JP3594127B2 - チップ型アンテナ素子およびアンテナ装置並びにそれを搭載した通信機器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、チップ型アンテナ素子とそれを用いたアンテナ装置並びにそれを搭載した通信機器に係わるものであり、特に携帯無線電話や無線LAN(ローカルエリアネットワーク)等のマイクロ波無線通信機器に好適なチップ型アンテナ素子(以下、単にアンテナ素子と言うことがある。)に関する。
【0002】
【従来の技術】
マイクロ波無線通信機器、とりわけ携帯電話などの携帯通信機器では、小形低背化を図るためにアンテナ素子としてモノポールアンテナやマイクロストリップアンテナ等が、一般に用いられている。このうち、最近適用が増加しているマイクロストリップアンテナの構造および原理に関しては、アンテナ工学ハンドブック(p109〜111 電子情報通信学会編 オーム社)にその詳しい記載がある。
【0003】
現在、実用化されているマイクロストリップアンテナ素子は、特開平10−209740号公報に記載されているように直方体状の誘電体上面に放射電極を形成し、下面から給電するものが知られている。この概略構成を図21に示す。アンテナとして動作させる場合、地導体96を配したプリント基板(図示せず)上にアンテナ素子100を図示するように配置し、下面側から給電線94によって給電が行われる。放射電極90の開放端では図示するように地導体96間で電気力線が発生し、放射電極の垂直方向に磁流が発生して空間に電波が効率良く放射される。すなわち、放射電極の一辺の長さDは通常約1/4波長に選ばれ、共振時には放射電極の垂直向きに磁流が発生し、電気力線の向きは放射電極端面から流出する磁流と直交する方向に生じるのである。尚、放射電極90の形状は長方形電極の他に円形あるいは五角形等様々な形状が提案されているが、上下あるいは左右対称なものが主に使用される。
【0004】
携帯通信機器に使用されるアンテナは、小形低背であると同時に放射効率が良く且つ指向性がないことが必要十分条件である。小形低背化のために上述したアンテナ素子は、放射電極を絶縁基板上もしくは内部に配置した構成がとられる。これは、放射電極を流れる電流が隣接する絶縁基板に影響され、その波長を短くする(波長短縮効果)ためで、放射電極を短くしても同一の放射効率が得れることから、小形なアンテナの使用が可能となる。必要なアンテナ長dは、絶縁基板の比誘電率をεr、共振周波数をf0、また光の速度をcとするならば、大略
d=c/(2f0√εr) (1)
と表される。
【0005】
上式から容易に理解されるように、マイクロストリップ構造のアンテナ素子は、伝搬周波数(=f0)を一定とするならば、絶縁基板のεrが大きければ大きい程、d、即ちアンテナ素子長を短くできる。言い換えると、比誘電率の高い基板を用いることによって、同じ性能で低背なマイクロストリップアンテナ素子を製造することが可能である。特に、携帯電話等には低背化したアンテナ装置は必須であり、従来にない小形で高性能なアンテナ素子の開発が望まれている。
【0006】
また、携帯通信機器に適用されるマイクロストリップアンテナ以外のアンテナ方式として、逆F型モノポールアンテナがある。この逆F型モノポールアンテナは、地導体板に短絡した線状導体を途中で折り曲げて放射電極とするもので、地導体板と放射電極との間に給電端子を接続した方式のアンテナである。この放射電極はおよそ1/4波長あればよいことから、先に引用したマイクロストリップアンテナ素子と比較すると、導体幅方向に展開したアンテナ方式と見なすことができる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述した従来のマイクロストリップアンテナでは、小形低背化に際して次のような課題を有していた。即ち、所定の伝搬周波数f0に対し絶縁基板の比誘電率εrを高めることによって、放射電極を短縮化して行くと、共振特性が先鋭化し、狭い周波数領域だけで動作する狭帯域化となる。これは、携帯電話等のアンテナとして好ましいことではなく、通信に利用可能な周波数帯域の制限を意味する。従って、実用的なアンテナを開発するに当たっては、第1に広帯域特性を満足する必要がある。特に、2周波以上を使用する多周波用アンテナでは、この狭帯域化現象が深刻な問題であり、絶縁基体の物性値だけで制御する範囲を超えていた。
【0008】
一般に、共振特性の帯域幅をBW、アンテナの共振時の良さをQ値とすると、共振周波数f0、BWおよびQとの間には次式のような関係を有する。
BW=f0/Q (2)
一方、マイクロストリップアンテナの高さhは絶縁基板の厚さと一致し、Qとの関係を表すと、
Q∝εr/h (3)
となることが知られている。
【0009】
このように比誘電率εrの高い絶縁基板を用いると、Q値が増して結果的に帯域幅BWの低下を招くことが、上式から説明できる。一方、背の高いアンテナを使用すれば、Qが低下するが、アンテナの小形低背化ができなくなる。要するに、アンテナの小形低背化と性能は互いにトレイドオフの関係にあり、両者を同時に満足することは非常に困難であると考えられていた。
【0010】
一方、マイクロストリップアンテナの小形化の一手法として、放射電極を中央部で2分割し、一端を短絡させる方式が知られている。この方式は、新アンテナ工学(p109〜112 新井宏之著 総合電子出版社発行)に詳しい記載がある。この構成は、線状の放射電極を中央で半分に分割し、その一端と地導体板を電気的に短絡するものである。放射電極の一辺の長さは共振周波長の1/4程度となるため、従来に比べ約50%の小形化が可能である。また、放射電極を基体の縁部に沿って設けるか、または隣接面に回り込んで設けることによって、帯域幅の拡大を図ることが可能である旨を記載した特開平11−251816号公報がある。
【0011】
ところが、このマイクロストリップアンテナ素子を携帯通信機器に組み込むと、主に放射電極の端部からの放射電波によってその近傍に配置された筐体あるいは回路基板の導体部に電流を誘起し、その導体部が見掛け上アンテナ作用を起こすことになる。この方式のアンテナでは、実装状態や環境によって特性の変動が生じやすく、給電点におけるインピーダンスの不整合、あるいは放射指向性の変動となって現れ、実装上の問題があった。
【0012】
さらに、放射電極の端部からは高周波の電磁波が放射するため、近傍に配置された電子回路部品にも影響を与え、ノイズの発生、誤動作あるいは異常発振など通信性能の劣化が課題であった。従来行われていた対策は、周辺回路部品をアンテナ素子から離隔して配置することであったが、この方法ではアンテナ周辺の実装密度を高めることにならず、通信機器の小形化に大きな障害となっていた。
【0013】
そこで、本発明は、アンテナ素子の長さや高さを大きくすることなく、Q値を確保し、高利得で且つ帯域幅を広げることの出来るアンテナ素子と、これを回路基板に実装した際に周辺の回路部品に悪影響を与えることなく省スペースと実装密度を高めたアンテナ装置及びそれを搭載した携帯情報端末などの通信機器を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
以上述べたように、アンテナ素子の小形低背化と広帯域化を同時に行うことは、従来技術では適用限界を超えていた。しかしながら、本発明者は、従来のアンテナ構成の基本原理に立ち返り、その動作をシミュレーション等を駆使し、細部に亘り深く考究した結果、放射電極と接地電極の形状を選ぶことによって等価的に複数の共振回路をアンテナ素子に発生させることができること、また、電極配置を選ぶことによって高利得の放射指向性と不必要な電界の放射を阻止できること、また、地導体への載置構成を考慮することによって占有面積を小さくしてより良い特性が得られることなどを知見した。これらにより小形低背化と高利得、広帯域特性を得ることが可能であることを想到し、本発明を完成した。
【0015】
即ち、本発明は、絶縁基体にマイクロストリップ導体を配した放射電極と、接地電極と、給電電極とを有するチップ型アンテナ素子であって、前記絶縁基体の少なくとも上面に形成され、当該絶縁基体の長手方向の一方から他方まで連続的および/または段階的に幅を狭めながら延在し、一方端が幅広の後端部で、他方端が幅狭の先端部である放射電極と、前記放射電極の後端部に直接又は容量結合して接続する第1の接地電極と、前記放射電極の先端部とギャップを介して対向する第2の接地電極と、前記放射電極と非接触で、前記基体の長手方向側面の中央よりも前記放射電極の先端部側に偏って形成された給電電極とを有するチップ型アンテナ素子である。
【0017】
そして、本発明のチップ型アンテナ素子は、前記絶縁基体の裏面のほとんどには接地電極を有していないことが好ましい。また、前記第1の接地電極は、前記基体の一方の端面とその廻りの四面を覆っており、前記第2の接地電極は、前記基体の他方の端面とその廻りの四面を覆っているものであることが好ましい。
【0018】
また、本発明において、前記放射電極の幅狭の先端部の開放端の幅をS、幅広の後端部の幅をWとしたとき、W/Sを2〜5の範囲とすることは望ましく、さらに前記放射電極は絶縁基体の隣り合う側面に亘って配置することはより好ましいことである。
【0019】
本発明は、上記したチップ型アンテナ素子を回路基板に載置したアンテナ装置にも関し、具体的には、前記絶縁基体に設けた第1、第2の接地電極を回路基板の地導体と接続するように、前記絶縁基体の長手方向を前記地導体の端部境界線と並行に、且つ放射電極の先端部側を前記地導体から遠ざけるように配置し、前記絶縁基体の長手方向の中央よりも前記放射電極の先端部側に偏って形成された給電電極に対し、前記地導体の間に設けた給電線から前記給電電極に電力を供給するようにしたアンテナ装置である。
また、本発明は、上記した何れかのアンテナ装置を搭載した通信機器であり、例えば、ブルートゥース用アンテナとして携帯電話、ヘッドフォン、パソコン、ノートPC、デジタルカメラ等に搭載した通信機器とすることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成と動作を詳しく説明する。図1は本発明の原理を説明するもので(a)は平板上にアンテナ素子を構成した場合を示し、(b)はチップ型にした場合の斜視図である。但し、本発明では(a)のような平板状のアンテナ素子であってもチップ型の範疇に入るものである。本発明のアンテナ素子は、先ず(a)に示したように従来の逆F型アンテナを例にとって単純化すれば、放射電極13を先端部の開放端(ギャップ)に向かうに従い導体幅を狭めた形状となし、開放端付近に地導体31の一部を延長し、他方辺15は地導体に接地した構成であると説明できる。そして、より具体的な実施例は(b)に示している。即ち、このアンテナ素子10は、概略直方体状の絶縁基体11の両端部に第1、第2の接地電極15および17を配し、上面の中央部に放射電極13を設けると共に、側面の放射電極の先端部側に偏って形成された給電電極14から放射電極の途中に給電する構成である。また、放射電極13の一方辺は開放端となし接地電極17との間でギャップ部12を形成し、一方の他方辺は接地電極15と一体的に接続している。ここで従来のアンテナ素子と最も異なる点は、(1)放射電極を略台形状のようになし、先端部のギャップに向かって幅を狭めながら伸びる形状としたこと。(2)絶縁基体の両端部に接地電極を設け、両接地電極は電気的に繋がっていないこと。(3)回路基板の地導体の端部境界線に対し基体の長手方向を横並び(本発明では並行と言う)となし、放射電極の先端部側のギャップ部(以下、単にギャップ部と言う)が地導体から最も遠ざかるように配置したこと。である。次に、各項目毎にその動作、作用等について詳しく説明する。
【0021】
まず、放射電極の形状であるが、高周波電流の流れに対して垂直方向の電極長さ、即ち幅を一定とせずに、ギャップ12側に接近するに従い徐々に減少させることにした。一般に、給電電源19から給電電極14を介して供給された高周波電流は、放射電極のインダクタンスと大地との間で形成されるコンデンサ容量で決まる周波数で共振を起こし、空間に電磁エネルギとして放射される。この時、接地電極15とギャップ部12を節と腹とする電流分布モードになる。放射電極の幅が一定ならば、この電流分布モードは1つしか存在しない。しかし、接地電極間に配置する放射電極の幅が一定でないこと、さらに図示する各電極配置であることによって、素子には複数の共振回路が等価的に形成される。また、各共振回路の共振周波数は、構成上かなり接近して複数存在することになり、マクロ的に見ると広帯域な共振特性となる。これはQ値の低下を示唆するものである。
【0022】
上述した現象の物理的な意味づけを検討する。図2(a)は、図1のアンテナ素子の等価回路を示している。給電電源19は、給電電極等によるインダクタンスLiとコンデンサ容量Ciを介して、放射電極13に電流を供給する。供給された電力は共振時に放射抵抗rにおいて空間で消費される。この消費される電力が空間に電磁波として放射されることになる。等価回路中、給電電源19より右側の破線で囲んだ部分が放射電極による部分13−1、左側がギャップ部12を含めた接地電極17部分に関係し、放射電極13と接地電極17間のコンデンサ容量をCgとして等価回路中に表示した。
【0023】
他方、等幅の電極を用いた場合を図2(b)の等価回路に示す。この場合は放射電極を単純にインダクタンスLとコンデンサ容量Cで置き換えることができる。一方、等幅でない本発明の場合は放射電極による動作を考えると分布定数的に扱う必要がある。このため、適当に分割してそれぞれに対応するインダクタンスとコンデンサを接続したものと見なせる。従って、放射電極13を含む等価回路は、複数のインダクタンスLr1,Lr2,Lr3とコンデンサCr1,Cr2による梯子型回路として表示することが最も理に適う。図示の回路では3個以上の共振回路が形成されることになるが、構成上、各共振周波数はかなり接近して発生するため共振が連続して発生するように見られ、周波数特性では帯域幅が広がった特性となる。
【0024】
以上説明した例の放射電極は台形状を想定したものであるが、発明の趣旨から明らかなように台形に拘束されることはなく、種々の形状が考えられる。本発明が骨子とするところは、等幅のマイクロストリップ導体に対してインダクタンスを分布させることにあり、分布インダクタンスと静電容量によって複数の共振回路の形成をなし、いわば並列多重共振回路の機能を持たせたことにある。これを放射電極の形状に換言すれば、ギャップ部を有する接地電極に向かって流れる電流に対して電極幅が変わることであり、放射電極幅が連続的およびまたは段階的に変化すれば、本発明の効果を享受できることは明らかである。図20に放射電極形状の他の実施例を示す。しかしこれに限定されることはない。
【0025】
次に、上述した放射電極の寸法形状について述べる。図3は本発明の典型的な例として放射電極13が台形状の場合である。ここで、接地電極17に繋がった他方辺(広幅部)をWとなし、ここから先端側に向かってD長さだけ適宜傾斜し、先端の開放端(狭幅部)をSとしている。図示する各部の寸法について好適な範囲を検討した結果を図4、図5、図6に示す。図4の特性カーブは横軸を導体形状比W/S、縦軸を共振周波数f0で表したものである。f0はW/Sが約4以上では飽和する傾向が見られる。これはSが所定値以下になると、共振周波数の高周波化のため実用範囲をはずれてしまうためである。また、図5の特性カーブはW/Sに対する比帯域幅の特性を示している。この特性カーブから比帯域値(BW/f0)は、W/Sが約3以上では飽和する傾向が見られ、3.5%以内ならば本発明の目的を充分達成することができる。また、図6の特性カーブは縦軸にQ値を示しW/Sに対するQ値の変化を示している。この特性カーブからW/Sが大きく、即ち先端が細くなるに従いQ値が減少し広帯域化が図られることが分かりQ値≦29を満たすW/Sは3以上である。以上の検討結果からW/Sは余裕を見て2〜5の範囲が好適である。
【0026】
次に、接地電極の配置について述べる。マイクロストリップアンテナに限らず、アンテナが電波を放射する際は放射電極と地導体間で形成される電磁界によって電磁エネルギを空間に放射する。従って、地導体と同電位である接地電極の反対側では、電磁界は非常に弱いため放射エネルギはかなり小さくなる。この作用効果を利用することによって、アンテナ素子に接近して電子回路素子などを実装することができる。即ち、接地電極の配置を考慮してシールド効果を積極的に利用することにより、筐体、配線基板の導体等の影響をなくすと共に、回路部品の誤動作を防ぐことができ、特性の安定化および信頼性の向上が得られる。この概念が本発明の第2および第3の特徴点である。アンテナ装置としての典型的な構成を図7に示す。
【0027】
図7で図示するように、給電線75を跨ぐようにアンテナ素子10を基板の接地面(地導体)55上に設置する。放射電極13は左右両端の接地電極15および17と下面の接地面(地導体)55で囲まれ、開放面としては上面と2側面の三方向である。よって、放射電極の長さ方向の放射電界強度は弱まり、逆に垂直方向が強まる指向特性となり利得が向上する。他方、接地電極15および17の遮蔽効果により放射電極の長さ方向の電磁波による影響が少なくなることから、基体の側面側に部品51、52等を置いても問題が無くなり実装レイアウトの自由度と密度を上げて省スペース化を図ることが出来る。
【0028】
また、図8で図示するように、本発明ではアンテナ素子10をモジュール基板50上の接地面(地導体)55に載置する際、地導体の端部境界線に対して放射電極の幅狭の先端部の開放端と接地電極17間のギャップ方向(矢印で示す)を略並行に、即ち横方向に並べて配設している。さらにこのとき、地導体55から左右に離間して突出した地導体部分550に両端の接地電極15、17を載置し、アンテナ素子を地導体に隣接させ放射電極とギャップ部12の電界放射領域が地導体55から最も遠ざかるように配置した。ここで基板との電気的相互作用としては、アンテナの共振電流が基板に鏡像電流を発生させる現象が挙げられる。この鏡像電流と基板側の電流が逆位相となるとアンテナからの電磁放射を妨げ利得低下や共振周波数のシフトをもたらすことがある。この点で図示の配置とすることによって、アンテナ基体上で共振電流が最も強く流れる放射電極とギャップ部を地導体から最も遠い位置に配置し、電界を接地導体から離れた位置に誘起できる。これにより鏡像電流を極力弱くでき、また、アンテナ基体の裏面のほとんどには接地電極を有していないので基板への鏡像電流を減少させることが出来ている。
【0029】
また、従来は上記の問題からもアンテナ素子を地導体の端部境界線に対して垂直方向、アンテナ基体の長手方向を縦に配置する場合が多かった。このような場合デッドスペースが大きくなり設計の自由度が低いことは言うまでもない。本発明のようにアンテナ基体の長手方向を横に、並行に置く理由は、上記した放射電極の形状効果を積極的に引き出すためで、放射電極と接地面間に形成されるコンデンサ作用を大とするためでもある。放射電極13とギャップ部12の方向が地導体55にほぼ並行になっている図7、8を参照すれば、以上の説明は容易に理解される。したがって、放射電極を地導体に対して並行に配置する本発明の場合と、垂直に配置する従来技術と比べると、地導体間のコンデンサ作用は本発明の方が格段に強く、従来にない効果を奏することが可能である。
【0030】
次に、このアンテナ素子の放射指向性について言えば、先ずアンテナ基体の長手方向について放射電極13と接地電極17との間にギャップ部12を介して電界が放射される。そしてこれと直交するギャップ部と基板間の方向にも電界を発生させることができる。よって、このアンテナ装置は直交する2方向に電界が発生するので各通信機に搭載した場合、姿勢によらず全方位指向性を発揮して安定確実に通信することが出来る。
【0031】
【実施例】
以下、本発明の実施例を図面を参照して詳しく説明する。まず、図9(a)(b)(c)はアンテナ素子の絶縁基体の寸法(長さL、幅W)と帯域幅(BW)及び比誘電率(εr)と帯域幅の関係を示している。帯域幅は上記したように素子基体の寸法や材料によって変わるものであるから、図9のような素子寸法と帯域幅の関係及び素子材料と帯域幅の関係を予め得ることによって省力かつ効率的に本発明を実施できるものである。ここでは100MHzの帯域幅を得ることを前提に図9を用いて検討した結果、絶縁基体として直方体(15mm×3mm×3mm)の誘電体セラミックスで比誘電率εr=8、Al2O3系材料を使用することにした。電極はAg電極材料を用い、絶縁基体11の表面に図8に示すような位置と形状に設けた。この時、放射電極13は略台形状とし、上底Sと下底Wの比率を1:3とした。また、放射電極13の開放端と接地電極17との間に長さ1mmのギャップ(絶縁基体の露出部)12を設けた。放射電極13の他方端(下底W側)は、ここでは接地電極15を連続的に接続して設けた。給電電極14は基体側面で中央よりギャップ側よりに設けている。尚、上記した寸法を有するアンテナ素子は、伝搬周波数2.4〜2.5GHz、帯域幅100MHz、比帯域3.5%、利得0dBi以上、電圧定在波比(VSWR)3以下等の性能を満たすと共に、特定平面内無指向性が要請される携帯電話あるいは無線LAN用に設計したものである。
【0032】
上記の実施例は一例であって設計条件等によっては適宜寸法や構成を選定することができる。例えば、略直方体状の誘電体基体は円柱状でもよく、また材料は磁性体、樹脂体、またこれらの積層基板であっても良い。放射電極の形状や開放端と接地端の幅寸法についても2〜5の範囲外でも変更ができる。また、帯域幅を広げたり周波数調整のためにギャップ部や放射電極をトリミングすることが有効であるが、このとき放射電極の開放端近傍の傾斜面は平行部を形成し、この平行部をトリミングすればマッチング作業がやり易くなる。また、放射電極の開放端は接地電極とギャップを介して対向させることが必要であるが、他方辺側は必ずしも連続的に接地電極を形成する必要はなく、非連続とした容量結合となし最終的に接地できていれば良い。また、接地電極は基体端面からの電界の放射を抑制する目的からして最小限その端面を覆い、接地面に連接して接地できていれば良いと言える。しかし、その効果を確実に得るためには図示するように基体端部において端面とその廻りの四面を覆うように形成しておくことが望ましい。また、給電電極は放射電極の周りで基体の端面あるいは上面に亘って設けても良く接触非接触を問わない。但し、放射電極の開放端に対向して設けることはしない。
【0033】
アンテナ素子の作製方法としては、概略次の工程を用いて製造した。まず、誘電体セラミックスのブロックを焼成によって作製し、このブロックから適宜寸法の直方体のチップを複数個に切り出し所定の寸法に研削加工する。その後、この誘電体チップを複数並べた列を作り、これらの表面にAg電極をスクリーン印刷で所定の形状と位置に形成した。次に、これらチップを乾燥させた後、端面電極を印刷形成し電極焼き付け工程を経てアンテナ素子として完成した。
【0034】
図10は試作したアンテナ素子及びその評価方法を示す。回路基板71上にマイクロアンテナ素子10を地導体73の端部に略並行に、且つ放射電極の傾斜とギャップ部12が地導体より遠ざかるように配置し、回路基板71の左右の地導体73の間に位置する給電線75を介して、電源19から給電する構成である。放射電極13は接地電極15側に他方辺(広幅部)16を有し、ここから連続的に幅を狭めながら延びる傾斜面を形成し開放端(狭幅部)18となっている。そして、開放端(狭幅部)18と接地電極17との間にギャップ部12を設けている。給電電極14は放射電極の長手方向の中央よりギャップ部12側に偏って設けてあり、よってアンテナ素子自体も地導体に対し偏って配置されている。尚、接地電極15と放射電極13は別体のように図示しているが一体的に形成している。但しこれは別体とし間隙を有していても良い。
【0035】
特性の評価項目としては、電圧定在波比(VSWR)と指向性および利得特性である。VSWRの測定は、給電端子にネットワークアナライザを接続し、端子側からみたインピーダンスを測定することにした。また、利得の測定に際しては、電波無響暗室内で被試験アンテナからの放射電力を受信用基準アンテナで受信し、基準アンテナに対する比として評価した。指向性については、被試験アンテナ素子を回転テーブルに搭載し、回転させながら放射電界の強度を利得の測定と同じ手順で各回転角度における利得を測定した。
また、図10では給電電極14の位置は、放射電極の途中で開放端側に偏って設けている。これに対して中央、接地電極16側にある場合と変えた被試験アンテナ素子を同様に試作し、同様の測定を行った。
【0036】
図10の被試験アンテナ素子をX、YおよびZ軸に関して回転させたときの指向特性を図11〜図13に示す。図示の結果から分かるとおり3軸共に利得がほぼ円に近く、指向性のない無指向特性が得られた。しかし、接地電極を配置したアンテナ素子の長手方向に若干の利得減少が見られた。この理由は接地電極方向に放射される電界強度が弱められたためであり、本発明によるアンテナの特長を実証する結果となった。また、図14は帯域幅特性である。従来と比べて格段の改善が見られ、狙い通り電圧定在波比VSWRが3の時の帯域幅を100MHzとすることができた。
また、給電電極の位置を変えたアンテナ素子については、帯域幅において図11〜図14よりも劣る結果となり、給電電極の位置および地導体に対するアンテナ素子の位置による影響が確認された。給電電極は放射電極の途中に給電を行うのであるが、非接触の場合はコンデンサ容量でマッチングが出来るためインピーダンスの高い開放端に近いところに配置することが可能となる。一方、放射電極に接触する場合はインダクタンス分しかないので整合が難しくインピーダンスの低い広幅部側に配置せざるおえなくなる。これらのことから、非接触の場合は狭幅部側に、接触の場合は広幅部側に給電電極は位置させることが望ましいものである。
【0037】
次に、本発明の他の実施例を図15〜図19に示す。まず、図15はアンテナ素子の上面斜視図(a)、反対側の上面斜視図(b)、下面側の斜視図(c)を示している。本例では放射電極131を上面のみに配置するのではなく、隣り合う側面にも延在させて設けた場合である。このような構成によって、放射電極を実質的に広げることが可能となり、周方向の放射利得が向上すると共に一層の小形低背化に効果を持つものである。また、基体の厚さをさらに薄くした場合(例えば2mm以下)側面の放射電極は傾斜を形成しない場合もあり得るが、上面の放射電極は変わらず機能するので特性上は問題ない。さらに、絶縁基体の下面側にも放射電極を延長して設けることもできる。(c)図から明らかなように接地電極15、17は両端部のみに設けられており両者は電気的に導通されていない。
図16の例は図15と同様の斜視図を示しているが、このアンテナ素子は、台形状の放射電極132に給電電極142を接続した直接給電方式である。また、下面には導体150を配し、接地電極と導通する構成としている。
【0038】
図17の例は一面の斜視図のみを示すが、放射電極133と他方辺の接地電極15との間に間隙を設けて容量結合の方式としたものである。以下の例も同様であるが本例では、台形状の放射電極を二面に亘って設け、一端はギャップ部12を介して端部を覆う接地電極17を、他方端にはその端部を覆う接地電極15をそれぞれ設けた構成については同じであり、上述してきた本発明の作用効果は同様に享受できるものである。特に本実施例では放射電極と接地電極との間隙(ギャップ)が2箇所設けられていることから、この間隙に発生する電界が広範囲に放射されることによりQ値が低下し、より広帯域化が期待できる。図19に示した例は、放射電極134と接地電極15との間を一部分で接続するようにした構成である。161の基体部分はトリミングの要素が兼用して備わっており、よって、この部分の長さを変えるか、また削ったりして共振周波数の調整を行うことが出来る。
また図18に示した例は、図示の通り放射電極135を二面に亘ってミアンダ状に形成したものである。この実施例ではミアンダ状放射電極に共振電流が流れることからミアンダ状電極の長さが電気長の約1/4に相当する。このため放射電極の長さを短くできることによりアンテナ寸法を更に小型化出来るという効果がある。
【0039】
図20は放射電極の形状としての他の実施例を示している。これらの実施例は、本発明の趣旨によって考えられたものであり、頭部側の幅は底部側のそれより狭いこと、および左右対称である必要がない等の条件を満たすことは図から一目瞭然である。尚、(g)〜(l)までのパターン例は放射電極の下部に接地電極が繋がったあるいは離れた状態を一緒に図示し接地電極との関与も示している。
【0040】
上記してきた実施例では、誘電体としてセラミックスの絶縁基体を用いたが、これを樹脂等の誘電体により構成しても良く、絶縁体である磁性体で構成しても構わない。また樹脂などの場合は基体に孔を形成し、ここに給電点を設けることもできる。
上記したアンテナ素子を回路基板上に実装したアンテナ装置を携帯電話等の無線通信情報端末機器に搭載することにより、無指向性で利得や帯域幅などのアンテナ特性の良い通信機器とすることができる。また、表面実装型アンテナ装置としては占有面積が小さく自由度の高い設計が可能となり、省スペースと実装密度が上がることから通信機器の小型化にも寄与できる。例えば、本実施例のアンテナ素子(15mm×3mm×3mm)を載置したアンテナ装置は、実装時のアンテナ素子の占有面積は50mm2以下となり、従来構造のアンテナ装置に対し1/2以下の省スペース化が達成できた。
【0041】
【発明の効果】
以上、説明したように本発明によれば、全方位指向性(無指向性)を持ち、広帯域で利得が高く、且つ小形低背化が可能な高性能のチップ型アンテナ素子及びアンテナ装置が得られた。また、このアンテナ素子を回路基板上に実装したときは占有面積を最小化して実装密度を向上することができ、これを携帯型無線通信情報端末機器等の通信機器に搭載した場合の装置自体の小形化に貢献すると共に、装置の位置あるいは姿勢に関係なく安定した通信性能を持つことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の原理を説明するためのアンテナ素子の斜視図で、(a)は平面に設けた例を示し、(b)は立体的に設けた例を示す。
【図2】(a)は図1のアンテナ素子の等価回路図、(b)は従来のアンテナ素子の等価回路図。
【図3】本発明の基本的なアンテナ素子の放射電極の構成を示す斜視図。
【図4】本発明における放射電極の広幅Wと狭幅Sの比W/Sと伝搬周波数f0の関係を示す特性線図。
【図5】本発明における放射電極の広幅Wと狭幅Sの比W/Sと比帯域幅BW/f0の関係を示す特性線図。
【図6】本発明における放射電極の広幅Wと狭幅Sの比W/SとQ値の関係を示す特性線図。
【図7】本発明のアンテナ素子を回路基板に実装したときのアンテナ装置を示す概略実装図。
【図8】本発明のアンテナ素子を別の回路基板に実装したとき配置を示すアンテナ装置の概略実装図。
【図9】本発明を適用するための絶縁基体のデータであり、(a)は基体長さと帯域幅の関係、(b)は基体幅と帯域幅の関係、(c)は基体の誘電率と帯域幅の関係をそれぞれ示す特性図。
【図10】実施例のアンテナ素子の評価方法の例を示す概略図。
【図11】実施例のアンテナ素子を評価した結果でZ軸に関する指向特性。
【図12】実施例のアンテナ素子を評価した結果でX軸に関する指向特性。
【図13】実施例のアンテナ素子を評価した結果でY軸に関する指向特性。
【図14】実施例のアンテナ素子を評価した結果で帯域幅特性。
【図15】本発明による他の実施例を示し、アンテナ素子の(a)上面斜視図、(b)反対側の上面斜視図、(c)下面側の斜視図。
【図16】本発明による更に他の実施例を示し、アンテナ素子の(a)上面斜視図、(b)反対側の上面斜視図、(c)下面側の斜視図。
【図17】本発明の他の実施例を示す、アンテナ素子の上面斜視図。
【図18】本発明の他の実施例を示す、アンテナ素子の上面斜視図。
【図19】本発明の他の実施例を示す、アンテナ素子の上面斜視図。
【図20】本発明のアンテナ素子の放射電極の他の実施例を示す平面図。
【図21】従来のマイクロストリップアンテナ素子の一例を示す構成図。
【符号の説明】
10:アンテナ素子、11:絶縁基体、12:ギャップ部、
13、131、132、133、134、135:放射電極、14:給電電極、
15,17:接地電極、16:他方辺(広幅部)、18:開放端(狭幅部)、19:電源、31:地導体、51,52:回路部品、55:接地面(地導体)、
71:回路基板、73:地導体、75:給電線、90:放射電極、
92:接地電極、94、142:給電電極、96:地導体
Claims (7)
- 絶縁基体にマイクロストリップ導体を配した放射電極と、接地電極と、給電電極とを有するチップ型アンテナ素子であって、前記絶縁基体の少なくとも上面に形成され、当該絶縁基体の長手方向の一方から他方まで連続的および/または段階的に幅を狭めながら延在し、一方端が幅広の後端部で、他方端が幅狭の先端部である放射電極と、前記放射電極の後端部に直接又は容量結合して接続する第1の接地電極と、前記放射電極の先端部とギャップを介して対向する第2の接地電極と、前記放射電極と非接触で、前記基体の長手方向側面の中央よりも前記放射電極の先端部側に偏って形成された給電電極とを有することを特徴とするチップ型アンテナ素子。
- 前記絶縁基体の裏面のほとんどには接地電極を有していないことを特徴とする請求項1記載のチップ型アンテナ素子。
- 前記第1の接地電極は、前記基体の一方の端面とその廻りの四面を覆っており、前記第2の接地電極は、前記基体の他方の端面とその廻りの四面を覆っていることを特徴とする請求項1または2記載のチップ型アンテナ素子。
- 前記放射電極の幅狭の先端部の開放端の幅をS、幅広の後端部の幅をWとしたとき、W/Sを2〜5の範囲とすることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のチップ型アンテナ素子。
- 前記放射電極は絶縁基体の隣り合う側面に亘って配置されることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のチップ型アンテナ素子。
- 請求項1〜5の何れかに記載のチップ型アンテナ素子を回路基板に取付けてなるアンテナ装置であって、前記絶縁基体に設けた第1、第2の接地電極を回路基板の地導体と接続するように、前記絶縁基体の長手方向を前記地導体の端部境界線と並行に、且つ放射電極の先端部側を前記地導体から遠ざけるように配置し、前記絶縁基体の長手方向の中央よりも前記放射電極の先端部側に偏って形成された給電電極に対し、前記地導体の間に設けた給電線から前記給電電極に電力を供給するようにしたことを特徴とするアンテナ装置。
- 請求項6に記載のアンテナ装置を搭載したことを特徴とする通信機器。
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