける衝撃に比べ、大幅に低減でき、かつ上方歯端面91に欠損等の影響がでることを回避できる。
【0047】
このようにして歯車9は、下方保持部2の回転載置台を兼ねる第1マスキング部材21によってマスキングされた下方歯端面90と、上方保持部3の押圧部材を兼ねる第2マスキング部材32によってマスキングされた上方歯端面91とを上下から挟持され、かつ位置ズレを発生させることなく定位置で回転可能に保持される。
【0048】
そして連続して順に第1ショットピーニング工程、第2ショットピーニング工程が施される。
【0049】
第1ショットピーニング工程では、ワーク下方保持部2の回転軸20によって歯車9を毎分12回転させるとともに、第1ショットノズル部4から硬度Hv700以上で平均粒径0.6〜1.2mmの第1ショット材40を歯車9のショットピーニング対象領域(歯面920、歯先面921、歯元の面922、歯底面923)に対し約90秒間、所定の圧力で投射する。
【0050】
この第1ショットノズル部4からの第1ショット材40の投射を終え、駆動側歯車からの回転軸20の従動側歯車22への駆動力の伝達を停止させるとともに、エアシリンダー装置1を作動させ、ピストン軸301を復移動(図1、図3の矢印Y2参照)させる。すると、上方保持部3の押圧部材を兼ねる第2マスキング部材32は、図1、図4に示すマスキング状態より前記往移動時と逆の工程を経て歯車9の上方歯端面91から離脱し、図2に示す位置に復帰する。
【0051】
そして、歯車9を載置したワーク下方保持部2は、第2ショットピーニング工程位置にまで回転基部7とともにその周方向に回転移動し、軸心線P1がワーク上方保持部3の軸心線P2に一致する位置に保持される。
【0052】
この第2ショットピーニング工程位置では、前記第1ショットピーニング工程位置と同じように、図略の駆動側歯車によりワーク下方保持部2の従動側歯車22が従動回転できる状態に保持され、かつシリンダー装置1の作動に伴うピストン軸301の往移動も前記場合と同じように行われ、歯車9には、ピストン軸301、ホルダ31から矢印Y1方向の付勢力がコイルスプリング33を介して第2マスキング部材32に伝達される。このため、歯車9は、複数のショットピーニング工程で所定位置に保持し得るためのエアーシリンダー装置1によるピストン軸301の往移動に伴う付勢時の衝撃を回避できる。
【0053】
また、歯車9は、下方保持部2の回転載置台を兼ねる第1マスキング部材21によってマスキングされた下方歯端面90と、上方保持部3の押圧部材を兼ねる第2マスキング部材32によってマスキングされた上方歯端面91とを上下から挟持され、かつ位置ズレを発生させることなく定位置で回転可能に保持される。この後、歯車9に第2ショットピーニング工程が施される。
【0054】
第2ショットピーニング工程では、ワーク下方保持部2の回転軸20によって歯車9を毎分12回転させるとともに、第2ショットノズル部5から硬度Hv700以上で平均粒径0.1〜0.5mmの第2ショット材50を歯車9のショットピーニング対象領域(歯面920、歯先面921、歯元の面922、歯底面923)に対し約30秒間、所定の圧力で投射する。
【0055】
このように、連続して第1ショットピーニング工程、第2ショットピーニング工程が施された後の歯車9のショットピーニング対象領域(歯面920、歯先面921、歯元の面922、歯底面923)は、高圧縮残留応力を表面より目的とする深さに付与でき、かつ疲労強度を高めることができる。また、第2ショットピーニング工程で用いられる第2ショット材50は、第1ショットピーニング工程で用いられる第1ショット材40の平均粒径値が小さいため、ショットピーニング対象領域の表面粗さが小さなものとなる。
【0056】
実施例の歯車2段ショットピーニング方法によると、歯車9は、下方歯端面90及び上方歯端面91を歯車9の外径Dより大きな外径D1及びD2をもつ下方保持部2の回転載置台を兼ねる第1マスキング部材21及び上方保持部3の押圧部材を兼ねる第2マスキング部材32により、それぞれマスキングされた状態でショットピーニング対象領域のみに前記第1及び第2ショットピーニング工程が施されるため、下方歯端面90及び上方歯端面91とショットピーニング対象領域との境界角領域(角部)aに不要な衝撃力が付与されない。
【0057】
このため、歯車9は、前記第1及び第2ショットピーニング工程を施した場合であっても、境界角領域(角部)aを欠損することなく、ショットピーニング対象領域にのみに目的とする高圧縮残留応力を付与でき、かつ必要とする疲労強度を得ることができる。
【0058】
従って、第1ショットピーニング工程と第2ショットピーニング工程とを施す場合、第1ショットピーニング工程後、従来行われていた、歯車9をショットピーニング装置1から取り出す作業及び焼き戻し処理作業を行わずに済み、かつ処理コスト面で有利なものとなる。
【0059】
さらに、歯車9は、下方歯端面90及び上方歯端面91を第1マスキング部材21と第2マスキング部材32とで挟持される場合、上方歯端面91に当接し付勢する場合の衝撃を、衝撃緩衝部材としてのコイルスプリング33によって、欠損することがない程に緩和することができる。
【0060】
(比較例)
ここで、実施例における歯車のショットピーニング対象領域に対し、2段ショットピーニング方法(連続して第1ショットピーニング工程と第2ショットピーニング工程)を施した場合の効果を確認するため、比較例として別々に2種類の1段ショットピーニング方法を施した場合とで、付与できる残留応力の分布状態の違いを図6に示す。
【0061】
すなわち、2段ショットピーニング方法(連続して第1ショットピーニング工程と第2ショットピーニング工程)を施す(例えば、第1ショットピーニング工程で第1ショット材40として硬度Hv700以上で平均粒径1.0mmを用い、第2ショットピーニング工程で第2ショット材50として硬度Hv700以上で平均粒径0.3mmを用いた)場合には、図6の曲線bの示すように、残留応力(MPa)を歯車のショットピーニング対象領域の表面から0.2mmの深さ領域にまで生成、分布でき、さらに表面に近くに残留応力(MPa)の最大値(ピーク)を分布できる。
【0062】
これに対し、1段ショットピーニング方法を施す(ショット材として硬度Hv700以上で平均粒径1.0mmを用い、第1ショットピーニング工程のみを施した)場合には、図6の曲線b1の示すように、残留応力(MPa)をショットピーニング対象領域の表面から0.2mmの深さ領域にまで生成できるものの、残留応力(MPa)の最大値(ピーク)を生成できる深さ領域が表面から離れたものとなり、必要とする表面近くの浅い領域に必要とする疲労強度が得られない。
【0063】
また、別の1段ショットピーニング方法を施す(ショット材として硬度Hv700以上で平均粒径0.3mmを用い、第1ショットピーニング工程のみを施した)場合には、図6の曲線b2の示すように、残留応力(MPa)の最大値(ピーク)を生成できる深さ領域が表面近くとなり、かつ浅い領域に必要とする疲労強度が得られるものの、残留応力(MPa)をショットピーニング対象領域の表面から0.2mmの深さ領域にまで生成させることができず、十分な疲労強度が得られない。
【0064】
従って、実施例の第1ショットピーニング工程では、硬度Hv700以上で大きな平均粒子径の第1ショット材を用いることによって、表面から深い領域に高圧縮残留応力を付与することができ、第2ショットピーニング工程では、硬度Hv700以上で小さな平均粒子径の第2ショット材を用いることによって、表面から浅い領域に高圧縮残留応力を付与することができる。
【0065】
このため、第1ショットピーニング工程と第2ショットピーニング工程とを施すことによって表面から浅い領域から深い領域にまで広い範囲に高圧縮残留応力を付与することができる。
【0066】
なお、前記第1ショットノズル部4は、例えば、前記周方向に沿って等角度を保って複数個(3個)を配置し、前記第2ショットノズル部5を1個配置することもできる。この場合には、3個の第1ショットノズル部4位置での各第1ショット材の投射時間は、約30秒間、これに引き続く第2ショットノズル部5位置での第2ショット材の投射時間は、約90秒間に設定される。
【0067】
【発明の効果】
(1)本発明の歯車2段ショットピーニング方法によると、第1ショットピーニング工程と第2ショットピーニング工程との両方あるいはいずれか一方は、前記歯車の歯端面をマスキング部材でマスキングした状態で施すことを特徴とする。
【0068】
このため、本発明の歯車2段ショットピーニング方法は、ワーク保持部により軸方向の両端側から挟持され回転させた状態でそのショットピーニング対象領域に第1ショットピーニング工程、第2ショットピーニング工程の順に施し高圧縮残留応力を付与する場合において、第1ショット材と第2ショット材との両方あるいはいずれか一方が歯端面に直接、投射されることをマスキング部材により阻止でき、かつ投射による衝撃からマスキング部材で保護することができショットピーニング対象領域と歯端面との境界角領域(角部)が欠損(歯欠け)しない。
【0069】
従って、本発明の歯車2段ショットピーニング方法の場合には、歯車に対し、第1ショットピーニング工程後に焼き戻し処理を施す必要がなく、かつ連続して第1ショットピーニング工程と第2ショットピーニング工程とを施すことができる。
【0070】
このため、連続して第1ショットピーニング工程と第2ショットピーニング工程とを施された歯車は、ショットピーニング対象領域と歯端面との境界角領域(角部)を前記衝撃によって欠損させることがなく、ショットピーニング対象領域に付与された高圧縮残留応力により疲労強度を高めることができ、かつ品質を一段と向上し得る。
【0071】
また、本発明の歯車2段ショットピーニング方法の場合には、前記従来の2段ショットピーニング方法で必要とされていた、第1ショットピーニング工程と第2ショットピーニング工程との間での歯車に焼き戻し処理を施す必要がないため、これに伴う種々の作業を行わずにすみ、処理コスト面で有利なものとなるとともに、さらに全工程時間を短縮できる。
(2)前記本発明の歯車2段ショットピーニング方法において、前記マスキング部材は、前記歯車の歯先円よりも大きい外径をもつ構成とした場合には、歯車のの歯端面を確実にマスキングすることができる。
(3)前記本発明の歯車2段ショットピーニング方法において、前記ワーク保持部は、前記歯車の前記歯端面との当接時の衝撃を吸収、緩和する機能を備えた衝撃緩衝部材をもつ構成とした場合には、歯端面がワーク保持部の往移動による当接時の衝撃による欠損などにより変形することを防止できるため、例えば、当接時の衝撃を緩和するために歯車を挟持する際におけるワーク保持部の往移動速度を低く設定する必要がなく、ワーク保持部の往移動速度を高めることができる分、第1ショットピーニング工程、第2ショットピーニング工程のサイクルタイムを短縮できる。
(4)前記本発明の歯車2段ショットピーニング方法において、前記衝撃緩衝部材は、コイルスプリングを用いた構成とした場合には、入手(調達)しやすく、良好な衝撃緩衝機能を得ることができる。
(5)前記本発明の歯車2段ショットピーニング方法において、前記第1ショット材は、平均粒径0.6〜1.2mmであり、前記第2ショット材は、平均粒径0.1〜0.5mmである構成とした場合には、第1ショット材によりショットピーニング対象領域の表面から〜0.2mmの深い領域に高圧縮残留応力を生成、分布でき、第2ショット材によりショットピーニング対象領域の表面から0.1mmの浅い領域に高圧縮残留応力を生成、分布できる。
【0072】
従って、第1ショット材と第2ショット材との2種類により付与される高圧縮残留応力は、ショットピーニング対象領域の表面から0.2mmに至るでの深さ領域にまで分布でき、さらに表面近くから0.1mmの幅広い領域にまで残留応力の最大値(ピーク)を分布できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の歯車2段ショットピーニング方法を施す場合に用いるショットピーニング装置の概略を示す部分断面図。
【図2】図1のショットピーニング装置におけるワーク下方保持部に歯車を載置した状態とし、ワーク下方保持部をその軸心線がワーク上方保持部の軸心線に一致する位置で、ワーク上方保持部に保持された第2マスキング部材のマスキング面と、歯車の上方歯端面とが所定の間隔を隔てた対向位置に保持された状態を拡大して示す部分断面図。
【図3】図2におけるワーク下方保持部に載置された歯車に対し、その上方歯端面にワーク上方保持部に保持された第2マスキング部材のマスキング面を当接させた状態を拡大して示す部分断面図。
【図4】図3における歯車に対し、その上方歯端面に衝撃緩衝部材(コイルスプリング)、第2マスキング部材を介して付勢するとともに、歯車の下方歯端面及び上方歯端面とをマスキング及び挟持し、歯車を回転しながら、第1ショットピーニング工程あるいは第2ショットピーニング工程を施す状態を拡大して示す部分断面図。
【図5】実施例の歯車2段ショットピーニング方法を施す場合に用いられる歯車の一部の歯を示す部分斜視図。
【図6】歯車の歯面に対し、それぞれ1段ショットピーニング方法(硬度Hv700以上で、平均粒径が1.0mmのショット材、0.3mmのショット材を用い、その他同じ条件でそれぞれ1段ショットピーニング工程のみ)を施した2つの場合と、2段ショットピーニング方法(前記1.0mmのショット材を用いた第1ショットピーニング工程と、これに引続き、硬度Hv700以上で平均粒径0.3mmのショット材を用いた第2ショットピーニング工程と)を施した場合とにおける表面からの距離(深さ)mmと残留応力(MPa)の分布との関係を示す比較図。
【符号の説明】
1…ショットピーニング装置
2…ワーク下方保持部 20…回転軸
21…回転載置台を兼ねる第1マスキング部材
3…ワーク下方保持部第 30…エアーシリンダ装置 31…ホルダ
32…押さえ部材を兼ねる筒状の第2マスキング部材
33…コイルスプリング
4…第1ショットノズル部 5…第2ショットノズル部
9…歯車 90…上方歯端面 91…下方歯端面 920…歯面
a…境界角領域(角部分)
Claims (4)
- 回転可能なワーク保持部により軸方向の両端側から挟持された歯車を回転しつつ、そのショットピーニング対象領域に硬度Hv700以上で所定の平均粒子径の第1ショット材を投射する第1ショットピーニング工程を施した後、硬度Hv700以上で該第1ショット材よりも平均粒子径が小さな第2ショット材を投射する第2ショットピーニング工程を施す歯車2段ショットピーニング方法であって、
前記ワーク保持部は、前記歯車の歯端面との当接時の衝撃を吸収、緩和する機能を備えた衝撃緩衝部材をもち、該歯車を回転可能に保持し、
前記第1ショットピーニング工程と前記第2ショットピーニング工程との両方あるいはいずれか一方は、前記歯車の前記歯端面をマスキング部材でマスキングした状態で施すことを特徴とする歯車2段ショットピーニング方法。 - 前記マスキング部材は、前記歯車の歯先円よりも大きい外径をもつ請求項1記載の歯車2段ショットピーニング方法。
- 前記衝撃緩衝部材は、コイルスプリングである請求項1及び2記載の歯車2段ショットピーニング方法。
- 前記第1ショット材は、平均粒径0.6〜1.2mmであり、
前記第2ショット材は、平均粒径0.1〜0.5mmである請求項1〜3記載の歯車2段ショットピーニング方法。
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