JP3577606B2 - リニアアクチュエータ - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、リニアアクチュエータに関する。
【0002】
【従来の技術】
例えば、自動車の後輪操舵用アクチュエータとして、リニアアクチュエータが用いられる。この種のリニアアクチュエータにおいては、一般に、駆動源である電気モ−タの回転力を出力軸の軸方向の移動力に変換する必要がある。そこで、回動自在に支持されたナットを電気モ−タの駆動軸に連結するとともに、アクチュエータの出力軸に形成したねじを、前記ナットに噛み合わせ、該ナットが回転すると、出力軸がその軸方向に移動するように構成される。
【0003】
この種のリニアアクチュエータにおいては、比較的大きな力が負荷側(即ち車輪)から出力軸に加わるので、該出力軸とナットとの結合部であるねじ部分にも軸方向の比較的大きな力が加わる。従って、これらのねじ部分では、摩擦力を格別に小さくしないと、駆動時にギア音が発生したり、ねじ部分の発熱,異常摩耗,アクチュエータの動作不良などの不都合が生じ易い。
【0004】
そこで、この種のねじ部分については、従来より、接触面上にグリスを塗付することによって、接触部分の摩擦力を低減し、上記のような不都合が生じないように配慮してある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、仮に大量にグリスを塗付したとしても、アクチュエータの動作に伴なってねじ部分の相対移動動作が繰り返されると、その部分に塗付されたグリスが時間の経過とともに飛散あるいは拡散するので、比較的短い期間で、ねじ部分にはグリスがほとんどなくなり、摩擦力が増大して発熱を生じ、ねじの異常摩耗,アクチュエータの動作不良などが生じる可能性があった。このような不具合をなくすためには、短い周期で、定期的にグリスの塗付を繰り返さなければならず、点検や整備の負担が増大する。
【0006】
従って本発明は、リニアアクチュエータにおいて、ねじ部分に塗付されたグリスが短期間でなくなるのを防止して、修理,点検,整備等の負担を減らすことを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明のアクチュエータは、軸を中心にする回転は不可に軸方向には移動自在に軸受け部材(15)で支持された、外周にねじ(6a)がある駆動軸(6);
一端に大径突起部(41b)が、他端に雄ねじ(41f)がある、前記駆動軸の前記ねじ(6a)に噛み合うナット(41);
該ナットを回転自在に支持し、内輪が前記軸方向で前記大径突起部(41b)に当接するベアリング(42);
前記ナットに連結され該ナットを回転駆動する駆動機構;
前記ナットの内周面の中間部分に形成された第1のグリス溜り空間(41e);
前記ナットの外周面に沿って形成された第2のグリス溜り空間(41c);
前記第1及び第2のグリス溜り空間に比べて小さく、該第1のグリス溜り空間と第2のグリス溜り空間とを連通する少なくとも1つの連通孔(41d);及び
前記ナットの前記雄ねじ(41f)に噛み合う雌ねじ(44a)を持ち該雌ねじで前記ナットとねじ結合し、前記ナットの外側を覆い、第2のグリス溜り空間の開口部を閉塞し、かつ該ねじ結合のねじ締めにより前記ベアリング(42)の内輪に当接して該内輪を前記大径突起部(41b)に向う方向に押すロックナット(44);
を備える。
【0008】
また請求項2においては、前記第1のグリス溜まり空間を、前記ナットの内周面に沿って形成された環状の溝とし、前記第2のグリス溜まり空間を、前記ナットの外周面に沿って形成された環状の溝とする。
【0009】
また請求項3においては、更にポテンショメ−タ(43)を備え、前記駆動軸(6)は環状の溝(6e)を持ち、該溝に、前記ポテンショメ−タ(43)の回転軸に結合した回動レバー(43a)の先端が係合する。
【0010】
なお上記括弧内に示した記号は、後述する実施例中の対応する要素の符号を参考までに示したものであるが、本発明の各構成要素は実施例中の具体的な要素のみに限定されるものではない。
【0011】
【作用】
本発明においては、リニアアクチュエータの駆動軸に形成されたねじ(6a)と噛み合うナット(41)の内周面の中間部分に第1のグリス溜り空間(41e)が形成され、その外周面に沿って第2のグリス溜り空間(41c)が形成され、更に第1のグリス溜り空間と第2のグリス溜り空間とが、少なくとも1つの連通孔(41d)によって連通している。また、第2のグリス溜り空間の開口部は、前記ナットの外側を覆うロックナット(44)によって閉塞されている。
【0012】
従って、予め前記第1のグリス溜り空間,第2のグリス溜り空間,及び連通孔にグリスを充填してからロックナット(44)でナットを覆うことによって、それらの空間内にグリスを溜めておくことができる。第1のグリス溜り空間では、グリスがねじ(6a)の一部分と接触するので、このねじ及びそれに噛み合うナットのねじには、グリスが自然に少しずつ塗付される。また、第1のグリス溜り空間は、ナットの中間部分に形成されており、外側に露出していないので、この空間のグリスが周囲に飛散することはなく、アクチュエータの動作に伴なって、グリスは少しずつ拡散し消費される。
【0013】
また、第2のグリス溜り空間は、ロックナット(44)によって閉塞されているので、この空間内のグリスが周囲に飛散することもない。そして、第1のグリス溜り空間のグリス量が大幅に減少すると、第2のグリス溜り空間内のグリスが、連通孔を介して、少しずつ第1のグリス溜り空間に移動し、グリスが自動的に補充される。この連通孔は、第1及び第2のグリス溜り空間に比べて小さいため、第2のグリス溜り空間内のグリスが第1のグリス溜り空間に一気に移動するような現象は生じない。従って、アクチュエータのねじ(6a,41a)に、長期間に渡って、グリスを塗り続けることができ、発熱や異常摩耗が長期間生じないので、修理,点検,整備等の負担が軽くなる。
【0014】
ナット(41)にロックナット(44)をねじ込むことにより、前記突起部(41b)とロックナット(44)とで、ナットを支持するベアリング(42)を挟み込み固定することができる。つまり、ロックナット(44)を、第2のグリス溜り空間の開口の閉塞の目的だけでなく、ベアリング(42)をナット(41)に固定するためにも利用することができるので、アクチュエータの構造が簡単になる。
【0015】
請求項2においては、前記第1のグリス溜り空間および第2のグリス溜り空間が、環状の溝であるため、ねじの周面の全体に渡って、むらなくグリスを塗付することができる。
【0016】
また請求項3によれば、駆動軸(6)がその軸方向に移動すると、回動レバ−(43a)が回転するので、ポテンショメ−タ(43)は駆動軸(1)の位置に対応する電気信号、即ち位置信号を出力する。
【0017】
【実施例】
一実施例の後輪操舵アクチュエータの縦断面図をA1−A2線で分割して図1と図2に示す。また、図1のIX−IX線断面を図9に示す。図1及び図2に示す後輪操舵アクチュエータについて説明する。この後輪操舵アクチュエータのケ−シング1は、円筒状に形成されており、材質は鉄である。ケ−シング1は、コストを低減するために、鉄パイプを加工して成形してある。勿論、放熱性がよく加工のしやすいパイプ材であれば、鉄以外の他の材料を使用しても構わない。ケ−シング1の両端部には、それぞれ軸受け部材15及び16が装着されている。軸受け部材15及び16は、アルミニウムで構成されている。アクチュエータ軸6は、ケ−シング1の中心を貫通する形で配置されており、軸受け部材15及び16によって、軸方向に移動自在に支持されている。
【0018】
図6に示すように、アクチュエータ軸6の左端近傍には軸方向に延びる、インボリュ−ト形状の凹凸が全周に渡って形成されており、それがスプライン6dを形成している。スプライン6dを支持する軸受け部材15の軸受部62にもスプラインが形成されており、これらのスプラインが互いに噛み合っているので、アクチュエータ軸6の回転方向の動きは阻止される。
【0019】
軸受け部材15の縦断面を図17に示し、図17のXVIII−XVIII線から見た状態を図18に示す。図17及び図18に示すように、この実施例では、軸受部62に全周に渡ってスプラインが形成されているのではなく、軸受部62にはスプラインの形成された接触領域62a,62b,62cと、スプラインの形成されない非接触領域62d,62e,62fとが形成されている。接触領域62a,62b,62c及び非接触領域62d,62e,62fは、周方向の角度で各々、60度の領域を占めており、周方向に均等に配置されている。従って、アクチュエータ軸6は、そのスプライン6dの部分が、軸受部62の3箇所の接触領域62a,62b及び62cと接触した状態で支持されている。
【0020】
回り止めをするために軸をスプラインで支持する場合には、その部分に隙間ができにくくなるが、全周に渡って形成したスプラインで支持する場合には、その部分の接触面積が非常に大きくなるため、摺動抵抗が大きくなるという問題がある。しかしこの例では、スプラインを形成する領域が一部分だけであり、接触しない領域62d,62e及び62fがあるので、軸受部62とアクチュエータ軸6との接触面積は比較的小さく、摺動抵抗も小さい。
【0021】
ところで、アクチュエータ軸6のスプライン6dと軸受部62の接触領域62a,62b,62cとの間に隙間があると、アクチュエータ軸6が動き始める時にそれが軸受部62に当たり、打音が発生する。この打音を抑制するために、この実施例では、軸受部62を樹脂で構成してある。
【0022】
再び図1及び図2を参照して説明を続ける。この後輪操舵アクチュエータの一般的な使用形態においては、アクチュエータ軸6の両端に、自動車の後左車輪及び後右車輪の操舵部材が連結され、アクチュエータ軸6が軸方向に移動することによって、後輪の操舵が実施される。
【0023】
アクチュエータ軸6の駆動源は、電気モ−タであり、この後輪操舵アクチュエータに内蔵され、一体に構成されている。この実施例の電気モ−タは、一般的な電気モ−タとは異なり、固定子に電気コイル2を設け、固定子の内側の回転子に永久磁石5を設けてある。また電気コイル2は、3相構成になっている。永久磁石5の磁極の位置に応じて、電気コイル2から所定の移動磁界を発生することにより、永久磁石5と一体になった回転子が回転駆動される。
【0024】
電気コイル2のサブアセンブリAS1の構成を図3に示す、図3のIV−IV線から見た状態を図4に示す。図3及び図4を参照すると、サブアセンブリAS1は、円筒状に構成されており、外径がケ−シング1の内径よりも僅かに小さく形成され、ケ−シング1の内側に配置できるようになっている。電気コイル2は、多数の鉄板を厚み方向に積層して構成した鉄心61に巻回され、端子64と電気的に接続されている。
【0025】
また、熱硬化性樹脂により予め成形したホルダ3Aが、サブアセンブリAS1に装着されている。このホルダ3Aの外周は、サブアセンブリAS1の最外周(端子64を除く)に位置しており、その外径はケ−シング1の内径とほぼ同一になっている。従って、サブアセンブリAS1をケ−シング1内に挿入した時に、ケ−シング1の内壁とホルダ3Aの外周との隙間はほとんどなくなる。ホルダ3Aの外周面に沿って、環状の凹部3Aaが形成されており、該凹部3Aaに、ゴム製のOリング46が装着されている。ケ−シング1が金属製であり、ホルダ3Aが樹脂製であるため、温度が変化すると、両者の熱膨張率の違いによって、それらの境界に隙間が生じる可能性があるが、隙間が生じた場合でも、Oリング46がその隙間を塞ぐので、外部から電気コイル2等の部分への水分等の侵入を確実に防止することができる。
【0026】
このサブアセンブリAS1は、ケ−シング1の内側に挿入された後、樹脂材料(熱可塑性樹脂)3Bによって図1及び図2に示すようにケ−シング1に一体成形される。実際には、サブアセンブリAS1は、ケ−シング1の外側からの凸状のうち込みにより形成された内壁面の凸部1aによって図示左右方向に対して位置決めされ、凸部1bによって回り止めされた後、それに所定の型がはめ込まれ、該型の内部に流動状態の樹脂材料3Bが注入される。この樹脂材料3Bは、硬化して型と一致する形に成形される。このようにして一体成形された樹脂材料3Bによって、それとケ−シング1及びサブアセンブリAS1が一体に固定された状態を図5に示す。また、樹脂材料3Bの一体成形によって、図5に示すように、後述する遊星歯車機構7のリングギア12が同時に形成される。
【0027】
ところで、樹脂材料3Bを成形する際に、それが収縮するので、樹脂材料3Bの外周面とケ−シング1の内壁との境界部分63には、成形後に隙間が生じ易い。このような隙間ができると、外部からの水分等がアクチュエータ内に侵入し、それによって電気部品等が劣化するので、その隙間をなくするためにシ−ルをする必要が生じる。しかしこの実施例では、予め成形されたホルダ3Aの外周面がケ−シング1の内壁と密着しているので、樹脂材料3Bの外周面とケ−シング1の内壁との境界部分63に隙間ができた場合であっても、ホルダ3Aの部分で確実にシ−ルされるので、水分等は電気コイル2の方へ侵入しない。従って、境界部分63を格別にシ−ルする必要はない。ホルダ3Aの外周面とケ−シング1の内壁との境界は、弾性体で構成されるOリング46を使用してシ−ルできるので、シ−ルが簡単である。
【0028】
この実施例のように構成すると、電気コイル2及び鉄心61とケ−シング1とが近接して配置されているので、電気コイル2の発生する熱がケ−シング1に伝わりやすく、アクチュエータ内部の温度上昇を抑制することができる。
【0029】
一方、図1,図2に示すアクチュエータの電気モ−タの回転子は、図7に示すように、円筒状に形成した鉄製の回転子部材4,該回転子部材4の外周に装着した円筒状の永久磁石5,環状の永久磁石13及び動力伝達部材11で構成されており、その両端が、動力伝達部材11に固定されたベアリング10と、軸受け部材16に固定されるベアリング17によって、回動自在に支持される。
【0030】
永久磁石5は、希土類のネオジウムで構成してあり、図12に示すように、円周方向に4つの磁極を形成している。また、永久磁石5の外径は、電気コイル2のサブアセンブリAS1の内径より僅かに小さく、回転子部材4の内径は、アクチュエータ軸6の外径よりも僅かに大きく形成してある。従ってこの回転子は、図9に示すように、サブアセンブリAS1とアクチュエータ軸6との間のリング状の空間中で回転することができる。
【0031】
動力伝達部材11は、樹脂の一体成形により構成されており、略円筒状に形成されている。また動力伝達部材11は、回転子部材4と同軸に配置されており、一体成形により形成された突起11cによって、回転子部材4の一端にそれと一体に固定されている。また、動力伝達部材11の大径部11cの外径は、ベアリング10の内径よりも大きく形成されており、大径部11cがベアリング10を固定している。即ち、動力伝達部材11を成形する際に、ベアリング10の一部分もそれと一体に固定されている。更に、動力伝達部材11の一端の回転子部材4から突出した小径部の外周には、歯車11aが形成されている。この歯車11aは、図8に示すように、遊星歯車機構7の1つのサンギアを構成している。従って、電気モ−タを駆動すると、動力伝達部材11の歯車11aが回転し、駆動力が遊星歯車機構7に伝達される。
【0032】
遊星歯車機構7の構成を図8に示し、図8のX−X線断面を図10に示し、図8のXI−XI線断面を図11に示す。図8,図10及び図11を参照して説明する。遊星歯車機構7は、2組の遊星歯車を直列に連結して構成してある。第1組の遊星歯車は、図10に示すように、歯車(サンギア)11a,プラネタリギア21,22,23及び24,ならびにリングギア12で構成されており、第2組の遊星歯車は、図11に示すように、サンギア29a,プラネタリギア31,32,33及び34,ならびにリングギア12で構成されている。2組の遊星歯車で共通に使用されるリングギア12は、樹脂部材3Bをケ−シング1に一体成形する際に、同時に成形されている。
【0033】
第1組のプラネタリギア21,22,23及び24は、それぞれ軸25,26,27及び28によって回動自在に支持されており、軸25,26,27及び28は、ド−ナツ形状の連結板29に固定されている。連結板29の中央部に設けた円筒状の突出部分の外周に、第2組のサンギア29aが形成されている。第2組のプラネタリギア31,32,33及び34は、それぞれ軸35,36,37及び38によって回動自在に支持されており、軸35,36,37及び38は、図2に示すようにナット41に固定されている。
【0034】
従って、回転子部材4が回転すると、それと一体になったサンギア11aが回転するので、第1組のプラネタリギア21,22,23及び24がサンギア11aの周りを公転し、プラネタリギア21,22,23及び24の軸25〜28と結合された連結板29が回転するので、それに形成された第2組のサンギア29aが回転し、第2組のプラネタリギア31,32,33及び34がサンギア29aの周りを公転し、プラネタリギア31,32,33及び34を支持する軸35〜38と結合されたナット41が回転する。
【0035】
ナット41の正面図を図15に示し、その縦断面を図16に示す。図16に示すように、ナット41の一端面にねじ穴41gが形成してあり、その部分で前記軸35〜38と結合されている。ナット41は、その外周に配置されたベアリング42によってケ−シング1の内部に回動自在に支持されているが、それの軸方向の動きは阻止される。ベアリング42の外周側の部材は、図2に示すようにケ−シング1の内周面の段差と軸受け部材15とで挟まれるので、軸方向の動きが阻止される。また図13に示すように、ナット41の周面と当接するベアリング42の内周側の部材は、図2に示すように軸方向の一端が突起41bに当接し、他端側がロックナット44の端面44dで押さえられているので、ナット41に固定されている。
【0036】
図16に示すように、ナット41の内周面には台形ネジ(ねじ山が台形状のもの)41aが形成してあり、この台形ネジ41aが、図2に示すように、アクチュエータ軸6に形成した台形ネジ6aと噛み合っている。従って、ナット41が回転すると、台形ネジ41aのねじ山が軸方向に移動し、それと噛み合っている台形ネジ6aが軸方向に移動するので、アクチュエータ軸6がその軸方向に移動する。即ち、ナット41と台形ネジ6aとで構成される変換機構8によって、遊星歯車機構7の回転運動がアクチュエータ軸6の直線運動に変換される。なおこの変換機構8は、ボ−ルねじで構成してもよい。
【0037】
ところで、アクチュエータ軸6には、車輪からの比較的大きな外力が加わる。従って、アクチュエータ軸6を動かす時には、その駆動部分である台形ネジ6aとナット41の台形ネじ41aとの接触部分には、大きな摩擦力が生じる。このため、台形ネジ6a,41aの接触部分にグリスなどの潤滑剤を塗付してその部分の摩擦係数を小さくしておかないと、短期間で著しい摩耗を生じたり、動作不良が生じる場合がある。しかしながら、このような接触部分に塗付されたグリスは、その部分が動く度にその周囲に飛散したり時間の経過とともに拡散したりするので、比較的短期間で消費されなくなってしまう。このため通常は、短い周期で点検を実施し、その度にグリスを塗付し直す必要がある。
【0038】
この実施例では、台形ネジ6a,41aの接触部分のグリスが短期間で絶えることがないように、特別な機構が設けてある。図13,図15,図16及び図19を参照して説明する。図19は図13のXIX−XIX線断面図である。図16に示すように、ナット41の軸方向の中央部には、その内周面に沿う位置に形成した環状の溝部41eと、外周面に沿う位置に形成した環状の溝部41cと、連通孔41dが形成されている。連通孔41dは、溝部41eと41cとを連通する。また図13に示すように、ねじ44a,41fで固定される円筒形状のロックナット44が、ナット41の外周を覆うので、溝部41cは閉塞された環状の空間、即ちグリス溜りを形成する。また図19に示すように、溝部41eも閉塞された環状の空間、即ちグリス溜りを形成する。
【0039】
このアクチュエータを組み立てる時には、グリス溜りであるナット41の溝部41e,41c及び連通孔41dにグリスを充填してからロックナット44を取り付けて溝部41cを閉塞する。従って、このアクチュエータを使用する時には、溝部41e,41c及び連通孔41dにグリスが溜っている。そして、ナット41が回転し、台形ネジ41a及び6aが動くと、それに伴なって溝部41e内のグリスが、自然に少しずつ台形ネジ41a及び6aの接触部分に塗付される。
【0040】
グリス溜りは閉塞された空間であるため、アクチュエータの動作に伴なって、その空間内のグリスが飛散することはない。溝部41e内のグリス量が減少すると、連通孔41dを介して、溝部41c内のグリスが溝部41e内に移動し、補給される。また、連通孔41dの空間は溝部41e及び41cの大きさに比べて小さいので、溝部41c内のグリスが短時間で溝部41e内に一気に移動することはなく、時間の経過に伴なってグリスは徐々に移動する。従って、長期間に渡ってグリスがグリス溜り内に保持され、グリスは少しずつ消費されるので、長期間に渡って、台形ネジ41a及び6aの接触部分にグリスを塗付し続けることができる。即ち、長期間に渡って点検やグリスの補給を実施しなくても、接触部分に異常摩耗等が生じにくい。
【0041】
図1を参照すると、回転子部材4上には、永久磁石5から離れた位置に、もう1つの小さい永久磁石13が設置してある。この永久磁石13上に形成される磁極は、永久磁石5の磁極と同一の配置(図12参照)になっている。また、永久磁石13の近傍には、ホ−ル素子9が配置してある。ホ−ル素子9は、ケ−シング1と一体になった軸受け部材16上に固定されている。従って、回転子部材4が回転し、永久磁石13の磁極が回転すると、ホ−ル素子9からパルス信号が発生する。ホ−ル素子9が出力するパルス信号を参照することにより、電気モ−タの回転子の磁極位置を知ることができる。
【0042】
図2のXIV−XIV線断面を図14に示す。図2及び図14を参照すると、アクチュエータ軸6には環状の溝6eが形成してあり、軸受け部材15上にはポテンショメ−タ43が設置してある。このポテンショメ−タ43の回転軸に結合されたレバ−43aの先端部は、アクチュエータ軸6の溝6eと係合している。従って、アクチュエータ軸6がその軸方向に移動すると、レバ−43aが回転するので、ポテンショメ−タ43はアクチュエータ軸6の位置に対応する電気信号、即ち位置信号を出力することができる。なお、アクチュエータ軸6は回転しないので、レバ−43aの先端位置だけに、溝6eの代わりに切欠きを設けてもよいが、その場合にはアクチュエータを組立てる際に、アクチュエータ軸6の向きに注意する必要がある。この実施例のように環状の溝6eを用いる場合には、アクチュエータ軸6の向きを考慮する必要はない。
【0043】
ところで、アクチュエータ軸6は、図6に示すように、互いに径が異なる大径部6bと小径部6cを有している。小径部6cは、径が一定の単なる軸であり、大径部6bには、前述の台形ネジ6a,スプライン6d及び溝6eが形成されている。また小径部6cは、図1に示すように回転子部材4の内側を貫通する位置に存在している。
【0044】
この実施例のアクチュエータを小型化するには、電気モ−タの部分の径をできる限り小さくするのが効果的である。また、電気モ−タの内側にアクチュエータ軸6が存在するので、アクチュエータ軸6の径を小さくすれば、その外側に配置される電気モ−タ全体の大きさを小さくできる。しかしながら、アクチュエータ軸6には充分に大きな機械的強度が要求されるので、アクチュエータ軸6を細くするには限界がある。しかも、アクチュエータ軸6には台形ネジ6a,スプライン6d及び溝6eを設けるので、それらの凹部は径が細く、機械的強度が小さい。従って、径が均一な1本の軸材料を加工してアクチュエータ軸6を構成すると、台形ネジ6a,スプライン6d及び溝6eの部分の機械的強度の制約により、加工しない部分のアクチュエータ軸6の径を、必要な機械的強度に比べてかなり大きめにせざるを得ない。
【0045】
この実施例では、大径部6bと小径部6cを有する1本の軸材料を加工してアクチュエータ軸6を構成してあり、大径部6bを加工して台形ネジ6a,スプライン6d及び溝6eの部分を形成してあり、小径部6cは加工せずにそのままの形で電気モ−タの中心を通る位置に配置してある。そして、小径部6cは、アクチュエータ軸6に要求される機械的強度が得られる、必要最小限の径にしてある。大径部6bは最初の材料の径が大きいので、それを加工して台形ネジ6a,スプライン6d及び溝6eを凹部として形成した後でも、充分に大きな機械的強度を有している。このため、電気モ−タの中心を通るアクチュエータ軸6の小径部6cの径が、従来のアクチュエータと比べてはるかに小さくなっており、その結果として電気モ−タ全体の大きさも充分に小型化されている。
【0046】
次に、この実施例の後輪操舵アクチュエータを製造する工程について説明する。まず、鉄心61を有する所定の巻き枠に電気コイル2を巻き、更に予め成形したホルダ3Aを装着し端子64等の配線を施したものを、サブアセンブリAS1として組立てる。なおこの実施例では、電気コイル2は図1の断面において、長円形に周回するように巻回されている。
【0047】
このサブアセンブリAS1をケ−シング1内に図1の右側から挿入して所定位置に固定した後、図示しない金型A及び図示しない金型Bをケ−シング1内に挿入して、これらの金型A及び金型Bを位置決めする。
【0048】
ケ−シング1,サブアセンブリAS1,金型A及び金型Bで形成される空間(隙間)に、外側からモ−ルド成形用の流動状態の樹脂材料3Bを流し込み、樹脂を隙間に充填する。樹脂が硬化したら、金型A及び金型Bをケ−シング1から取り外す。
【0049】
この結果、硬化した樹脂によって、樹脂部材3Bがモ−ルド成形されると同時に、樹脂部材3Bによって、ホルダ3Aを含むサブアセンブリAS1が、ケ−シング1内に固定される。また、金型Bの外径はケ−シング1の内径よりも少し小さく、その外周の一部分に歯形が形成されているので、樹脂部材3Bの一部分(内壁)には、前記リングギア12が、モ−ルド成形によって形成される。
【0050】
回転子のサブアセンブリを作る時には、まず、図示しない金型C及び金型Dを回転子部材4に装着し、またベアリング10を所定位置に配置してそれを金型C及び金型Dで挟み込む。金型C及び金型Dの隙間(動力伝達部材11の部分)にモ−ルド成形用の樹脂を注入する。この樹脂が硬化すると、動力伝達部材11が形成される。このモ−ルド成形の際に、動力伝達部材11の突出部分の外周に、歯車(サンギア)11aが形成され、ベアリング10が一体に固定される。また、回転子部材4の先端部分には穴4aが形成してあるため、モ−ルド成形によって、動力伝達部材11には突起11bが形成される。このため、回転子部材4の穴4aと動力伝達部材11の突起11bとの係合によって、動力伝達部材11と回転子部材4とが確実に連結される。この後で、回転子部材4上に、円筒形状の永久磁石5及びリング形状の永久磁石13を固着する。
【0051】
アクチュエータ軸6にナット41を装着し、ナット41に軸35,36,37及び38を装着し、軸35,36,37及び38にプラネタリギア31,32,33及び34を装着する。更に、アクチュエータ軸6に連結板29を装着し、連結板29に軸25,26,27及び28を装着し、軸25,26,27及び28にプラネタリギア21,22,23及び24を装着する。次に、回転子のサブアセンブリをアクチュエータ軸6に装着した後、アクチュエータ軸6をそれと一体になった部品とともに、モ−ルド成形が終了したケ−シング1の内部に、左端から右に向かって挿入する。更にケ−シング1の内部に左端側からベアリング42を挿入し、ロックナット44をナットに固定し、軸受け部材15を装着する。続いて、ポテンショメ−タ43を軸受け部材15に装着し、更にホ−ル素子9,ベアリング17,及び軸受け部材16を一体化したサブアセンブリを、ケ−シング1の右端側から差し込み、ケ−シング1に固定する。
【0052】
勿論、以上に説明した各種部品の組付けの手順は一例であり、可能であれば、必要に応じて組付けの手順を変更してもよい。
【0053】
このアクチュエータは、電気コイル2がケ−シング1側にあるため、また、ケ−シング1が鉄パイプであり、サブアセンブリAS1とケ−シング1とが直接接触するか、又は薄い樹脂を介して隣接するため、その部分の熱抵抗が小さく、アクチュエータ自体が小型であっても、非常に放熱性が良い。また、電気コイル2が回転しない構成であるため、イナ−シャが小さく、小型でも大きな出力が得られる。
【0054】
なお上記実施例においては、変換機構に台形ねじを使用するので、車輪が路面から力を受けても回転子が回転せず、逆効率ゼロとなる。よって、後輪の操舵に適する。また、変換機構にボ−ルねじを使用すると、完全には逆効率がゼロにならないが、この場合には、例えば遊星歯車機構のギア比等を予め考慮することにより、動作上の不具合をなくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例の後輪操舵アクチュエータの右側半分を示す縦断面図である。
【図2】図1の装置の左側半分を示す縦断面図である。
【図3】電気コイルのサブアセンブリを示す縦断面図である。
【図4】図3のIV−IV線から見た側面図である。
【図5】内周面に樹脂材料3Bで一体成形が施されたケ−シングの縦断面図である。
【図6】アクチュエータ軸6の一部分を示す正面図である。
【図7】電気モ−タの回転子部分を示す縦断面図である。
【図8】回転子と連結された遊星歯車機構7を示す縦断面図である。
【図9】図1のIX−IX線断面図である。
【図10】図8のX−X線断面図である。
【図11】図8のXI−XI線断面図である。
【図12】図8のXII−XII線断面図である。
【図13】ナット41とロックナット44を示す縦断面図である。
【図14】図2のXIV−XIV線断面図である。
【図15】ナット41の外観を示す正面図である。
【図16】ナット41の縦断面図である。
【図17】軸受け部材15を示す縦断面図である。
【図18】図17のXVIII−XVIII線から見た側面図である。
【図19】図13のXIX−XIX線から見た縦断面図である。
【符号の説明】
1:ケ−シング 1a,1b:凸部
2:電気コイル 3A:ホルダ
3Aa:凹部 3B:樹脂材料
4:回転子部材 4a:穴
5,13:永久磁石 6:アクチュエータ軸
6a:台形ネジ 6b:大径部
6c:小径部 6d:スプライン
6e:溝 7:遊星歯車機構
8:変換機構 9:ホ−ル素子
10,17:ベアリング
11:動力伝達部材 11a:歯車
11b:突起 11c:大径部
12:リングギア 15,16:軸受け部材
21,22,23,24:プラネタリギア
25,26,27,28:軸
29:連結板 29a:サンギア
31,32,33,34:プラネタリギア
35,36,37,38:軸
41:ナット 41a:台形ネジ
41b:突起 41c:溝部
41d:連通孔 41e:溝部
41f,44a:ねじ
42:ベアリング 43:ポテンショメ−タ
43a:レバ− 44:ロックナット
44a:ねじ 44c:内周面
44d:端面 46:Oリング
61:鉄心 62:軸受部
62a,62b,62c:接触領域
62d,62e,62f:非接触領域
63:境界部分 64:端子
AS1:サブアセンブリ
Claims (3)
- 軸を中心にする回転は不可に軸方向には移動自在に軸受け部材で支持された、外周にねじがある駆動軸;
一端に大径突起部が、他端に雄ねじがある、前記駆動軸の前記ねじに噛み合うナット;
該ナットを回転自在に支持し、内輪が前記軸方向で前記大径突起部に当接するベアリング;
前記ナットに連結され該ナットを回転駆動する駆動機構;
前記ナットの内周面の中間部分に形成された第1のグリス溜り空間;
前記ナットの外周面に沿って形成された第2のグリス溜り空間;
前記第1及び第2のグリス溜り空間に比べて小さく、該第1のグリス溜り空間と第2のグリス溜り空間とを連通する少なくとも1つの連通孔;及び
前記ナットの前記雄ねじに噛み合う雌ねじを持ち該雌ねじで前記ナットとねじ結合し、前記ナットの外側を覆い、第2のグリス溜り空間の開口部を閉塞し、かつ該ねじ結合のねじ締めにより前記ベアリングの内輪に当接して該内輪を前記大径突起部に向う方向に押すロックナット;
を備えるリニアアクチュエータ。 - 前記第1のグリス溜り空間は、前記ナットの内周面に沿って形成された環状の溝であり、前記第2のグリス溜り空間は、前記ナットの外周面に沿って形成された環状の溝である、前記請求項1に記載のリニアアクチュエータ。
- 更にポテンショメ−タを備え、前記駆動軸は環状の溝を持ち、該溝に、前記ポテンショメ−タの回転軸に結合した回動レバーの先端が係合した、請求項1又は請求項2に記載のリニアアクチュエータ。
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