JP3609895B2 - 車両の操舵装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、走行中の車両が他車両等の障害物に衝突するのを防止できる車両の操舵装置に関する。なお、本件明細書において、操舵出力トルクの変化加速度とは操舵出力トルクの時間についての2階微分値をいい、その操舵出力トルクの変化加速度の変化速度とは、その操舵出力トルクの変化加速度の時間についての微分値をいう。
【0002】
【従来の技術と発明が解決しようとする課題】
車線変更等の際に車両が側方や後側方の他車両等の障害物と衝突するのを防止することを目的として、その側方や後側方の障害物を検知するセンサを設け、車両と障害物との衝突可能性に基づき、操舵抑制を行なう操舵装置が提案されている。
【0003】
そのような操舵抑制を行なうため、操舵入力トルクに基づき操舵の有無を検知することが行なわれている。従来、その操舵の有無は、操舵開始から設定時間内における操舵入力トルクの変化量が、設定量よりも大きいか否かにより判定していた。その設定時間は、操舵抑制を迅速に行なうために可及的に短くする必要がある。
【0004】
しかし、操舵開始から短時間内での操舵入力トルクの変化量のみからは、操舵の緊急度レベルや操舵の目的を正確に判定することができない。例えば、側方や後側方の障害物よりも危険性の大きな前方障害物を回避する場合、操舵の緊急度レベルは非常に高くなる。また、車線変更のための操舵であるのか、カーブ進入のための操舵であるのかを判定することができない。
【0005】
そのため、図10の(2)に示すように、自車両Aの前方に障害物Bが存在するにも拘らず、後側方に他車両Cがあるために操舵抑制を行なってしまい、前方障害物Bを回避できなくなるおそれがある。また、図11の(2)に示すように、自車両Aの内側方に並走する他車両Cがあるため、カーブ進入時に操舵抑制を行なってしまい、カーブ進入ができなくなるおそれがある。なお、図10の(2)、図11の(2)は、自車両Aと他車両Cは図中右方に進行している状態を示す。
【0006】
そこで、側方や後側方の障害物を検知するセンサだけでなく、前方障害物を検知するセンサを設け、前方障害物の検知直後の側方障害物の検知は無視する等の制御を行なうことが考えられる。しかし、この場合は前方障害物の検知センサが必須になるため高価になる。
【0007】
また、自車両の周囲環境の変化から危険度を求め、その危険度に応じて操舵制御モードを自動モードや半自動モード等に切り換えるものが提案されている(特開平7‐47967号公報)。しかし、周囲環境の検知等が必要になるため、システムが大がかりになり、非常に高価なものになる。
【0008】
さらに、操舵抑制中における緊急度レベルの変化、例えば前方障害物が突然現れる等の事態に、従来の技術は何ら対応していなかった。
【0009】
本発明は、上記問題を解決することのできる車両の操舵装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、障害物との衝突可能性に基づいて操舵を抑制可能な車両の操舵装置において、操舵出力トルクに対応する値を時系列に検知する手段と、その検知した値に基づいて操舵の緊急度レベルを判定する操舵状態判定手段と、その緊急度レベルに応じて操舵抑制時間を設定する手段とを備えることを特徴とする。
【0011】
本発明の構成によれば、操舵出力トルクに基づく操舵の緊急度レベルに応じて操舵抑制時間を設定することで、前方障害物の検知センサを設けることなく、前方障害物を回避できる。これは、操舵の緊急度レベルが高い程に前方障害物回避の必要性が高いので、操舵抑制時間を短くすることで、前方障害物との衝突のおそれを低くできるからである。一方、操舵の緊急度レベルが低い程に前方障害物回避の必要性が低く、操舵抑制時間を長くしても、前方障害物との衝突のおそれがないからである。また、操舵の緊急度レベルが低い程に操舵抑制時間を長くすることで、側方や後側方の障害物との衝突回避の確度を向上できる。
【0012】
その操舵状態判定手段は、検知した操舵出力トルクに対応する値に基づいて、操舵の目的がカーブ進入であるのか車線変更であるのかを判定可能であり、その判定された操舵の目的がカーブ進入である場合は前記操舵抑制を行なわないのが好ましい。これにより、カーブ進入のための操舵時に操舵抑制がなされることがないので、カーブ進入が阻害されることはない。
【0013】
本発明においては、操舵入力トルクを時系列に検知する手段を備え、その操舵抑制時間の設定長さは、その操舵抑制途中の操舵入力トルクの大きさに対応するのが好ましい。これにより、操舵抑制中における緊急度レベルの変化に対応することができる。
すなわち、操舵抑制中に操舵の緊急度が増加した場合、ドライバーは操舵抑制に逆らって操舵入力トルクを増加させる。この場合、その操舵抑制途中の操舵入力トルクは、緊急度レベルが変化しない場合に比べて増加する。これにより、操舵抑制中に緊急度レベルが増加した場合は、操舵抑制を短時間で解除し、前方障害物の回避を行なうことができる。
また、操舵抑制中に操舵の緊急度が減少した場合、例えば前方障害物がなくなったような場合、ドライバーは操舵入力トルクを減少させる。この場合、その操舵抑制途中における操舵入力トルクは、緊急度レベルが変化しない場合に比べて減少する。これにより、操舵抑制中に緊急度レベルが減少した場合は、操舵抑制の解除までの時間を長くし、側方や後側方の障害物との衝突回避の確度を向上できる。
【0014】
本発明の操舵状態判定手段は、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量と、操舵の緊急度レベルとの予め定めた対応関係を記憶する手段と、その設定時間経過時点の操舵出力トルクの変化加速度と、その緊急度レベルとの予め定めた対応関係を記憶する手段と、前記検知した値に対応する操舵出力トルクの前記設定時間内における変化量に対応する緊急度レベルと、その検知した値に対応する操舵出力トルクの前記設定時間経過時点の変化加速度に対応する緊急度レベルとが一致するか否かを判断する手段とを有し、その判断結果に基づき操舵の緊急度レベルを判定するのが好ましい。
【0015】
その判断の結果、両緊急度レベルが一致し、且つ、2つの緊急度レベルの境界または境界近傍でなければ、その緊急度レベルを判定結果とするのが好ましい。その判断の結果、両緊急度レベルが一致せず、且つ、その変化加速度に対応する緊急度レベルが2つの緊急度レベルの境界または境界近傍でなければ、その変化加速度に対応する緊急度レベルを判定結果とするのが好ましい。その判断の結果、その変化加速度に対応する緊急度レベルが2つの緊急度レベルの境界または境界近傍である場合に、操舵開始から設定時間経過時点の操舵出力トルクが、その後の設定時間内に増加するか減少するかを判断する手段を備え、その操舵出力トルクが、その後の設定時間内に増加すれば、2つの緊急度レベルの中の高い方の緊急度レベルを判定結果とし、その後の設定時間内に減少すれば、2つの緊急度レベルの中の低い方の緊急度レベルを判定結果とするのが好ましい。
【0016】
また、操舵の目的がカーブ進入であるのか車線変更であるのかを判定する場合、その検知した値に対応する操舵出力トルクの前記設定時間経過時点の変化加速度が、予め設定した閾値以下であるか否かを判断する手段と、その操舵出力トルクの変化加速度が閾値以下である場合に、その変化加速度が、その後の設定時間内に減少するか否かを判断する手段と、その操舵出力トルクの変化加速度が閾値以下でない場合に、その変化加速度が、その後の設定時間内に減少するか否かを判断する手段とを備え、その操舵出力トルクの変化加速度が閾値以下である場合に、その変化加速度が、その後の設定時間内に減少すれば操舵の目的は車線変更であると判定し、減少しなければ操舵の目的はカーブ進入であると判定し、その操舵出力トルクの変化加速度が閾値以下でない場合に、その変化加速度が、その後の設定時間内に減少すれば操舵の目的はカーブ進入であると判定し、減少しなければ操舵の目的は車線変更であると判定するのが好ましい。
【0017】
本発明の操舵状態判定手段による緊急度レベルと操舵の目的の判定は、以下の知見に基づくものである。
【0018】
まず、車線変更を行なう場合において、操舵の緊急度レベルと、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量との関係を、電動パワーステアリング装置を備えた車両を用いた実験によって求めた。図1は、その実験結果を示す。
【0019】
その図1における横軸は、車速50km/時で横方向に3.5mの車線変更を行なう場合において、最初の1mを移動するのに要した時間(秒)を示す。その時間が短い程に緊急度レベルが高い。
【0020】
その図1における縦軸は、操舵開始から設定時間(0.1秒間)における操舵出力トルクの変化量(N・m)を示す。この操舵出力トルクは、車輪の転舵角が実際に変化するのに先行して変化する。その設定時間は、後述のように、標準的な操舵を行なった場合に、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量と、操舵の緊急度レベルとを対応付けることができる範囲で、可及的に短く設定するのが好ましい。
【0021】
その図1においては、実験結果のデータを、「●」と「△」とでプロットしている。「●」で示すデータa〜vは、標準的な操舵を行なった結果を示す。「△」で示すデータα〜εは、変則的な操舵を行なった結果を示す。ここで、標準的な操舵とは、車線変更の開始から終了までの間において、意識的に操舵の速さを変えることなく自然に行なう操舵をいう。また、変則的な操舵とは、車線変更の開始当初において、意識的に操舵の速さを変えて行なう操舵をいう。
【0022】
図1に示す標準的な操舵のデータa〜vから、車線変更時に標準的な操舵を行なった場合は、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量と、操舵の緊急度レベルとには対応関係があるのを確認できる。
本実験においては、その操舵の緊急度レベルを4段階に分類している。すなわち、データa〜gが最も緊急度レベルの高い「緊急」に、データh、iが2番目に緊急度レベルの高い「クイック」に、データj〜sが3番目に緊急度レベルの高い「普通」に、データt〜vが「普通」と最も緊急度レベルの低い「スロー」との境界に分類される。
【0023】
一方、図1に示す変則操舵のデータα〜εから、車線変更時に変則的な操舵を行なった場合は、操舵の緊急度レベルと、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量とは、対応関係がないことを確認できる。
すなわち、データαは、車線変更に要する時間に対応する緊急度レベルからは「クイック」に分類されるべきものであるが、意図的に車線変更の開始直後のみ急激な操舵を行なっているため、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量からは「緊急」に分類される。
また、データβは、車線変更に要する時間に対応する緊急度レベルからは「クイック」に分類されるべきでものであるが、意図的に車線変更の開始直後だけは通常の速さでの操舵を行なっているため、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量からは「普通」に分類されている。
また、データγ、δは、車線変更に要する時間に対応する緊急度レベルからは「普通」に分類されるべきでものであるが、意図的に車線変更の開始直後だけは比較的素早い操舵を行なっているため、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量からは「クイック」に分類されている。
また、データεは、車線変更に要する時間に対応する緊急度レベルからは「普通」に分類されるべきでものであるが、意図的に車線変更の開始直後だけは比較的緩やかな操舵を行なっているため、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量からは「普通」と「スロー」との境界に分類されている。
【0024】
次に、車線変更を行なう場合において、操舵の緊急度レベルと、操舵開始から設定時間(0.1秒)経過時点の操舵出力トルクの変化加速度との関係を、電動パワーステアリング装置を備えた車両を用いた実験により求めた。図2は、その実験結果を示す。この図2の実験結果の各データは、上記図1の実験結果の各データに対応する。
【0025】
その図2における横軸は、車速50km/時で横方向に3.5mの車線変更を行なう場合において、最初の1mを移動するのに要した時間を示す。その図2における縦軸は、操舵開始から0.1秒経過時点の操舵出力トルクの変化加速度(N・m/s2 )を示す。
【0026】
その図2においては、実験結果のデータを、図1と同様に標準的な操舵を行なった結果を「●」で、変則的な操舵を行なった結果を「△」でプロットし、各データ符号a〜v、α〜εは、図1のデータ符号に対応する。
【0027】
図2に示す標準的な操舵のデータa〜vから、車線変更時に標準的な操舵を行なった場合は、操舵の緊急度レベルと、その操舵出力トルクの変化加速度とは、対応関係があることを確認できる。
すなわち、データa〜gが最も緊急度レベルの高い「緊急」に、データh、iが2番目に緊急度レベルの高い「クイック」に、データj〜sが3番目に緊急度レベルの高い「普通」に、データt〜vが「普通」と最も緊急度レベルの低い「スロー」との境界に分類される。その緊急度レベルが「普通」と「スロー」との境界は、その変化加速度が零とされる。
【0028】
一方、図2に示す変則操舵のデータα〜εから、車線変更時に変則的な操舵を行なった場合は、操舵の緊急度レベルと、その操舵出力トルクの変化加速度とは、必ずしも対応しないことを確認できる。
すなわち、データαは、車線変更に要する時間に対応する緊急度レベルからは「クイック」に分類されるべきものであるが、意図的に車線変更の開始直後のみ急激な操舵を行なっているため、その変化加速度に対応する緊急度レベルは「クイック」と「普通」との境界に分類されている。このデータαは、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量に対応する緊急度レベルは「緊急」に分類されているので、その緊急度レベルの程度は、その操舵出力トルクの変化加速度に対応する緊急度レベルの方が低くなっている。
また、データβは、車線変更に要する時間に対応する緊急度レベルからは「クイック」に分類されるべきものであり、意図的に車線変更の開始直後だけは通常の速さでの操舵を行なっているが、その操舵出力トルクの変化加速度に対応する緊急度レベルは「クイック」に分類されている。このデータβは、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量に対応する緊急度レベルは「普通」に分類されているので、その緊急度レベルの程度は、その操舵出力トルクの変化加速度に対応する緊急度レベルの方が高くなっている。
また、データγ、δは、車線変更に要する時間に対応する緊急度レベルからは「普通」に分類されるべきでものであるが、意図的に車線変更の開始直後だけは比較的素早い操舵を行なっているため、その操舵出力トルクの変化加速度に対応する緊急度レベルは「普通」と「クイック」の境界近傍に分類されている。このデータγ、δは、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量に対応する緊急度レベルは「クイック」に分類されているので、その緊急度レベルの程度は、その操舵出力トルクの変化加速度に対応する緊急度レベルの方が低くなっている。
また、データεは、車線変更に要する時間に対応する緊急度レベルからは「普通」に分類されるべきものであり、意図的に車線変更の開始直後だけは比較的緩やかな操舵を行なっているが、その操舵出力トルクの変化加速度に対応する緊急度レベルも「普通」に分類されている。このデータεは、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量に対応する緊急度レベルは「普通」と「スロー」との境界に分類されているので、その緊急度レベルの程度は、その操舵出力トルクの変化加速度に対応する緊急度レベルの方が高くなっている。
【0029】
次に、その操舵出力トルクの変化加速度に対応する緊急度レベルが、「普通」と「スロー」との境界に近いデータk、o、n、ε、r、t、u、vについて、その変化加速度の変化速度も考慮して、操舵開始から上記設定時間(0.1秒)経過時点から、さらに設定時間(0.4秒)経過時点の操舵出力トルクを演算した。そのさらなる設定時間は、各データk、o、n、ε、r、t、u、vの緊急度レベルの相違を下記のように識別することができる範囲で、可及的に短く設定するのが好ましい。
その演算結果を、操舵開始から0.1秒経過時点の操舵出力トルクと比較すると、車線変更に要する時間に対応する緊急度レベルの高いデータk、o、n、εについては、図2において矢印で示すように操舵出力トルクが増加し、車線変更に要する時間に対応する緊急度レベルの低いデータr、t、u、vについては、図2において矢印で示すように操舵出力トルクが減少する。
すなわち、操舵の緊急度レベルが2つの緊急度レベルの境界または境界近傍である場合、操舵開始から設定時間経過時点の操舵出力トルクが、その後に増加する場合は減少する場合よりも、緊急度レベルが高い。この関係が成り立つ操舵の緊急度レベルの境界付近の領域を、本件明細書では緊急度レベルの境界近傍とし、その具体的な境界からの範囲は実験により求めることができる。
【0030】
次に、カーブ進入を行なう場合において、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量と、その設定時間経過時点の操舵出力トルクの変化加速度との関係を、電動パワーステアリング装置を備えた車両を用いた実験によって求めた。図3は、その実験結果を示す。
【0031】
その図3における横軸は、車速50km/時で減速することなく一定の旋回半径のカーブを通過した場合において、そのカーブ進入のための操舵開始から0.1秒間における操舵出力トルクの変化量(N・m)を示す。その縦軸は、その操舵開始から設定時間(0.1秒)経過時点の操舵出力トルクの変化加速度(10N・m/s2 )を示す。
【0032】
その図3においては、カーブ進入時の実験結果のデータを、「●」と「□」とでプロットしている。「●」で示すデータは、標準的な操舵を行なった結果を示す。「□」で示すデータは、変則的な操舵を行なった結果を示す。ここで、標準的な操舵とは、カーブの進入時に意識的に操舵の速さを変えることなく自然に行なう操舵をいう。また、変則的な操舵とは、カーブの進入時に意識的に操舵を速くする操舵をいう。
【0033】
また、図3においては、車線変更を行なった場合の、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量と、その設定時間経過時点の操舵出力トルクの変化加速度との関係も併せて示した。その車線変更を行なった場合のデータとして、操舵の緊急度レベルが上記「普通」に分類されるものを「○」で、「普通」と「スロー」との境界に分類されるものを「△」で示した。
【0034】
図3に示す標準的な操舵のデータから、カーブ進入時に標準的な操舵を行なった場合は、その操舵出力トルクの変化加速度は略零以下になることを確認できる。これは、カーブ進入当初に車線に忠実に追従しようとする場合、ドライバーは操舵の速さを一定にしようとしたり、舵角が過大になると小さくする修正操舵を行なうことによる。よって、その操舵出力トルクの変化加速度の略零の値は、操舵の目的がカーブ進入か否かを判断する上での閾値となり、その閾値は実験的に予め設定できる。
【0035】
その標準的な操舵によるカーブ進入のデータは、その操舵出力トルクの変化量や、操舵出力トルクの変化加速度からは、車線変更のための操舵であって緊急度レベルが「普通」と「スロー」との境界よりも小さく、その変化加速度が略零の閾値以下のデータと区別ができない。
そこで、その操舵出力トルクの変化加速度のその後の設定時間(0.1秒)経過後の値を求めたところ、車線変更の場合は単調減少するのに対し、カーブ進入の場合は横這いか単調増加であった。その設定時間は、カーブ進入か車線変更かを識別できる範囲で可及的に短くする。
【0036】
一方、図3に示す変則的な操舵のデータから、カーブ進入時に変則的な操舵を行なった場合、すなわち、操舵当初に意図的に急なステアリングホイールの切り込みを行った場合、その操舵出力トルクの変化加速度は略零の閾値よりも大きくなるのを確認できる。
【0037】
その変則的な操舵によるカーブ進入のデータは、その操舵出力トルクの変化量や、操舵出力トルクの変化加速度からは、車線変更のための操舵であって緊急度レベルが「普通」以上であって、変化加速度が略零の閾値を超えるものと区別ができない。
そこで、その操舵出力トルクの変化加速度のその後の設定時間内の増減を求めたところ、車線変更の場合は減少しないのに対し、カーブ進入の場合は減少する。これは、カーブ進入の場合に意図的に急なステアリングホイールの切り込みを行うと、その後に進路修正操舵が必要になるからである。その設定時間は、カーブ進入か車線変更かを識別できる範囲で可及的に短くする。
【0038】
以上のことから、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量、その設定時間経過時点の操舵出力トルクの変化加速度、操舵開始から設定時間経過時点の操舵出力トルクのその後の設定時間内の増減、および、その操舵出力トルクの変化加速度のその後の設定時間内の増減に基づいて、操舵の緊急度レベルや操舵の目的を判定できる。
【0039】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0040】
図4に示すラックピニオン式電動パワーステアリング装置1は、車両AのステアリングホイールHに連結される入力軸2と、この入力軸2にトルクセンサ3を介して連結される出力軸4とを備えている。そのトルクセンサ3により、入力軸2から出力軸4に伝達される操舵入力トルクが時系列に検出される。その出力軸4はピニオン6に接続され、そのピニオン6に噛み合うラック7に操舵用車輪8が連結される。これにより、操舵入力トルクがステアリングホイールH、入力軸2、トルクセンサ3、出力軸4、およびピニオン6を介してラック7に伝達され、そのラック7の移動により車両Aの操舵がなされる。
【0041】
そのラック7の一部はボールスクリュー21とされ、このボールスクリュー21に噛み合うボールナット22の外周にギアが形成され、そのギアに噛み合うギア24に、駆動ギア25が噛み合う。その駆動ギア25は、操舵補助用および操舵抑制用のアクチュエータであるDCサーボモータ13により回転駆動される。これにより、そのモータ13の発生する付加トルクがラック7に伝達される。
【0042】
そのステアリングホイールHからラック7までのギア比を操舵入力トルクに乗じた値と、そのモータ13の出力軸からラック7までの減速比にそのモータ13の出力トルクを乗じた値との和が、操舵出力トルクに対応する。本実施形態では、その操舵出力トルクに対応する値として、上記のようにトルクセンサ3により操舵入力トルクを検知する。その操舵入力トルクと、後述のコントローラ50に記憶された操舵出力トルクとの関係から、操舵入力トルクに操舵出力トルクが対応付けられる。
【0043】
そのトルクセンサ3は、コンピューターにより構成されるコントローラ50に接続される。そのコントローラ50に、前記モータ13、車速検知センサ51、車両Aに取り付けられた複数の障害物検知センサ53、54、55、56、およびボイスアラーム52が接続される。それら障害物検知センサ53、54、55、56は、例えば、車両Aの左右側方と左右後側方における障害物を検知するもので、車両からレーザや超音波等のレーダ波を発射する発信器と、そのレーダ波の受信器と、その受信したレーダ波の増幅器とを有し、そのレーダ波の発信から受信までの時間差からコントローラ50により障害物までの距離を演算するものにより構成できる。
【0044】
そのコントローラ50は、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量と、操舵の緊急度レベルとの予め定めた対応関係を記憶し、また、その変化加速度と、操舵の緊急度レベルとの予め定めた対応関係を記憶する。本実施形態では、その記憶する対応関係における緊急度レベルは、上記のように、「緊急」、「クイック」、「普通」、「スロー」の4段階とされている。
【0045】
そのコントローラー50は、記憶した制御プログラムに従って操舵の緊急度レベルと操舵の目的を判定することで、以下の操舵補助制御および操舵抑制制御を行なう。以下、その制御手順を図5、図6に示すフローチャートを参照して説明する。
【0046】
まず、トルクセンサ3、車速検知センサ51、障害物検知センサ53、54、55、56からの信号を時系列に読み込み始める(ステップ1)。次に、モータ13の駆動制御電流値を演算する(ステップ2)。
そのモータ13の駆動制御電流値は、モータ13の発生する付加トルクに対応する。図7における操舵入力トルクTiと操舵出力トルクToとの関係に示すように、検知された操舵入力トルクTiが大きくなる程に、操舵出力トルクToが大きくなるように、その駆動制御電流値は定められる。また、そのモータの駆動制御電流値は検知された車速によっても変化する。すなわち、低速V1状態では操舵出力トルクToを大きくして車両の旋回性を向上し、高速V2状態では操舵出力トルクToを小さくして高速走行時の安定性を向上する。その操舵入力トルクTiと操舵出力トルクToとの関係は、予め定められてコントローラー50に記憶される。
【0047】
次に、検知された操舵入力トルクTiに対応する操舵出力トルクToの設定時間内での変化が設定値を超えたか否かにより、操舵の有無を判断し、その操舵出力トルクToの符号から操舵方向を判断する。その検知された操舵入力トルクTiは、上記図7に示された関係により操舵出力トルクToに対応付けられる。上記設定値は、予め定められてコントローラ50に記憶される。なお、操舵出力トルクToは、路面の凹凸等による外乱の影響やトルクセンサ3に対する電気的ノイズの影響によって多少は変動するため、その変動を除くフィルター回路をコントローラ50は有する。その操舵方向におけるセンサ53、54、55、56からの障害物検知信号により、車両Aと障害物との衝突可能性を判断する(ステップ3)。例えば、その操舵方向において予め定めた一定距離内に障害物が検知された場合は衝突可能性が有ると判断する。
【0048】
その衝突可能性が無い場合、ステップ2において演算したモータの駆動制御電流値をモータ13に印加することで操舵補助を行ない(ステップ4)、ステップ1に戻る。
【0049】
ステップ3において衝突可能性が有ると判断された場合、操舵状態を判定する(ステップ5)。後述のように、その操舵状態として、検知した操舵入力トルクTiに対応する操舵出力トルクToに基づいて、操舵の緊急度レベルを判定し、また、操舵の目的がカーブ進入であるのか車線変更であるのかを判定し、さらに、操舵が進路修正操舵か否かを判定する。
【0050】
その判定結果が、操舵の緊急度レベルが最も高い「緊急」であるか、または、操舵の目的がカーブ進入であるか、または、操舵が進路修正操舵であるか否かを判断する(ステップ6)。その操舵の緊急度レベルが「緊急」であるか、または、操舵の目的がカーブ進入であるか、または、進路修正操舵である場合、操舵抑制を行なうことなく操舵補助を行なう。
【0051】
その操舵の緊急度レベルが「緊急」でなく、カーブ進入でなく、進路修正操舵でない場合、初期操舵抑制時間t1を設定する(ステップ7)。
その初期操舵抑制時間t1は、操舵の緊急度レベルが高い程に短くされ、低い程に長くされる。これは、操舵の緊急度レベルが高い程に前方障害物回避の必要性が高いので、初期操舵抑制時間t1を短くすることで、前方障害物との衝突のおそれを低くできるからである。一方、その緊急度レベルが低い程に、前方障害物回避の必要性が低いことから、初期操舵抑制時間t1を長くしても、前方障害物との衝突のおそれがないからである。また、初期操舵抑制時間t1を長くすることで、側方や後側方の障害物との衝突回避の確度を向上できるからである。
本実施形態では、その初期操舵抑制時間t1は操舵の緊急度レベルに応じて3段階に設定され、その緊急度レベルが「クイック」の場合は最も短く設定され、「スロー」の場合は最も長く設定され、「普通」の場合は「クイック」の場合と「スロー」の場合の中間の長さに設定される。この初期操舵抑制時間t1の具体的な設定長さは実験により求めることができる。
【0052】
しかる後に、操舵抑制を行なう(ステップ8)。本実施形態では、操舵出力トルクToが零になるように、操舵入力トルクTiに応じた付加トルクをモータ13により発生させる。
なお、操舵抑制中は、ボイスアラーム52により衝突の危険性を音声によりドライバーに警告する。
【0053】
次に、その設定した初期操舵抑制時間t1が経過したか否かを判断する(ステップ9)。その初期操舵抑制時間t1が経過していなければ操舵抑制を継続する。その初期操舵抑制時間t1が経過したならば、操舵抑制を解除するまでの時間に対応する終期操舵抑制時間t2を設定する(ステップ10)。
その終期操舵抑制時間t2は、操舵の開始時における上記緊急度レベルが高い程に短く、低い程に長くされ、初期操舵抑制時間t1が短い程に短く、長い程に長くされ、初期操舵抑制時間t1経過時における操舵入力トルクTiが大きいほどに短く、小さい程に長くされる。これは、その緊急度レベルが高い程に、初期操舵抑制時間t1が短い程に、初期操舵抑制時間t1経過時における操舵入力トルクTiが大きい程に、前方障害物回避の必要性が高いことから、終期操舵抑制時間t2を短くすることで、前方障害物との衝突のおそれを低くできるからである。一方、その緊急度レベルが低い程に、初期操舵抑制時間t1が長い程に、初期操舵抑制時間t1経過時における操舵入力トルクTiが小さい程に、前方障害物回避の必要性が低いことから、終期操舵抑制時間t2を長くしても、前方障害物との衝突のおそれがないからである。また、終期操舵抑制時間t2を長くすることで、側方や後側方の障害物との衝突回避の確度を向上できるからである。この終期操舵抑制時間t2の具体的な設定長さは実験によって求めることができる。
【0054】
その初期操舵抑制時間t1経過時における操舵入力トルクTiに応じて終期操舵抑制時間t2を設定することで、その操舵抑制時間の総設定長さは、その操舵抑制途中の操舵入力トルクTiの大きさに対応する。これにより、操舵抑制中における緊急度レベルの変化に対応することができる。
すなわち、操舵抑制中に操舵の緊急度が増加した場合、例えば、図8に示すように、自車両Aの後側方に他車両Cがあるために操舵抑制を行なっている初期操舵抑制時間t1内に、前方に障害物Bが突然現れたような場合、ドライバーは操舵抑制に逆らって操舵入力トルクTiを増加させる。この場合、その初期操舵抑制時間t1の経過時、すなわち操舵抑制途中における操舵入力トルクT1は、緊急度レベルが変化しない場合に比べて増加する。これにより、操舵抑制中に緊急度レベルが増加した場合は、終期操舵抑制時間t2を短くし、操舵抑制を短時間で解除し、付加トルクTaを操舵補助力として付与して操舵出力トルクToを発生させ、前方障害物Bの回避を行なうことができる。
また、操舵抑制中に操舵の緊急度が減少した場合、例えば前方障害物がなくなったような場合、ドライバーは操舵入力トルクTiを減少させる。この場合、その初期操舵抑制時間t1の経過時における操舵入力トルクT1は、緊急度レベルが変化しない場合に比べて減少する。これにより、操舵抑制中に緊急度レベルが減少した場合は、終期操舵抑制時間t2を長くし、操舵抑制の解除までの時間を長くし、側方や後側方の障害物との衝突回避の確度を向上できる。
【0055】
次に、その設定した終期操舵抑制時間t2が経過したか否かを判断する(ステップ11)。その終期操舵抑制時間t2が経過していなければ操舵抑制を継続する。その終期操舵抑制時間t2が経過したならば、操舵抑制を解除し(ステップ12)、ステップ1に戻る。
【0056】
図6は、上記操舵状態の判定手順を示すフローチャートである。
【0057】
まず、操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクToの変化量に対応する緊急度レベルと、その設定時間経過時点の操舵出力トルクToの変化加速度に対応する緊急度レベルとが一致するか否かを判断する(ステップ101)。
この判断のため、コントローラ50は、その設定時間の経過時に、時系列に読み込んだ操舵入力トルクTiから、操舵開始時の操舵出力トルクToと設定時間経過時の操舵出力トルクToとの差を演算することで、その操舵出力トルクToの変化量を求め、また、その設定時間経過時点の操舵出力トルクToの2階微分値に対応する変化加速度を演算する。
【0058】
その判断の結果、両緊急度レベルが一致する時は、その緊急度レベルを仮の判定結果とし(ステップ102)、両緊急度レベルが一致しない時は、その変化加速度に対応する緊急度レベルを仮の判定結果とする(ステップ103)。
【0059】
次に、各仮の判定結果による緊急度レベルが、2つの緊急度レベルの境界または境界近傍か否かを判断する(ステップ104)。
【0060】
その判断の結果、仮の判定結果による緊急度レベルが、2つの緊急度レベルの境界または境界近傍でなければ、その仮の判定結果による緊急度レベルを判定結果とする(ステップ105)。
【0061】
その判断の結果、仮の判定結果による緊急度レベルが、2つの緊急度レベルの境界または境界近傍であれば、操舵開始から設定時間(例えば0.1秒)経過時点の操舵出力トルクToが、その後の設定時間(例えば0.4秒)内に減少するか否かを判断する(ステップ106)。
この判断のために、コントローラ50は、操舵開始から設定時間(例えば0.1秒)の経過時に、時系列に読み込んだ操舵入力トルクTiから、操舵開始から設定時間(例えば0.1秒)経過時点の操舵出力トルクToを求め、さらに、その操舵開始から設定時間(例えば0.1秒)経過時点の操舵出力トルクToの変化加速度の変化速度に基づき、その後の設定時間(例えば0.4秒)経過時点の操舵出力トルクToを演算する。
【0062】
その判断の結果、その後の設定時間内に操舵出力トルクToが減少しなければ、2つの緊急度レベルの中の高い方の緊急度レベルを判定結果とし(ステップ107)、その後の設定時間内に操舵出力トルクToが減少すれば、2つの緊急度レベルの中の低い方の緊急度レベルを判定結果とする(ステップ108)。
【0063】
次に、判定結果の緊急度レベルが「普通」と「スロー」との境界以下か否か、すなわち、その操舵出力トルクToの変化加速度が略零の閾値以下か否かを判断する(ステップ109)。
【0064】
その操舵出力トルクToの変化加速度が閾値以下であれば、その後の設定時間(例えば0.1秒)内の操舵出力トルクToの変化加速度を、操舵開始から設定時間(例えば0.1秒)経過時点の操舵出力トルクToの変化加速度の変化速度に基づき演算し、その後の変化加速度が減少するか否かを判断し(ステップ110)、減少する場合は操舵の目的は車線変更であると判定し(ステップ111)、減少しない場合は操舵の目的はカーブ進入であると判定する(ステップ112)。
【0065】
その操舵出力トルクToの変化加速度が閾値以下でなければ、その変化加速度が、その後の設定時間(例えば0.1秒)内に減少するか否かを判断する(ステップ113)。減少する場合、操舵の目的はカーブ進入であると判定する。減少しない場合、操舵の目的は車線変更であると判定する(ステップ111)。
【0066】
次に、その操舵が進路修正操舵が否かの判定を行なう(ステップ114)。例えば、操舵出力トルクToの設定時間内での左右一方への操舵による変化が、設定値を超えた後に、操舵出力トルクToの設定時間内での左右他方への操舵による変化が、設定値を超えた場合は、進路修正操舵であると判定する。あるいは、コントローラ50により操舵出力トルクToを一定時間間隔毎に積分し、その積分された値の設定時間内での左右一方への操舵による変化が、設定値を超えた後に、その積分された値の前記設定時間内での左右他方への操舵による変化が、設定値を超えた場合は、進路修正操舵であると判定する。
これは、操舵出力トルクの時間変化パターンに基づき、操舵の目的が進路修正操舵か否かを判定できることに基づく。例えば、図13の(1)は、車線変更時における操舵出力トルクToの時間変化パターンを示し、そのパターンは略正弦曲線になる。この場合は、右方へ車線変更した後に操舵出力トルクToが、左方への操舵により減少を開始する時点P1が、進路修正操舵の開始時点になる。また、図13の(2)は、カーブ通過時の操舵出力トルクToの時間変化パターンを示す。この場合は、右曲がりのカーブに進入した後に操舵出力トルクToが、左方への操舵により減少を開始する時点P2が、進路修正操舵の開始時点になる。何れの場合も、左右一方への操舵のための操舵出力トルクの変化が生じた後に、左右他方への操舵のための操舵出力トルクの変化が生じた時点P1、P2が、進路修正操舵の開始時点となる。上記判定は、その進路修正操舵の開始時点の認識に基づくものである。
【0067】
図9は、上記構成を備えた自車両Aの右後方に他車両Cを追従させ、図中右方に進行している状態を示す。この状態で、センサにより他車両Cを検知できる位置において、「クイック」以下の緊急度レベルで車線変更のための操舵を行なった。この場合は、操舵入力トルクTiに対応する付加トルクTaが操舵抑制トルクとして発生し、操舵出力トルクToは変化しない。しかる後に、自車両Aと他車両Cとの距離を大きくし、他車両Cをセンサにより検知できない位置において、「クイック」以下の緊急度レベルで車線変更のための操舵を行なった。この場合は、操舵入力トルクTiに対応する付加トルクTaが操舵補助トルクとして発生し、操舵抑制はなされない。
【0068】
図10の(1)は、上記構成を備えた自車両Aの右後方に他車両Cを追従させ、図中右方に進行している状態を示す。この状態で、センサにより他車両Cを検知している位置において、前方障害物Bを避けるために「緊急」の緊急度レベルで車線変更のための操舵を行なった。この場合は、操舵入力トルクTiに対応する付加トルクTaが操舵補助トルクとして発生し、操舵抑制はなされなかった。もし、この場合に従来の操舵抑制制御を行なうと、図10の(2)に示すように、操舵入力トルクTiに対応する付加トルクTaが操舵抑制トルクとして発生し、操舵出力トルクToは変化しないため、自車両Aと障害物Bとが衝突するおそれがある。
【0069】
図11の(1)は、上記構成を備えた自車両Aの内側方の他車両Cをセンサにより検知できる位置において、カーブ進入のための操舵を行なった状態を示す。この場合は、操舵入力トルクTiに対応する付加トルクTaが操舵補助トルクとして発生し、操舵抑制はなされなかった。もし、この場合に従来の操舵抑制制御を行なうと、図11の(2)に示すように、操舵入力トルクTiに対応する付加トルクTaが操舵抑制トルクとして発生し、操舵出力トルクToは変化しないため、自車両Aはカーブ進入ができない。
【0070】
図12の(1)は、上記構成を備えた自車両Aにより前方の他車両Cを追い越し、その他車両Cをセンサにより検知できる位置において進路修正操舵を行なった状態を示す。この場合、操舵入力トルクTiに対応する付加トルクTaが操舵補助トルクとして発生し、操舵抑制はなされなかった。もし、この場合に従来の操舵抑制制御を行なうと、図12の(2)に示すように、進路修正操舵の当初は操舵入力トルクTiに対応する付加トルクTaが操舵抑制トルクとして発生し、操舵出力トルクToは変化せず、自車両Aと他車両Cとが離れるまでは操舵補助がなされないため、変更後の車線に追従するのが遅れてしまう。
【0071】
上記実施形態によれば、操舵出力トルクToに基づいて操舵の有無を判断して操舵抑制の開始時点が定められ、その操舵抑制トルクとして発生する付加トルクTaは、操舵出力トルクToが予め定められた所定値となるように定められ、操舵抑制時間は操舵出力トルクToの変化に基づき定まる緊急度レベルに対応して定められる。すなわち、操舵出力トルクToに基づいて操舵抑制の制御が行なわれる。これにより、その操舵抑制を、自車両Aの挙動変化に基づいて制御できることになる。その車両の挙動変化は、操舵入力トルクTiと付加トルクTaとの和に対応するので、操舵入力トルクTiの変動は付加トルクの変化により相殺される。よって、操舵出力トルクToに対する路面の凹凸等による外乱の影響や、トルクセンサ3に対する電気的ノイズの影響は、操舵入力トルクTiに対する場合に比べて小さい。また、車速に応じて操舵補助トルクを変化させる制御を行なう場合の、車速に応じた操舵入力トルクTiの立ち上がり特性の相違や、アシストゲインや位相補償ゲインに応じた操舵入力トルクTiの立ち上がり特性の相違も、付加トルクの変化により相殺される。よって、操舵出力トルクToに基づいて操舵抑制を制御することで、操舵の有無を正確に判断でき、適正な操舵抑制が阻害されるのを防止できる。また、操舵出力トルクToは、自車両Aの挙動変化に対応する他の特性、例えば舵角やヨーレート等に比べて、位相が進んでいるので、自車両Aの挙動変化を早期に検知でき、制御系の応答性を向上することができる。また、操舵補助のために検知する値を操舵出力トルクToに対応する値として検知できるので、車両の挙動変化を検知するための専用のセンサ、例えば、ラック7が操舵用車輪8に作用させる軸方向力センサ等、を設ける必要がなく、構成を複雑化することなく低コスト化を図ることができる。
【0072】
なお、本発明は上記実施形態に限定されない。例えば、操舵出力トルクに対応する値として、上記実施形態では操舵入力トルクを検知したが、これに代えて操舵入力トルクと、モータ13の駆動制御値を時系列に検知してもよい。この場合、上記図7に示したような操舵入力トルクと操舵出力トルクとの関係に代えて、モータ13の駆動制御電流値と操舵入力トルクとの予め定めた関係をコントローラ50に記憶する。操舵補助を行なう場合は、検知した操舵入力トルクに、その記憶した関係により対応付けられる駆動制御電流値によって、そのモータ13を駆動する。これにより、その検知した操舵入力トルクと駆動制御電流値とに操舵出力トルクが対応付けられる。
【0073】
また、操舵の緊急度レベルは4段階に分類するものに限定されず、3段階以下でもよいし、5段階以上でもよい。さらに、操舵の緊急度レベルは、操舵時に車両に作用する横方向加速度に応じて分類してもよい。
【0074】
また、操舵補助や操舵抑制の方法は特に限定されない。例えば、油圧により操舵補助力や操舵抑制力を発生させてもよい。また、操舵補助力や操舵抑制力の大きさも、適正な操舵補助や操舵抑制を行なえる限り特に限定されない。
【0075】
【発明の効果】
本発明の車両の操舵装置によれば、前方障害物の検知センサを設けることなく前方障害物を回避でき、装置の低コスト化を図ることができる。また、カーブ進入のための操舵時に操舵抑制がなされることを無くし、カーブ進入が阻害されるのを防止できる。さらに、操舵抑制中における緊急度レベルの変化に対応し、適正な操舵抑制を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】車線変更時に1mを移動するのに要する時間と、設定時間における操舵出力トルクの変化量との関係を示す図
【図2】車線変更時に1mを移動するのに要する時間と、設定時間経過時点の操舵出力トルクの変化加速度との関係を示す図
【図3】設定時間における操舵出力トルクの変化量と、設定時間経過時点の操舵出力トルクの変化加速度との関係を示す図
【図4】本発明の実施形態の車両の構成説明図
【図5】本発明の実施形態の操舵装置の制御手順を示すフローチャート
【図6】本発明の実施形態の操舵状態判定手順を示すフローチャート
【図7】操舵入力トルクと操舵出力トルクとの関係を示す図
【図8】本発明の実施形態の操舵抑制作用の説明図
【図9】本発明の実施形態の操舵状態判定を行なった場合の作用説明図
【図10】(1)は本発明の実施形態の緊急度レベルか否かの操舵状態判定を行なった場合の作用説明図、(2)は緊急度レベルか否かの操舵状態判定を行なわなかった場合の作用説明図
【図11】(1)は本発明の実施形態のカーブ進入か否かの操舵状態判定を行なった場合の作用説明図、(2)はカーブ進入か否かの操舵状態判定を行なわなかった場合の作用説明図
【図12】(1)は本発明の実施形態の進路修正操舵か否かの操舵状態判定を行なった場合の作用説明図、(2)は進路修正操舵か否かの操舵状態判定を行なわなかった場合の作用説明図
【図13】(1)は車線変更時の操舵出力トルクの時間変化パターンを示す図、(2)はカーブ通過時の操舵出力トルクの時間変化パターンを示す図
【符号の説明】
A 車両
1 パワーステアリング装置
3 トルクセンサ
13 モータ
50 コントローラ
53、54、55、56 障害物検知センサ
Claims (5)
- 障害物との衝突可能性に基づいて操舵を抑制可能な車両の操舵装置において、
操舵出力トルクに対応する値を時系列に検知する手段と、
その検知した値に基づいて操舵の緊急度レベルを判定する操舵状態判定手段と、
その緊急度レベルに応じて操舵抑制時間を設定する手段とを備える車両の操舵装置。 - その操舵状態判定手段は、検知した操舵出力トルクに対応する値に基づいて、操舵の目的がカーブ進入であるのか車線変更であるのかを判定可能であり、
その判定された操舵の目的がカーブ進入である場合は前記操舵抑制を行なわない請求項1に記載の車両の操舵装置。 - 操舵入力トルクを時系列に検知する手段を備え、
その操舵抑制時間の設定長さは、その操舵抑制途中の操舵入力トルクの大きさに対応する請求項1に記載の車両の操舵装置。 - その操舵状態判定手段は、
操舵開始から設定時間内における操舵出力トルクの変化量と、操舵の緊急度レベルとの予め定めた対応関係を記憶する手段と、
その設定時間経過時点の操舵出力トルクの変化加速度と、その緊急度レベルとの予め定めた対応関係を記憶する手段と、
前記検知した値に対応する操舵出力トルクの前記設定時間内における変化量に対応する緊急度レベルと、その検知した値に対応する操舵出力トルクの前記設定時間経過時点の変化加速度に対応する緊急度レベルとが一致するか否かを判断する手段とを有し、
その判断結果に基づき操舵の緊急度レベルを判定する請求項1に記載の車両の操舵装置。 - 前記検知した値に対応する操舵出力トルクの前記設定時間経過時点の変化加速度が、予め設定した閾値以下であるか否かを判断する手段と、
その操舵出力トルクの変化加速度が閾値以下である場合に、その変化加速度が、その後の設定時間内に減少するか否かを判断する手段と、
その操舵出力トルクの変化加速度が閾値以下でない場合に、その変化加速度が、その後の設定時間内に減少するか否かを判断する手段とを有し、
その操舵出力トルクの変化加速度が閾値以下である場合に、その変化加速度が、その後の設定時間内に減少すれば操舵の目的は車線変更であると判定し、減少しなければ操舵の目的はカーブ進入であると判定し、
その操舵出力トルクの変化加速度が閾値以下でない場合に、その変化加速度が、その後の設定時間内に減少すれば操舵の目的はカーブ進入であると判定し、減少しなければ操舵の目的は車線変更であると判定し、
その判定された操舵の目的がカーブ進入である場合は前記操舵抑制を行なわない請求項4に記載の車両の操舵装置。
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