JP3610736B2 - Htlv−iiを特異的に認識するモノクローナル抗体及び該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヒトT細胞白血病ウイルス−II型(以下、HTLV−IIと称する)を特異的に認識し、HTLV−Iは実質的に認識しないことを特徴とするモノクローナル抗体及び該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマに関する。
【0002】
【従来の技術】
毛様細胞性白血病から分離されたウイルスであるヒトT細胞白血病ウイルス−II型(以下、HTLV−IIと称する)に関しては、これまでにいくつかの疾患に関与することが示唆されており、最近では慢性疲労免疫機能障害症候群に関与すること(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,88,2922−2926(1991))及びヒトT細胞白血病ウイルス−I型(以下、HTLV−Iと称する)様の痙性麻痺を伴う脊椎症に関与すること(Ann.Neurol.,40,714−723(1996))が報告されている。
HTLV−IIはHTLV−Iと近縁のウイルスであり、HTLV−Iは成人T細胞白血病(ATL)、HTLV−Iによって引き起こされる痙性麻痺を伴う脊椎症(HAM/TSP)等の疾患に関与することが明らかになっている。
しかし、現状においてはHTLV−II及びHTLV−Iの関与する疾患に関して、有効な治療方法が確立されてはいないため、現段階においては感染拡大を防ぐことが最善の策であり、二次感染、特に輸血感染による感染拡大を如何に防ぐかに多大な努力が払われている。
【0003】
二次感染を防ぐ手段は、感染者を特定することが挙げられ、その方法は、免疫学的な測定方法により被検者が陰性であるか陽性であるかを判断することにより達成されるものである。
より具体的に述べると、検体中の抗原を測定する場合と検体中の抗体を測定する場合の2つのパターンを用いることが可能である。
例えば、抗原を測定する場合には、抗体を用いた測定試薬と検体中の抗原とを接触させ、その後免疫反応の有無を判断することにより判定を行い、抗体を測定する場合には、前記とは逆に抗原を用いた測定試薬と検体中の抗体とを接触させ、同様に免疫反応の有無を判断することにより判定を行うことができる。
よって、抗原、抗体のいずれも特異的に反応を行えるものであれば測定試薬に用いることが可能である。
【0004】
本発明の課題としているHTLV−IIに関しては前記したようにHTLV−Iと近縁のウイルスであり、二者の間に非常に高いホモロジーが存在することが既に報告されており(Proc.Natl.Acad.Sci.USA.,82,3101−3105(1985)及びProc.Natl.Acad.Sci.USA.,81,6207−6211(1984))、このホモロジーの高さのためにHTLV−II抗原は精製が難しく、その取得が困難であった。さらに、それに伴いHTLV−II抗原を特異的に認識するモノクローナル抗体(以下、HTLV−II抗体と称する。)の取得も困難であった。
【0005】
現在、HTLV−II抗原を用いた試薬は存在するものの、用いられている抗原は合成ペプチドであるか又はリコンビナントであり、いわゆる変性状態の抗原であるため天然抗原と比べると反応性が低く、これは試薬としての感度にも影響を及ぼすものである。
【0006】
【発明が解決する課題】
前記のようにHTLV−IIとHTLV−Iとの間には高いホモロジーが存在しているため、これまでのHTLV−II抗体はHTLV−I抗原との交差反応性が強く、HTLV−IIを特定することが困難でその感染の診断も信頼性が高いとはとても言うことはできないものであった。
【0007】
そこで、抗原として天然のHTLV−IIを特異的に認識し、HTLV−Iを認識しないことを特徴とするHTLV−II抗体を得ることができれば、直接、感染細胞を検出することができるため、より正確な診断を行うことができる試薬を提供することができ、本発明者らはそのような感度の高い試薬を提供することを課題としたものである。
【0008】
また、抗原に関しては、既存の試薬についてその試薬に用いる抗原を遺伝子組み換え技術により得ているが、多量の抗原を効率良く得るためにはコストの面から大腸菌を用いる系が多用されている。そのため、天然抗原と比べると、「糖が結合していない。」、「不溶性である。」等の性質があり、取扱いが困難であった。そこで、取扱いが容易で、さらに高い抗原性を持つ抗原(例えば天然抗原等)を使用した測定試薬の提供が強く望まれていた。
【0009】
しかし、一般的に用いられているレクチンカラムを利用する精製方法では、レクチンカラムが糖鎖による特異性に依存し、抗原特異的ではないことに由来して天然のHTLV−IIを分離することは困難であった。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本願発明者らは、鋭意検討した結果、天然のHTLV−IIを特異的に認識し、HTLV−Iは実質的に認識しないモノクローナル抗体(以下、本発明のHTLV−II抗体と称する。)を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明のHTLV−II抗体は、天然のHTLV−IIを特異的に認識することができ、HTLV−Iは実質的に認識しない抗体である。
よって、例えば該抗体を免疫測定試薬に用いれば、検体中のHTLV−II抗原と該抗体とが免疫反応を行い、これを定量することにより被検者がHTLV−IIに感染しているか否かを正確に判定することができるものである。
【0012】
さらに、本発明のHTLV−II抗体は天然のHTLV−IIを特異的に認識することができるので、HTLV−II感染細胞を直接測定することも可能である。
【0013】
また、本発明のHTLV−II抗体が天然の抗原を特異的に認識することを利用し、本発明のHTLV−II抗体をアフィニティークロマトグラフィー等の精製手段に用いれば、HTLV−II天然抗原を単離することが可能となる。よって、HTLV−II持続感染株の培養によって得られた蛋白質は、種々細胞由来の非特異抗原を含むことが多いが、そこからでもHTLV−IIを単離することができ、技術的、設備的にも高度な技術を用いることなく、安価で、容易に、精製されたHTLV−IIが取得可能である。
【0014】
該精製方法により得られた天然のHTLV−IIを測定試薬に用いれば、抗原性が高いため高感度にHTLV−II抗体の検出を行うことができる。よって、本発明のHTLV−II抗体を使用して得られた天然のHTLV−IIを抗原として用いることで、従来よりも信頼性の高い試薬を提供することが可能となる。
【0015】
本発明のモノクローナル抗体はHTLV−II由来のペプチドを免疫原として常法に従って免疫することにより得ることができるものである。
免疫原としては、HTLV−IIを産生するウイルス株から得られたHTLV−IIを精製した膜蛋白質の膜貫通部分又はHTLV−IIの膜蛋白質の膜貫通部分由来のペプチドを用いることができる。
【0016】
上記のように作製した抗原を、免疫動物に免疫する。このとき抗原は単独又はアジュバンドと共に免疫動物に投与することができる。免疫後は、抗体価の上昇を確認して血清を採取するが、必要に応じて追加免疫を行うとよい。抗体価の上昇を確認後、脾臓細胞等の抗体産生細胞と、ミエローマ細胞等の腫瘍細胞とを、融合剤を用いて融合し、ハイブリドーマを作製することができる。
免疫動物としてはウサギ、モルモット、マウス、ラット等を用いることができ、アジュバンドとしては完全フロインドアジュバンド、不完全フロインドアジュバンド、ミョウバン、百日ぜき死菌体等を用いることができる。
また、融合剤としてはポリエチレングリコール、センダイウイルス等を用いることができる。
【0017】
次いで、ハイブリドーマをHAT培地等の選択培地を用いて選択し、適当なクローニング方法で、モノクローナル化して培養を行い、この培養上清を酵素免疫測定法等の適当な免疫測定法で分析することによって、目的とする抗HTLV−II抗体を産生しているクローンを選択するものである。本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを作製する手法は公知の方法、例えば、ケーラーとミルシュタイン (Nature 256 495 1975)、シェーラー (Nature 285 446 1980)等の方法、により行うことができる。
クローニング方法としては限界希釈法、軟寒天法、フィブリノーゲンゲル法、FACS(fluorescence activated cell sorter)を用いる方法等を挙げることができる。
【0018】
前記のように得られたハイブリドーマからモノクローナル抗体を産生することができるが、例えば、マウスに本発明のHTLV−II抗体を産生するハイブリドーマを投与して得られた腹水から目的のモノクローナル抗体を分離・精製することによって、本発明のHTLV−II抗体を取得することができる。このとき、用いるマウスによってはプリスタンをあらかじめ投与しておくことが好ましい。
また、分離精製の手段としては、塩析、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルロ過クロマトグラフィ−等を用いることができる。
【0019】
また、別の取得方法としては、例えば、前記モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを培養した培養上清から分離・精製を行うことによって本発明のHTLV−II抗体を取得することができる。
分離・精製の手段は前記と同様の手法により行うことができる。
このように得られた本発明のモノクローナル抗体は、前記した通りHTLV−IIの膜蛋白質の膜貫通部分を免疫原とするため、膜貫通部分の蛋白質に由来するペプチドを含むものであれば、天然抗原に限らずリコンビナント抗原又は合成抗原であっても認識することができるものである
【0020】
このように得られた本発明のHTLV−II抗体又は該抗体により精製されたHTLV−II抗原はHTLV−IIの感染診断のための測定試薬に用いることができる。このときに行うことができる測定方法は、試薬に用いたHTLV−II抗原又はHTLV−II抗体と検体中のHTLV−II抗体又はHTLV−II抗原とが免疫反応を行う測定方法であれば、公知であるどのような免疫測定方法でもよい。免疫測定方法としては、例えば、凝集法、比濁法、サンドイッチ法、競合法等を用いることができ、またこれらの免疫測定法において標識物を使用する場合にはその標識として酵素、蛍光物質、発光物質、放射性物質等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0021】
例えば、凝集法である間接凝集免疫測定法を用いて検体中のHTLV−II抗体を測定する場合は、本発明により得られたHTLV−II抗体を用いてHTLV−II抗原を取得し、得られた該抗原を適当な不溶性担体に固定化する。これを検体中のHTLV−II抗体と反応させ、凝集反応の有無によって検体中のHTLV−II抗体が存在するか否かを判定する。
不溶性担体としては、赤血球、ラテックス、ビーズ、磁性粒子等を用いることができる。
【0022】
また、抗原又は抗体を不溶性担体に結合させる方法としては、物理吸着法又は化学結合法を採用することができる。
物理吸着法は、適当な緩衝液中で前記担体と抗原又は抗体とを反応させることにより行うものである。
緩衝液としては、リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、炭酸緩衝液等を使用することができ、反応は両者を混合させることにより容易に進行し、目的とする固定化抗原又は抗体を得ることができる。
また、化学結合法は、例えばグルタールアルデヒド法、過ヨウ素酸法、マレイミド法、ピリジル・スルフィド法、公知の各種架橋剤を用いる方法等により行うものである(例えば、「蛋白質核酸酵素」別冊31号、37〜45頁(1987)参照)。この方法ではモノクローナル抗体に存在する官能基を利用することができるほか、抗体にチオール基、アミノ基、カルボキシル基、水酸基等の官能基を導入した後、前記と同様の反応により抗体を不溶性担体に固定化することも可能である。
【0023】
また、凝集反応の有無は、例えば、反応容器内で検体中の抗体と固定化された抗原とを反応させ、その容器底部への粒子の凝集パターンの違いにより判断することができ、このとき、凝集反応が起こった場合には検体をHTLV−II陽性と判定し、起こらなかった場合には陰性と判定するものである。
【0024】
【実施例】
以下、実施例及び参考例により本発明をより詳細に説明する。
【0025】
(参考例1)
pWTIIE20の作成及び発現
HTLV−II持続感染株(C3−44)から膜蛋白質(gp21E)に相当する遺伝子とTRX遺伝子との融合遺伝子を宿主大腸菌に導入後、LB培地37℃の条件下で培養した。培養液の大腸菌濃度を予備培養にて波長600nmで吸光度約1.0の濁度とした後、1mM IPTGを添加し発現誘導を行った。3時間培養後、遠心を行い大腸菌を回収した。回収した大腸菌に50mMトリス−塩酸緩衝液pH8.0 1%トライトンX100 0.5M塩化ナトリウム 10%ショ糖 5%グリセロールを400ml加え、氷冷下で1回目の超音波破砕処理を行った。発現した融合蛋白質は、遠心後不溶性成分(インクルージョンボディ)として沈殿物として回収された。得られた不溶性成分に3M尿素 10mMジチオスレイトール 50mMトリス−塩酸緩衝液pH8.0 1%トライトンX100 0.5M塩化ナトリウム 10%ショ糖 5%グリセロールを400ml加え、氷冷下で2回目の超音波破砕処理を行った。遠心後 2回目超音波処理沈殿物に200mlの5M塩酸グアニジン 50mMトリス−塩酸緩衝液pH8.0 10mMジチオスレイトールを加え、可溶化を行った。可溶化物は、20%アセトニトリル 20mM水酸化ナトリウムで平衡化したリソースRPC逆相カラム(ファルマシア社製)にて精製を行った。アセトニトリルで溶出したところ、約35%〜45%アセトニトリル溶出画分に精製TRX融合HTLV−II 20Eを回収した。回収物は、3M尿素50mMトリス−塩酸緩衝液pH8.0に透析を行って、目的の抗原を取得し、免疫原とした。その反応性はBBI社由来のHTLV−II陽性血清パネルで確認した。
【0026】
(実施例1)
TRX−p21E(100μg/mL)をBALB/cマウスにβグルカンパウダー(OPTIVANT;Transgenic Sciences社製)と共に接種し、その脾臓細胞をミエローマ細胞(P3U1)と融合させ、用いた抗原との反応性及びHTLV−II持続感染株(C3−44)破砕物の反応性を指標に抗体産生株をスクリーニングし、ハイブリドーマ gp21−34を得た。該ハイブリドーマから得られたモノクローナル抗体(以下、モノクローナル抗体
gp21−34と称する)のサブクラスはIgG1であった。
本実施例により得られたハイブリドーマ gp21−34は生命工学工業技術研究所に寄託され、その受託番号はFERM P−16047である。
【0027】
(実施例2)
HTLV−II感染細胞としてSi−IIA及びC3−44を、更にHTLV−I感染細胞としてMT−2及びTCL−Kanを、対照ウィルス非感染T細胞としてMOLT−4を用いて間接免疫蛍光抗体法によりモノクローナル抗体 gp21−34の特異性を確認した。各細胞を免疫蛍光抗体法用のスライドガラスに塗布し、メタノールで固定後、モノクローナル抗体 gp21−34(×1000倍希釈液)と反応させた。洗浄後、フルオレッセインイソチオシアネート(FITC)標識抗マウスIgG抗体と反応させ、再び洗浄し、蛍光顕微鏡下で観察した。モノクローナル抗体 gp21−34はSi−IIA及びC3−44と反応し、TCL−Kan、MT−2及びMOLT−4とは反応しなかった。この結果を図1に示す。
よって、モノクローナル抗体 gp21−34はHTLV−II抗原と特異的であることが確認された。
【0028】
(実施例3)
HTLV−II感染細胞としてSi−IIA及びC3−44並びにHTLV−I感染細胞としてMT−2及びTCL−Kanの各細胞から、0.1%−NP40及び1mMジチオトレイトール(DTT)を含むトリスNaCl EDTA(TNE)緩衝液で抽出した細胞抽出液を用いて、ウェスタンブロット法によりモノクローナル抗体 gp21−34の特異性を確認した。SDSポリアクリルアミド電気泳動はゲル濃度12.5%で常法に従って実施した。泳動後ニトロセルロース膜に転写し、モノクローナル抗体 gp21−34(×1000倍希釈)と反応させ、洗浄後、アルカリホスファターゼ標識抗マウスIgG抗体と反応させた。再び洗浄した後、アルカリホスファターゼ基質と反応させた。モノクローナル抗体 gp21−34はSi−IIA及びC3−44とのみ反応し、20Kdバンドとして確認された。この結果を図2に示す。
本実施例の結果より、モノクロ−ナル抗体 gp21−34はHTLV−IIエンベロ−プ蛋白質の膜蛋白質部分を特異的に認識していることが確認された。
【0029】
【発明の効果】
本発明により、HTLV−II抗原を特異的に認識するモノクローナル抗体及び該モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを提供することができる。
本発明のモノクローナル抗体は、HTLV−II抗原の測定試薬に用いることができ、さらに、HTLV−II天然抗原の精製に用いることができる。精製されたHTLV−II天然抗原を、HTLV−II抗体の測定試薬に用いれば、HTLV−II感染の診断において高感度で信頼性の高い試薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】間接蛍光抗体法によるモノクローナル抗体 gp21−34の反応特異性を示す図である。
【図2】ウェスタンブロット法によるモノクローナル抗体 gp21−34の反応特異性を示す図である。
【図3】発現ベクター pWTIIE20の制限酵素切断地図である。
Claims (4)
- 抗原として天然のHTLV−IIを特異的に認識し、HTLV−Iを認識しないモノクローナル抗体であって、該モノクローナル抗体の免疫原がHTLV−IIの膜蛋白質であるp21Eであるモノクローナル抗体。
- モノクローナル抗体が、受託番号FERM P−16047のハイブリドーマにより産生されるモノクローナル抗体(モノクローナル抗体gp21−34)である請求項1記載のモノクローナル抗体。
- 請求項1または2のいずれかに記載のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマ。
- 受託番号FERM P−16047(ハイブリドーマgp21−34)で寄託された請求項3記載のハイブリドーマ。
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