JP3579436B2 - マグネトプランバイト型フェライト粉末及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、磁気層にしたときの良好な配向度及び狭い反転磁界分布を有し、磁気記録媒体に対して高記録密度を可能にするマグネトプランバイト型フェライト粉末を提供する事を目的とする。
【0002】
【従来の技術】
磁気層の特性としては、飽和磁化量、角型比、反転磁界分布等が重要である。飽和磁化量は単位質量あたりのエネルギーとして表されるので、磁気層の原料となる磁性粉末の飽和磁化量で言い換えられる。又、角型比は飽和磁化量に対して残留する磁化量の程度を表し、これらは磁気層の出力の点から大きい方が望ましい。一方、反転磁界分布は磁気層中の磁性粉末の個々の粒子の抗磁力の分布を表し、この数値は小さい方が望ましい。
【0003】
飽和磁化量と角型比は研究的には通常極めて大きな外部磁場を用いて測定される。ところが民生用の記録装置はこれよりも小さな外部磁場で記録や消去を行なっている為反転磁界分布が問題となる。すなわち抗磁力の高い粒子が磁性粉末中に数多く存在すると、民生用の記録装置では磁化されない為に記録に寄与出来ず、磁気層内にあっても有効に働かない。又、逆に抗磁力の低い粒子が磁性粉末中に数多く存在するとこれらは外部磁場の影響で容易に消去或は誤記録されてしまい、これらの磁気記憶媒体の多くが金券に類するものに使用されていることを考えると好ましくない。このように高抗磁力や低抗磁力の磁性粉末が存在すると磁気記憶媒体の記録密度を高めることは不可能である。逆に高抗磁力や低抗磁力の粒子を少なくする、言い換えれば反転磁界分布を小さくすれば記録密度の向上を図れることになる。
【0004】
一般に磁気切符や磁気カードなどの磁気記録媒体の磁気層は、磁性粉末をワニスまたは樹脂を適当な溶剤に溶解したバインダーなどに分散した磁気インキ、磁気塗料などを印刷または塗工によって紙、プラスチックシートなどの表面に塗布して形成する。このとき用いる磁性粉末には、バリウムフェライトやストロンチウムフェライトを初めとするマグネトプランバイト型フェライトが用いられている。
【0005】
一般に、これらのマグネトプランバイト型フェライト粉末は、炭酸バリウムや炭酸ストロンチウムと酸化鉄等の原料と、必要に応じアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩化物や炭酸塩を溶融塩として混合し、これを焼成して得られている。この様にして得られたマグネトプランバイト型フェライト粉末は、粉体であるが故に原料やその混合状態或は焼成条件の不均一さなどにより、個々の粒子の磁気特性は分布を持ったものとして得られるのが現状である。
【0006】
これまで上記の磁気記録媒体に入出力される情報はごく僅かな量であり、既存の磁性粉末で対応することが可能であった。しかし最近の高度情報化によってこれらの磁気記録媒体に記録される情報量も更に多くすることが望まれている。これに対して磁気記録媒体の使用量や磁気層の量を増やすことによって情報量を増やすことは可能であるが、カード、切符といった磁気記録媒体はすでに定型化されているものも多く、そのうえ磁気層を形成出来る面積が限られている為、磁気記録媒体の使用量や磁気層の量を増やして対応することは不可能であり、情報量を増やす為には磁気層の記録密度を高める必要があった。しかしながら既存の磁性粉末は前述した様に磁気特性、特に反転磁界分布に大きな広がりを持つ為に記録密度を高めることは困難な状態であった。
【0007】
この問題に対し、例えば特開昭57−56330や特開昭62−1114に振動ボールミルあるいはエッヂランナーで粉砕を行ない改善を行なった例がある が、これらはいずれも磁性粉末の粒度を調整したり、かさ密度を増加する事によって磁性粉末を磁気インキや塗料とする際の分散性を向上するものであり、磁性粉末の本質的な磁気特性の向上には至っていない。
【0008】
又、「粉体および粉末冶金第39巻第11号(1992年)の第959頁」ではストロンチウムフェライトを振動ボールミルで処理し格子歪みを形成する事で抗磁力を低下せしめる事が報告されている。しかしこの文献の方法では高抗磁力の粒子を低抗磁力に転換出来るので高抗磁力の問題点には対応出来るが、低抗磁力の問題点には対応出来ないばかりか、逆に低抗磁力の粒子が増えてしまう問題がある。
【0009】
更に、特開昭57−295324や特開昭60−11232にあるようにこれらの粉砕は却って磁気特性を劣化させ、その回復の為に熱処理や酸処理を行なう必要がありコスト的にも問題がある
この様な問題に対して、例えば特公昭58−47846では原料の混合方法を変えることで磁気特性の改善を図ろうとする例も見受けられるが、これは既存方法の精密化や均一化といったものでそこには技術的に大きな進歩があるものではない。従って磁気特性上の大きな飛躍も期待できるものではなく、角型比や反転磁界分布の改善などを開示するに至っていない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従来のマグネトプランバイト型フェライト粉末を用い、カード、切符、テー プ、デイスク等の磁気記録媒体を製造したとき、磁気層において良好な配向度と狭い反転磁界分布を有しておらず高密度記録が不可能であったのでそれらを改良しうる新規なマグネトプランバイト型フェライト粉末の開発にある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、粉体の飽和磁化量が59emu/g以上を保持する範囲で機械的乾式処理を行い、格子歪みと配向重積を同時に生じせしめたマグネトプランバイト型フェライト粉末において、格子歪みを指標として、850℃で1時間の熱処理によって回復する(114)面のX線回折による結晶子径が熱処理前後の比(熱処理後結晶子径/熱処理前結晶子径)で1.1以上1.4以下で、かつ、配向重積を示す指標として(110)面と(008)面のX線回折強度比(I(110)/I(008))が、乾式処理前後の比(乾式処理前強度比/乾式処理後強度比)で1.2以上1.7以下であるマグネトプランバイト型フェライト粉末を使用することにより、磁気記録媒体の記録密度を高めうる事を見い出し本発明の完成に至った。
【0012】
本発明者は既存の磁性粉末を双ロールミル、遊星ボールミル、振動ボールミル等で処理し、磁性粉末中の粒子の結晶格子中に歪みを形成せしめると同時に粒子同士を配向重積せしめるという、従来の粉砕による粒度調整や圧密によるかさ密度の増加といったものとは全く異なる概念で高抗磁力と低抗磁力の両方の問題点を同時に解決し、飽和磁化量を大きく損なうことなく磁気層の角型比並びに反転磁界分布を向上させ、最終的に磁気記録媒体の記録密度を高めることに成功したのである。
【0013】
マグネトプランバイト型フェライト粒子の磁気特性に関する「応用物理第53巻第2号1986年第135頁」によれば、抗磁力の変化要因は大きく2つに分けられる。一つは結晶異方性により他方は形状異方性によるものであるが、結晶異方性が大きくなると抗磁力は高くなり、形状異方性が大きくなる(マグネトプランバイト型フェライト粒子では板状比が大きくなる事である)と抗磁力は低くなるとある。これより高抗磁力の粒子は結晶異方性を低くするか形状異方性を高める事で、一方、低抗磁力の粒子は形状異方性を低くするか結晶異方性を高くする事でそれぞれを所望の抗磁力へと転換することが出来ると考えられる。
【0014】
本発明者は、上記の観点から格子歪みと配向重積の程度を好ましい範囲に調節することにより、所望のフェライト粒子を得ることに成功したものである。
【0015】
格子歪みと配向重積の程度はいずれもX線回折により測定できるが、以下にこれらの関係について説明する。
【0016】
まず格子歪みとX線回折の関係について述べる。
【0017】
通常の結晶子の大きさはX線回折法により容易に測定される。ところが結晶子径は結晶子自体の大きさが変わらなくても、格子歪みが生じると見かけ上小さく測定される。しかし粉体に粉砕処理を行なって、その前後の結晶子径を比較してもそれが結晶子自体の大きさが変化した事によるものか、格子歪みによるものかは容易に区別する事は出来ない。
【0018】
一方、機械的な応力によって生じた格子歪みは適度な温度で熱処理すれば除去出来る事は周知の事実である。すなわち、磁性粉末に生じた格子歪みは、その磁性粉末を結晶子自体の大きさが変わらない適正な温度で熱処理することにより除去でき、その結果結晶子径は大きくなる。したがって、熱処理前後の結晶子径を測定することにより、粉体処理により生じた歪みの程度を得ることが出来る。
【0019】
例えばマグネトプランバイト型フェライトでは、格子歪みがない場合850℃1時間の熱処理では結晶子径の変化がない事から、この条件での熱処理前後の(114)面の結晶子径の差が大きい程歪みが大きいといえる。
【0020】
次に配向重積とX線回折の関係について述べる。
【0021】
粉末のX線回折を測定すると面指数に応じた回折線が多数現れ、その回折強度比はそれぞれ固有のものである事は周知の事実である。また、この回折強度比は粒子の形状や配向状態が変わると変化する事も知られている。
【0022】
マグネトプランバイト型の磁性粉末の形状異方性は板状比により表され、配向重積によって見かけの形状異方性、言い換えるなら板状比が小さくなる。この配向重積を有するという事は元来無秩序な方向を向いた状態にある粒子がある一定の方向へと秩序のある配向をしたという事になる。したがって処理前後の磁性粉末の板面に水平な方向と板面に垂直な方向の面指数の回折強度比を比較すれば、粒子の配向重積状態が測定される。マグネトプランバイト型の結晶では板面に水平な方向がa及びb軸、垂直な方向がc軸であるので、それぞれ(hk0)面と(00l)面の回折強度比を測定すれば配向重積の程度を得ることが出来る。
【0023】
例えば(110)面と(008)面の回折強度比I(110)/I(008)の値が処理前の値に比べて小さい程、配向重積が進行したといえる。
【0024】
粉砕の程度については比表面積を測定しその大小を比較すればよく、通常粒子が粉砕される程比表面積は大きくなる。
【0025】
本発明は、上記の知見に基づき、格子歪みに関しては850℃で1時間の熱処理によって回復する(114)面のX線回折による結晶子径が熱処理前後の比(熱処理後結晶子径/熱処理前結晶子径)で1.1以上1.4以下であり、かつ、配向重積に関しては(110)面と(008)面のX線回折強度比(I(110)/I(008))が、乾式処理前後の比(乾式処理前強度比/乾式処理後強度比)で1.2以上1.7以下である場合に、良好な結果が得られることを見いだしものである。
【0026】
なお、本明細書において乾式処理とは、以下の製造方法において述べる振動ボールミルなどによる処理をいう。
【0027】
以下に本発明にかかるマグネトプランバイト型フェライト粒子の製造方法について述べる。
【0028】
高抗磁力の粒子は前述した様に振動ボールミルで結晶歪みを生成して結晶異方性を低くし抗磁力を低下せしめることが出来るので、これに加えて低抗磁力の粒子の形状異方性を低くすれば極めて狭隘な抗磁力分布を持った、換言すれば反転磁界分布の小さい磁性粉末を得ることが出来る。
【0029】
形状異方性を変えるには粉砕によって粒子の形を変える事によっても達成されるが、前述した様に飽和磁化量の低下などを招き好ましくなく、従って粒子の破砕を起こさないような別の方法で形状異方性を低下させる必要がある。
【0030】
一般に磁性粒子は配向重積する事によって多数の粒子の集合体であっても磁気的には1個の粒子としてふるまう様になる。したがって六角板状のマグネトプランバイト型フェライト粒子では、粒子の破砕を起こすことなくその板状方向に配向重積させる事によって板状比が低下、すなわち形状異方性が低下して抗磁力を高めることが出来る。又粒子が配向重積するという事はそれだけ粒子の配向性が高まる事になるので、磁気層の角型比の向上効果も同時に期待される。
【0031】
このように概念的には飽和磁化量を損なうことなく高角型比と狭隘な反転磁界分布を有するマグネトプランバイト型フェライト粉末を得る事は可能であるが、従来の技術では飽和磁化量、角型比、反転磁界分布を同時に満足するのは困難であった。これに対して本発明者は、前述の概念を基に検討を重ねた結果、従来とは全く異なる振動ボールミルの使用方法によって磁気特性の優れたマグネトプランバイト型フェライト粉末を製造し得ることを見いだした。更に振動ボールミルの他に遊星ボールミルや双ロールミル等でも同様な効果が得られるという知見を得た。殊に双ロールミルでは極めて磁気特性の優れたマグネトプランバイト型フェライト粉末を製造し得ることを見いだした。
【0032】
通常、振動ボールミルは粒子の粉砕を目的として使用されているが、その粉砕機構は粒子が粉砕媒体であるボールやロッドの間隙に位置しボールやロッドの衝突や摩擦によって粉砕される。したがって効率よく粉砕を行なう為には常に粒子が粉砕媒体の間隙に位置されていなければならず、通常の粉砕条件もそれを満足する様に設定される。しかしこの様な条件は粒子の粉砕が著しく磁性粉末には適さない事は前述した通りである。これに対して本発明者は、以下に示す様に粉砕条件を適宜設定する事で磁性粉末が粉砕容器の内壁に徐々に付着する様に操作し、従来の粉砕とは異なり粒子の極端な粉砕を起こすことなく結晶格子の歪みと粒子の配向重積を同時に生じせしめることに成功した。
【0033】
通常、振動ボールミルでは粉砕媒体を容器の全容積の8割程度入れ、更に粉体を粉砕媒体の間隙を満たす程度入れて粉砕を行なっている。これに対して本発明者は粉砕媒体の充填量を容器の全容積の5割程度とし、かつ磁性粉末を粉砕媒体の間隙部分を満たす量の2倍程度入れて所定時間処理を行った。この結果充填時には粉砕媒体の間隙部分にも磁性粉末が存在していたが、処理時間と共に内壁に磁性粉末が付着し最終的には磁性粉末のほぼ全量が内壁に付着した。この付着した磁性粉末をいったん取り出し軽く解砕して、再度容器に充填して再処理する操作を繰り返したところ角型比、反転磁界分布の良好な磁性粉末を得た。またX線回折で処理前後の粉体を観察したところ歪みの生成と板状方向への配向重積が確認された。したがって磁性粉末が内壁に付着する過程でこれまでの粉砕とは異なる配向重積の効果が得られたものと思われる。
【0034】
次に振動ボールミルにおける知見に基づき遊星ボールミルで検討を行った結果角型比、反転磁界分布の良好な磁性粉末を得ることが出来た。
【0035】
遊星ボールミルは粉砕すべき粉体と粉砕媒体を入れた容器を高速で公転並びに自転させる事で粉砕を行なう装置である。容器の高速回転で生じた大きな遠心力で、粒子は容器の内壁に付着する為前述の振動ボールミルと同様の効果を得たものと思われる。
【0036】
振動ボールミル、遊星ボールミルの効果に基づいて検討を重ねた結果、双ロールミルを用いると更に角型比、反転磁界分布の改良された磁性粉末が得られることが見出だされた。
【0037】
双ロールミルは互いに逆回転する2つのロールの間隙に粉体を導入し機械的に圧力をかける装置である。この装置の場合ロール間に磁性粉末が導入される過程で粒子が配向重積し、更に機械的に高圧が粒子にかかる事で格子歪みが生成する為に同様の効果を得たものと思われる。
【0038】
以上の知見より、これらの装置と同様の機構を有する装置によっても、本発明にかかるマグネトプランバイト型フェライト粉末を製造する事ができると推察される。
【0039】
次に実施例並びに比較例により、本発明を説明する。但し以下の実施例並びに比較例は単に例示の為に記すものであり、発明の範囲がこれらによって制限されるものではない。
【0040】
【実施例】
以下の実施例及び比較例の磁気特性は東英工業製VSMを、X線回折は理学電機製ローターフレックスを、又比表面積はストローライン社製エリアメーター(BET法)を用いてそれぞれ行なった。
【0041】
まず処理に用いた磁性粉末の製造方法について述べる。
【0042】
各実施例並びに比較例に用いた磁性粉末は特開昭49−63997を参考に製造した。
【0043】
原料には以下のものを用いた。
【0044】
バリウムフェライト粉末の製造
ゲ−サイト(α−FeOOH)83.5重量部、炭酸バリウム(BaCO3 )16.5重量部、および塩化バリウム2水塩(BaCl2 ・2H2O)5重量部を乾式混合し、電気炉中で1030℃で70分または1080℃で70分焼成した。この焼成物を水に分散し、濾過液の電気電導度が100μS/cmになるまでイオン交換水で洗浄した後、110℃で乾燥してバリウムフェライト粉末を得た。
【0045】
1030℃の70分焼成で得られた磁性粉末の諸特性は表1に示すように、比表面積が4.8m2/g、粉体での抗磁力が2590Oe、飽和磁化量60.8emu/g、磁気層の角型比が0.880、反転磁界分布が0.33のX線回折的に単一相の通常のバリウムフェライトであった。
【0046】
又、1080℃の70分焼成で得られた磁性粉末の諸特性は表1に示すように、比表面積が3.4m2/g、粉体での抗磁力が3420Oe、飽和磁化量60.7emu/g、磁気層の角型比が0.890、反転磁界分布が0.37のX線回折的に単一相の通常のバリウムフェライトであった。
【0047】
ストロンチウムフェライト粉末の製造
ゲ−サイト(α−FeOOH)87.2重量部、炭酸ストロンチウム(SrCO3 )12.8重量部、および塩化ストロンチウム6水塩(SrCl2 ・6H2 O)5重量部を乾式で混合し、電気炉中で1030℃で70分焼成した。この焼成物を水に分散し濾過液の電気電導度が100μS/cmになるまでイオン交換水で洗浄した後、110℃で乾燥してストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0048】
この磁性粉末の諸特性は表1に示すように、比表面積が3.7m2/g、粉体での抗磁力が2600Oe、飽和磁化量61.1emu/g、磁気層の角型比が0.885、反転磁界分布が0.34のX線回折的に単一相の通常のストロンチウムフェライトであった。
【0049】
【実施例1】
1030℃x70分焼成で得られたバリウムフェライト粉末0.5kgを直径8mmのスチールボール5kgと共に容量3リットルの容器に入れ中央化工機製振動ボールミル(V−MILL MB−1)で20分処理した。いったん容器の内壁に付着した磁性材料を取り出して軽く解砕した後容器に戻し再度処理する操作を累積処理時間が2時間になるまで行なった。これにより得られた磁性粉末は諸特性を表1に示すように、格子歪みと配向重積を有し磁気特性も良好なものであった。
【0050】
【実施例2】
1030℃x70分焼成で得られたバリウムフェライト粉末8gを直径10mmの瑪瑙性ボール7個と共に容量50ミリリツトルの容器に入れFRITSCH製遊星ボールミル(puloerisette TYPE07.301)で5分間処理した。これにより得られた磁性粉末は諸特性を表1に示すように、格子歪みと配向重積を有し磁気特性も良好なものであった。
【0051】
【実施例3】
1030℃x70分焼成で得られたバリウムフェライト粉末を栗本鐵工所製双ロールミル(ローラーコンパクターRCP−200H)でロール間線圧3.5t/cm、ロール回転数5rpmで処理した。これにより得られた磁性粉末は諸特性を表1に示すように、格子歪みと配向重積を有し磁気特性も良好なものであった。
【0052】
【比較例1】
1030℃x70分焼成で得られたバリウムフェライト粉末0.5kgを直径8mmのスチールボール5kg及び水0.5リットルと共に容量3リットルの容器に入れ中央化工機製振動ボールミル(V−MILL MB−1)振動ボールミルで2時間処理した。これにより得られた磁性粉末の諸特性を表1に示ように、この磁性粉末は格子歪みは生じているものの粉砕効果が大きく、配向重積が少ない為、粉体での飽和磁化量が小さく、磁気層での角型比、反転磁界分布が悪く、高記録密度に適した磁気記録媒体用とは云いがたいものであった。
【0053】
【比較例2】
1030℃x70分焼成で得られたバリウムフェライト粉末15kgをヨドキャステイング製エッヂランナー(サンドミル TYPE SMPU.5)に入れローラー線圧80kg/cmで2時間処理した。これにより得られた磁性粉末の諸特性を表1に示ように、この磁性粉末は配向重積しているものの、格子歪みが少ない為抗磁力が高くなり、磁気層の角型比は良好であるが反転磁界分布は悪くなっており、高記録密度に適した磁気記録媒体用とは云いがたいものであった。
【0054】
【実施例4】
1080℃x70分焼成で得られたバリウムフェライト粉末を栗本鐵工所製双ロールミル(ローラーコンパクターRCP−200H)でロール間線圧3.5t/cm、ロール回転数5rpmで処理した。これにより得られた磁性粉末は諸特性を表1に示すように、格子歪みと配向重積を有し磁気特性も良好なものであった。
【0055】
【実施例5】
1030℃x70分焼成で得られたストロンチウムフェライト粉末を栗本鐵工所製双ロールミル(ローラーコンパクターRCP−200H)でロール間線圧3.5t/cm、ロール回転数5rpmで処理した。これにより得られた磁性粉末は諸特性を表1に示すように、格子歪みと配向重積を有し磁気特性も良好なものであった。
【0056】
処理前と実施例1〜5及び比較例1〜2で得られた磁性粉末の粉体の磁気特性の測定は最大外部磁場15kOeのもとで行なった。
【0057】
又磁気層の作製は以下の方法で行ない、最大外部磁場10kOeのもとで磁気特性を測定した。
【0058】
磁気層は磁性粉末29重量部とA液19重量部を混合してペイントコンディショナーで20分分散した後、これにB液52重量部を追加して更にペイントコンディショナーで10分分散し、得られた塗料をPETフィルムに6millのドクターブレードで塗布し磁場配向の後風乾して得た。以下にA液とB液の組成を示す。
【0059】
処理前と実施例1〜5及び比較例1〜2で得られた磁性粉末のマグネトプランバイト型結晶の(114)面の結晶子径(dx(114))と(110)面と(008)面の回折強度比(I(110)/I(008))並びに各磁性粉末を850℃で1時間熱処理した際の(114)面の結晶子径(adx(114))を粉末X線回折法で測定した。
【0060】
【表1】
【0061】
【発明の効果】
以上説明した様に本発明は振動ボールミル、遊星ボールミル並びに双ロールミルによる乾式処理によって、格子歪みと配向重積を同時に生じせしめる事によって粉体の飽和磁化量をほとんど低下させることなく、磁気層の角型比と反転磁界分布を改善したものであり、それによって磁気記録媒体の電磁変換特性が改善されるものである。
【産業上の利用分野】
本発明は、磁気層にしたときの良好な配向度及び狭い反転磁界分布を有し、磁気記録媒体に対して高記録密度を可能にするマグネトプランバイト型フェライト粉末を提供する事を目的とする。
【0002】
【従来の技術】
磁気層の特性としては、飽和磁化量、角型比、反転磁界分布等が重要である。飽和磁化量は単位質量あたりのエネルギーとして表されるので、磁気層の原料となる磁性粉末の飽和磁化量で言い換えられる。又、角型比は飽和磁化量に対して残留する磁化量の程度を表し、これらは磁気層の出力の点から大きい方が望ましい。一方、反転磁界分布は磁気層中の磁性粉末の個々の粒子の抗磁力の分布を表し、この数値は小さい方が望ましい。
【0003】
飽和磁化量と角型比は研究的には通常極めて大きな外部磁場を用いて測定される。ところが民生用の記録装置はこれよりも小さな外部磁場で記録や消去を行なっている為反転磁界分布が問題となる。すなわち抗磁力の高い粒子が磁性粉末中に数多く存在すると、民生用の記録装置では磁化されない為に記録に寄与出来ず、磁気層内にあっても有効に働かない。又、逆に抗磁力の低い粒子が磁性粉末中に数多く存在するとこれらは外部磁場の影響で容易に消去或は誤記録されてしまい、これらの磁気記憶媒体の多くが金券に類するものに使用されていることを考えると好ましくない。このように高抗磁力や低抗磁力の磁性粉末が存在すると磁気記憶媒体の記録密度を高めることは不可能である。逆に高抗磁力や低抗磁力の粒子を少なくする、言い換えれば反転磁界分布を小さくすれば記録密度の向上を図れることになる。
【0004】
一般に磁気切符や磁気カードなどの磁気記録媒体の磁気層は、磁性粉末をワニスまたは樹脂を適当な溶剤に溶解したバインダーなどに分散した磁気インキ、磁気塗料などを印刷または塗工によって紙、プラスチックシートなどの表面に塗布して形成する。このとき用いる磁性粉末には、バリウムフェライトやストロンチウムフェライトを初めとするマグネトプランバイト型フェライトが用いられている。
【0005】
一般に、これらのマグネトプランバイト型フェライト粉末は、炭酸バリウムや炭酸ストロンチウムと酸化鉄等の原料と、必要に応じアルカリ金属やアルカリ土類金属の塩化物や炭酸塩を溶融塩として混合し、これを焼成して得られている。この様にして得られたマグネトプランバイト型フェライト粉末は、粉体であるが故に原料やその混合状態或は焼成条件の不均一さなどにより、個々の粒子の磁気特性は分布を持ったものとして得られるのが現状である。
【0006】
これまで上記の磁気記録媒体に入出力される情報はごく僅かな量であり、既存の磁性粉末で対応することが可能であった。しかし最近の高度情報化によってこれらの磁気記録媒体に記録される情報量も更に多くすることが望まれている。これに対して磁気記録媒体の使用量や磁気層の量を増やすことによって情報量を増やすことは可能であるが、カード、切符といった磁気記録媒体はすでに定型化されているものも多く、そのうえ磁気層を形成出来る面積が限られている為、磁気記録媒体の使用量や磁気層の量を増やして対応することは不可能であり、情報量を増やす為には磁気層の記録密度を高める必要があった。しかしながら既存の磁性粉末は前述した様に磁気特性、特に反転磁界分布に大きな広がりを持つ為に記録密度を高めることは困難な状態であった。
【0007】
この問題に対し、例えば特開昭57−56330や特開昭62−1114に振動ボールミルあるいはエッヂランナーで粉砕を行ない改善を行なった例がある が、これらはいずれも磁性粉末の粒度を調整したり、かさ密度を増加する事によって磁性粉末を磁気インキや塗料とする際の分散性を向上するものであり、磁性粉末の本質的な磁気特性の向上には至っていない。
【0008】
又、「粉体および粉末冶金第39巻第11号(1992年)の第959頁」ではストロンチウムフェライトを振動ボールミルで処理し格子歪みを形成する事で抗磁力を低下せしめる事が報告されている。しかしこの文献の方法では高抗磁力の粒子を低抗磁力に転換出来るので高抗磁力の問題点には対応出来るが、低抗磁力の問題点には対応出来ないばかりか、逆に低抗磁力の粒子が増えてしまう問題がある。
【0009】
更に、特開昭57−295324や特開昭60−11232にあるようにこれらの粉砕は却って磁気特性を劣化させ、その回復の為に熱処理や酸処理を行なう必要がありコスト的にも問題がある
この様な問題に対して、例えば特公昭58−47846では原料の混合方法を変えることで磁気特性の改善を図ろうとする例も見受けられるが、これは既存方法の精密化や均一化といったものでそこには技術的に大きな進歩があるものではない。従って磁気特性上の大きな飛躍も期待できるものではなく、角型比や反転磁界分布の改善などを開示するに至っていない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従来のマグネトプランバイト型フェライト粉末を用い、カード、切符、テー プ、デイスク等の磁気記録媒体を製造したとき、磁気層において良好な配向度と狭い反転磁界分布を有しておらず高密度記録が不可能であったのでそれらを改良しうる新規なマグネトプランバイト型フェライト粉末の開発にある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意研究を行なった結果、粉体の飽和磁化量が59emu/g以上を保持する範囲で機械的乾式処理を行い、格子歪みと配向重積を同時に生じせしめたマグネトプランバイト型フェライト粉末において、格子歪みを指標として、850℃で1時間の熱処理によって回復する(114)面のX線回折による結晶子径が熱処理前後の比(熱処理後結晶子径/熱処理前結晶子径)で1.1以上1.4以下で、かつ、配向重積を示す指標として(110)面と(008)面のX線回折強度比(I(110)/I(008))が、乾式処理前後の比(乾式処理前強度比/乾式処理後強度比)で1.2以上1.7以下であるマグネトプランバイト型フェライト粉末を使用することにより、磁気記録媒体の記録密度を高めうる事を見い出し本発明の完成に至った。
【0012】
本発明者は既存の磁性粉末を双ロールミル、遊星ボールミル、振動ボールミル等で処理し、磁性粉末中の粒子の結晶格子中に歪みを形成せしめると同時に粒子同士を配向重積せしめるという、従来の粉砕による粒度調整や圧密によるかさ密度の増加といったものとは全く異なる概念で高抗磁力と低抗磁力の両方の問題点を同時に解決し、飽和磁化量を大きく損なうことなく磁気層の角型比並びに反転磁界分布を向上させ、最終的に磁気記録媒体の記録密度を高めることに成功したのである。
【0013】
マグネトプランバイト型フェライト粒子の磁気特性に関する「応用物理第53巻第2号1986年第135頁」によれば、抗磁力の変化要因は大きく2つに分けられる。一つは結晶異方性により他方は形状異方性によるものであるが、結晶異方性が大きくなると抗磁力は高くなり、形状異方性が大きくなる(マグネトプランバイト型フェライト粒子では板状比が大きくなる事である)と抗磁力は低くなるとある。これより高抗磁力の粒子は結晶異方性を低くするか形状異方性を高める事で、一方、低抗磁力の粒子は形状異方性を低くするか結晶異方性を高くする事でそれぞれを所望の抗磁力へと転換することが出来ると考えられる。
【0014】
本発明者は、上記の観点から格子歪みと配向重積の程度を好ましい範囲に調節することにより、所望のフェライト粒子を得ることに成功したものである。
【0015】
格子歪みと配向重積の程度はいずれもX線回折により測定できるが、以下にこれらの関係について説明する。
【0016】
まず格子歪みとX線回折の関係について述べる。
【0017】
通常の結晶子の大きさはX線回折法により容易に測定される。ところが結晶子径は結晶子自体の大きさが変わらなくても、格子歪みが生じると見かけ上小さく測定される。しかし粉体に粉砕処理を行なって、その前後の結晶子径を比較してもそれが結晶子自体の大きさが変化した事によるものか、格子歪みによるものかは容易に区別する事は出来ない。
【0018】
一方、機械的な応力によって生じた格子歪みは適度な温度で熱処理すれば除去出来る事は周知の事実である。すなわち、磁性粉末に生じた格子歪みは、その磁性粉末を結晶子自体の大きさが変わらない適正な温度で熱処理することにより除去でき、その結果結晶子径は大きくなる。したがって、熱処理前後の結晶子径を測定することにより、粉体処理により生じた歪みの程度を得ることが出来る。
【0019】
例えばマグネトプランバイト型フェライトでは、格子歪みがない場合850℃1時間の熱処理では結晶子径の変化がない事から、この条件での熱処理前後の(114)面の結晶子径の差が大きい程歪みが大きいといえる。
【0020】
次に配向重積とX線回折の関係について述べる。
【0021】
粉末のX線回折を測定すると面指数に応じた回折線が多数現れ、その回折強度比はそれぞれ固有のものである事は周知の事実である。また、この回折強度比は粒子の形状や配向状態が変わると変化する事も知られている。
【0022】
マグネトプランバイト型の磁性粉末の形状異方性は板状比により表され、配向重積によって見かけの形状異方性、言い換えるなら板状比が小さくなる。この配向重積を有するという事は元来無秩序な方向を向いた状態にある粒子がある一定の方向へと秩序のある配向をしたという事になる。したがって処理前後の磁性粉末の板面に水平な方向と板面に垂直な方向の面指数の回折強度比を比較すれば、粒子の配向重積状態が測定される。マグネトプランバイト型の結晶では板面に水平な方向がa及びb軸、垂直な方向がc軸であるので、それぞれ(hk0)面と(00l)面の回折強度比を測定すれば配向重積の程度を得ることが出来る。
【0023】
例えば(110)面と(008)面の回折強度比I(110)/I(008)の値が処理前の値に比べて小さい程、配向重積が進行したといえる。
【0024】
粉砕の程度については比表面積を測定しその大小を比較すればよく、通常粒子が粉砕される程比表面積は大きくなる。
【0025】
本発明は、上記の知見に基づき、格子歪みに関しては850℃で1時間の熱処理によって回復する(114)面のX線回折による結晶子径が熱処理前後の比(熱処理後結晶子径/熱処理前結晶子径)で1.1以上1.4以下であり、かつ、配向重積に関しては(110)面と(008)面のX線回折強度比(I(110)/I(008))が、乾式処理前後の比(乾式処理前強度比/乾式処理後強度比)で1.2以上1.7以下である場合に、良好な結果が得られることを見いだしものである。
【0026】
なお、本明細書において乾式処理とは、以下の製造方法において述べる振動ボールミルなどによる処理をいう。
【0027】
以下に本発明にかかるマグネトプランバイト型フェライト粒子の製造方法について述べる。
【0028】
高抗磁力の粒子は前述した様に振動ボールミルで結晶歪みを生成して結晶異方性を低くし抗磁力を低下せしめることが出来るので、これに加えて低抗磁力の粒子の形状異方性を低くすれば極めて狭隘な抗磁力分布を持った、換言すれば反転磁界分布の小さい磁性粉末を得ることが出来る。
【0029】
形状異方性を変えるには粉砕によって粒子の形を変える事によっても達成されるが、前述した様に飽和磁化量の低下などを招き好ましくなく、従って粒子の破砕を起こさないような別の方法で形状異方性を低下させる必要がある。
【0030】
一般に磁性粒子は配向重積する事によって多数の粒子の集合体であっても磁気的には1個の粒子としてふるまう様になる。したがって六角板状のマグネトプランバイト型フェライト粒子では、粒子の破砕を起こすことなくその板状方向に配向重積させる事によって板状比が低下、すなわち形状異方性が低下して抗磁力を高めることが出来る。又粒子が配向重積するという事はそれだけ粒子の配向性が高まる事になるので、磁気層の角型比の向上効果も同時に期待される。
【0031】
このように概念的には飽和磁化量を損なうことなく高角型比と狭隘な反転磁界分布を有するマグネトプランバイト型フェライト粉末を得る事は可能であるが、従来の技術では飽和磁化量、角型比、反転磁界分布を同時に満足するのは困難であった。これに対して本発明者は、前述の概念を基に検討を重ねた結果、従来とは全く異なる振動ボールミルの使用方法によって磁気特性の優れたマグネトプランバイト型フェライト粉末を製造し得ることを見いだした。更に振動ボールミルの他に遊星ボールミルや双ロールミル等でも同様な効果が得られるという知見を得た。殊に双ロールミルでは極めて磁気特性の優れたマグネトプランバイト型フェライト粉末を製造し得ることを見いだした。
【0032】
通常、振動ボールミルは粒子の粉砕を目的として使用されているが、その粉砕機構は粒子が粉砕媒体であるボールやロッドの間隙に位置しボールやロッドの衝突や摩擦によって粉砕される。したがって効率よく粉砕を行なう為には常に粒子が粉砕媒体の間隙に位置されていなければならず、通常の粉砕条件もそれを満足する様に設定される。しかしこの様な条件は粒子の粉砕が著しく磁性粉末には適さない事は前述した通りである。これに対して本発明者は、以下に示す様に粉砕条件を適宜設定する事で磁性粉末が粉砕容器の内壁に徐々に付着する様に操作し、従来の粉砕とは異なり粒子の極端な粉砕を起こすことなく結晶格子の歪みと粒子の配向重積を同時に生じせしめることに成功した。
【0033】
通常、振動ボールミルでは粉砕媒体を容器の全容積の8割程度入れ、更に粉体を粉砕媒体の間隙を満たす程度入れて粉砕を行なっている。これに対して本発明者は粉砕媒体の充填量を容器の全容積の5割程度とし、かつ磁性粉末を粉砕媒体の間隙部分を満たす量の2倍程度入れて所定時間処理を行った。この結果充填時には粉砕媒体の間隙部分にも磁性粉末が存在していたが、処理時間と共に内壁に磁性粉末が付着し最終的には磁性粉末のほぼ全量が内壁に付着した。この付着した磁性粉末をいったん取り出し軽く解砕して、再度容器に充填して再処理する操作を繰り返したところ角型比、反転磁界分布の良好な磁性粉末を得た。またX線回折で処理前後の粉体を観察したところ歪みの生成と板状方向への配向重積が確認された。したがって磁性粉末が内壁に付着する過程でこれまでの粉砕とは異なる配向重積の効果が得られたものと思われる。
【0034】
次に振動ボールミルにおける知見に基づき遊星ボールミルで検討を行った結果角型比、反転磁界分布の良好な磁性粉末を得ることが出来た。
【0035】
遊星ボールミルは粉砕すべき粉体と粉砕媒体を入れた容器を高速で公転並びに自転させる事で粉砕を行なう装置である。容器の高速回転で生じた大きな遠心力で、粒子は容器の内壁に付着する為前述の振動ボールミルと同様の効果を得たものと思われる。
【0036】
振動ボールミル、遊星ボールミルの効果に基づいて検討を重ねた結果、双ロールミルを用いると更に角型比、反転磁界分布の改良された磁性粉末が得られることが見出だされた。
【0037】
双ロールミルは互いに逆回転する2つのロールの間隙に粉体を導入し機械的に圧力をかける装置である。この装置の場合ロール間に磁性粉末が導入される過程で粒子が配向重積し、更に機械的に高圧が粒子にかかる事で格子歪みが生成する為に同様の効果を得たものと思われる。
【0038】
以上の知見より、これらの装置と同様の機構を有する装置によっても、本発明にかかるマグネトプランバイト型フェライト粉末を製造する事ができると推察される。
【0039】
次に実施例並びに比較例により、本発明を説明する。但し以下の実施例並びに比較例は単に例示の為に記すものであり、発明の範囲がこれらによって制限されるものではない。
【0040】
【実施例】
以下の実施例及び比較例の磁気特性は東英工業製VSMを、X線回折は理学電機製ローターフレックスを、又比表面積はストローライン社製エリアメーター(BET法)を用いてそれぞれ行なった。
【0041】
まず処理に用いた磁性粉末の製造方法について述べる。
【0042】
各実施例並びに比較例に用いた磁性粉末は特開昭49−63997を参考に製造した。
【0043】
原料には以下のものを用いた。
【0044】
バリウムフェライト粉末の製造
ゲ−サイト(α−FeOOH)83.5重量部、炭酸バリウム(BaCO3 )16.5重量部、および塩化バリウム2水塩(BaCl2 ・2H2O)5重量部を乾式混合し、電気炉中で1030℃で70分または1080℃で70分焼成した。この焼成物を水に分散し、濾過液の電気電導度が100μS/cmになるまでイオン交換水で洗浄した後、110℃で乾燥してバリウムフェライト粉末を得た。
【0045】
1030℃の70分焼成で得られた磁性粉末の諸特性は表1に示すように、比表面積が4.8m2/g、粉体での抗磁力が2590Oe、飽和磁化量60.8emu/g、磁気層の角型比が0.880、反転磁界分布が0.33のX線回折的に単一相の通常のバリウムフェライトであった。
【0046】
又、1080℃の70分焼成で得られた磁性粉末の諸特性は表1に示すように、比表面積が3.4m2/g、粉体での抗磁力が3420Oe、飽和磁化量60.7emu/g、磁気層の角型比が0.890、反転磁界分布が0.37のX線回折的に単一相の通常のバリウムフェライトであった。
【0047】
ストロンチウムフェライト粉末の製造
ゲ−サイト(α−FeOOH)87.2重量部、炭酸ストロンチウム(SrCO3 )12.8重量部、および塩化ストロンチウム6水塩(SrCl2 ・6H2 O)5重量部を乾式で混合し、電気炉中で1030℃で70分焼成した。この焼成物を水に分散し濾過液の電気電導度が100μS/cmになるまでイオン交換水で洗浄した後、110℃で乾燥してストロンチウムフェライト粉末を得た。
【0048】
この磁性粉末の諸特性は表1に示すように、比表面積が3.7m2/g、粉体での抗磁力が2600Oe、飽和磁化量61.1emu/g、磁気層の角型比が0.885、反転磁界分布が0.34のX線回折的に単一相の通常のストロンチウムフェライトであった。
【0049】
【実施例1】
1030℃x70分焼成で得られたバリウムフェライト粉末0.5kgを直径8mmのスチールボール5kgと共に容量3リットルの容器に入れ中央化工機製振動ボールミル(V−MILL MB−1)で20分処理した。いったん容器の内壁に付着した磁性材料を取り出して軽く解砕した後容器に戻し再度処理する操作を累積処理時間が2時間になるまで行なった。これにより得られた磁性粉末は諸特性を表1に示すように、格子歪みと配向重積を有し磁気特性も良好なものであった。
【0050】
【実施例2】
1030℃x70分焼成で得られたバリウムフェライト粉末8gを直径10mmの瑪瑙性ボール7個と共に容量50ミリリツトルの容器に入れFRITSCH製遊星ボールミル(puloerisette TYPE07.301)で5分間処理した。これにより得られた磁性粉末は諸特性を表1に示すように、格子歪みと配向重積を有し磁気特性も良好なものであった。
【0051】
【実施例3】
1030℃x70分焼成で得られたバリウムフェライト粉末を栗本鐵工所製双ロールミル(ローラーコンパクターRCP−200H)でロール間線圧3.5t/cm、ロール回転数5rpmで処理した。これにより得られた磁性粉末は諸特性を表1に示すように、格子歪みと配向重積を有し磁気特性も良好なものであった。
【0052】
【比較例1】
1030℃x70分焼成で得られたバリウムフェライト粉末0.5kgを直径8mmのスチールボール5kg及び水0.5リットルと共に容量3リットルの容器に入れ中央化工機製振動ボールミル(V−MILL MB−1)振動ボールミルで2時間処理した。これにより得られた磁性粉末の諸特性を表1に示ように、この磁性粉末は格子歪みは生じているものの粉砕効果が大きく、配向重積が少ない為、粉体での飽和磁化量が小さく、磁気層での角型比、反転磁界分布が悪く、高記録密度に適した磁気記録媒体用とは云いがたいものであった。
【0053】
【比較例2】
1030℃x70分焼成で得られたバリウムフェライト粉末15kgをヨドキャステイング製エッヂランナー(サンドミル TYPE SMPU.5)に入れローラー線圧80kg/cmで2時間処理した。これにより得られた磁性粉末の諸特性を表1に示ように、この磁性粉末は配向重積しているものの、格子歪みが少ない為抗磁力が高くなり、磁気層の角型比は良好であるが反転磁界分布は悪くなっており、高記録密度に適した磁気記録媒体用とは云いがたいものであった。
【0054】
【実施例4】
1080℃x70分焼成で得られたバリウムフェライト粉末を栗本鐵工所製双ロールミル(ローラーコンパクターRCP−200H)でロール間線圧3.5t/cm、ロール回転数5rpmで処理した。これにより得られた磁性粉末は諸特性を表1に示すように、格子歪みと配向重積を有し磁気特性も良好なものであった。
【0055】
【実施例5】
1030℃x70分焼成で得られたストロンチウムフェライト粉末を栗本鐵工所製双ロールミル(ローラーコンパクターRCP−200H)でロール間線圧3.5t/cm、ロール回転数5rpmで処理した。これにより得られた磁性粉末は諸特性を表1に示すように、格子歪みと配向重積を有し磁気特性も良好なものであった。
【0056】
処理前と実施例1〜5及び比較例1〜2で得られた磁性粉末の粉体の磁気特性の測定は最大外部磁場15kOeのもとで行なった。
【0057】
又磁気層の作製は以下の方法で行ない、最大外部磁場10kOeのもとで磁気特性を測定した。
【0058】
磁気層は磁性粉末29重量部とA液19重量部を混合してペイントコンディショナーで20分分散した後、これにB液52重量部を追加して更にペイントコンディショナーで10分分散し、得られた塗料をPETフィルムに6millのドクターブレードで塗布し磁場配向の後風乾して得た。以下にA液とB液の組成を示す。
【0059】
処理前と実施例1〜5及び比較例1〜2で得られた磁性粉末のマグネトプランバイト型結晶の(114)面の結晶子径(dx(114))と(110)面と(008)面の回折強度比(I(110)/I(008))並びに各磁性粉末を850℃で1時間熱処理した際の(114)面の結晶子径(adx(114))を粉末X線回折法で測定した。
【0060】
【表1】
【0061】
【発明の効果】
以上説明した様に本発明は振動ボールミル、遊星ボールミル並びに双ロールミルによる乾式処理によって、格子歪みと配向重積を同時に生じせしめる事によって粉体の飽和磁化量をほとんど低下させることなく、磁気層の角型比と反転磁界分布を改善したものであり、それによって磁気記録媒体の電磁変換特性が改善されるものである。
Claims (4)
- 粉体の飽和磁化量が59emu/g以上を保持する範囲で機械的乾式処理を行い、格子歪みと配向重積を同時に生じせしめたマグネトプランバイト型フェライト粉末において、格子歪みを指標として、850℃で1時間の熱処理によって回復する(114)面のX線回折による結晶子径が熱処理前後の比(熱処理後結晶子径/熱処理前結晶子径)で1.1以上1.4以下で、かつ、配向重積を示す指標として(110)面と(008)面のX線回折強度比(1(110)/1(008))が、乾式処理前後の比(乾式処理前強度比/乾式処理後強度比)で1.2以上1.7以下であり、さらに磁気記録媒体用の磁気層にしたときの角型比が0.89以上で、かつ反転磁界分布が0.30以下であることを特徴とするマグネトプランバイト型フェライト粉末。
- マグネトプランバイト型フェライトがバリウムフェライト、ストロンチウムフェライトまたはそれらの混晶である請求項1記載の粉末。
- 請求項1記載のマグネトプランバイト型フェライト粉末を使用した磁気層を有する磁気記録媒体。
- 格子歪みと配向重積を同時に生じせしめるための乾式処理を:
(a)振動ボールミルの場合に、粉末媒体の充填量を容器の全容積の5割程度とし、かつ粉砕すべき磁性粉末を該粉砕媒体の隙間部分を満たす量の2倍程度入れ、その内壁にほぼ全量の磁性粉末が付着するまで処理を行うこと;
(b)遊星ボールミルの場合に、粉砕すべき磁性粉末と粉砕媒体を入れた容器を高速で公転並びに自転させること;又は
(c)双ロールミルの場合に、互いに逆回転する2つのロールの間隙に粉砕すべき磁性粉体を導入し機械的に圧力をかけること;
により行うことを特徴とする、請求項1記載のマグネトプランバイト型フェライト粉末の製造方法。
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