JP3593759B2 - 有機物を含有する廃液の処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、有機物を含有する廃液、とくに原子力施設から配管洗浄に伴い排出される、放射性を帯びた廃液の処理方法に関し、難分解性の有機物を電解酸化により分解することにより、廃液を迅速かつ効果的に処理する方法に関する。
【従来の技術】
【0002】
たとえば無電解メッキの洗浄廃液、写真現像液の廃液、ボイラー等の化学工場配管を化学洗浄した廃液には、EDTA(エチレンジアミン四酢酸塩)やNTA(ニトリロ酸酢酸塩)のようなキレート剤、シュウ酸やクェン酸のようなカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等の有機物が、金属イオンとともに含まれている。
【0003】
これら廃液は、その中の金属イオン濃度が100ppm〜1000ppmと高く、活性汚泥法のような一般的な生物学的方法で分解処理しようとしても、金属イオンが微生物を死滅させて処理能力を著しく低下させてしまうため、別の処理方法によらなければならない。それに加えて、活性汚泥法のような生物学的手法ではキレート剤や有機酸は分解し難く、廃液のCODを下げることは容易でない。
【0004】
このような廃液を処理する方法として、過酸化水素と硫酸第一鉄(フェントン試薬)を用いて酸化分解する方法(特許文献1、特許文献2、特許文献3)、次亜塩素酸を用いて分解する方法(非特許文献1)、紫外線照射下にオゾンを作用させる水処理法(非特許文献2)、蒸発法(特許文献4)、電解法(特許文献5)等、さまざまな方法が提案されている。
【0005】
しかし、いずれの方法も十分に満足できる結果を与えない。まず、フェントン試薬を用いる方法は効果的であり広く実施されているが、過酸化水素を大量に必要とするからコストが高い。次亜塩素酸塩を用いて分解する方法には、有毒なハロゲン化有機物が生成するという問題がある。一方、オゾンと紫外線を併用する方法は効率が悪く、高濃度の廃液のCODを低下させるには、長い処理時間を要する。
【0006】
そこで、これらに代わる手法として、電気的制御だけで実施でき、特殊な薬品や装置を必要としない電解法が注目されている。電解処理は陽極上で起る酸化反応を利用して有機物を酸化分解処理し、無害化するものである。
【0007】
ところが、通常の洗浄廃液の電気伝導度は、20mS/cm以下である。このような低い伝導度の廃液では流れる電流がわずかであるため、陽極で起る酸化反応は微々たるものに止まり、処理は進みにくい。分解反応を促進するため電流を増大させようとすると、高い液抵抗のために廃液の温度が上り、場合によっては沸騰し、種々の有毒ガスを排出するようになり、環境上の問題を生じる。
【0008】
一方、写真廃液のように既に種々の電解質溶液が入っている場合は、電気伝導度が高く、従ってそれ自体では電気が流れ難いという問題は生じないが、有機物分解よりも優先的に陽極酸化反応に関与するチオ硫酸ナトリウム等の物質が存在するために、効率よく有機物を分解することができない。このような場合は、廃液を稀釈して、有機物分解反応を阻害するチオ硫酸ナトリウムのような無機電解質の濃度を薄め、その陽極酸化反応への寄与率を下げてやる必要がある。しかし稀釈は、いうまでもなく液の電気伝導度の低下を招く。
【0009】
電気伝導度が低く電気が流れにくい廃液の電解処理においては、電解を効率よく行なえるよう支持電解質を添加することが、以前から提案されている(特許文献6)。しかし、支持電解質の選択は重要であって、適切なものを使用しないと、有機物を効率よく分解することができないばかりでなく、かえって有害な物質の生成を招くことがある。たとえば、EDTA−2Naを1重量%含む洗浄廃液に支持電解質として塩化ナトリウムを添加して電解すると、二塩化メチレンが生成する。これは油状の物質であり、水溶液から分離して電解反応に関与しなくなるため、それ以上は分解されなくなる。また、写真廃液に硫酸を添加すると、亜硫酸のような有毒ガスが発生する。
【特許文献1】
特開平4−22495
【特許文献2】
特公平7−24827
【特許文献3】
特公平7−14515
【特許文献4】
特公昭53−43478
【特許文献5】
特開平4−189062
【特許文献6】
特開昭48−84462
【非特許文献1】
大阪府立工業技術研究所報告No.90(1987)p.47-51
【非特許文献2】
文部省科研費「総合研究A」研究成果報告書(1988),p.97-106
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、原子力施設の配管を化学洗浄して生じた廃液のように、難分解性のキレート剤や有機酸が含まれ、かつ、放射性を帯びている廃液であって、しかも、電気伝導度が20mS/cm以下、pHが2〜11の、直接電解するには液抵抗が高い廃液を電解酸化処理するにあたって、支持電解質の添加により有機物を効率よく分解する、改良された方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の、有機物を含有し、かつ、放射性を帯びた廃液を処理する方法は、電気伝導度が20mS/cm以下、pHが2〜11の廃液に対し、支持電解質としてアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の1種または2種以上を1〜20g/L添加し、液のpHを12以上に高めたのち直流電解することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電解処理技術により、有機物を含有し、かつ、放射性を帯びた廃液を処理すれば、陽極酸化による有機物の分解を効率よく行なうことができ、短時間で廃液のCODを顕著に低下させることができる。CODの低下した廃液は、その後の二次的な化学処理や稀釈により、処分可能なものとすることが容易である。実施のための設備は特殊な装置を必要とせず、電力消費もさして大きくない。従って本発明の処理方法は、原子力施設から配管洗浄に伴い排出される、放射性物質を含んだ廃液の処理方法として、きわめて適切なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
有機物を含有する廃液を電解処理すると、陽極における電解酸化により高分子有機物が酸化され低分子化されるが、無隔膜で電解すると、陰極で再び還元される。これが繰り返されるため、一定の分子量より低いものには分解されず、結果として廃液のCOD値を一定の値より低くすることができない、という問題がある。しかしこのような場合でも、陽極で起る酸化反応の効率が、陰極で起る還元反応の効率を上回っていれば、全体として有機物の酸化分解反応は進行するはずである。
【0014】
有機物を含む廃液の処理剤として広く用いられているフェントン試薬は、
22+Fe2+→Fe3++HO-+・OH
の反応によりヒドロキシルラジカル・OHを生じ、これが有機物を酸化分解するという作用機構で役に立つことが知られているが、電解によってこのヒドロキシラジカルを有効に生成させることができれば、低分子化した有機物をさらに酸化する反応が進み、陰極における還元の影響を極力押さえることができると考えられる。
【0015】
このような着想の下に本発明者らは、反応効率のよい電解酸化反応を可能にする支持電解質の利用を検討し、研究の結果、アルカリ金属およびアルカリ土類金属の水酸化物の1種または2種以上を支持電解質として使用することが効果的であり、これを適量廃液に添加して直流電解すれば、ヒドロキシルラジカルが効率よく発生して有効な酸化分解反応が得られることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0016】
本発明において処理の対象とする廃液は、EDTAやNTAのようなキレート剤、またはシュウ酸やクェン酸のようなカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸等の有機酸もしくはその塩を含んでいる。廃液中に塩素等のハロゲンイオンが10g/L以上存在する場合は、ハロゲンイオンの濃度が5g/L以下になるように稀釈して、処理に供する必要がある。
【0017】
支持電解質として実際上有用なものは、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムおよび水酸化カルシウムである。水酸化カルシウムは溶解量に限界があるが、通常は十分使用できる。ただし、廃液中に溶存しているアニオンとの組み合わせによって沈澱を生じる場合は、これに代えて水酸化ナトリウム等を使用することが好ましい。添加量は、液のpHに応じて、すなわちpHが低い場合はより多量、高い場合はより少量を、前記した1〜20g/Lの範囲内から選択する。
【0018】
電解に用いる陽極は貴金属または貴金属酸化物で被覆した不溶性Ti電極が望ましく、陰極はステンレス鋼が好適である。電解電流の電流密度は、1〜100A/dm2の範囲が適切であり、無隔膜で電解する。
【0019】
電解は、バッチ操作によってもよいし、連続操作によってもよい。バッチ操作の場合は電解槽に一定量の廃液を入れて、CODが所望のレベルに下がるまで電解を続ける。このとき、液を撹拝して、電極反応に関与する物質の更新を促進することが望ましい。連続操作は、多段階に設けた電解槽のシリーズに廃液を流し、CODが終段において廃液の二次処理または放流が可能なレベルに達するように行なう。
【実施例】
【0020】
約1%のEDTA−2ナトリウムを含む配管洗浄廃液(電気伝導度は3.5mS/cm、pHは4.5)を対象にして、次の処理を行った。廃液にそれぞれ、水酸化ナトリウム4g/L、塩化ナトリウム30g/L、または硫酸ソーダ30g/Lを添加した3種類の廃液を準備した。それぞれのpHは、NaOH添加のものは12.5、NaCl添加のものは4.4、Na2SO4添加のものは4.3であった。
【0021】
電解槽は、それぞれの対向面が0.6m2の面積をもつPt・Ir合金を被覆したTi板電極2枚を陽極・陰極に用い、極間5mmの平行平板電極をもつものである。上記3種の廃液を無隔膜で電解した。電流密度は2kA/m2とした。
【0022】
電解開始後0.5時間おきに処理液をサンプリングし、CODの測定を行なった。その結果を分解曲線として、図1に示す。
【0023】
水酸化ナトリウムを添加した廃液の分解曲線は、縦軸を濃度の対数としたときCODが直線関係にあり、一次反応速度式に従ったものとなる。塩化ナトリウムを添加した液は分解曲線が不安定で、これは電解途中で塩化メチレンが合成され、油状となり液表面に浮上するためと考えられる。硫酸ナトリウムを添加した廃液の分解曲線は、CODが100ppm前後まで低下したところで曲線が横這いになり、分解効率が悪くなることを示している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明に従う廃液の処理方法の実施データであって、配管洗浄廃液にNaOH・NaClまたはNa2SO4を添加して電解したときの、液のCODの時間変化を示す電解曲線。

Claims (5)

  1. 有機物を含有し、かつ、放射性を帯びた廃液を処理する方法であって、電気伝導度が20mS/cm以下、pHが2〜11の廃液に対して、支持電解質としてアルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物の1種または2種以上を1〜20g/L添加し、液のpHを12以上に高めたのち直流電解することを特徴とする処理方法。
  2. 廃液に含有される有機物が、キレート剤または有機カルボン酸もしくはその塩である請求項1の処理方法。
  3. 支持電解質として水酸化ナトリウムを使用する請求項1の処理法。
  4. 電解を電流密度1〜100A/dm2で実施する請求項1の処理方法。
  5. 廃液がハロゲンイオンを含有する場合、廃液を稀釈し、そのハロゲンイオン濃度を5g/L以下として実施する請求項1の処理方法。
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