JP3606212B2 - コールドピルガーミル用ロールダイスの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、金属管の冷間圧延に用いられるコールドピルガーミル用ロールダイスの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属管を冷間加工により製造する方法として、コールドピルガーミルによる冷間圧延法が知られている。図1はコールドピルガーミルの要部の一例を示す斜視図であり、図2は圧延方法を説明するための図で、ロールダイスの孔型を展開して示す図である。
【0003】
図1において、コールドピルガーミルは、上下1対のロールダイス10を備えている。このロールダイス10は、その周面に孔型11が形成され、軸心に設けられた図示を省略した回転軸により、ロールスタンド20に支持されている。回転軸の一端には、回転径(P.C.D)がロールダイス10の外径より若干小さいピニオンギア21が、水平なラックギア22に噛み合った状態で設けられている。
【0004】
ロールスタンド20は、図示を省略したコネクティングロッドの駆動により矢印イ方向に往復移動する。これに伴い、ロールダイス10は、矢印イ方向に往復移動するとともに、この往復移動の間に矢印ロ方向に往復回転する。
【0005】
ロールダイス10の周面に形成された孔型11は、加工部11a、成形部11b、逃げ部11cおよび逃げ部11dにより構成される。
【0006】
加工部11aは、断面形状が長径側を孔型の幅方向とする略楕円形のほぼ半分からなり、図2に示す加工開始点aから加工終了点bに向かって径(深さ)が連続的に小さくなる。成形部11bは、断面形状が略真円のほぼ半分からなり、加工終了点bから成形終了点cまで径(深さ)が等しい。逃げ部11cは、成形部11bの下死点Sb側に形成され、逃げ部11dは、加工部11aより上死点Sa側に形成されている。なお、図2における孔型の底11eは、ロールダイス10が上死点Saと下死点Sbの間を往復移動(往復回転)する間の、孔型11を展開して示したときの前記孔型11の底を示す。
【0007】
上下一対のロールダイス10、10の間には、マンドレル30が設けられている。マンドレル30は、先端に向かって外径が小さくなるテーパ部31とテーパ部31の小径側に続いて形成された等径部32とを備え、テーパ部31および等径部32を、孔型11の加工部11aおよび成形部11bの移動領域に対向させて配置されている。
【0008】
以上のように構成されたピルガーミルにより管Pを圧延する際は、ロールスタンド20を往復移動させ、孔型11の逃げ部11dの領域、または逃げ部11dと逃げ部11cの領域で、管Pを図2の左側からマンドレル30に沿って所定長さ送るとともに管軸廻りに所定角度回転させる。この操作により管Pは、その先端から、ロールダイス10に設けられた孔型11の加工部11aと、マンドレル30のテーパー部31との間で縮径減肉加工され、その後孔型11の成形部11bとマンドレル30の等径部32とにより成形される。圧延中は、管Pとロールダイス10およびマンドレル30との間の潤滑のために、潤滑油が用いられる。
【0009】
なお、このピルガーミルによる管の圧延では、下記▲1▼式に規定される減面率Yが75%以上の高加工度で行われる。
【0010】
Y=((X0−X1)/X0)×100・・▲1▼式
ただし、 X0:加工前の管の断面積
X1 :加工後の管の断面積
このようなコールドピルガーミルに用いられるロールダイスは、その寿命の点から次のような性質が要求される。
【0011】
(1)耐摩耗性と耐焼き付き性
ロールダイスに設けられた孔型の加工部は、前記のように、断面形状が、長径側を孔型の幅方向とする略楕円形のほぼ半分で、ロールダイスの周方向に径(深さ)が連続的に変化する。このように孔型の径(深さ)が変化するロールダイスを、一定の回転径のピニオンギアにより回転させて管を圧延すると、ロールダイスの周方向各位置において孔型の底の周速度が異なる。また、孔型の1断面においても孔型表面の各位置における周速度が異なる。そのため、孔型のほとんどの部分には、圧延される管との間にスリップが生じ、スリップが生じた部分が摩耗するおそれがある。したがって、スリップによる摩耗を防止するための耐摩耗性が要求される。
【0012】
このスリップの程度は孔型の位置で異なり、摩耗が生じた場合は、スリップの程度に応じて摩耗量が異なるため、孔型の寸法管理の点からも耐摩耗性が要求される。また、摩耗により焼き付きが発生することがあるため、耐焼き付き性も要求される。
【0013】
(2)硬さ
ピルガーミルによる管の圧延では、加工度(減面率)が極めて高い。そのため、圧延中の管は加工硬化し、加工硬化した管を圧延する孔型には高い面圧が生じる。この高い面圧に耐えるための適度の硬さが要求される。
【0014】
(3)靱性
ピルガーミルによる管の圧延は、前記のように、ロールダイスの往復移動と往復回転とによる間欠的な圧延である。そのため、ロールダイスには衝撃力が加わる。特に、圧延能率を上げるためにロールスタンドの往復移動速度を速くすると、これに伴い、ロールダイスに加わる衝撃力が大きくなる。この大きな衝撃力に耐えるために、靱性が要求される。
【0015】
また、ロールダイスの停止の度に送り込まれる管の送り量が設定量より大きくなった場合や、マンドレルが圧延中に折れ、折れた部分が管の送りとともに圧延方向に送られた場合には、ロールダイスに衝撃的な負荷がかかり、ロールダイスが孔型の底から割れるおそれがある。このような衝撃的な負荷に耐えるためにも、靱性が要求される。
【0016】
(4)耐食性
ピルガーミルによる管の圧延では、工具(ロールダイス、マンドレル)と管との間の潤滑のために、塩素系極圧添加剤(例えば塩素化パラフィン)と鉱物油とを主成分とする潤滑油が用いられる場合がある。この潤滑油では、極圧反応により生じた塩素イオンの大部分が塩化鉄となって、工具と管との間の焼き付きを防止する。しかし、遊離した塩素イオンは、潤滑油中に含まれる。この潤滑油中に含まれる塩素イオンがロールダイスに接触するため、ロールダイスには腐食摩耗が生じるとともに疲労寿命が低下する。したがって、上記の潤滑剤を使用する場合は、塩素イオンに対する耐腐食性が要求される。
【0017】
このように多くの性質が要求されるコールドピルガーミルのロールダイスとして、従来は、JIS G 4805のSUJ5に規定される軸受鋼、およびJIS G4404のSKD11に規定される冷間金型用の合金工具鋼が用いられていたが、いずれも前記の要求を全て満たすものではなかった。
【0018】
これらの従来のロールダイスに比べて寿命の長いロールダイスが、特開平4−172113号公報および特開平10−85806号公報に開示されている。
【0019】
特開平4−172113号公報に開示されたロールダイスは、化学組成が前記JIS G4404のSKD11に規定される合金工具鋼を基準とし、硬さが52HRC〜56HRCで、ロール軸方向のメタルフローを有する。
【0020】
このロールダイスは、通常60HRC以上の硬さで用いられる前記の合金工具鋼の硬さを、52HRC〜56HRCと低くすることによって靱性を向上させ、耐割れ性および耐摩耗性を高めている。しかし、高C−高Cr鋼であるため、巨大な炭化物が不可避的に生成し、硬さの低下に見合っただけの靱性の向上が得られない。
【0021】
特開平10−85806号公報に開示されているロールダイスは、孔型面を窒化して孔型の底に圧縮残留応力を生じさせることにより、割れの防止を図ったロールダイスである。
【0022】
しかし、このロールダイスは、窒化された孔型の表面の硬さが上昇する反面、靱性が極端に低下して割れ感受性が高くなり、孔型表面から亀裂が入り易く、また亀裂の進展が著しい。
【0023】
このように上記の公報に開示されたロールダイスは、特に靭性が不足し、前記の要求全てを満たすものではない。また、最近では、難加工材(例えば2相ステンレス鋼、ニッケル基合金)からなる管が圧延の対象とされるとともに、高加工度による高速圧延が要求されるため、更に寿命の長いロールダイスが望まれている。
【0024】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の課題は、耐摩耗性および耐食性に優れ、寿命の長いコールドピルガーミル用ロールダイスの製造方法を提供することにある。
【0025】
【課題を解決するための手段】
この発明の要旨は、下記(A)から(E)の工程からなる極圧添加剤を含む潤滑剤を用いて冷間圧延を行うコールドピルガーミル用ロールダイスの製造方法にある。
(A)質量%で、C:0.2〜0.6%、Cr:3〜9%、Mo:1〜3%、P:0.02%以下、S:0.005%以下を含み、残部はFeおよび不可避的不純物である鋼からなる鋳片を製造する、さらに、Feに代えて、Ni:0.1〜2%、Nb:0.1〜2%、V:0.1〜2%、W:0.1〜3%、Si:0.01〜3.0%およびMn:0.01〜2.0%の1種または2種以上を含有するのが望ましい
(B)1100℃以上に加熱した鋳片に鍛造または圧延を施して軸方向にメタルフローを有する円柱体を製造する
(C)円柱体に、800〜880℃で1時間以上加熱した後炉冷する焼なましを施す
(D)円柱体から、軸心が円柱体の軸方向と一致し外周面に孔型が形成されたロールダイスを製造する
(E)ロールダイスに、1000〜1100℃からの焼入れと500〜600℃での焼戻しを施し、硬さを52HRC〜60HRCとする。
【0026】
【発明の実施の形態】
まず、本発明方法が対象とするコールドピルガーミル用ロールダイスの化学組成について説明する。なお、化学組成の含有量を表す%は、全て質量%である。
【0027】
C:
Cは、マルテンサイト組織の硬さを高めるとともに、CrおよびMoの炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる。そのためには0.2%以上必要である。一方、0.6%を超えると溶解後の凝固時にCrおよびMoの巨大炭化物の析出が著しくなり、靱性が低下する。したがって、Cの含有量は0.2〜0.6%とする。なお、好ましい範囲は、0.3〜0.5%である。
【0028】
Cr:
Crは、焼入れ時に素地中に固溶して焼入れ性を高める。また、Cr炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる。そのためには3%以上必要である。しかし、9%を超えると、溶解後の凝固時に巨大炭化物が析出しやすくなり、靱性が低下する。したがって、Crの含有量は3〜9%とする。なお、好ましい範囲は、4〜6%である。
【0029】
Mo:Moは、焼入れ時に素地に固溶するとともに、炭化物を形成して耐摩耗性を向上させ、更に、耐熱強度を高める。これらの効果を発揮するためには、0.5%以上必要である。しかし、3%を超えると、その効果が飽和するのみならず、熱間加工性が低下する。また、ピルガーミル圧延において、極圧添加剤としての塩素を多量に含む潤滑油が用いられる場合、圧延中に極圧反応により塩素イオンが発生する。この塩素イオンの大部分は、塩化鉄となってロールダイスと圧延される管との接触部の焼き付きを防止するが、一部は潤滑油中に混入する。ロールダイスは、圧延中、この塩素イオンが混入した潤滑油と常に接触するため、塩素イオンにより疲労寿命が低下するとともに腐食摩耗が進むおそれがある。Moは、この塩素イオンによる疲労寿命の低下と腐食摩耗の進行を防ぐ。この効果を得るためには、Moの下限を1%とする。したがって、Moの含有量は、1〜3%とする。
【0030】
P:
Pは、不純物として含まれる元素で、靱性および熱間加工性を低下させる。また、焼戻し脆化を助長する。したがって、含有量の上限を0.02%とする。好ましい上限は0.01%である。
【0031】
S:
Sは、不純物として含まれる元素で、硫化物として存在して、前記Pと同様に靱性および熱間加工性を低下させる。したがって、含有量の上限を0.005%とする。好ましい上限は0.003%である。
【0032】
本発明のロールダイスの化学組成は、前記の元素を含む鋼で構成されるが、更に、使用目的により次の合金元素を1種以上含んでもよい。
【0033】
Ni:
Niは、素地中に固溶して靱性を向上させる。この効果を得るためには、0.1%以上必要である。しかし、2%を超えてもその効果は飽和する。したがって、含有させる場合は、0.1〜2%とする。
【0034】
Nb:
Nbは、オーステナイト粒の粗大化を防止し、強度と靱性を向上させる。そのためには、0.1%以上必要である。しかし、2%を超えると熱間加工性を低下させる。したがって、含有量させる場合は、0.1〜2%とする。
【0035】
V:
Vは、オーステナイト粒の粗大化を防止するとともに、微細な炭化物を形成して耐摩耗性および焼入れ性を改善する。この効果を得るためには、0.1%以上必要である。しかし、2%を超えると加工性が低下する。したがって、含有させる場合は、0.1〜2%とする。
【0036】
W:
Wは、耐熱強度を向上させるとともに、炭化物を形成して耐摩耗性を向上させる。そのためには0.1%以上必要である。しかし3%を超えると熱間加工性が低下する。したがって、含有させる場合は、0.1〜3%とする。
【0037】
Si:
Siは、鋼の脱酸剤として有効である。脱酸剤としてSiを用いると、Alを用いる場合に比べて、介在物として鋼中に存在しても変形しやすい特性があるため、メタルフローの方向に延ばされる。このため、メタルフローの方向を制御して耐割れ性の向上を図る本発明のロールダイスでは、割れに対する影響を小さくすることができるので、Siによる脱酸が適している。また、Siは、高温焼戻し後の硬さを高める効果がある。脱酸剤として添加する場合は、鋼中に不可避レベルで含有してもよいが、必ずしも残留させる必要はない。高温焼戻し後の硬さを高める目的で含有させる場合、多量に含有させると熱間加工性および靭性が低下するので、含有させる場合は、0.01〜3.0%とする。含有させる場合の好ましい範囲は、0.01〜2.0%である。更に、脱酸をより完全にして酸素による靭性の低下を防ぐためには、下限を0.1%とするのがよい。
【0038】
Mn:
Mnは、鋼の脱酸剤および脱硫剤として有効である。また、焼入れ性を改善する効果がある。脱酸剤および脱硫剤として添加する場合は、鋼中に不可避レベルで含有してもよいが、必ずしも残留させる必要はない。焼入れ性を改善する目的で添加する場合、多量に含有させると加工性が低下するので、含有させる場合は、0.01〜2.0%とする。含有させる場合の好ましい範囲は、0.01〜1.0%である。
【0039】
本発明のピルガーミル用ロールダイスの製造方法では、まず、常法により溶解および精錬し、インゴット法または連続鋳造法により前記の化学組成の鋼からなる柱状の鋳片を製造する。
【0040】
続いて、前記鋳片を1100℃以上に加熱した後、鍛造または圧延を施す。加熱温度を1100℃以上とするのは、鋳片の鍛造または圧延による変形を容易にするとともに、鋳片中に残存する巨大炭化物を少しでも小さくするためである。
【0041】
鍛造または圧延は、鋳片の軸方向に圧下するのではなく、鋳片の軸方向と直角な方向から圧下して、鋳片を長手方向に延ばして円柱体とする。このようにして製造された円柱体は、メタルフローの方向が円柱体の軸方向となる。
【0042】
前記の鋳片には、巨大炭化物、非金属介在物および偏析が存在する。これらは、その方向によっては割れの原因となる。巨大炭化物、非金属介在物および偏析が存在しても、ロールダイスの割れの原因とならないように、メタルフローの方向を円柱体の軸方向とし、後の工程では、この円柱体の軸方向がロールダイスの軸方向に一致するように加工する。
【0043】
なお、メタルフローの方向を円柱体の軸方向とするためには、加工前の断面積に対する加工後の断面積の比で表される加工比を4以上とするのがよい。
【0044】
上記円柱体に800〜880℃に1時間以上加熱した後炉冷する焼なましを施す。この焼なましは、前記の鍛造または圧延により生じた加工歪みを除去するために行う。焼なまし温度を800〜880℃とし保持時間を1時間以上とするのは、焼なまし温度が800℃未満または保持時間が1時間未満では、加工歪みが十分に除去されず、一方、焼なまし温度が880℃を超えると巨大炭化物が析出するためである。
【0045】
続いてこの円柱体を、軸と直角な方向から所定の長さに切断して円盤材とする。切断する長さは、ロールダイスの軸方向の長さにほぼ等しい。なお、円柱体の長さが短い場合は、切断を省略し、切削などによりロールダイスの軸方向の長さにほぼ等しい長さとしてもよい。
【0046】
次に、この円盤材の外周面に孔型を形成するとともに、軸心に貫通孔を形成してロールダイスとする。孔型は、例えば前記図1および図2に示す孔型11と同様の形状であり、貫通孔は、ロールダイスを回転軸に焼きばめなどにより取り付けるための孔である。孔型および貫通孔は、切削により形成し、更に、側面および周面も切削により整形する。なお、ロールダイスと回転軸とを焼きばめなどのはめ込み以外の方法で取り付ける場合は、貫通孔の形成に変えて、取り付け方法に応じた形状に加工する。
【0047】
続いて、このロールダイスに1000〜1100℃からの焼入れと、500〜600℃での焼戻しを施す。
【0048】
焼入れは、ロールダイスの組織をマルテンサイト組織にして高い硬さを得るためのもので、1000〜1100℃に加熱した後、空冷または油冷する。この焼入れにより、ほぼ52HRC〜63HRC程度の硬さが得られる。焼入れ温度が1000℃未満では、十分な硬さが得られず、一方焼入れ温度が1100℃を超えると組織が粗大化して靱性が低下する。
【0049】
焼戻しは、硬さを52HRC〜60HRCに調整するためのもので、500〜600℃に加熱して1時間以上保持した後、空冷する。焼戻し温度が500〜600℃の範囲を外れるか、または保持時間が1時間未満では、所定の硬さが得られない。
【0050】
図3は、後述する鋼Hの焼戻し温度曲線の一例を示す図である。同図からわかるように、焼入れ温度が異なれば、焼入れ後の硬さ(同図に、焼入れのままとして示す硬さ)も異なる。また、焼入れ温度が同じであっても、焼戻し温度が異なると硬さも異なる。この傾向は、ロールダイスの化学組成によっても異なる。したがって、焼戻し温度は、52HRC〜60HRCの硬さが得られるように、化学組成と焼入れ温度とにより、500〜600℃の範囲の適当な温度を選択すればよい。
【0051】
なお、本発明における焼戻し温度の範囲は、二次硬化温度付近またはこれ以上の高温の温度範囲であるため、残留オーステナイトは分解されてほとんど消滅し、また引張残留応力も解放されやすい。この焼戻しは、残留オーステナイトをより少なくするために、複数回行うのが好ましい。
【0052】
焼入れおよび焼戻しが施されたロールダイスは、その後、孔型の表面粗さの調整および歪みによる寸法の修正のために、研磨加工が施される。
【0053】
【実施例】
〈実施例1〉
電気炉で表1に示す化学組成の鋼を溶製し、インゴット法により径が800mmの円柱状の鋳片を製造した。なお、表1において、鋼Vは、JIS SKD11に規定される工具鋼、鋼Wは、前記特開平4−172113号公報に規定される工具鋼である。
【0054】
【表1】
続いてこの円柱状の鋳片を1150℃に加熱した後、径方向から加工する圧延または鍛造を施し、径が380mm(加工比4.4)の円柱体を製造し、その後、850℃で5時間保持した後炉冷する焼なましを施した。
【0055】
続いて、この円柱体を長さ210mmに切断して円盤材とした後、外径64mmの管を外径30.6mmの管に圧延するための孔型を外周面に、回転軸を焼きばめするための貫通孔を軸心に、それぞれ機械加工により形成するとともに、外周面および端面を機械加工により整形し、ロールダイスをそれぞれ3個製造した。
【0056】
このロールダイスに、1050℃または1100℃に加熱した後油冷する焼入れを施し、その後、500〜600℃に加熱して6時間または12時間保持した後空冷する焼戻しを2回施し、その後全面を研磨して、外径370mm、長さ170mmとした。また、孔型および貫通孔の機械加工を省略する以外は前記の工程と同じ工程により、それぞれ1個の試験材を製造した。
【0057】
また、比較例として、本発明の製造方法で規定する条件のいずれかが外れる方法により、それぞれ3個のロールダイスと1個の試験材を製造した。径方向から加工する圧延または鍛造の区分、焼入れ温度および焼戻し温度を表2に示す。なお、表2において、焼戻しにおける保持時間は、No.11で12時間とした以外、全て6時間とした。
【0058】
【表2】
前記の方法により製造した試験材から試験片を採取し、硬さ試験とシャルピー衝撃試験を行った。また、前記の方法により製造したロールダイスを用いて管を圧延し、ロールダイスの寿命を調査した。これらの結果を表2に併せて示す。
【0059】
硬さ試験は、前記の試験材の、孔型が形成される外周範囲の周方向3位置から試験片を採取し、各試験片について、JIS Z 2245に規定されるロックウェル硬さ試験方法のCスケール(HRC)により3点測定した。表2に示す硬さは、これらの測定値の平均を示す。
【0060】
シャルピー衝撃試験は、硬さ試験と同様に前記の試験材を用い、孔型が形成される範囲の、前記硬さ試験片を採取した位置の近傍からJIS Z 2202に規定されるUノッチ試験片(ノッチの深さ2mm)を試験材の軸方向から採取し、各試験片についてJIS Z 2242に規定される金属材料衝撃試験方法により室温で試験して吸収エネルギーを求めた。表2に示す衝撃値は、前記吸収エネルギーを試験片のノッチ底部の断面積で除した値の平均を示す。
【0061】
寿命は、外径64mm、肉厚5.5mmのJIS SUS304に規定される化学組成のステンレス鋼素管を外径30.6mm、肉厚2mmの製品管に圧延した際の、ロールを取り替えるまでに圧延した製品管の延べ長さで表した。なお、圧延時の条件は、圧延ストロークを991mm、ストローク数を毎分135回、ストローク間の素管送り量を9mm、素管送り時の軸廻りの回転角度を57度とし、潤滑油として塩素を30質量%含むPL−17(ユシロ化学社、商品名)を用いた。
【0062】
表2からわかるように、No.1、No.3〜9、No.11、No.12およびNo.16〜No.21の本発明例では、硬さおよび衝撃値がともに優れ、寿命も150Km以上である。これに対し、No.22から25の比較例は、化学組成が本発明で規定する範囲の鋼Hであるにも拘わらず、製造条件が本発明で規定する条件を外れるため、硬さおよび衝撃値のいずれか一方または両方が低く、寿命も極めて短い。
【0063】
また、化学組成が本発明で規定する範囲を外れるNo.26からNo.36の比較例は、製造方法の如何にかかわらず寿命が短い。なお、、No.32およびNo.33の比較例は、硬さおよび衝撃値に優れるが、これらの比較例では、CまたはさらにCrが高いため、Cr炭化物の影響で孔型部に割れが生じたものと推測される。
【0064】
〈実施例2〉
電気炉で表3に示す化学組成の鋼を溶製し、実施例1と同様の方法で製造した試験材から試験片を採取し、JIS Z 2274に規定される方法により回転曲げ疲れ試験を行った。試験片は1号試験片(平行部の直径10mm)とし、シャルピー衝撃試験片と同じ方向から採取した。
【0065】
【表3】
試験は、大気中で行うか、または圧延に用いた潤滑油(Cl- 100ppm)を試験片にスプレーしながら行った。結果のS−N曲線を図4に示す。また、繰り返し数が103における時間強さσ(A103)を求め、強度比((潤滑油中での時間強さ/大気中での時間強さ)×100(%))を表3に併せて示す。
【0066】
図4によれば、Moの含有量が多くなるほど、繰り返し数が多くなることがわかる。また、表3に示すように、Moの含有量が本発明で規定する範囲より少ない鋼Haおよび鋼Hbの強度比は、64〜75%であるのに対して、Moの含有量が本発明で規定する範囲内の鋼Hおよび鋼Hcの強度比は、80%以上と良好な結果である。
【0067】
【発明の効果】
この発明の製造方法によれば、硬さと靱性とをバランスよく備え、耐摩耗性と耐食性に優れる寿命が極めて長いコールドピルガー用ロールダイスを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】コールドピルガーミルの要部の一例を示す斜視図である。
【図2】コールドピルガーミルによる圧延方法を説明するための図で、ロールダイスの孔型を展開して示す図である。
【図3】焼戻し温度曲線の一例を示す図である。
【図4】実施例の繰り返し曲げ試験の結果を示すS−N曲線である。
【符号の説明】
10:ロールダイス、
11:孔型、
11a:加工部、
11b:成形部、
11c、11d:逃げ部、
11e:孔型の底、
20:ロールスタンド、
21:ピニオンギア、
22:ラックギア、
30:マンドレル、
31:テーパ部、
32:等径部、
a:加工開始点、
b:加工終了点、
c:成形終了点。
Claims (2)
- 下記(A)から(E)の工程からなる極圧添加剤を含む潤滑剤を用いて冷間圧延を行うコールドピルガーミル用ロールダイスの製造方法。
(A)質量%で、C:0.2〜0.6%、Cr:3〜9%、Mo:1〜3%、P:0.02%以下、S:0.005%以下を含み、残部はFeおよび不可避的不純物である鋼からなる鋳片を製造する
(B)1100℃以上に加熱した鋳片に鍛造または圧延を施して軸方向にメタルフローを有する円柱体を製造する
(C)円柱体に、800〜880℃で1時間以上加熱した後炉冷する焼なましを施す
(D)円柱体から、軸心が円柱体の軸方向と一致し外周面に孔型が形成されたロールダイスを製造する
(E)ロールダイスに、1000〜1100℃からの焼入れと500〜600℃での焼戻しを施し、硬さを52HRC〜60HRCとする - 上記(A)で、Feに代えて、Ni:0.1〜2%、Nb:0.1〜2%、V:0.1〜2%、W:0.1〜3%、Si:0.01〜3.0%およびMn:0.01〜2.0%の1種または2種以上を含有する鋼からなる鋳片を製造する請求項1に記載のコールドピルガーミル用ロールダイスの製造方法。
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