JP3577758B2 - インクジェット式印刷記録装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、インクジェット式の印字ヘッドを搭載する印刷記録装置に関し、特に、印字ヘッドの回復動作をキャリッジ立ち上げ中に行いキャリッジの総移動距離を節約すると共に、立ち上げ中の回復動作の有無に応じて2種類のスルーアップテーブルを使い分けて印字位置精度の向上を図ったインクジェット式印刷記録装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、複写機、ファクシミリやパソコン用プリンタ等のような、転送されてくる印刷情報に基づいて紙やプラスチックシート等の被印刷体にドットパターン画像を記録する印刷記録装置が使用されている。これらの印刷記録装置の印字部分に搭載される印字ヘッドの一種として、吐出口よりインクの小滴を吐出飛翔させ、被印刷体である紙等に付着させて印刷を行うインクジェット式印字ヘッドがある。
【0003】
かかるインクジェット式印字ヘッドは、使用中に印字ヘッド内部のインクに気泡が発生してインク吐出が不良となることがある。また、吐出口にインクの液滴や乾燥インク、紙粉等の異物が付着して目詰まりすることによりインク吐出が不良となることもある。従って、これらの不良原因を除去して良好な吐出口状態に回復するための清浄化を定期的に行う必要がある。このため、印字ヘッドの吐出面から不良インクを吸い出すパージ装置や、印字ヘッドの吐出面を拭って余分なインクや異物を除去するワイパ部材等の回復機構を印字ヘッドの移動経路に面して設け、定期的に印字ヘッドを回復機構上へ移動させてパージ動作やワイピング動作により清浄化するようにしている(以下、これらの動作を「回復動作」という)。
【0004】
一方、この種の印刷記録装置では、被印刷体を搬送するプラテンローラのローラ軸と平行なガイド軸と、そのガイド軸上を移動可能なキャリッジとを設け、印字ヘッドをこのキャリッジ上に搭載している。印刷すべき文字等は1行中に複数あるため印字ヘッドを移動させる必要があるからである。
そこで、インクジェット式印字ヘッドを搭載する記録装置では、印字のためのキャリッジ移動範囲の外側に回復動作を行う回復領域を設け、定期的にキャリッジを回復領域に移動させることにより印字ヘッドの回復動作が行われるようにしている。また、印刷すべき文字が行頭印字位置付近にある場合には、回復動作を行う時期でなくてもキャリッジが回復領域に進入することがあるが、この場合には印字ヘッドの耐久性を重視して回復動作はせず、回復機構を印字ヘッドから退避させるようにしている。
【0005】
ところで印字ヘッドを搭載したキャリッジは、印刷情報に応じて停止と移動とを反復することになるが、一定の慣性を有しているので停止状態から瞬時に印字速度に立ち上げることはできない。このため、キャリッジ速度は漸増して立ち上げられるが、その一方、被印刷体上への印字位置精度を確保しなければならない。従って、キャリッジ立ち上げ中における加速パターンを予め定めた駆動データテーブル(以下、「スルーアップテーブル」という)を有し、そのスルーアップテーブルに従って立ち上げるようにしている。印字速度から停止状態に立ち下げる場合も同様である。
そして従来の記録装置では、キャリッジを回復動作が行われない印字領域内の位置から立ち上げる場合でも、回復領域内の位置から立ち上げる場合でも、同一のスルーアップテーブルを使用して立ち上げるようにしていた。
【0006】
また、機種によっては、回復動作が行われる位置から立ち上げる場合には、回復動作後に一旦キャリッジを停止し、あらためてスルーアップテーブルを使用して立ち上げるようにしたものもあった。このような記録装置におけるキャリッジの位置と速度との関係を図9に示す。図9では横軸でキャリッジ位置を、縦軸で速度を示している。ここでホームポジションHPとは、キャリッジ移動の基準となる位置であり、キャリッジ総移動範囲の左端又は左端付近に位置する。ホームポジションHPに停止していたキャリッジは、まず回復領域Wを移動してヘッドの回復動作を行い(カーブa)、位置Qに一旦停止してから立ち上げ領域Uを移動しつつスルーアップテーブルに従い立ち上げされる(カーブb)。そして行頭印字位置Oでは印字速度vに達しており、印字領域P内では印字速度vを保ちつつ印刷情報に従って印刷を実行し(カーブc)、行末印字位置Y以後は立ち下げ領域Dを移動しつつスルーダウンして位置Zに停止する(カーブd)。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のこの種の記録装置では、以下のような問題点があった。
まず、キャリッジの立ち上げ位置に拘らず同一のスルーアップテーブルを使用することの問題点を説明する。
この場合には、回復領域内の位置から立ち上げる場合に本来の加速パターンどおりには加速されず、正しいキャリッジ位置及び速度が得られない。立ち上げ中に回復動作又は回復機構の退避を行う場合には、摩擦負荷や慣性負荷等のためこれらのいずれをも行わない場合より駆動負荷が大きいためである。特に、負荷と駆動力との大きさの関係によっては、キャリッジ速度に脈動が発生することもある。このため、回復動作を行う位置から立ち上げた行では印刷動作中のキャリッジ位置に狂いが生じ、印字位置精度が悪くなる問題がある。
【0008】
次に、回復動作後に一旦キャリッジを停止することとした場合の問題点を説明する。
このような装置の場合には、図9に示されるように印字領域Pの左側外部に立ち上げ領域Uがあり、更にその左側外部に回復領域Wが存在する。かかる記録装置では、立ち上げ中には回復動作も回復機構の退避も行わないので印字位置精度の問題点は生じないが、立ち下げ領域Dも含めたキャリッジの総移動距離L(=W+U+P+D)が印字領域Pに比して長くなり、記録装置全体のサイズも大きくなるという問題がある。
【0009】
本発明は前記従来の問題点を解消するためになされたものであり、印字ヘッドのワイピング位置をキャリッジ移動範囲の立ち上げ領域内に設け、キャリッジ立ち上げ中にワイピングを行うことにより、キャリッジの総移動距離を短縮して装置全体の小型化を図るとともに、行頭印字位置よりホームポジション寄りの位置からキャリッジを起動する場合には一旦ホームポジションまで逆進してからワイピングを行いつつ立ち上げ、かつ、その場合とワイピングしないで立ち上げる場合とで別々のスルーアップテーブルを使用することにより印字位置精度の向上を図ったインクジェット式印刷記録装置を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため本発明のインクジェット式印刷記録装置(1)は、吐出口からインクを被印刷体に吐出して印刷するインクジェット式の印字ヘッドと、印字ヘッドを搭載すると共に被印刷体の搬送ローラと平行な方向に移動可能なキャリッジと、キャリッジの移動範囲内に設けられ印字ヘッドの状態を回復させる回復手段とを有するインクジェット式印刷記録装置において、前記キャリッジが第1印字位置より前方の準備領域内に停止しているか否かを判断する停止位置判断手段と、前記停止位置判断手段によりキャリッジが準備領域内に停止していると判断された場合に、前記回復手段に印字ヘッドを接触させつつ又はキャリッジにより回復手段を退避させつつキャリッジを所定の加速パターンで印字速度に加速する第1加速制御手段と、前記停止位置判断手段によりキャリッジが準備領域以外の領域内に停止していると判断された場合に、キャリッジを別の所定の加速パターンで印字速度に加速する第2加速制御手段とを有し、前記回復手段は、前記第1加速制御手段によるキャリッジの加速がなされる領域内に設けられていることを特徴とする構成とされる。
【0011】
また、本発明のインクジェット式印刷記録装置(2)は、前記停止位置判断手段によりキャリッジが準備領域内に停止していると判断された場合に、前記第1加速制御手段による加速制御がなされる前にキャリッジを前記準備領域の先端位置に移動させる逆進手段を有することを特徴とする(1)の構成とされる。
【0012】
【作用】
前記構成を有する本発明のインクジェット式印刷記録装置(1)では、印刷する際にはまず停止位置判断手段により、キャリッジの停止位置が判断される。キャリッジの停止位置が第1印字位置より前方の準備領域内である場合には、第1加速制御手段により、印字ヘッドが回復手段に接触しつつ又はキャリッジが回復手段を退避させつつ、キャリッジが所定の加速パターンで印字速度に加速される。キャリッジの停止位置が準備領域以外の領域内である場合には、第2加速制御手段により、印字ヘッドが別の所定の加速パターンで印字速度に加速される。印字速度に加速された印字ヘッドにより、吐出口からインクを被印刷体に吐出して印刷がなされる。
【0013】
また、本発明のインクジェット式印刷記録装置(2)では、キャリッジの停止位置が第1印字位置より前方の準備領域内である場合には、逆進手段によりキャリッジが準備領域の先端位置に移動されてから、第1加速制御手段による加速制御がなされる。
【0014】
【実施例】
以下、本発明に係るインクジェット式印刷記録装置について、本発明をパソコンに接続して使用するインクジェットプリンタとして具体化した実施例に基づいて図面を参照しつつ詳細に説明する。
まず、本実施例に係るインクジェットプリンタの構成について図1乃至図4に基づき説明する。
図1はインクジェットプリンタの斜視図である。図1において、インクジェットプリンタ1の本体フレーム2における前部には手差し給紙部3が設けられており、手差し給紙部3の後方で本体フレーム2の上部には後述する印字ヘッド10や回復機構RM、紙送り機構LMを内蔵するサブフレーム4が載置されている。サブフレーム4の上部後方には、印刷用紙を複数枚貯蔵する給紙カセット5が脱着可能に取り付けられている。
【0015】
インクジェットプリンタ1のサブフレーム4及びサブフレーム4に内蔵される印字ヘッド10、回復機構RM、紙送り機構LM等の斜視図を図2に示す。図2において、サブフレーム4の内部後方には円筒形状のプラテンローラ6が配置されている。プラテンローラ6は、給紙カセット5又は手差し給紙部3から供給された印刷用紙を印字ヘッド10に対面させながら搬送するものであり、紙送り機構LMの一部をなす。プラテンローラ6は、図2には現れないLFモータ29により、プラテンギヤ7を介して駆動される。プラテンローラ6の上側には、印刷用紙をプラテンローラ6に密着させるプレッシャローラ8が設けられている。
【0016】
プラテンローラ6の前方には、キャリッジ9が設けられている。キャリッジ9は、インクジェット式の印字ヘッド10を搭載しており、プラテンローラ6と平行に設けられたキャリッジ軸11に沿って移動可能とされている。印字ヘッド10をプラテンローラ6に沿って移動させるためである。サブフレーム4の右方裏面には、キャリッジ9を駆動するCRモータ12が配置されている。CRモータ12は、ベルト13を介してキャリッジ9を駆動するものであり、ステップモータか又はDCモータを使用する。ベルト13に沿って、テープ状の位置ゲージ14が設けられている。位置ゲージ14には、目盛りが付されており、キャリッジ9の位置検知のための役割を有する。
【0017】
プラテンローラ6の左側には、印字ヘッド10の回復機構RMが配設されている。インクジェット式の印字ヘッド10は、使用中に内部に気泡が発生したり、吐出面上にインクの液滴が付着したり等の原因により吐出不良を起こすので、これを良好な吐出状態に回復させるためである。回復機構RMとして、パージ装置18と、ワイパ15とが設けられている。
パージ装置18は、図示しないパージポンプの負圧により印字ヘッド10の内部の不良インクを吸引して回復させるものである。パージ装置18のパージポンプは、ポンプカムギヤ19を介してLFモータ29により駆動される。
【0018】
ワイパ15について、図3により説明する。ワイパ15は、印字ヘッド10の吐出面を拭って吐出面上に付着した液滴等を除去して回復させるワイピングを行うものであり、キャリッジ9の動きにより印字ヘッド10の吐出面に突出し、又は退避する。ワイパ15は、サブフレーム4に対し回動可能に立設されたワイパ軸38に取り付けられている。ワイパ軸38の下部には、ワイパキッカ39が形成されている。そして、キャリッジ9の印字ヘッド10より下方位置には、キック部37が形成されている。図示の状態では、ワイパ15は印字ヘッド10の吐出面から退避した位置にある。
【0019】
キャリッジ9が図3中矢印Aの向きに動くと、キック部37がワイパキッカ39に当接して、ワイパ軸38を矢印Bの向きに回動させる。このため、ワイパ15が印字ヘッド10の吐出面に突出し、更にキャリッジ9が動くと印字ヘッド10がワイピングされる。その後、キャリッジ9が矢印Aと逆向きに動いて図示の状態に戻るときには、キック部37がワイパキッカ39に逆向きに当接してワイパ軸38を矢印Bと逆向きに回動させ、ワイパ15を印字ヘッド10の吐出面から退避させる。従ってこの場合にはワイピングされない。印字ヘッド10の吐出面にはノンウェットコートが施されているので、その耐久性の観点からワイピング回数を必要最小限に抑えるためである。
【0020】
かかるワイパ15の位置とキャリッジ9の移動範囲との関係を図8により説明する。図8は、横軸にキャリッジ9の位置をとり、縦軸にキャリッジ9の移動速度をとったグラフである。ワイパ15は、印字領域Pの左端の行頭印字位置Oと、ホームポジションHPとの間のワイピング領域W内のワイパ位置WPに設けられている。ホームポジションHPとは、キャリッジ9の移動やそれによる印刷動作、パージ動作等の基準となる位置である。尚、図3中に示した矢印Aで示すキャリッジ9の移動方向は、図8では左から右への向きである。
【0021】
実際に印刷する際には、ホームポジションHPに停止していたキャリッジ9は、ワイピング領域Wを移動しつつ立ち上げされ印字速度vに達する(カーブe)。このとき図3で説明したようにワイパ15が突出してワイピングされる。即ちワイピング領域Wは、立ち上げ領域を兼ねている。そして、行頭印字位置Oから行末印字位置Yに至る印字領域Pでは印字速度vを維持しつつ印字ヘッド10により印刷を実行し(カーブg)、そして立ち下げ領域Dを移動しつつ立ち下げられて位置Zに停止する。尚、キャリッジが逆向きに移動する場合は、図3で説明したようにワイパ15が退避するので、ワイピング領域Wにおいてもワイピングされない。
【0022】
続いて、インクジェットプリンタ1の制御系を図4のブロック図を参照して説明する。この制御系は、公知の演算処理装置であるCPU20を中心に構成される。CPU20は、インターフェース21を介してホスト22に接続される。ホスト22はパソコンである。即ちインクジェットプリンタ1は、ホスト22から印刷指令を受け、その指令に従い種々の印刷を実行するものである。
【0023】
CPU20には、スイッチパネル23、ROM24、RAM25が接続されている。スイッチパネル23は、用紙サイズその他種々のパラメータを設定し、及び表示するものである。ROM24は、インクジェットプリンタ1の制御上必要な種々のプログラムやデータテーブル類を格納するものである。ROM24に格納される代表的なプログラムとして、印刷実行のためにキャリッジ9を駆動するキャリッジ駆動プログラムがある。代表的なデータテーブルとして、キャリッジ9の駆動を開始する際の加速パターンを予め定めた第1スルーアップテーブル、第2スルーアップテーブルがある。その詳細は後述する。RAM25は、インクジェットプリンタ1の制御上必要な種々の数値の一時記憶を行うものである。
【0024】
CPU20は、LF駆動回路26、CR駆動回路27、ヘッド駆動回路28を介してLFモータ29、CRモータ12、印字ヘッド10を駆動制御する。
LFモータ29は、切り換え機構30を介してパージ機構32又は紙送り機構LMのいずれか一方を駆動する。パージ機構32は、前記のパージ装置18、パージポンプ、ポンプカムギヤ19等により構成される。紙送り機構LMは、前記のプラテンローラ6、プレッシャローラ8等により構成される。
CRモータ12は、キャリッジ機構31を駆動する。キャリッジ機構31は、キャリッジ9の他、ベルト13やそのプーリ等を含む。キャリッジ9の動きにより、前記の切り換え機構30の切換がなされる。
【0025】
パージ機構32、紙送り機構LM、キャリッジ機構31は、それぞれセンサを備えており、検知信号をCPU20に設けられたカウンタ群36に報知する。
パージ機構32には、パージHPセンサ33が備えられている。パージHPセンサ33は、パージポンプが原点位置にあるときにその旨をカウンタ群36のパージ位置カウンタに報知する。この信号はパージ機構32によるパージ動作の基準とされる。
【0026】
紙送り機構LMには、PEセンサ34が備えられている。PEセンサ34は、新たに供給される印刷用紙の先端により信号を発し、カウンタ群36のLF位置カウンタに報知する。この信号が縦方向の印字位置制御の基準となる。
キャリッジ機構31には、CR位置センサ35が備えられている。CR位置センサ35は、位置ゲージ14の目盛りを読んでキャリッジ9の位置を検知し、カウンタ群36のCR位置カウンタに報知する。この位置情報は、横方向の印字位置制御の基準となる他、印刷用紙の新規供給動作及び印刷済み用紙の排出動作の可否の判断基準となる。
【0027】
かかる構成を有するインクジェットプリンタ1の基本的動作は、給紙カセット5又は手差し給紙部3から供給された印刷用紙をプラテンローラ6により搬送しつつ、ホスト22からの指令信号に従いキャリッジ9及び印字ヘッド10を駆動制御することにより、印刷用紙上に文字や記号、図形等の印刷を行うことである。印刷を実行する際には、プラテンローラ6により印刷用紙の印刷される行が印字ヘッド10に対面する位置まで送られそこで停止される。そして、CRモータ12によりキャリッジ9が所定の印字速度で駆動され、その間に印字ヘッド10が指令信号に従いインクを吐出して印刷がなされる。
【0028】
次に、インクジェットプリンタ1にホスト22から印刷指令が入力された場合の実際の動作を図5のフローチャートにより説明する。
インクジェットプリンタ1は、通常時はホスト22からの印刷指令を待つ状態にある(S1)。印刷指令があると(S1:Yes)、S2に進む。S2では、キャリッジ(CR)9の停止位置が、行頭の第1印字位置O(図8参照)より左、即ちホームポジションHPよりであるか否かを判断する。これにより、停止状態から印字速度までの加速パターンが異なるからである。キャリッジ9は通常ではホームポジションHP、即ち行頭印字位置Oより左に位置して印刷指令を待つのであるが、前の行での印刷を終了した位置によってはホームポジションHP以外の位置で待機していることもあるので、かかる判断を要する。
【0029】
S2で、キャリッジ9の停止位置が行頭印字位置Oより左でないと判断された場合には(S2:No)、S3に進む。キャリッジ9が図8中の位置Xのような位置に停止していた場合にかかる判断がされる。S3では、停止しているキャリッジ9の印字速度までの立ち上げを行う(図8のカーブf)。この立ち上げではキャリッジ9は、ROM24に格納された第2スルーアップテーブルに従って加速される。第2スルーアップテーブルによるキャリッジ9の加速パターンを図7のグラフに示す。このグラフでは、横軸に立ち上げ開始からの経過時間を、縦軸にキャリッジ9の速度をとって加速パターンを示している。この加速パターンは、キャリッジ9がワイパ15による負荷を受けずに加速される場合に使用されるものである。キャリッジ9の停止位置が行頭印字位置Oより左でないので図9に示すワイパ位置WPを通過しないからである。図7のグラフでは、キャリッジ9の速度が時間とともにスムーズに増加していることが理解できる。
【0030】
第2スルーアップテーブルによりキャリッジ9が立ち上げられると、S6に進む。S6では、キャリッジ9を印字速度で駆動しながら1行分の印字が行われる(図8のカーブg)。その行の印刷が終了すると、S7に進んでキャリッジ9が立ち下げられて位置Zに停止し(図8のカーブh)、フローは終了する。
【0031】
S2で、キャリッジ9の停止位置が行頭印字位置Oより左であると判断された場合には(S2:Yes)、S4に進む。キャリッジ9が図8中ワイピング領域W内の位置に停止していた場合にかかる判断がされる。S4では、キャリッジ9を一旦ホームポジションHPに逆進させる。この場合には立ち上げ中に印字ヘッド10がワイパ15によるワイピングを受けるので、立ち上げ開始からワイピングまでの経過時間が一定となるように、キャリッジ9を基準位置に置くためである。この逆進操作をしないと、キャリッジ9の停止位置の微小な違いにより、立ち上げ開始後のワイピングを受ける時期が異なるので、停止位置ごとにスルーアップテーブルを用意しないと印字位置精度を担保できないこととなる。ホームポジションHPに到着したキャリッジ9は、その位置で一旦停止される。尚、キャリッジ9が最初からホームポジションHPに停止していた場合には移動する必要はない。
【0032】
次にS5では、ホームポジションHPに停止しているキャリッジ9の印字速度までの立ち上げを行う(図8のカーブe)。この立ち上げではキャリッジ9は、S3の場合と異なり第1スルーアップテーブルに従って加速される。この場合にはキャリッジ9はワイパ15による負荷を受けながら加速されるので、かかる負荷を考慮していない第2スルーアップテーブルを使用したのでは負荷によりキャリッジ9の位置精度が悪くなるからである。
【0033】
第1スルーアップテーブルによるキャリッジ9の加速パターンを図6のグラフに示す。この加速パターンは、ワイピング負荷を予め考慮にいれて定められている。図6のグラフでは、ワイパ15による負荷を受ける期間Wにおいて、図7の場合より加速が緩やかとなっている。負荷を受けても良好な駆動精度を得るためには、加速よりもトルクを重視する必要があるからである。尚、S4でキャリッジ9をホームポジションHPに移動して出発位置をそろえたので、第1スルーアップテーブルは1種類でよい。このためROM24の容量は過大なものを要しない。
第1スルーアップテーブルによりキャリッジ9が良好な位置精度をもって立ち上げられると、S3の場合と同様にS6に進み1行分の印字がされ、S7でキャリッジ9が立ち下げられて終了する。
【0034】
このように、ワイパ15により印字ヘッドのワイピングをしながらキャリッジ9の立ち上げをする場合には、ワイピング負荷を考慮した第1スルーアップテーブルを使用して立ち上げるので、印字領域Pにおけるキャリッジ9の位置精度が高く、また、速度に脈動が生じることもない。また、ワイピング領域Wで、キャリッジ9の立ち上げと印字ヘッド10のワイピングとの双方を行うので、独立した立ち上げ領域を要しない。
【0035】
以上詳細に説明したように、本実施例にかかるインクジェットプリンタ1では、キャリッジ9の移動範囲中の印字領域Pの前方に隣接してワイピング領域Wを設け、キャリッジ9を立ち上げながら印字ヘッド10のワイピングがなされるようにワイパ15を配置したので、ワイピング領域Wと別に立ち上げ領域を設ける必要がなく、キャリッジ9の総移動距離L(=W+P+D)が、印字領域Pと比較してさほど大きくならない。従って装置全体のコンパクト化が図られる。また、ワイパ15はキャリッジ9が順方向に移動する場合のみ吐出面に突出するので、ワイピング回数が抑えられ印字ヘッド10の吐出面の劣化が防止される。
【0036】
また、キャリッジ9の停止位置が行頭印字位置OよりホームポジションHPよりであった場合には、立ち上げ前に一旦ホームポジションHPに移動させるので、立ち上げ動作中の一定のところでワイピングがなされ、その後使用されるスルーアップテーブルを多数用意する必要はない。またその場合には、ワイピングしないで立ち上げる場合とは別の第1スルーアップテーブルで立ち上げるので、ワイピングの負荷にも拘らずキャリッジ9の位置及び速度精度がよく、印刷物の見栄えがよい。
【0037】
尚、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることは勿論である。
例えば前記実施例では、第1スルーアップテーブルによるキャリッジ9の立ち上げ時に、ワイパ15によるワイピングの負荷を受けながら加速されることとしたが、逆にキャリッジ9でレバー等を押してワイパ15を退避させる動作を行い、その負荷を受けつつ加速することとしてもよい。また、ワイパ15のようなワイピング部材の他、パージ装置18や、あるいはデータに関係しないインクの吐出を行うためのフラッシング装置等について突出又は退避動作をさせるようにしてもよい。
また前記実施例では、位置ゲージ14を設けてキャリッジ9の位置検知を行ったが、CRモータ12の駆動信号により位置検知を行うこととしてもよい。
【0038】
【発明の効果】
以上説明した通り本発明によれば、印字ヘッドが回復動作を受ける位置を、キャリッジ移動範囲中の立ち上げ領域内に設け、キャリッジ立ち上げ中に回復動作を行い立ち上げ領域と回復領域とを兼ねさせることにより、キャリッジの総移動距離を短縮して装置全体の小型化を図るとともに、回復動作をしながら立ち上げる場合には回復動作をしないで立ち上げる場合とは別の加速制御を行うことにより、回復動作をしながら立ち上げる行においても良好な印字位置精度を実現したインクジェット式印刷記録装置が提供される。
また、第1印字位置より前方の準備領域内からキャリッジを立ち上げる場合には、一旦基準となる位置まで逆進してから立ち上げることにより、立ち上げ中の回復動作を受けるタイミングを一定にして、更に良好な位置精度を実現したインクジェット式印刷記録装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施例にかかるインクジェットプリンタの外観斜視図である。
【図2】インクジェットプリンタの回復機構、紙送り機構等を示す斜視図である。
【図3】キャリッジとワイパとの位置関係を示す斜視図である。
【図4】インクジェットプリンタの制御ブロック図である。
【図5】印刷動作のフローチャートである。
【図6】第1スルーアップテーブルによる加速パターンを示すグラフである。
【図7】第2スルーアップテーブルによる加速パターンを示すグラフである。
【図8】キャリッジの移動範囲とインクジェットプリンタの各動作との関係を説明するグラフである。
【図9】従来の装置におけるキャリッジの移動範囲と各動作との関係を説明するグラフである。
【符号の説明】
1 インクジェットプリンタ
6 プラテンローラ
9 キャリッジ
10 印字ヘッド
12 CRモータ
14 位置ゲージ
15 ワイパ
18 パージ装置
20 CPU
24 ROM
HP ホームポジション
O 行頭印字位置
W ワイピング領域
Claims (2)
- 吐出口からインクを被印刷体に吐出して印刷するインクジェット式の印字ヘッドと、印字ヘッドを搭載すると共に被印刷体の搬送ローラと平行な方向に移動可能なキャリッジと、キャリッジの移動範囲内に設けられ印字ヘッドの状態を回復させる回復手段とを有するインクジェット式印刷記録装置において、
前記キャリッジが第1印字位置より前方の準備領域内に停止しているか否かを判断する停止位置判断手段と、
前記停止位置判断手段によりキャリッジが準備領域内に停止していると判断された場合に、前記回復手段に印字ヘッドを接触させつつ又はキャリッジにより回復手段を退避させつつキャリッジを所定の加速パターンで印字速度に加速する第1加速制御手段と、
前記停止位置判断手段によりキャリッジが準備領域以外の領域内に停止していると判断された場合に、キャリッジを別の所定の加速パターンで印字速度に加速する第2加速制御手段とを有し、
前記回復手段は、前記第1加速制御手段によるキャリッジの加速がなされる領域内に設けられていることを特徴とするインクジェット式印刷記録装置。 - 前記停止位置判断手段によりキャリッジが準備領域内に停止していると判断された場合に、前記第1加速制御手段による加速制御がなされる前にキャリッジを前記準備領域の先端位置に移動させる逆進手段を有することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット式印刷記録装置。
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