JP3601696B2 - 鋼帯の表面粗さの調整方法及び鋼帯 - Google Patents

鋼帯の表面粗さの調整方法及び鋼帯 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は鋼帯に表面粗さを付与すると共に、その表面粗さを調整する技術に関するものであり、より詳しくは生産性および品質の低下を引き起こすことなく、安定的に要求される表面粗さを鋼帯表面に付与する方法、及びこれらの方法により表面粗さを調整された鋼帯に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年ユーザーの鋼帯表面に対するニーズは多様にわたり、使用される用途によって必要とされる鋼帯の表面状態は異なってきている。ブライト仕上げと呼ばれる鋼帯の表面は凹凸が少なく、一般に高光沢性が必要とされる反射板や外装用の建材等の用途に使用される。一方ダル仕上げと呼ばれる鋼帯は表面に凹凸を付与することによって、プレス成形時の加工用潤滑油の保持性を向上し、成形加工時の焼き付きや擦り傷の防止に効果があることが知られている。自動車用鋼帯などでは成形性を確保するためにJIS B 0601で規定された中心線平均粗さRaを一定の範囲内とした鋼帯が要求される。
【0003】
さらに同じダル仕上げにおいてもJIS B 0610で規定された表面粗さの長波長成分である、ろ波中心線うねりWcaの大きさを小さくすることによって、プレス成形性および塗装後鮮映性に優れた鋼帯を製造できることが特開平5−15901号公報に開示されており、このような鋼帯は自動車用外板等として使用されている。
【0004】
このようなダル仕上げの鋼帯の表面粗さは、調質圧延時に表面粗さを調整したダルロールをワークロールとして用い、ロール表面粗さを鋼帯表面に転写することによって付与するのが一般的である。ところが、調質圧延におけるロール表面粗さの転写は主として圧延時の伸長率に支配されており、伸長率が大きいほどロール表面粗さが鋼帯に転写される割合(転写率)は増加していく。したがって、ある表面粗さを持ったロールによる調質圧延によって目標とする表面粗さを有する鋼帯を得るには、最適な伸長率が存在する。
【0005】
一方、調質圧延では表面粗さの付与と同時に鋼帯の機械的特性の調整も行っており、鋼帯の機械的特性は圧延時に与えられる伸長率によって変化する。このとき鋼帯に与えられる伸長率は材質により各々最適値が存在する。したがって、目標とする機械的特性を得るための伸張率範囲の制約のもとで、種々の目標とする表面粗さを得るには表面粗さの異なるロールを用意して調質圧延をする必要があった。連続焼鈍ラインや溶融亜鉛めっきラインのような連続ライン内での調質圧延において、材質や目標表面粗さに応じて種々の表面粗さのロールへ組替えを行った場合、ロール組替え回数の増加にともない生産性が大きく低下するといった問題が生じることになる。
【0006】
このような問題を解決する方法として、調質圧延時にロールバイト内に形成される潤滑液の液膜厚を調整することによって、伸長率とは独立にロール表面粗さの鋼帯への転写を制御する方法が特開平8−215708号公報に開示されている。
【0007】
この方法は、圧延機入側に設置されたノズルにて潤滑液と気体を混合し、極小径の液滴とした潤滑液を霧上に鋼帯に噴射することを特徴としている。このとき液圧や気体圧を変更し、流量や液滴径を調整することによってロールバイト内の液膜厚を制御している。
【0008】
通常ウエット圧延方式のようにロールバイト内に一定の厚さを持つ液膜が形成された場合、潤滑液は非圧縮に近く高圧が負荷されてもその体積は減少しないため、液膜厚さが厚いとロールの表面粗さがそのまま転写されず、鋼帯の表面粗さは小さくなってしまう。一方ドライ圧延方式のような場合、ロール表面と鋼帯の間に潤滑液が存在しないため、ウエット圧延方式と比較して同一伸長率におけるロール表面粗さの転写率は大きくなる。したがってロールバイト内に形成される液膜厚を制御してやればロール表面粗さの転写率を伸長率とは独立に制御することが可能となる。
【0009】
【発明が解決すべき課題】
しかしながら特開平8−215708号公報に開示された方法では、以下のような問題が生じる。すなわち、通常ダルロール表面は圧延長の増加にともない摩耗やめっき皮膜の凝着によってロール表面粗さが低下していく。ロール表面粗さが低下した場合、同一圧延条件で得られる鋼帯の表面粗さは小さくなっていき、目標の表面粗さが大きいような領域においては液膜厚を薄くしても、所定の表面粗さの鋼帯を得ることができない。そのため、ある一定量圧延した後に所定の表面粗さのロールに組替えることが必要となる。
【0010】
また、バイト内の液膜厚によって制御できるロール表面粗さの転写率はそれほど大きくないため、目標表面粗さが大きく異なる鋼帯を同一のロールで製造することは難しい。特にブライト仕上げを要求される鋼帯とダル仕上げを要求される鋼帯を連続して製造するような場合には必ずロール組み替えを行う必要がある。
【0011】
さらに通常、調質圧延では鋼帯の形状を矯正するためにロールクラウンを変更するワークロールベンダー等の形状制御アクチュエーターを使用している。形状制御アクチュエーターを使用した場合、幅方向での圧力分布は均一とはならず、その結果幅方向におけるロール表面粗さの転写も不均一となる。このような不均一な転写は鋼帯の表面ムラとして観察され、製品品質上問題となるケースがあった。このように従来技術である調質圧延において材質の調整と形状矯正を行いながら、同時に種々の所望の表面粗さを長手方向、幅方向に均一に付与することは難しい問題であった。
【0012】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、前記従来技術の問題点を解決し、生産性および品質を低下させることなく、形状矯正、鋼帯の機械的特性、表面粗さといった要求されるすべての品質を確保することができる鋼帯の表面粗さの調整方法及びこれらの方法によって表面粗さを調整された鋼帯を提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するための第1の手段は、調質圧延機の下流側に配置した鋼帯の表面粗さを制御する装置を用いて、鋼帯の表面粗さを、プレス加工時における成型性に好適な範囲に調整する方法であって、前記表面粗さを制御する装置が固体粒子を鋼帯表面に投射する装置であることを特徴とする鋼帯の表面粗さの調整方法(請求項1)である。
【0014】
本手段においては、調質圧延機は、主として又は専ら、鋼帯の形状矯正と鋼帯に所望の機械的特性を与えるための伸長率の付与にのみ使用し、鋼帯の表面粗さの調整は、調質圧延機と別に設けられた鋼帯の表面粗さを制御する装置により行う。よって、従来のように、これらの全てを調質圧延機で制御しようとする場合に比して、互いの干渉による制約がなくなり、所望の形状、機械的特性、表面粗さを容易に得ることができる。また、鋼帯に与えるべき表面粗さに応じて調質圧延機のロール組替えを行う必要がないので、ロール組替えの回数を減らし、設備稼働率を上昇させることができる。
又、ショットブラストやショットピーニングに代表される、固体粒子を鋼帯表面に投射する装置は、広く使用されているものであり、ショットの運動エネルギーや粒子径、単位面積あたりの投射量、被投射物の硬度等を変更することにより、容易に鋼帯の表面粗さを所定の値に制御することができる。
また、本手段においては、鋼帯の表面粗さを制御する装置が調質圧延機の下流に設けているので、調質圧延機に入ってくる鋼帯の表面粗さが変化する場合においても、調質圧延機に平滑な仕上げのワークロールを用いれば、一旦、鋼帯の表面が平滑にされ、その後、調質圧延機の下流に設けられた、鋼帯の表面粗さを制御する装置により鋼帯表面粗さを調整することができ、鋼帯の表面粗さを制御する装置は、平滑な表面を有する鋼帯に対して所定の粗さを付与すればよいことになり、制御を正確に行うことができる。
【0020】
前記課題を解決するための第2の手段は、前記第1の手段であって、表面粗さを制御する装置が固体粒子を液体と共に鋼帯表面に投射する装置であることを特徴とするもの(請求項2)である。
【0021】
本手段は、表面粗さを制御するためにいわゆる液体ホーニングを用いるものである。液体ホーニング(またはウエットブラスト)も表面加工の原理はショットブラストと同一であり、高圧流体の中に固体粒子を混合することによって、高圧流体によって加速された粒子が被加工物表面に衝突し、塑性変形を生じさせる。
【0022】
前記課題を解決するための第3の手段は、前記第1の手段又は第2の手段であって、鋼帯が亜鉛めっき鋼帯であることを特徴とするもの(請求項3)である。
【0023】
亜鉛めっき鋼帯に前記第1の手段又は第2の手段を用いることにより、形状や機械的性質の制約なく表面粗さを制御できるので、必要な表面粗さを正確に付与することができ、これら亜鉛めっき鋼帯をプレス加工するときに加工性を良くすることが簡単に可能となる。また、亜鉛めっき鋼帯は皮膜硬度が柔らかいので圧延ロールによらなくても、容易に表面粗さを付与することができる。さらに、調質圧延機で亜鉛めっき鋼板に表面粗さを付与しようとすると、亜鉛の凝着によってロール粗さ低下が大きくなるが、本手段においては、このようなことが発生するのを防止することもできる。
【0024】
前記課題を解決するための第4の手段は、前記第3の手段であって、亜鉛めっき鋼帯が、めっき皮膜が主としてη相から構成される亜鉛めっき鋼帯であることを特徴とするもの(請求項4)である。
【0025】
めっき皮膜が主としてη相からなる亜鉛めっき鋼板の場合には、皮膜自体が軟質であるため、固体粒子を投射した場合に容易に圧痕を形成し、表面粗度の付与が容易である。また、製品としても合金化溶融亜鉛めっき鋼板に比べて、一般に高い粗度が要求される。したがって、従来技術では圧延ロールの平均粗さを大きくしなければならず、これによってピークカウントを一定以上に大きくすることができないという問題が生じていた。すなわち、めっき皮膜が主としてη相からなる亜鉛めっき鋼板に調質圧延によって粗度を付与する方法に比べて、本発明の効果がより大きく現れることになる。
【0026】
前記課題を解決するための第5の手段は、前記第1の手段から第4の手段のいずれかによって、表面粗さを調整された鋼帯(請求項5)である。
【0027】
すでに説明したように、本手段に係る鋼帯は、形状矯正や機械的性質を所定のものとするための伸長率の付与と、表面粗さの付与が別々に行われたものであるので、これらの各性質が、共に目標値に入っており、所定の目的に使用することができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態の例を図を用いて説明する。図1は、本発明の1実施の形態の基本概念を説明するための図である。図1において、1は鋼帯、2は調質圧延機、3は表面粗さ付与装置である。
【0029】
この実施の形態の特徴とするところは図1(a)、(b)に示すように、調質圧延機2の前方または後方に表面粗さを制御する表面粗さ付与装置3を配置し、表面粗さを付与する機能と、調質圧延機が有する形状矯正及び材質調整の機能を分離した点である。
【0030】
(a)では、まず材質の調整を行うため調質圧延機2で調質圧延を行い、所定の伸張率を与えることにより所定の機械的特性を得る。形状矯正を行う場合には、調質圧延機2に設けられたワークロールベンダー等の形状制御アクチュエーターを使用する。この際、次工程の表面粗さ付与装置3で所定の表面粗さが付与されるため、調質圧延機2では転写ムラなどを気にせずにワークロールベンダー等の形状制御アクチュエーターを使用することができるため、形状精度の優れた鋼帯を製造することができる。
【0031】
このとき調質圧延機2のワークロールはいわゆるブライト仕上げなどの平滑な仕上げのロールを用いることが好ましい。調質圧延機2に入ってくる鋼帯1が種々の表面粗さやばらつきの大きい表面粗さを持っていても、平滑仕上げのワークロールを用いて調質圧延を行えば、調質圧延機2の出側、すなわち表面粗さ付与装置3の入側で鋼帯の表面粗さをばらつきのない、均一な小さい表面粗さとすることができる。
【0032】
使用されるワークロールの表面粗さRarは、鋼帯の目標粗さRasの1.6倍以下とする必要がある。その理由を以下に述べる。通常調質圧延では0.5〜2.0%程度の伸張率が付与される。このとき圧延後の鋼帯表面粗さRatは以下の(1)式で示される。ここでαは転写率であり、伸張率と共に増加していき伸張率2%で0.6程度の値となる。
Rat=α・Rar …(1)
通常調質圧延における転写率αの最大値は0.6程度であるため、圧延後の鋼帯の表面粗さRatが表面粗さ付与装置3で付与されるべき目標表面粗さRasを超えないためには(2)式を満たす必要があり、これからロールの表面粗さRarが(3)式で示されるように鋼帯の目標表面粗さRasの1.6倍以下であることが必要となる。
Ras>0.6×Rar …(2)
Rar<1.66×Ras …(3)
このようなロールを用いた調質圧延によって、材質調整と形状矯正が行われると同時に目標表面粗さRas以下のばらつきの少ない均一な表面粗さに調整された鋼帯は、表面粗さ付与装置3によって目標の表面粗さに制御でき、非常に優れた表面品質を持つ。また、調質圧延機において平滑な仕上げのワークロール1種類で圧延を行うことができ、従来のダルロールを用いた場合の初期ロール粗度の低下が生じないため、ロール組替え頻度は大幅に低減する。
【0033】
図1(b)に示されるように、表面粗さ付与装置3を調質圧延機2の前方に配置した場合は、まず表面粗さ付与装置3によって所定の表面粗さが付与される。その後、調質圧延機2によって材質調整と形状矯正を行うため平滑な仕上げのロールを用いて調質圧延が施される。このとき(a)と異なるのは、表面粗さ付与装置3で鋼帯1に付与された凹凸の突起部が、調質圧延によって平滑化され鋼帯の表面粗さRaが小さくなることであるが、あらかじめRaの変化分を考慮して、表面粗さ付与装置3によって粗さを与えておけば目標の鋼帯表面粗さRa(s)を得ることができる。
【0034】
調質圧延機2では所定の伸張率を与えて目標の機械的性質を得る。また、形状矯正を行うためワークロールベンダーを使用した場合、表面が平滑な仕上げのロールを用いれば、幅方向圧力分布の違いによる転写率の変化は0.1〜0.2程度であり、鋼帯の表面粗さとしては0.1μm以下の変化しか生じず、製品品質上は問題とならない。つまり形状制御アクチュエーターを充分に用いて、優れた形状精度を持つ鋼帯が得られる。さらに(a)の場合と同様ワークロールに平滑な仕上げのワークロールを用いるため、初期ロール粗度の低下が生じないためロール組替え頻度は低減する。
【0035】
表面粗さを独立に制御する方法としては例えばショットブラスト加工、またはショットピーニング加工がある。これは図2に示すように固体粒子4(以下ショットと記載)を高速度で被加工物5の表面に投射する加工方法であり、このショットの運動エネルギーによって被加工物の表面は塑性変形を起こし圧痕が形成される。
【0036】
このとき形成される圧痕の形状(深さ、ピッチ)はショットの運動エネルギーや粒子径、単位面積あたりの投射量、被加工物の硬度によって決定される。したがって、あらかじめ鋼帯の目標表面粗さに対して最適な投射条件を決定することによって、表面粗さを制御することができる。また、このとき塑性変形が生じる極表層部分では、加工硬化によって表面硬度の上昇が生じる。表面硬度の上昇は鋼帯の耐摩耗性の向上やプレス成形時の耐かじり性、焼き付き性の向上などに好ましい効果をもたらす。
【0037】
液体ホーニング(またはウエットブラスト)も表面加工の原理はショットブラストと同一であり、高圧流体の中に固体粒子を混合することによって、高圧流体によって加速された粒子が被加工物表面に衝突し、塑性変形を生じさせる。また、表面粗さを独立に付与する手段としては上記のショットブラスト、液体ホーニングによる方法の他にレーザー加工や電子ビーム加工などもある。
【0038】
したがって、上記に示されるような表面粗さを制御する装置にて所定の鋼帯表面粗さを付与する工程と、平滑な仕上げのワークロールを用いて調質圧延を行い、鋼帯の形状矯正、機械的特性の調整を行う工程を分離することにより生産性を低下させることなく、高品質の鋼帯を製造することが可能となる。
【0039】
本発明の実施の形態の1例を使用している溶融亜鉛めっき鋼帯の製造ラインの概略図を図3に示す。以下の図において、前出の図に示された構成要素には同じ符号を付してその説明を省略することがある。図3において、6はペイオフリール、7は焼鈍炉、8は亜鉛めっき浴、9はワイピングノズル、10はワークロール、16はクリーニング装置、17はテンションリール、18は表面粗さ計である。
【0040】
冷間圧延を経て製造された鋼帯はペイオフリール6から巻き戻され、焼鈍炉7を経た後に、溶融亜鉛めっき浴8に浸漬してめっきされる。めっき浴から出た鋼帯に対しては、ワイピングノズル9でめっき量が調整される。さらに、めっき装置の下流に材質調整と形状矯正を行う調質圧延機2が配置されている。調質圧延機2は4段式圧延機でありそのワークロール10にはRaが0.3μmのブライトロールが用いられている。調質圧延機2で所定の伸長率を付与され、ワークロールベンダーの操作により形状矯正されると同時に均一な表面粗さに調整された鋼帯1は、その下流に配置された表面粗さ付与装置3によって目標の表面粗さに制御される。
【0041】
表面粗さ付与装置3で所定の表面粗さを与えられた鋼帯は、必要があれば鋼帯表面をクリーニングするためのクリーニング装置16を通過した後、テンションリール17によって巻き取られて製品となる。このとき鋼帯の表面粗さを計測する装置18を表面粗さ付与装置3とテンションリール17の間に配置し、その測定結果から目標表面粗さとの間に偏差がある場合には、ショット投射条件にフィードバックすることによって安定的に目標の表面粗さを持つ鋼帯を製造することも可能である。
【0042】
本発明は請求項3、請求項4に示すようなめっき皮膜硬度が柔らかく、亜鉛の凝着によるロール粗さ低下が大きい亜鉛めっき鋼帯の製造方法に対して適用すればその効果は大きい、亜鉛めっき鋼帯はここに示すような溶融亜鉛めっきのままの鋼帯の場合でもよいし、その後クロメート等の化成処理を施した鋼帯でもよい。
【0043】
また、本発明は亜鉛めっき鋼帯の製造ラインのみならず、めっき処理を行わない連続焼鈍ラインや図4に示すようなバッチ方式の調質圧延ラインへ適用することも可能である。バッチ方式の調質圧延ラインではペイオフリール6で巻き戻された鋼帯1は表面粗さRa=0.3μmのワークロールを用いた調質圧延機2によって、所定の伸張率を付与され、ワークロールベンダーの操作により形状矯正されると同時に均一な表面粗さに調整される。
【0044】
その後、表面粗さ付与装置3によって目標の表面粗さに制御される。表面粗さ付与装置3で所定の表面粗さを与えられた鋼帯は、必要があれば鋼帯表面をクリーニングするためのクリーニング装置16を通過した後、テンションリール17によって巻き取られて製品となる。このとき鋼帯の表面粗さを計測する装置18を表面粗さ付与装置3とテンションリール17の間に配置し、その測定結果から目標表面粗さとの間に偏差がある場合にはショット投射条件にフィードバックすることによって安定的に目標の表面粗さを持つ鋼帯を製造することも可能である。
【0045】
この実施の形態においては、表面粗さ付与装置3はショットピーニング方式であり、図5に示すような構造をしている。図5において、11はチャンバー、12a〜12dはショット投射装置、13a、13bはショット供給装置、14a、14bは集塵機、15a、15bはクリーナブロアである。
【0046】
チャンバー11内にショット投射装置12が、鋼帯1の全幅に均一な投射密度分布が得られるよう配置されている。ショットを投射する装置としては圧縮空気によってショットを加速する空気式加速装置と、遠心ローターなどを用いてショットに遠心力を与えて投射する機械式加速装置のどちらであってもよい。ショット投射装置12にはショット供給装置13から一定量の固体粒子が供給され、鋼帯1の表面に投射される。チャンバー11の内部で鋼帯1に投射されたショットは周囲に飛散し、チャンバー11の下部に落下する。
【0047】
落下したショットは回収され、再びショット供給装置13a、13bに送られ、循環して鋼帯へ投射される。通常ショット供給装置13にはセパレータが備えられ、ショットに混じった異物や、破砕され微細になったショットが分離され集塵機14a、14bに送られる。一方、チャンバー内部で下部に落下せず、鋼帯の表裏面に滞留している微細な粒子はクリーナブロア15a、16bによって除去される。
【0048】
【実施例】
図3に示された溶融亜鉛めっき鋼帯の製造ラインにおいて本発明を適用した場合、及び比較として従来技術を用いた場合の結果を示す。表面粗さ付与装置3としてはショットブラスト装置を用いており、ショットの投射装置は空気式加速装置である。
【0049】
<実施例1>
図6は圧延長に対する溶融亜鉛めっき鋼板の表面粗さ変化を調査した結果を示す図である。従来例1はロール径φ650mm、ロールバレル長2000mm、中心線平均粗さRa=3.0μmの調質圧延ロールを用いて板厚0.8mm、板幅1200mmの溶融亜鉛めっき鋼板をライン速度90mpmで製造した場合の結果である。このとき伸長率0.8%、鋼帯の目標表面粗さはRa=1.1〜1.3μmであるが、圧延長が増加するにつれロール摩耗と亜鉛の付着によってロール粗さが低下するため、圧延長の増加と共に鋼帯のRaは低下していく。30km圧延を行った時点での鋼帯Raは1.0μmとなっており、目標表面粗さが確保できないため、ロール組み替えを行っている。
【0050】
一方、本発明を用いた実施例1においては、板厚0.8mm、板幅1200mmの溶融亜鉛めっき鋼板をロール径φ650mm、ロールバレル長2000mm、中心線平均粗さRa=0.3μmの圧延ロールを用いて調質圧延を行った後に、ショットとして粒径φ55μmのアルミナ粒子を用い、圧力0.4Mpaの圧縮空気で加速し、投射量6kg/minで鋼帯表面に投射した。このとき圧延長が増加しても鋼帯の表面粗さは変化せず、200km圧延を行っても鋼帯表面粗さは1.2μmを確保できており、ロール組み替えを行う必要がなかったので、従来例1と比較して大幅に生産性が向上した。
【0051】
<実施例2>
表1は溶融亜鉛めっき鋼板製造ラインでの製造サイクルの1例を示したものである。鋼帯の機械的特性および表面粗さはユーザースペックによって異なっている。
【0052】
【表1】
(表1)
Figure 0003601696
【0053】
図7はロール径φ650mm、ロールバレル長2000mm、中心線平均粗さRaが2.0μm、3.0μm、4.0μmのワークロールを用いて、鋼帯の調質圧延を行ったさいの伸張率に対する鋼帯の表面粗さの関係を示している。図中の○印は表1に示された製造サイクルでの目標伸張率と目標表面粗さをプロットしたものである。同一ロールですべての材料においてユーザースペックを満たすことはできず、ロール表面粗さを変更して対応するしかなく、ロール組替えを行う必要がある。一方、図8はショットピーニング加工によって粒径φ128μmのアルミナ粒子を鋼帯表面に投射した場合のショット投射条件に対する鋼帯の表面粗さ変化を示した図である。
【0054】
実施例2は、表面粗さRaが0.2μmのブライトロールを用いて伸張率0.8〜1.5%の範囲で調質圧延行った後に、ショットを投射した結果である。一方実施例3は、未調圧の鋼帯に粒径φ128μmのアルミナ粒子を投射した後に、表面粗さRaが0.2μmのロールを持いて調質圧延を行った場合の結果である。どちらの場合も加速装置での圧縮空気の圧力を大きくすることによって、鋼帯の表面粗さを変更することが可能であり、表1の挿入サイクル材すべてにおいて、目標表面粗さを得ることができる。このときすべての材料は調質圧延の前または後にショットピーニングをするしないにかかわらず、いずれも所定の引張り強さが得られた。
【0055】
<実施例3>
図9は縦軸に亜鉛めっき鋼帯エッジ部とセンター部の中心線平均粗さRaの変化量、横軸に製品の急峻度をとったものである。
従来例2はロール径φ650mm、ロールバレル長2000mm、中心線平均粗さRa=3.0μmの調質圧延ロールを用いて、板厚1.2mm、板幅1600mmの溶融亜鉛めっき鋼板をライン速度90mpmで製造した場合の結果である。このとき鋼帯の入側形状は急峻度2.0%の中伸びであり、調質圧延機でワークロールベンダーを使用することによって形状矯正を行っている。圧延後の鋼帯形状は急峻度0.2%となっており、充分フラットであるがエッジ部と鋼帯中央部において転写ムラが観察され、製品品質上問題となった。
【0056】
従来例3はロール径φ650mm、ロールバレル長2000mm、中心線平均粗さRa=3.0μmの調質圧延ロールを用いて、板厚1.2mm、板幅1600mmの溶融亜鉛めっき鋼板をライン速度90mpmで製造した場合の結果である。このとき鋼帯の入側形状は急峻度2.0%の中伸びであった、このときワークロールベンダーは使用しなかった。幅方向における転写ムラは発生していないが、圧延後の急峻度は1.6%となっており、形状が完全に矯正されていない。
【0057】
一方、本発明を用いた実施例4はロール径φ650mm、ロールバレル長2000mm、中心線平均粗さRa=0.3mの調質圧延ロールを用いて調質圧延を行った後に、粒径50μmのスチールショットを圧力0.5MPa、距離100mmで投射して、板厚1.2mm、板幅1600mmの溶融亜鉛めっき鋼板をライン速度90mpmで製造した場合の結果である。このとき鋼帯の入側形状は急峻度2.0%の中伸びであり、調質圧延機によって形状矯正を行った。製品の形状は急峻度で0.4%であり、フラットな形状が得られている。また、表面状態を目視で観察したところ、鋼帯全幅にわたって良好な表面状態が得られた。
【0058】
また、実施例5は粒径50μmのスチールショットを圧力0.5MPa、距離100mmで投射した後に、ロール径φ650mm、ロールバレル長2000mm、中心線平均粗さRa=0.3μmのロールで板厚1.2mm、板幅1600mmの溶融亜鉛めっき鋼板をライン.速度90mpmで製造した場合の結果である。このとき鋼帯の入側形状は急峻度2.0%の中伸びであり、製品の形状は急峻度で0.2%であり、フラットな形状が得られている。また、表面状態を観察したところ、鋼帯全幅に渡って良好な表面状態が得られた。
【0059】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明においては、調質圧延機は、主として又は専ら、鋼帯の形状矯正と鋼帯に所望の機械的特性を与えるための伸長率の付与にのみ使用し、鋼帯の表面粗さの調整は、調質圧延機と別に設けられた鋼帯の表面粗さを制御する装置により行っているので、従来のように、これらの全てを調質圧延機で制御しようとする場合に比して、互いの干渉による制約がなくなり、所望の形状、機械的特性、表面粗さを容易に得ることができる。また、鋼帯に与えるべき表面粗さに応じて調質圧延機のロール組替えを行う必要がないので、ロール組替えの回数を減らし、設備稼働率を上昇させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の1実施の形態の基本概念を説明するための図である。
【図2】ショットブラスト加工、またはショットピーニング加工設備の概要を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態の1例を使用している溶融亜鉛めっき鋼帯の製造ラインの概略図である。
【図4】本発明の実施の形態の1例を使用しているバッチ方式の調質圧延ラインの概要図である。
【図5】ショットピーニング方式の表面粗さ付与装置の例を示す概要図である。
【図6】圧延長に対する溶融亜鉛めっき鋼板の表面粗さ変化を調査した結果(実施例と比較例)を示す図である。
【図7】鋼帯の調質圧延を行った際の、伸張率に対する鋼帯の表面粗さの関係(比較例)を示す図である。
【図8】ショットピーニング加工によってアルミナ粒子を鋼帯表面に投射した場合の、ショット投射条件に対する鋼帯の表面粗さ変化(実施例)を示す図である。
【図9】亜鉛めっき鋼帯エッジ部とセンター部の中心線平均粗さRaの変化量と、製品の急峻度との関係(実施例と比較例)を示す図である。
【符号の説明】
1…鋼帯、2…調質圧延機、3…表面粗さ付与装置、4…固体粒子、5…被加工物、6…ペイオフリール、7…焼鈍炉、8…亜鉛めっき浴、9…ワイピングノズル、10…ワークロール、11…チャンバー、12a〜12d…ショット投射装置、13a、13b…ショット供給装置、14a、14b…集塵機、15a、15b…クリーナブロア、16…クリーニング装置、17…テンションリール、18…表面粗さ計

Claims (5)

  1. 調質圧延機の下流側に配置した鋼帯の表面粗さを制御する装置を用いて、鋼帯の表面粗さを、プレス加工時における成型性に好適な範囲に調整する方法であって、前記表面粗さを制御する装置が固体粒子を鋼帯表面に投射する装置であることを特徴とする鋼帯の表面粗さの調整方法。
  2. 請求項1に記載の鋼帯の表面粗さの調整方法であって、表面粗さを制御する装置が固体粒子を液体と共に鋼帯表面に投射する装置であることを特徴とする鋼帯の表面粗さの調整方法。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の鋼帯の表面粗さの調整方法であって、鋼帯が亜鉛めっき鋼帯であることを特徴とする鋼帯の表面粗さの調整方法。
  4. 請求項3に記載の鋼帯の表面粗さの調整方法であって、亜鉛めっき鋼帯が、めっき皮膜が主としてη相から構成される亜鉛めっき鋼帯であることを特徴とする鋼帯の表面粗さの調整方法。
  5. 請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載の鋼帯の表面粗さの調整方法によって、表面粗さを調整された鋼帯。
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