JP3610895B2 - 亜鉛めっき鋼板用調質圧延ロールの加工方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、亜鉛めっき鋼板用調質圧延ロールの加工方法、特にプレス成形性および塗装後鮮映性に優れた亜鉛めっき鋼板を得るのに好適な亜鉛めっき鋼板用調質圧延ロールの加工方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車部品や建築材料の分野では、亜鉛めっき鋼板に対する需要が増加している。プレス加工に使用される亜鉛めっき鋼板については、プレス金型と鋼板の界面における保油性を確保し、型かじりを防止することを目的として、表面粗さを大きくすることが有効とされている。一方、自動車用途等で、塗装後の鮮映性が要求される製品については、塗装前の鋼板表面における長周期の起伏を小さくすることが必要であるとされている。
【0003】
プレス加工における型かじりは、摺動によって生じる鋼板表面の新生面が、金型と局所的に凝着することが起点となって発生する。特に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき皮膜に比べて、合金化処理が施されていない亜鉛めっき鋼板のめっき皮膜は主としてη相から構成されるため、皮膜が柔らかく、かつ融点が低いことから、より凝着が発生しやすい特性を有している。
【0004】
この型かじりを防止する対策としては、プレス加工時の鋼板と金型間での保油性を向上させることが有効である。具体的には、中心線平均粗さRaを大きくすることが効果的な対策として知られている。ここで、中心線平均粗さRaとは、JIS B 0601に規定されるものである。中心線平均粗さRaの値としては、カットオフ値0.8mmに対して、1.0〜2.0μm程度の亜鉛めっき鋼板が望ましいとされている。
【0005】
また、塗装後の鮮映性については、塗装の下塗り工程等において短周期の凸凹は埋められることで、塗装後の鮮映性に影響を与えないものの、長周期の凸凹は塗装後にも残留して鮮映性を支配する。この場合、中心線うねりWcaと塗装後の鮮映性には密接な関係があることが知られており、中心線うねりWcaが小さいほど、塗装後の鮮映性に優れる。ここで、中心線うねりWcaとは、JIS B 0610に規定されるものであり、高域カットオフを施した凸凹の平均高さである。すなわち、周期の長い凸凹成分を小さくすることが、塗装後の鮮映性を良好にするための条件である。具体的には、カットオフ値0.8mmに対して、中心線うねりWcaとして0.7μm以下となるような亜鉛めっき鋼板が望ましいとされている。
【0006】
亜鉛めっき鋼板のプレス成形性と塗装後の鮮映性の両者を良好にするための条件は、前記のように短周期の凸凹の平均高さである中心線平均粗さRaを1.0〜2.0μmと比較的大きくしながら、長周期の凸凹についての平均高さである中心線うねりWcaを0.7μm以下まで低減させることが必要である。
【0007】
亜鉛めっき鋼板の調質圧延において、ロールの中心線平均粗さRaが、鋼板に転写される割合(以下、Raの転写率と呼ぶ)は、鋼板の伸長率として0.7〜1.5%の範囲では、40〜50%程度となる。したがって、亜鉛めっき鋼板の中心線平均粗さRaを1.0〜2.0μmとするためには、圧延ロールの中心線平均粗さを2.0〜4.0μmとする必要がある。一方、Raの転写率が40〜50%程度となる条件では、ロールの中心線うねりWcaが、鋼板に転写される割合(以下、Wcaの転写率と呼ぶ)は、55〜65%程度である。したがって、亜鉛めっき鋼板の中心線うねりWcaを0.7μm以下とするためには、圧延ロールの中心線うねりを1.1μm以下とする必要がある。
【0008】
以上のような亜鉛めっき鋼板への表面粗さの付与は、亜鉛めっき後の調質圧延によって行われる。ところが、調質圧延ロールの加工方法としてショットブラストを施した圧延ロールでは、凸凹がランダムな分布を有するため、隣接する凸凹の間隔を制御することが容易ではなく、プレス成形性の確保を目的として短い波長の凸凹を大きくする場合には、長い波長の凸凹成分も大きくなってしまい、塗装後の鮮映性との両立が難しいことが知られている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
特公平6−23409号公報には、高鮮映性鋼板を製造するための調質圧延ロールとして、放電加工によってWcaを1.1μm以下、Raを1.0μm以上に加工したロールを使用する方法が開示されている。ただし、放電加工では原理的にランダムな凸凹を形成するため、短波長成分の平均高さで定義されるRaが2.0μmを超える場合には、長波長成分の平均高さで定義されるWcaも必然的に大きくなり、Wcaを1.1μm以下に制御することは容易でない。該公報には調質圧延ロールの加工条件が詳細には開示されていないものの、放電加工前のロール表面を鏡面に仕上げておく方法が用いられている。一般に調質圧延ロールの鏡面仕上とは、中心線平均粗さRaが0.1μm未満であり、このような加工を行うためにはロール表面の仕上に細心の注意が必要となり、かつ非常に長い加工時間を要するため、加工能率の低下が問題となる。
【0010】
本発明は、前記問題点を考慮し、中心線平均粗さRaが1.0〜2.0μmで、かつ中心線うねりWcaを0.7μm以下に低下可能となる亜鉛めっき鋼板の調質圧延に特に適した調質圧延ロールの加工方法に関するものであり、従来技術のように予めロール表面を鏡面仕上げすることなく、調質圧延ロールの中心線平均粗さRaを高くしても、ロールの中心線うねりWcaを一定値以下に低減することを可能とする調質圧延ロールの加工方法を提供する。
【0011】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決する本発明の手段は次のとおりである。
(1)第1の手段は、砥石研削によって調質圧延ロール表面の中心線平均粗さRaを0.2〜0.7μmで、かつ中心線うねりWcaを0.5μm以下とする第1の工程と、次に前記調質圧延ロールを放電加工によって中心線平均粗さRaを2.0〜4.0μmとする第2の工程とからなることを特徴とする亜鉛めっき鋼板用調質圧延ロールの加工方法である。
(2)第2の手段は、第2の工程を、放電加工に代え、電子ビーム加工またはレーザー加工によることを特徴とする前記(1)に記載の亜鉛めっき鋼板用調質圧延ロールの加工方法である。
(3)第3の手段は、亜鉛めっき鋼板が、めっき皮膜が主としてη相からなる亜鉛めっき鋼板であることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の亜鉛めっき鋼板用調質圧延ロールの加工方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、調質圧延ロールの中心線平均粗さRaとして2.0〜4.0μmの範囲で、調質圧延ロールの中心線うねりWcaを1.1μm以下とするためのロールの加工方法について検討を行った。その結果、必ずしも放電加工前のロール表面を鏡面仕上にしなくても、放電加工後のロール表面の中心線うねりWcaを一定値以下に抑えることができることが明らかになった。
【0013】
図1は、砥石研削の条件を変更して調質圧延ロールの表面仕上を行った後の中心線うねりWca(G)と、当該調質圧延ロールに放電加工を施して、中心線平均粗さRaを2.0〜4.0μmとした後の中心線うねりWca(E)との関係を示した図である。図1から、砥石研削後の中心線うねりWca(G)が0.5μm以下であれば、放電加工後の中心線うねりWca(E)を平均的に1.1μm以下とすることが可能となることが分かる。
【0014】
一方、砥石研削後の中心線うねりWca(G)が0.5μm以下となる条件のもとで、調質圧延ロールの中心線平均粗さRa(G)と、当該調質圧延ロールに放電加工を施して中心線平均粗さRaを2.0〜4.0μmとした後の中心線うねりWca(E)との関係を示したものが図2である。図2からは、砥石研削後の中心線うねりWca(G)を0.5μm以下としても、中心線平均粗さRa(G)を0.7μm以下にしなければ、放電加工後の中心線うねりWca(E)を1.1μm以下にすることができないことが分かる。
【0015】
本発明は、以上の知見に基づくものであり、亜鉛めっき鋼板用調質圧延ロールの加工を第1、第2の2つの工程に分けて行う。第1の工程において、砥石研削によって調質圧延ロールの中心線平均粗さRa(G)を0.2〜0.7μmとし、かつ中心線うねりWca(G)を0.5μm以下とする。中心線うねりWca(G)を0.5μm以下とするのは、図1に示した知見に基づくものであり、放電加工前のロール表面の中心線うねりWca(G)が大きい場合には、放電加工後もそのうねりが残留し、放電加工後の中心線うねりWca(E)が1.1μmを超えるようになるためである。
【0016】
また、調質圧延ロールの中心線平均粗さRa(G)を0.7μm以下とするのは、図2に示した知見に基づくものであり、例え第1の工程で中心線うねりを小さくしても、放電加工で形成する凸凹は、短周期の凸凹に重畳して形成されるため、第1の工程では中心線平均粗さRa(G)を一定値以下(0.7μm以下)に抑えておく必要があるためである。言い換えると、調質圧延ロールの中心線平均粗さRa(G)を0.7μm程度まで大きくしておいても、放電加工後の中心線うねりWca(E)を一定値以下(1.1μm以下)に抑えることができることになる。
【0017】
第1の工程は、ロールの加工方法を砥石研削に限定する。第1の工程の加工手段としては、砥石研削の他、研磨加工、切削加工が例示できる。砥石研削は、研磨加工に対してはコスト面、生産性の点で有利であり、また切削加工は表面粗さを小さくできないという不利な点があるので、第1の工程の加工を砥石研削で行うことが有利である。
【0018】
一方、調質圧延ロールの中心線平均粗さRa(G)を0.2μm以上に限定している理由としては、第1の工程で中心線平均粗さを0.2μm未満の小さい粗さに仕上げるには、加工速度を落として仕上げないと、表面にスクラッチと呼ばれる微少な疵が発生して加工不良となり、ロール加工の生産性が低下するためである。
【0019】
第1の工程で中心線平均粗さRa(G)および中心線うねりWca(G)を、上記のような範囲にすることによって、第2の工程の放電加工において大きな中心線平均粗さRa(E)を付与しても、中心線うねりWca(E)を1.1μm以下に抑えることができる。
【0020】
さらに、本発明の第2の手段では、第1の工程で砥石研削によって所要の加工を施した後、第2の工程で、放電加工の代わりに、電子ビーム加工またはレーザー加工によって中心線平均粗さRa(E)を2.0〜4.0μmとする。放電加工のようにロール表面にランダムな凸凹を形成する手段と異なり、電子ビーム加工あるいはレーザー加工では、規則的な凸凹を表面に形成することができる。原理的には、これらによる加工前のロール表面が鏡面であれば、電子ビーム加工やレーザー加工による規則的な凸凹の付与によって長周期のうねり成分をゼロにすることができる。ただし、上述のように、第1の工程でロール表面を鏡面仕上するのは、加工コストが高くなるため、現実的でない。したがって、本発明のように、第1の工程で砥石研削によって中心線平均粗さRa(G)を0.2〜0.7μmで、かつ中心線うねりWca(G)を0.5μm以下とすることによって、第2の工程の電子ビーム加工あるいはレーザー加工後の調質圧延ロールのWca(E)は、より小さい値に抑えることができ、このロールを用いて調質圧延された亜鉛めっき鋼板は、めっき皮膜が主としてη相から構成されているにもかかわらず、プレス成形性と塗装後の鮮映性を両立するのに十分な特性を備えることができる。
【0021】
以下、本発明について、さらに説明する。
本発明では、亜鉛めっき鋼板の調質圧延を行うロールの加工を行う場合に、第1の工程で、中心線平均粗さRa(G)を0.2〜0.7μmで、かつ中心線うねりWca(G)を0.5μm以下とする。第1の工程は、ロールの加工は砥石研削で行う。
【0022】
砥石研削で行う場合、中心線平均粗さRa(G)については、砥石として適切な番手を選定して仕上研削を行う。この場合の砥石の番手は#120から#240程度のものを用いればよく、従来技術のように鏡面仕上を行う必要はない。また、中心線うねりWca(G)を0.5μm以下とするためには、研削設備としての防振対策を図った上で、砥石の回転速度や送り速度、被加工ロールの回転速度、研削量等を適切な値に設定する必要がある。ただし、砥石の回転速度等の加工条件を変更するだけでは、Wca(G)を0.5μm以下にできない場合には、中心線平均粗さRa(G)が0.2〜0.7μmとなるの範囲で、研削砥石の番手として高いものを使用すればよい。
【0023】
さらに、第1の工程で前記のように加工した調質圧延ロールは、第2の工程で、放電加工によって中心線平均粗さRa(E)を2.0〜4.0μmとする。放電ダル加工は、ロール表面と電極の間でスパークを発生させることで、ロールの表面を溶融させ、同時に発生するガスの圧力によって溶融部を吹き飛ばす加工方法であり、使用する電極の形状や材質、放電時の電圧、電流および放電時間を制御することによって、凸凹の大きさを変更することができる。例えば、放電時の電流値を大きくすることで、中心線平均粗さを大きくすることが可能である。
【0024】
一方、本発明の第2の手段では、第2の工程で、放電加工の代わりに、調質圧延ロールの表面を電子ビーム加工またはレーザー加工によって中心線平均粗さRa(E)を2.0〜4.0μmとする。電子ビーム加工は、エネルギー密度の高い電子ビームでロール周面を照射して表面加工する方法であり、電子ビームが照射された部分には、材料がえぐられたクレータが生じる。このとき、電子ビームの照射時間を調整することによってクレータの深さを調整することができる。レーザー加工も同様な原理でロール表面に凸凹を付与するものである。
【0025】
ところで、本発明によれば、第1の工程で、仕上げたロール表面性状(ロール表面の粗さとうねり)を測定することによって、第2の工程である放電加工、電子ビーム加工、レーザー加工を行うべきかどうかを判断することが可能となる。すなわち、従来は前記第2の工程を経た後のロール表面の粗さやうねりが目標範囲となっているかどうかを判断するため、安全側の加工条件としてロールの鏡面仕上げを行っていた。これに対して、本発明によれば、第1の工程で、砥石研削によって仕上げ、砥石研削後のロール表面性状が所定範囲にない場合には、第2の工程を行うことなく、再度砥石研削の仕上加工を行えばよく、無駄な加工工程を発生させないという効果を得ることができる。
【0026】
なお、本発明によって加工を行った調質圧延ロールは、溶融亜鉛めっきラインに配置された調質圧延機やバッチ式の調質圧延機に組込まれて、亜鉛めっき鋼板に対して0.6〜2.0%程度の伸長率を付与することで、ロール表面の中心線平均粗さRaや中心線うねりWcaが一定割合にて鋼板に転写され、プレス加工性および塗装後鮮映性に優れる亜鉛めっき鋼板の製造が可能である。
【0027】
【実施例】
本発明の実施例として、板厚0.8mmの冷延鋼板を下地として製造した溶融亜鉛めっき鋼板の調質圧延を行った結果について説明する。本実施例では、直径600mm、胴長2000mmの調質圧延ロールについて、番手#120の砥石を用いた仕上研削を行った。その結果、ロール表面の軸方向における中心線平均粗さRa(G)は0.36μm、中心線うねりWca(G)は0.4μmであった。この調質圧延ロールに放電加工を施した結果、中心線平均粗さRa(E)は2.7μm、中心線うねりWca(E)は0.97μmであった。
【0028】
本調質圧延ロールを溶融亜鉛めっきラインの調質圧延機に組込んで、亜鉛めっき鋼板の調質圧延を実施した。調質圧延の伸長率としては1.0%に設定し、調質圧延後の鋼板の表面性状を粗さ計を用いて評価した。その結果、亜鉛めっき鋼板の中心線平均粗さRaは1.1μm、中心線うねりWcaは0.65μmとなり、プレス成形性と塗装後鮮映性を両立する亜鉛めっき鋼板を製造することができた。
【0029】
一方、本発明の比較例として、#80砥石を使用して砥石研削を行った。この場合、ロール表面の軸方向における中心線平均粗さRa(G)は0.44μmであったが、中心線うねりWca(G)は0.57μmであった。この調質圧延ロールに上記実施例と同じ条件で放電加工を施した結果、中心線平均粗さRa(E)は2.7μm、中心線うねりWca(E)は1.2μmであった。
【0030】
この調質圧延ロールを使用して、上記と同じ条件で調質圧延を実施した結果、亜鉛めっき鋼板の中心線平均粗さRaは1.1μm、中心線うねりWcaは0.77μmとなり、プレス成形性は良好であるが、塗装後鮮映性を満足できなかった。
【0031】
【発明の効果】
本発明では、亜鉛めっき鋼板の調質圧延に使用する調質圧延ロールの加工の際に、放電加工、電子ビーム加工、レーザー加工等の第2の加工工程に先立つ、第1の加工工程における表面仕上を規定することで、プレス成形性と塗装後鮮映性を満足する亜鉛めっき鋼板用の調質圧延ロールを加工することができる。また、これによって、従来の技術のように研削工程の生産性を落とすことなく、かつ無駄な再加工工程を発生させることがなくなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】研削工程後の中心線うねりと放電加工後の中心線うねりとの関係を示す図である。
【図2】研削工程後の中心線平均粗さと放電加工後の中心線うねりとの関係を示す図である。
Claims (3)
- 砥石研削によって調質圧延ロール表面の中心線平均粗さRaを0.2〜0.7μmで、かつ中心線うねりWcaを0.5μm以下とする第1の工程と、次に前記調質圧延ロールを放電加工によって中心線平均粗さRaを2.0〜4.0μmとする第2の工程とからなることを特徴とする亜鉛めっき鋼板用調質圧延ロールの加工方法。
- 第2の工程を、放電加工に代え、電子ビーム加工またはレーザー加工によることを特徴とする請求項1に記載の亜鉛めっき鋼板用調質圧延ロールの加工方法。
- 亜鉛めっき鋼板が、めっき皮膜が主としてη相からなる亜鉛めっき鋼板であることを特徴とする請求項1または2に記載の亜鉛めっき鋼板用調質圧延ロールの加工方法。
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