JP3606488B2 - 固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、摩擦係数が小さく潤滑性能に優れ、耐用寿命の長い歯車(平歯車やはすば歯車などの歯車のほか、ウオーム,ウオームホイール,ピニオン,ラックなどの歯形を有するものを総称してここでは言う。)を製造する技術分野に係わり、とくに、固体潤滑剤を塗布したのち焼成して製造する歯車においてその製造途中における固体潤滑剤の塗布面を平滑化するのに好適な固体潤滑剤塗布歯車の歯面平滑化方法に関するものである。
【0002】
【発明が解決しようとする課題】
歯車の潤滑性能を向上させるために、油やグリースなどの油脂類を歯車の歯面に塗布するほか、MoS2,WS2,黒鉛(グラファイト)などの固体潤滑剤からなる潤滑膜を歯車の歯面に形成させる場合もある。
【0003】
例えば、固体潤滑剤としてMoS2を用い、樹脂バインダーとしてポリアミドイミド樹脂を用いたラテックス状の塗料を歯車の歯面に塗布したあと、乾燥して馬毛ブラシを用いたブラッシングを行うことによって鱗片状のMoS2を一方向(C軸方向)に並べ、その後樹脂の焼成・硬化を行うことによって、歯面における摩擦係数を低下させ、潤滑性能を向上させて歯車の耐用寿命を長くする方法がある。
【0004】
しかしながら、上記のごとく馬毛ブラシを用いたブラッシングでは、歯面のうちピッチ点部分においてはある程度良好なるブラッシングが行えるものの、歯底部付近においてはブラッシングがほとんどかからないため、歯底部付近の表面は凹凸形態をなし、膜厚も不均一なものとなることから、焼成後に歯車を使用した場合に、耐用寿命がひまひとつ向上しないという課題があった。
【0005】
したがって、本発明は、歯面に固体潤滑剤を含む潤滑膜を形成した歯車において、潤滑膜が歯底部付近まで平滑化されたものとすることによって、その耐用寿命をさらに向上させることができるようにすることを目的としている。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明に係わる固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化方法は、請求項1に記載しているように、固体潤滑剤を塗布した歯車においてその固体潤滑剤塗布面を平滑化するに際し、固体潤滑剤塗布歯車に対して、この固体潤滑剤塗布歯車とモジュールが同じで且つ歯数が1ないしはそれ以上異なる表面平滑化用歯車をかみ合わせるようにしたことを特徴としている。
【0007】
そして、本発明に係わる固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化方法の実施態様においては、請求項2に記載しているように、表面平滑化用歯車は少なくともそのかみ合い面がフッ素樹脂で形成されているものとすることができる。
【0008】
同じく本発明に係わる固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化方法の実施態様においては、請求項3に記載しているように、主要固体潤滑剤成分は鱗片状のMoS2であるものとすることができ、また、請求項4に記載しているように、表面平滑化後の固体潤滑剤の塗膜厚さを3〜25μmとするようになすことができる。
【0009】
同じく本発明に係わる固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化方法の実施態様においては、請求項5に記載しているように、塗膜中に50〜95体積%の樹脂バインダーを含ませているものとすることができる。
【0010】
【発明の実施の形態】
図1および図2は本発明による固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化方法の実施の形態を示すものであって、歯車粗材表面の脱脂をトリクレン蒸気などにより行ったのち、アルミナ粉末などを吹き付けるブラスティングによるサンドブラストを行い、その後圧縮空気などを噴出させて脱砂する。
【0011】
次に、歯車粗材を例えば50〜60℃に予熱したのち、固体潤滑剤と樹脂バインダーと溶剤(水,アルコールなど)とその他必要ならば適宜の助剤成分を含む塗料を刷毛やスプレーガンなどによって歯車粗材表面に塗布する。
【0012】
この場合、塗料中の樹脂バインダーの量は50〜95体積%とするのが好ましく、樹脂バインダー量が少ないと固体潤滑剤の量が多くなることにより焼成・硬化後の潤滑膜の可撓性が小さくなって衝撃値の低い潤滑膜となる傾向となり、樹脂バインダー量が多いと衝撃値は向上するものの固体潤滑剤の量が少なくなって摩擦係数が増大し、潤滑性能が低下して歯車の耐用寿命が短かくなる傾向となる。
【0013】
歯車粗材表面に塗料を塗布したのち乾燥(例えば、80℃×30分)を行うことによって、固体潤滑剤塗布歯車としたのち、図2にも示すように、この固体潤滑剤塗布歯車1と表面平滑化用歯車2とをかみ合わせて、固体潤滑剤塗布歯車1の固体潤滑剤塗布面の表面平滑化を行う。
【0014】
ここで、表面平滑化用歯車2としては、固体潤滑剤塗布面の鱗片状(例えば、10μmφ×1μmt以下の鱗片状)固体潤滑剤塗布面の表面平滑化が良好になされるように、固体潤滑剤塗布歯車と同じモジュールを持つものを用いるのがよい。
【0015】
また、歯数(ピッチ)が同じ歯車を用いた場合には、歯車が1回転したあとには再び同じ歯と歯とがかみ合うこととなるので、例えば、歯数を1だけ異ならせることによって歯車が1回転したあとは先の歯の隣の歯とかみ合うようにすれば、歯面同士の当たりが総当たりとなることによって、固体潤滑剤塗布面の平滑化が各歯面にわたって平均化してなされることとなるので、歯面の摩擦係数が歯毎に近似するものとなって歯車の潤滑性能がバランス良く向上するものとなる。
【0016】
次いで、膜厚測定を行い、膜厚過多であるときには例えば溶剤中での超音波洗浄を行うことによって塗膜を除去し、予熱を行ったあと再度塗布を行う。
【0017】
他方、膜厚不足であるときには、イソプロピルアルコール等により表面洗浄を行ったのち再塗布を行い、その後乾燥する。
【0018】
そして、膜厚が適切である場合には、オーブン加熱(例えば、温度:160〜180℃,時間:60分程度)や、紫外線照射(例えば、紫外線照射量:60J/cm2以上)によって樹脂バインダーの焼成を行って硬化させる。
【0019】
【発明の作用】
本発明に係わる固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化方法は、請求項1に記載しているように、固体潤滑剤を塗布した歯車においてその固体潤滑剤塗布面を平滑化するに際し、固体潤滑剤塗布歯車に対して、この固体潤滑剤塗布歯車とモジュールが同じで且つ歯数が1ないしはそれ以上異なる表面平滑化用歯車をかみ合わせるようにしたから、従来のごとく馬毛ブラシを用いてブラッシングを行った場合に歯底部付近の表面平滑化が十分でなかったのに対して、表面平滑化用歯車の歯先部分が固体潤滑剤塗布歯車の歯底部付近を摺動押圧することによって、歯車の歯底部付近を含めたほぼ全歯面において固体潤滑剤塗布面の平滑化が良好になされることとなる。
【0020】
加えて、固体潤滑剤塗布歯車を表面平滑化用歯車にかみ合わせて回転させると、1回転したあとでかみ合う歯が1回転前にかみ合った歯と異なるものになるため、固体潤滑剤塗布面の表面平滑化が平均化してなされるようになり、歯車の回転方向での潤滑性能のばらつきは小さいものとなる。
【0021】
また、請求項2に記載しているように、表面平滑化用歯車は少なくともそのかみ合い面がPTFE,PFA,FEPなどのフッ素樹脂で形成されているものとすることによって、フッ素樹脂のもつ低摩擦性および非粘着性が十分に活用されて、固体潤滑剤塗布歯車に塗布された固体潤滑剤が表面平滑化用歯車に移るのが防止されることとなり、表面が平滑化された潤滑膜の形成が良好になされることとなる。
【0022】
さらに、請求項3に記載しているように、主要固体潤滑剤成分は鱗片状のMoS2であるようになすことによって、摩擦係数の低い潤滑膜が得られることとなり、このMoS2のほかにはWS2,黒鉛その他の固体潤滑剤の適用もなしうる。
【0023】
さらにまた、請求項4に記載しているように、表面平滑化後の固体潤滑剤の塗膜厚さを3〜25μmとするようになすことによって、良好なる潤滑性能が得られることとなり、膜厚が3μmよりも少ないときには良好なる潤滑性能が得がたい傾向となり、膜厚が25μmよりも大きいときには剥離などの不具合を生じる可能性がでてくる傾向となる。
【0024】
さらにまた、請求項5に記載しているように、塗膜中に50〜95体積%の樹脂バインダーを含ませているものとすることによって、摩擦係数が低いと共に衝撃値も良好な潤滑膜が歯面に形成されることとなり、樹脂バインダーの含有量が少ないと、固体潤滑剤が相対的に多くなって摩擦係数は低くなるものの潤滑膜の衝撃値が低下する傾向となり、樹脂バインダーの量が多くなると可撓性がさらに向上して衝撃値は上昇するものの固体潤滑剤が相対的に少なくなって摩擦係数は増大する傾向となる。したがって、宇宙環境のような衝撃の比較的少ない用途には樹脂バインダーを50〜70体積%程度とし、自動車のような衝撃の比較的多い用途では樹脂バインダーを70〜95体積%程度とすることも場合によっては望ましい。
【0025】
【実施例】
歯車粗材としてマルテンサイト系ステンレス鋼であるSUS 440C製のもの(モジュール:1,歯数:40)を用い、トリクレン蒸気により脱脂を行ったあと、#220アルミナ粉末を用いてサンドブラストを行い、その後圧縮空気を吹き付けて脱砂を行った。
【0026】
次いで、歯車粗材を50℃程度に予熱した(この後に固体潤滑剤を含む塗料の塗布を行ったあとの乾燥が速くなり、塗膜にはひび割れが生じがたくなる。)あと塗料のスプレー塗布を行った。ここで用いた塗料は、鱗片状(約10μmφ×1μmt以下のもの)をなすMoS2鉱物粉末に樹脂バインダーとしてポリアミドイミド樹脂を55体積%混合し、溶剤(水)の中に分散させてラテックス状としたものとした。また、このスプレー塗布の間には、歯車粗材を20rpm程度の低速で回転させながら行った。
【0027】
次いで、80℃に加熱して30分間乾燥したあと、図2に示したように、この固体潤滑剤塗布歯車1と表面平滑化用歯車(モジュール:1,歯数:20)とをかみ合わせて3回転させることによって、固体潤滑剤塗布歯車1の固体潤滑剤塗布面の表面平滑化を行った。そして、この後膜厚の測定を行ったところ、およそ10μmであった。
【0028】
続いて、温度:190℃,時間:50分のオーブン加熱を行うことによって、樹脂バインダーを焼成・硬化させることにより、表面に固体潤滑膜が形成された歯車を得た。
【0029】
次いで、ここで得られた固体潤滑膜形成歯車の歯面を観察したところ、図3に示す結果であった。
【0030】
図3(A)に示すように、歯車のピッチ点付近において表面が良好に平滑化されたものとなっており、図4(A)に示す従来の馬毛ブラシを用いたブラッシングで歯車のピッチ点付近の表面が平滑化されたものに比べてもそん色のない良好なる表面平滑化が実現されていることが認められた。
【0031】
また、図3(B)に示すように、歯車の歯底部付近においても表面が良好に平滑化されたものとなっており、図4(B)に示す従来の馬毛ブラシを用いたブラッシングでは歯車の歯底部付近の表面がほとんど平滑化されていないのに比べて、良好なる歯底部近傍の表面平滑化が実現されていることが認められた。
【0032】
したがって、図3(C)に示すように表面平滑化される領域A3が歯底部付近まで延長されたものとなっており、図4(C)に示す従来の表面平滑化される領域A4に比べて歯底部付近にまで拡大させることが可能であることが確かめられた。
【0033】
次に、図5に示す動力循環式歯車試験機を用いて歯車の性能試験を行った。なお、図5において、11は真空槽、12は駆動モータ、13は磁性流体シール、14はカウンターウエイト、15はねじりコイルばね、16はロードセルである。
【0034】
そして、上記動力循環式歯車試験機に、上記固体潤滑膜形成歯車(モジュール:1,歯数:40)と評価用歯車(モジュール:1,歯数:39)とをかみ合わせて駆動モータ12を作動させることによって歯車試験を開始し、摺動開始時の摩擦係数をロードセル16により調べた。この結果を図6に示す。
【0035】
図6に示すように、歯車のかみ合いによって固体潤滑剤塗布面を平滑化した本発明例の場合には、馬毛ブラシによって固体潤滑剤塗布面を平滑化した従来例の場合に比べて、摺動開始時の摩擦係数を小さくすることが可能であった。
【0036】
また、摩擦係数が0.3を超えるまでの摺動回数を調べたところ、図7に示す結果であった。
【0037】
図7に示すように、馬毛ブラシによって固体潤滑剤塗布面を平滑化した従来例の場合には、摩擦係数が0.3を超えるまでの摺動回数が104回前後であったのに対して、歯車のかみ合いによって固体潤滑剤塗布面を平滑化した本発明例の場合には、摩擦係数が0.3を超えるまでの摺動回数が107前後となっており、歯車の耐用寿命を著しく向上させることが可能であることが認められた。
【0038】
【発明の効果】
本発明に係わる固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化方法は、請求項1に記載しているように、上記した構成としたから、従来のごとく馬毛ブラシを用いてブラッシングを行った場合に歯底部付近の表面平滑化が十分でなかったのに対して、表面平滑化用歯車の歯先部分を固体潤滑剤塗布歯車の歯底部付近に摺動押圧させることが可能となって、歯車の歯底部付近を含めたほぼ全歯面において固体潤滑剤塗布面の平滑化を良好に行うことが可能になるという著しく優れた効果がもたらされる。
【0039】
加えて、固体潤滑剤塗布歯車を表面平滑化用歯車にかみ合わせて回転させることで、1回転したあとでかみ合う歯を1回転前にかみ合った歯と異なるものとすることが可能であるため、固体潤滑剤塗布面の表面平滑化を平均化してなすことが可能となり、歯車の回転方向での潤滑性能のばらつきを小さいものにすることが可能になるという著しく優れた効果がもたらされる。
【0040】
また、請求項2に記載しているように、表面平滑化用歯車は少なくともそのかみ合い面がPTFE,PFA,FEPなどのフッ素樹脂で形成されているものとすることによって、フッ素樹脂のもつ低摩擦性および非粘着性を十分に活用することが可能となって、固体潤滑剤塗布歯車に塗布された固体潤滑剤が表面平滑化用歯車に移るのを防止することが可能となり、表面が平滑化された潤滑膜の形成を良好にすることが可能になるという著しく優れた効果がもたらされる。
【0041】
さらに、請求項3に記載しているように、主要固体潤滑剤成分は鱗片状のMoS2であるようになすことによって、摩擦係数の低い潤滑膜を得ることが可能であるという著しく優れた効果がもたらされる。
【0042】
さらにまた、請求項4に記載しているように、表面平滑化後の固体潤滑剤の塗膜厚さを3〜25μmとするようになすことによって、良好なる潤滑性能を得ることが可能であるという著しく優れた効果がもたらされる。
【0043】
さらにまた、請求項5に記載しているように、塗膜中に50〜95体積%の樹脂バインダーを含ませているものとすることによって、摩擦係数が低いと共に衝撃値も良好な潤滑膜を歯面に形成することが可能になるという著しく優れた効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化方法を含む歯車の表面潤滑膜形成工程を例示する説明図である。
【図2】図1に示す工程のうち固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化工程を示す説明図である。
【図3】歯車のかみ合いにより固体潤滑剤塗布面を平滑化したあと焼成・硬化した歯車のピッチ点付近(図3の(A))および歯底部近傍(図3の(B))のMoS2焼成膜形態を示す顕微鏡写真ならびに固体潤滑剤塗布面の平滑化領域(図3の(C)におけるA3)を示す説明図である。
【図4】馬毛ブラシを用いたブラッシングにより固体潤滑剤塗布面を平滑化したあと焼成・硬化した歯車のピッチ点付近(図4の(A))および歯底部近傍(図4の(B))のMoS2焼成膜形態を示す顕微鏡写真ならびに固体潤滑剤塗布面の平滑化領域(図4の(C)におけるA4)を示す説明図である。
【図5】動力循環式歯車試験機の要部構成を示す説明図である。
【図6】動力循環式歯車試験による摺動開始時の摩擦係数を調べた結果を例示するグラフである。
【図7】動力循環式歯車試験により評価した摩擦係数が0.3を超えるまでの摺動回数を例示するグラフである。
【符号の説明】
1 固体潤滑剤塗布歯車
2 表面平滑化用歯車
Claims (5)
- 固体潤滑剤を塗布した歯車においてその固体潤滑剤塗布面を平滑化するに際し、固体潤滑剤塗布歯車に対して、この固体潤滑剤塗布歯車とモジュールが同じで且つ歯数が1ないしはそれ以上異なる表面平滑化用歯車をかみ合わせることを特徴とする固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化方法。
- 表面平滑化用歯車は少なくともそのかみ合い面がフッ素樹脂で形成されている請求項1に記載の固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化方法。
- 主要固体潤滑剤成分は鱗片状のMoS2である請求項1または2に記載の固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化方法。
- 表面平滑化後の固体潤滑剤の塗膜厚さを3〜25μmとする請求項1ないし3のいずれかに記載の固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化方法。
- 塗膜中に50〜95体積%の樹脂バインダーを含ませている請求項1ないし4のいずれかに記載の固体潤滑剤塗布歯車の表面平滑化方法。
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