JP3601217B2 - 電気絶縁用ポリエステルフィルム - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、電気絶縁用ポリエステルフィルムに関するものであり、さらに詳しくは、冷凍機などのモーター絶縁用途や各種電気絶縁用途などに使用される加工特性、低オリゴマー、長期耐熱性に優れた電気絶縁用ポリエステルフィルムに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
電気絶縁用ポリエステルフィルムの加工性を向上させるには、劈開の起こらないワレ性に優れたフィルムが望ましいが、ワレ性ともみ性(劈開性)の両方を十分満足するには至っていない。すなわち一方が満足すれば他方が不十分になり、また、両方を満足させる条件があったとしても延伸倍率、延伸速度の低下などにより、従来技術に比して生産性を低下させることになり、必ずしも満足いくものではなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明の目的は、生産性を低下させることなく、むしろ生産性を向上させつつ、ワレ性ともみ性の両方を向上させた、加工特性、低オリゴマー、長期耐熱性の優れた電気絶縁用ポリエステルフィルムを提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記課題は、非液晶性ポリエステル(A)と主鎖にメソゲン基を含有する共重合ポリエステル(B)の複合体からなるルフィルムであって、そのフィルムのインパクト衝撃試験機によるワレ試験が1.96J以上、もみ試験の縦方向と横方向の和が50回以上である電気絶縁用ポリエステルフィルムにより達成される。
【0006】
本発明の電気絶縁用ポリエステルフィルムは、さらに次の好ましい実施態様を含む。
【0007】
(a) 前記ポリエステルフィルムの200℃の雰囲気下で熱処理した際にフィルム長手方向破断伸度が熱処理前の1/2に減少するのに要する時間(破断伸度の半減時間)が、20時間以上であること。
【0008】
(b) 前記ポリエステルフィルム中の非液晶性ポリエステル(A)の環状三量体の含有量が0.1〜0.5重量%であること。
【0009】
(c) 前記ポリエステルフィルムの面配向係数が0.17以下であること。
【0010】
(d) 前記共重合ポリエステル(B)中のメソゲン基の共重合量が15〜90モル%であること。
【0011】
(e) 前記共重合ポリエステル(B)をポリエステルフィルム中に0.01〜10重量%含有すること。
【0012】
(f) 前記共重合ポリエステル(B)が後述する化学構造式の液晶性ポリエステルであること。
【0013】
(g) 前記共重合ポリエステル(B)がフィルム中に球または偏球状に微分散しており、その平均分散径が1μm以下であること。
【0014】
(h) 前記非液晶ポリエステル(A)の固有粘度が、0.7dl/g以上であること。
【0015】
(i) 前記非液晶性ポリエステル(A)が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびそれらの変性体からなる群から選ばれた少なくとも一種であること。
【0016】
(j) 前記ポリエステルフィルムのフィルム厚みが、50〜1000μmであること。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明のポリエステルフィルムは、非液晶性ポリエステル(A)と主鎖にメソゲン基を含有する共重合ポリエステル(B)の複合体からなるフィルムで、インパクト衝撃試験機によるワレ試験が1.96J以上であり、より好ましくは2.45J以上である。ワレ試験が1.96J以上であると加工時のトラブルが少なく好ましい。また、スコット型耐揉摩耗試験機によるもみ試験の縦方向と横方向の和が50回以上であり、より好ましくは60回以上である。もみ試験の回数が50回より少ないと劈開が起こりやすく、加工性や長期間の使用に耐えなくなり好ましくない。なお、本発明における劈開とは、フィルムが厚み方向において、層状に剥離する現象である。
【0019】
本発明で用いられる共重合ポリエステル(B)は、主鎖にメソゲン基(液晶性の構造単位)を有する溶融成形性で、かつ液晶形成性があるポリエステルである。例えば、芳香族オキシカルボニル単位、芳香族ジオキシ単位、芳香族ジカルボニル単位、アルキレンジオキシ単位およびアルキレンジカルボニル単位などから選ばれた構造単位からなる異方性溶融相を形成するポリエステルなどである。
【0020】
本発明で用いられる好ましい液晶性ポリエステルの例としては、下記(I )、(II)、(III )および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、下記(I )、(III )および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、および下記(I )、(II)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルから選ばれた一種以上が挙げられる。
【0021】
【化4】
(但し式中のR1 は、
【化5】
を示し、R2 は
【化6】
から選ばれた一種以上の基を示し、R3 は、
【化7】
から選ばれた一種以上の基を示す。また、式中Xは水素原子または塩素原子を示し、構造単位[((II)+(III )]と構造単位(IV)は実質的に等モルである。)
上記構造単位(I )は、p−ヒドロキシ安息香酸および/または6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸から生成したポリエステルの構造単位を、構造単位(II)は、4,4´−ジヒドロキシビフェニル、3,3´,5,5´−テトラメチル−4,4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t−ブチルハイドロキノン、フェニルハイドロキノン、2,6−ジヒドキシナフタレン、2,7−ジヒドキシナフタレン、2,2´−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンおよび4,4´−ジヒドロキシジフェニルエ−テルから選ばれた芳香族ジヒドロキシ化合物から生成した構造単位を、また構造単位(III )は、エチレングリコールから生成した構造単位を、さらに構造単位(IV)は、テレフタル酸、イソフタル酸、4,4´−ジフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4´−ジカルボン酸、1,2−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン−4,4´−ジカルボン酸および4,4´−ジフェニルエーテルジカルボン酸から選ばれた芳香族ジカルボン酸から生成した構造単位を各々示す。
【0022】
また、上記構造単位(I )、(II)および(IV)からなる液晶性ポリエステルの場合は、R1 が
【化8】
であり、R2 が
【化9】
から選ばれた一種以上であり、R3 が
【化10】
から選ばれた一種以上であるものが好ましい。
【0023】
また、上記構造単位(I )、(III )および(IV)からなる液晶ポリエステルの場合は、R1 が
【化11】
であり、R3 が
【化12】
であるものが特に好ましい。
【0024】
また、上記構造単位(I )、(II)、(III )および(IV)からなる液晶性ポリエステルの場合は、R1 が
【化13】
であり、R2 が
【化14】
であり、R3 が
【化15】
であるものが特に好ましい。
【0025】
上記構造単位(I )、(II)、(III )および(IV)の共重合量は任意であるが、電気絶縁特性、共重合ポリエステルの微分散化の点から次の共重合量であることが好ましい。
【0026】
上記構造単位(I )、(II)および(IV)からなる液晶性ポリエステルの場合は、上記構造単位(I )は、[(I )+(II)]の15〜90モル%が好ましく、40〜80モル%がより好ましい。構造単位(IV)は構造単位(II)と実質的に等モルである。
【0027】
また、上記構造単位(I )、(III )および(IV)からなる液晶性ポリエステルの場合は、上記構造単位(I )は[(I )+(III )]の15〜90モル%が好ましく、40〜80モル%がより好ましい。構造単位(IV)は構造単位(III )と実質的に等モルである。
【0028】
さらに、上記構造単位(I )、(II)、(III )および(IV)からなる液晶性ポリエステルの場合は、上記構造単位[(I )+(II)+(III )]に対する[(I )+(II)]のモル分率は15〜90モル%が好ましく、40〜80%がより好ましい。また、構造単位[(I )+(II)+(III )]に対する(III )のモル分率は85〜10モル%が好ましく、60〜20モル%がより好ましい。また、構造単位(I )/(II)のモル比は流動性の点から好ましくは75/25〜95/5であり、より好ましくは78/22〜93/7である。また、構造単位(IV)のモル数は構造単位[(II)+(III )]のトータルモル数と実質的に等しい。
【0029】
以上述べた説明中で「実質的に」としたのは、必要に応じてポリエステルの末端基をカルボンキシル基末端あるいはヒドロキシル末端基のいずれかを多くすることができ、このような場合には構造単位(IV)のモル数は構造単位[(II)+(III )]のトータルモル数と完全に等しくないからである。
【0030】
本発明において、上記好ましい液晶ポリエステルを重縮合する際には、上記構造単位(I )〜(IV)を構成する成分以外に、3,3´−ジフェニルジカルボン酸、2,2´−ジフェニルジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸などの脂肪族ジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環式ジカルボン酸、クロルハイドロキノン、メチルハイドロキノン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4´−ジヒドロキシベンゾフェノンなどの芳香族ジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族、脂環式ジオールおよびm−ヒドロキシ安息香酸、2,6−ヒドロキシナフトエ酸などの芳香族ヒドロキシカルボン酸およびp−アミノフェノール、p−アミノ安息香酸などを、本発明の目的を損なわない程度の少割合の範囲で、さらに共重合せしめることができる。
【0031】
本発明における共重合ポリエステル(B)の製造方法は、特に制限がなく、公知のポリエステルの重縮合法に準じて製造できる。
【0032】
例えば、上記の好ましく用いられる共重合ポリエステル(B)の製造法において、上記構造単位(III )を含まない場合は下記(1)および(2)の製造方法が、また構造単位(III )を含む場合は下記(3)の製造方法が好ましい。
【0033】
(1)p−アセトキシ安息香酸および4,4´−ジアセトキシビフェニル、4,4´−ジアセトキシベンゼンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物のジアシル化物とテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸から脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
【0034】
(2)p−ヒドロキシ安息香酸および4、4´−ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸に無水酢酸を反応させて、フェノール性水酸基をアシル化した後、脱酢酸重縮合反応によって製造する方法。
【0035】
(3)ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステルのポリマ、オリゴマーまたはビス(β−ヒドロキシエチル)テレフタレートなどの芳香族ジカルボン酸のビス(β−ヒドロキシエチル)エステルの存在下で(1)または(2)の方法により製造する方法。
【0036】
これらの重縮合反応は無触媒でも進行するが、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸カリウムおよび酢酸ナトリウム、三酸化アンチモン、金属マグネシウムなどの金属化合物を添加した方が好ましい場合もある。
【0037】
本発明では低粘度の共重合ポリエステル(B)、すなわち非液晶性ポリエステル(A)との溶融粘度比(溶融粘度(非液晶性ポリエステル)/溶融粘度(共重合ポリエステル))を大きくする共重合ポリエステルが好ましい。押出工程での剪断発熱の抑制は、非液晶性ポリエステル(A)に低粘度の共重合ポリエステル(B)を添加した場合ほどに効果的に達成できるからである。この溶融粘度比は、少なくとも5以上であることが好ましく、より好ましくは10以上、特に好ましくは50以上である。従って、共重合ポリエステル(B)の溶融粘度は、使用する非液晶性ポリエステル(A)の溶融粘度にもよるが、マトリックスポリマーである非液晶性ポリマの融点+15℃、剪断速度100秒−1の条件下で、200[Pa・sec]程度以下である。このような低い溶融粘度を有し、本発明の目的を達成する上で特に好適に用いることのできる共重合ポリエステルは、上記構造単位(I )、(II)、(III )および(IV)からなる共重合ポリエステルである。この共重合ポリエステルは、非液晶性ポリエステル(A)中での分散状態が良好であり、ワレ性およびもみ性に優れたポリエステルフィルムを得るために特に有効である。
【0038】
本発明のポリエステルフィルムは、高温下で使用させる場合が多く、200℃の雰囲気下で熱処理した際のフィルム長手方向破断伸度が熱処理前の1/2に減少するのに要する時間(破断伸度の半減時間)が好ましくは20時間以上であり、より好ましくは30時間以上であることが耐熱劣化性の点で好ましい。
【0039】
本発明のポリエステルフィルム中における非液晶性ポリエステル(A)の環状三量体の含有率は、本発明の共重合ポリエステル(B)を特定量添加することにより、0.1〜0.5重量%に低減することができる。ポリエステルフィルム中の非液晶性ポリエステル(A)の環状三量体の含有率は、ポリエステルフィルムを製造する際に用いられる非液晶性ポリエステル(A)の原料チップにもよるが、本発明の共重合ポリエステル(B)を適量添加すると、溶融押出時のオリゴマー増量が激減し、その結果、環状三量体の含有率の低いポリエステルフィルムが得られる。この環状三量体の含有率は、好ましくは0.1〜0.5重量%であり、さらに好ましくは0.1〜0.4重量%である。ポリエステルフィルム中の環状三量体の含有率を0.1重量%未満にすることは、非液晶性ポリエステル(A)の原料チップ中の環状3量体が通常0.1重量%以上であるため、非常に難しい。また、環状三量体の含有率が大きすぎると、電絶用フィルムとして用いた場合、長期間使用しているうちに、モーター部にオリゴマ−が蓄積して、使用不可となるなどの問題が発生することがある。
【0040】
本発明で使用される非液晶性ポリエステル(A)の代表的なものとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリヘキサメチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリシクロヘキサンメチレンテレフタレート、およびそれらの共重合体等が挙げられる。もちろん、主鎖にエーテル成分を有したポリエステル、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどを共重合したものでもよい。
【0041】
本発明のポリエステルフィルムは、非液晶性ポリエステル(A)と共重合ポリエステル(B)との複合体から成る。その複合形態は、共重合ポリエステル(B)が非液晶性ポリエステル(A)中に微分散しているものであり、例えばスキン・コア型、海島型および多層型繊維型などと呼ばれる種々の形態があるが、本発明の場合、特に共重合ポリエステル(B)が非液晶性ポリエステル(A)中に球または偏球状に微分散していることが好ましく、さらにその共重合ポリエステル(B)の平均分散径は好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下である場合、非液晶性ポリエステル(A)の固有粘度の低下や熱分解の防止に優れているため好ましい。また、特に限定されないが、共重合ポリエステルのドメインが偏球状の場合には、偏球状ドメインの長軸と単軸のアスペクト比(L/D)は20以下が好ましく、より好ましくは10以下である。
【0042】
共重合ポリエステル(B)を非液晶性ポリエステル(A)中に微分散させるには押出機で高剪断速度をかけることが望ましいが、押出機で500秒−1以上の剪断速度がかかると、剪断発熱が大きくなり、ポリマーが熱分解を起こしてしまい固有粘度の低下が大きく、その結果ワレ性やもみ性などのフィルム特性が大幅に低下してしまうため、押出機での剪断速度が500秒−1を超えない範囲にすることが望ましい。
【0043】
なお、本発明における押出機での剪断速度はπDN/60h[D=押出機シリンダー径(cm)、N=スクリュー回転数(rpm)、h=スクリュー計量部溝深さ(cm)]である。
【0044】
本発明の共重合ポリエステル(B)の添加量は、好ましくは0.01〜10重量%、より好ましくは0.05〜5重量%、さらに好ましくは0.1〜1重量%の範囲がよい。添加量が少ないと共重合ポリエステル(B)の効果が発現しにくく、また、多すぎると加工特性等が低下するので好ましくない。
【0045】
また、本発明のポリエステルフィルムの面配向係数は0.17以下が好ましく、より好ましくは0.16以下である。面配向係数が大きすぎるとワレ性や、もみ性が低下するので好ましくない。
【0046】
本発明の場合、非液晶性ポリエステル(A)の固有粘度が好ましくは0.7dl/g以上、より好ましくは0.75dl/g以上であり、この場合加工特性が優れており好ましい。また、固有粘度が小さいと、含有オリゴマー量がさらに増えるため好ましくない。
【0047】
本発明のポリエステルフィルムのフィルム厚みは、50μm〜1000μmが加工性、取扱性の点で好ましい。
【0048】
本発明のポリエステルフィルムは、未延伸、一軸あるいは二軸延伸したフィルムでもよいが二軸延伸したフィルムの方が経時安定性や物性のバランスの面で優れており好ましい。その場合のトータル延伸倍率は15倍以下が好ましい。トータル延伸倍率が大きすぎると、ワレ性、もみ性が低下するので好ましくない。
【0049】
また、熱固定温度は180℃〜220℃の範囲が好ましく、より好ましくは190〜210℃である。熱固定温度が低いともみ性が悪化し、高すぎるとワレ性が低下するため好ましくない。
【0050】
なお、本発明のポリエステルフィルム中には、非液晶性ポリエステルと共重合ポリエステル以外に、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、相溶化剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤および導電剤などを添加してもかまわない。
【0051】
本発明の実施において、ポリエステルフィルムは単膜でもよいが、これに他のポリマー層、例えばポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系ポリマーなどを積層してもよい。
【0052】
次に、本発明のポリエステルフィルムを製造する方法について説明するが、本発明はこれに限定されない。ここでは非液晶性ポリエステル(A)としてポリエチレンテレフタレートを用いた例を示すが、使用するポリマーにより製造条件は異なる。
【0053】
まず、常法に従って、テレフタル酸とエチレングリコールからエステル化し、またはテレフタル酸ジメチルとエチレングリコールをエステル交換により、ビス−β−ヒドロキシエチルテレフタレート(BHT)を得る。次にこのBHTを重合槽に移行しながら、真空下で280℃に加熱して重合反応を進める。ここで、固有粘度が0.5程度のポリエステルを得る。得られたポリエステルをペレット状で減圧下において固相重合する。固相重合する場合は、あらかじめ180℃以下の温度で予備結晶化させた後、190〜250℃で1mmHg程度の減圧下、10〜50時間固相重合し、固有粘度を上昇させる。
【0054】
次に、そのポリエステルのチップを共重合ポリエステル(B)のチップと混合させ、180℃で3時間以上真空乾燥したのち、280℃に加熱された押出機に供給し、フィルターで濾過して、Tダイによりシート状に押出す。非液晶性ポリエステル(A)と共重合ポリエステル(B)はチップのまま混合してもよいが、分散性を高めるために、一旦、二軸混練機等を用いて、高濃度の共重合ポリエステルを含む非液晶性ポリエステルマスターチップを作成し、そのチップを非液晶性ポリエステルチップで希釈して用いることも好ましく行なわれる。また、このとき必要があれば、2台以上の押出機、2層以上に分割されたピノール、または口金を用いて、2層以上の積層フィルムとしてもかまわない。また、異物を除去するために公知のフィルター、例えば焼結金属、多孔性セラミック、サンド、金網などを用いることが好ましい。Tダイから押出しされたシートを表面温度25℃に冷却されたドラム上に静電気力により密着固化せしめ実質的に非晶状態のキャストフィルムを得る。口金から押出す時のドラフト比は、好ましくは10〜200、より好ましくは15〜100である。得られた非晶フィルムを80〜150℃の加熱ロール群で加熱し、縦方向に2〜4倍に1段もしくは2段以上の多段で延伸、20〜50℃の冷却ロール群で冷却する。続いて、公知のテンタに導いて、そのフィルムの両端をクリップで把持しながら、80〜150℃に加熱された熱風雰囲気中で加熱し、横方向に2〜6倍延伸する。続いて、そのフィルムに180〜220℃の温度で熱固定を施す。熱固定は、緊張下で行なってもよく、また熱寸法安定性をさらに向上させるために、幅方向に弛緩しることも好ましく行なわれる。また、必要に応じ、熱固定を行なうより前に再縦延伸および/または再横延伸を行なうこともできる。
【0055】
[物性の測定方法ならびに効果の評価方法]
(1)固有粘度[dl/g]
オルトクロロフェノール中0.1g/ml濃度で25℃で測定した値である。
(2)ワレ性試験[J]
フィルムインパクト衝撃試験機(東洋精機製)を用いて、JIS−K−6745に従って測定する。
【0056】
(3)もみ試験(劈開性)[回]
スコット耐揉摩耗試験機(東洋精機製)を用いて、JIS−K−6328にしたがって測定する。サンプルサイズは幅10mm、長さ200mm、荷重2.5kgで測定し、目視で劈開が確認できるまでの回数を求める。
【0057】
(4)長期耐熱性(破断伸度の半減時間)[時間]
UL746Bに従って測定する。詳しくは、熱処理前のフィルムを長手方向に切り出し、テンシロン型引張試験機で破断伸度を測定し、初期破断伸度を求める。このフィルムを加熱オーブンで200℃の雰囲気下で熱処理し、長手方向の破断伸度が初期破断伸度の1/2に減少するのに要する時間を求める。
【0058】
(5)オリゴマー量
ポリマー100mgをo−クロルフェノール1mlに溶解し、液体クロマトグラフィー(モデル8500VARIAN社製)で測定した。ポリマーに対する重量%で表した。
【0059】
(6)面配向係数
アッベ屈折計を用い、光源をナトリウムランプとして、フィルムの屈折率(長手方向na、幅方向nb、厚さ方向nc)を測定し、次式により求めた。
面配向計数=1/2(na+nb)−nc
(7)共重合ポリエステルの平均分散径およびアスペクト比
ポリエステルフィルムを縦方向、横方向および厚さ方向に切断し、その切断面を透過型電子顕微鏡で観察する。共重合ポリエステルのドメインが球状の場合には、これらの切断面に現れた共重合ポリエステルのドメイン100個の平均値から平均分散径(D)を求め、アスペクト比(L/D)は1とした。共重合ポリエステルのドメインが偏球状、繊維状など、異方性を持つ形状を有している場合には、まず100個のドメイン各々に対して、最も長い方向の長さ(la)とそれに直交する最も長い部分の長さ(lb)を求め、Dはlbの平均値、L/Dは、(laの平均値)/(lbの平均値)とした。
【0060】
(8)溶融粘度
高下式フローテスターを用いて、280℃、剪断速度100秒−1の時の値を測定した。単位は[Pa・sec]で表す。
【0061】
(9)成形加工性
長さ5cm、幅3cmに試料を切り、幅方向のエッジより10mm幅で折り曲げ、荷重2kgをかけ、折り曲げテストを行ない、この折り曲げた10mm幅の部分の回復性(フラットな部分と折り曲げ先端部の距離)で以下のように判断し、表示した。
【0062】
フラットな部分と折り曲げ先端部の距離が3mm以下 :○
フラットな部分と折り曲げ先端部の距離が7mm以上 :×
フラットな部分と折り曲げ先端部ぼ距離が○×の中間量のもの:△
【0063】
【実施例】
本発明を実施例に基づいて説明する。
【0064】
実施例1
公知の方法で得られたポリエチレンテレフタレートのペレットを180℃減圧下で2時間予備結晶化し、さらに210℃で30時間固相重合を行ない、固有粘度0.8dl/gのポリエチレンテレフタレートのペレットを得た。共重合ポリエステルとしては、下記原料から重縮合した共重合ポリエステルA(融点265℃、液晶開始温度240℃、溶融粘度23Pa・sec)を用いた。先のポリエチレンテレフタレートに共重合ポリエステル0.5wt%添加混合し押出機に供給し、280℃の温度で溶融して、80μm以下に異物を95%カットする高精度フィルターを通過させ、Tダイにて押出し、静電印加法を用いて、表面温度25℃のキャスティングドラム上で冷却固化し、非晶状態の未延伸フィルムを得た。このフィルムを縦延伸機を用いて、縦方向に90℃で3.4倍延伸し、続いてステンターにより90℃で3.6倍横延伸し、続いて210℃で2秒間熱処理を行い、厚さ250μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを得た。このフィルムの特性は表1、表2のとおりであり、ワレ性およびもみ性の優れたフィルムであった。
【0065】
実施例2〜7、比較例1〜6
非液晶性ポリエステルの固有粘度、共重合ポリエステルの添加量、延伸倍率、熱固定温度を変更したポリエステルフィルムを製膜した。得られたフィルムの特性は表1、表2のとおりであった。ポリエステルフィルムの特性が本発明の請求範囲にある場合は、ワレ性、もみ性などの特性に優れているが、ポリエステルフィルムの特性が本発明の請求範囲から外れると、ワレ性、もみ性などの特性が大きく劣り、電気絶縁用フィルムとして不十分なフィルムとなった。
【0066】
実施例8
使用する共重合ポリエステルを、下記原料から重縮合した共重合ポリエステルB(共重合ポリエステルB:融点208℃、液晶開始温度190℃、溶融粘度5Pa・sec)に変更し実施例1と同様の方法でポリエステルフィルムを製膜した。特性は表1、表2のとおり良好である。
【0067】
【表1】
【表2】
【0068】
【発明の効果】
本発明によれば、非液晶性ポリエステル(A)と主鎖にメソゲン基を含有する共重合ポリエステルの複合体フィルムとすることにより、生産性を向上させつつワレ性、もみ性などの加工特性に優れた電気絶縁用ポリエステルフィルムが得られる。
Claims (11)
- 非液晶性ポリエステル(A)と主鎖にメソゲン基を含有する共重合ポリエステル(B)からなるフィルムであって、該フィルムのインパクト衝撃試験機によるワレ試験が1.96J以上、もみ試験の縦方向と横方向の和が50回以上であることを特徴とする電気絶縁用ポリエステルフィルム。
- 前記ポリエステルフィルムの200℃の雰囲気下で熱処理した際にフィルム長手方向破断伸度が熱処理前の1/2に減少するのに要する時間が、20時間以上であることを特徴とする請求項1記載の電気絶縁用ポリエステルフィルム。
- 前記ポリエステルフィルム中の該非液晶性ポリエステル(A)の環状三量体の含有量が0.1〜0.5重量%であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の電気絶縁用ポリエステルフィルム。
- 前記ポリエステルフィルムの面配向係数が0.17以下であることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の電気絶縁用ポリエステルフィルム。
- 前記共重合ポリエステル(B)中のメソゲン基の共重合量が15〜90モル%であることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の電気絶縁用ポリエステルフィルム。
- 前記共重合ポリエステル(B)をポリエステルフィルム中に0.01〜10重量%含有することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれかに記載の電気絶縁用ポリエステルフィルム。
- 前記共重合ポリエステル(B)が下記(I)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、下記(I)、(II)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステル、および下記(I )、(II)、(III)および(IV)の構造単位からなる液晶性ポリエステルから選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれかに記載の電気絶縁用ポリエステルフィルム。
- 前記共重合ポリエステル(B)がフィルム中に球または偏球状に微分散しており、その平均分散径が1μm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の電気絶縁用ポリエステルフィルム。
- 前記非液晶ポリエステル(A)の固有粘度が0.7dl/g以上であることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれかに記載の電気絶縁用ポリエステルフィルム。
- 前記非液晶性ポリエステル(A)が、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびそれらの変性体からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする請求項1〜請求項9のいずれかに記載の電気絶縁用ポリエステルフィルム。
- 前記ポリエステルフィルムのフィルム厚みが50〜1000μmであることを特徴とする請求項1〜請求項10のいずれかに記載の電気絶縁用ポリエステルフィルム。
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