JP3608742B2 - 形質転換した赤痢菌 - Google Patents
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Description
本発明は、赤痢菌株が感染した宿主の細胞及び組織に実質的に侵入できず、宿主の感染細胞内及び感染細胞と非感染細胞との間に実質的に拡散できず、相当数の宿主細胞を殺滅させるであろう毒素を産生できなくなるように、赤痢菌の腸侵入性野生株のゲノムを改変する方法に係る。本発明は、特定的には、宿主を赤痢菌野生株に対して免疫感作するのに使用しうるこのような赤痢菌の改変株に関する。
シゲラ症(shigellosis)すなわち細菌性赤痢は世界中の風土病である疾患である。この疾患は、志賀赤痢菌Shigella dysenteriae 1及びフレクスナー赤痢菌S.fle xneriが優位を占める熱帯地方や開発途上国では特に深刻な公衆衛生上の問題である。先進工業国では、シゲラ症の散発例がフレクスナー赤痢菌、ボイド赤痢菌S.soyd ii及びある種の腸侵入型大腸菌によることもあるが、主な病原菌はソンネ赤痢菌S.sonneiである。
細菌性赤痢の疾病の成立ちの第一ステップは赤痢菌(Shigella)がヒトの結腸粘膜に侵入することである(23)。粘膜への侵入にはいくつかのステップがあり、細菌が上皮細胞へ入り込み、細胞内で増殖し、宿主細胞を殺滅し、最終的には隣接する細胞や結合組織へも拡散するというステップを含んでいる(9,41,55,56)。通常は粘膜表面に限定される全体的な過程により強力な炎症反応が起り、これが腫瘍や潰瘍の原因となる(23,41,55)。
赤痢がシゲラ症の特徴ではあるが、その前に水のような下痢をすることがある。下痢は結腸での再吸収の障害と空腸での分泌の増加の結果であるように思われるが、赤痢は純粋に結腸での過程によるものである(20,41)。シゲラ症、主として志賀赤痢菌1による例では、発症の途中で全身症状が認められることもある。これらの症状には中毒性の巨大結腸、白血病性反応そして溶血性−尿毒症症候群(“HUS")が含まれている。HUSは開発途上国でのシゲラ症による死亡の主因となっている(11,22,38)。
志賀赤痢菌1が大量に産生するShiga−毒素(6)及びフレクスナー赤痢菌及びソンネ赤痢菌が少量産生するShiga様毒素(“SLT")(19,30)がシゲラ症の4つの段階(すなわち、個々の上皮細胞への侵入、組織への侵入、下痢そして全身症状)で果す役割はよく判ってはいない。概説に関してはO'Brien及びHolmes(32)を参照せよ。180〜220キロ塩基(kb)のプラスミドは全ての種の赤痢菌にとって個々の上皮細胞への侵入に不可欠である(41,42,44)。これには侵入、細胞内での増殖及び宿主細胞を早期に殺滅することを含んでいる(4,5,46)。この段階でのShiga−毒素及びSLTの役割は明らかではない。Shiga−毒素及びSLTは細胞内増殖及び早期の殺滅に重要な役割を果しているようではない(4,12,46)。しかしながら、今までに行われてきた実験の中には適切な細胞アッセイ系で同一遺伝子の変異株を比較しているものではない。最近の知見はShiga−毒素がヒト結腸細胞の一次培養に対し細胞毒性であることを示している(27)。組織への侵入には他の染色体でコードされた生成物、すなわち滑面(smooth)リポ多糖類(″LPS″)(44,57)、遺伝子座Kcpの非特性化生成物(8,44)及びエアロバクチン(aerobactin)(24,28)を必要としている。ウサギの回腸係蹄での体液の産生に必要なフレクスナー赤痢菌染色体の部分はrha−mtl領域とリジンデカルボキシラーゼ部位近くに局在している(44)。しかし、体液貯留をもたらす能力がフレクスナー赤痢菌のSLTによるものであることを示す証拠は提示されていない。従って、シゲラ症の全身性合併症の発症におけるShiga−毒素の役割は未だ仮説的なものである。しかし、HUSで認められる毛細血管での病変はこの毒素を注射した動物の脳血管で認められるものと類似しているために、Shig a−毒素は血管の損傷を仲介することができる(1,2,22)。
Shiga毒素又はLSTを欠く変異株は疾病過程におけるこれら毒素の役割を示しうるであろう。Sekizakiら(48)がHela細胞アッセイ及びSeranyテスト(49)で野生株と同様の侵入性を示すこのような変異株を得てはいたが、この細胞毒素を最も大量に産生する志賀赤痢菌1はShig a−毒素陰性変異株(Tox-)に形質転換することができ、毒素の役割を示すために最も役立てることができた。更に重要なことに、このようなTox-変異株を使用し、侵入できず、そして宿主細胞内で実質的に増殖できず、又、宿主の感染細胞内でそしてこれら感染細胞から宿主の未感染細胞へ実質的に拡散することができず、又、相当数の感染及び非感染宿主細胞を殺滅する毒素を産生できない変異株を作ることができる。その結果、Tox-変異株を使用して赤痢菌野生株に対して宿主を免疫感作することができた。
発明の概要
in vitroで変異誘発させたShiga−毒素遺伝子で対立遺伝子を交換することにより、志賀赤痢菌1野生株のTox-変異株を遺伝子操作する。細胞アッセイ系や動物でのこの突然変異の作用から、変異株を更に遺伝子操作して実質的に侵入できず、次いで宿主細胞内及び間で拡散できず、しかも宿主細胞内でShiga−毒素を産生できない変異株を提供しうることが示されている。
又、本発明によると、志賀赤痢菌1野生株のTox-変異株は次のものでの対立遺伝子交換により遺伝子操作する:
a)志賀赤痢菌1が宿主細胞及び組織に侵入するために必要な蛋白質をコードする志賀赤痢菌1の遺伝子、例えば、鉄のキレート化及び/又は志賀赤痢菌1への鉄の輸送に必要な蛋白質をコードする遺伝子(例えば、志賀赤痢菌1のエンテロバクチン(enterobactin)又はエンテロケリン(enterochelin)遺伝子)をin vitroで変異誘発させたもの;及び
b)感染細胞内及び感染細胞と非感染細胞との間に志賀赤痢菌1が拡散するために必要な蛋白質をコードする志賀赤痢菌1の遺伝子、例えば、細胞内−細胞間拡散遺伝子(例えば、ics A又はvir G遺伝子)をin vitroで変異誘発させたもの。
本発明によると、更に、(a)宿主細胞及び組織にフレクスナー赤痢菌が侵入するために必要な蛋白質をコードするフレクスナー赤痢菌の遺伝子、例えば鉄のキレート化及び/又はフレクスナー赤痢菌への鉄の輸送に必要な蛋白質をコードする遺伝子(例えば、フレクスナー赤痢菌のエアロバクチン遺伝子)をin vitroで変異誘発させたもの、及び(b)宿主細胞内及び間にフレクスナー赤痢菌が拡散するために必要な蛋白質をコードする遺伝子、例えばics A遺伝子をin vitroで変異誘発させたもので対立遺伝子交換してフレクスナー赤痢菌野生株の変異株を遺伝子操作する。
本発明により、更に、本発明の赤痢菌変異株を使用して赤痢菌野生株に対するワクチンを作成する。
【図面の簡単な説明】
図面は、実施例2のShiga−毒素オペロンのクローニングとShiga−毒素Aサブユニット遺伝子のin vitroでの変異誘発を図式的に示している。図のプラスミドpHS7201、pHS7202及びpHS7203中:黒の部分はAサブユニット遺伝子からの配列を示し;点描部分はBサブユニット遺伝子の配列を示し;斜線部分はΩ挿入要素からの配列を示している。
発明の詳細な説明
改変株を赤痢菌野生株に対するワクチンの製造に使用しうるように腸侵入性赤痢菌を改変する方法が提供される。宿主特にヒトの感染細胞内に侵入及び次にそこで増殖することができず、そして宿主の感染細胞内及び感染細胞と非感染細胞との間に実質的に拡散できず、又、相当数の宿主の感染及び非感染細胞を殺滅する毒素を産生できなくなるように赤痢菌野生株を改変する。この方法には、感染した宿主細胞及び組織に菌株が侵入するために必要な1つ以上の蛋白質をコードする野生株の遺伝子(例えば、アエロバクチン(aerobactin)遺伝子)及び感染した宿主細胞内及び間に菌株が拡散するために必要な1つ以上の蛋白質をコードする野生株の遺伝子(例えばics A遺伝子[60,61])が全部又は部分的に除去、又は永久的に不活性化され、好ましくは少なくとも部分的に除去されるように、赤痢菌の野生株(例えばフレクスナー赤痢菌)のゲノム(例えば、大きな発病性プラスミドpHS7200)を変換することを含んでいる。志賀赤痢菌1のような野生株のゲノムを変換するためには、Shiga−毒素をコードする遺伝子、好ましくは正にAサブユニット遺伝子を全部もしくは部分的に除去し、又は永久的に不活性化し、好ましくは、少なくとも部分的に除去することもその方法に含んでいるのが好ましい。
本発明方法では、赤痢菌野生株の遺伝子が慣用法例えばin vitroで変異誘発させた遺伝子による対立遺伝子交換で完全に又は部分的に除去或いは永久的に不活化でき、少なくともその大部分は除去されているのが好ましい。この点に関して本発明ワクチンを製造するときに使用する突然変異させた遺伝子は、遺伝子に挿入され、そして次世代の赤痢菌においてin vitroで再生されるときに遺伝子から消失しうるトランスポゾンによって不活化させただけのものではないことが好ましい。むしろ、変異誘発させた遺伝子の大部分が欠損しており、好適なワクチンに適合性のマーカー遺伝子をこのような欠損部分に挿入するのが好ましい。このようなマーカー遺伝子により、そうして形質転換した赤痢菌が容易に同定される。好ましいマーカー遺伝子は水銀、ヒ酸塩、亜ヒ酸塩、アンチモン、カドミウム、亜鉛及び/又はコバルトに耐性の遺伝子のような重金属耐性遺伝子である(62,63,64,65)。
改変した菌株の細胞は慣用法で培養し、次いで減弱させることができる。次に、細胞を慣用の薬剤として許容されるベヒクル(例えば、食塩水溶液)及び適宜、慣用の賦形剤(例えば、薬剤として許容される洗剤)と混合して野生株に対するワクチンを形成することができる。ワクチンは、細胞物質を最終濃度0.2〜5mg/ml、好ましくは0.5〜2mg/ml含有するように処方しうる。処方後、ワクチンは滅菌容器に入れることができ、次いで、これを密封し、低温(例えば4℃)で保存するか、或いは凍結乾燥させることもできる。
ヒト宿主で赤痢菌野生株に対する免疫性を誘導するためには、約109〜1011の凍結乾燥した赤痢菌細胞を含有するような用量で、好適に処方したワクチンを1回以上投与することができる。ワクチンは慣用法で経口投与することができる。治療は、ワクチンの1回投与又は長期に亘る複数回の投与からなりうる。
次の実施例で本発明を説明する。
実施例
特記しないかぎり、本実施例で使用するクローニング及び形質転換の手順及び手法はManiatisらの「Molecular Cloning−−A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory(1982)に一般的に記載されているものと同じである。
実施例1〜6で使用する菌株及びそのファージ又はプラスミドの内容は第1表に示す。
実施例では2つの培地を使用した:M9最少培地(Na2HPO4・12H2O:15g/l、KH2PO4:3g/l、NaCl:0.5g/l、NH4Cl:1g/l、MgSO4・7H2O:0.05g/l)及びトリプトカゼインソヤブロス(Trypto Casein Soya Broth)(Diagnostics Pasteur,Marnes la Coquetle,フランス)。
実施例1…Shiga−毒素オペロンのクローニング
(パリ、フランス)から入手した野生型の抗生物質感受性の志賀赤痢菌1菌株SC500から全DNAを調製した(50)。DNA10μgをEcoR I(Amersham,Buckinghamshire,英国)で消化し、0.7%のアガロースゲル上に載置した。3.5〜4.5kbの断片を電気溶離した。精製した断片0.1μgを、1μgのcos−連結し、EcoR Iで切断し、脱リン酸したλGT11アーム(Stratagene Cloning System,サンディエゴ,米国)に連結し、販売元の指示に従ってPakagene System(Progema Biotee,Madison,米国)を使用してパッケージングした。次いで、パッケージングしたDNAを大腸菌Y1090(59)にトランスフェクトした。次に、λGT11バンクを、A.D.O'Brien,U.S.U.S.H.Bethesda,MD,米国から入手したSLT1のBサブユニットに特異的なモノクローナル抗体である13C4(54)でスクリーニングした。103個の組換えファージをLBソフトアガー中のY1090上にまいた。プレートを37℃で12時間インキュベートした。予め10mMのイソプロピルチオガラクトシド(“IPTG")溶液(Sigma,St Louis,MO,米国)に漬けたニトロセルロースフィルター
をプレートに適用し、次いで、42℃で2.5時間インキュベートした。フィルターをプレートから取り出し、
PBS−ミルク(1×PBS中脱水低脂肪ミルク50g/l)中、37℃で1時間インキュベートし、1×PBSで5回洗い、希釈していないハイブリドーマ細胞上清中の13C4モノクローナル抗体と共に1時間インキュベートした。PBS−ミルクで5回洗った後、アルカリ性ホスファターゼと抱合した羊抗マウスIgG抗体
の1/200希釈液を含有するPBS−ミルク中、37℃で、1時間、フィルターをインキュベートした。フィルターを再度1×PBSで洗い、染色溶液(ニトロ−ブルーテトラゾリウム0.33mg/l、リン酸5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル0.16mg/l(両化合物共Sigma製)、100mMトリスHCl pH9.5、100mM NaCl、50mM MgCl2)中に置いた。陽性のクローンをプラーク精製し、Y1089にトランスフェクトした(59)。次に、DNAを溶原菌から調製した(13)。大腸菌JM83のプラスミドベクターpUC8のEcoR I部位でサブクローニングした(58)。上記のように、但し、次のような変更を行って、モノクローナル抗体13C4で大腸菌JM83のサブクローンをテストした:乾燥したニトロセルロースフィルターをプレート上に置き、PBS中2mg/lのポリミキシンB溶液2mlをフィルター上に加えた。次に、PBS−ミルクインキュベーションを始める前に、プレートを37℃で45分間インキュベートした。SLT1のBサブユニットを含む大腸菌JM83中のサブクローンpHS7201が同定された。
遺伝子量効果によって、大腸菌JM83のサブクローンpHS7201は、13C4モノクローナル抗体の存在下でのコロニー免疫ブロットアッセイで親株SC500より強いシグナルを有することが判った。pHS7201のShiga−毒素コード領域の制限地図はSLT1のものと同じであった(14)。Aサブユニット遺伝子は、実施例2に記載したようにカセットを挿入しうるATG出発コドンから310bp下流にある独特なHpa1部位を有することが判った。
実施例2…Shiga−毒素Aサブユニット遺伝子のin vitr oでの変異誘発
サブクローンpHS7201では、4.2kb EcoR I DNA断片内に全Shiga−毒素オペロンが含まれている。スペクチノマイシン耐性をコードし、T4翻訳転写停止信号が各側にあるインターポゾンΩ(37)を挿入することによってAサブユニット遺伝子のin vitroでの変異誘発を実施した。ΩはHind III 2kb断片として精製され、その末端にはDNAポリメラーゼIのクレノウ断片が充填されていた。次に、ΩをHpa I線状化pHS7201に連結させて、図に示すような組換えプラスミドpHS7202を生成した。次に、変異誘発した配列を含有する6.2kb EcoR I断片を精製し、自殺プラスミドベクターpJM703.1(51)のEcoR I部分に連結させて図に示すような組換えプラスミドpHS7203を生成した。大腸菌SM10のゲノムに組み込まれているラムダファージに含まれるpir機能をイントランス(in−trans)でその欠損R6K源に補足したときのみにpJM703.1は複製する(21)。大腸菌SM10はその染色体に統合されている広範な宿主域のIncP−型プラスミドRP4の転移遺伝子も含有している。従って、pJM703.1は、RP4からのMob部位を含有している(51)ために、SM10λpir(21)で可動化されうる。このようにして、pHS7203は菌株SM10λpir中で安定して保持されており、次に、野生型志賀赤痢菌1株SC500に抱合的に移行させた。セロファン膜上で交配を行い、チアミン、メチオニン、トリプトファン及びニコチン酸を各々10μg/mlの濃度、グルコース0.2%及びスペクチノマイシン50μg/mlを補ったM9最少培地でプレーティングすることにより選択した。選択培地上で増殖しているコロニーを精製し、特異的なウサギの抗血清(Diagnostics Pateur)で凝集させることにより志賀赤痢菌1と同定した。
野生型染色体のShiga−毒素遺伝子とShiga−毒素遺伝子をin vitroで突然変異させたものとの間の対立遺伝子交換は、Tox-表現型を発現する志賀赤痢菌1を検出するモノクローナル抗体13C4を使用したコロニーブロットイムノアッセイにより示された。
志賀赤痢菌1細胞のゲノムでのTox-改変の存在は、上記の完全なShiga−毒素オペロンを含有する4.2kb EcoR I断片からのAサブユニット遺伝子の一部とBサブユニット遺伝子全体を含む655bpのHind III−Hinc II断片から作成したプローブで立証された。Ωインターポゾンを含有する上記の2kb Hind III断片もプローブとして使用した(37)。プローブとして使用したDNAは32P−標識5′−dCTP(Amersham)によるニック翻訳(39)で標識した。全DNAは2つのTox-クローンから調製し、Shiga−毒素プローブ及びΩプローブとのハイブリッド形成により分析した。Southernの方法(53)により、DNA断片をアガロースゲルからニトロセルロースフィルター
へ移した。65℃、一晩でハイブリッド形成し、6×SSC中、65℃で洗浄した。プローブは、両方のプローブとハイブリッド形成するTox-変異株では、毒素遺伝子を含有する志賀赤痢菌1からの4.2kb EcoR I断片が6.2kb断片で置換されていることを示していた。この結果から、pHS7203の突然変異した毒素遺伝子の各側に側面を接した領域はSC500ゲノム中のその相手と組換わっており、野生型Aサブユニット遺伝子を変異した遺伝子で置き換えたことを示していた。
これらTox-クローンの1つであるSC501を更に研究するために選択した。クローンSC501は1988年6月30日に受託番号I−774としてCentre Nationale de Cultures de Microorganismes of Institut Pasteur(パリ、フランス)に寄託した。
実施例3…細胞毒性、HeLa細胞内での増殖、マクロファ ージの剥離並びにウサギ結腸係蹄及びサルでの細胞毒性 のアッセイ
SC500及びSC501並びに各々その非侵入性誘導体であるSC502及びSC503(これらは、細胞の侵入に必要な大きな発病性プラスミドpHS7200の自発的治癒(すなわち消失)により得た)を鉄欠乏培地200ml中で48時間増殖させた。ガラス器具は6N HClで予備処理し、鉄を含まない水でよくすすいだ。培地はCaCl215μg/ml、カザミノ酸5mg/ml、グルコース2mg/ml、チアミン50μg/ml、L−トリプトファン20μg/ml、ニコチン酸10μg/ml及びヒトトランスフェリン(Sigma)150μg/mlを補ったM9塩を含有していた。細菌は食塩水で2回洗い、3mlのPBSに再懸濁させた。最終濃度0.2mg/mlでリゾチームを加えた。室温(25℃)で30分間インキュベートした後、EDTA0.5M(pH8)30μlを加え、細胞を氷浴に移し、超音波処理した。超音波処理抽出物をフィルター滅菌し、−20℃で凍結保存した。フィルター滅菌した培養上清及び細胞抽出物を、10%の牛胎児血清(Gibco)を補ったN−グルタミン(Gibco,Paisley,スコットランド,英国)及びEarle塩を有する最少必須培地で増殖させたHeLa細胞への細胞毒性についてアッセイした。マイクロタイタープレート内で細胞培養培地(100μl)を順次希釈した。各ウェルには100μl中に2×104個の細胞を接種した。次に、プレートを5%CO2中、37℃で24時間インキュベートした。ウサギポリクローナル血清及び13C4モノクローナル抗体の両者で中和アッセイを実施した。プレートを光学顕微鏡で調べてからGiemsa染色した。抽出物蛋白質1mg当りの50%細胞毒性用量(CD50)として細胞毒性を計算した。
HeLa細胞内での細菌の増殖をアッセイした(46)。35mmのプラスチック製組織培養皿(Beaton Dickinson Labware,Oxnard,CA,米国)中のHeLa細胞の非融合単一層に、最少必須培地(“MEM",Gibco)2mlに100の感染倍数(“MDI")で再懸濁させた細菌を接種し、2,200×gで10分間遠心分離し、37℃で30分間インキュベートして侵入させた。次に、プレートを、Earle's Blanced Salt Solution(“EBSS",Gibco)で3回洗い、ゲンタマイシン(25μg/ml)を含むMEM2mlで覆った。これを時間0(T0)とした。37℃で1時間インキュベートした後、調製物を再度EBSSで洗い、抗生物質を含まないMEM2mlで覆った(T1)。更に3時間インキュベーションを続けた(T1〜T4)。毎時間、2枚のプレートを取り出した。1枚のプレートはEBSSで3回洗い、Giemsa染色し、感染したHeLa細胞を計算した。もう一方はEBSSで5回洗い、成育しうる細胞外細菌を除去した。細胞をトリプシン処理し、計測し、蒸留水中0.5%のデオキシコール酸ナトリウムで溶解させた。希釈物をTrpticase Soy Agarに載置した。感染HaLa細胞当りの細菌の平均数を計算した。実験は4回繰り返した。細胞内での増殖曲線を書き、指数関数相の傾斜を計算した。
マクロファージの剥離及び殺滅についてのアッセイは、補体不活性化牛胎児血清(Gibco)及び2mMグルタミン(Gibco)を補ったRPMI1640(Flow Laboratories Inc.Mcleau UA,米国)内に保持したJ774マクロファージ(52)を使用して実施した(4)。感染の18時間前に、1ml当り0.5μCiの[3H]ウリジンを含有する培地(Amersham)中で、35mmのプラスチック製組織培養皿(Becton Dickinson Labware)内の7×105個のマクロファージを標識した。MOIが100でのRPMI1460中細菌懸濁液1mlを添加する前に、細胞をEBSSで3回洗った。5%CO2中、37℃で1時間感染させた。次に、単一層をEBSSで3回洗い(T0)、5%CO2下、37℃で、2mMグルタミンとゲンタマイシン25μg/mlを補ったRPMI2mlで1時間覆った(T1)。次に、プレートをEBSSで3回洗い、5%CO2下、37℃で、ゲンタマイシンを含有しないRPMIグルコース内で更に3時間インキュベートした(T1〜T4)。毎時間、2枚のプレートを取り出し、培養物をEBSSで3回洗い、プラスチック表面にまだ接着している細胞中の成育しえないマクロファージの割合をTrypan Blue染色により測定した。次に、皿の中に残留している放射活性量を測定することにより残留しているマクロファージの割合を測定した。蒸留水中0.5%のデオキシコール酸ナトリウム1mlで粘着細胞を溶解し、この溶解物100μlを沈殿させて計量した(4)。
6%のペンタバルビタールナトリウム0.5ml/kgで麻酔した約2kgのウサギで、10cmのウサギ連結結腸係蹄を調製した。
Trypticase Soy Broth 1ml中107及び109個のCFUの接種物をテストした。18時間後にウサギを殺した。係蹄内の液体貯留を記録し、容量と長さとの比(“V/L")を計算した。感染した係蹄の部位を10%緩衝ホルマリン中に固定した。検体を標準法で処理し、ヘマトキシリネオシン−サフラニンで染色した。
体重3.5〜4.5の8匹の赤毛猿に塩酸ケタミン
50mgを筋注した。Trpticase Soy Broth及び14g/lの重炭酸ナトリウム(50/50)20mlに再懸濁させたSC500及びSC501微生物1.5×1011個を各動物の胃の内に接種した。接種物をCongo−red寒天にプレーティングすると、接種物中の細菌の1%以上が侵入特性を失ったことが示された(26)。下痢、膿、粘液及び血液の存在について便を毎日調べた。これらの症状の各々の強度は、毎日、0〜3+で評価した。各動物については、所与の症状の重篤度を、各症状の「+」の合計を表わす指数で表現した。電撃性赤痢で死亡したサルは直ちに培検した。ウサギの組織について上記したと同様に検体を処理した。
結果
細胞毒性アッセイではSM10λpir(pHS7203)は非細胞毒性であった。志賀赤痢金にpHS7203を抱合的に移した後、AmpSSpcR表現型を示すクローンをコロニーイムノブロットアッセイでテストした。5%がTox-の表現型を示した。SC501は347CD50/蛋白質mgの細胞毒性を示し、この値は良く知られている大腸菌K12の値(412CD50/mg)と同程度であった。SC501由来の残りの細胞毒性は抗Shiga毒素ポリクローナル抗体で中和できなかった。
野生型菌株SC500の指数増殖率(世代/時間)は2.5±0.6であるのに対し、菌株SC501中のTox-変異株の指数増殖率は2.6±0.7であることから、菌株SC501中のTox-変異株の存在によりHeLa細胞内でのその増殖能が顕著に変化することはなかった。更に、SC500及びSC501によるJ774マクロファージの急速な殺滅の有効性でも顕著な差は認められなかった。細胞の剥離及びTrypan Blue陽性細胞の出現の両者が4時間に亘り同様な速度で進み、従って、感染細胞内に放出されたShiga−毒素は細胞内増殖速度に顕著に影響することも、宿主細胞の迅速な殺滅を増加させることもないことが示された。
ウサギの連結係蹄モデルでの志賀赤痢菌の病因性に対するInv-及びTox-変異の作用を係蹄内での液体産生に対する作用によって測定した。各菌株についての6つの係蹄に2種の接種物(すなわち109及び107CFU)のいずれかで得た結果から算出をして平均及び標準偏差を得た。侵入性菌株(すなわち、SC500、Inv+、Tox+及びSC501、Inv-、Tox-)の両方の接種物では、Shiga毒素の産生がなくなると液体の貯留は減少したが、差異は統計的に有意ではなく、侵入とそれに続く炎症が液体貯留の第一の原因であることを示している。非侵入性菌株(すなわち、SC503、Tox+及びSC502、Tox-)については、Shiga−毒素を産生する菌株のみが液体貯留を誘発したことから大きな差異が認められた。このことは、疾患の間でこのエンテロトキシンがどのような役割を果すにしても、ウサギのモデルではShiga−毒素が志賀赤痢菌1の唯一のエンテロトキシンであることを示していた。組織病理学的研究により、SC500又はSC501による接種物のいずれでも多くの絨毛を破壊している腫瘍及び潰瘍を含む重篤な病巣が示された。一般に、野生型菌株に感染した係蹄での病変がより重篤であったが、差が小さかったとの観察は侵入が病原性の主要因子であることを示した。
非侵入性Tox+株であるSC502に感染した係蹄は、絨毛の膨潤及び短縮、固有層の浮腫及び炎症、杯細胞から分泌される大量の粘液による上皮細胞の変化並びに核濃縮した核による殺滅腸細胞部分を伴い重篤に変化した。しかしながら、最も大きな特徴は上皮層全体に亘る出血であった。
志賀赤痢菌1の病原性についてのTox-変異の影響をサルで示した。SC500注射群及びSC501の注射群の両群で4日目に電撃性赤痢により2匹のサルが死亡し、各群は、Shiga−毒素は致死的な赤痢に必要ではないことを示していた。膿及び粘液の量を正確に定量することは困難であるが、下痢便の容量並びに膿及び粘液の量に顕著な差は認められなかった。一方、SC500に感染した動物での異常便では血液の存在は不変の特徴であったが、SC501に感染した動物では一匹のみで微量の血液が一時的に見られただけであった。動物の死亡直後に実施した剖検は結腸腹膜中皮で明白な違いを示した。結腸腹膜中皮は、SC500に感染した動物の場合のみでパッチ状の出血部分が観察されうるS状表面で特に明らかであった。平均すると、腫瘍の数や重症度は同様であったが、リーベルキューン腺での破壊を伴う粘膜の化膿性壊死はSC500に感染した動物でのみ部分的に認められた。絨毛膜、粘膜下組織及び腹膜の炎症性浸潤もこれらの動物でより重篤であった。更に、SC501に比しSC500に感染した動物に特徴的である腹膜中皮の炎症性浸潤は主として血管周囲のものであり、従って、重篤な腹膜脈管炎の存在を示唆する肉眼的検査を確認した。しかしながら、顆粒細胞内絨毛膜内の毛細管循環のレベルで最も大きな差が観察された。SC500で感染したサルでは粘膜の上部構造を破壊する出血が認められた。上皮内膜を局所的に損傷している微細な膿瘍を介して赤血球が小腸管腔内に拡散しているのが観察できた。これらの出血は明らかに毛細管係蹄の破壊によるものである。一方、SC501に感染したサルは毛細管係蹄の拡張は示すが、破壊は示さなかった。感染前及び感染後3日目に実施した白血球数の計測は以下のように示した:0日目には、多形核白血球(“PMN")数には有意差はなく、骨髄増加はなかった;3日目には、血液PMNの低下及び骨髄増加の程度の各々はSC500に感染したサルでより明らかであった。
結論
ヒトにおける状況証拠はShiga−毒素が真の病原性要素であるという仮説を支持している。志賀赤痢菌1の侵入性で毒素産生が低い、塩素酸塩耐性変異株の菌株725を摂取した志願者は、野生株M131を摂取した者より重症度の低い症状を示した(25)。自然に感染した患者では、志賀赤痢菌1に感染したときには他の血清型の赤痢菌に感染したときより、HUSを含めより重篤な症状となるのが普通である(7)。これらは毒素中和抗体を速やかに発達させる(18)。
志賀赤痢菌1のTox-変異株であるSC501は大腸菌K12と同様の残留量の細胞毒素を産生することが示されている。この変異株は志賀赤痢菌1の病原性におけるこのSh iga−毒素の役割を調べるための研究に使用されてきている。細胞アッセイ及びより確実な動物モデルが使用されている。
HeLa細胞や単一層内のJ774マクロファージを使用するアッセイは、以前の研究(46)がフレクスナー赤痢菌でのSLTについて示唆しているように、Shiga−毒素の分泌は感染細胞内での指数増殖速度には影響しないことで示した。これらの結果は、SC501に変異株及び2つの他の毒素産生の低い変異株(25,48)が、上皮内での細菌の増殖能に相関することが知られている角結膜炎に影響を与えない(49)という観察と一致している。又、以前に示唆されているように(4,12)、Shiga−毒素の産生と宿主細胞の早期殺滅との間には相関関係が観察されなかった。このようなデータは実際の感染により類似しているアッセイで確認することが必要であるが、Shiga−毒素が感染の細胞内段階では主要な役割を果していないことを明示している。侵入が、Shiga−毒素のゆっくりと作用する過程(12)よりもより速く宿主細胞の殺滅を仲介する早期の代謝の引き金になるように思われる。
ウサギの連結した小腸係蹄の感染では、SC500及びSC501接種物の両者で、18時間後の粘膜病変の重症度がわずかしか違わないことを示していた。しかしながら、露出の時間や係蹄の閉塞が細胞毒素産生の作用を隠し、侵入を第一のものとしているのかもしれない。腸毒性に関する結果は侵入性細菌の場合に分析がより困難であった。それは、産生された液体の量が、Tox-変異株の両方の接種物でより少かったが、野生菌株により分泌されたものと有意には異ってはいなかったからである。このことは、上皮の再吸収機能を阻止するには組織への侵入で十分であることを示していた。一方、非侵入性のTox+及びTox-変異株の間で観察された大きな違いは、ウサギモデルの感受性の限度内ではShiga−毒素が志賀赤痢菌1の唯一のエンテロトキシンであることを示している。このことは以前の研究(16,17,33)とも一致する。しかし、Inv+及びInv-の変異株での液体貯留を観察すると、産生された液体の性質は感染している菌株によって異なっている。侵入性菌株は、産生されたShiga−毒素の量とは無関係に、管腔内で潰瘍化した膿瘍の程度を反映しているであろう粘性で粘膜病原性で、時には血液を含む液体の産生を誘発するが、非侵入性のTox+菌株は腸毒性や細胞毒性をより反映している水様で時には血液を含む液体を産生する。Inv-,Tox+変異株であるSC502に感染した係蹄からの組織サンプルを組織病理学的に研究すると、固有層の重大な炎症性浸潤及び主として短かくなった絨毛の先端での重大な変化を示していた。このことによりin vivoでの腸細胞に対するShiga−毒素の細胞毒性が確認される(27)。しかし、最も大きな特徴は、大量の粘液と共に管腔内に流れ出てくる赤血球による上皮内膜の浸潤であった。大きな血管変化が固有層内で起っていることを示すこの観察は次にサルのモデルでも確認された。
赤毛猿の胃内にSC500及びSC501を接種すると、Shiga−毒素産生とは無関係に致死的な電撃性赤痢が発生しうることを示した。下痢及び便内の膿や粘液の量には顕著の差は認められなかった。水様の下痢が存在しなかったこと及び便の量が等しかったことは、Shiga−毒素による空腸分泌増加を示唆する以前の研究(41)とは一致しなかった。唯一の大きな違いは、野生型菌株に感染した動物の赤痢の便には血液が存在していたことであった。最近の論文は、赤痢患者の中で、より細胞毒性の高い菌株を排出する患者の便に血液が存在する傾向が強いことを報告していた(36)。組織病理学的観察により、S状結腸で特に特徴的に現れる血管損傷が存在することが確認された。これは、野生型菌株に感染したサルでは絨毛膜内の毛細管係蹄の全面的破壊が見られたのに対し、Tox-変異株に感染した動物の血管系では膨満しているがほとんど無傷の血管を示したからであった。このことにより前者の群での血便の存在が確かに説明される。更に、腹膜中皮の観察は浮腫と重篤な炎症性脈管炎を示していた。このように、組織内に細菌が侵入してShiga−毒素を放出すると、絨毛膜血流を破壊し、腹膜そして恐らく腸間膜の循環を変更させることによって局所的な虚血が生じ、そのために粘膜の病変の重症度が局所的に高まる。疾患のこの段階では腎臓の組織観察は毛細管の脈管炎の証拠を示していなかった(データは示していない)ため、この作用は局所的又は局部的であると思われる。このような血管の変性は、虚血性大腸炎の放射線学的側面について述べている(34)大腸菌0157:H7(40)による出血性大腸炎での観察と一致しうる。これらの菌株は内皮細胞の分化に対し直接的細胞病原性作用を有するSLT1(31)を大量に産生する(15)。
Tox+及びTox-の菌株で感染させた動物の間で観察されたもう1つの違いは粘膜の炎症とそれに続く膿瘍の重症度であった。S状結腸及び横行結腸の多くの部分では病変は同様の強度であったが、SC500に感染した動物のみで粘膜組織が非常に膿状破壊されている部分があった。
化膿性滲出がより強度であることは、感染3日目での血液PMNのより劇的な低下とそれに続く骨髄増多に反映されていた。赤痢の間には、骨髄及び血管区分(compartment)の他に第三のPMN区分が結腸レベルで開いていると信じられている。滲出及び粘膜組織内へのPMNの直接放出を増加させる血管の変化を通して、この新しい区分内にとらえられているPMNの数をShiga−毒素が増加させることが予期されている。このことが、野生型菌株に感染した動物で認められる急速で重篤な顆粒球減少、及び重篤な赤痢の間に時として観察される白血病様反応に相当しうるそれに引き続くより激しい骨髄増多を説明しよう。このようなモデルはShiga−毒素の全身作用を仮定するものではない。
従って、上記の結果は、Shiga−毒素は上皮細胞及び食細胞内で細胞内に放出されたときには限定的な役割しか果していないことを示唆している。しかしながら、感染細胞内に放出されたShiga−毒素は主として腸血管の損傷を介して作用すると思われる。
実施例4
実施例2の手順を使用して、SC501のエンテロケリンをコードするオペロンをin vitroで突然変異させてSC501を遺伝子操作する。使用する自殺プラスミドベクターpJM703.1は志賀赤痢菌1のエンテロケリンオペロンを含有しており、そのent F、FepE、FepC及びFepDサブユニットの各々は除草剤Biolafosに対する耐性をコードするインターポゾンと除草剤耐性遺伝子の好適プロモータで突然変異させていた。得られたクローンSC504はTox-及びエンテロケリン−(″Ent-″)である。
実施例5
実施例2の手順を使用して、SC504のics A遺伝子をin vitroで突然変異させてSC504を遺伝子操作する。使用した自殺プラスミドベクターpJM703.1はフレクスナー赤痢菌のics A遺伝子を含有しており(60,61)、これはインターポゾンで突然変異させていた。得られたクローンSC505はTox-,Ent-及びics A-であり、志賀赤痢菌1に対するワクチンの製造に使用できる。
実施例6
実施例2の手順を使用して、野生型のフレクスナー赤痢菌のエアロバクチンをコードする遺伝子及びics A遺伝子を突然変異させてこの菌株を遺伝子操作する。使用した自殺プラスミドベクターは各々インターポゾンで突然変異させてあるフレクスナー赤痢菌のエアロバクチン及びics A遺伝子を含有している。得られたクローンSC506はエアロバクチン−及びics A-でありフレクスナー赤痢菌に対するワクチンの製造に使用できる。
実施例7
実施例1,2及び4の手順を使用して、SC500菌株の志賀赤痢菌由来のDNA断片中のShiga−毒素オペロンのAサブユニット遺伝子内で、唯一のHpa1部位から出発し、400塩基対Bal31を欠損させる。得られた断片をpBR322のP1プロモータを含有する257塩基対断片と再連結させてBサブユニット蛋白質を高度に発現させる。突然変異させた毒素A遺伝子を含有するこの断片を、大腸菌lacプロモータとカナマイシン耐性遺伝子の制御下で起源の複製を含有する条件自殺ベクターにクローニングする。志賀赤痢菌1中で、このベクターは培地内にIPTGが存在するときにのみ複製するであろう。突然変異させたAサブユニット遺伝子から上流に水銀耐性カートリッジ(65)を挿入する。得られたプラスミドを、IPTGの存在下で、野生型志賀赤痢菌1株SC500に形質転換する。得られた赤痢菌クローンのコロニーはHg及びカナマイシン耐性である。この赤痢菌クローンをIPTGなしに数世代に亘り増殖させる。次に、培養物をHg−耐性でカナマイシン−感受性のクローンの存在に関してスクリーニングする。3つのクローンを単離し、更に特徴化する。サザン法により、それらのクローンはもうAサブユニット遺伝子の内部プローブとはハイブリッドを形成しないが、モノクローナル抗体による分析から明らかなようにBサブユニット蛋白質はまだ生成し、もう細胞毒性ではないことが示される。
同じ手順を使用して、このToxA-クローンのエンテロケリンをコードするオペロンをin vitroで突然変異させてこのクローンを遺伝子操作する。使用する自殺プラスミドベクターは大腸菌(66)のエンテロケリンオペロンを含有しており、そのent F,FepE,FepC及びFepDサブユニット遺伝子は制限部位に顕著な欠損を有し、そこには亜ヒ酸塩耐性をコードする断片(62)と亜ヒ酸塩耐性遺伝子の好適プロモータが挿入されている。得られたクローンはToxA-及びEnt-である。
同じ手順を使用して、このToxA-及びEnt-のクローンのics A遺伝子をin vitroで突然変異させて、このクローンを遺伝子操作する。使用した自殺プラスミドベクターはフレクスナー赤痢菌のics A遺伝子(60,61)を含有しており、制限部位で顕著な欠損があり、カドミウム耐性をコードする断片(63,64)とカドミウム耐性遺伝子の好適なプロモータが挿入されている。得られたToxA-及びEnt-,ics A-の志賀赤痢菌1クローンの特徴はその侵入性が著しく低下していることであり、そのために、志賀赤痢菌1に対するヒト用ワクチンの作成に好適なものとなる。
本発明及び本発明に付随する利点の多くは以上説明より明らかであり、本発明の精神又は範囲から離れることなく或いはその物質の利点の全てを犠牲にすることなく上記方法及びワクチンについて変更しうるものであり、上記の実施態様は単に好ましい実施態様であることは明らかであるものと信じている。
上記に引用した参考文献は次の通りである。
Claims (3)
- Tox−、Inv−赤痢菌であって、野生株のShiga−毒素遺伝子を除去あるいは永久的に不活性化することによって該野生株からTox−赤痢菌を作製し、その後に、該Tox−赤痢菌の大きな発病性プラスミドpHS7200が自発的治癒することによって得られたことを特徴とする前記Tox−、Inv−赤痢菌。
- In vitroで突然変異させた遺伝子と対立遺伝子変換することによってTox−赤痢菌を作製することを特徴とする請求項1に記載のTox−、Inv−赤痢菌。
- 請求項1または2に記載の赤痢菌から製造したワクチン。
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