JP3578453B2 - 錫−亜鉛系鉛フリーはんだ合金 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、たとえば電子回路素子の実装工程などに使用されるはんだ材で、特に、その中でも環境調和型の錫−亜鉛系鉛フリーはんだ合金に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、各種機器のはんだ付けには、融点が低く、酸化性雰囲気の中でも濡れ性が良好であること等の利点を有することから、錫−鉛系はんだ合金が多く用いられていた。ところが、鉛は毒性を有していることから、近年、電子機器の廃棄処理等に伴う環境汚染を防止する観点から、はんだの鉛フリー化が急速に進んでいる。ただ、鉛フリーはんだ合金は、濡れ性、融点、コスト等の面で、従来の錫−鉛系はんだ合金に比べて劣っているため、完全な代替品として、未だに開発されていないのが現状である。
【0003】
この環境重視の流れの中にあって、電子回路素子の実装工程の一つであるリフローはんだ付けにおいても、同様に鉛フリー化が緊急の課題になっている。そこで、従来では、リフローはんだ付け用に実用化を期待されている鉛フリーはんだ材として、亜鉛を9重量%(共晶点組成)前後含有する錫−亜鉛系はんだ合金が提案されている。更には、亜鉛を8重量%前後含有すると共に、ビスマスを1〜3重量%含有する錫−亜鉛系はんだ合金なるものも提案されている。これら錫−亜鉛系はんだ合金は、錫−亜鉛合金の共晶温度は199℃であり、錫を主成分とした鉛フリーはんだ合金の中では、最も錫−鉛合金の共晶点に近く、また、原料コストの面でも他の鉛フリーはんだ合金より安価であるというメリットがある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、一般に、上記リフローはんだ付けに用いられるクリームはんだは、はんだ粉末とフラックスを混合したものであり、該フラックスに、はんだ溶融時にはんだ付け対象物の表面を清浄にし、はんだの濡れ性を良くするための活性剤が添加されている。したがって、従来の錫−鉛系はんだ合金よりも、濡れ性の点で劣る錫−亜鉛系はんだ合金においては、特に、はんだの濡れ性を向上させるために活性剤を強化せざるを得ない。しかも、この錫−亜鉛系のはんだ合金では、製造されたはんだ粉末の表面および内部に、亜鉛を主成分とする相が存在している。
【0005】
したがって、従来の錫−亜鉛系の鉛フリーはんだ合金では、はんだ粉末をフラックスと混合してクリームはんだに加工すると、亜鉛は活性な金属元素であるため、クリームはんだを冷蔵保存している間に、はんだ粉末表面の亜鉛がフラックス中の上記活性剤と容易に反応し、その反応生成物によってクリームはんだの粘度が従来の錫−鉛はんだ合金よりも急速且つ大幅に上昇し、使用時、たとえばプリント基板への印刷が不可能になるなど保存性に欠けるという問題があった。増してや、冷蔵保存下より厳しい室温以上の環境下で、クリームはんだを保存する場合には、亜鉛が上記活性剤と一層反応しやすいために粘度上昇も著しく、保存性がさらに悪化するという課題があった。
【0006】
一方、この粘度上昇を防止するために、活性剤の強さや添加量を抑えると、他方で、はんだ加熱溶融時に発生する亜鉛酸化物を還元することができず、その結果、はんだの濡れ広がり性が低下してしまうという問題があった。このように従来は、はんだの濡れ性と保存性の両立が極めて困難であり、この両立の問題が環境保全に有効な鉛フリーのクリームはんだが普及しない原因になっている。
【0007】
また、従来、鉛フリーはんだ合金の中に、上記のようなビスマスを含む錫−亜鉛系はんだ合金があるが、その種の錫−亜鉛系はんだ合金では、凝固後のはんだ表面における金属光沢が鈍くなる傾向があり、そのため、濡れ性と保存性の両立に加えて、その外観上の問題も改善することが望まれている。
【0008】
そこで、従来、これら問題を解決するための手段として、第三の成分の添加、例えばアルミニウムを添加する方法が開示されている(国際公開番号WO02/34969A1)。しかしながら、アルミニウムを添加する方法は、後述するとおり、未溶解はんだを発生する問題があり、また、アルミニウム等を単独添加するだけでは、上述した従来の課題を全て解決するには不十分であった。
【0009】
本発明の目的は、こうした従来の課題に鑑み、はんだの濡れ性を良好にし、併せてクリームはんだの冷蔵および室温以上の環境下での保存性にも優れた錫−亜鉛系鉛フリーはんだ合金を提供し、加えて、ビスマスを含む錫−亜鉛系はんだ合金の場合は、凝固後の表面光沢をも向上させることにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述した従来の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた結果、錫−亜鉛系はんだに、亜鉛より酸化傾向の高い極微量のマグネシウムとアルミニウムを所定組成配分だけ複合添加することにより、クリームはんだの亜鉛とフラックスとの反応を抑えて、冷蔵および室温以上の環境下での保存性が高められる一方、はんだ溶融時には、良好な濡れ性が保持されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、請求項1に記載の発明による錫−亜鉛系鉛フリーはんだ合金は、6〜10重量%の亜鉛、0.0015〜0.03重量%のマグネシウムおよび0.0010〜0.006重量%のアルミニウムを含有し、残部が錫からなることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明による錫−亜鉛系鉛フリーはんだ合金は、6〜10重量%の亜鉛、0.5〜6重量%のビスマス、0.0015〜0.03重量%のマグネシウムおよび0.0010〜0.006重量%のアルミニウムを含有し、残部が錫からなることを特徴とする。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0014】
錫−亜鉛系の鉛フリーはんだでは、周知のとおり、例えば、共に予め調製したはんだ粉末とフラックスとを攪拌混合してペースト状のクリームはんだに加工する。しかし、その場合、はんだ粉末は、酸素との親和力の強い亜鉛が粉末表面で酸化物となることが避けられず、はんだ粉末をフラックスと混合してクリームはんだに加工すると、亜鉛とフラックス中の活性剤との反応によりクリームはんだの粘度が上昇し、保存性に問題を生ずる。一方、この粘度上昇を防止するために、活性剤の強さや添加量を抑えても、他方で、はんだ加熱溶融時に発生する亜鉛酸化物を還元することができず、その結果、はんだの濡れ性が低下する問題が発生する。
【0015】
そこで、本発明では、錫−亜鉛系はんだに、亜鉛より酸化傾向の高い元素を極微量だけ添加すると、その添加元素が亜鉛より優先的に酸化することにより、はんだ粉末表面に酸化物の保護皮膜が生成されることから、その酸化保護皮膜によって亜鉛とフラックスとの反応を低減させることを企図する。これによって、はんだの濡れ性と保存性の両面に優れたクリームはんだ用のはんだ粉末を得んとする。しかしながら、添加量にもよるが、アルミニウムなど、添加元素によっては、表面に生成する酸化保護皮膜が強力でフラックスでは還元できず、却って、はんだ溶融時に未溶解はんだが大量に発生することがある。
【0016】
以上に鑑み、本発明では、亜鉛より酸化傾向の高い元素の中でも、まずは、マグネシウムを選択し、これを必須添加元素とする。マグネシウム添加の効果は、上述したはんだの良好な濡れ性と保存性の両面に優れた、錫−亜鉛系クリームはんだ用粉末を得ることができる点にあると共に、アルミニウム等の他の添加元素とは異なり、未溶解はんだの発生が少ないという点にある。ここで、本発明において、クリームはんだの保存時に亜鉛とフラックスとの反応性を低く抑え、且つ未溶解はんだの発生が少なくなる現象を解説すると、そのメカニズムは、はんだ粉末表面に生成されるマグネシウム酸化物の保護皮膜が、クリームはんだの冷蔵保存時には内部を保護する一方で、はんだを溶融させる昇温時には、マグネシウムの酸化保護皮膜は、濡れ性を保持すべく破壊されやすい状態になっているからである。
【0017】
このように錫−亜鉛系はんだ合金では、マグネシウム単独の添加によっても、冷蔵保存時は、十分な保存性を担保することができる。しかし、冷蔵保存時より厳しい室温以上の環境下で、同じクリームはんだを保存する場合には、亜鉛が上記活性剤と一層反応しやすいことから、十分な保存性が担保されるとは云い得ない。
【0018】
そこで、本発明者は、マグネシウムと、その他の様々な元素との複合添加を検討したところ、亜鉛より酸化傾向の高い元素の中で、必須添加元素として、次にアルミニウムを選択し、この微量のアルミニウムを複合添加することにより、はんだの良好な濡れ性を保持しつつ、一方で、冷蔵保存時だけでなく、室温以上の保存時であっても、良好な保存性が確保されることが判った。即ち、はんだ粉末表面に生成されるマグネシウとアルミニウムの酸化保護皮膜が、クリームはんだの冷蔵保存時および室温以上での保存時には内部を保護して保存性を保持する一方で、はんだを溶融させる昇温時には、該酸化保護皮膜が破壊されやすい状態になって濡れ性を保持する。しかも、アルミニウムの添加量を所定配分に限定することによって、アルミニウム添加合金の欠点である上記未溶解はんだの発生をも、実用上問題のないレベルに抑えることができることが判った。
【0019】
したがって、本発明による錫−亜鉛系鉛フリーはんだ合金は、クリームはんだの冷蔵保存時および室温以上での保存時、共に亜鉛とフラックス中の活性剤との反応を抑えて保存性が高められる一方、はんだ溶融時には良好な濡れ性が保持されるように、化学組成を、6〜10重量%の亜鉛、0.0015〜0.03重量%のマグネシウムおよび0.0010〜0.006重量%のアルミニウムを含有し、残部が錫からなる構成にする。
【0020】
ところで、マグネシウムには、別の効果として以下のような効果を有している。即ち、錫−亜鉛系はんだ合金にビスマスを添加すると、はんだ表面の金属光沢が鈍くなる傾向がある。しかし、ビスマスを含有する錫−亜鉛系はんだ合金に、微量のマグネシウムを添加すると、表面光沢が良くなることが確認された。これは、ビスマスを添加した場合には、凝固に際して表面に細かい凹凸ができるのに対して、マグネシウムを添加することによって凝固の際にはんだ表面の凹凸が少なくなるためである。その結果、従来の錫−鉛系はんだに近い良好な光沢を得ることができる。
【0021】
そこで、本発明による錫−亜鉛系鉛フリーはんだ合金は、クリームはんだの冷蔵保存性および室温以上での保存性が共に高められる一方、はんだの濡れ性が保持されると共に、良好な表面光沢が得られるように、化学組成を、6〜10重量%の亜鉛、0.5〜6重量%のビスマス、0.0015〜0.03重量%のマグネシウムおよび0.0010〜0.006重量%のアルミニウムを含有し、残部が錫からなる構成にすることもできる。
【0022】
さて次に、本発明の錫−亜鉛系鉛フリーはんだ合金において、以上の如く、マグネシウムおよびアルミニウムの添加範囲を所定含有量に特定した理由を述べる。マグネシウムの下限については、マグネシウムの効果を発現するために必要な含有量として、実験の結果から、0.0015重量%とした。0.0015重量%未満だと、粉末表面に、亜鉛と活性剤の反応を低減させるに十分な酸化皮膜が形成されないため、内部を酸化から保護できず、その結果、良好な濡れ性および保存性が得られないからである。
【0023】
一方、マグネシウムの上限については、はんだ付け性の劣化から、0.03重量%とした。0.03重量%を越えると、はんだ付け時に酸化物が破壊されず残存したり、未溶解はんだが発生するためである。
【0024】
次に、アルミニウムの下限については、同様に実験の結果から0.0010重量%とした。0.0010重量%未満だと、粉末表面に十分な酸化皮膜が形成されず、良好な保存性が得られないためである。上限については、0.006重量%とした。添加量が0.006重量%を越えると、はんだ付け時に未溶解はんだが多発するためである。以上のとおり、マグネシウムおよびアルミニウムの含有量の上限と下限をそれぞれ特定して初めて、良好な表面光沢が損なわれることなく、はんだ粉末表面に生成される酸化保護皮膜によって亜鉛とフラックス中の活性剤との反応を抑え、冷蔵および室温以上での保存性が高められる。一方、はんだ溶融時には、酸化保護皮膜が破壊されて良好な濡れ性が確保されるのである。
【0025】
なお、以上に示した実施の形態において、上記化学組成にて調製したはんだ合金は、はんだ粉末に加工した例を用いて説明したが、必要に応じて、線はんだに加工して使用することもできるのは、勿論である。
【0026】
【実施例】
次に、以下に示す実施例に基づいて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものでない。
【0027】
本発明者らは、本発明の効果を確認するための実験を行った。本実施例の実験では、亜鉛含有量が6〜9%、ビスマス含有量が0〜3%、マグネシウム添加量が0〜0.0272%、アルミニウム添加量が0〜0.0128%の範囲で、残部が錫のはんだ粉末を用いた。実験に用いたはんだ粉末は、錫−亜鉛系の粒径32〜45μmの真球粉である。これら粉末の化学組成および特性評価結果は、図1に示した。はんだ粉末は、フラックスと混合してペーストにして各種評価試験に供している。図中のはんだ付け性については、JIS-Z-3284に準拠した方法で行ない、濡れ拡がり性を評価した。実験は、より広い範囲での条件を模擬するため、大気雰囲気中で、プリヒートを150℃で0〜3.5分間行った。実験の結果、濡れ拡がり性が不良のものを「×」、良好なものを「○」、非常に良好なものを「◎」で示した。冷蔵保存性に関しては、はんだ粉末とフラックスを混合した後に、約4℃に保った冷蔵庫中で1週間保存した後の、ペーストの粘度上昇具合および印刷性により判定した。40℃保存性に関しては、はんだ粉末とフラックスを混合した後に、約40℃に保った保温槽中で24時間保存した後の、ペーストの粘度上昇具合および印刷性により判定した。冷蔵保存性、40℃保存性とも濡れ広がり性と同様に、不良のものを「×」、良好なものを「○」、非常に良好なものを「◎」で示した。図1に示すように、本発明によるはんだ粉末を用いたペーストは、濡れ性、冷蔵保存性、40℃保存性のいずれにも優れることが確認された。
【0028】
【発明の効果】
上述のように構成した本発明によれば、次のような顕著な効果が得られる。
【0029】
本発明によれば、錫−亜鉛系鉛フリーはんだ合金を、6〜10重量%の亜鉛、0.0015〜0.03重量%のマグネシウムおよび0.0010〜0.006重量%のアルミニウムを含有し、残部が錫からなる構成にすることにより、一方で、クリームはんだの冷蔵保存時だけでなく室温以上での保存時においても、はんだ粉末表面に生成されたマグネシウムとアルミニウムの酸化保護皮膜により内部を保護し、亜鉛と活性剤の反応を抑えて保存性を高めることができ、他方で、はんだを溶融させる昇温時には、該酸化保護皮膜が破壊されやすい状態になることにより良好な濡れ性を保持することができる。
【0030】
また、本発明によれば、錫−亜鉛系鉛フリーはんだ合金を、6〜10重量%の亜鉛、0.5〜6重量%のビスマス、0.0015〜0.03重量%のマグネシウムおよび0.0010〜0.006重量%のアルミニウムを含有し、残部が錫からなる構成にすることにより、同様に、上記したはんだの良好な濡れ性と保存性を共に実現させることができ、加えて、凝固の際にはんだ表面の凹凸を少なくして表面光沢を一段と良好にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の錫−亜鉛系鉛フリーはんだ合金の実験において、はんだ粉末の化学組成および特性評価結果を示す図表である。

Claims (2)

  1. 〜10重量%の亜鉛、0.0015〜0.03重量%のマグネシウムおよび0.0010〜0.006重量%のアルミニウムを含有し、残部が錫からなることを特徴とする、錫−亜鉛系鉛フリーはんだ合金。
  2. 〜10重量%の亜鉛、0.5〜6重量%のビスマス、0.0015〜0.03重量%のマグネシウムおよび0.0010〜0.006重量%のアルミニウムを含有し、残部が錫からなることを特徴とする、錫−亜鉛系鉛フリーはんだ合金。
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