JP3601799B2 - 製鉄用溶解炉に用いられる燃焼バーナ - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は製鉄用溶解炉の羽口部に設けられる微粉炭等の燃焼バーナに関するもので、特に、スクラップを鉄源として溶銑を製造するとともに、燃料用ガスとして高い利用価値のある高カロリー排ガスを得ることができるスクラップ溶解法に好適な燃焼バーナに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年スクラップ(銑屑、鉄屑)の供給が増加の一途を辿っており、そのリサイクルが資源の有効利用の面で重要な課題となりつつある。このためスクラップを原料として低コストに高い生産性で溶銑を製造できる技術の開発が強く望まれている。従来、スクラップから溶銑を製造するために電気炉が用いられているが、電気炉法は莫大な電気を必要とするためコストが高く、製造コスト面での要求を満足できない。また、キュポラ法によりスクラップを原料とした鋳物銑の製造が行われているが、このキュポラ法では燃料として鋳物用の高品位大塊コークスを使用する必要があり、この鋳物用コークスは高炉用コークスの4倍程度の価格であるため製造コストの面で汎用化は難しい。
【0003】
このような従来の電気炉法やキュポラ法に対して、シャフト炉を用いたスクラップ溶解法として、シャフト炉内に鉄源であるスクラップと高炉用コークスとを装入するとともに、羽口部から常温の高酸素富化空気と微粉炭を吹き込んで燃焼させ、この燃焼ガスの顕熱によりスクラップを溶解するとともに、シャフト部から空気を吹き込むことで燃焼ガスを二次燃焼させてスクラップの溶解を促進させるようにしたスクラップ溶解法が提案されている(鉄と鋼 Vol.79,No.2,P.139〜146)。
【0004】
また、他の方法として、シャフト炉の外部に微粉炭燃焼用の燃焼炉を設けてこの燃焼炉で微粉炭を多量に燃焼させ、発生した高温の燃焼ガスをスクラップとコークスが装入されたシャフト炉に導入するとともに、この導入の際に酸素含有ガスを補給して燃焼ガスを二次燃焼させ、この燃焼ガスの顕熱によりスクラップを溶解するようにしたスクラップ溶解法が提案されている(特開平1−195225号公報)。
これらの提案によるスクラップ溶解法は、熱源の一部として微粉炭を使用し且つ炉内に装入するコークスとして安価な高炉用コークスを使用できるため、経済的な操業を実現できる可能性がある。
【0005】
しかし、上述した2つのスクラップ溶解法はいずれも低燃料比によるエネルギーミニマムを指向した技術であり、このため燃料比を低く抑えた操業(燃料比:300kg/t未満)を行ない、且つ微粉炭の燃焼により生成した燃焼ガスにさらに空気等の酸素含有ガスを吹き込んで二次燃焼させることにより、低燃料比の下でのスクラップ溶解の促進を図っている。すなわち、これら従来のスクラップ溶解法の狙いは、燃料比の低減化と熱源の一部として微粉炭を使用することによりスクラップ溶解の低コスト化を実現しようとするものであり、したがって、微粉炭の大量供給を行なって高燃料比の操業を行い、大量供給された微粉炭を積極的に燃焼ガス化して大量の排ガス(燃料ガス)を得るというような意図はなく、また、これが可能となるような操業条件や手段を備えてもいない。
【0006】
また、上記のスクラップ溶解法では製造コストの低減化のために熱源の一部として微粉炭を用いているが、その供給量は[微粉炭比/コークス比]の重量比で1.0に満たず(せいぜい高くても0.9程度)、燃料比を低く抑えてはいるものの、コークス比が相対的に高いという意味で低コスト化が十分に図られているとは言い難い。
また、これらのスクラップ溶解法では、低燃料比による操業を可能とするために微粉炭の燃焼ガスにさらに空気等の酸素含有ガスを吹き込んで二次燃焼させており、また、微粉炭の燃焼や二次燃焼のために空気若しくは酸素富化された空気を用いているため、排出される排ガスには必然的に窒素やCO2等が多量に含まれることになる。したがって、これら従来技術のスクラップ溶解法において炉から排出される排ガスは、燃料ガスとしてそれなりの利用価値はあるものの、例えば高効率な発電を行なうための燃料ガスや加熱炉用燃料ガスとして利用できるような熱量を有する高カロリーガスではない。
【0007】
例えば、前者の従来技術を述べた文献(鉄と鋼 Vol.79,No.2,P.139〜146)では、キュポラ法に較べて高カロリーの排ガスが得られ、これを燃料ガスとして有効利用できるとしているが、その排ガスカロリーは約2000kcal/Nm3(約8400kJ/Nm3)程度に過ぎない。また、同文献では試験的に二次燃焼を実施しないで行った実験例のデータも示されているが、本発明者らが試算した結果では、この場合でも排ガスのカロリーは高々2300kcal/Nm3程度に過ぎない。一般に、加熱炉用や高効率発電用の燃料ガスとしては2500kcal/Nm3以上の高カロリーガスが使用されており、したがって、従来技術で得られる排ガスは加熱炉用や高効率発電用としては適さず、利用価値の低いものと言わざるを得ない。また、低燃料比での操業であるために発生する排ガス量も少なく、排ガスカロリーが低いことも相俟って高品質の燃料ガスを大量に安定供給できるような技術ではない。
【0008】
また、後者の従来技術(特開平1−195225号公報)では、溶解炉とは別に微粉炭燃焼用の燃焼炉が必要であるため設備コストが高く、また、燃焼炉で生成した高温ガスをガス導管によりシャフト炉に導く途中でガス顕熱の一部が失われるため、経済性の面でも問題がある。
このように従来提案されているスクラップ溶解技術は、基本的に燃料比の低減化によるエネルギーミニマムを指向しているが故に、その排ガスは熱量が小さく且つ排出量も少なく、利用価値の低いものであった。また、熱源の一部として微粉炭を用いているが、微粉炭の高効率な燃焼を実現することができないためコークス比に対して微粉炭比を十分に高めることができず、微粉炭使用による低コスト化が十分に図られていない。
【0009】
このような従来のスクラップ溶解技術に対し、本発明者らはスクラップを高効率に溶解して溶銑を製造できるだけでなく、燃料用ガスとして利用価値の高い高カロリーの排ガスを大量に製造することができ、しかも高カロリー排ガスの利用価値を考慮した場合に従来技術に較べて相当程度に低い製造コストで操業を行なうことができる、全く新たなタイプのスクラップ溶解法を開発した。
このスクラップ溶解法は、微粉炭の大量吹き込みによる高燃料比及び高微粉炭比での操業の下で、下記の(1)〜(3)の手段を採ることを特徴としている。
(1) 羽口部の燃焼バーナを通じて微粉炭とともに酸素(実質的な純酸素)を吹き込む。
(2) 微粉炭と酸素とを速かに接触、混合させて微粉炭を急速燃焼させるとともに、炉内状況等に影響されることなく微粉炭の安定した高効率燃焼を実現させる。
(3) 微粉炭の燃焼による燃焼ガスを炉内で有意に二次燃焼させない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
このようなスクラップ溶解法において、上記(2)の項目である微粉炭の安定的な高効率燃焼を確保するためには、微粉炭の燃焼性及び燃焼の安定性に優れた微粉炭燃焼バーナを使用する必要がある。
従来、所謂酸素高炉用の微粉炭燃焼バーナとして、中心に微粉炭管、その周囲に酸素管を配した構造を有し、これら微粉炭管及び酸素管から炉内に微粉炭及び酸素を直接吹き込むことで、微粉炭を羽口先で燃焼させるようにしたバーナが知られている。
【0011】
しかし、この微粉炭燃焼バーナを上述したようなスクラップ溶解法に適用しても、微粉炭の燃焼率が羽口先の燃焼空間における装入物(例えば、コークス充填層)等の状況により大きく変動し、高レベルの燃焼率を安定して確保することは難しい。
したがって本発明の目的は、炉内状況等に影響されることなく製鉄用溶解炉、とりわけ上述したスクラップ溶解法に供される溶解炉において微粉炭等の燃料を安定的に高効率燃焼させることができる燃焼バーナを提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するための本発明の燃焼バーナを、図1及び図2の構成図に基づき説明する。
図1の燃焼バーナAは製鉄用溶解炉を構成するシャフト炉下部の羽口部Bに設けられ、その先端開口部2の内方に予燃焼室1を有し、さらに、この予燃焼室1の内方にバーナ径方向中心若しくはその近傍に配される固体燃料吹出孔aと、その周囲に配される酸素吹出孔bとを有している。また、バーナの軸線は水平方向に対してバーナ先端側が下向きとなるような傾き角θを有している。
【0013】
図2の燃焼バーナAは製鉄用溶解炉を構成するシャフト炉下部の羽口部Bに設けられ、その先端開口部の内方に予燃焼室1を有し、さらに、この予燃焼室1の内方にバーナ径方向中心若しくはその近傍に配される酸素吹出孔b´と、その周囲に配される固体燃料吹出孔aと、さらにその周囲に配される酸素吹出孔bとを有している。また、バーナの軸線は水平方向に対してバーナ先端側が下向きとなるような傾き角θを有している。
本発明の燃焼バーナでは、図1及び図2に示すように固体燃料吹出孔aと酸素吹出孔b,b´が、両者の孔軸延長線の交点pが予燃焼室1の先端出口近傍またはそれよりもバーナ内方に位置するように構成する。
【0014】
図1の燃焼バーナにおいて、酸素吹出孔bは固体燃料吹出孔aの周りに環状に設けてもよいし、或いは固体燃料吹出孔aの周りに適宜間隔をおいて複数の酸素吹出孔bを設けるようにしてもよい。図3及び図4はこのようなバーナ径方向における固体燃料吹出孔a及び酸素吹出孔bの配置例を示している。また、固体燃料吹出孔aの位置はバーナ径方向中心から或る程度偏位していてもよく、要はバーナ径方向中心若しくはその近傍から微粉炭等の粉粒状固体燃料が吹き出され、その周囲から酸素が吹き出されるようにすればよい。
【0015】
また、図2の燃焼バーナにおいて、固体燃料吹出孔aはバーナ径方向中心若しくはその近傍に配される酸素吹出孔b´の周りを環状に囲むように設けてもよいし、或いは酸素吹出孔b´の周りに適宜間隔をおいて複数の固体燃料吹出孔aを配するようにしてもよい。また、固体燃料吹出孔aの周囲に設けられる酸素吹出孔bについても、固体燃料吹出孔aの周りに環状に設けてもよいし、或いは固体燃料吹出孔aの周りに適宜間隔をおいて複数の酸素吹出孔bを設けるようにしてもよい。図5〜図7はこのようなバーナ径方向における固体燃料吹出孔a及び酸素吹出孔bの配置例を示している。また、酸素吹出孔b´の位置はバーナ径方向中心から或る程度偏位していてもよく、要はバーナ径方向中心若しくはその近傍から酸素が吹き出され、その周囲から微粉炭等の粉粒状固体燃料が吹き出され、さらにその周囲から酸素が吹き出されるようにすればよい。
【0016】
【作用】
以下、粉粒状固体燃料として微粉炭を使用する場合を例に、本発明の燃焼バーナの作用を説明する。
図1の燃焼バーナAにおいては、その予燃焼室1内にバーナ径方向中心またはその近傍に配された固体燃料吹出孔aから微粉炭(PC)が、また、その周囲に配された酸素吹出孔bから酸素(O2)がそれぞれ吹込まれる。この際、微粉炭がその周囲を酸素で囲まれるようにして吹き込まれるため、微粉炭と酸素の接触が極めて良好になり、両者は予燃焼室1内で速かに混合して微粉炭が急速着火燃焼する。したがって、単位酸素量当たり大量の微粉炭を吹き込んでも微粉炭は高効率で燃焼し、微粉炭の大部分は予燃焼室1内で燃焼ガス化し、この燃焼ガスはバーナ先端開口部2から炉内に導入される。
【0017】
このように微粉炭が高効率で燃焼ガス化するため、微粉炭を大量に吹き込み、投入微粉炭量PC(kg/h)と酸素供給量(Nm3/h)の比[PC/O2]を十分に高くすることができる。
予燃焼室1内では微粉炭の中の灰分が溶融してスラグが生じるが、燃焼バーナ1の軸線にバーナ先端側が下向きとなるような傾き角θが付されているため、スラグはバーナ先端開口部2から炉内に自然流入し、バーナの燃焼性能を損なうことはない。
【0018】
また、図2の燃焼バーナAにおいては、固体燃料吹出孔aから吹き出される微粉炭(PC)は、その内側と外側を酸素吹出孔b,b´から吹き出される酸素(O2)でサンドイッチされるようにして予燃焼室1内に吹き込まれるため、微粉炭と酸素との接触・混合がより促進され、微粉炭の燃焼効率がより一層高められる。
また、図1及び図2に示すように燃焼バーナの固体燃料吹出孔aと酸素吹出孔b,b´の孔軸延長線の交点pが、予燃焼室1の先端出口またはそれよりもバーナ内方に位置するような構造としたことにより、予燃焼室1内での微粉炭と酸素の混合がより迅速化し、微粉炭の急速な着火燃焼をより確実に実現できる。
なお、微粉炭を着火燃焼させるには、油やLPG等を燃料とする図示しない着火バーナを常時用いることもできるし、また、予燃焼室1の内壁を耐火物で構成し、操業初期にのみ着火バーナ(パイロットバーナ)を用いてバーナ内部を予熱若しくは微粉炭を着火燃焼させ、以降の定常操業では赤熱した耐火物の輻射熱により微粉炭を自然着火させるようにすることもできる。
【0019】
上述したように本発明の燃焼バーナによれば、炉内に大量に吹込まれる微粉炭を高効率且つ安定的に燃焼させることができる。これに対して、図22に示すような公知のランス方式で微粉炭を吹込んだ場合には、酸素と微粉炭との接触が十分に確保されないため微粉炭を高効率に燃焼させることができず、微粉炭の大量吹込みが実現できない。また、図21に示すような予燃焼室をもたない燃焼バーナを用いてバーナ中央から微粉炭を、その周囲から酸素を炉内に吹き込んで羽口先で微粉炭を急速燃焼させた場合にも、微粉炭の燃焼効率は本発明の燃焼バーナよりも劣り、しかも燃焼効率の安定性に欠ける。
【0020】
図8は、スクラップ溶解炉の羽口部において本発明の燃焼バーナにより微粉炭を急速燃焼させた場合(本発明例)と、予燃焼室を持たない図21に示す燃焼バーナを用いて微粉炭を羽口先で急速燃焼させた場合(比較例)について、微粉炭の燃焼率を経時に調べた結果(いずれも、[PC/O2]=1.2で実施)を示している。これによれば、比較例の場合でも微粉炭燃焼率は一時的に略90%という高レベルに達してはいるものの、燃焼率は経時に大きく変動し、高レベルの燃焼率を安定して維持することは難しい。これは羽口先の燃焼空間における装入物(例えば、コークス充填層)等の状況が変動し、これが微粉炭の燃焼性に影響を与えることによるものと考えられる。また、これ以外にも比較例の場合には種々の操業条件の変化に基づく炉内状況の変動により、微粉炭の燃焼率が大きく変動する。
【0021】
これに対して本発明の燃焼バーナの場合には、供給された微粉炭の大部分が予燃焼室で燃焼ガス化するため、微粉炭の燃焼が炉内状況等にほとんど影響されず、このため高レベルの微粉炭燃焼率が安定的に得られている。
本発明の燃焼バーナによれば、[PC/O2]のほぼ化学量論的な燃焼限界である[PC/O2]=1.4kg/Nm2程度まで微粉炭を吹き込んでも、微粉炭の大部分は予燃焼室内で燃焼ガス化し、また、一部未燃の微粉炭がある場合でも羽口先で急速燃焼する。
【0022】
図9は、本発明の燃焼バーナを用いて微粉炭を急速燃焼させた場合(本発明例)と、図21に示す予燃焼室を持たない燃焼バーナを用いて微粉炭を羽口先で急速燃焼させた場合(比較例)について、それぞれの羽口部近傍における理想的な燃焼状況を示したものである。
これによれば、比較例の燃焼バーナでは羽口先に燃焼帯が形成され、その外側に所謂レースウェイが形成される。これに対して本発明の燃焼バーナの理想的な状態では、予燃焼室1内に吹き込まれた酸素のほぼ全量が予燃焼室1内で急速消費され、この結果、炉内には微粉炭の燃焼ガス(燃焼バーナ内ではCO2が発生するものの、炉内に導入される燃焼ガス中のCO2は極くわずかであり、大部分はCOである)のみが導入されることになる。これにより羽口先には比較例の燃焼バーナのような燃焼帯(酸化帯)がほとんど形成されず、レースウェイのみが形成されることになる。
【0023】
このように本発明の燃焼バーナを用いることにより、大量の微粉炭を炉内状況や操業条件の変動等に関係なく高効率に安定して燃焼ガス化することができ、このため本発明の燃焼バーナは、特に先に述べた(1)〜(3)の構成を特徴とするスクラップ溶解法に好適なものと言える。
以下、このスクラップ溶解法に適用した場合の本発明燃焼バーナの作用及び有用性について説明する。
【0024】
先に述べた(1)〜(3)の構成を特徴とするスクラップ溶解法は、スクラップを効率的に溶解して溶銑を製造するだけでなく、燃料用ガスとして利用価値の高い高カロリー排ガスを大量に得ることを目的とするもので、微粉炭の大量供給により燃料比を高め且つコークス比に対して微粉炭比を高めた操業を行うことを前提とした方法である。このスクラップ溶解法は、羽口部に燃焼バーナを備えたシャフト炉を用い、シャフト炉内に鉄源であるスクラップとコークス(通常、高炉用コークス)を装入するとともに、羽口部の燃焼バーナを通じて吹き込まれる微粉炭と酸素を急速燃焼させてその燃焼ガスを炉内に導入し、この燃焼ガスの顕熱でスクラップを溶解して溶銑を製造するとともに、燃焼ガスを炉内で有意に二次燃焼させることなく(つまり、従来技術のようにシャフト部に空気や酸素富化空気を供給して燃焼ガスを二次燃焼させることなく)、燃料用ガスとして回収する。
【0025】
このようなスクラップ溶解法における微粉炭の燃焼に本発明の燃焼バーナを用いた場合、大量の微粉炭を炉内状況や操業条件の変動等に関係なく高効率に安定して燃焼ガス化することができるため、[PC/O2]:0.7kg/Nm3以上(好ましくは1.0kg/Nm3以上)においても安定した操業が可能であり、微粉炭の高効率燃焼による大量の高カロリー排ガスを得ることができ、しかも、微粉炭比に対してコークス比を相対的に低めた操業が可能となる。また、図9に示すように本発明の燃焼バーナでは、供給された酸素の大部分が予燃焼室内で急速消費されるため、羽口先には燃焼帯がほとんど形成されないか、若しくは形成されるとしても極く限られた狭い領域にしか形成されない。このため羽口先でのコークスの消費(燃焼)が抑えられ、この点もコークス比の低減に寄与する。
【0026】
さらに、羽口部から燃焼用に吹き込まれるガスが酸素であり、また、先に述べたように単位酸素量当たり大量の微粉炭を炉内状況に影響されることなく効率的に燃焼ガス化することができ、しかも上記のように燃焼ガスを二次燃焼させないことにより、COとH2の含有率が極めて高い(したがって、CO2やN2の含有率が非常に少ない)高カロリー排ガス(2700kcal/Nm2以上)が得られる。
このスクラップ溶解法は従来法に較べて燃料比を高くし、且つ微粉炭の大量吹き込みを行なうことを前提としているが、その狙いとする範囲は実操業ベースで、燃料比:300kg/t以上、微粉炭比(kg/t)とコークス比(kg/t)の重量比[微粉炭比/コークス比]:1.0以上であり、これにより溶銑を高効率に製造することができるとともに、上述したような高カロリー排ガスを大量に安定供給することが可能となる。また、これらの上限は操業度、燃料コストと必要回収ガスバランス等によって決まるが、一般には燃料比:500kg/t、[微粉炭比/コークス比]:2.5程度が実質的な上限となると考えられる。
【0027】
このように上記のスクラップ溶解法では、従来法に較べて燃料比を相対的に高めた操業を行うことを前提としているため、従来法に較べて燃料費自体は高くなるが、一方においてコークスに較べてはるかに安価な微粉炭を大量に使用することでコークス比を相対的に低減させることができ、しかも利用価値の高い高カロリー排ガスを大量製造することができるため、全体としては従来法に較べて相当程度に低い製造・操業コストで実施することができる。
【0028】
また、上記のスクラップ溶解法において微粉炭と酸素を本発明の燃焼バーナを用いて同時に吹き込むことは、溶銑の歩留り及び品質を確保することにも役立つ。すなわち、熱源としてコークスのみを炉内に装入して羽口部から酸素のみを吹き込む方式を想定した場合、羽口先に酸素帯が奥行き方向に長く形成され、その近傍を流れる溶銑が酸化され易いため、鉄がFeOとしてスラグ中に移行して鉄の歩留まりを低下させ、また、溶銑の成分中に酸化物を懸濁させることにより溶銑の品質を劣化させることになる。また、図21に示すような予燃焼室を持たない燃焼バーナを用いて微粉炭と酸素を炉内に吹き込んだ場合にも、図9に示すように羽口先にはO2が存在する燃焼帯(酸化帯)が形成され、この結果、羽口先を滴下する溶銑滓が酸化されてしまう。
【0029】
これに対して本発明の燃焼バーナを用いた場合には、予燃焼室内で微粉炭が急速に酸素を消費するため、羽口先には燃焼帯が殆んど形成されないか、若しくは形成されるとしても極く限られた狭い領域に形成されるだけであり、このため上記のような溶銑滓の酸化は殆ど問題とならない。また、このような作用は、特に[PC/O2]を0.7kg/Nm3以上、より好ましくは1.0kg/Nm3以上とすることにより効果的に得られる。
【0030】
本発明の燃焼バーナから吹き込まれる酸素ガスの純度は可能な限り高い方が好ましいが、一般に工業用として使用されている酸素ガスの純度は99%以上(通常、一般に販売されている工業用酸素ガスの純度は約99.8%〜99.9%程度、製鉄所の酸素プラントから得られる酸素ガスの純度は99.5%前後である)であり、この程度の純度があれば十分である。また、本発明により得られる作用効果の面から言うと、純度が95%未満の酸素ガスでは吹き込まれる微粉炭と酸素との接触が十分に確保できないため、微粉炭の燃焼効率が悪くなり、また、排ガス中の低カロリーガス成分も増加することになるため好ましくない。したがって、酸素吹出孔bから吹き込まれる酸素とは、純度が95%以上の酸素ガスを指すものとする。
【0031】
なお、本発明の燃焼バーナは、上述したようなスクラップ溶解法に供される溶解炉に限らず、他の種類のスクラップ溶解炉、高炉、キュポラ等の各種製鉄用溶解炉に適用することができる。
また、バーナで燃焼させる粉粒状固体燃料としても、微粉炭だけでなく例えば合成樹脂の粉砕物或いはこれと微粉炭との混合物等、任意の粉粒物状固体燃料を適用することができる。
【0032】
【実施例】
〔実施例1〕
図10及び図11は、製鉄用溶解炉の羽口部Bに設けられた本発明の燃焼バーナAの一実施例を示すもので、3は溶解炉の炉壁である。なお、この実施例では粉粒状固体燃料として微粉炭を用いる場合を例に説明を行う。
燃焼バーナAはバーナ先端開口部2の内方に微粉炭を燃焼させるための予燃焼室1を有するとともに、さらにその内方に、固体燃料吹出孔a、酸素吹出孔b及び覗き窓c等を備えたバーナ本体4を有している。
【0033】
前記バーナ本体4は、筒状の水冷ジャケット5とこれを貫通する固体燃料供給管6、酸素供給管7及び覗き窓用管体8等から構成され、前記各供給管及び管体の端部がバーナ本体4の前面(水冷ジャケット5の前面)に開口することで、固体燃料吹出孔a、酸素吹出孔b及び覗き窓cが形成されている。
これらのうち固体燃料吹出孔aは、バーナ径方向中心若しくはその近傍に形成され、一方、酸素吹出孔bは複数本の酸素供給管7により固体燃料吹出孔aの周囲に適当な間隔をおいて複数個形成されている。また、予燃焼室内の燃焼状況を観察するための前記覗き窓cは、前記固体燃料吹出孔aと酸素吹出孔bの間に形成されている。
【0034】
前記予燃焼室1は、バーナ本体4とバーナ先端開口部2との間に筒状に形成されるもので、その内壁には非金属製の耐火物10が内張りされており、バーナの使用中はこの耐火物10を赤熱させ、その輻射熱より予燃焼室内に供給された微粉炭を着火させるようにしている。また、炉内に噴射する燃焼ガスのガス流速を確保するため、予燃焼室1はバーナ先端側がテーパ状に構成されている。
予燃焼室1の外側には水冷ジャケット11が設けられるとともに、バーナ先端には水冷構造の羽口12が設けられている。この羽口12は高温の炉内雰囲気からバーナ先端を保護するためのものであるが、場合によっては設けなくてもよい。
また、予燃焼室1内での微粉炭と酸素との混合を迅速化し、微粉炭を効率的に急速燃焼させるため、前記固体燃料吹出孔aと酸素吹出孔bは、両者の孔軸延長線の交点pが予燃焼室1の出口先端またはそれよりもバーナ内方に位置するよう構成されている。
【0035】
さらに、燃焼バーナA全体は、その軸線に水平方向に対してバーナ先端側が下向きとなるような傾き角θを付して炉壁3に取付けられている。このように傾き角θを付けるのは、微粉炭の灰分が溶融して生じたスラグをバーナ先端開口部2から炉内に円滑に排出するためである。この傾き角θは、予燃焼室1内のスラグをバーナ先端開口部2方向へ円滑に流下させるために、予燃焼室1のテーパ部が水平若しくはその先端側が下向きに傾斜するような大きさとすることが好ましい。
なお、その他図面において、13a及び13bは水冷ジャケット5に関して冷却水の給排水を行うための配管、14a及び14bは水冷ジャケット11に関して冷却水の給排水を行うための配管、また、15は羽口12に関して冷却水の給排水を行うための配管(但し、排水管は図示せず)である。
【0036】
なお、固体燃料吹出孔aと酸素吹出孔bの形状や配置等の態様は本実施例に限定されるものではなく、先に述べた図3,図4に例示されるような種々の態様を採ることができる。
また、燃焼バーナの使用開始時において予燃焼室1の内壁を予熱するためのパイロットバーナを設けることができ、このパイロットバーナは固体燃料供給管6等と同様、水冷ジャケット5を貫通するようにして設けられる。
図12はこのようなパイロットバーナを設けた場合のバーナ本体4の一構造例を示しており、パイロットバーナ16を設けたことにより、固体燃料吹出孔aはバーナ径方向中心位置からやや偏位した位置の2箇所に設けられている。
【0037】
さらに、固体燃料吹出孔aから微粉炭を旋回させつつ適度な拡がりをもって吹き出し、酸素吹出孔bから吹き出される酸素との混合をより迅速化させるため、例えば、固体燃料吹出孔aを図13ないし図15に示すような構造とすることができる。
この構造例は、微粉炭を旋回させつつ適度な拡がりをもって吹き出すための案内羽根22を固体燃料吹出孔aの内部に固定的に設けたもので、この案内羽根22は、固体燃料吹出孔aの中心に位置する軸体23と、この軸体23から吹出孔径方向に放射状に延びる複数枚(通常、3枚以上)の羽根24から構成され、各羽根24は軸体23の軸線に対して適当な傾き角αを有している。なお、吹き出される微粉炭の拡がり角等を考慮した場合、上記傾き角αは10〜15°程度とすることが好ましい。
【0038】
〔実施例2〕
図16及び図17は、製鉄用溶解炉の羽口部Bに設けられた本発明の燃焼バーナAの他の実施例を示したもので、燃焼バーナ4を構成するバーナ本体4の前面には、バーナ径方向中心またはその近傍に酸素吹出孔b′が配され、その周囲に適宜間隔をおいて複数の固体燃料吹出孔aが配され、さらにその周囲に適宜間隔をおいて複数の酸素吹出孔bが配された構造となっている。
これら各吹出孔a,b,b′は、それぞれ水冷ジャケット5を貫通する固体燃料供給管6及び酸素供給管7,7′の先端開口により形成されている。
なお、その他の構成は図10及び図11に示す実施例と同様であるので、同一の符号を付し、詳細な説明は省略する。
【0039】
また、図10及び図11に示す実施例と同様、固体燃料吹出孔aと酸素吹出孔b,b′の形状や配置等の態様は本実施例に限定されるものではなく、先に述べた図5〜図7に例示されるような種々の態様を採ることができる。また、固体燃料吹出孔aは図13ないし図15に示すような構造とすることもできる。
また、本実施例の構造においても燃焼バーナの使用開始時において予燃焼室1の内壁を予熱するためのパイロットバーナを設けることができ、このパイロットバーナは固体燃料供給管6等と同様、水冷ジャケット5を貫通するようにして設けられる。
図18はこのようなパイロットバーナを設けた場合のバーナ本体4の一構造例を示しており、固体燃料吹出孔aを環状に設け、その内側に酸素吹出孔b′、パイロットバーナ16及び覗き窓cが形成されている。
【0040】
〔操業例1〕
図19に示す炉体の羽口部Bに図10及び図11に示す構造の燃焼バーナAを備えたスクラップ溶解用試験炉(炉内容積:2.5m3,生産量:10t/日)及び図19の炉体の羽口部Bに図16及び図17に示す構造の燃焼バーナAを備えたスクラップ溶解用試験炉(炉内容積:2.5m3,生産量:10t/日)をそれぞれ用い、先に述べた(1)〜(3)の構成を特徴とするスクラップ溶解法を実施した。
先に述べたようにこのスクラップ溶解法は、スクラップを効率的に溶解して溶銑を製造するだけでなく、燃焼用ガスとして利用価値の高い高カロリー排ガスを大量に得ることを目的とするもので、微粉炭の大量供給により燃料比を高め且つコークス比に対して微粉炭比を高めた操業を行うことを前提とし、シャフト炉内に鉄源であるスクラップとコークスを装入するとともに、羽口部の燃焼バーナを通じて吹き込まれる微粉炭と酸素を急速燃焼させてその燃焼ガスを炉内に導入し、この燃焼ガスの顕熱でスクラップを溶解して溶銑を製造するとともに、燃焼ガスを有意に二次燃焼させることなく(つまり、従来技術のようにシャフト部に空気や酸素富化空気を供給して燃焼ガスを二次燃焼させることなく)、燃料用ガスとして回収する方法である。
【0041】
本操業例では[PC/O2]を変化させてスクラップを溶解し、溶銑を製造した。また、燃焼バーナAの予燃焼室内には微粉炭とともに常温の酸素(冷酸素)を吹き込むとともに、羽口先の燃焼温度を2000℃に調整するために水蒸気を冷却剤として吹き込んだ。
なお、図19に示すシャフト炉17は、その炉頂部18の上部に原料装入装置19が連設され、この原料装入装置19と炉内とは開閉装置20により遮断できる構造とし、高温の炉頂ガスをダクト21を通じて完全に回収できるようにしてある。
【0042】
また、比較例▲1▼,▲2▼として図19に示す炉体に図22に示す羽口部を備えた試験炉及び図19に示す炉体の羽口部Bに図21に示す構造の燃焼バーナを備えた試験炉を用い、[PC/O2]を変化させてスクラップを溶解し、溶銑を製造した。なお、図22は公知のキュポラ法に基づき酸素富化した熱風にランスを通じて微粉炭を吹き込む方式であり、温度800℃の熱風を用い、酸素富化量及び微粉炭吹込量を調整して[PC/O2]を変化させた。
本操業例においては、粒度が74μm以下75%、表1に示す工業分析値を有する微粉炭を吹き込み用として用い、また、コークスとしては高炉用コークスを用いた。
本発明例及び比較例における微粉炭の吹き込み限界を見るために、炉頂ガス中のダストを逐次採取し、ダスト中のC濃度(%)を測定した。その結果を図20に示す。
【0043】
図20は投入微粉炭量PC(kg/h)と酸素供給量O2(Nm3/h)の比[PC/O2]と炉頂乾ガス中のC濃度との関係を示したもので、図22の方式による比較例▲1▼では[PC/O2]の値が0.7kg/Nm3以上になると炉頂ダスト中にC濃度が急増している。これは、[PC/O2]がこの領域になると微粉炭が羽口先で十分に燃焼し切れず、炉頂から未燃焼のまま排出されていることを示しており、吹き込まれた微粉炭が燃料として十分に利用されていないことになる。また、図21の燃焼バーナを用いた比較例▲2▼では、比較例▲1▼に較べて炉頂乾ダスト中のC濃度は低いレベルにあるが、それでも[PC/O2]:1.3kg/Nm3以下においてC濃度は25%を超えている。
【0044】
一方、羽口部に図10及び図11に示す燃焼バーナを用いた本発明例▲1▼においては[PC/O2]が1.4kg/Nm3の近傍まで炉頂乾ガス中のC濃度は低く、特に[PC/O2]:1.3kg/Nm3以下ではC濃度は25%未満であり、微粉炭を大量に吹き込んでもこれが高効率に燃焼して燃焼ガス化されていることが判る。また、図16及び図17の燃焼バーナを用いた本発明例▲2▼においては、微粉炭がより高効率に燃焼するため、さらに低いC濃度となっている。なお、先に述べたように[PC/O2]は化学量論的に1.4kg/Nm3がほぼ上限であり、本発明例において[PC/O2]:1.4kg/Nm3近傍で炉頂乾ガス中のC濃度が急増しているのは本発明の燃焼バーナの限界を示すものではない。
本操業例から明らかなように、本発明の燃焼バーナによれば微粉炭と酸素が予燃焼室内で急速に混合して微粉炭が急速燃焼するため、[PC/O2]を十分に高めても微粉炭を効率的に燃焼させ、燃焼ガス化させることができる。
【0045】
【表1】
【0046】
〔操業例2〕
操業例1と同様のスクラップ溶解法を実施した。
この操業例では操業例1と同じ図19に示す炉体の羽口部Bに図10及び図11に示す構造の燃焼バーナAを備えた試験炉、図19に示す炉体の羽口部Bに図21に示す構造の燃焼バーナを備えた試験炉及び図19に示す炉体に図22に示す羽口部を有する試験炉をそれぞれ用いてスクラップを溶解し、溶銑を製造した。微粉炭及びコークスは操業例1と同様のものを用いた。また、この操業例では、一部の比較例においてシャフト部に二次燃焼用の空気を導入し、燃焼ガスを二次燃焼させた。各実施例の製造条件及びその結果を表2〜表4に示す。
【0047】
表2〜表4においてケース1〜4が本発明例、それ以外が比較例であり、全ての操業例において羽口部からの微粉炭吹き込みを行なっている。また、ケース1〜4は図10及び図11に示す燃焼バーナを備えた試験炉を用いた例、ケース5〜7は図22に示す羽口部(ランス方式による微粉炭の吹込み)を備えた試験炉を用いた例、ケース8〜14は図21に示す予燃焼室を持たない燃焼バーナを備えた試験炉を用いた例であり、いずれの場合も羽口先温度は2200℃で一定に保った。
本操業例ではどのケースでも操業自体は全く支障がなった。
【0048】
ケース1〜4は燃焼バーナから酸素とともに微粉炭の吹き込みを行ない、ケース1,2,3,4の順に微粉炭比を増加させた操業例である。
ケース1は微粉炭吹き込みを行ってはいるが、[PC/O2]が低いためスラグ中のFeOが高くなっている。また、この操業例では微粉炭比/コークス比が0.35程度であり、コークス比が相対的に高いため製造コストの面で問題がある。
これに対して好ましい操業例であるケース2〜ケース4においては、スラグ中のFeOが低く、溶銑の品質及び鉄歩留りは良好である。また、これらケース2〜ケース4では、コークス比を超える大量の微粉炭を吹き込んでいるにも拘らず、燃焼バーナによる微粉炭の燃焼が効率的に行なわれているため、2700kcal/Nm3以上の高カロリー排ガスが大量に得られている。
【0049】
ケース5は図22に示す従来型の吹き込み羽口を用いて微粉炭と酸素とを吹き込んだ操業例であり、微粉炭の燃焼効率が低いため[PC/O2]が上げられず、このため微粉炭に較べて大量のコークスを必要とし、製造コストが高い。また、羽口先における微粉炭と酸素との接触が十分に確保されていないため、スラグ中のFeOが高く、溶銑の品質低下及び鉄歩留りの低下を生じている。
ケース6は図22に示す従来型の吹き込み羽口を用いて酸素富化された空気を微粉炭とともに吹き込んだ操業例であり、この操業例では、従来型の吹き込み羽口を用いていることに加えて、吹き込みガスとして酸素富化された空気を用いているために酸素と微粉炭との接触が十分に確保できず、このため微粉炭の燃焼効率がケース5よりもさらに低く、したがってコークス比を高くせざるを得ないため製造コストが高い。また、酸素富化された空気(66%O2)を使用しているため、排ガスのカロリーも低く(2500kcal/Nm3未満)、さらに、上記のように酸素と微粉炭との接触が十分に確保されないため、スラグ中のFeOが高く、溶銑の品質低下及び鉄歩留りの低下を生じている。
【0050】
ケース7は図22に示す従来型の吹き込み羽口を用い、酸素富化された空気を微粉炭とともに吹き込むとともに、シャフト部に二次燃焼用の空気を導入した操業例であり、この操業例ではケース6に較べて燃料比は低くできるものの、ケース6と同様の理由により微粉炭の燃焼効率が低く、コークス比が高いため製造コストが高い。また、酸素富化された空気(66%O2)を使用し且つ微粉炭の燃焼により生じた燃焼ガスを二次燃焼させているため、排ガスのカロリーが極めて低い(1800kcal/Nm3未満)。また、ケース6と同様に酸素と微粉炭との接触が十分に確保されないため、スラグ中のFeOが高く、溶銑の品質低下及び鉄歩留りの低下を生じている。
【0051】
ケース8は図21に示す燃焼バーナを用い、微粉炭の周囲から酸素富化された空気を吹き込んだ操業例であり、この操業例では吹き込みガスとして酸素富化された空気を用いているために酸素と微粉炭との接触が十分に確保できず、このため微粉炭の燃焼効率が低く、したがってコークス比を高くせざるを得ないため製造コストが高い。また、酸素富化された空気(69%O2)を使用しているため排ガスのカロリーも低い(2400kcal/Nm3未満)。さらに、酸素富化された空気を用いているために酸素と微粉炭の接触が十分に確保されないため、スラグ中のFeOがケース2〜4に較べて高く、溶接の品質低下及び歩留低下を生じている。
【0052】
ケース9は図21に示す燃焼バーナを用い、微粉炭の周囲から酸素富化された空気を吹き込むとともに、シャフト部に二次燃焼用の空気を導入した操業例であり、この操業例ではケース8に較べて燃料比は低くできるものの、ケース8と同様の理由により微粉炭の燃焼効率が低く、コークス比が高いため製造コストが高い。また、酸素富化された空気(62%O2)を使用し且つ微粉炭の燃焼により生じた燃焼ガスを二次燃焼させているため、排ガスのカロリーが極めて低い(1800kcal/Nm3未満)。また、ケース8と同様に酸素と微粉炭との接触が十分に確保されないため、スラグ中のFeOがケース2〜4に較べて高く、溶銑の品質低下及び鉄歩留りの低下を生じている。
【0053】
ケース10とケース11は低燃料比による操業例であり、このうちケース10は図21に示す燃焼バーナを用い、微粉炭の周囲から酸素富化された空気を吹き込んだ操業例である。この操業例では吹き込みガスとして酸素富化された空気を用いているために酸素と微粉炭との接触が十分に確保できず、このため微粉炭の燃焼効率が低く、したがってコークス比を高くせざるを得ないため製造コストが高い。また、酸素富化された空気(63%O2)を使用しているため、排ガスのカロリーも低く(2300kcal/Nm3未満)、さらに、低燃焼比での操業であるため排ガス量も少ない。また、酸素富化された空気を用いているために酸素と微粉炭との接触が十分に確保されないため、スラグ中のFeOがケース2〜4に較べて高く、溶接の品質低下及び歩留低下を生じている。
【0054】
ケース11は図21に示す燃焼バーナを用い、微粉炭の周囲から酸素富化された空気を吹き込むとともに、シャフト部に二次燃焼用の空気を導入した操業例であり、この操業例ではケース10に較べて燃料比は低くできるものの、ケース10と同様の理由により微粉炭の燃焼効率が低く、コークス比が高いため製造コストが高い。また、酸素富化された空気(63%O2)を使用し且つ微粉炭の燃焼により生じた燃焼ガスを二次燃焼させているため、排ガスのカロリーが極めて低く(1800kcal/Nm3未満)、さらに、低燃焼比での操業であるため排ガス量も少ない。また、ケース10と同様に酸素と微粉炭との接触が十分に確保されないため、スラグ中のFeOがケース2〜4に較べて高く、溶銑の品質低下及び鉄歩留りの低下を生じている。
【0055】
ケース12〜ケース14は図21に示す燃焼バーナを用い、微粉炭の周囲から酸素(冷酸素)を吹き込んだ操業例であり、それらの操業例のうちケース12はケース2と、ケース13はケース3と、ケース14はケース4とそれぞれ同じ[PC/O2]で実施されたものである。これらケース12〜ケース14はケース2〜ケース4とそれぞれ比較すると判るように、ケース2〜ケース4に較べて微粉炭の燃焼率が低いためコークス比が高く、また、羽口先に燃焼帯が形成されるためスラグ中のFeOがケース2〜4に較べて高く、溶銑の品質低下及び鉄歩留りの低下を生じている。
【0056】
以上の操業例から明らかなように、本発明の燃焼バーナを用いることにより大量の微粉炭を炉内状況や操業条件等に関係なく高効率に安定して燃焼ガス化できること、また、高燃料比及び高微粉炭比による操業の下で、スクラップを効率的に溶解し且つ高カロリー排ガスを大量に得ることにより低コスト操業を実現するためには、▲1▼羽口部の燃焼バーナから微粉炭とともに酸素を吹き込む、▲2▼微粉炭と酸素とを本発明の燃焼バーナを用いて吹き込むことにより、微粉炭の急速燃焼を実現させるとともに、炉内状況に影響されることなく微粉炭の安定した高効率燃焼を実現させる、▲3▼微粉炭の燃焼による燃焼ガスを有意に二次燃焼させない、という条件を全て満足させる必要があることが判る。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
【表4】
【0060】
〔操業例3〕
羽口部に図10及び図11に示す本発明の燃焼バーナを有する高炉と羽口部に図21に示す比較例の燃焼バーナを有する高炉により操業を行い、それぞれの場合について炉頂ダスト中のカーボン濃度を調べた。これらの操業例では出銑比を2.1(t/m3・day)で一定とした。
表5は各ケースの操業条件と炉頂ダスト中のカーボン濃度(単位時間当たりの平均濃度)を示しており、比較例に対して本発明の燃焼バーナを用いた場合には炉頂ダスト中のカーボン濃度が5%も低減できることが判る。
【0061】
【表5】
【0062】
【発明の効果】
以上述べたように本発明の燃焼バーナによれば、製鉄用溶解炉の炉内状況等に影響されることなく、羽口部から供給される微粉炭等の燃料を安定的に高効率燃焼させることができる。このため製鉄用溶解炉における鉄源の溶解に安価な微粉炭を大量に使用することができ、溶銑の製造コストを従来に較べて大幅に低減させることができる。また、特に上述したような新規なスクラップ溶解法における溶解炉に用いた場合には、炉内に大量に供給される微粉炭を安定して高効率燃焼させて燃焼ガス化できるため、スクラップと微粉炭とを主原料とした溶銑及び高カロリー燃料用ガスの製造を低コストで実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の燃焼バーナの構成図
【図2】本発明の他の燃焼バーナの構成図
【図3】図1に示す燃焼バーナの構成において、バーナ径方向における固体燃料吹出孔と酸素吹出孔の一配置例を示す説明図
【図4】図1に示す燃焼バーナの構成において、バーナ径方向における固体燃料吹出孔と酸素吹出孔の他の配置例を示す説明図
【図5】図2に示す燃焼バーナの構成において、バーナ径方向における固体燃料吹出孔と酸素吹出孔の一配置例を示す説明図
【図6】図2に示す燃焼バーナの構成において、バーナ径方向における固体燃料吹出孔と酸素吹出孔の他の配置例を示す説明図
【図7】図2に示す燃焼バーナの構成において、バーナ径方向における固体燃料吹出孔と酸素吹出孔の他の配置例を示す説明図
【図8】本発明の燃焼バーナを用いた場合と予燃焼室を持たない燃焼バーナを用いた場合について、微粉炭の燃焼率を経時に示すグラフ
【図9】本発明の燃焼バーナを用いた場合と予燃焼室を持たない燃焼バーナを用いた場合について、羽口部近傍における微粉炭の理想的な燃焼状況を示した説明図
【図10】本発明の燃焼バーナの一実施例を示す縦断面図
【図11】図10のXI−XI線に沿う矢視断面図
【図12】図10に示される燃焼バーナにおいて、バーナ本体がパイロットバーナを有する場合の構造例を示す横断面図
【図13】図10に示される燃焼バーナにおいて、固体燃料吹出孔の他の構造例を示す水平断面図
【図14】図13に示す固体燃料吹出孔の正面図
【図15】図13に示す固体燃料吹出孔の内部に設けられる案内羽根の一部切欠斜視図
【図16】本発明の燃焼バーナの他の実施例を示す縦断面図
【図17】図16のXVII−XVII線に沿う矢視断面図
【図18】図16に示される燃焼バーナにおいて、バーナ本体がパイロットバーナを有する場合の構造例を示す横断面図
【図19】本発明の燃焼バーナが適用されるスクラップ溶解炉の構成例を示す概念図
【図20】本発明の燃焼バーナを用いた場合と比較例の燃焼バーナを用いた場合について、[PC/O2]と炉頂乾ガス中のC濃度との関係を示すグラフ
【図21】予燃焼室を持たない燃焼バーナを備えた羽口部の断面構造を示す説明図
【図22】従来方式の羽口部の断面構造を示す説明図
【符号の説明】
1…予燃焼室、2…バーナ先端開口部、3…炉壁、4…バーナ本体、5…水冷ジャケット、6…固体燃料供給管、7,7′…酸素供給管、8…覗き窓用管体、10…耐火物、11…水冷ジャケット、12…羽口、13a,13b,14a,14b,15…配管、16…パイロットバーナ、17…シャフト炉、18…炉頂部、19…原料装入装置、20…開閉装置、21…ダクト、22…案内羽根、23…軸体、24…羽根、a…固体燃料吹出孔、b,b´…酸素吹出孔、c…覗き窓、A…燃焼バーナ、B…羽口部
Claims (2)
- シャフト炉下部の羽口部に設けられる燃焼バーナであって、該燃焼バーナは、その先端開口部の内方に予燃焼室を有するとともに、該予燃焼室の内方に、バーナ径方向中心若しくはその近傍に配される固体燃料吹出孔と、その周囲に配される酸素吹出孔とを有し、前記固体燃料吹出孔と前記酸素吹出孔が、両者の孔軸延長線の交点が予燃焼室の先端出口近傍またはそれよりもバーナ内方に位置するように構成され、バーナの軸線が水平方向に対してバーナ先端側が下向きとなるような傾き角θを有している、製鉄用溶解炉に用いられる燃焼バーナ。
- シャフト炉下部の羽口部に設けられる燃焼バーナであって、該燃焼バーナは、その先端開口部の内方に予燃焼室を有するとともに、該予燃焼室の内方に、バーナ径方向中心若しくはその近傍に配される酸素吹出孔と、その周囲に配される固体燃料吹出孔と、さらにその周囲に配される酸素吹出孔とを有し、前記固体燃料吹出孔と前記酸素吹出孔が、両者の孔軸延長線の交点が予燃焼室の先端出口近傍またはそれよりもバーナ内方に位置するように構成され、バーナの軸線が水平方向に対してバーナ先端側が下向きとなるような傾き角θを有している、製鉄用溶解炉に用いられる燃焼バーナ。
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