JP3608842B2 - 鋳鉄製マンホール蓋及びその製造方法 - Google Patents

鋳鉄製マンホール蓋及びその製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【技術分野】
本発明は、鋳鉄製マンホール蓋及びその製造方法に係り、特に、路面の開口部を覆蓋するための鋳鉄製のマンホール蓋において、その上部表面層を、滑り防止のための耐摩耗性の向上を主たる目的として、表面改質する技術に関するものである。
【0002】
【背景技術】
従来より、アスファルトやコンクリート等からなる道路表面において、下水道や排水孔、各種埋設施設等のために形成されている開口部には、一般に、鋳鉄製のマンホール蓋が設置されている。例えば、下水道用マンホール用上蓋や電話、電線の地中埋設用マンホール用上蓋等として、歩道、車道を問わず、鋳鉄製マンホール蓋が施設されているのである。
【0003】
そして、このようなマンホール蓋にあっては、道路を通行する人や車両の転落を防止する目的のものであるところから、その構造には、安全を考慮して、堅牢な設計が為されている。従って、この鋳鉄製マンホール蓋には、一般に、小さな路上の橋の如く、道路を通行する人や車両の安全を守るべく、高強度・靱性を有する球状黒鉛鋳鉄品が用いられ、更には長期間の間に、路面に露呈している上部表面層が摩耗を生じるところから、それによる滑り現象を生じ難くするために、所定の凹凸状パターンや模様の如き凹凸のデザインを配し、滑り抵抗を増加するような配慮も為されている。しかも、マンホール蓋の材質としても、耐摩耗性を考慮して、球状黒鉛鋳鉄品の中でもレベルの高い、JIS−G5502のFCD700相当の材質が採用されているのである。
【0004】
因みに、図1〜図3には、そのようなマンホール蓋の一例が示されている。それらの図において、円盤形状のマンホール蓋2は、よく知られている如く、マンホールの開口部に設置される円環状の受枠4に対して嵌合せしめられ得るように構成されており、図1の如き嵌合状態において、マンホールの覆蓋乃至は閉塞が行なわれることとなるのである。そして、そのようなマンホール蓋2の表面は、図3に拡大して示されているように、滑り防止の観点より、所定の凹凸デザインを与える凹凸部6とされているのである。なお、それらマンホール蓋2や受枠4は、上述の如く、球状黒鉛鋳鉄品とされている。
【0005】
しかしながら、このようなマンホール蓋が設置されても、10年、20年という長期間における人や車両の通行は、かかるマンホール蓋の上部表面層を徐々に損耗させ、その結果、滑り防止のために設けられた、高さが5mm程度の凹凸も損耗して、凸部が全く無くなり、全面が滑面となるケースも見受けられている。そして、この損耗現象は、マンホール蓋の上部を通行する人や車両に転倒やスリップを惹起せしめる原因となっているのであり、特に、雨天時には、二輪車における事故の報告が多くなされている。
【0006】
このため、従来にあっては、マンホール蓋上面の凹凸の配置を、その意匠的効果に偏り過ぎることなく、バランスよくレイアウトするとか、マンホール蓋上面の表面層に耐摩耗性に優れたセラミックスの溶射を施したコーティング膜を付与した製品も提案されるに至っているが、後者の耐摩耗性コーティング膜にあっては、所詮、表面層への塗装と変わらず、大きな衝撃力が加わったときに剥離が生じ、そして一度剥離が生ずると、その剥離部に腐食が発生して、全体剥離と連鎖する等の問題も内在していることが指摘されている。
【0007】
また、溶射膜にあっては、その密着強度と密度の向上が現在においても検討されているが、それは、微視的には、ポーラスな状態であり、防食性に劣るものであって、マンホール蓋のように、屋外における過酷な条件下のもとでの長期間の使用には、問題のあるものであった。
【0008】
さらに、マンホール蓋の材質として、超高硬度のベーナイト組織を有するADI(オーステンパーダクダイル鋳鉄)材料を選択し、このADI材料にてマンホール蓋を製作して、その表面層の硬度をHB340以上に高めることにより、耐摩耗性を与えることを目的とした試みも為されている。而して、このADI材料の製造には、ベーナイト組織を得るために、合金鉄を添加する方法と、特殊な熱処理を施す方法等があり、引張強度の著しい向上と硬度の向上(HB340〜400)が可能となり、そのような材料からなる製品の耐摩耗性は改善されるものの、一方では靱性(衝撃値)の低下が認められ、また仕上げ加工(機械加工)が著しく困難なこと、熱処理時の歪みの発生等を考慮すると、その生産性や経済性において、大きな問題点を内在しているのである。
【0009】
このように、マンホール蓋の耐摩耗性の向上については、種々なる検討が加えられているのではあるが、何れも問題のあるものであって、現在までのところ、完全な手段は無く、そのため、著しく損耗したマンホール蓋に対しては、早期取替えを行なうしか方法は無く、それによって、保全乃至はメンテナンスが進められているのが実状である。
【0010】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、球状黒鉛鋳鉄品からなるマンホール蓋において、その上部表面層の滑り防止を目的として、優れた耐摩耗性を付与することにあり、またそれによって、マンホール蓋上を通行する人や車両の安全を確保することにある。要するに、本発明は、耐摩耗性に優れた鋳鉄製マンホール蓋と、それを有利に製造し得る手法を提供することにある。
【0011】
【解決手段】
そして、本発明は、上記の如き課題を解決するために、鋳物砂を用いて造型されてなる鋳型を使用して、球状黒鉛鋳鉄溶湯から鋳造されたマンホール蓋において、該マンホール蓋の表面に、該鋳型より転着された、耐摩耗性の良好な金属材料の溶射層を有し、且つ該金属溶射層が球状黒鉛鋳鉄との混合組織層を介して強固に固着せしめられていることを特徴とする鋳鉄製マンホール蓋を、その要旨とするものである。
【0012】
また、本発明にあっては、そのような特徴的なマンホール蓋を有利に製造するために、鋳物砂を用いて造型されてなる鋳型を使用し、その鋳造キャビティ内に球状黒鉛鋳鉄溶湯を注湯して、冷却凝固せしめることにより、目的とするマンホール蓋を製造するに際して、前記鋳型の鋳造キャビティにおけるマンホール蓋の表面形成部位に対して、耐摩耗性の良好な金属材料の溶射層を形成せしめ、その形成された金属溶射層の存在下において、前記鋳鉄溶湯の注湯操作を実施することにより、該金属溶射層の溶湯接触面側部分を注湯溶湯の熱量にて溶融させて、溶湯金属との混合組織層を形成せしめ、そして冷却凝固させて得られるマンホール蓋の表面に、該混合組織層を介して、前記金属溶射層を強固に転着せしめるようにしたことを特徴とする鋳鉄製マンホール蓋の製造方法をも、その要旨とするものである。
【0013】
【具体的構成・作用】
このように、本発明にあっては、球状黒鉛鋳鉄製のマンホール蓋の路面に露呈する上部表面層に、滑り防止を目的として耐磨耗性を向上せしめるために、マンホール蓋を構成する母材となる球状黒鉛鋳鉄と融合してなる硬質層が形成されるようにしたところに、大きな特徴を有しているのである。
【0014】
一般に、マンホール蓋は、車両の通行等により、著しい負荷を受けるところから、その材質としては、その剛性を高め且つ高引張力、高靱性を有するものでなければならず、そのため、引張力と伸び率のバランス上、伸び率を確保する上限での硬度が得られる球状黒鉛鋳鉄、例えばFCD700相当のものが用いられることとなるが、本発明にあっては、そのような材質を用いて、マンホール蓋が鋳造される際に、鋳型表面に、マンホール蓋の耐摩耗性を向上せしめる作用を有する、耐摩耗性の良好な合金鉄等の金属材料を溶射せしめ、その溶射された合金鉄等の金属溶射層の接触面側部分を、注湯される溶湯金属の熱でもって溶融、融合させ、そして冷却凝固によって、かかる鋳型壁の金属溶射層をマンホール蓋体側へ転着、即ち転移、付着せしめて、一体化させるようにしたのである。
【0015】
ところで、本発明において、目的とする鋳鉄製マンホール蓋を鋳造するために使用される、鋳物砂を用いて造型されてなる鋳型は、生型砂、或いは樹脂を硬化媒体として用いた自硬性砂等の鋳物砂を用いて、通常採用されている造型法によって作製された鋳型であって、それは、一般に、上型と下型とから構成され、そしてその内部に、目的とするマンホール蓋を鋳造するための鋳造キャビティを有している。
【0016】
例えば、かかる鋳型は、一般的に砂型造型法にて作られることとなるが、この砂型造型法は、骨材となるケイ砂(SiO)に、ベントナイト、樹脂等の粘結剤を混練し、造型を行なうと共に、加圧装置等から、しかるべき外部圧力を得て、鋳型は完成される。このベントナイトを主粘結剤とした造型法(生型造型法)を例に取ると、90%近いSiO分を有するケイ砂を100〜120メッシュに分粒して、そのケイ砂に粘土分としてベントナイトを8〜10%(活性分)添加し、更にベントナイトの潤滑性を発揮せしめるために、3.5〜4%の水分を加えた鋳物砂を用いて造型されることとなるが、そのようにして得られた鋳型の表面を、ミクロ的に観察すると、一見、平滑に見える鋳型表面も、微細な凹凸が出現しているのである。
【0017】
そして、このような鋳型における鋳造キャビティのマンホール蓋表面形成部位に対しては、本発明に従って、所定の金属材料の溶射操作が行なわれることとなるが、その溶射に際して、鋳型面には、音速に近いスピードで、所定金属材料の溶滴が衝突せしめられることとなり、そのために鋳型面の強度が低いと、特に、凹凸のエッヂ部が吹き飛ばされることもあり、それ故に砂型造型の場合においては、その鋳型硬度を90〜95程度とすることが望ましいのである。
【0018】
また、このようにして得られた鋳型にあっては、その鋳造キャビティにおけるマンホール蓋の表面形成部位には、目的とするマンホール蓋の表面形状に対応した凹凸形状が形成されているのである。即ち、マンホール蓋の上部表面層は、構造的に滑りを防ぐために、5mm程度の溝(凹凸)を有する幾何学的模様若しくは需要者の要求によるデザインが施されることとなるのであり、そのような表面凹凸構造に対応して、鋳型の鋳造キャビティ面が形成されるのである。そして、そのような鋳造キャビティの凹凸構造面に対して、本発明に従って、耐摩耗性の良好な金属材料の溶射が施されることとなるが、そのような凹凸造型された鋳型(鋳造キャビティ面)への溶射膜の形成は、そのような鋳造キャビティ面形状が三次元的形状であっても、安定した状況で、必要な部分への形成が可能となるのである。
【0019】
なお、本発明にて採用する金属溶射の技術は、歴史が古く、従来から所定の金属材料を溶かして霧吹きのような状態で吹き付け、対象物に所定厚さのポーラスな金属層を形成する手法として知られ、メタル・スプレーイング(Metal Spraying)やメタライゼーション(Metallization )とも呼ばれており、現在では、金属のみならず、セラミックス等も溶射に用いられ、機械部品等の表面改質に広く使用されているが、本発明においては、一般的に採用される溶射面では密着性や溶射面の密度に問題が残されている点に着目し、鋳造という金属加工方法が持つ膨大な熱量を有効活用し、溶射金属膜の溶湯との接触面側部分を溶湯(母体)金属の熱でもって溶融せしめて、母体との溶着を図り、以て一般的な溶射膜に見られる剥離現象を解決し、更には溶射金属膜と母体金属の融合により、耐摩耗性に優れた混合組織を生成せしめようとするものであって、そのために、図4に示される如く、鋳型の鋳造キャビティにおけるマンホール蓋の表面形成部位を構成する鋳物砂層10上に、耐摩耗性の良好な所定の金属材料(粉末)が常法に従って溶射せしめられ、そこに、所定厚さの金属溶射層12が形成されるのである。
【0020】
また、そのような金属溶射層12は、よく知られている一般的な溶射作業方式に従って形成され得るものであり、溶射装置としても、既に多くの機種が市販されているところから、その中から、適宜に選択されることとなるが、特に、溶射時に被溶射物(鋳型面)に対する熱影響の少ないアーク式溶射装置を用いることが望ましい。尤も、ガス式溶射装置等を用いて溶射を行なっても、溶射層に対する影響に大差は認められていないが、騒音や粉塵の飛散等の作業性を考慮する必要がある。
【0021】
そして、かくの如き溶射手法によって、高温にて溶かされた金属材料の溶滴が音速に近いスピード(300〜500M/s)にて噴射され、高い衝突エネルギーをもって、かかる溶滴を鋳物砂にて構成される鋳型面の微細な隙間へ押し込むこととなるのであり、これによって、図5に示される如く、鋳型面に対向した溶射面には微細な凹凸が生ずるようになり、また、その表面組織の硬度が高いと、微妙な滑り防止効果を発揮することとなるのである。しかるに、通常の鋳造法にあっては、その基本原理は、注湯される溶湯性状が動粘性係数において低く、表面張力の高いものであるが、比較的動粘性係数が低い鋳鉄溶湯(0.7×10−2cm/s:動粘度)においても、表面張力は高く(1870dyn/cm)、そのために、鋳物砂の粒子間に生ずる0.05〜0.3mm程度の隙間に入り込むことは、極めて困難となるのであって、本発明に係る溶射面の如き微細な凹凸の形成は、全く期待し得ないのである。
【0022】
ところで、このような溶射層12を形成するために、本発明にあっては、従来から知られているような耐摩耗性の良好な各種の金属材料が、粉末等の形態において用いられるものであって、例えばFe、ニッケル、クロム、モリブデン、チタン等の金属の粉末材料が混合して用いられることとなる。それら金属の単体の融点は比較的高いものであるが、それらの合金とすることによって、融点が下がり、注湯される溶湯温度(例えば1500℃程度)にて充分に溶融せしめられ得て、溶湯金属との間に、混合組織を形成することが可能となる。なお、モリブデンは、融点が著しく高いために、完全溶融は困難であって、混在組織となるが、そのような混在組織にても、有効な耐摩耗性を発揮し得るものである。
【0023】
また、かかる溶射層12を、溶射金属材料の異なる複数の溶射層にて構成することも可能であり、その場合にあっては、マンホール蓋表面に露呈せしめられることとなる最初の溶射層は、少なくとも、本発明に従って、耐摩耗性の良好な金属材料を用いて形成される必要がある。更に、そのような複数の溶射層を積層せしめる場合において、球状黒鉛鋳鉄溶湯に接触せしめられる側の溶射層を、かかる溶湯と馴染み易く且つ溶融され易い、低炭素鋼等の材料を用いて形成すれば、溶湯注湯時の溶射層12の接触面側部分の溶融性が効果的に向上せしめられ、以て球状黒鉛鋳鉄溶湯14との間の良好な混合組織が、有利に形成されることとなる。
【0024】
なお、この鋳型表面に形成される溶射層12の厚さとしては、マンホール蓋表面に要請される耐摩耗性の程度や、注湯される球状黒鉛鋳鉄溶湯の熱による溶融の程度等に応じて、適宜に決定されることとなるが、一般に、500〜2000μm程度とされることとなる。溶射操作においては、粒径が数十μm程度の金属材料粉末や線材が、3000℃近い温度にて瞬間に溶融され、そしてエアの力により噴出された微細溶滴は、鋳型面へ吹き付けられて、鋳型の凹凸面上に所定厚さの層を形成することによって、かかる鋳型の凹凸形状を正確に包むこととなるのである。
【0025】
このようにして、鋳型の鋳造キャビティにおけるマンホール蓋の表面形成部位の鋳物砂層10の表面に、所定厚さにおいて、溶射層12が形成された状態下において、上記の鋳型には、球状黒鉛鋳鉄溶湯14が、図4の如く注湯せしめられて、マンホール蓋を得るための通常の鋳造操作が行なわれることとなるが、そのような溶湯14の注湯によって、かかる溶湯14からの熱量が溶射層12の溶湯接触面に作用して当該部分を溶融せしめ、以てそこに、溶射金属と溶湯金属との混合組織層16を形成するのである。
【0026】
そして、かかる状態下において、注湯された球状黒鉛鋳鉄溶湯14を冷却、凝固せしめ、常法に従って、鋳型の型ばらしを行ない、生成した鋳物を取り出すことによって、目的とするマンホール蓋が得られることとなるのであるが、そのようなマンホール蓋の上部表面層は、図5に拡大して示されている如く、球状黒鉛鋳鉄溶湯14の凝固によって形成される球状黒鉛鋳鉄基地18上に、混合組織層16を介して、溶射層12が強固に固着せしめられた形態において、かかるマンホール蓋表面の凹凸形態が現出せしめられている。このように、5mm程度の深さを有する幾何学的な模様の溝からなる凹凸形態に加えて、その凹凸形態の表面層が、その摩耗を防ぐための耐摩耗性の溶射層12にて構成されると共に、そのような溶射層12が、母材鋳鉄(18)との融合にて形成される高硬質層たる混合組織層16を介して、強固に固着せしめられているところから、そこに、最も効果的な滑り防止構造が実現されているのである。
【0027】
特に、本発明に従う溶射によって形成される溶射層12を与える金属材料の材質を高Crからなるものとすると、そのような溶射層12の溶融にて供給されるCrによって、球状黒鉛鋳鉄溶湯14との混合組織層16においては、(Fe,Cr)C型の炭化物や(Fe,Cr)型の炭化物を晶出し、高硬度の炭化物が形成されることによって、優れた耐摩耗性を発揮する特徴がある。
【0028】
また、溶射層12が、溶射金属としてNi、Cr、Mo等を含む材料を用いて形成されていると、球状黒鉛鋳鉄溶湯14たるFCD700相当の注湯金属(C:3.8%、Si:1.8%、Mn:0.6%、Mg:0.04%、Fe:残部)(1480℃)との接触による該溶射層12の溶融混合にて、マルテンサイトの針状晶がオーステナイト素地に多く現れた球状黒鉛鋳鉄質の混合組織層16が形成されるのである。
【0029】
さらに、この形成される混合組織層16の混合組織は、溶射層12の形成に用いられた金属材料により異なるが、溶射の作業性と経済性を考慮して、溶射金属材料をFe、Ni及びCrの混合粉粒とし、NiとCrの比率を8:2としたときに、Hv400〜500(HB380〜480)程度の硬度を有する混合組織層16を形成することが出来る。このような混合組織層16の硬度は、従来のADI(JIS−G5503−FCD1200A)材料を凌ぐ表面硬度となるものである。
【0030】
【実施例】
以下に、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施例を詳細に説明することとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等限定的に解釈されるものでないことは、言うまでもないところである。
【0031】
先ず、鋳鉄製マンホール蓋の一般的な製作工程においては、砂型鋳型(生型)へ、FCD700相当の球状黒鉛鋳鉄溶湯が1450〜1500℃の温度にて注湯されて、完了するが、ここでは、本発明に従うマンホール蓋を得るために、かかる鋳型の鋳造キャビティにおけるマンホール蓋の表面形成部位たる鋳型面、換言すれば耐磨耗性を付与するための鋳型の幾何学的模様デザイン部(凹凸部)に対して、二段の金属溶射を行なった。即ち、最初の溶射操作たる第一段階の溶射は、ニッケル、クロムの混合粉末を用いて、ニッケル、クロムの合金が形成されるように溶射を行ない、そして後の溶射工程たる第二段階では、Fe(低炭素鋼)の溶射を、溶融性向上のために行なった。
【0032】
なお、溶射装置としては、溶射時に被溶射物(鋳型面)への熱影響の少ないアーク式溶射装置を用いた。また、溶射作業は、常法に従って行ない、溶射用粉体材料を水溶性プラスチックで固めたフレキシコード(Cr:20、Ni:80)を用いて、溶射面の気孔率は大きめを狙い、200〜250mm距離から溶射せしめ、1mm程度の厚さの第一次溶射層を生成させ、更に第二次溶射層は、Fe(低炭素鋼)を0.5mm程度の厚さに溶射せしめた。更に、溶射温度は、瞬間的には4000℃近くの温度となり、コンプレッサーエアと共に噴出される溶滴は、目的とする鋳型面に吹き付けられて、所定厚さに付着、塗布せしめられることとなるが、そのような溶射層の形成される鋳型面の表面凹凸形状をエアの噴出力で崩すことなく、溶射膜を所定厚さに形成するために、エア圧力や電流値を微妙に調整した。
【0033】
また、溶射面の粗さは、一般的に素地面と略同等になるが、本発明における溶射面の粗さに対する意義は、溶湯との融合が容易に進むところに主眼があり、このため、上記の第二段階における溶射時には、溶射距離を離し、溶滴径を大きくして、表面積の大きな粗さとなるようにした。
【0034】
また、生型の造型に関しては、チクソトロピー現象を応用した衝撃波造型機を用いて、砂型造型を行ない、マンホール蓋の表面形成部位における凹凸部の硬度は、93程度とされた。
【0035】
そして、上記の第一及び第二段階の溶射層を形成せしめた後、鋳型には、マンホール蓋を鋳造するために、球状黒鉛鋳鉄溶湯(FCD700)が注湯された。なお、この注湯に際しては、鋳型が3.5〜3.8%の水分を添加、含有するものであるところから、その長時間の放置により、溶射層裏面(鋳型対向面)に水滴が結露し、その水分が溶湯と反応して、ガス欠陥を発生する恐れがあるために、溶射層の溶射後においては、速やかに注湯することが望ましい。ここでは、注湯温度は1480℃程度にて行なわれ、また、鋳込速度は、T=K√wの標準式(T:鋳込速度、K:係数、w:鋳込重量)にて行なわれるが、かかるK値を小さくし、速い鋳込速度を採用することが望ましい結果を与えた。
【0036】
また、かかる鋳込操作の終了の後、凝固が充分に完了し、形成されたマンホール蓋体に歪みが生じないように冷却が為された後、鋳型を解枠して、目的とするマンホール蓋を取り出した。
【0037】
かくして得られたマンホール蓋にあっては、その表面上層部の断面は、図5に拡大して示される如き形態を取るものであり、溶射金属(12)とFCD溶湯にて形成された鋳鉄基地(18)とが、その界面にて完全に融合し、そこに、混合組織層(16)が形成されたものとなり、第二段階の溶射層(低炭素鋼)の形跡は少なく、球状黒鉛鋳鉄(18)側に固溶したものと認められた。また、第一段階の溶射層と鋳鉄層との混合層も見られ、気孔と思われる部分への溶湯の浸透によって、マンホール蓋の表面層はNi、CrとFCDの固溶状態となり、強固な一体組織となった。
【0038】
さらに、溶射層(12)の裏面側部分と鋳鉄との混合組織は、溶射金属面がチラー効果を与えており、以て球状黒鉛粒径の微細化と周辺組織へ影響を与え、セメンタイト組織が微細に発生し、パーライト率を増加させていることを認めた。そして、硬度測定の結果、そのような混合組織を含むマンホール蓋の表面層は、HB400の硬度を示し、充分な耐摩耗性を有する表面に改質されていることを認めた。
【0039】
このように、本発明にあっては、鋳物砂を用いて造型して得られる鋳型の鋳型面に対する溶射ということを基本にして、そのような溶射によって形成された金属溶射層をマンホール蓋の表面に転着せしめると同時に、該溶射層を、球状黒鉛鋳鉄との混合組織層を介して強固に固着せしめたところに、大きな技術的意義を有するものであって、そのために、溶射される鋳型の強度、管理レベル、必要とする表面改質層の厚み、更には溶湯熱量バランス等に考慮を払う必要があるものの、他の製品、例えば、鋳鉄製グレーチング、ツリーサークル等、耐摩耗性を必要とする鋳鉄製品への応用は可能であり、また、溶射される金属材料の如何によっては、耐食性の向上も可能であることは、言うまでもないところである。
【0040】
【発明の効果】
以上の説明から明らかなように、本発明に従う球状黒鉛鋳鉄製のマンホール蓋にあっては、その表面が、鋳型面に形成された溶射層の転着にて構成されているところから、一般的な鋳造法では得られない、梨地の如く微細な凹凸を有した表面状態と、かかる溶射層と球状黒鉛鋳鉄溶湯とが融合した混合組織層から構成されて、優れた耐摩耗性を発揮するのである。
【0041】
そして、鋳型面に対応した表面凹凸を有する溶射層は、鋳造後に、一般に、鋳物に対して施されるショットブラスト処理にて、その凸部が抑えられ、剣山のような鋭利な山は崩されることとなるが、一般的な鋳造品とは異なる表面粗さが得られ(50〜85S)、歩行時に適度な摩擦を与え、耐スリップ性の増加が効果的に図られ得るのである。
【0042】
尤も、そのような鋳型面を転写した溶射層の凹凸形態は、微視的な改善であって、鋳鉄製マンホール蓋における基本的な耐スリップ性の維持は、マンホール蓋表面における幾何学的模様の耐摩耗性改善にあり、一般に形成される5mm程度の深さを持つ溝(凹凸部)が、長期間の使用においても、常にシャープエッヂを保つことにあり、そのような原形を保つ材質に改質したところに、本発明の大きな意義がある。
【0043】
さらに、本発明の他の効果とするところは、一般的な金属溶射部においては、被溶射部との密着性に問題があることに加えて、かかる溶射部の密度、そして該溶射部がポーラスなるが故に生ずる腐食等の問題を内在しているのに対して、本発明にあっては、そのような従来の問題を、溶射層の溶湯に接する裏面を鋳造金属の溶融熱にて完全に溶融せしめると同時に、溶射層構成金属と溶湯金属との溶融混合組織を形成せしめて、一体的な融合層とすることによって、解決したことにある。
【図面の簡単な説明】
【図1】マンホール蓋を受枠に嵌合せしめてなるマンホール蓋装置の一例を示す平面説明図である。
【図2】図1におけるA−A断面説明図である。
【図3】マンホール蓋表面部位の断面の一例を示す拡大説明図である。
【図4】本発明に従うマンホール蓋の鋳造工程の一例を示す工程説明図である。
【図5】本発明に従うマンホール蓋の表面部位の断面構造の一例を示す拡大断面説明図である。
【符号の説明】
10 鋳物砂層
12 溶射層
14 球状黒鉛鋳鉄溶湯
16 混合組織層
18 母材鋳鉄

Claims (2)

  1. 鋳物砂を用いて造型されてなる鋳型を使用して、球状黒鉛鋳鉄溶湯から鋳造されたマンホール蓋にして、該マンホール蓋の表面に、該鋳型より転着された、耐摩耗性の良好な金属材料の溶射層を有し、且つ該金属溶射層が球状黒鉛鋳鉄との混合組織層を介して強固に固着せしめられていることを特徴とする鋳鉄製マンホール蓋。
  2. 鋳物砂を用いて造型されてなる鋳型を使用し、その鋳造キャビティ内に球状黒鉛鋳鉄溶湯を注湯して、冷却凝固せしめることにより、目的とするマンホール蓋を製造するに際して、
    前記鋳型の鋳造キャビティにおけるマンホール蓋の表面形成部位に対して、耐摩耗性の良好な金属材料の溶射層を形成せしめ、その形成された金属溶射層の存在下において、前記鋳鉄溶湯の注湯操作を実施することにより、該金属溶射層の溶湯接触面側部分を注湯溶湯の熱量にて溶融させて、溶湯金属との混合組織層を形成せしめ、そして冷却凝固させて得られるマンホール蓋の表面に、該混合組織層を介して、前記金属溶射層を強固に転着せしめるようにしたことを特徴とする鋳鉄製マンホール蓋の製造方法。
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