JP3587856B2 - 多層環状引張材 - Google Patents

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Description

技術分野
本発明は、機械部品及び機械構造部材を除く、建築部材、建造物部材及び建造物を係留、剪断補強、固定及び/又は結束保持するため、及び/又は少なくとも一方向の張力成分を導くための少なくとも一つの繊維強化プラスチック製の環状の係留又は引張材を含む装置、建造物の安定部材あるいは剪断補強部材、環状の係留又は保持部材の製造方法、壁固定アンカー、岩盤固定アンカー又は橋梁におけるアンカー等としての装置の使用方法、並びに岩盤固定アンカーとしての装置の配置方法に関する。
背景技術
いわゆる岩盤固定アンカー、トンネル、橋梁及び道路構造物における、あるいは高層及び地下建造物における一般的なアンカーは、建造物に必要不可欠な強度を付与するための、またこれを支持、固定、あるいは保持するための最もよく知られた手段である。
通常はそのために棒状の引張材が使用される。これらの手段は、ネジ止めされたプレート部材、くさび部材、ネジ連結、ボルト、接着剤等によって、それぞれ末端部にて係留されるか、又は固定される。通常は組み立てられた状態において、引張又は圧縮応力がこれらのアンカー部材に作用する。
これらの棒状アンカー部材、あるいは丸棒又は丸鋼は、金属製であるので、重い。通常アンカーが使用されると、それは末端部にてネジ結合あるいはネジ又はボルトにて固定、又は「係留」されており、とりわけ建築物では望ましくないことに、ネジ部はほこり、砂、砂利等により汚れやすく、従ってすぐに使用不能になってしまう。
ドイツ特許3712514号では、コンクリート内に設けるプラスチック製係留装置が提案されている。係留のための装置として、真っ直ぐなベルト状アンカー棒が用いられる。これは、均一なベルト幅を有し、さらに特定の断面プロファイルを備え、これはまた同様に係留される引張筋の全長に延在するこれと同様の断面プロファイルに嵌合する。このドイツ特許3712514号で提案されている岸壁固定アンカーは、大幅な軽量化を可能とするが、繊維強化プラスチック製で、複数の積層された環状またはベルト状の層を備えていることから、伸びがアンカーループの全断面にわたって均等に配分されないという欠点を有している。
英国特許公開公報2200965号には、金属製の環状鎖を備え、現場でアンカーに合わせて任意の長さに調製できる岩盤固定アンカーが記載されている。このシステムは、とりわけ狭いスペースで使用されるものである。この公報に記載された岩盤固定アンカーは、一方では金属鎖であるということから重いという問題を抱えており、また他方では、鎖の剛性がかなり高いのであまり適さないように思われる。
従って、上記の問題点や欠点がなく、それを使用することによってより簡便で、軽く、耐蝕性の建築部材の係留を可能とする装置を提供することが本発明の課題である。
非常に高い張力が加わった場合には、この環状アンカー引張材は、その末端部にあるループ湾曲部の領域において、張力下の張力集中によって、予定より早く機能を発揮しなくなることが今や明らかになった。中でもFRP製ループの場合には、末端部の引張ループの領域において、断面積が小さすぎる場合、あるいは加えられる応力が強すぎる場合には機能低下が生じる、すなわち末端部の引張ループ又はループ湾曲部は、環状部材の危険箇所となる。なるほど環状ベルトの太さ又は厚さ、すなわち断面積を増加させることで耐え得る張力は若干高められ得るが、しかし末端部の引張ループの領域における耐応力性能の割合は、ベルト長手部のそれと比較すると低下する。従って断面積の増加は、引張強度に関して要望通りの改善はもたらさない。
従って、ループの断面積を増加することなく、最大張力を、特に末端引張ループ領域において決定的に改善できる環状の引張材を有する装置を提供することが、本発明のさらに別の重要な課題である。
発明の開示
本発明によれば、上述の課題は、請求項1の記載内容に基づいた装置を用いることで解決される。
例えば、従来使用されていた棒状のアンカー引張材又は丸鋼の代わりに、細長い環状の引張材を用いることを提案する。この引張材は、両末端部の環状湾曲部領域で固定され、あるいは係留される。
これらの環状アンカー引張材は、いわゆる複合材料のような強化プラスチック製で、それによって根本的な軽量化及び耐蝕性向上が確保され得る。しかしもちろん、従来通りスチール製とすることも可能である。この環状アンカー部材の主な長所は末端部での固定又は係留がネジを用いることなく行うことができるという点にあり、このことはとりわけ建設現場において非常に好ましいことである。
この環状の係留又は引張材は、多数の折り重ねられた結合されていない環状の重なり部又は層を有する。この場合、重なり部又は層は薄いので、それにより複数の重なり部又は層により形成される環状ベルトの総断面積も同様にかなり薄く抑えることが可能となる。理論的にも実際にも、環状ベルトの総断面積が同じ場合には環状部材の張力すなわち引張強度を、そのベルトが単一の単層の環状ベルトの代わりに、複数の互いに積層された層あるいは重なり部によって形成されている場合には、かなり高めることができるということが明らかになった。
本発明により提案される環状部材は、細長く、また各々の末端部にある、好ましくは湾曲した少なくともほとんど半円に近い形状の引張ループを有しており、それは組み付け状態においては、支持あるいは係留構造上に配置することができる。もちろん、各末端部にあるループは、例えば各々2つの四分の一円の環状セグメントを有していてもよい。これについては、以下、添付図面の実施形態に関連して、詳細に説明する。上述の多数の環状層又は重なり部は、単独のベルトによって形成されており、これは、ベルトを何回か重ね合わせてループを形成し、ベルトの両端はそれぞれ直接隣り合うループの層に接合する。この接合は、溶接、接着、リベット止め等により行うことができる。同様に内側末端部を開放状態とし、外側末端部はほんの少しだけ、例えば柔軟な、つまり弾性のある接着剤で、その下にある隣り合わせの層に固定することが可能である。その固定は環状部材が引っ張られると、延びるか完全に破断する。
環状部材の引張強度の向上を、複数の重ね合わせ、又は層の使用により有効なものにするためには、とりわけ両側末端部の引張ループの領域で、互いに重なり合う層すなわち重なり部が、相互に付着しないように構成することが重要である。別の実施形態によれば、末端部の引張ループ又は半円形状に形成された湾曲部の領域で、個々の重なり部又は層の間に、例えばテフロンから成る中間層を配置することさえ可能であり、そうすることにより個々の層又は重なり部は高い張力がかかった場合に、上下又は隣同士で、より良好に滑る。もちろんテフロンの代わりに、一方では重なり部の間で付着が生じないことを保証し、また他方では個々の層の隣接する又は上下の層間で、できる限り摩擦のない滑りが可能になるような他の材料も使用することが可能である。特に何重かに環状にされたベルトを有する環状部材の場合、外側のベルト末端部の固定又は係留にあたって負荷がなるべくかからないようにするためには、例えばループ層にコーティングをすることにより、あるいは高い摩擦係数を有する薄膜を敷くことにより、末端部の引張ループにおける層の滑りをむしろ低減させる、又は変化させることも利点がある。末端ループの径方向外側領域において、層間摩擦を大きくし、中央に向かって減少させ、すなわち滑りを高め、そうすることによってより高い摩擦を生じさせるような薄膜又は中間層を径方向内側に配置することも考えられる。
実験により、引張ループの末端部のU字領域の厚さが増大するのに伴って、引張強度は同じループのほぼ直線部のそれと比較してかなり急激に減少することが確認された。図13のグラフにおいて、応力伝達係数は引張ループの厚さの関数として、言い換えると、半径比の関数として表され、ここでraは引張ループの末端部における外半径、riは引張ループの末端部における内半径を示している。ここで、図13のグラフから明らかなように、半径比が約1.2の時、すでに応力伝達係数は、細長い引張材の直線部領域のそれと比較して、ほぼ引張強度と相応して50%以下になる。従って、引張材の厚さをほぼ同一にしながら、複数の層にすれば、引張材の応力伝達係数又は引張強度は、末端部においてはかなり向上できるということが明らかである。
具体例によって、この事実を裏付けることができた。すなわち
1)以下の形状を有する単一の層から成る一本のロープ状ループによるシステムの引張強度は、
層の厚さ : 2mm
ループの幅 :=10mm
内側半径ri :=10mm
max =最大引張強度:=23.3kN である。
2)1)と類似した、ただし互いに付着していない8層からなるロープ状ループによるシステムの引張強度は、
max =最大引張強度:=46.2kN となる。
これにより2倍以上の大きさの最大引張強度が得られ、本発明により提案される引張ベルトの構造の利点が証明された。
環状の係留又は保持部材の個々の重なり部又は層は、繊維強化プラスチック(FRP)又はいわゆる複合材料、とりわけ炭素繊維強化複合材料で製造することが可能である。もちろん、炭素繊維の代わりに他の強化繊維を使用することも可能である。結局のところ、個々の層又は重なり部を、例えば金属で製造することもまた可能である。
本発明により提案する装置は、とりわけ道路、橋梁又はトンネル工事における建造物の、例えばいわゆる岩盤固定アンカーの形態に適している。更に例えば、アパート、教会等の高層建築物の安定装置並びに建築又は機械部材においては、張力成分の伝達部材として、また発生して振動する張力の減衰にも適している。この例として、本発明により提案する環状の保持部材を有するコンロッドについて述べる。また、例えば地震の発生しやすい地域の建造物又は修繕を必要としている建造物ならびに屋根構造等のような建造物の安定化のためにも、本発明により提案される環状の保持部材が適している。
その他の点については、従属請求項2〜9の記載内容を参照されたい。
さらに、環状の係留又は保持部材、とりわけ本発明に係る装置に適した製造方法を提案する。この場合、薄く細長いベルトが、2つの互いに間隔を空けて置かれた巻き取り用本体の周りに何回も巻かれ、ベルトの両端はそれぞれその末端部が上に載っている、又は隣り合っているベルトの層又は重なり部に、溶接、接着、リベット止め等によって接合されている。細長いベルトの末端部は、自由端にしておいても、あるいは柔軟な、つまり弾力性のある接着剤により、その末端部で接している層と接合してもよい。ベルトは、両方の末端にある保持体の周りに巻くことができるように、また引張ループの末端領域で早すぎる機能不全を起こさないよう、十分な柔軟性すなわち弾力性を持ったものでなければならない。これはベルトを非常に薄く形成した状態で、薄い肉厚の場合においても、かなり高い柔軟性を有する、例えば鉄板製ベルト材のような材料を用いることにより達成できる。あるいはまたベルト材料を熱可塑性あるいは未硬化の熱硬化性マトリックス材料から構成することにより達成できる。これらは、環状のアンカー部材又は引張材の製造及び取付け後、例えば、焼きなましにより部分的に連結させ、すなわち、容易に硬化させうる。そのようにして、例えば繊維強化熱可塑性あるいは熱硬化性プラスチック製の細長いベルトを製造することが可能であり、後者は相変わらず熱可塑特性を持ち合わせ、かつそれ相当の流動性を有し、従って若干の柔軟性を有する。このベルトは末端部の保持体の周りに巻き取られ、その両端はそれに当接する層に融着接続され、望ましくは、製造されたベルトは高温にて焼きなまされ、そうすることにより熱硬化材を使用した場合にはベルトのマトリックス内部が連結し、必要に応じて環状の係留又は保持部材の若干の硬化を得ることが可能である。
個々の層が、とりわけ引張ループの末端領域で互いに滑り合うようにするために、引張ループの末端領域の層間に、例えばテフロン製の中間層を配置するか、あるいはベルトを環状部材に形成する前に、層同士の付着を防止しする一方、良好な滑り性を有する材料でコーティングすることは有効である。
もちろん、上述の環状の係留又は保持部材の製造方法は、一例にすぎず、様々な技術及び手法を用いて補充あるいは変更することが可能である。
このようにして製造された環状の係留又は保持部材を、例えば岩盤固定アンカーとして使用することを可能にするため、ボーリング穴内部に挿入される引張ループの末端部も、係留でき、確実に固定されなければならない。これは例えば、係留又は保持部材をボーリング穴内部に挿入して、従来の丸鋼岩盤固定アンカーのように穴内部に鋳込むことによって行うことができる。更にまた挿入される引張ループ末端部の領域にバネ又はくさび方式の部材を配置することも可能であり、それは容易にボーリング穴内に挿入することができるが、適切なくさび効果によって穴から引き抜くことが不可能なものである。特に係留又は保持部材、例えば岩盤固定アンカーの配置について添付の図面を参照して、以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
以下、本発明を例えば添付図面を参照することにより、より詳細に説明する。
図1は、環状の係留又は引張材の概略斜視図であり、
図2および図2(a)は、単層引張ループの末端部のループ湾曲部の断面図であり、
図3および図3(a)は、本発明により作られた多層引張ループの末端部のループ湾曲部の断面図であり、
図4は、図1の環状アンカー部材を含む岩盤固定アンカーの縦断面図であり、
図5は、図4に類似した岩盤固定アンカーのボーリング穴の末端部のボーリング穴の末端部領域における環状部材の固定手段を含む断面図であり、
図6(a)および図6(b)は、支持機能を有するコンクリート建材におけるループ形式の、剪断補強部材の概略配置図であり、
図7(a)〜図7(d)は、多層で末端部が接合されていないベルトの層又は重なり部を有する環状の係留又は引張材の斜視図及び縦断面図および外面に弾性被覆材を取り付けた環状係留部材を示す図であり、
図8は、個々の層又は重なり部の間に滑り材を配置する環状の係留又は保持部材の断面図であり、
図9は、本発明に基づいて製作されたループ又は図7におけるループ層のベルトの幅に関して考え得る他の実施形態を示す図であり、
図10は、本発明に基づき製造された引張ループの配置図であり、
図11は、コンロッドを実例とする本発明に基づく環状の係留又は保持部材の別の実施形態を示す斜視図であり、
図12は、修繕を必要とする建物の屋根構造を安定させるための、本発明に基づく環状保持部材の実施形態であり、
図13は、引張ループの厚さの関数すなわち半径比の関数とする応力伝達係数のグラフである。
発明を実施するための最良の形態
図1の斜視図は、本発明による細長い環状の係留又は保持部材1を示しており、それぞれの末端部に半円形状に作られた引張ループ末端部すなわち円形湾曲部3を有する。
図2及び図3は、保持部材の引張ループの末端部断面を概略的に示している。図2は保持部材1の末端部の引張ループ3を示し、拡大図2(a)より明確に分かるように、単一の層だけからなる。他方、図3は多層からなる保持部材1を示し、ここでも拡大3(a)にてはっきり示されているように、多数の重なり部又は層2を含む。さらに両方の拡大図2(a)及び3(a)において、矢印は個々の重なり部又は層に生ずる引張又は剪断応力を示し、ここからすぐにわかるように、図2(a)におけるかなり厚い層は、張力が発生した場合、図3(a)に示すような多数の層又は重なり部を使用した場合に比べ、引張ループが不良となる可能性はかなり大きい。
図4に、岩盤固定アンカーとして使用されるこの種の環状の係留又は保持部材1の取付け状態における縦断面図を示す。ここでは、残留部材1は地盤23のボーリング穴25内に配置されている。ボーリング穴25内の係留部材1の末端にある引張ループ湾曲部3は、例えば円筒状あるいは棒状の保持部材7の周りに巻かれ、この保持部材7により係留部材は組み立て時に挿入され、もしくは仮にアンカー止めされている。地表面21では、ボーリング穴25が、例えばモルタル又は注入剤15によって充填された後、地面から突き出ている引張ループ湾曲部3がくさび部材9又は保持部材11を用いて固定又は係留される。
図4より明らかなように、本発明に基づき製造された環状の係留部材1の動作方法は、丸鋼アンカーを有する従来の係留装置のそれと類似している。後者のケースにおいても丸棒を収容、鋳固めた後にこれを外側から、例えば丸棒のネジを介して取り付けられ、ナットを用いて固定されるベースプレートを取り付けることにより係留、又は固定される。
図4は、いわゆる岩盤固定アンカーに関するものであるが、図1に表示されているような環状の係留又は保持部材1は、高層及び地中建造物において一般的によく使用されているような別の係留システムに使用してもよい。この種の保持部材又は引張ループは、例えばコンクリート断面のプレストレス付与、とりわけ後からの剪断力補強、例えば支持機能を有する建造物、例えば橋梁、屋根部材等にも用いることができる。この点については、国際特許出願WO93/20296号を参照されたい。同出願には、剪断補強のためのプレストレス手段による係留について記述されている。
図5は、図4のボーリング穴と類似したボーリング穴25の端部の断面を示している。ここでも環状部材1が、末端部で、例えば円筒状あるいは棒状の引張材7により保持され、その際、さらにボーリング穴内部に端に固定爪を有する弾性保持部材8が配置されており、それは容易にボーリング穴25に嵌め込むことが可能であるが、環状の係留部材1の引き抜きを不可能にする。
図6(a)及び6(b)は、例えば支持機能を有する建築部材41を、後から剪断に関して補強する環状の係留又は引張材の別の構造を示す。ここで環状補強部材1は、図6(a)に示したように、長手方向に沿って配置するか、あるいは図6(b)に示したように、建築部材41の断面に配置することができる。その際、環状剪断補強部材1を配置する場合、その末端部には半円形のループではなく、それぞれ2つずつの4分の1円形ループセグメント3aが形成されるということがはっきりと示されている。その際に生ずる単一あるいは複数のループ層の使用に関する問題点は、半円形のループ末端部を形成する場合と同様のものである。支持機能を有する建築部材41の剪断補強との関連性については、同じく国際特許出願WO93/20296号を参照されたい。
図7(a)及び7(b)は、環状の係留又は保持部材1を示し、複数の上下に重ね合わせられたループ層又はループ重なり部2を含んでいる。その際、図7(a)は図1の描写と類似した斜視図により示し、一方、図7(b)は係留部材1を縦断面図により示してある。ここでは、個々のベルトの層又は重なり部2がはっきりと識別可能であり、その際、個々の層又は重なり部は、単一の細長いベルトにより形成されている。この単一の細長いベルトの両端部4a及び4bは、それぞれその直下にある、あるいはそれに接している環状部材の層と、例えば接着、溶接により、又はリベット、ボルト等の機械的な接合手段を利用して接合されている。
図7(c)は、同様の環状係留部材又は保持部材1を示しており、ここでは単一の細長いベルトを有するが、両端部4a及び4bは開放状態のままである。実際には、とりわけ環状の係留部分を建造物に使用する場合、外周側の末端部は、例えば周りを包囲している壁面又は岩盤に係留され、他方、内周側の末端部は係留部材を張設した際、最も内側のベルトループにおいては「後滑り」が起こらないので、自由状態のままにしておくのが望ましいことが判明した。
図7(d)は同じく環状係留部材1を示し、ここでは外周側のベルト末端部4aの「固定」のために被覆材10が装備されており、これは例えば全域にわたって緩く接している弾性材料で構成してもよい。図7(c)及び7(d)に示した変形例の利点は、係留部材1に張力が加わっているときに、外側末端部4aを覆って配置されているループ層の外側末端部との接合領域に過剰な負荷がかからないという点にある。実用上においては、ループに過剰な負荷がかかると、大抵の場合、最も外側のループの外側のループ末端部との接合部の領域において破損が生じることが判明している。この外側の末端領域における負荷を低減させるため、外側の末端部4aを、例えば弾性接着剤によってその下にあるベルト層に固定することも可能である。
環状係留部材に厚い断面の単一ループに比べて複数の層を形成することの利点が、十分有効に作用するためには、発生する張力が種々の層により十分に均等に加えられることが重要である。その際、上述のように特に末端部の引張ループ又はループ湾曲部の領域で、個々の層が互いに滑ることができるということが重要である。このことは例えば、図8の断面図に概略的に示したように、個々の層2の間に滑りやすい材料6を配置することで可能となる。この材料は、層間に追加配置されるか、あるいはまた個々のベルトの層に直接コーティングされる。この追加材料6により、一方においては個々のベルト層が互いに付着することが防止され、他方においては個々の層が上下又は隣り合ったもの同士で理想的に滑ることが保証される。
とりわけ数回巻きの単一の細長いベルトからなる環状係留部材を使用する際に、末端部のループの個々のベルト層間の滑りをよくする代わりに、摩擦を増大させることも利点があることが判明している。これは特に径方向の外側ベルト層においてあてはまる。というのは、これらのベルト層には内側のベルト層より大きな負荷がかかるからである。この摩擦増大は、例えば薄膜を配置することによって、例えば非常に薄い、膜厚が約0.02mm前後の範囲の、いわゆる分割薄膜を配置することで作用させ得る。また、摩擦係数を変化させることも考えられる。すなわち、ループ層の間の中間層を、ループ末端部の径方向側領域において高い摩擦係数とする一方、特にループ末端部の中間領域において摩擦係数を小さくする、すなわち層間の滑りを大きくすることである。
図9は、主として図7(a)及び7(b)に示したような何重かに巻かれた環状ベルトを使用する場合に、環状ベルトの幅が外側のループ層から内側のループ層に向かって変化していく様子を概略的に示している。図9は、外側のループ末端部4aから内側のループ末端部4bまで延びている、いわば「展開された」環状ベルト1を示す。引張ループ1に張力が発生する際に個々の張力成分を異なるループへのできるだけ均等な配分を保証するために、特に最外側のループの幅は最内側のループのそれより広くなっている。外側に末端部4aから内側のベルト末端部4bに向かってベルトの幅が段階的に減少することは問題があるので、この幅は図9に示すように外側の末端部4aからの内側の末端部4bに向かって連続的に減少させることが好ましい。
各ループ層へのできる限り均等な応力分配を達成するための他の方法を、図10の断面図に概略的に示す。ここでは同様に細長い保持及び引張材1の、両側の末端部のループ3に接合された脚部5が湾曲している。図10に示すように、この内側への湾曲により張力が生じた際の各層2の間の長さの差異は最小となる。ここでも重要なことは、各層が互いに付着することなく、本発明に基づく引張ループ1に配列されているということである。
均等に応力を分配する他の方法として、ヤング率を変化させる、すなわち、例えば多重に順次巻込まれたエンドレスループを使用する場合、ループ間でヤング率を変化させることも可能である。単一の多重巻き取り環状ベルトを使用する場合に、各ループ層間の均等な応力配分を達成するために、例えば強化繊維、すなわちヤング率あるいは弾性係数を決めるモジュール材料の比率を内部から外部へ向かって変えることが可能である。
図11と図12は、本発明による保持部材又は引張ループの考え得るさらに別の適用例を概略的に示している。この例により、本発明により規定される保持及び引張材をさまざまな用途に使用できることがさらに明確になる。
図11はコンロッド31の概略図であり、本発明により製造された引張材1を有し、この引張材は2つの末端部のループを有するのではなく、2つの末端部のループ3’と2つの中間部のループ3”を有する。例えば、図11に示したコンロッドのような構造物又は機械部品の場合には、機械部品の側面側において支持されているループは、例えば中間部に延在するコンロッドの場合と比べて、かなり高い負荷に耐え得ることが判明した。それにより機械部品を鋳鉄の代わりに、例えば炭素繊維強化プラスチック製とし、それにより生ずる付加性能の低下は、例えば接合されていない薄い重なり部より構成されているループで側面より支持することにより補うことが可能となる。これらの環状の引張材は上述の通り、例えば繊維強化プラスチック、主として熱可塑性母材を有する炭素繊維又は他の適当な材料で製造することも可能である。機械部品の場合にも使用する環状部材を多層構成とすれば、特に引張ループの湾曲部の末端部領域において、あるいはまた図11において示した例では、ループの中間部領域においても高い引張強度を達成するのに有利であると言える。それにより本発明により提案された環状の保持部材を用いて、機械及び装置において高い強度を達成し、又は応力を伝達又は転向させることが可能となり、またそれにより該当する機械及び装置部品は、いわゆる軽量化構造により、より軽く製造することが可能となる。
全く別の実施形態を図12に示す。ここでは、建造物すなわち屋根構造を安定させることについて概略的に示している。屋根構造31は周知の技術及び手法により互いに連結された木柱、母屋桁等から構成され、側壁35の上に配置されている。これは、例えば改築されるべき、例えば教会、大ホール、城郭風建物等の建造物の側壁である。通常、修繕の必要な建造物のその種の壁35は、小屋組31が載置されることによって外側に作用する、矢印37で表された力を受け止めることがもはやできないものである。従って両側の外側35が倒壊する危険性がある。図12に示すように、本発明に基づく引張材1を屋根構造31に採用することにより、小屋組が両側の壁35に及ぼす力が受け止められるようにすることができる。保持及び引張材1を張設するために、図12に示したように中間引張材33を用いることができる。
産業上の利用可能性
図4及び図11、12に示した例は、もちろんわずか数例の使用可能性に関するものであり、さらに別の用途も当然可能である。
よって例えば、織機のシャフトのたわみを防止するために、本発明による保持及び引張材を用いて強化することも可能である。それにより質量の大きな機械フレーム構造をかなり軽く作ること、又は軽量建材を使用すること、及び機械フレームを上述の本発明による保持及び引張材を用いて追加的に強化することも可能である。例えば地震の発生しやすい地域の建造物も本発明による保持及び引張材により強化することができる。
図1〜12に示したものは、もちろん例示にすぎず、任意の方法で補足、改変又は変更することができる。とりわけ環状部材の製造のために提案した材料は特定の例であって、さらに別の用途可能性に応じて変えることができる。強化繊維として、炭素繊維、グラスファイバー、アラミド繊維、あるいは他の強化手段を用いるかどうか、また母材として、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、PEEK、PA、PP、PPS(ポリフェニレンサルファイド)等を用いるかどうかは、結局のところ使用するべき環状部材に対する要件により決まる問題である。また環状部材の製造のため金属製ベルトを使用することすら可能である。環状部材の末端部での係留も多種多様な技術及び方法を選ぶことができる。

Claims (16)

  1. 建築、機械部品、構造物部材、建造物、部品を係留、剪断補強、固定及び/又は結束保持するため及び/又は少なくとも一方向の張力成分を導くための装置であって、少なくとも一つの繊維強化プラスチック製の環状の係留又は引張材(1)を包含しており、前記環状部材は、複数の積層された環状又はベルト状の層(2)を備え、そのうち少なくとも一部は数回重なり合わせて巻かれた単一のベルトにより形成されていて、その両端部(4a、4b)はそれぞれ隣接の環状又はベルト状の層に接合されるか、自由状態でこれに接していることを特徴とする装置。
  2. 前記環状部材(1)は細長く、各末端部が少なくとも一つの円形に近い形状の引張ループ湾曲部(3、3’、3”)又はセグメント(3a)を有しており、例えば支持あるいは係留体(7、9)の湾曲された表面上に配置されていることを特徴とする請求項1記載の装置。
  3. 前記積層された環状又はベルト状の層(2)は、少なくとも引張ループの両端領域において、互いに接合されていないことを特徴とする請求項1、2のいずれかに記載の装置。
  4. 前記環状又はベルト状の層の少なくともそのベルトの端又は両端の湾曲セグメント領域における層の間には、張力が付与された場合に個々の環状又はベルト状の層の固着を防ぎ、各層を互いに滑らせる材料が配置されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の装置。
  5. 前記単一のベルトのベルト幅は、外側の末端部(4a)から内側の末端部(4b)に向かって小さくなるように形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の装置。
  6. ヤング率又は弾性係数が層毎に異なっていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の装置
  7. 前記環状部材又は層が、炭素繊維強化プラスチック製であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の装置。
  8. 層の間の少なくとも末端部のループ又は引張ループの領域に、例えばテフロンシートあるいは薄い分離薄膜のようなさまざまな摩擦係数を有する非粘着材料(6)が配置又は挿入されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の装置。
  9. 前記環状の係留又は引張材(1)が、少なくともほとんど緩められた弾力性又は柔軟性の外側の層(10)によって包まれていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の装置。
  10. 請求項1〜9のいずれかに記載の装置を包含する建造物の安定部材又は剪断補強部材。
  11. 発生する引張又は圧縮応力を減衰させるための請求項1〜9のいずれかに記載の装置を包含する張力成分を伝達する建材又は機械部品。
  12. 請求項1〜9のいずれかに記載の装置を包含するエンジン用コンロッド(31)。
  13. 請求項1〜9のいずれかに記載の装置に適した環状の係留又は引張材の製造方法であって、肉薄の細長いベルトを何回も重ね合わせてその長手方向に引き伸ばされた状態(1)で巻き取り、その際ベルトの両端部(4a、4b)をそれぞれ隣接する直上又は直下になったベルトへと接合することを特徴とする製造方法。
  14. 熱可塑性又は柔軟性を有する繊維強化熱硬化性プラスチックあるいは繊維強化熱可塑性プラスチックよりなる細長い肉薄のベルトを数回にわたり積層して長手方向に引き伸ばされた環状に巻き、その際ベルトの両端部はそれぞれ隣合ったベルトの直接接する部分に溶接、接着、又は機械的に接合され、また必要に応じてそれに次いで、ベルト材料内部において結合又は硬化反応を引き起こすため張設後、熱、光、赤外線又は紫外線照射及び/又は他の適切なプロセスにより処理されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
  15. 壁面アンカー、岩盤アンカーあるいは橋梁用アンカーとしての請求項1〜9の装置の使用方法。
  16. 請求項1〜9のいずれかに記載の装置を岩盤固定アンカーとして使用する配置方法であって、係留あるいは引張材(1)は予め穿孔されているボーリング穴(25)内に挿入され、ボーリング穴内に挿入された係留部材の末端部の引張ループ湾曲部(3)が固定又は係留され、ボーリング穴は引続き適切な材料(15)で充填され、最終的に地面から突出した引張ループが適切な手段(9)で係留されることを特徴とする配置方法。
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