JP3587583B2 - Afmカンチレバー - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
この発明は、原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope : AFM)に用いるAFMカンチレバーに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、導電性試料を原子サイズオーダーの分解能で観察できる装置として、走査トンネル顕微鏡(STM:Scanning Tunneling Microscope )が Binnig と Rohrer らにより発明されてから、原子オーダーの表面凹凸を観察できる顕微鏡として各方面での利用が進んでいる。しかしSTMでは、観察できる試料は導電性のものに限られている。
【0003】
そこで、STMにおけるサーボ技術を利用しながら、STMでは測定し難かった絶縁性の試料を、原子オーダーの精度で観察することのできる顕微鏡として、原子間力顕微鏡が提案されている(特開昭62−130302号,出願人:IBM,発明者:G.ビニッヒ,発明の名称:サンプル表面の像を形成する方法及び装置,参照)。
【0004】
一方、最近SNOM(Scanning Near-field Optical Microscope)測定が注目されている。これはSTMやAFMと同じく走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope :SPM)の一種で、光照射されている試料近傍で光透過性のある探針を走査することによって、極めて分解能の高い光学像を得る測定方法である。そして光透過性を有する窒化シリコン膜製の探針を持つAFMカンチレバーを、このSNOM測定に適用できることが報告されている〔N.F.van Hulst,M.H.P.Moers,O.F.J.Moordman,R.G.Tack,F.B.Segerink,B.Bolger : Near-field optical microscope using a silicon-nitride probe, Appl.Phys.lett.62,461(1993 )参照〕。
【0005】
AFMの構造はSTMに類似しており、走査型プローブ顕微鏡(SPM)の一つとして位置づけられる。AFMでは、自由端に鋭い突起部分(探針部)を持つカンチレバーを試料に対向・近接して配置し、探針部の先端の原子と試料原子との間に働く相互作用により、変位する片持ち梁の動きを電気的あるいは光学的にとらえて測定しつつ、試料をXY方向に走査し、片持ち梁の探針部との位置関係を相対的に変化させることによって、試料の凹凸情報などを原子サイズオーダーで三次元的にとらえることができるようになっている。
【0006】
上述したようなAFM等における走査型プローブ顕微鏡(SPM)用のカンチレバーチップとしては、T.R.Albrechtらが半導体IC製造プロセスを応用して作製することのできる酸化シリコン膜製のカンチレバーを提案して以来〔Thonas R.Albrecht and Calvin F.Quate : Atomic resolution imaging of a nonconductor Atomforce Microscopy, J.Appl.Phy.62(1987)2599参照〕、ミクロンオーダーの高精度で優れた再現性を持って作製することが可能なっている。また、このようなカンチレバーチップは、バッチプロセスによって作製することができ、低コスト化が実現されている。よって現在では、半導体IC製造プロセスを応用して作製されるカンチレバーチップが主流となっている。
【0007】
AFMの測定方式としては、試料と探針を1nm程度に近接させて測定する接触方式、5〜10nm離して測定する非接触方式、試料表面を探針で軽くたたきながら移動させて測定するタッピング方式等がある。これらの測定方式のうち、非接触方式及びタッピング方式では堅いカンチレバーを用いる必要がある。
【0008】
堅いカンチレバーを作製するためには、レバー膜を厚くする必要があり、このうよなAFMカンチレバーとして、探針部、レバー、支持部をシリコンで一体に形成するものが広く知られている〔例えば、O.Wolter,Th.Bayer, and J.Greschner : Micromachined silicon sensors for scanning force microscopy, J.Vac.Sci.Technol.B9(2),May/April 1991参照〕。
【0009】
このシリコン一体形成型のAFMカンチレバーは、前述したものとおなじく半導体製造技術を用いて作製するため、ミクロンオーダーの高精度で非常に再現性よく作製することができると共に、レバーをシリコン基板で形成するため厚いレバーを作製することが容易である。また探針部がシリコンで形成されているため、シリコンに不純物をあらかじめ拡散させておくことにより、探針部に導電性を付加させることができるので、STM測定や表面修飾、加工も可能である。
【0010】
次に、図10を参照しながら、従来より実施されている半導体IC製造プロセスを応用した窒化シリコン膜製AFMカンチレバーの製造方法について説明する。まず、図10の(A)に示すように、面方位(100)Si基板1010上に窒化シリコン膜パターン1001を設け、スタート基板1020を形成する。次に図10の(B)に示すように、この窒化シリコン膜パターン1001を耐エッチングマスクとして、Si基板1010にカンチレバーの探針部の型となる四角錐状のレプリカ穴1012を形成する。この後、図10の(C)に示すように、一旦窒化シリコン膜パターン1001を除去し、Si基板1010上に新たなカンチレバーの母材料となる窒化シリコン膜1003を堆積する。更に図10の(D)に示すように、この窒化シリコン膜1003をカンチレバーの形状に選択エッチングすることにより、カンチレバーパターン1005を形成する。次いで図10の(E)に示すように、このカンチレバーパターン1005上の所定領域に、カンチレバーの支持部材となるパイレックスガラス1004を陽極接合する。続いて、図10の(F)に示すように、Si基板1010をエッチングにより除去し、支持部、レバー部(片持ち梁)及び探針部を備えたAFMカンチレバー1000が得られる。
【0011】
したがって、この製法により製造されるAFMカンチレバーは、ガラス製の支持部と窒化シリコン膜で一体形成された探針部及び片持ち梁とにより構成される。そして、このように構成されたAFMカンチレバーは、ミクロンオーダーの高精度で非常に再現性よく作製することができ、しかも探針部が材料的性質として親水性である窒化シリコン膜で形成されているので、生体試料に有効な液中でのAFM測定に適している。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記図10で示した製造方法で作製された、窒化シリコン膜で探針部及び片持ち梁を一体形成した従来のAFMカンチレバーは、次のような問題点がある。すなわち、まず、カンチレバーの厚さはレプリカ穴形成後に堆積する窒化シリコン膜の堆積膜厚で決定されるが、窒化シリコン膜堆積時の応力によって発生するクラックや基板のそりを回避するため、堆積できる膜厚は1μm程度が限界となる。したがって、前述した非接触方式やタッピング方式の測定に有効な堅いカンチレバーを形成することが困難である。また、探針部が絶縁性の窒化シリコン膜で構成されるため、STM測定や表面修飾、加工などへの応用が困難である。
【0013】
また、窒化シリコン膜製のAFMカンチレバーにおいては、下地基板のエッチング除去後の片持ち梁の反りを回避するため、用いる窒化シリコン膜の組成としては、通常の半導体ICに用いられるSiと窒素の含有比3:4のものより、Si含有比の高いものを使用する必要がある。このようなSi含有比の高い窒化シリコン膜では、波長400 nm以下の短波長でSiによる光吸収のため、光透過性が劣化することを我々は見いだしている。
【0014】
前述したように、窒化シリコン一体形成型のAFMカンチレバーはSNOM測定に使用可能ではあるが、測定試料からの蛍光をSNOMによりスペクトル分析しようとする場合には、幅広い波長領域での探針部の光透過性が要求される。ところが、このAFMカンチレバーは探針部とレバーを一括形成しているため、探針部は短波長領域で光透過性の劣化するSi含有比の高い窒化シリコン膜で形成されることになり、このような測定には不適当である。
【0015】
更に、窒化シリコン膜製の探針部及びシリコン製の探針部の何れも機械的強度が弱く、このようなカンチレバーを用いての超微細な機械的加工技術への応用には、従来のAFMカンチレバーは不向きである。このように従来の半導体製造技術を用いて作製するAFMカンチレバーは、探針部と片持ち梁を同一材料で形成していたため、探針部としての要求特性と片持ち梁としての要求特性とを同時に満たすことが困難であった。
【0016】
探針部に求められる性能と、片持ち梁に求められる性能を同時に満たす方法としては、探針部と片持ち梁の構成部材をそれぞれ独立に任意に構成すればよいことは容易に考えつくが、数μm〜数十μm程度の探針を別に用意した片持ち梁に接着することは容易ではない。そこで図11の(A)に示すように、同一基板上で片持ち梁1101と探針部1102を順に続けて形成することが考えられるが、この場合には片持ち梁1101と探針部1102の界面1103の状態により、図11の(B)に示すように、基板のエッチング時に探針部1102がとれたり、片持ち梁1101と探針部1102の構成材料の接合性の相性が悪い場合などは、探針部1102が片持ち梁1101につかない等の不具合が考えられる。なお図11の(A),(B)において、1104は支持部を示している。
【0017】
本発明は、従来の半導体製造技術を用いて作製するAFMカンチレバーにおける上記問題点を解消するためになされたもので、各種の用途、使用方法におのおの要求されるレバー特性と探針特性とを共に満足させることの可能なAFMカンチレバーを提供することを目的とする。
そのために請求項1記載の発明は、片持ち梁と探針部を個別に接合性よく構成することが可能なAFMカンチレバーを提供することを目的としている。請求項2記載の発明は、請求項1記載のAFMカンチレバーにおいて、特異な工程を経ることなく容易に形成可能なAFMカンチレバーを提供することを目的とする。請求項3記載の発明は、請求項1記載のAFMカンチレバーにおいて、探針部を挟み込んで固定するために用いられた部材が片持ち梁に応力等の影響を与えないようにしたAFMカンチレバーを提供することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段及び作用】
上記問題点を解決するため、請求項1記載の発明は、片持ち梁の支持部と、該支持部より延びるように配置された片持ち梁と、該片持ち梁の自由端であって、該片持ち梁に対して前記支持部と反対側である裏面に設けた探針部とを備えたAFMカンチレバーにおいて、前記片持ち梁は第1の層と第2の層の重ね合わせ2層部を備え、前記探針部の基部を、前記片持ち梁の第1の層と第2の層の重ね合わせ2層部で重ね合わせ方向に挟み込んで、前記探針部を片持ち梁に結合して構成するものである。
【0019】
このような片持ち梁を構成する第1の層と第2の層とで重ね合わせ方向から探針部を挟み込む構成としているので、片持ち梁と探針部をそれぞれ別個の部材で容易に構成することが可能となり、用途、使用方法に応じて、探針部及び片持ち梁にそれぞれ要求される特性を持たせることができる。例えば、片持ち梁形成部材としてSiを用いると堅いレバー特性が得られ、窒化シリコン膜を用いると柔らかいレバー特性が得られる。そして各片持ち梁に対して光透過性、親水性、導電性、硬質性等の各種特性をもつ探針部を、用途に応じて形成することが可能となる。また探針部はその基部を片持ち梁の重ね合わせ2層部で重ね合わせ方向に挟まれて結合されているので、接合強さが十分に確保でき、接着性の悪い材料をそれぞれ選択してカンチレバーを形成することも可能である。また探針部を薄膜で形成し、片持ち梁を構成する第2の層で芯を形成して探針部を2層構造とすることによって、比較的柔軟な部材や厚膜の形成が困難な部材でも探針部が形成可能となる。
【0020】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のAFMカンチレバーにおいて、片持ち梁を全長に亘って第1の層と第2の層の重ね合わせ2層部で構成するものである。これにより、特異な工程を経ることなく、請求項1記載のAFMカンチレバーを容易に形成することができる。
【0021】
請求項3記載の発明は、請求項1記載のAFMカンチレバーにおいて、探針部の基部を挟み込む結合部分にのみ、片持ち梁の第1の層と第2の層の重ね合わせ2層部を形成するものである。これにより、探針部の結合部分によって片持ち梁に応力等の影響を与えないAFMカンチレバーを提供することが可能となり、探針部の固定に用いる材料の選択範囲が拡大し、遮光膜や光透過性膜など自由に選択でき、測定感度の向上を図ることが可能となる。
【0022】
【実施例】
次に実施例について説明する。図1の(A)は、本発明に係るAFMカンチレバーの第1実施例を示す全体斜視図で、図1の(B)はその断面図である。この実施例のAFMカンチレバー100 は片持ち梁105 と、該片持ち梁105 の先端に設けられた探針部102 と、該片持ち梁105 の基部に設けられた支持部104 より構成されている。探針部102 は、片持ち梁を構成する第1の層101 の下面にその基部102aが支持され、該第1の層101 を貫通して上面から突出して配設され、そして基部102aは片持ち梁105 を構成する第2の層103 によって、図1の(B)に示されるように挟み込まれて固着されている。片持ち梁105 の構成材料には、シリコン,窒化シリコンが適している。探針部102 の形成材料には、用途に応じて光透過性、導電性、硬質性等の各種特性を有する部材を適宜選択できる。そして、支持部104 にはガラス,Si等を用いることができる。
【0023】
探針部102 の形成部材として、光透過性のある窒化シリコン膜,酸化シリコン膜,ITO,SnO2 等を用いることにより、SNOM測定やそのスペクトル測定が可能となる。なお、この場合に用いる窒化シリコン膜としては、Siと窒素との含有比が3:4である膜組成のものを使用した方が、従来のAFMカンチレバーに使用されている低応力化した窒化シリコン膜よりも適している。これは低応力化した窒化シリコン膜では、Siの含有比が多いため、波長400 nm以下でSiによる光吸収に起因する光透過性の低下が見られるからである。
【0024】
一方、探針部102 の形成部材として導電性材料を用いれば、AFM測定のみならずSTM測定、あるいはSTMを用いた原子、分子操作等の表面修飾や加工にも適用可能である。導電性材料としては各種金属を用いることができるが、特にMo,W等の高融点金属及びそのシリサイドを使用することにより、探針部の形成部材の成膜後も高温熱処理することが可能となり、作製上の制約が少ない。また前述のITO,SnO2 等の透明電極材料を用いることにより、AFM、SNOM、STM測定を全て行うことが可能となる。更にまた、探針部の形成部材として、SiCやDLC(Diamond Like Carbon )等の硬質材料を用いることにより、被加工体表面を走査して削る等の超微細な機械的加工技術も可能となる。
【0025】
本実施例では、片持ち梁の第1の層の下面に探針部の基部を形成し、更にその上から第2の層を形成する構成であるから、探針部は片持ち梁の内部に強固に保持されることになる。この特徴を利用して、探針部に片持ち梁の部材と接合性の悪い部材を用いたAFMカンチレバーも形成可能となる。
【0026】
また本実施例では、片持ち梁全体を第1の層101 と第2の層103 で構成しており、第1の層101 と第2の層103 に同一部材を用いる場合や低応力部材を用いる場合に適している。また、第1及び第2の2層の応力差を利用して片持ち梁の反りを取り除く場合や、反りを任意に設定する場合にも応用可能であることから、第1の層と第2の層にそれぞれ別個の部材を用いることもできる。
【0027】
更に、図1の(C)に示すように、片持ち梁の第2の層103 を構成する膜を、探針部102 の内部にも入り込ませることができるので、探針部102 を薄めに形成して、片持ち梁の第2の層103 で探針部内部に芯112 を形成することにより、軟らかい部材等の探針部の形成も可能となる。
【0028】
次に本発明に係るAFMカンチレバーの製造方法の一例を、図5の(A)〜(F)に示す製造工程図に基づいて説明する。まず図5の(A)に示すように、面方位(100)のSi基板510 に片持ち梁を構成するSiN等からなる第1の膜501 を堆積し、探針形成部を開口する。続いてSi基板510 にレプリカ穴512 をエッチングにより形成する。エッチングにはドライエッチング、ウェットエッチング共に使用可能であり、エッチングマスクとしては酸化シリコン膜等を用いる。次にレプリカ穴512 を含む図5の(A)に示す基板表面にSi3 N4 等の探針形成部材522 を堆積し、レプリカ穴の部分にマスクパターンを形成した後、探針部を除いた周辺部の形成部材522 をエッチングして、図5の(B)に示すように、探針部502 を得る。この時、第1の膜501 の表面に酸化シリコン膜等を形成してエッチングのストッパーに用いると、エッチングの制御が容易である。次に図5の(C)に示すように、表面の酸化シリコン膜をエッチングにより除去した第1の膜501 と探針部502 の表面に、片持ち梁を構成するSiN等からなる第2の膜503 を堆積する。次いで、この表面に片持ち梁の形状にマスクパターンを形成し、エッチングして基板510 を露出させて、図5の(D)に示すように、片持ち梁505 を得、熱処理して表面に酸化シリコン膜515 を形成する。
【0029】
その後、図5の(E)に示すように、片持ち梁505 の探針部502 とは反対側の一端の表面に、支持部504 を接合する。この支持部504 の接合方法としては、例えばあらかじめ片面に溝を形成したパイレックスガラス(例えばコーニング♯7740)を陽極接合したり、あるいは適当な支持部材を接着剤等を用いて接合する方法が用いられる。その後、図5の(F)に示すように、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液のアルカリ水溶液により、下地Si基板510 をエッチング除去し、最後にフッ化水素酸水溶液により酸化シリコン膜515 を除去することによって、例えばガラス製の支持部504 とSiN製の片持ち梁505 とSi3 N4 製の探針部502 により構成された本発明に係るAFMカンチレバー500 を得ることができる。
【0030】
次に、本発明に係るAFMカンチレバーの製造方法の他の例を、図6の(A)〜(F)に示す製造工程図に基づいて説明する。この製造方法は、片持ち梁をSiで形成するものである。まず、スタート基板620 として、図6の(A)に示すように、面方位(100)のシリコンウエハ610 の表面に酸化シリコン膜611 を形成した後、例えばn型の同じく面方位(100)を持ったシリコンウエハ601 を貼り合わせたもの、いわゆる貼り合わせSOI(Silicon On Insulator)基板を使用する。ここで、シリコンウエハ601 は片持ち梁を構成する第1の層を形成するものであり、その厚さは必要とするレバーの特性に合わせて設定される。例えば、その厚さは2μm程度である。
【0031】
次に図6の(B)に示すように、上記スタート基板620 の表面の探針部を形成すべき場所に、下地シリコンウエハ610 まで貫通するように、例えばRIE(Reactive Ion Etching)法を用いてスタート基板620 をエッチングすることによって、レプリカ穴612 を形成する。次に図6の(C)に示すように、例えばSi3 N4 等の探針形成部材622 をCVD法等で基板表面に堆積し、次いで上記レプリカ穴部分にマスクパターンを形成した後、上記探針形成部材622 をエッチングして、レプリカ穴部分を除き基板表面を露出させ、探針部602 を形成する。その後、図6の(D)に示すように、基板表面に片持ち梁を構成する例えば多晶質シリコン等の第2の層の形成部材603 をCVD法等で堆積する。その後、図6の(E)に示すように、片持ち梁形成用マスクパターンを形成した後、RIE法等により第2の層の形成部材603 及び上部シリコンウエハ601 をエッチングして片持ち梁605 を形成し、更にその後、第2の層の形成部材603 とシリコンウエハ601 からなる片持ち梁605 の表面に、酸化シリコン膜615 を形成する。
【0032】
以下図5に示した製造方法と同様の方法で、図6の(E)〜(F)に示すように、支持部604 を形成し、シリコンウエハ610 をエッチング除去し、最後に表面の酸化シリコン膜615 を除去することにより、AFMカンチレバー600 が得られる。
【0033】
次に、本発明に係るAFMカンチレバーの製造方法の更に他の例を、図7の(A)〜(F)に示す製造工程図を用いて説明する。この製造方法でも、第2実施例と同様に、片持ち梁をSiで形成している。まずスタート基板720 として、図7の(A)に示すように面方位(100)のn型シリコンウエハ710 の上に、片持ち梁の第1の層となる高濃度のp型不純物拡散層701 を形成したものを用いる。このp型不純物拡散層701 としては、例えば表面濃度1×1019〜1.5 ×1020/cm3 程度のボロン拡散層を用いる。次に図7の(B)に示すように、探針形成用のレプリカ穴712 をシリコンウエハ710 まで貫通するように形成する。なお図6に示した製造方法においては、レプリカ穴の形成にRIE等のドライエッチング法を用いたが、本製造方法においては、それに加えてKOH水溶液による湿式エッチング法を用いることも可能である。
【0034】
以下図6に示した製造方法と全く同様の方法で、図7の(C)〜(E)に示すように、探針形成部材722 の堆積とエッチング、片持ち梁を構成する第2の層703 の堆積、片持ち梁705 の形成、酸化シリコン膜715 の形成、支持部704 となるガラス基板の接合までを行う。
【0035】
その後、シリコンウエハ710 をエチレンジアミンピロカテコール水溶液(EDP)によりエッチング除去する。このエッチング液においては、第1の層となる高濃度のp型不純物拡散層701 のエッチングレートが著しく減少するため、シリコンウエハ710 が徐々にエッチングされ、p型不純物拡散層701 からなる片持ち梁705 が露出したとき、エッチングが自動的に停止する。そして最後にフッ化水素酸水溶液により酸化シリコン膜715 を除去することによって、図7の(F)に示すように、ガラス製の支持部704 とシリコン製の片持ち梁705 と探針部702 とからなるAFMカンチレバー700 が得られる。
【0036】
この製造方法によれば、スタート基板として特殊な基板を必要としないため、更に安価に本発明に係るAFMカンチレバーを製造することができる。
【0037】
次に、本発明に係るAFMカンチレバーの製造方法の更に他の例を、図8の(A)〜(F)に示す製造工程図を用いて説明する。この製造方法でも、片持ち梁をSiで形成している。まずスタート基板820 として、図8の(A)に示すように面方位(100)のp型シリコン基板810 の上に、同じく面方位(100)のn型シリコン層801 を積層したものを用いる。このスタート基板820 の作製方法としては、p型シリコン基板810 の上に片持ち梁の第1の層となるn型不純物層からなるn型シリコン層801 を形成して作製したり、あるいは前記p型シリコン基板810 上に片持ち梁の第1の層となるn型エピタキシャル層からなるn型シリコン層801 を積層して作製してもよい。次に図8の(B)に示すように、探針形成用のレプリカ穴812 をシリコン基板810 まで貫通するように形成する。本実施例においても、第3実施例と同様にレプリカ穴812 の形成にはドライエッチング法、湿式エッチング法とも使用可能である。
【0038】
以下図6に示した製造方法と全く同様の方法で、図8の(C)〜(E)に示すように、探針形成部材822 の堆積とエッチング、片持ち梁を構成する第2の層803 の堆積、片持ち梁805 の形成、酸化シリコン膜815 の形成、支持部804 となるガラス基板の接合までを行う。
【0039】
その後、前記スタート基板820 の裏面をエッチングするわけであるが、この時前記p型シリコン基板810 と前記n型不純物層あるいは前記n型エピタキシャル層からなるn型シリコン層801 とに、電源814 で電位差を与えながら、前記p型シリコン基板810 を水酸化カリウム水溶液等のアルカリ水溶液でエッチング除去する。この手法をとることにより、p型シリコン基板810 が徐々にエッチングされ、n型不純物層あるいはn型エピタキシャル層からなるn型シリコン層801 が露出したとき、その界面に酸化シリコン膜が形成されるため、エッチングが自動的に停止する。そして最後にフッ化水素酸水溶液により酸化シリコン膜815 を除去することによって、図8の(F)に示すように、ガラス製の支持部804 とシリコン製の片持ち梁805 と探針部802 とからなるAFMカンチレバー800 が得られる。
【0040】
次に、本発明に係るAFMカンチレバーの製造方法の更に他の例を、図9の(A)〜(F)に示す製造工程図に基づいて説明する。この製造方法においても同様にSiを片持ち梁の形成部材として用いるものである。この製造方法においては、スタート基板920 として、図9の(A)に示すように面方位(100)のp型シリコン基板910 の上に、片持ち梁の第1の層となる面方位(111)のシリコン基板901 を貼り合わせたものを使用する。次に図9の(B)に示すように、探針形成用のレプリカ穴912 をシリコン基板910 まで貫通するように形成する。
【0041】
以下図6に示した製造方法と全く同様の工程により、図9の(C)〜(F)に示すように、探針形成部材922 の堆積とエッチング、片持ち梁を構成する第2の層903 の堆積、片持ち梁905 の形成、酸化シリコン膜915 の形成、支持部904 となるガラス基板の接合、シリコン基板910 のエッチング除去の各工程を経て、ガラス製の支持部904 とシリコン製の片持ち梁905 と探針部902 とからなるAFMカンチレバー900 が得られる。
【0042】
この製造方法によれば、スタート基板920 として面方位(100)のシリコン基板910 の上に面方位(111)のシリコン基板901 を貼り合わせたものを使用しているため、下地シリコン基板910 をエッチング除去する際に、確実にシリコン基板901 の界面でエッチングを停止させることができる。これは例えば、水酸化カリウム水溶液をエッチング液として使用した場合、(111)面のエッチング速度は、(100)面のそれの約1/400 に低下するためである。
【0043】
次に、本発明に係るAFMカンチレバーの第2実施例を、図2に示す横断面図に基づいて説明する。この実施例は、片持ち梁の梁として機能する部分を第1の層で構成し、第2の層は探針部の配置部分のみを覆うように配置して構成することを特徴としている。
【0044】
すなわち、この実施例のAFMカンチレバー200 は、第1実施例と同様に、片持ち梁205 と、該片持ち梁205 の先端に設けられた探針部202 と、片持ち梁205 の基部に設けられた支持部204 より構成されている。探針部202 は、片持ち梁を構成する第1の層201 の下面に基部202aを配置し、先端部を該第1の層を貫通して上面より突出形成しており、そして基部202aの裏面側に第2の層を配置し該基部202aを挟み込むように構成されている。但し、第1実施例とは異なり、片持ち梁を構成する第2の層203 は、探針部202 の基部202aとその周辺のみに形成されている。
【0045】
このように、片持ち梁205 を構成する第2の層203 は、探針部202 の基部202aを挟み込んで保持することが第1の目的であるから、探針部の基部上に形成されておればよく、必ずしも第1の層201 の下面全体に配置する必要はない。この構成によって、片持ち梁205 を構成する第2の層203 に使用する材料の選択範囲が飛躍的に増大する。
【0046】
次に、本発明に係るAFMカンチレバーの第3実施例を、図3に示す断面図に基づいて説明する。この実施例においては第2実施例とは逆に、片持ち梁の梁として機能する部分を第2の層のみで構成し、第1の層は探針部の配置部分のみを覆うように配置して構成したものである。
【0047】
すなわち、この実施例のAFMカンチレバー300 は、第1実施例と同様に、片持ち梁305 と、該片持ち梁305 の先端に設けられた探針部302 と、片持ち梁305 の基部に設けられた支持部304 とで構成されている。探針部302 は、片持ち梁を構成する第1の層301 の下面に基部302aを配置し、先端部を該第1の層を貫通して上面より突出形成しており、基部302aの裏面側に第2の層303 を配置し、基部302aを挟み込むように構成されている。そして第2実施例とは逆に、片持ち梁305 の第1の層301 を、探針部302 の基部302aとその周辺のみに形成するようにしている。この構成によって、片持ち梁305 を構成する第1の層301 に使用する材料の選択範囲が増大し、応用範囲が広がる。
【0048】
次に、本発明に係るAFMカンチレバーの第4実施例を、図4の(A)〜(C)に基づいて説明する。この実施例は、片持ち梁405 を構成する第2の層403 の探針部402 の基部402aの裏面に対応する部分に開口432 をもつ構成を特徴とするものである。第2の層403 への開口432 は、片持ち梁405 を構成する第2の層403 を探針部402 に形成した後、マスクパターンを形成し、エッチングによって形成される。この時の第2の層403 は、図4の(A)に示すように、片持ち梁405 を構成する第1の層401 全体に沿って形成してもよく、また図4の(C)に示すように、探針部402 の支持部分のみに形成してもよい。
【0049】
この実施例のAFMカンチレバーにおいて、探針部402 にSi3 N4 等の光透過性の材料を用い、片持ち梁の第2の層403 に反射防止膜を用いることにより、SNOM測定に使用可能なAFMカンチレバーが得られる。
【0050】
【発明の効果】
以上実施例に基づいて説明したように、請求項1記載の発明によれば、片持ち梁を構成する第1の層と第2の層とで重ね合わせ方向から探針部を挟み込む構成としているので、探針部の材料を片持ち梁とは別個に選択可能となる。しかも探針部はその基部で片持ち梁に挟まれて結合されているので接合強さが十分に確保でき、探針部と片持ち梁に互いに接着性の悪い材料をそれぞれ選択してAFMカンチレバーを形成することも可能である。したがって、探針部は用途に応じた部材を選択することができ、さまざまな測定に応用可能なAFMカンチレバーを実現することが可能となる。また、探針部を薄膜で形成し、片持ち梁を構成する第2の層で芯を形成して探針部を2層構造とすることによって、比較的柔軟な材料や厚膜の形成が困難な材料でも探針部が形成可能となる。
【0051】
請求項2記載の発明によれば、特異な工程を経ることなく、容易に請求項1のAFMカンチレバーが形成可能となる。また請求項3記載の発明によれば、探針部を挟み込んで固定するために用いられる片持ち梁の第1及び第2の層が片持ち梁に応力等の影響を与えないように構成したAFMカンチレバーを実現することが可能となる。したがって、探針部の固定に用いる片持ち梁の第1の層又は第2の層の材料の選択範囲が拡大し、遮光膜や光透過性の膜など自由に選択でき、測定感度の向上に応用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るAFMカンチレバーの第1実施例を示す斜視図と横断面図並びに第1実施例の変形例の要部を示す断面図である。
【図2】本発明に係るAFMカンチレバーの第2実施例を示す横断面図である。
【図3】本発明に係るAFMカンチレバーの第3実施例を示す横断面図である。
【図4】本発明に係るAFMカンチレバーの第3実施例及びその変形例を示す図である。
【図5】本発明に係るAFMカンチレバーの製造方法の一例を説明するための製造工程図である。
【図6】本発明に係るAFMカンチレバーの製造方法の他の例を説明するための製造工程図である。
【図7】本発明に係るAFMカンチレバーの製造方法の更に他の例を説明するための製造工程図である。
【図8】本発明に係るAFMカンチレバーの製造方法の更に他の例を説明するための製造工程図である。
【図9】本発明に係るAFMカンチレバーの製造方法の更に他の例を説明するための製造工程図である。
【図10】従来のAFMカンチレバーの製造方法を説明するための製造工程図である。
【図11】従来考えられたAFMカンチレバー及びその欠点を説明するための図である。
【符号の説明】
100,200,300,400,500,600,700,800,900 AFMカンチレバー
101,201,301,401,501,601,701,801,901 片持ち梁の第1の層
102,202,302,402,502,602,702,802,902 探針部
103,203,303,403,503,603,703,803,903 片持ち梁の第2の層
104,204,304,404,504,604,704,804,904 支持部
105,205,305,405,505,605,705,805,905 片持ち梁
112 探針部の芯部
432 開口部
510,610,710,810,910 シリコンウエハ
512,612,712,812,912 レプリカ穴
620,720,820,920 スタート基板
522,622,722,822,922 探針形成部材
814 電源
Claims (3)
- 片持ち梁の支持部と、該支持部より延びるように配置された片持ち梁と、該片持ち梁の自由端であって、該片持ち梁に対して前記支持部と反対側である裏面に設けた探針部とを備えたAFMカンチレバーにおいて、前記片持ち梁は第1の層と第2の層の重ね合わせ2層部を備え、前記探針部の基部を、前記片持ち梁の第1の層と第2の層の重ね合わせ2層部で重ね合わせ方向に挟み込んで、前記探針部を片持ち梁に結合していることを特徴とするAFMカンチレバー。
- 前記片持ち梁は、全長に亘って第1の層と第2の層の重ね合わせ2層部で構成されていることを特徴とする請求項1記載のAFMカンチレバー。
- 前記片持ち梁は、前記探針部の基部を挟み込む結合部分にのみ、第1の層と第2の層の重ね合わせ2層部を備えていることを特徴とする請求項1記載のAFMカンチレバー。
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