JP3596506B2 - 冷凍装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、冷凍装置の制御に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、冷媒回路で冷媒を循環させて蒸気圧縮式の冷凍サイクルを行う冷凍装置が広く知られている。通常、冷凍装置の冷媒回路には、圧縮機、凝縮器、膨張弁、及び蒸発器が設けられている。この種の冷凍装置において、膨張弁の開度は、蒸発器の出口における冷媒の過熱度、即ち圧縮機へ吸入される冷媒の過熱度が一定に保たれるように調節される。そして、上記冷凍装置では、膨張弁の開度調節を行うことで、蒸発器における冷媒の吸熱量を確保すると共に、いわゆる液バックによる圧縮機の破損を防止している。
【0003】
また、上記膨張弁としては、日本冷凍協会発行の「冷凍空調便覧 新版・第5版 機器編」136〜138ページに開示されているように、電子膨張弁が知られている。この電子膨張弁は、その開度が電気的に制御されるものである。従って、電子膨張弁の開度制御を行うには、圧縮機へ吸入される冷媒の過熱度(吸入過熱度)を検出する必要がある。このため、電子膨張弁を用いる冷凍装置では、圧縮機へ吸入される冷媒の温度と圧力をそれぞれセンサによって測定している。そして、圧力の測定値における冷媒の飽和温度を既知の冷媒物性から算出し、得られた飽和温度を温度の測定値から差し引くことによって冷媒の過熱度を導出している。
【0004】
ところが、センサにより得られる測定値には、必ず誤差が含まれている。このため、上記冷凍装置において検出された吸入過熱度には2つの測定値の誤差が含まれており、吸入過熱度の検出値と実際の値との差がセンサの誤差によって拡大するおそれがある。
【0005】
また、一般的な冷凍サイクルにおいて、圧縮へ吸入される冷媒の過熱度は、5℃程度の比較的小さい値となる。従って、過熱度の検出値と実際の値との差が例え1℃程度であっても、吸入過熱度の検出値には約20%程度の大きな誤差が含まれることとなる。
【0006】
そして、このような大きな誤差を含む吸入過熱度の検出値に基づいて電子膨張弁の開度制御を行うと、液バックによる圧縮機の損傷を招く危険がある。つまり、吸入過熱度の検出値が実際の吸入過熱度よりも大きければ、例え吸入過熱度の検出値が制御目標値と一致していても、蒸発器において冷媒に過熱度がつかず、圧縮機が湿り状態の冷媒を吸入して破損してしまう可能性がある。
【0007】
この問題に対し、従来の冷凍装置では、吸入過熱度の検出値に含まれる誤差を見込んで吸入過熱度の制御目標値を大きめに設定し、吸入過熱度の検出値が実際の値よりも大きめになったとしても、圧縮機へ吸入される冷媒を確実にガス状態に保っている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、吸入過熱度の検出値が実際の値よりも常に大きめになるとは限らない。従って、吸入過熱度の制御目標値を大きめにする従来の冷凍装置では、吸入過熱度の検出値が実際の値よりも小さくなると、吸入過熱度が大きくなり過ぎてしまう。吸入過熱度がその最適値を上回ると、蒸発器では、空気や水等の対象物と単相のガス冷媒が熱交換する部分が増大し、冷媒の吸熱量を確保できなくなる。このため、蒸発器における冷媒の吸熱量を確保して充分な冷凍能力を発揮させようとすると、蒸発器としての熱交換器が大型化し、ひいては冷凍装置の大型化や製造コストの上昇を招くという問題があった。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、電子膨張弁の開度を適切に調節して圧縮機へ吸入される冷媒の過熱度を適正に保ち、冷凍装置の小型化や製造コストの低減を図ることにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、圧縮機(30)へ吸入される冷媒の過熱度だけでなく、圧縮機(30)から吐出された冷媒の過熱度をも考慮して電子膨張弁(36)の開度制御を行うようにしたものである。
【0011】
本発明が講じた第1の解決手段は、圧縮機(30)、凝縮器、電子膨張弁(36)、及び蒸発器が設けられた冷媒回路(20)で冷媒を循環させて冷凍サイクルを行う冷凍装置を対象としている。そして、上記圧縮機(30)へ吸入される冷媒の過熱度である吸入過熱度を検出する吸入過熱度検出手段(91)と、上記圧縮機(30)から吐出された冷媒の過熱度である吐出過熱度を検出する吐出過熱度検出手段(92)と、上記吸入過熱度検出手段(91)の検出値と上記吐出過熱度検出手段(92)の検出値との両方に基づいて吸入過熱度の制御目標値を設定する目標設定手段(84)と、上記吸入過熱度検出手段(91)の検出値が上記目標設定手段(84)で設定された制御目標値となるように上記電子膨張弁(36)の開度を制御する開度制御手段(85)とを備えるものである。
【0012】
本発明が講じた第2の解決手段は、圧縮機( 30 )、凝縮器、電子膨張弁( 36 )、及び蒸発器が設けられた冷媒回路( 20 )で冷媒を循環させて冷凍サイクルを行う冷凍装置を対象としている。そして、上記圧縮機( 30 )へ吸入される冷媒の過熱度である吸入過熱度を検出する吸入過熱度検出手段( 91 )と、上記圧縮機( 30 )から吐出された冷媒の過熱度である吐出過熱度を検出する吐出過熱度検出手段( 92 )と、上記吸入過熱度検出手段( 91 )の検出値と上記吐出過熱度検出手段( 92 )の検出値との両方に基づき、吸入過熱度の制御目標値を上記吸入過熱度検出手段( 91 )の検出値の誤差に対応した値に設定する目標設定手段( 84 )と、上記吸入過熱度検出手段( 91 )の検出値が上記目標設定手段( 84 )で設定された制御目標値となるように上記電子膨張弁( 36 )の開度を制御する開度制御手段( 85 )とを備えるものである。
【0013】
本発明が講じた第3の解決手段は、上記第1又は第2の解決手段において、目標設定手段( 84 )は、予め定められた複数の予定値の中から吸入過熱度検出手段( 91 )及び吐出過熱度検出手段( 92 )の検出値に応じて選択されたものを吸入過熱度の制御目標値に設定しているものである。
【0014】
本発明が講じた第4の解決手段は、上記第1又は第2の解決手段において、吐出過熱度検出手段(92)は、圧縮機(30)から吐出された冷媒の温度を測定するための吐出温度センサ(74)と、上記圧縮機(30)から吐出された冷媒の圧力である吐出圧力を検出する吐出圧力検出手段(93)と、上記吐出温度センサ(74)の測定値及び上記吐出圧力検出手段(93)の検出値を用いる演算により得られた値を吐出過熱度の検出値として出力する吐出過熱度演算部(83)とによって構成されるものである。
【0015】
本発明が講じた第5の解決手段は、上記第4の解決手段において、圧縮機(30)に設けられた電動機の回転速度を変化させるためのインバータ(65)と、上記圧縮機(30)の容量を調節するために上記インバータ(65)の出力周波数を制御する周波数制御手段(86)とを備える一方、吐出圧力検出手段(93)は、上記インバータ(65)の出力電流値を測定する電流センサ(66)と、上記圧縮機(30)へ吸入される冷媒の圧力を測定するための吸入圧力センサ(71)と、上記インバータ(65)の出力周波数、上記電流センサ(66)の測定値、及び上記吸入圧力センサ(71)の測定値を用いる演算により得られた値を吐出圧力の検出値として出力する吐出圧力演算部(81)とにより構成されるものである。
【0016】
−作用−
上記第1及び第2の解決手段では、冷凍装置(10)の冷媒回路(20)で冷媒が循環し、冷凍サイクルが行われる。具体的に、圧縮機(30)から吐出された冷媒は、凝縮器で放熱して凝縮し、その後に電子膨張弁(36)で減圧される。減圧された冷媒は、蒸発器で吸熱して蒸発し、その後に圧縮機(30)へ吸入されて圧縮される。
【0017】
これらの解決手段の冷凍装置(10)において、吸入過熱度検出手段(91)は、蒸発器で蒸発して圧縮機(30)へ吸入されるガス冷媒の過熱度(吸入過熱度)を検出する。一方、吐出過熱度検出手段(92)は、圧縮されて圧縮機(30)から吐出されるガス冷媒の過熱度(吐出過熱度)を検出する。
【0018】
また、これらの解決手段の目標設定手段(84)は、吸入過熱度の制御目標値を設定するにあたり、吸入過熱度検出手段(91)の検出値と吐出過熱度検出手段(92)の検出値の両方を考慮する。つまり、従来は吸入過熱度の制御目標値を予め設定して変更していなかったのに対し、本解決手段の目標設定手段(84)では、吸入過熱度検出手段(91)の検出値と吐出過熱度検出手段(92)の検出値とを考慮し、吸入過熱度の制御目標値を運転中に適宜設定している。
【0019】
また、これらの解決手段の開度制御手段(85)は、吸入過熱度検出手段(91)の検出値と目標設定手段(84)で設定された制御目標値とを一致させるために、電子膨張弁(36)の開度を調節する。つまり、開度制御手段(85)は、吸入過熱度検出手段(91)の検出値が目標設定手段(84)で設定された制御目標値と一致するように、電子膨張弁(36)の開度を変化させることによって吸入過熱度を変動させる。
【0020】
上記第3の解決手段では、目標設定手段(84)が複数の予定値を記憶している。この予定値は、吸入過熱度や吐出過熱度の値と対応づけられている。そして、目標設定手段(84)は、吸入過熱度検出手段(91)及び吐出過熱度検出手段(92)の検出値に基づいて複数の予定値の中から1つの値を選択し、選択した値を吸入過熱度の制御目標値に設定する。つまり、吸入過熱度の制御目標値は、吸入過熱度検出手段(91)及び吐出過熱度検出手段(92)の検出値に応じて変更される。
【0022】
上記第4の解決手段では、吐出温度センサ(74)と吐出圧力検出手段(93)と吐出過熱度演算部(83)とによって吐出過熱度検出手段(92)が構成される。尚、吐出温度センサ(74)は、圧縮機(30)から吐出された冷媒の温度を直接測定するものである必要はなく、例えば冷媒の流れる配管の温度を測定することで間接的に冷媒温度を測定するものであってもよい。吐出過熱度演算部(83)は、吐出温度センサ(74)及び吐出圧力検出手段(93)の測定値を用いて演算を行い、この演算によって吐出過熱度の検出値を導出する。
【0023】
上記第5の解決手段では、インバータ(65)と周波数制御手段(86)とが冷凍装置(10)に設けられる。圧縮機(30)に設けられた電動機へは、インバータ(65)を介して電力が供給される。インバータ(65)の出力周波数は、周波数制御手段(86)によって調節される。インバータ(65)の出力周波数を変更すると、電動機の回転速度が変化する。そして、電動機の回転速度が変わると、圧縮機(30)の容量が変化する。
【0024】
また、本解決手段では、電流センサ(66)と吸入圧力センサ(71)と吐出圧力演算部(81)とによって吐出圧力検出手段(93)が構成されている。そして、吐出圧力演算部(81)は、周波数制御手段(86)により定められるインバータ(65)の出力周波数と、電流センサ(66)の測定値と、吸入圧力センサ(71)の測定値とを用いて演算を行い、この演算によって吐出圧力の検出値を導出する。
【0025】
【発明の効果】
本発明に係る冷凍装置(10)では、目標設定手段(84)において、吸入過熱度検出手段(91)及び吐出過熱度検出手段(92)の検出値に基づいて吸入過熱度の制御目標値を設定している。このため、本発明によれば、吸入過熱度検出手段(91)の検出値に誤差が含まれていたとしても、電子膨張弁(36)を適正な開度に設定することができる。
【0026】
この点について、図1を参照しながら説明する。図1は、冷凍装置(10)で行われる冷凍サイクルを、モリエル線図(圧力−エンタルピ線図)に示したものである。
【0027】
この図1において、吸入過熱度は、点Aでの冷媒温度から点A’での冷媒温度を差し引いた値であり、通常は5℃程度の比較的小さい値となる。このため、吸入過熱度検出手段(91)の検出値が実際の吸入過熱度から1℃程度ずれただけで、吸入過熱度検出手段(91)の検出値に含まれる誤差は20%程度と比較的大きくなる。つまり、吸入過熱度の値を正確に検出するのは困難である。
【0028】
一方、吐出過熱度は、点Bでの冷媒温度から点B’での冷媒温度を差し引いた値であり、通常は25℃程度の比較的大きな値となる。このため、吐出過熱度検出手段(92)の検出値が実際の吐出過熱度から1℃程度ずれたとしても、吐出過熱度検出手段(92)の検出値に含まれる誤差は4%程度と比較的小さい。つまり、吐出過熱度の値を正確に検出するのは、それほど困難ではない。
【0029】
このように、本発明では、吸入過熱度の制御目標値する際に、比較的正確な吐出過熱度検出手段(92)の検出値を吸入過熱度検出手段(91)の検出値と併用している。従って、本発明によれば、吸入過熱度検出手段(91)の検出値に含まれる誤差が大きくても、電子膨張弁(36)の開度を適切に調節して実際の吸入過熱度を適正な値に保つことが可能となる。例えば、吸入過熱度検出手段(91)の検出値が実際よりも大きい場合には吸入過熱度の制御目標値を大きめに設定することにより、また吸入過熱度検出手段(91)の検出値が実際よりも小さい場合には吸入過熱度の制御目標値を小さめに設定することにより、実際の吸入過熱度を適正に保持することが可能である。
【0030】
以上説明したように、本発明によれば、吸入過熱度の制御目標値を変更することで電子膨張弁(36)を最適な開度に調節することができる。その結果、実際の吸入過熱度を適正な値に保持することが可能となり、蒸発器における冷媒の吸熱量を確保して熱交換器の小型化を図ることができ、ひいては冷凍装置(10)の小型化や製造コストの低減を図ることができる。
【0031】
上記第5の解決手段によれば、電流センサ(66)や吸入圧力センサ(71)の検出値などを用いる演算を行うことで、圧力センサを用いることなく吐出圧力を検出できる。ここで、冷凍装置(10)には、圧縮機(30)の保護等の目的で、従来より電流センサ(66)や吸入圧力センサ(71)が設けられている場合も多い。従って、このような場合に本解決手段を適用すれば、冷凍装置(10)にセンサを増設することなく、既存のセンサを用いて吐出圧力を検出することが可能となる。
【0032】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態は、本発明に係る冷凍装置により構成された空調機(10)である。この空調機(10)は、冷房運転と暖房運転とを切り換えて行うように構成されている。
【0033】
図2に示すように、上記空調機(10)は、冷媒回路(20)及びコントローラ(80)を備えている。この冷媒回路(20)は、室外回路(21)、室内回路(22)、液側連絡管(23)、及びガス側連絡管(24)により構成されている。室外回路(21)は、室外機(11)に設けられている。この室外機(11)には、室外ファン(12)が設けられている。一方、室内回路(22)は、室内機(13)に設けられている。この室内機(13)には、室内ファン(14)が設けられている。
【0034】
上記室外回路(21)には、圧縮機(30)、四路切換弁(33)、室外熱交換器(34)、レシーバ(35)、及び電子膨張弁(36)が設けられている。また、室外回路(21)には、ブリッジ回路(40)、過冷却回路(50)、液側閉鎖弁(25)、及びガス側閉鎖弁(26)が設けられている。更に、室外回路(21)には、ガス連通管(61)及び均圧管(63)が接続されている。
【0035】
上記室外回路(21)において、圧縮機(30)の吐出ポート(32)は、四路切換弁(33)の第1のポートに接続されている。四路切換弁(33)の第2のポートは、室外熱交換器(34)の一端に接続されている。室外熱交換器(34)の他端は、ブリッジ回路(40)に接続されている。また、このブリッジ回路(40)には、レシーバ(35)と、電子膨張弁(36)と、液側閉鎖弁(25)とが接続されている。この点については、後述する。圧縮機(30)の吸入ポート(31)は、四路切換弁(33)の第3のポートに接続されている。四路切換弁(33)の第4のポートは、ガス側閉鎖弁(26)に接続されている。
【0036】
上記ブリッジ回路(40)は、第1管路(41)、第2管路(42)、第3管路(43)、及び第4管路(44)をブリッジ状に接続して構成されている。このブリッジ回路(40)において、第1管路(41)の出口端が第2管路(42)の出口端と接続し、第2管路(42)の入口端が第3管路(43)の出口端と接続し、第3管路(43)の入口端が第4管路(44)の入口端と接続し、第4管路(44)の出口端が第1管路(41)の入口端と接続している。
【0037】
第1〜第4の各管路(41〜44)には、逆止弁が1つずつ設けられている。第1管路(41)には、その入口端から出口端に向かう冷媒の流通のみを許容する逆止弁(CV−1)が設けられている。第2管路(42)には、その入口端から出口端に向かう冷媒の流通のみを許容する逆止弁(CV−2)が設けられている。第3管路(43)には、その入口端から出口端に向かう冷媒の流通のみを許容する逆止弁(CV−3)が設けられている。第4管路(44)には、その入口端から出口端に向かう冷媒の流通のみを許容する逆止弁(CV−4)が設けられている。
【0038】
上記室外熱交換器(34)の他端は、ブリッジ回路(40)における第1管路(41)の入口端及び第4管路(44)の出口端に接続されている。ブリッジ回路(40)における第1管路(41)の出口端及び第2管路(42)の出口端は、円筒容器状に形成されたレシーバ(35)の上端部に接続されている。レシーバ(35)の下端部は、電子膨張弁(36)を介して、ブリッジ回路(40)における第3管路(43)の入口端及び第4管路(44)の入口端に接続されている。ブリッジ回路(40)における第2管路(42)の入口端及び第3管路(43)の出口端は、液側閉鎖弁(25)に接続されている。
【0039】
上記室内回路(22)には、室内熱交換器(37)が設けられている。室内回路(22)の一端は、液側連絡管(23)を介して液側閉鎖弁(25)に接続されている。室内回路(22)の他端は、ガス側連絡管(24)を介してガス側閉鎖弁(26)に接続されている。つまり、液側連絡管(23)及びガス側連絡管(24)は、室外機(11)から室内機(13)に亘って設けられている。また、上記空調機(10)の設置後において、液側閉鎖弁(25)及びガス側閉鎖弁(26)は、常に開放状態とされる。
【0040】
上記過冷却回路(50)は、その一端がレシーバ(35)の下端と電子膨張弁(36)の間に接続され、その他端が圧縮機(30)の吸入ポート(31)に接続されている。この過冷却回路(50)には、その一端から他端に向かって順に、第1電磁弁(51)と、温度自動膨張弁(52)と、過冷却熱交換器(54)とが設けられている。過冷却熱交換器(54)は、レシーバ(35)から電子膨張弁(36)へ向けて流れる冷媒と過冷却回路(50)を流れる冷媒とを熱交換させるように構成されている。また、温度自動膨張弁(52)の感温筒(53)は、過冷却回路(50)における過冷却熱交換器(54)の下流部に取り付けられている。
【0041】
上記ガス連通管(61)は、その一端がレシーバ(35)の上端部に接続され、その他端が電子膨張弁(36)とブリッジ回路(40)の間に接続されている。また、ガス連通管(61)の途中には、第2電磁弁(62)が設けられている。
【0042】
上記均圧管(63)は、一端がガス連通管(61)における第2電磁弁(62)とレシーバ(35)の間に接続され、他端が室外回路(21)における圧縮機(30)の吐出ポート(32)と四路切換弁(33)の間に接続されている。また、均圧管(63)には、その一端から他端に向かう冷媒の流通のみを許容する均圧用逆止弁(53)が設けられている。
【0043】
上記圧縮機(30)は、密閉型で高圧ドーム型に構成されている。具体的に、この圧縮機(30)は、スクロール型の圧縮機構と、該圧縮機構を駆動する電動機とを、円筒状のハウジングに収納して構成されている。吸入ポート(31)から吸い込まれた冷媒は、圧縮機構へ直接導入される。圧縮機構で圧縮された冷媒は、一旦ハウジング内に吐出された後に吐出ポート(32)から送り出される。尚、圧縮機構及び電動機は、図示を省略する。
【0044】
上記圧縮機(30)の電動機には、インバータ(65)を通じて電力が供給される。このインバータ(65)の出力周波数を変更すると、電動機の回転数が変化して圧縮機容量が変化する。つまり、上記圧縮機(30)は、その容量が可変に構成されている。
【0045】
上記室外熱交換器(34)は、クロスフィン式のフィン・アンド・チューブ型熱交換器により構成されている。また、この室外熱交換器(34)は、互いに直列接続された2つの部分から構成されている。室外熱交換器(34)には、室外ファン(12)によって室外空気が供給される。そして、室外熱交換器(34)は、冷媒回路(20)を循環する冷媒と室外空気とを熱交換させる。
【0046】
上記室内熱交換器(37)は、クロスフィン式のフィン・アンド・チューブ型熱交換器により構成されている。この室内熱交換器(37)には、室内ファン(14)によって室内空気が供給される。そして、室内熱交換器(37)は、冷媒回路(20)の冷媒と室内空気とを熱交換させる。
【0047】
上記四路切換弁(33)は、第1のポートと第2のポートが連通し且つ第3のポートと第4のポートが連通する状態(図2に実線で示す状態)と、第1のポートと第4のポートが連通し且つ第2のポートと第3のポートが連通する状態(図2に破線で示す状態)とに切り換わる。この四路切換弁(33)の切換動作によって、冷媒回路(20)における冷媒の循環方向が反転する。
【0048】
上記空調機(10)には、各種のセンサが設けられている。これらセンサの測定値は、上記コントローラ(80)に入力されて、空調機(10)の運転制御に用いられる。
【0049】
具体的に、本実施形態の空調機(10)には、インバータ(65)の出力電流値を測定するための電流センサ(66)が設けられている。この電流センサ(66)は、測定した値を出力電流測定値として出力する。
【0050】
圧縮機(30)の吸入ポート(31)に接続する配管には、圧縮機(30)へ吸入される冷媒の圧力(吸入圧力)を測定するための吸入圧力センサ(71)と、圧縮機(30)へ吸入される冷媒の温度(吸入温度)を測定するための吸入温度センサ(77)とが設けられている。吸入圧力センサ(71)は、測定した値を吸入圧力測定値として出力する。一方、吸入温度センサ(77)は、圧縮機(30)へ吸入される冷媒が流れる配管の温度を吸入温度として測定し、測定した値を吸入温度測定値として出力する。
【0051】
圧縮機(30)の吐出ポート(32)に接続する配管には、圧縮機(30)から吐出された冷媒の温度(吐出温度)を検出するための吐出温度センサ(74)が設けられている。この吐出温度センサ(74)は、圧縮機(30)から吐出された冷媒が流れる配管の温度を吐出温度として測定し、測定した値を吐出温度測定値として出力する。
【0052】
室外機(11)には、室外空気の温度を測定するための外気温センサ(72)が設けられている。また、室外熱交換器(34)には、その伝熱管温度を測定するための室外熱交換器温度センサ(73)が設けられている。
【0053】
室内機(13)には、室内熱交換器(37)へ送られる室内空気の温度を測定するための内気温センサ(75)が設けられている。この内気温センサ(75)は、測定した値を室内温度測定値として出力する。また、室内熱交換器(37)には、その伝熱管温度を測定するための室内熱交換器温度センサ(76)が設けられている。この室内熱交換器温度センサ(76)は、測定した値を熱交換器温度測定値として出力する。
【0054】
図3に示すように、上記コントローラ(80)には、吐出圧力演算部(81)、吸入過熱度演算部(82)、吐出過熱度演算部(83)、開度目標設定部(84)、開度制御部(85)、及び圧縮機制御部(86)が設けられている。
【0055】
上記圧縮機制御部(86)は、周波数制御手段を構成している。この圧縮機制御部(86)には、内気温センサ(75)からの室内温度測定値と、室内熱交換器温度センサ(76)からの熱交換器温度測定値と、図外のリモコンからの設定温度とが入力されている。尚、この設定温度は、ユーザーがリモコンを操作することにより入力される。そして、圧縮機制御部(86)は、室内温度測定値、熱交換器温度測定値、及び設定温度に基づいてインバータ(65)の出力周波数を制御し、圧縮機(30)の容量を変化させることで空調能力を調節するように構成されている。
【0056】
上記吐出圧力演算部(81)には、圧縮機制御部(86)により指令されるインバータ(65)の出力周波数と、電流センサ(66)からの出力電流測定値と、吸入圧力センサ(71)からの吸入圧力測定値とが入力されている。この吐出圧力演算部(81)は、入力された値を用いて演算を行い、その演算により得られた値を吐出圧力検出値として出力するように構成されている。そして、吐出圧力演算部(81)と、電流センサ(66)と、吸入圧力センサ(71)とが吐出圧力検出手段(93)を構成している。
【0057】
上記吸入過熱度演算部(82)には、吸入温度センサ(77)からの吸入温度測定値と、吸入圧力センサ(71)からの吸入圧力測定値とが入力されている。この吸入過熱度演算部(82)は、入力された値を用いて演算を行い、その演算により得られた値を吸入過熱度検出値として出力するように構成されている。そして、吸入過熱度演算部(82)と、吸入温度センサ(77)と、吸入圧力センサ(71)とが吸入過熱度検出手段(91)を構成している。
【0058】
上記吐出過熱度演算部(83)には、吐出温度センサ(74)からの吐出温度測定値と、吐出圧力演算部(81)からの吐出圧力検出値とが入力されている。この吐出過熱度演算部(83)は、入力された値を用いて演算を行い、その演算により得られた値を吐出過熱度検出値として出力するように構成されている。そして、吐出過熱度演算部(83)と、吐出温度センサ(74)と、吐出圧力演算部(81)等により構成される吐出圧力検出手段(93)とが吸入過熱度検出手段(91)を構成している。
【0059】
上記開度目標設定部(84)は、目標設定手段を構成している。開度目標設定部(84)には、吸入過熱度演算部(82)からの吸入過熱度検出値と、吐出過熱度演算部(83)からの吐出過熱度検出値とが入力されている。また、開度目標設定部(84)は、複数の予定値を予め記憶している。そして、開度目標設定部(84)は、複数の予定値の中から入力された値に応じたものを選択し、選択した予定値を吸入過熱度の制御目標値に設定するように構成されている。更に、開度目標設定部(84)は、吸入過熱度検出値や吐出過熱度検出値によっては、吸入過熱度の制御目標値を所定時間毎に増減させるように構成されている。
【0060】
上記開度制御部(85)は、開度制御手段を構成している。開度制御部(85)には、吸入過熱度演算部(82)からの吸入過熱度検出値と、開度目標設定部(84)で設定された吸入過熱度の制御目標値が入力されている。そして、開度制御部(85)は、吸入過熱度検出値が制御目標値となるように、電子膨張弁(36)の開度を操作するように構成されている。
【0061】
−運転動作−
上記空調機(10)の運転動作について説明する。この空調機(10)は、冷却動作による冷房運転と、ヒートポンプ動作による暖房運転とを切り換えて行う。
【0062】
《冷房運転》
冷房運転時には、四路切換弁(33)が図2に実線で示す状態に切り換えられると共に、第1電磁弁(51)が開放され、第2電磁弁(62)が閉鎖される。また、後述するように、電子膨張弁(36)の開度が適宜調節される。更に、室外ファン(12)及び室内ファン(14)が運転される。この状態で冷媒回路(20)において冷媒が循環し、冷凍サイクルが行われる。その際、室外熱交換器(34)が凝縮器として機能し、室内熱交換器(37)が蒸発器として機能する。
【0063】
具体的に、圧縮機(30)の吐出ポート(32)から吐出された冷媒は、四路切換弁(33)を通って室外熱交換器(34)へ送られる。室外熱交換器(34)では、冷媒が室外空気に対して放熱して凝縮する。凝縮した冷媒は、ブリッジ回路(40)の第1管路(41)を通ってレシーバ(35)に流入する。レシーバ(35)から流出した高圧の液冷媒は、その一部が分流されて過冷却回路(50)へ流入し、残りが過冷却熱交換器(54)へ流入する。
【0064】
過冷却回路(50)へ流入した冷媒は、温度自動膨張弁(52)で減圧されて低圧冷媒となり、その後に過冷却熱交換器(54)へ流入する。過冷却熱交換器(54)では、レシーバ(35)からの高圧液冷媒と、温度自動膨張弁(52)で減圧された低圧冷媒とが熱交換を行う。そして、過冷却熱交換器(54)では、低圧冷媒が高圧液冷媒から吸熱して蒸発し、高圧液冷媒が冷却される。過冷却熱交換器(54)で蒸発した冷圧冷媒は、過冷却回路(50)を流れて圧縮機(30)に吸入される。一方、過冷却熱交換器(54)で冷却された高圧液冷媒は、電子膨張弁(36)へ送られる。
【0065】
電子膨張弁(36)では、送り込まれた高圧液冷媒が減圧される。電子膨張弁(36)で減圧された冷媒は、その後にブリッジ回路(40)の第3管路(43)から液側連絡管(23)を通って室内熱交換器(37)へ送られる。
【0066】
室内熱交換器(37)では、冷媒が室内空気から吸熱して蒸発する。つまり、室内熱交換器(37)では、室内機(13)に取り込まれた室内空気が冷媒に対して放熱する。この放熱によって室内空気の温度が低下し、低温の調和空気が生成する。生成した調和空気は、室内機(13)から室内へ供給されて冷房に利用される。
【0067】
室内熱交換器(37)で蒸発した冷媒は、ガス側連絡管(24)及び四路切換弁(33)を流れ、吸入ポート(31)から圧縮機(30)に吸入される。圧縮機(30)は、吸入した冷媒を圧縮して再び吐出ポート(32)から吐出する。冷媒回路(20)では、以上のように冷媒が循環して冷却動作が行われる。
【0068】
《暖房運転》
暖房運転時には、四路切換弁(33)が図2に破線で示す状態に切り換えられると共に、第1電磁弁(51)及び第2電磁弁(62)が閉鎖されている。また、後述するように、電子膨張弁(36)の開度が適宜調節される。更に、室外ファン(12)及び室内ファン(14)が運転される。この状態で冷媒回路(20)において冷媒が循環し、冷凍サイクルが行われる。その際、室内熱交換器(37)が凝縮器として機能し、室外熱交換器(34)が蒸発器として機能する。
【0069】
具体的に、圧縮機(30)の吐出ポート(32)から吐出された冷媒は、四路切換弁(33)からガス側連絡管(24)を通って室内熱交換器(37)へ送られる。室内熱交換器(37)では、冷媒が室内空気に対して放熱して凝縮する。つまり、室内熱交換器(37)では、室内機(13)に取り込まれた室内空気が冷媒によって加熱される。この加熱によって室内空気の温度が上昇し、暖かい調和空気が生成する。生成した調和空気は、室内機(13)から室内へ供給されて暖房に利用される。
【0070】
室内熱交換器(37)で凝縮した冷媒は、液側連絡管(23)とブリッジ回路(40)の第2管路(42)とを通ってレシーバ(35)に流入する。レシーバ(35)から流出した冷媒は、電子膨張弁(36)で減圧され、その後にブリッジ回路(40)の第4管路(44)を通って室外熱交換器(34)へ送られる。室外熱交換器(34)では、冷媒が室外空気から吸熱して蒸発する。
【0071】
室外熱交換器(34)で蒸発した冷媒は、四路切換弁(33)を通って吸入ポート(31)から圧縮機(30)に吸入される。圧縮機(30)は、吸入した冷媒を圧縮して再び吐出ポート(32)から吐出する。冷媒回路(20)では、以上のように冷媒が循環してヒートポンプ動作が行われる。
【0072】
−コントローラの動作−
《圧縮機の容量制御》
上記コントローラ(80)の圧縮機制御部(86)が圧縮機の容量を制御する動作について説明する。この圧縮機制御部(86)へは、内気温センサ(75)からの室内温度測定値と、室内熱交換器温度センサ(76)からの熱交換器温度測定値と、図外のリモコンからの設定温度とが入力される。
【0073】
先ず、上記圧縮機制御部(86)は、蒸発温度目標値(TeS)又は凝縮温度目標値(TcS)の設定を行う。具体的に、この圧縮機制御部(86)は、下記の式〔1〕、式〔2〕に示す演算を、所定時間毎(例えば60秒毎)に行う。そして、圧縮機制御部(86)は、冷房運転時には蒸発温度目標値(TeS)を、暖房運転時には凝縮温度目標値(TcS)を、それぞれ所定時間毎に設定する。
TeS = TeSo − KT1 + KT2 … 〔1〕
TcS = TcSo + KT1 − KT2 … 〔2〕
TeS :蒸発温度目標値(冷媒蒸発温度の制御目標値)
TeSo:冷房定格能力時の冷媒蒸発温度
TcS :凝縮温度目標値(冷媒凝縮温度の制御目標値)
TcSo:暖房定格能力時の冷媒凝縮温度
KT1:室温と設定温度の温度差による能力アップ項
KT2:学習による補正項
【0074】
冷房定格能力時の蒸発温度(TeSo)と暖房定格能力時の凝縮温度(TcSo)とは、何れも所定の基準値であり、圧縮機制御部(86)に予め記録されている。この冷房定格能力時の蒸発温度(TeSo)は、JIS B 8615−1:1999に規定された冷房標準条件で定格能力が発揮される際の冷媒蒸発温度である。一方、暖房定格能力時の凝縮温度(TcSo)は、JIS B 8615−1:1999に規定された暖房標準条件で定格能力が発揮される際の冷媒凝縮温度である。
【0075】
上記の演算において、室温と設定温度の温度差による能力アップ項(KT1)は、下記の式〔3〕により算出される。この項(KT1)は、第1補正値に相当するものであり、室内温度測定値(Tr)と設定温度(TrS)の差に基づいて定められる。
KT1 = Tr − TrS … 〔3〕
Tr :室内温度測定値
TrS:設定温度
【0076】
また、学習による補正項(KT2)は、図4に示すマップに基づいて決定される。この補正項(KT2)は、第2補正値に相当する。図4のマップにおいて、横軸e1は、冷房運転時と暖房運転時とで異なる式により算出される。具体的には、下記の式に基づいて計算される。
冷房運転時:e1 = Te − TeS’
暖房運転時:e1 = TcS’ − Tc
Te :冷房運転時の熱交換器温度測定値(冷媒蒸発温度の実測値)
TeS’:現在設定されている蒸発温度目標値
Tc :暖房運転時の熱交換器温度測定値(冷媒凝縮温度の実測値)
TcS’:現在設定されている凝縮温度目標値
【0077】
図4のマップに基づいて学習による補正項(KT2)を定める際の一例を示すと、e1<−0.75で0.75≦ΔTrS(=Tr−TrS)の場合には、KT2=−2.0となる。また、−0.75≦e1<−0.25で0.25≦ΔTrS<0.75の場合には、KT2=−1.0となる。また、−0.25≦e1<0.25で−0.25≦ΔTrS<0.25の場合には、KT2=0となる。学習による補正項(KT2)は、このようにして図4のマップから定められる。
【0078】
次に、上記圧縮機制御部(86)は、熱交換器温度測定値が蒸発温度目標値又は凝縮温度目標値と一致するように、圧縮機(30)の容量を変化させるためにインバータ(65)の出力周波数を変更する。
【0079】
具体的に、冷房運転時において、圧縮機制御部(86)は、熱交換器温度測定値(即ち冷媒蒸発温度の実測値)が蒸発温度目標値(TeS)よりも高ければインバータ(65)の出力周波数を高くし、逆に蒸発温度目標値(TeS)よりも低ければインバータ(65)の出力周波数を低くする。一方、暖房運転時において、圧縮機制御部(86)は、熱交換器温度測定値(即ち冷媒凝縮温度の実測値)が凝縮温度目標値(TcS)よりも低ければインバータ(65)の出力周波数を高くし、逆に凝縮温度目標値(TcS)よりも高ければインバータ(65)の出力周波数を低くする。
【0080】
ここで、図4のマップを定める際の考え方について、冷房運転時を例に説明する。
【0081】
熱交換器温度測定値(Te)が蒸発温度目標値(TeS)よりも低い状態(e1がマイナスの状態)で且つ室内温度測定値(Tr)が設定温度(TrS)よりも高い状態(ΔTrSがプラスの状態)では、空気をもっと冷却する必要があるにも拘わらず蒸発温度目標値(TeS)が高く設定され過ぎていることとなる。従って、このような状態では、学習による補正項(KT2)をマイナスの値とし、蒸発温度目標値(TeS)が低めに設定されるようにする。
【0082】
これとは逆に、熱交換器温度測定値(Te)が蒸発温度目標値(TeS)よりも高い状態(e1がプラスの状態)で且つ室内温度測定値(Tr)が設定温度(TrS)よりも低い状態(ΔTrSがマイナスの状態)では、空気をさほど冷却する必要がないにも拘わらず蒸発温度目標値(TeS)が低く設定され過ぎていることとなる。従って、このような状態では、学習による補正項(KT2)をプラスの値とし、蒸発温度目標値(TeS)が高めに設定されるようにする。
【0083】
一方、熱交換器温度測定値(Te)が蒸発温度目標値(TeS)よりも高い状態(e1がプラスの状態)で且つ室内温度測定値(Tr)が設定温度(TrS)よりも高い状態(ΔTrSがプラスの状態)では、空気をもっと冷却する必要がある、しかも蒸発温度目標値(TeS)が低めに設定されていることとなる。また、熱交換器温度測定値(Te)が蒸発温度目標値(TeS)よりも低い状態(e1がマイナスの状態)で且つ室内温度測定値(Tr)が設定温度(TrS)よりも低い状態(ΔTrSがマイナスの状態)では、空気をあまり冷却する必要がなく、しかも蒸発温度目標値(TeS)が高めに設定されていることとなる。従って、熱交換器温度測定値(Te)が蒸発温度目標値(TeS)とほぼ一致して室内温度測定値(Tr)が設定温度(TrS)とほぼ一致する状態だけでなく、上記の状態においても学習による補正項(KT2)をゼロとし、蒸発温度目標値(TeS)が現状に維持されるようにする。
【0084】
《吐出圧力の検出》
上記コントローラ(80)の吐出圧力演算部(81)が吐出圧力検出値を導出する動作について説明する。この吐出圧力演算部(81)へは、圧縮機制御部(86)により指令されるインバータ(65)の出力周波数と、電流センサ(66)からの出力電流測定値と、吸入圧力センサ(71)からの吸入圧力測定値とが入力される。
【0085】
空調機(10)に搭載される機種の圧縮機(30)については、予め性能試験を行うことにより、電動機への入力電流値(即ちインバータ(65)の出力電流値)と吸入圧力との関係が得られる。両者の関係を2次近似式として表すと、式〔4〕に示すようになる。
【0086】
式〔4〕の係数は、圧縮機(30)の電動機へ供給される電力の周波数(即ちインバータ(65)の出力周波数)によって異なる値となる。このため、吐出圧力演算部(81)は、上記の式〔4〕を記憶すると共に、下記の表1に示すように、5つの基準周波数(60Hz,90Hz,116Hz,150Hz,180Hz)についての係数R0〜R5を記憶している。
【0087】
【表1】
【0088】
そして、吐出圧力演算部(81)は、インバータ(65)の出力周波数(f)に最も近い2つの基準値における係数を用いて吐出圧力の計算値(PH)を2つ算出し、得られた2つの計算値を用いて直線近似により吐出圧力検出値を導出する。
【0089】
この吐出圧力演算部(81)の動作について、現在のインバータ(65)の出力周波数(f)が80Hzである場合を例として具体的に説明する。この場合、吐出圧力演算部(81)は、基準周波数fA=60Hz及びfB=90Hzにおける係数を用い、吸入圧力検出値(PL)及び出力電流検出値(I)を式〔4〕へ代入して下記の2つの演算を行う。
【0090】
続いて、吐出圧力演算部(81)は、上記の演算により得られた吐出圧力の計算値PH(A)及びPH(B)を用い、下記の式で示される直線近似を行うことにより、現在のインバータ(65)の出力周波数(f)における吐出圧力の計算値PH(f)を導出する。
PH(f) = [PH(B)−PH(A)]/(fB−fA)・(f−fA)+PH(A)
その後、吐出圧力演算部(81)は、導出した吐出圧力の計算値PH(f)を吐出圧力検出値として出力する。
【0091】
尚、本実施形態では、上記の式〔4〕において出力電流検出値(I)をそのまま用いているが、この出力電流検出値(I)に代えて、電流センサ(66)から出力された出力電流検出値(I)に補正を加えた値を用いてもよい。つまり、例えば起動時等の過渡状態では、電流センサ(66)からの出力電流検出値(I)をそのまま用いると、吐出圧力の計算値(PH)が正確に得られないおそれもある。そこで、過渡状態においても吐出圧力を正確に検出する必要がある場合には、電流センサ(66)からの出力電流検出値(I)に何らかの補正を加えるようにしてもよい。
【0092】
《電子膨張弁の開度制御》
上記コントローラ(80)による電子膨張弁(36)の開度制御動作について説明する。ここでは、始めに吸入過熱度演算部(82)及び吐出過熱度演算部(83)の動作について説明し、続いて開度目標設定部(84)及び開度制御部(85)の動作について説明する。
【0093】
上記吸入過熱度演算部(82)には、吸入温度センサ(77)からの吸入温度測定値と、吸入圧力センサ(71)からの吸入圧力測定値とが入力されている。この吸入過熱度演算部(82)は、飽和圧力が吸入圧力測定値に等しい場合の飽和温度を、予め記憶する冷媒の物性に基づいて導出する。そして、吸入過熱度演算部(82)は、吸入温度測定値から飽和温度の導出値を差し引き、得られた値を吸入過熱度検出値(SHL)として出力する。
【0094】
上記吐出過熱度演算部(83)には、吐出温度センサ(74)からの吐出温度測定値と、吐出圧力演算部(81)からの吐出圧力検出値とが入力されている。この吐出過熱度演算部(83)は、飽和圧力が吐出圧力検出値に等しい場合の飽和温度を、予め記憶する冷媒の物性に基づいて導出する。そして、吐出過熱度演算部(83)は、吐出温度測定値から飽和温度の導出値を差し引き、得られた値を吐出過熱度検出値(SHH)として出力する。
【0095】
上記開度目標設定部(84)には、吸入過熱度演算部(82)から出力された吸入過熱度検出値(SHL)と、吐出過熱度演算部(83)から出力された吐出過熱度検出値(SHH)とが入力されている。また、開度目標設定部(84)では、図5に示すように、横軸を吐出過熱度検出値(SHH)として縦軸を吸入過熱度検出値(SHL)とする平面が4つの領域に分けられている。領域▲1▼は、SHH<10且つ3≦SHLの領域、及び10≦SHH<25且つ7≦SHLの領域である。領域▲2▼は、SHH<15且つSHL<3の領域、10≦SHH<30且つ3≦SHL<7の領域、及び25≦SHH且つ7≦SHLの領域である。領域▲3▼は、15≦SHH<35且つSHL<3の領域、及び30≦SHH且つ3≦SHL<7の領域である。領域▲4▼は、35≦SHH且つSHL<3の領域である。
【0096】
開度目標設定部(84)は、吸入過熱度検出値(SHL)と吐出過熱度検出値(SHH)との値に対応させて、吸入過熱度の制御目標値(SHS)の予定値を2つ記憶している。具体的に、開度目標設定部(84)は、領域▲2▼に対応させて予定値「5℃」を記憶し、領域▲3▼に対応させて予定値「2℃」を記憶している。また、開度目標設定部(84)は、領域▲1▼に対応して吸入過熱度の制御目標値(SHS)を3分間毎に「1℃」ずつ増やす動作を行う。その際、設定される制御目標値(SHS)の値は、「10℃」以下に制限されている。更に、開度目標設定部(84)は、領域▲4▼に対応して吸入過熱度の制御目標値(SHS)を3分間毎に「1℃」ずつ減らす動作を行う。その際、設定される制御目標値(SHS)の値は、「−2℃」以上に制限されている。
【0097】
開度目標設定部(84)は、入力された吸入過熱度検出値(SHL)と吐出過熱度検出値(SHH)の値により定まる点が、領域▲1▼〜▲4▼の何れに属するかを判断する。そして、開度目標設定部(84)は、その点が何れの領域に属するかに応じて吸入過熱度の制御目標値(SHS)を設定する。つまり、その点が領域▲1▼に属していれば制御目標値(SHS)を3分間毎に「1℃」ずつ上げてゆき、その点が領域▲2▼に属していれば制御目標値(SHS)を「5℃」に設定し、その点が領域▲3▼に属していれば制御目標値(SHS)を「2℃」に設定し、その点が領域▲4▼に属していれば制御目標値(SHS)を3分間毎に「1℃」ずつ下げてゆく。この開度目標設定部(84)は、以上の動作を所定時間毎(例えば3分間毎)に行い、設定した制御目標値(SHS)を出力する。
【0098】
上記開度制御部(85)には、吸入過熱度演算部(82)からの吸入過熱度検出値(SHL)と、開度目標設定部(84)で設定された吸入過熱度の制御目標値(SHS)が入力されている。そして、開度制御部(85)は、吸入過熱度検出値(SHL)が制御目標値(SHS)と一致するように、電子膨張弁(36)の開度を調節する。例えば、吸入過熱度検出値(SHL)が制御目標値(SHS)よりも高い場合、開度制御部(85)は、電子膨張弁(36)の開度を拡大する。逆に、吸入過熱度検出値(SHL)が制御目標値(SHS)よりも低い場合、開度制御部(85)は、電子膨張弁(36)の開度を絞る。
【0099】
−実施形態の効果−
本実施形態の空調機(10)では、コントローラ(80)の開度目標設定部(84)において、吸入過熱度演算部(82)から出力される吸入過熱度検出値(SHL)と、吐出過熱度演算部(83)から出力される吐出過熱度検出値(SHH)とに基づいて吸入過熱度の制御目標値(SHS)を設定している。
【0100】
一方、図1を参照しながら説明したように、計算に用いるセンサ等の測定値に含まれる誤差が同じであっても、吸入過熱度検出値(SHL)における誤差の割合よりも吐出過熱度検出値(SHH)における誤差の割合の方が小さくなる。つまり、吐出温度センサ(74)、吸入温度センサ(77)、吸入圧力センサ(71)等として特別に精度の高いセンサを用いなくても、吐出過熱度検出値(SHH)は吸入過熱度検出値(SHL)よりも比較的正確に検出される。
【0101】
このように、本実施形態の空調機(10)では、吸入過熱度の制御目標値(SHS)を設定する際に、比較的正確な吐出過熱度検出値を吸入過熱度検出値と併用している。従って、本実施形態によれば、吸入過熱度検出値に含まれる誤差が大きくても、電子膨張弁(36)の開度を適切に調節して実際の吸入過熱度を適正な値に保つことが可能となる。例えば、吸入過熱度検出値(SHL)が実際の値よりも大きい場合には吸入過熱度の制御目標値(SHS)を大きめに設定することにより、また吸入過熱度検出値(SHL)が実際の値よりも小さい場合には吸入過熱度の制御目標値(SHS)を小さめに設定することにより、実際の吸入過熱度を最適な値に保持することが可能である。
【0102】
以上説明したように、本実施形態によれば、吸入過熱度検出値(SHL)の誤差に応じて吸入過熱度の制御目標値(SHS)を変更することができ、これによって電子膨張弁(36)を最適な開度に調節することができる。その結果、実際の吸入過熱度を空調機(10)の運転に最適な値に保持することが可能となり、室内熱交換器(37)や室外熱交換器(34)の小型化が図れ、ひいては空調機(10)の小型化や製造コストの低減を図ることができる。
【0103】
また、本実施形態によれば、電流センサ(66)や吸入圧力センサ(71)の検出値などを用いる演算を行うことで、圧力センサを用いることなく吐出圧力を検出することが可能となる。ここで、空調機(10)には、圧縮機(30)の保護等の目的で、従来より電流センサ(66)や吸入圧力センサ(71)が設けられている場合も多い。従って、このような場合には、空調機(10)にセンサを増設することなく、既存のセンサを用いて吐出圧力を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】一般的な冷凍サイクルを描いたモリエル線図である。
【図2】実施形態に係る空調機の構成を示す配管系統図である。
【図3】実施形態に係るコントローラの構成を示すブロック図である。
【図4】実施形態に係る圧縮機制御部に記録されているマップである。
【図5】実施形態に係る開度目標設定部に記録された吐出過熱度検出値(SHH)、吸入過熱度検出値(SHL)、及び吸入過熱度の制御目標値(SHS)の関係を示す関係図である。
【符号の説明】
(20) 冷媒回路
(30) 圧縮機
(34) 室外熱交換器(凝縮器、蒸発器)
(36) 電子膨張弁
(37) 室内熱交換器(蒸発器、凝縮器)
(65) インバータ
(66) 電流センサ
(71) 吸入圧力センサ
(74) 吐出温度センサ
(77) 吸入温度センサ
(81) 吐出圧力演算部
(82) 吸入過熱度演算部
(83) 吐出過熱度演算部
(84) 開度目標設定部(目標設定手段)
(85) 開度制御部(開度制御手段)
(86) 圧縮機制御部(周波数制御手段)
(91) 吸入過熱度検出手段
(92) 吐出過熱度検出手段
(93) 吐出圧力検出手段
Claims (5)
- 圧縮機(30)、凝縮器、電子膨張弁(36)、及び蒸発器が設けられた冷媒回路(20)で冷媒を循環させて冷凍サイクルを行う冷凍装置であって、
上記圧縮機(30)へ吸入される冷媒の過熱度である吸入過熱度を検出する吸入過熱度検出手段(91)と、
上記圧縮機(30)から吐出された冷媒の過熱度である吐出過熱度を検出する吐出過熱度検出手段(92)と、
上記吸入過熱度検出手段(91)の検出値と上記吐出過熱度検出手段(92)の検出値との両方に基づいて吸入過熱度の制御目標値を設定する目標設定手段(84)と、
上記吸入過熱度検出手段(91)の検出値が上記目標設定手段(84)で設定された制御目標値となるように上記電子膨張弁(36)の開度を制御する開度制御手段(85)と
を備えている冷凍装置。 - 圧縮機(30)、凝縮器、電子膨張弁(36)、及び蒸発器が設けられた冷媒回路(20)で冷媒を循環させて冷凍サイクルを行う冷凍装置であって、
上記圧縮機(30)へ吸入される冷媒の過熱度である吸入過熱度を検出する吸入過熱度検出手段(91)と、
上記圧縮機(30)から吐出された冷媒の過熱度である吐出過熱度を検出する吐出過熱度検出手段(92)と、
上記吸入過熱度検出手段(91)の検出値と上記吐出過熱度検出手段(92)の検出値との両方に基づき、吸入過熱度の制御目標値を上記吸入過熱度検出手段( 91 )の検出値の誤差に対応した値に設定する目標設定手段(84)と、
上記吸入過熱度検出手段(91)の検出値が上記目標設定手段(84)で設定された制御目標値となるように上記電子膨張弁(36)の開度を制御する開度制御手段(85)と
を備えている冷凍装置。 - 請求項1又は2記載の冷凍装置において、
目標設定手段(84)は、予め定められた複数の予定値の中から吸入過熱度検出手段(91)及び吐出過熱度検出手段(92)の検出値に応じて選択されたものを吸入過熱度の制御目標値に設定している冷凍装置。 - 請求項1又は2記載の冷凍装置において、
吐出過熱度検出手段(92)は、
圧縮機(30)から吐出された冷媒の温度を測定するための吐出温度センサ(74)と、
上記圧縮機(30)から吐出された冷媒の圧力である吐出圧力を検出する吐出圧力検出手段(93)と、
上記吐出温度センサ(74)の測定値及び上記吐出圧力検出手段(93)の検出値を用いる演算により得られた値を吐出過熱度の検出値として出力する吐出過熱度演算部(83)とによって構成されている冷凍装置。 - 請求項4記載の冷凍装置において、
圧縮機(30)に設けられた電動機の回転速度を変化させるためのインバータ(65)と、
上記圧縮機(30)の容量を調節するために上記インバータ(65)の出力周波数を制御する周波数制御手段(86)とを備える一方、
吐出圧力検出手段(93)は、
上記インバータ(65)の出力電流値を測定する電流センサ(66)と、
上記圧縮機(30)へ吸入される冷媒の圧力を測定するための吸入圧力センサ(71)と、
上記インバータ(65)の出力周波数、上記電流センサ(66)の測定値、及び上記吸入圧力センサ(71)の測定値を用いる演算により得られた値を吐出圧力の検出値として出力する吐出圧力演算部(81)とにより構成されている冷凍装置。
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