JP3611019B2 - 埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷位置検出方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、地中に埋設された塗覆装鋼管の塗膜損傷位置を、地表より非接触で検出する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、埋設される鋼管には腐食を防止するための塗覆装がその周囲に施されている。しかしながら、何らかの原因によりこの塗覆が損傷すると損傷部位から腐食が進行し、やがて鋼管に腐食孔が生じるようになる。このため、埋設鋼管の保全上、塗膜損傷の有無とその位置を早期に発見することが重要である。
これに応えるものとして、従来から種々の塗膜損傷検出が提案されている。これらのうち、作業性、測定精度の面から優れているものとして、電位差法が周知である。
【0003】
一般に電位法では鋼管に流す電流として低周波の正弦波を用い、地表面に設置した2点の電極間の電位差を検出する。地表面での電極位置を埋設鋼管に沿って移動することにより損傷からの流出電流に起因する電位差の変化を計測し、損傷位置の特定を行う。実際の計測においては損傷から地中に流出する電流は微小であり地表面で検出される電位差信号も微弱なものとなる。さらに、地表面と電極との接地抵抗の変動による検出信号の変動や、地中の迷走電流や、商用電源により鋼管内に誘導される誘導電流等がノイズ源となりSN比が悪化するため、塗覆装の損傷、特に微小な損傷を精度よく、確実に検出することは困難であった。
【0004】
このような問題点を解決する方法として、特開平10−239267号公報には、本願発明者らの発明になる、埋設塗覆装鋼管に供給、印加する信号として擬似ランダム信号を使用し、地表面の電極で検出した電位差信号に対して供給、印加した擬似ランダム信号と同一の信号との相関処理を行い、相関処理の結果のピーク値を検出電位差信号とすることでSN比向上を図る方式が提案されている。
【0005】
この発明は、埋設管と大地の間に交流電圧を印加することにより当該埋設管に交流電流を流し、管軸方向に沿った位置にある2点間の電位差を、当該2点を移動させながら順次検出することにより、前記交流電流により地上に発生する電位分布を測定し、その電位分布の変化から当該埋設管の塗膜損傷位置を検知する方法において、埋設鋼管に印加する交流電圧にランダム信号または擬似ランダム信号を用い、前記埋設鋼管に印加する交流電圧の波形と、前記2点間の電位差の検出波形との間で相互相関処理を行い、そのピーク値を前記2点間の電位差の代表値とし、当該代表値より電位分布を求め、求めた電位分布の変化から当該埋設管の塗膜損傷位置を検出するものである。
【0006】
ここに擬似ランダム信号とは、長期間においては繰り返し周期がありランダム性は失われるが、周期内においてはランダム性が保たれるような信号をいう。
【0007】
この方法によれば、印加電圧の波形と検出信号の波形の相互相関をとった場合、その相互相関の計算中、たとえば検出信号をシフトして掛け算を行う過程において、印加電圧とシフトされた検出信号が同じパターンとなって同期のとれた位置に相互相関のピークが現れる。印加電圧とパターンの異なるノイズは、相互相関をとることによって打ち消されてしまい、ピーク値にはほとんど影響を与えない。印加電圧はランダム信号または擬似ランダム信号であるので、印加電圧に基づかないノイズが印加電圧のパターンと同じパターンになることはない。
【0008】
よって、この方法によれば、印加電圧に起因する検出信号のみが車輪電極間の電位差の代表値として検出されることになるので、S/N比が改善される。この代表値を用いて電位分布を求め、その電位分布の変化から前記従来の方法と同じ方法で塗膜損傷位置を検出することにすれば、前記電位差法に比較して、塗膜損傷位置を精度良く検出できる。
【0009】
図6は、この方法の実施の形態の一例を示す図である。 図6において、1は埋設鋼管、3は電力増幅器、4は接地電極、5は埋設鋼管1の塗膜損傷部、6は探査機、6a、6bは探査機の車輪電極、10はM系列信号発生器、11はM系列参照信号発生器、12は相関処理部、13はパーソナルコンピュータ演算部である。
【0010】
この実施の形態においては、埋設鋼管1に印加する擬似ランダム信号としてM系列信号を用いる。 図7にM系列信号の発生回路の例を示す。M系列信号は、 図7のようなフィードバック回路を有するシフトレジスタによって容易に作成できる。 図8にM系列信号の信号波形とその自己相関信号波形の例を示す。 図8において、横軸は時間、縦軸は信号の大きさ、τaはM系列信号を生成するシフトレジスタに与えられるクロックの周期である。
【0011】
M系列信号は、周期性のある擬似ランダム信号であり、シフトレジスタのビット数に対応する周期を持つので、自己相関をとると 図7(b)に示すようなピーク値を周期的に持つ。このことから、他の信号との相互相関をとれば、当該M系列信号とパターンの一致する信号のみが高いピーク値を有する相互相互相関値を持つことがわかる。前記実施の態様においては、この性質を利用してノイズ信号の低減を図るものである。
【0012】
図6において、M系列信号発生器10からのM系列信号は、電力増幅器3で増幅されて、埋設鋼管1と接地電極4の間に電圧として印加される。この状態で探査機6を、埋設鋼管の管軸方向に沿って地表面上を移動させる。探査機6には、その前後方向に1対の車輪電極6a、6bが設けられており、それぞれが接触している地面の電位を検出する。
【0013】
これらの電位の差をとり、図示されていないA/D変換器でディジタル値に変換した後、パーソナルコンピュータ演算部13に取り込む。パーソナルコンピュータ演算部13には、M系列参照信号発生器11が設けられている。このM系列参照信号発生器11は、M系列信号発生器10とは電気的に独立しているが、同じパルスパターンのM系列信号を発生するようにされている。
【0014】
パーソナルコンピュータ演算部13中の相関処理部12は、このM系列参照信号発生器11よりの参照信号と、A/D変換された車輪電極6a、6b間の電位差信号(検出信号)との相互相関演算を行う。相互相関演算結果は、参照信号と同じ周期のピーク値を有する。 図9に相互相関演算結果の一例を示す。このピーク値を検出して検出信号の代表値とすることにより、ノイズ信号を抑制した高精度の電位差検出ができる。
【0015】
埋設鋼管1の塗膜に塗膜損傷部5がある場合には、印加電圧に応じて塗膜損傷部5より電流が流入し、付近の土壌中に電位勾配を作る。この電位勾配の方向は、塗膜損傷部5の真上の位置を境にして逆転する。よって、探査機6の埋設鋼管の管軸方向に沿って走行させ、走行距離を横軸に、車輪電極6a,6bの間の電位差の代表値を縦軸にとってグラフを作ると、塗膜損傷部5の真上でS字型のカーブを描く。よって、このS字型のカーブの中央の位置を検出することにより、塗膜損傷部5の位置を地上から非接触で検出することができる。
【0016】
図10に、上記方法による相互相関ピーク値(電位差の代表値)と探査機の移動距離(検査位置)との関係を示す。対象とした埋設鋼管は、管径100A、管長10mのPLP導管であり、約1mの深さに埋設されたものである。塗膜損傷サイズは、5mm×4mmのものであった。探査機の車輪電極の間隔は1mであった。埋設鋼管の流入電流は1mA(440Hz)であり、極少量であるにも係わらず、電位差の代表値はきれいなS字型カーブを呈しており、このS字型カーブのゼロクロス位置より、塗膜損傷位置を知ることができる。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
前記、鋼管に供給、印加する信号として擬似ランダム信号を使用し、地表面の電極で検出した電位差信号に対して供給、印加した擬似ランダム信号と同一信号の参照信号との相関処理を行い、相関処理の結果のピーク値を検出電位差信号とする方式では、地表面に設置した電極により検出した信号を信号処理装置により検出信号データとして取り込み、あらかじめ記憶されている参照信号データとの相関処理を行う方法が述べられている。ここで、相関処理は検出信号をf(t)、参照信号をg(t)とすると相関処理結果Φ(τ)は次式であらわされる。
【0018】
【数1】
ここで、Tは擬似ランダム信号の周期であり、Φ(τ)の計算は、この周期後とにリセットして繰り返すものとする。f(t)及びg(t)が同一の擬似ランダム信号同士の場合、相関処理結果は擬似ランダム信号の自己相関関数となり、周期的なピークを示し、その周期は擬似ランダム信号の周期Tに等しい。
【0019】
しかしながら、実際の塗膜損傷検知においては鋼管に印加された信号は埋設鋼管中を伝播し鋼管から地中に流出し、地表面に設置された電極により検出されるまでの、鋼管および地中を伝播する過程において信号の周波数帯域が制限される。特に低周波帯域成分が制限されるため、地表面で検出される検出信号は擬似ランダム信号の周波数帯域が制限されたものとなり、波形の歪を生じる。このため、検出信号と参照信号の相関処理の結果得られるパルス信号の波形も歪んだものとなり、検出電位差に相当する信号波形のピーク強度、信号位相の変化の検出が困難となるという問題点がある。
【0020】
さらに、実際の計測において塗膜損傷検知を実施する場所の条件が変化し、信号伝播時の周波数帯域制限の特性が変化すると、伝播波形の受ける影響、相関処理結果の波形歪みが変化し、検出電位差信号のピーク強度、信号位相の変化の検出、判別を同一条件で比較することができないという問題点もある。
【0021】
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、信号伝播時の周波数低域制限の影響を抑制し、安定して高感度に信号検出を可能とする埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷位置検出方法を提供することを課題とする。
【0022】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するための第1の手段は、地中に埋設された塗覆装鋼管と大地との間に交流電圧として、擬似ランダム信号、又は擬似ランダム信号で変調された信号を印加して鋼管内に電流を流し、管軸方向に沿った位置にある地表面の2点間の電位差を検出し、検出した信号と参照信号との相関処理を行い、この相関処理を前記2点の位置を移動しながら逐次行うことにより地表面の電位差の変化を計測し、その電位差の変化パターンから当該埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷の位置を検出する方法であって、前記相関処理における参照信号として、埋設鋼管に印加した信号と同じ波形の信号に、埋設鋼管に印加した信号がその伝播経路において受けたものと同等の周波数帯域制限を施した信号を使用することを特徴とすることを特徴とする埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷位置検出方法(請求項1)である。
【0023】
本手段においては、検出信号と相関を行う参照信号として、埋設鋼管に印加した信号と同じ波形の信号に、埋設鋼管に印加した信号がその伝播経路において受けたものと同等の周波数帯域制限を施した信号を使用するので、参照信号は検出信号と同様の信号波形の歪みが生じた信号となる。そのため、検出信号と相関信号との波形の差異は小さくなり、その相関演算結果におけるパルス波形の歪みは抑制され、安定して信号ピーク値の検出、信号位相の判別が可能となる。
【0024】
前記課題を解決するための第2の手段は、前記第1の手段であって、ある時点において検出された、前記地表面に設置した電極間の信号を記憶し、前記相関処理における参照信号として使用することを特徴とするもの(請求項2)である。
【0025】
本手段においては、参照波形は、実際の信号の伝播経路である埋設鋼管、地中を介して伝播した信号であり、埋設鋼管に印加した信号を、実際の伝播経路の周波数特性により周波数帯域制限した信号となるので、参照波形と検出波形との差異は、より小さくなり、相関演算結果におけるパルス波形の歪は抑制される。よって、より安定して信号ピーク値の検出、信号位相の判別が可能となる。
【0026】
前記課題を解決するための第3の手段は、前記第1の方法であって、ある時点において検出された、前記地表面に設置した電極間の信号に対して所定の周波数帯域制限を行った信号を記憶し、前記相関処理における参照信号として使用することを特徴とするもの(請求項3)である。
【0027】
本手段においては、前記第2の手段と同様、検出信号と相関を行う参照信号として、埋設鋼管に印加した信号と同じ波形の信号に、埋設鋼管に印加した信号がその伝播経路において受けたものと同等の周波数帯域制限を施した信号を使用することになるが、さらに、この信号に所定の周波数帯域制限を行った信号を、実際の参照信号として使用している。よって、信号伝播経路の条件の変化により波形が変化したとしても、さらに、所定の周波数帯域制限を行うので、相関演算結果の波形は常にほぼ同一波形となる。よって、さらに安定して信号ピーク値の検出、信号位相の判別が可能となる。
【0037】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態の例を図を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態である埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷位置検出装置の1例を示す図である。図1において、1は埋設鋼管、3は電力増幅器、4は接地電極、5は埋設鋼管1の塗膜損傷部、6は探査機、6a、6bは探査機の車輪電極、10はM系列信号発生器、11’は参照信号発生器、12は相関処理部、13はパーソナルコンピュータ演算部である。
【0038】
この実施の形態においては、埋設鋼管1に印加する擬似ランダム信号としてM系列信号を用いる。図1において、M系列信号発生器10からのM系列信号は、電力増幅器3で増幅されて、埋設鋼管1と接地電極4の間に電圧として印加される。この状態で探査機6を、埋設鋼管の管軸方向に沿って地表面上を移動させる。探査機6には、その前後方向に1対の車輪電極6a、6bが設けられており、それぞれが接触している地面の電位を検出する。
【0039】
これらの電位の差をとり、図示されていないA/D変換器でディジタル値に変換した後、パーソナルコンピュータ演算部13に取り込む。パーソナルコンピュータ演算部13には、参照信号発生器11’が設けられている。この参照信号発生器11の詳細な構成については、後に詳しく説明する。
【0040】
パーソナルコンピュータ演算部13中の相関処理部12は、この参照信号発生器11’よりの参照信号と、A/D変換された車輪電極6a、6b間の電位差信号(検出信号)との相互相関演算を行う。相互相関演算結果は、参照信号と同じ周期のピーク値を有する。
【0041】
埋設鋼管1の塗膜に塗膜損傷部5がある場合には、印加電圧に応じて塗膜損傷部5より電流が流入し、付近の土壌中に電位勾配を作る。この電位勾配の方向は、塗膜損傷部5の真上の位置を境にして逆転する。よって、探査機6の埋設鋼管の管軸方向に沿って走行させ、走行距離を横軸に、車輪電極6a,6bの間の電位差の代表値を縦軸にとってグラフを作ると、塗膜損傷部5の真上でS字型のカーブを描く。よって、このS字型のカーブの中央の位置を検出することにより、塗膜損傷部5の位置を地上から非接触で検出することができる。
【0042】
以上説明したように、この実施の形態は、 図6に示した従来技術とは、 図6に示したM系列参照信号発生器11が、参照信号発生器11’に代わっているところのみが異なっている。よって、以下、この違いについて詳細に説明する。
【0043】
図2に、参照信号発生器11’、相関処理部12及びこれらに付随する装置の概要を示す。図2において、21はAD変換装置、22、23はシフトレジスタ、24は乗算器、25は加算器、26は信号判別装置、27はシフト制御装置を示す。
【0044】
本実施の形態では、埋設塗覆装鋼管1に接続されたターミナルと接地電極4との間に、M系列信号発生器10により発生させた擬似ランダム信号を印加し、埋設塗覆装鋼管中に電流を流入させる。擬似ランダム信号発生器として、フィードバックループを有するシフトレジスタを使用し、440Hzの周波数、符号長127のM系列信号を発生する。この時、M系列信号の周期は1/(440*127)(秒)となる。使用するM系列信号の周波数、符号長は任意の値とすることが可能であり、周波数、符号長を変更することにより擬似ランダム信号処理によるSN改善効果を高くすることも可能である。
【0045】
探査機6により検出された電位差信号は、パーソナルコンピュータ13に入力される前に、AD変換器21に入力され、ディジタル信号に変換され、パーソナルコンピュータ13の一部である相関処理部12のシフトレジスタ22に入力される。シフトレジスタ22はAD変換器21の変換周期に同期して動作し、AD変換された最新のデジタルデータを最初の構成要素f1に入力し、各構成要素f1〜fn中を順次をシフトさせ、最後の構成要素fnから最も古いデータを捨てていくことにより、その構成要素f1〜fn中に、常に検出された信号の1周期に等しい個数のデータを蓄積する。埋設鋼管1に加えられたM系列信号の1周期分に対応するデータが蓄積されると、AD変換器21の作動と、シフトレジスタ22のシフトが一時停止される。
【0046】
本実施の形態では、周波数440HzのM系列信号に対し、AD変換の変換周波数を4400Hzとし、M系列信号を構成する1パルスに対応する検出信号に対して10点のAD変換を行い、デジタルデータを出力している。従って、シフトレジスタ22は1270段に構成し、クロックCLKにより、AD変換に同期して駆動し、これにより、擬似ランダム信号の1周期分のデータを記憶、蓄積する。
【0047】
シフトレジスタ23はシフトレジスタ22と同じ段数で構成され、ループ状に構成されている。シフトレジスタ23は相関処理における参照信号を記憶するために用いられ、その中にはあらかじめ、埋設鋼管1に印加するM系列信号と同じ波形の信号、又は当該M系列信号と同じ波形の信号に、埋設鋼管に印加した信号がその伝播経路において受けたものと同等の周波数帯域制限を施した信号を、その1周期の時間分デジタル化したデータが参照信号として入力されている。
【0048】
すなわち、127個からなるM系列信号と同じ波形の信号、又は当該M系列信号と同じ波形の信号に、埋設鋼管に印加した信号がその伝播経路において受けたものと同等の周波数帯域制限を施した信号を、M系列信号の10倍の周波数でサンプリングしディジタル変換した値が、順次、その構成要素g1〜gn中に記憶され、シフト制御装置27からのクロックに応じて、構成要素g1〜gn中を循環している。
【0049】
シフトレジスタ23中に記憶される周波数帯域制限されたM系列信号は、その周波数帯域制限特性が、埋設鋼管1に印加されたM系列信号がその伝播経路である鋼管、地中を伝播中に受ける周波数帯域制限と近い特性のものとすることが望ましいが、この実施の形態においては、埋設鋼管1に印加されるM系列信号信号を、低域制限フィルタにより低周波帯域制限を行った信号を使用している。その際、低域制限フィルタのカットオフ周波数は100Hzとしている。
【0050】
M系列信号の1周期分に対応するデータが、シフトレジスタ22に蓄積された段階で、参照信号発生部11’であるシフトレジスタ23とシフト制御装置27、及び相関処理部である乗算器群24と加算器25の作動が開始される。
【0051】
シフトレジスタ22とシフトレジスタ23の各構成要素の内容は乗算器群24により乗算され、シフトレジスタ22と23の対応するの構成要素数fmとgm(m=1〜n)同士の乗算結果が得られる。乗算結果は加算器25に入力される。加算器25は、乗算結果の加算を行い加算結果を信号判別装置26に入力する。
【0052】
乗算器24による乗算と加算器25による加算処理が終わった時点でシフト制御装置27によりシフトレジスタ23の内容1が構成要素分シフトされ、シフトレジスタ22とシフトレジスタ23の対応がずらさる。シフトレジスタ23のシフトが終了した時点で乗算及び加算処理が行われ、演算処理結果が信号判別装置26に入力される処理が繰り返し行われる。
【0053】
信号判別装置26では、加算器25からの加算結果の入力がシフトレジスタの構成要素の個数分行われる間の加算結果の絶対値の最大値を判別し、対応する加算結果を検出信号として出力する。パーソナルコンピュータ13は、この値を測定値として記憶する。これで、1点での測定を終了し、次回の測定は、探査機が別の点に移動したタイミングで行われる。
【0054】
本実施の形態では、これらの処理は、パーソナルコンピュータとAD変換装置およびソフトウエアにより行っているが、専用の電子回路を構成することにより実現することも可能である。
【0055】
本実施の形態で、参照信号として、埋設鋼管1に印加するM系列信号と同じ波形の信号を使用した場合には、特開平10−239267号公報に記載される技術と同等の作用効果が得られ、参照信号として、当該M系列信号と同じ波形の信号に、埋設鋼管に印加した信号がその伝播経路において受けたものと同等の周波数帯域制限を施した信号を使用した場合は、前記第1の手段、第5の手段で述べた作用効果が得られる。
【0056】
図3は、本発明の実施の形態である埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷位置検出装置の他の例を示す図である。図3に示す装置は、探査機6で検出された電位差信号が、参照信号発生器11’に入力されるようになっている他は、図1に示す装置と同じであるので、この部分を除いてその説明を省略する。
【0057】
この装置を使用する場合には、まず、埋設鋼管1の塗覆装層に人工欠陥を設け、そのときに、たとえば、人工欠陥の直上で探査機6により検出される電位差信号を、参照信号発生器11’内のシフトレジスタに記憶し、参照信号として使用する。
【0058】
図4に、参照信号発生器11’、相関処理部12及びこれらに付随する装置の概要を示す。図4において、図2に示された構成要素と同じ構成要素には同じ符号を付してその説明を省略する。図2において、28、29は切り換えスイッチである。
【0059】
図4に示す回路の作動は、図2に示した回路の作動とほとんど同じであるので、同じ部分についてはその説明を省略し、異なる部分についてのみ説明する。シフトレジスタ23の入力側には切り換えスイッチ28が設けられており、AD変換器21の出力と、シフトレジスタ23自身の最終段の要素gnからの出力を切り換えて入力するようになっている。また、シフトレジスタ23を駆動するクロックは、切り換えスイッチ29により、シフトレジスタ22を駆動するクロックパルスCLKと、シフト制御装置27からのクロックとが、切り換えて入力できるようになっている。
【0060】
前記のように人工欠陥の検出の際に検出される電位差信号を参照信号として取りこむ場合は、切り換えスイッチ28がAD変換器21の出力側に切り換えられると共に、切り換えスイッチ29がクロックパルスCLK側に切り換えられる。よって、探査機6により検出された電位差信号は、AD変換器21に入力され、ディジタル信号に変換され、シフトレジスタ23に入力される。シフトレジスタ23はAD変換器21の変換周期に同期して動作し、AD変換された最新のデジタルデータを最初の構成要素g1に入力し、各構成要素g1〜gn中を順次をシフトさせることにより、その構成要素g1〜gn中に、検出された信号の1周期に等しい個数のデータを蓄積する。
【0061】
埋設鋼管1に加えられたM系列信号の1周期分に対応するデータが蓄積されると、切り換えスイッチ28の入力側はシフトレジスタ23自身の最終段の要素gnに接続され、切り換えスイッチ29の入力側は、シフト制御装置27に接続される。これにより、人工欠陥を検出したときの波形を参照信号として取り込む作業が完了する。
【0062】
以後の回路の動作は、図2について説明したものと全く同じである。すなわち、欠陥探査時において、埋設鋼管1に加えられたM系列信号の1周期分に対応するデータをシフトレジスタ22に取り込み、その後、シフト制御装置27からのクロックによりシフトレジスタ23の内容をシフトさせ、その都度、乗算器群24と加算器25により、シフトレジスタ22とシフトレジスタ23の対応する構成要素同士の積和を計算し、信号判別装置26に出力する。
【0063】
信号判別装置26では、加算器25からの加算結果の入力がシフトレジスタの構成要素の個数分行われる間の加算結果の絶対値の最大値を判別し、対応する加算結果を検出信号として出力する。パーソナルコンピュータ13は、この値を測定値として記憶する。これで、1点での測定を終了し、次回の測定は、探査機が別の点に移動したタイミングで行われる。
【0064】
この実施の形態においては、参照信号として、実際に人工欠陥を検出したときの検出波形を使用しているので、現実に得られる波形に近い波形を参照波形として使用することができ、図1、図2に示した実施の形態に比較して、より安定して信号ピーク値の検出、信号位相の判別が可能である。
【0065】
次に、本発明の実施の形態である埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷位置検出装置の第3の例を説明する。この例においては、装置の全体構成は、図3に示したものと同じである。しかし、参照信号発生器11’、相関処理部12及びこれらに付随する装置の概要は、図5に示すようになっている。図5において、30は周波数帯域制限装置を示す。図5に示す回路が図4に示す回路と異なる点は、周波数帯域制限装置30が設けられている点のみであるので、この異なる点のみを説明し、その余の部分の説明を省略する。
【0066】
この装置においては、図3、図4に示した装置と同じ方法で測定を行うが、その際、検出信号、参照信号となるのは、探査機6により検出される電位差信号そのものでなく、それが周波数帯域制限装置30で周波数帯域制限された信号である。この実施の形態においては、周波数帯域制限装置30の特性は、信号がその伝播経路である鋼管および地中を伝播中に受ける周波数帯域制限に対してさらに信号の周波数帯域を制限するように設定しており、伝播経路の特性が低域制限特性で、そのカットオフ周波数がFcである場合には、周波数帯域制限装置の特性も低域制限特性とし、カットオフ周波数fcはfc>Fcとなるように設定している。
【0067】
低周波領域における信号の伝達関数は、特に不安定になりやすく、人工欠陥の測定時に検出した信号と、実際の欠陥を測定するときに検出される信号が、地中の電気的特性等により異なる場合がある。よって、前記図3、図4に示した方法でも、必ずしも完全でない場合がある。しかし、本実施の形態においては、この不安定になりやすい低周波成分をカットしているので、検出信号と参照信号の波形を同一に近くすることができ、さらに、安定して信号ピーク値の検出、信号位相の判別が可能である。
【0068】
なお、これらの実施の形態においては、いずれも、埋設鋼管に印加する信号としてM系列信号を用いているが、他の擬似ランダム信号を用いても、又、これらで変調された信号を用いても同じ効果が得られる。
【0069】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のうち請求項1に係る発明においては、検出信号と相関信号との波形の差異は小さくなり、その相関演算結果におけるパルス波形の歪みは抑制され、安定して信号ピーク値の検出、信号位相の判別が可能となる。
【0070】
請求項2に係る発明においては、参照波形と検出波形との差異は、より小さくなり、相関演算結果におけるパルス波形の歪は抑制される。よって、より安定して信号ピーク値の検出、信号位相の判別が可能となる。
【0071】
請求項3に係る発明においては、信号伝播経路の条件の変化により波形が変化したとしても、さらに、所定の周波数帯域制限を行うので、相関演算結果の波形は常にほぼ同一波形となる。よって、さらに安定して信号ピーク値の検出、信号位相の判別が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態である埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷位置検出装置の1例を示す図である。
【図2】第1の実施の形態における参照信号発生器11’、相関処理部12及びこれらに付随する装置の概要を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態である埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷位置検出装置の他の例を示す図である。
【図4】第2の実施の形態における参照信号発生器11’、相関処理部12及びこれらに付随する装置の概要を示す図である。
【図5】第3の実施の形態における参照信号発生器11’、相関処理部12及びこれらに付随する装置の概要を示す図である。
【図6】従来技術である埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷位置検出装置の1例を示す図である。
【図7】M系列信号の発生回路の例を示す図である。
【図8】M系列信号の信号波形とその自己相関信号波形の例を示す図である。
【図9】相互相関演算結果の一例を示す図である。
【図10】従来技術による相互相関ピーク値(電位差の代表値)と探査機の移動距離(検査位置)との関係を示す図である。
【符号の説明】
1…埋設鋼管、3…電力増幅器、4…接地電極、5…埋設鋼管1の塗膜損傷部、6…探査機、6a、6b…探査機の車輪電極、10…M系列信号発生器、11’…参照信号発生器、12…相関処理部、13…パーソナルコンピュータ演算部、21…AD変換装置、22、23…シフトレジスタ、24…乗算器、25…加算器、26…信号判別装置、27…シフト制御装置、28、29…切り換えスイッチ、30…周波数帯域制限装置
Claims (3)
- 地中に埋設された塗覆装鋼管と大地との間に交流電圧として、擬似ランダム信号、又は擬似ランダム信号で変調された信号を印加して鋼管内に電流を流し、管軸方向に沿った位置にある地表面の2点間の電位差を検出し、検出した信号と参照信号との相関処理を行い、この相関処理を前記2点の位置を移動しながら逐次行うことにより地表面の電位差の変化を計測し、その電位差の変化パターンから当該埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷の位置を検出する方法であって、前記相関処理における参照信号として、埋設鋼管に印加した信号と同じ波形の信号に、埋設鋼管に印加した信号がその伝播経路において受けたものと同等の周波数帯域制限を施した信号を使用することを特徴とする埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷位置検出方法。
- 請求項1に記載の埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷位置検出方法であって、ある時点において検出された、前記地表面に設置した電極間の信号を記憶し、前記相関処理における参照信号として使用することを特徴とする埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷位置検出方法。
- 請求項1に記載の埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷位置検出方法であって、ある時点において検出された、前記地表面に設置した電極間の信号に対して所定の周波数帯域制限を行った信号を記憶し、前記相関処理における参照信号として使用することを特徴とする埋設塗覆装鋼管の塗膜損傷位置検出方法。
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