JP3592465B2 - フラックス入りワイヤ伸線用ダイヤモンドダイス - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、溶接用のフラックス入りワイヤ伸線用ダイヤモンドダイスに係り、特にフラックス充填率(フラックス入りワイヤ全重量に対するフラックスの重量比)および鉄粉率(フラックス中の鉄粉の重量比)が高く、細径で継ぎ目無しのフラックス入りワイヤ伸線用のダイヤモンドダイスに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、溶接の自動化、省力化が推進され、これらの溶接に使用される溶接ワイヤとしては、高能率溶接ができる、スパッタが少ない、ビード形状がきれい等の特徴を有するフラックス入りワイヤが格段に優れており、半自動溶接および全自動溶接用としてフラックス入りワイヤの需要が増加している。そこで、フラックス入りワイヤの生産性向上を目的とした、高速伸線が可能なダイヤモンドダイスが開発され、例えば特開平6ー328124号公報に開示されている。
【0003】
しかし、最近の溶接は一段と自動化が進み、造船、タンク建設などの溶接においては、開先が狭く、高速度溶接が可能な溶接機が開発され溶接能率を著しく向上させている。
【0004】
これらに使用されるフラックス入りワイヤは、溶着金属量を増すために鉄粉を10%以上含む金属粉を主体としたフラックス成分となり、かつ溶着速度を上げるためにフラックスの充填率は12%以上になるのが通例である。また、使用されるワイヤ径は0.8〜1.6mmと細径になってきている。
【0005】
継ぎ目なしのフラックス入りワイヤの一般的な製造方法は、特公平45ー30937号公報に開示されているように、外径約13mmの鋼管にフラックスを振動充填し、一次伸線で約3mm径に加工した後、軟化焼鈍、銅めっき(省略する場合もある)を施し、さらにダイス伸線で0.8〜1.6mmの所望径に伸線加工される。一次伸線はダイス伸線と3ロール方式ミルによる伸線(以下、3ロール伸線という。)で縮径される。3ロール伸線は、小径の3個のロールを駆動して縮径する方法で、ダイス伸線に比較して能率は良いが、小径までの伸線は困難である。
【0006】
フラックス入りワイヤの二次伸線はダイス伸線で縮径されるが、細径になると外皮材の肉厚が薄くなり、またフラックスの充填率が高くなるほどワイヤ断面に占める外皮材の割合が少なくなり、フラックスの加工力およびダイスとの摩擦力が全て外皮材に引抜き力として作用するため、断線しやすくなる。
【0007】
図1は、外皮材1内にフラックス2が充填されているフラックス入りワイヤのL断面(長さ方向断面)の肉厚分布を示す。このような肉厚分布はL断面研磨、またはX線撮影で得られる。所定のL断面長さ内の最大肉厚aと最小肉厚bを測定し、最大肉厚を最小肉厚で除した値をP値と定義する。P値が1.5を超えると破断しやすくなる。その理由は、最小肉厚部に局部的に加工歪みが集中し、延性が低下するためと考えられる。
【0008】
高充填率、高鉄粉率のフラックス入りワイヤをダイス伸線するとP値が大きくなり、断線しやすい。この理由は、3ロール伸線でフラックス密度が高くなり、その後の焼鈍で軟化した外皮材が二次伸線で伸びやすくなるため、二次伸線の初期のダイス伸線では、図2に示すようにフラックスの流動性が悪い部分はフラックス密度の極端に低い部分または空隙3を生じる。その後のフラックス密度が増加し始めるダイス伸線においては、図3に示すようにフラックス密度の小さい部分または空隙3の部分で外皮材1の肉厚が厚くなり、フラックス密度の大きい部分で外皮材1の肉厚は小さくなる。その結果、外皮材の肉厚変動がフラックスの流動性を阻害し、主に鉄粉が塊状(以下、クラスターと称する。)になり、外皮に食い込み、外皮の延性を大幅に低下させて、P値が大きくなり破断しやすくなるとともにワイヤ表面にキズが生じやすくなる。
【0009】
ワイヤが断線した時に、伸線速度が大きいほど、断線ワイヤのダイス抜け数が多くなるため、再度ワイヤのダイス通しが必要な数が増加する。ダイス通しのためにはダイス毎にワイヤ先端を細くする加工が必要であり、長時間を要する。
【0010】
また、経験的に伸線速度が大きいほど断線しやすいことがわかっている。以上の理由から、断線しやすいワイヤの伸線は、伸線速度を通常の20〜70%も速度ダウンを余儀なくされる。
【0011】
このようにフラックス充填率および鉄粉率の高い細径フラックス入りワイヤの需要は増加する傾向にあり、高品質のワイヤを多量供給するには伸線時の断線防止が大きな課題である。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、フラックス充填率および鉄粉率の高い細径フラックス入り継ぎ目無しワイヤの伸線において、高速度の伸線をしても断線やワイヤ表面キズの生じない、生産性の良好なフラックス入りワイヤ伸線用ダイヤモンドダイスを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために二次伸線に用いられるダイヤモンドダイスの形状を種々検討した結果、ダイヤモンドダイスのリダクション角を従来より小さくすることにより、焼鈍後の二次伸線においてフラックス密度が低下しにくくP値が増加せず、高速伸線しても断線が生じないことを見いだした。
【0016】
すなわち、本発明の要旨とするところは、
(1)ベアリング内径d0.78〜5.0mm、ベアリング長さをベアリング内径dに対して0.20〜0.80dmm、リダクション角度γ4〜10°、ダイス入口の円弧半径R0.8〜2.0mm、リリーフ角θが20〜60°であることを特徴とするフラックス入りワイヤ伸線用ダイヤモンドダイス。
【0017】
(2)重量比で10〜80%の鉄粉を含むフラックスをフラックス入りワイヤ全重量比で12〜25%充填したフラックス入りワイヤの伸線加工に使用することを特徴とする(1)記載のフラックス入りワイヤ伸線用ダイヤモンドダイス。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
図4に、ダイヤモンドダイスの断面形状を示す。Aはベル角αのベル部、Bはアプローチ角βのアプローチ部、Cはリダクション角γのリダクション部、Dはベアリング直径dを有するベアリング部、Eはリリーフ角θのリリーフ部を示す。AおよびBはワイヤおよび潤滑剤がダイスに容易に入るようにするダイス入り口部、CおよびDはワイヤに接触して加工する伸線加工部、Eは潤滑液や変成物(潤滑液中の酸化物や炭化物、ワイヤ表面から剥離した酸化物やめっき金属等)を排出するダイス出口部である。
【0020】
まず、ダイスのリダクション角γを10゜以下にすれば、ダイス反力のワイヤ半径方向成分が増加するため、フラックスが圧延され、ワイヤ軸方向に伸びやすくなるためフラックス密度の低下を抑制でき、P値を増加させないで断線発生のない伸線が可能である。しかし、4゜未満になると、ワイヤとダイヤモンドの接触長さが長くなり、潤滑不足となってワイヤ表面にキズが生じ易くなる。また、ダイヤモンドの使用量が多くなり、制作費が高くなることから望ましくない。
【0021】
ベアリング内径dは1次伸線後のワイヤ外径および最終仕上げ径によって任意に選定されるが、本発明においては3ロール伸線後のワイヤ外径および最小仕上げ径から0.78〜5.0mmとした。
【0022】
アプローチ角βは、14゜を超えると潤滑剤を持ち込む量が少なくなり、ダイス荒れによるワイヤ表面傷が増加し、引き抜き力が大きくなって断線しやすくなり、4゜未満であると潤滑剤の持ち込みに必要な入口ダイス径を得るためにダイスの長さが大きくなり、ダイス費用が高くなるので好ましくない。以上の理由から、アプローチ角度は、4〜14゜にした。
【0023】
ベアリング長さは、ベアリングの内径dに対して0.20dmm未満であると、ワイヤの仕上げ外径が不安定になり、0.80dmmを超えると、潤滑剤の持ち込みが悪くなるのでダイス荒れによるワイヤ表面キズの原因になる。以上から、ベアリング長さは、0.20d〜0.80dmmとした。
【0024】
リリーフ角θは、20゜未満であると、潤滑剤の排出性が悪くなり、ダイス荒れを生じてワイヤ表面キズが生じやすくなり、60゜を超えると、ベアリングの強度が弱くなって損傷し易くなる。以上の理由から、リリーフ角θは、20〜60゜とした。
【0025】
図5はダイヤモンドダイスの形状の変形例を示す。この場合、図4のA、Bのダイス入り口部が半径Rの円弧になっている。この半径Rを0.8〜2.0mmにすれば、図4のアプローチ角β4〜14゜と同様な効果が得られる。すなわち、ダイス入口の円弧半径Rが2.0mmを超えると、潤滑剤の持ち込みに必要な入口ダイス径を得るためにダイスの長さが大きくなり、ダイス費用が高くなり、0.8mm未満であると潤滑剤を持ち込む量が少なくなり、ダイス荒れによるワイヤ表面傷が増加し、引き抜き力が大きくなって断線しやすくなるので好ましくない。
【0026】
また、図4、図5のダイス排出部は、リリーフ角だけになっているが、この部分をバックリリーフ角とエクジット角に分ける場合がある。この場合は、従来用いられているバックリリーフ角5〜35゜、エクジット角35〜100゜で問題ない。
【0027】
本発明では、溶着金属の量を増加させて溶接効率を向上するために、フラックス中に鉄粉を少なくとも重量比で10%以上含有させ、かつワイヤ全重量比で12%以上充填することが必要である。しかし、フラックス中の鉄粉量が80%を、また充填率が25%を超えると本発明のダイヤモンドダイスを用いて伸線しても断線が生じるようになる。
【0028】
【実施例】
外径12〜18mm、肉厚1.5〜2.0mmの鋼管(JIS規格 G3445 STKM11A)に種々鉄粉率の異なるフラックスを水ガラスで造粒、乾燥、整粒して充填率12〜25%に振動充填し、3ロール伸線で外径3.2mmまで一次伸線し、焼鈍後、銅めっきした。その後外径1.2mmの製品径までダイス数16ダイスを用いて最終伸線速度1000mpmで連続伸線した。使用したダイスは表1に示す各種形状、サイズに試作したダイヤモンドダイスで、各ダイスの減面率は1ダイス当たり6〜13%とした。伸線時の潤滑剤は、エステル、脂肪酸、金属石鹸とアニオン活性剤を主成分とするエマルジョンタイプの市販品を用いた。
【0029】
なお、各試験におけるダイス形状はベアリング内径dのみをワイヤの縮径率に応じて決定し、他は16個共一定とした。
【0030】
各試験における試作量は1トンで、伸線中の断線の有無、ワイヤ表面キズの有無およびダイス伸線終了後のP値を測定した。これらの結果をまとめて表1に示す。
【0031】
【表1】
表1中のNo.1〜No.8が本発明例、No.9〜No.19が比較例である。
【0032】
本発明例であるNo.1〜No.8は、鉄粉率10〜80%、充填率12〜25%のフラックス入りワイヤの伸線においても、P値が1.5以下で、ダイス伸線最終速度を1000mpmとしても断線やワイヤ表面キズが生じず、極めて満足な結果であった。
【0033】
なお、本発明のダイヤモンドダイスによって製造したワイヤNo.1〜No.8を用いて溶接した結果、ワイヤ送給性、溶接作業性、および溶接品質はいずれも良好であった。
【0034】
比較例中No.9は、リダクション角βが大きいので、P値が1.5を超えて断線した。
【0035】
No.10は、リダクション角βが小さいのでワイヤ表面にキズが生じた。
【0036】
No.11は、アプローチ角αが大きいので、また、No.12はダイス入口の円弧半径Rが大きいので、いずれも断線し、ワイヤ表面キズも生じた。
【0037】
No.13は、ダイス入口の円弧半径Rが小さいので、ワイヤ表面にキズが生じた。
【0038】
No.14はベアリング内径dに対する長さが長すぎ、No.17はリリーフ角θが小さいので、いずれもダイス荒れが生じてワイヤ表面にキズが生じた。
【0039】
No.15は、ベアリング内径dに対する長さが短いので、ワイヤの外径が不安定となった。
【0040】
No.16は、リリーフ角θが大きいので、伸線中ダイスが損傷した。
【0041】
No.18は鉄粉率が低く、No.19はフラックス充填率が低いので、いずれも断線やワイヤ表面キズがなく伸線できたが、別途行った溶接試験において溶着量が少なかった。
【0042】
以上の実施例では銅めっきの例で示したが、銅めっきの施さないノーめっきワイヤであっても同様に実施できる。また、一次伸線の仕上がり外径を3.2mmとしたが、設備等の都合により、これが異なっても本発明のダイヤモンドダイスを適当数用いればP値の上昇を防止できる。
【0043】
また、本発明のダイヤモンドダイスは、外皮の材質に関係なく、例えばステンレス鋼を外皮としたステンレス鋼用フラックス入りワイヤの伸線にも適用可能である。
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、重量比で10〜80%の鉄粉を含むフラックスを鋼管の内部に重量比で12〜25%充填し、ワイヤ素線を細径に伸線加工するフラックス入りワイヤ製造する際に、伸線速度を下げることなく伸線時の断線やワイヤ表面キズ生じることなく伸線できる。したがって、フラックス入りワイヤの生産性を向上することができる
【図面の簡単な説明】
【図1】フラックス入りワイヤのL断面図を示す図である。
【図2】ダイス伸線によるフラックス密度低下時のワイヤL断面内のフラックスの挙動を示す図である。
【図3】図3のワイヤを更に伸線し、フラックス密度が増加する時のワイヤL断面肉厚変化を示す図である。
【図4】ダイヤモンドダイスの形状を示す断面図である。
【図5】他のダイヤモンドダイスの形状を示す断面図である。
【符号の説明】
1 外皮材
2 フラックス
3 空隙、
A ベル部
B アプローチ部
C、G リダクション部
D、H ベアリング部
E、I リリーフ部
F ダイス入り口部
α ベル角
β アプローチ角
γ リダクション角
θ リリーフ角
R ダイス入り口部の円弧半径
a 最大肉厚
b 最小肉厚
Claims (2)
- ベアリング内径d0.78〜5.0mm、ベアリング長さをベアリング内径dに対して0.20〜0.80dmm、リダクション角度γ4〜10°、ダイス入口の円弧半径R0.8〜2.0mm、リリーフ角θが20〜60°であることを特徴とするフラックス入りワイヤ伸線用ダイヤモンドダイス。
- 重量比で10〜80%の鉄粉を含むフラックスをフラックス入りワイヤ全重量比で12〜25%充填したフラックス入りワイヤの伸線加工に使用することを特徴とする請求項1記載のフラックス入りワイヤ伸線用ダイヤモンドダイス。
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