JP3573382B2 - 車両におけるヨーモーメント制御方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、左右の車輪の一方に制動力を発生させ、他方に駆動力を発生させることによりヨーモーメントを制御する車両におけるヨーモーメント制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両の左右の車輪を変速機及びトルク伝達クラッチで相互に連結し、前記トルク伝達クラッチのトルク伝達容量を変化させることにより車両のヨーモーメントを制御するものが、本出願人により既に提案されている(特願平7−247336号参照)。
【0003】
このものは、旋回中の車両が加速或いは減速するときに発生する望ましくないヨーモーメントを、左右の車輪に制動力及び駆動力を発生させることにより打ち消すもので、その際に前記制動力及び駆動力の値を車両の前後加速度及び横加速度の積の関数として設定することにより、旋回性能及び高速安定性能を確保するようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで上記従来のものは、車両が旋回中に加速或いは減速するとき、即ち前後加速度及び横加速度が共に発生しているときに有効な制御を行うことができるが、車両が定常旋回をしていて前後加速度が発生していないときには、前記制動力及び駆動力の値がゼロになって制御が行われなくなる問題がある。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、車両が定常旋回中にある場合においても、左右の非駆動輪に制動力及び駆動力を発生させてヨーモーメントを適切に制御することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、駆動輪よりも小さい接地荷重を有する左右の非駆動輪の一方に制動力を発生させ、他方に駆動力を発生させることによりヨーモーメントを制御する車両において、前記駆動力及び制動力の値を車両の横加速度の増加に応じて増加させることを特徴とする。
【0007】
また請求項2に記載された発明は、請求項1の構成に加えて、車両の前後加速度が発生していないときに、前記駆動力及び制動力の値を車両の横加速度の増加に応じて増加させることを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0009】
図1〜図6は本発明の一実施例を示すもので、図1はトルク配分制御装置を備えたフロントエンジン・フロントドライブ車の全体構成図、図2は旋回中の車両に発生するヨーモーメントを説明する図、図3は油圧クラッチの係合に基づいて発生するヨーモーメントを説明する図、図4はスリップアングルとコーナリングフォースとの関係を示すグラフ、図5は後輪の摩擦円を示す図、図6は横加速度と最小旋回半径との関係を示すグラフである。
【0010】
図1に示すように、車体前部に横置きに搭載したエンジンEの右端にトランスミッションMが接続されており、これらエンジンE及びトランスミッションMにより駆動輪である左前輪WFL及び右前輪WFRが駆動される。
【0011】
従動輪である左後輪WRL及び右後輪RRの車軸1L ,1R 間に、左右の後輪WRL,後輪RRをそれらが相互に異なる回転数で回転するように接続する変速機2が設けられる。変速機2には第1油圧クラッチ3L 及び第2油圧クラッチ3R が設けられており、第1油圧クラッチ3L を係合させると、左後輪WRLの回転数が減速されて右後輪RRの回転数が増速され、第2油圧クラッチ3R を係合させると、右後輪RRの回転数が減速されて左後輪WRL回転数が増速される。
【0012】
即ち、変速機2は左右の車軸1L ,1R と同軸上に配置された第1軸4と、左右の車軸1L ,1R と平行であり且つ相互に同軸上に配置された第2軸5及び第3軸6を備えており、第2軸5と第3軸6との間に前記第1油圧クラッチ3L が配置されとともに、右車軸1R と第1軸4との間に前記第2油圧クラッチ3R が配置される。右車軸1R に設けた小径の第1ギヤ7が第2軸5に設けた大径の第2ギヤ8に噛合するとともに、第3軸6に設けた小径の第3ギヤ9が第1軸4に設けた大径の第4ギヤ10に噛合する。左車軸1L に設けた第5ギヤ11が第3軸6に設けた第6ギヤ12に噛合する。
【0013】
第1ギヤ7及び第3ギヤ9の歯数は互いに同一であり、また第2ギヤ8及び第4ギヤ10の歯数は互いに同一であって前記第1ギヤ7及び第3ギヤ9の歯数よりも多くなるように設定される。また第5ギヤ11及び第6ギヤ12の歯数は互いに同一になるように設定される。
【0014】
従って、第1油圧クラッチ3L を係合させると、右後輪RRは右車軸1R 、第1ギヤ7、第2ギヤ8、第2軸5、第1油圧クラッチ3L 、第3軸6、第6ギヤ12、第5ギヤ11及び左車軸1L を介して左後輪WRLに連結される。このとき、第1ギヤ7及び第2ギヤ8の歯数比に応じて、右後輪RRの回転数に対して左後輪WRLの回転数が減速される。即ち、左右後輪WRL,WRRが同速度で回転している状態から第1油圧クラッチ3L を係合させると、右後輪RRの回転数が増速されて左後輪WRLの回転数が減速される。
【0015】
また、第2油圧クラッチ3R を係合させると、右後輪RRは右車軸1R 、第2油圧クラッチ3R 、第1軸4、第4ギヤ10、第3ギヤ9、第3軸6、第6ギヤ12、第5ギヤ11及び左車軸1L を介して左後輪WRLに連結される。このとき、第4ギヤ10及び第3ギヤ9に歯数比に応じて、右後輪RRの回転数に対して左後輪WRLの回転数が増速される。即ち、左右後輪WRL,WRRが同速度で回転している状態から第2油圧クラッチ3R を係合させると、右後輪RRの回転数が減速されて左後輪WRLの回転数が増速される。
【0016】
第1油圧クラッチ3L 及び第2油圧クラッチ3R の係合力は、それらに加えられる油圧の大きさを調整することにより無段階に制御することが可能であり、従って左右後輪WRL,WRRの回転数比も、前記第1〜第4ギヤ7,8,9,10の歯数比によって決まる範囲内で無段階に制御することが可能である。
【0017】
第1油圧クラッチ3L 及び第2油圧クラッチ3R が接続された電子制御ユニットUには、車体の横加速度を検出する横加速度センサS1 、ステアリングホイール13の回転角を検出する舵角センサS2 、エンジンEの吸気管内絶対圧を検出する吸気管内絶対圧センサS3 、エンジンEの回転数を検出するエンジン回転数センサS4 及び車速を演算すべく4輪の回転数をそれぞれ検出する車輪速センサS5 〜S8 からの信号が入力される。
【0018】
電子制御ユニットUは、横加速度センサS1 で検出した車体の実横加速度を、舵角センサS2 で検出したステアリングホイール13の回転角及び車輪速センサS5 〜S8 で検出した車輪速から演算した推定横加速度に基づいて補正し、時間遅れの無い車両の横加速度Ygを演算する。また電子制御ユニットUは、吸気管内絶対圧センサS3 及びエンジン回転数センサS4 の出力から演算したエンジントルクにトランスミッションギヤ比を乗算して駆動輪トルクを演算し、この駆動輪トルクに基づいて車両の前後加速度Xgを演算する。そして、電子制御ユニットUは、前記横加速度Yg及び前後加速度Xgに基づいて第1油圧クラッチ3L 及び第2油圧クラッチ3R の係合力を制御する。
【0019】
次に、前述の構成を備えた本発明の実施例の作用について説明する。
【0020】
図2は重量Wの車両が横加速度Ygで左旋回している状態を示すもので、車両の重心位置には遠心力W×Ygが作用しており、この遠心力W×Ygは前輪と路面との間に作用するコーナリングフォースCFf及び後輪と路面との間に作用するコーナリングフォースCFrの和に釣り合っている。
【0021】
W×Yg=CFf+CFr …(1)
車両の重心位置と前輪との距離をaとし、重心位置と後輪との距離をbとすると、前記コーナリングフォースCFf,CFrによるヨー軸回りのモーメントM1 は、
M1 =a×CFf−b×CFr …(2)
で与えられる。
【0022】
ところで、車両が直進走行しているときに左右両輪の接地荷重は同一であるが、車両が旋回すると旋回内輪と旋回外輪とで接地荷重が変化する。即ち、旋回時には車体の重心に旋回方向外側に向かう遠心力が作用するため、車体が旋回方向外側に倒れようとする。その結果、旋回内輪に路面から浮き上がる傾向が生じて該旋回内輪の接地荷重が減少するとともに、旋回外輪に路面に押し付けられる傾向が生じて該旋回外輪の接地荷重が増加する。
【0023】
また、車両が定速走行しているときに前後輪の接地荷重は一定であるが、車両が加速又は減速すると前後輪の接地荷重が変化する。即ち、加速時には車体の重心に車体後方に向かう慣性力が作用するため、車体がテールダイブしようとして後輪の接地荷重が増加し、その結果後輪のコーナリングフォースが増加して旋回方向と逆方向のモーメントM1 が作用し、また減速時には車体の重心に車体前方に向かう慣性力が作用するため、車体がノーズダイブしようとして前輪の接地荷重が増加し、その結果前輪のコーナリングフォースが増加して旋回方向と同方向のモーメントM1 が作用する(図2の実線矢印及び破線矢印参照)。
【0024】
車両が定速直線走行しているとき、左右の前輪の接地荷重の和をWfとすると各前輪の接地荷重はそれぞれWf/2であるが、車両が横加速度Ygで旋回しながら前後加速度Xgで加減速しているとき、旋回内側の前輪の接地荷重WFI及び旋回外側の前輪の接地荷重WFOは、
WFI=Wf/2−Kf×Yg−Kh×Xg …(3)
WFO=Wf/2+Kf×Yg−Kh×Xg …(4)
で与えられ、また左右の後輪の接地荷重の和をWrとすると旋回内側の後輪の接地荷重WRI及び旋回外側の後輪の接地荷重WROは、
WRI=Wr/2−Kr×Yg+Kh×Xg …(5)
WRO=Wr/2+Kr×Yg+Kh×Xg …(6)
で与えられる。(3)式〜(6)式において、係数Kf,Kr,Khは次式で与えられる。
【0025】
Kf=(Gf′×hg′×W+hf×Wf)/tf …(7)
Kr=(Gr′×hg′×W+hr×Wr)/tr …(8)
Kh=hg×W/(2×L) …(9)
ここで使用されている記号は以下の通りである。
【0026】
Gf,Gr;前輪、後輪ロール剛性
Gf′,Gr′;前輪、後輪ロール剛性配分
Gf′=Gf/(Gf+Gr)
Gr′=Gr/(Gf+Gr)
hf,hr;前輪、後輪ロールセンター高さ
hg;重心高さ
hg′;重心〜ロール軸間距離
hg′=hg−(hf×Wf+hr×Wr)/W
tf,tr;前輪、後輪トレッド
L;ホイールベース
L=a+b
タイヤのコーナリングフォースが該タイヤの接地荷重に比例すると仮定すると、前輪のコーナリングフォースCFfは、(3)式で与えられる旋回内側の前輪の接地荷重WFIと、(4)式で与えられる旋回外側の前輪の接地荷重WFOと、横加速度Ygとにより、次式で与えられる。
【0027】
また、後輪のコーナリングフォースCFrは、(5)式で与えられる旋回内側の後輪の接地荷重WRIと、(6)式で与えられる旋回外側の後輪の接地荷重WROと、横加速度Ygとにより、次式で与えられる。
【0028】
(10)式及び(11)式を(2)式に代入すると、
ここで、a×Wf−b×Wr=0であり、また(9)式からKh=hg×W/(2×L)であるから、前記(12)式は、
M1 =−hg×W×Xg×Yg …(13)
となり、ヨー軸回りのモーメントM1 は前後加速度Xgと横加速度Ygとの積に比例することが分かる。従って、(13)式で与えられるヨー軸回りのモーメントM1 を打ち消すように旋回内輪及び旋回外輪に駆動力及び制動力を配分すれば、旋回中における加速時或いは減速時の旋回安定性及び高速安定性の向上を図ることができる。
【0029】
一方、図3に示すように、例えば旋回内輪に制動力Fを発生させたとき、変速機2のギヤ比をiとすると旋回外輪には駆動力はF/iが発生する。これら制動力F及び駆動力F/iにより車両に発生するヨー軸回りのモーメントM2 は、
で与えられる。ここでκ=1+(1/i)、T;クラッチトルク、R;タイヤ半径である。
【0030】
従って、モーメントM2 でモーメントM1 を打ち消すために必要なクラッチトルクTは、M1 =M2 と置くことにより、
T={2R/(tr×κ)}×hg×W×Xg×Yg …(15)
で与えられる。(15)式から明らかなように、クラッチトルクTは前後加速度Xg及び横加速度Ygの積に比例した値となる。尚、以上の説明ではタイヤのコーナリングフォースが該タイヤの接地荷重に比例すると仮定したので、クラッチトルクTが前後加速度Xg及び横加速度Ygの積Xg×Ygに比例した値となるが、厳密にはコーナリングフォースは接地荷重に比例しないため、実際にはクラッチトルクTを前後加速度Xg及び横加速度Ygの積Xg×Ygの関数として取り扱うと良い。
【0031】
而して、表1に示すように、車両が左旋回中に加速するとき、第1油圧クラッチ3L を(15)式で与えられるクラッチトルクTで係合させると、旋回内輪の回転数が減速されて制動力Fが発生するとともに、旋回外輪の回転数が増速されて駆動力F/iが発生することにより、コーナリングフォースに基づく旋回方向と逆方向のモーメントM1 が打ち消されて旋回性能が向上する。同様に、車両が右旋回中に加速するときに第2油圧クラッチ3R を前記クラッチトルクTで係合させれば、前述と同様にコーナリングフォースに基づくモーメントM1 が打ち消されて旋回性能が向上する。
【0032】
また、車両が左旋回中に減速するとき、第2油圧クラッチ3R を(15)式で与えられるクラッチトルクTで係合させると、旋回内輪の回転数が増速されて駆動力F/iが発生するとともに、旋回外輪の回転数が減速されて制動力Fが発生することにより、コーナリングフォースに基づく旋回方向と同方向のモーメントM1 が打ち消されて高速安定性能が向上する。同様に、車両が右旋回中に減速するときに第1油圧クラッチ3L を前記クラッチトルクTで係合させれば、前述と同様にコーナリングフォースに基づくモーメントM1 が打ち消されて高速安定性能が向上する。
【0033】
【表1】
尚、車両の直進走行中に加速或いは減速を行っても、車両のヨーモーメントは変化しないため、第1油圧クラッチ3L 及び第2油圧クラッチ3R は非係合状態に保たれる。
【0034】
以上説明したように、旋回中の車両が加速或いは減速する際に発生するヨーモーメントの大きさは前後加速度Xg及び横加速度Ygの積Xg×Ygに比例した値となるが、加速或いは減速を行わない定常旋回中の車両には前後加速度Xgが作用しないために前記ヨーモーメントも発生せず、従って定常旋回中には第1油圧クラッチ3L 及び第2油圧クラッチ3R は非係合状態に保たれる。しかしながら、車両の定常旋回中にも第1油圧クラッチ3L 或いは第2油圧クラッチ3R を係合させ、左右の後輪WRL,WRRに積極的にトルクを配分してヨーモーメントを発生させることにより、車両の限界横加速度Ygを増加させて旋回性能を向上させることができる。
【0035】
図4は、前輪のスリップアングルβfに対するコーナリングフォースCFfの関係と、後輪のスリップアングルβrに対するコーナリングフォースCFrの関係とを示すものである。コーナリングフォースCFf,CFrの大きさはスリップアングルβf,βrがゼロから増加するのに応じてゼロから増加し、やがてスリップアングルβf,βrが限界点に達すると減少し始める。また、エンジンEから近い位置にあって接地荷重が大きい前輪のコーナリングフォースCFfは、エンジンEから遠い位置にあって接地荷重が小さい後輪のコーナリングフォースCFrよりも大きくなっている。
【0036】
さて、旋回中に前輪及び後輪が負担すべきコーナリングフォースCFf,CFrの値は横加速度Ygの値に依存し、(1)式の関係を保ちながら変化する。横加速度Ygが増加すると前輪及び後輪のスリップアングルβf,βrは共に増加し、それに伴って前輪及び後輪のコーナリングフォースCFf,CFrも共に増加する。そして、前輪のスリップアングルβf及びコーナリングフォースCFfが図4のA点に達したとき、即ち前輪のコーナリングフォースCFfがそれ以上増加できない限界点に達したときの横加速度Ygが、その車両の限界横加速度Ygとなる。このとき、後輪のスリップアングルβr及びコーナリングフォースCFrは図4のB点にあり、従って後輪のコーナリングフォースCFrは未だマージンm1 を残している。
【0037】
仮に、図4において前輪のスリップアングルβf及びコーナリングフォースCFfをA点に設定し、後輪のスリップアングルβr及びコーナリングフォースCFrをB0 点に設定することができれば、前輪及び後輪のコーナリングフォースCFf,Cfrを最大限に利用して限界横加速度Ygを増加させることができるが、前述したように前輪及び後輪が負担すべきコーナリングフォースCFf,CFrの比率が(1)式に依存して決定されるため、それは不可能である。
【0038】
しかしながら、後輪の旋回内輪及び旋回外輪にトルクを配分することにより、前輪及び後輪が負担すべきコーナリングフォースCFf,CFrの比率を任意のコントロールし、それらコーナリングフォースCFf,Cfrを無駄なく利用して限界横加速度Ygを増加させることができる。
【0039】
定常旋回中の車両の旋回内輪に制動力を与え、旋回外輪に駆動力を与えることにより旋回方向にヨーモーメントM3 を発生させると、前記(2)式は次のようになる。
【0040】
M1 =a×CFf−b×CFr+M3 …(16)
(16)式及び(1)式から、前輪のコーナリングフォースCFf及び後輪のコーナリングフォースCFrは、
CFf={b/(a+b)}×W×Yg−M3 /(a+b) …(17)
CFr={a/(a+b)}×W×Yg+M3 /(a+b) …(18)
で与えられる。(17)式及び(18)式は、車両の定常旋回中に第1、第2油圧クラッチ3L ,3R を係合させてヨーモーメントM3 を発生させれば、右辺第2項±M3 /(a+b)により前輪及び後輪のコーナリングフォースCFf,CFrの比率を任意にコントロールできることを示している。
【0041】
而して、図4において車両が限界横加速度Ygで定常旋回しているとき(つまり、前輪のコーナリングフォースCFfがA点にあり、後輪のコーナリングフォースCFrがB点にあるとき)、前記(17)式及び(18)に基づいて前輪のコーナリングフォースCFfをΔCF[ΔCF=M3 /(a+b)]だけ減少させてCFf′(A′点)とし、後輪のコーナリングフォースCFrをΔCF[ΔCF=M3 /(a+b)]だけ増加させてCFr′(B′点)とすることができる。その結果、前輪のコーナリングフォースCFfには新たにマージンm2 が発生し、後輪のコーナリングフォースCFrには依然としてマージンm3 が残ることになり、前記マージンm2 ,m3 の分だけ車両の速度を増加させ、或いは車両の旋回半径を減少させて限界横加速度Ygを増加させることができる。
【0042】
図5は図4のB点に対応する後輪の摩擦円を示すものである。旋回性能に対して支配的な影響力を持つ旋回外輪について考えると、旋回外輪の接地荷重は横加速度Ygの増加に応じて増加するため、その駆動力の余裕分も横加速度Ygの増加に応じて増加する。従って、横加速度Ygの増加に応じて第1、第2油圧クラッチ3L ,3R のクラッチトルクTを増加させれば、旋回外輪に最大限のコーナリングフォースCFf,CFrを発生させて旋回性能を向上させることができる。
【0043】
このように横加速度Ygに応じて後輪WRL,WRRに駆動力及び制動力を発生させているので、前後加速度Xgがゼロである定常旋回中においても前記駆動力及び制動力を発生させて旋回性能を向上させることができる。
【0044】
図6は横加速度と最小旋回半径との関係を示すもので、破線は前記ヨーモーメントM3 を与えない従来の車両の最小旋回半径を、実線は前記ヨーモーメントM3 を与えた本発明の車両の最小旋回半径を示している。同図から明らかなように、本発明のものは横加速度Ygが一定の場合には最小旋回半径が減少し、また最小旋回半径が一定の場合には横加速度(即ち、車速)が増加して旋回性能が向上する。
【0045】
更に、図4に示すように、前記ヨーモーメントM3 を与えることにより前輪のスリップアングルβfがβf′に減少し、後輪のスリップアングルβrがβr′に増加するため、前輪及び後輪のスリップアングルβf′,βr′の差を減少させてニュートラルステアに近づけることができる。
【0046】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0047】
例えば、第1油圧クラッチ3L 及び第2油圧クラッチ3R に代えて、電磁クラッチや流体カップリング等の他のクラッチを用いることができる。
【0048】
【発明の効果】
以上のように請求項1に記載された発明によれば、駆動輪よりも小さい接地荷重を有する左右の非駆動輪の一方及び他方に横加速度の増加に応じて増加する制動力及び駆動力を発生させることにより、接地荷重が大きいために限界点の近くにある駆動輪のコーナリングフォースを減少させることができる。これにより、駆動輪のコーナリングフォースに余裕を持たせ、その余裕分を使用して横加速度が更に大きい旋回を行わせることが可能となり、車両の旋回性能の向上に寄与することができる。しかも、駆動輪及び従動輪のスリップアングルの差を減少させ、操舵特性をニュートラルステアに近づけることができる。
【0049】
また請求項2に記載された発明によれば、車両の前後加速度が発生していないときに駆動力及び制動力の値を増加させるので、定常旋回中の車両の旋回性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】トルク配分制御装置を備えたフロントエンジン・フロントドライブ車の全体構成図
【図2】旋回中の車両に発生するヨーモーメントを説明する図
【図3】油圧クラッチの係合に基づいて発生するヨーモーメントを説明する図
【図4】スリップアングルとコーナリングフォースとの関係を示すグラフ
【図5】後輪の摩擦円を示す図
【図6】横加速度と最小旋回半径との関係を示すグラフ
【符号の説明】
WFL 左前輪(駆動輪)
WFR 右前輪(駆動輪)
WRL 左後輪(非駆動輪)
WRR 右後輪(非駆動輪)
Xg 前後加速度
Yg 横加速度
【発明の属する技術分野】
本発明は、左右の車輪の一方に制動力を発生させ、他方に駆動力を発生させることによりヨーモーメントを制御する車両におけるヨーモーメント制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両の左右の車輪を変速機及びトルク伝達クラッチで相互に連結し、前記トルク伝達クラッチのトルク伝達容量を変化させることにより車両のヨーモーメントを制御するものが、本出願人により既に提案されている(特願平7−247336号参照)。
【0003】
このものは、旋回中の車両が加速或いは減速するときに発生する望ましくないヨーモーメントを、左右の車輪に制動力及び駆動力を発生させることにより打ち消すもので、その際に前記制動力及び駆動力の値を車両の前後加速度及び横加速度の積の関数として設定することにより、旋回性能及び高速安定性能を確保するようになっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで上記従来のものは、車両が旋回中に加速或いは減速するとき、即ち前後加速度及び横加速度が共に発生しているときに有効な制御を行うことができるが、車両が定常旋回をしていて前後加速度が発生していないときには、前記制動力及び駆動力の値がゼロになって制御が行われなくなる問題がある。
【0005】
本発明は前述の事情に鑑みてなされたもので、車両が定常旋回中にある場合においても、左右の非駆動輪に制動力及び駆動力を発生させてヨーモーメントを適切に制御することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、駆動輪よりも小さい接地荷重を有する左右の非駆動輪の一方に制動力を発生させ、他方に駆動力を発生させることによりヨーモーメントを制御する車両において、前記駆動力及び制動力の値を車両の横加速度の増加に応じて増加させることを特徴とする。
【0007】
また請求項2に記載された発明は、請求項1の構成に加えて、車両の前後加速度が発生していないときに、前記駆動力及び制動力の値を車両の横加速度の増加に応じて増加させることを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面に示した本発明の実施例に基づいて説明する。
【0009】
図1〜図6は本発明の一実施例を示すもので、図1はトルク配分制御装置を備えたフロントエンジン・フロントドライブ車の全体構成図、図2は旋回中の車両に発生するヨーモーメントを説明する図、図3は油圧クラッチの係合に基づいて発生するヨーモーメントを説明する図、図4はスリップアングルとコーナリングフォースとの関係を示すグラフ、図5は後輪の摩擦円を示す図、図6は横加速度と最小旋回半径との関係を示すグラフである。
【0010】
図1に示すように、車体前部に横置きに搭載したエンジンEの右端にトランスミッションMが接続されており、これらエンジンE及びトランスミッションMにより駆動輪である左前輪WFL及び右前輪WFRが駆動される。
【0011】
従動輪である左後輪WRL及び右後輪RRの車軸1L ,1R 間に、左右の後輪WRL,後輪RRをそれらが相互に異なる回転数で回転するように接続する変速機2が設けられる。変速機2には第1油圧クラッチ3L 及び第2油圧クラッチ3R が設けられており、第1油圧クラッチ3L を係合させると、左後輪WRLの回転数が減速されて右後輪RRの回転数が増速され、第2油圧クラッチ3R を係合させると、右後輪RRの回転数が減速されて左後輪WRL回転数が増速される。
【0012】
即ち、変速機2は左右の車軸1L ,1R と同軸上に配置された第1軸4と、左右の車軸1L ,1R と平行であり且つ相互に同軸上に配置された第2軸5及び第3軸6を備えており、第2軸5と第3軸6との間に前記第1油圧クラッチ3L が配置されとともに、右車軸1R と第1軸4との間に前記第2油圧クラッチ3R が配置される。右車軸1R に設けた小径の第1ギヤ7が第2軸5に設けた大径の第2ギヤ8に噛合するとともに、第3軸6に設けた小径の第3ギヤ9が第1軸4に設けた大径の第4ギヤ10に噛合する。左車軸1L に設けた第5ギヤ11が第3軸6に設けた第6ギヤ12に噛合する。
【0013】
第1ギヤ7及び第3ギヤ9の歯数は互いに同一であり、また第2ギヤ8及び第4ギヤ10の歯数は互いに同一であって前記第1ギヤ7及び第3ギヤ9の歯数よりも多くなるように設定される。また第5ギヤ11及び第6ギヤ12の歯数は互いに同一になるように設定される。
【0014】
従って、第1油圧クラッチ3L を係合させると、右後輪RRは右車軸1R 、第1ギヤ7、第2ギヤ8、第2軸5、第1油圧クラッチ3L 、第3軸6、第6ギヤ12、第5ギヤ11及び左車軸1L を介して左後輪WRLに連結される。このとき、第1ギヤ7及び第2ギヤ8の歯数比に応じて、右後輪RRの回転数に対して左後輪WRLの回転数が減速される。即ち、左右後輪WRL,WRRが同速度で回転している状態から第1油圧クラッチ3L を係合させると、右後輪RRの回転数が増速されて左後輪WRLの回転数が減速される。
【0015】
また、第2油圧クラッチ3R を係合させると、右後輪RRは右車軸1R 、第2油圧クラッチ3R 、第1軸4、第4ギヤ10、第3ギヤ9、第3軸6、第6ギヤ12、第5ギヤ11及び左車軸1L を介して左後輪WRLに連結される。このとき、第4ギヤ10及び第3ギヤ9に歯数比に応じて、右後輪RRの回転数に対して左後輪WRLの回転数が増速される。即ち、左右後輪WRL,WRRが同速度で回転している状態から第2油圧クラッチ3R を係合させると、右後輪RRの回転数が減速されて左後輪WRLの回転数が増速される。
【0016】
第1油圧クラッチ3L 及び第2油圧クラッチ3R の係合力は、それらに加えられる油圧の大きさを調整することにより無段階に制御することが可能であり、従って左右後輪WRL,WRRの回転数比も、前記第1〜第4ギヤ7,8,9,10の歯数比によって決まる範囲内で無段階に制御することが可能である。
【0017】
第1油圧クラッチ3L 及び第2油圧クラッチ3R が接続された電子制御ユニットUには、車体の横加速度を検出する横加速度センサS1 、ステアリングホイール13の回転角を検出する舵角センサS2 、エンジンEの吸気管内絶対圧を検出する吸気管内絶対圧センサS3 、エンジンEの回転数を検出するエンジン回転数センサS4 及び車速を演算すべく4輪の回転数をそれぞれ検出する車輪速センサS5 〜S8 からの信号が入力される。
【0018】
電子制御ユニットUは、横加速度センサS1 で検出した車体の実横加速度を、舵角センサS2 で検出したステアリングホイール13の回転角及び車輪速センサS5 〜S8 で検出した車輪速から演算した推定横加速度に基づいて補正し、時間遅れの無い車両の横加速度Ygを演算する。また電子制御ユニットUは、吸気管内絶対圧センサS3 及びエンジン回転数センサS4 の出力から演算したエンジントルクにトランスミッションギヤ比を乗算して駆動輪トルクを演算し、この駆動輪トルクに基づいて車両の前後加速度Xgを演算する。そして、電子制御ユニットUは、前記横加速度Yg及び前後加速度Xgに基づいて第1油圧クラッチ3L 及び第2油圧クラッチ3R の係合力を制御する。
【0019】
次に、前述の構成を備えた本発明の実施例の作用について説明する。
【0020】
図2は重量Wの車両が横加速度Ygで左旋回している状態を示すもので、車両の重心位置には遠心力W×Ygが作用しており、この遠心力W×Ygは前輪と路面との間に作用するコーナリングフォースCFf及び後輪と路面との間に作用するコーナリングフォースCFrの和に釣り合っている。
【0021】
W×Yg=CFf+CFr …(1)
車両の重心位置と前輪との距離をaとし、重心位置と後輪との距離をbとすると、前記コーナリングフォースCFf,CFrによるヨー軸回りのモーメントM1 は、
M1 =a×CFf−b×CFr …(2)
で与えられる。
【0022】
ところで、車両が直進走行しているときに左右両輪の接地荷重は同一であるが、車両が旋回すると旋回内輪と旋回外輪とで接地荷重が変化する。即ち、旋回時には車体の重心に旋回方向外側に向かう遠心力が作用するため、車体が旋回方向外側に倒れようとする。その結果、旋回内輪に路面から浮き上がる傾向が生じて該旋回内輪の接地荷重が減少するとともに、旋回外輪に路面に押し付けられる傾向が生じて該旋回外輪の接地荷重が増加する。
【0023】
また、車両が定速走行しているときに前後輪の接地荷重は一定であるが、車両が加速又は減速すると前後輪の接地荷重が変化する。即ち、加速時には車体の重心に車体後方に向かう慣性力が作用するため、車体がテールダイブしようとして後輪の接地荷重が増加し、その結果後輪のコーナリングフォースが増加して旋回方向と逆方向のモーメントM1 が作用し、また減速時には車体の重心に車体前方に向かう慣性力が作用するため、車体がノーズダイブしようとして前輪の接地荷重が増加し、その結果前輪のコーナリングフォースが増加して旋回方向と同方向のモーメントM1 が作用する(図2の実線矢印及び破線矢印参照)。
【0024】
車両が定速直線走行しているとき、左右の前輪の接地荷重の和をWfとすると各前輪の接地荷重はそれぞれWf/2であるが、車両が横加速度Ygで旋回しながら前後加速度Xgで加減速しているとき、旋回内側の前輪の接地荷重WFI及び旋回外側の前輪の接地荷重WFOは、
WFI=Wf/2−Kf×Yg−Kh×Xg …(3)
WFO=Wf/2+Kf×Yg−Kh×Xg …(4)
で与えられ、また左右の後輪の接地荷重の和をWrとすると旋回内側の後輪の接地荷重WRI及び旋回外側の後輪の接地荷重WROは、
WRI=Wr/2−Kr×Yg+Kh×Xg …(5)
WRO=Wr/2+Kr×Yg+Kh×Xg …(6)
で与えられる。(3)式〜(6)式において、係数Kf,Kr,Khは次式で与えられる。
【0025】
Kf=(Gf′×hg′×W+hf×Wf)/tf …(7)
Kr=(Gr′×hg′×W+hr×Wr)/tr …(8)
Kh=hg×W/(2×L) …(9)
ここで使用されている記号は以下の通りである。
【0026】
Gf,Gr;前輪、後輪ロール剛性
Gf′,Gr′;前輪、後輪ロール剛性配分
Gf′=Gf/(Gf+Gr)
Gr′=Gr/(Gf+Gr)
hf,hr;前輪、後輪ロールセンター高さ
hg;重心高さ
hg′;重心〜ロール軸間距離
hg′=hg−(hf×Wf+hr×Wr)/W
tf,tr;前輪、後輪トレッド
L;ホイールベース
L=a+b
タイヤのコーナリングフォースが該タイヤの接地荷重に比例すると仮定すると、前輪のコーナリングフォースCFfは、(3)式で与えられる旋回内側の前輪の接地荷重WFIと、(4)式で与えられる旋回外側の前輪の接地荷重WFOと、横加速度Ygとにより、次式で与えられる。
【0027】
また、後輪のコーナリングフォースCFrは、(5)式で与えられる旋回内側の後輪の接地荷重WRIと、(6)式で与えられる旋回外側の後輪の接地荷重WROと、横加速度Ygとにより、次式で与えられる。
【0028】
(10)式及び(11)式を(2)式に代入すると、
ここで、a×Wf−b×Wr=0であり、また(9)式からKh=hg×W/(2×L)であるから、前記(12)式は、
M1 =−hg×W×Xg×Yg …(13)
となり、ヨー軸回りのモーメントM1 は前後加速度Xgと横加速度Ygとの積に比例することが分かる。従って、(13)式で与えられるヨー軸回りのモーメントM1 を打ち消すように旋回内輪及び旋回外輪に駆動力及び制動力を配分すれば、旋回中における加速時或いは減速時の旋回安定性及び高速安定性の向上を図ることができる。
【0029】
一方、図3に示すように、例えば旋回内輪に制動力Fを発生させたとき、変速機2のギヤ比をiとすると旋回外輪には駆動力はF/iが発生する。これら制動力F及び駆動力F/iにより車両に発生するヨー軸回りのモーメントM2 は、
で与えられる。ここでκ=1+(1/i)、T;クラッチトルク、R;タイヤ半径である。
【0030】
従って、モーメントM2 でモーメントM1 を打ち消すために必要なクラッチトルクTは、M1 =M2 と置くことにより、
T={2R/(tr×κ)}×hg×W×Xg×Yg …(15)
で与えられる。(15)式から明らかなように、クラッチトルクTは前後加速度Xg及び横加速度Ygの積に比例した値となる。尚、以上の説明ではタイヤのコーナリングフォースが該タイヤの接地荷重に比例すると仮定したので、クラッチトルクTが前後加速度Xg及び横加速度Ygの積Xg×Ygに比例した値となるが、厳密にはコーナリングフォースは接地荷重に比例しないため、実際にはクラッチトルクTを前後加速度Xg及び横加速度Ygの積Xg×Ygの関数として取り扱うと良い。
【0031】
而して、表1に示すように、車両が左旋回中に加速するとき、第1油圧クラッチ3L を(15)式で与えられるクラッチトルクTで係合させると、旋回内輪の回転数が減速されて制動力Fが発生するとともに、旋回外輪の回転数が増速されて駆動力F/iが発生することにより、コーナリングフォースに基づく旋回方向と逆方向のモーメントM1 が打ち消されて旋回性能が向上する。同様に、車両が右旋回中に加速するときに第2油圧クラッチ3R を前記クラッチトルクTで係合させれば、前述と同様にコーナリングフォースに基づくモーメントM1 が打ち消されて旋回性能が向上する。
【0032】
また、車両が左旋回中に減速するとき、第2油圧クラッチ3R を(15)式で与えられるクラッチトルクTで係合させると、旋回内輪の回転数が増速されて駆動力F/iが発生するとともに、旋回外輪の回転数が減速されて制動力Fが発生することにより、コーナリングフォースに基づく旋回方向と同方向のモーメントM1 が打ち消されて高速安定性能が向上する。同様に、車両が右旋回中に減速するときに第1油圧クラッチ3L を前記クラッチトルクTで係合させれば、前述と同様にコーナリングフォースに基づくモーメントM1 が打ち消されて高速安定性能が向上する。
【0033】
【表1】
尚、車両の直進走行中に加速或いは減速を行っても、車両のヨーモーメントは変化しないため、第1油圧クラッチ3L 及び第2油圧クラッチ3R は非係合状態に保たれる。
【0034】
以上説明したように、旋回中の車両が加速或いは減速する際に発生するヨーモーメントの大きさは前後加速度Xg及び横加速度Ygの積Xg×Ygに比例した値となるが、加速或いは減速を行わない定常旋回中の車両には前後加速度Xgが作用しないために前記ヨーモーメントも発生せず、従って定常旋回中には第1油圧クラッチ3L 及び第2油圧クラッチ3R は非係合状態に保たれる。しかしながら、車両の定常旋回中にも第1油圧クラッチ3L 或いは第2油圧クラッチ3R を係合させ、左右の後輪WRL,WRRに積極的にトルクを配分してヨーモーメントを発生させることにより、車両の限界横加速度Ygを増加させて旋回性能を向上させることができる。
【0035】
図4は、前輪のスリップアングルβfに対するコーナリングフォースCFfの関係と、後輪のスリップアングルβrに対するコーナリングフォースCFrの関係とを示すものである。コーナリングフォースCFf,CFrの大きさはスリップアングルβf,βrがゼロから増加するのに応じてゼロから増加し、やがてスリップアングルβf,βrが限界点に達すると減少し始める。また、エンジンEから近い位置にあって接地荷重が大きい前輪のコーナリングフォースCFfは、エンジンEから遠い位置にあって接地荷重が小さい後輪のコーナリングフォースCFrよりも大きくなっている。
【0036】
さて、旋回中に前輪及び後輪が負担すべきコーナリングフォースCFf,CFrの値は横加速度Ygの値に依存し、(1)式の関係を保ちながら変化する。横加速度Ygが増加すると前輪及び後輪のスリップアングルβf,βrは共に増加し、それに伴って前輪及び後輪のコーナリングフォースCFf,CFrも共に増加する。そして、前輪のスリップアングルβf及びコーナリングフォースCFfが図4のA点に達したとき、即ち前輪のコーナリングフォースCFfがそれ以上増加できない限界点に達したときの横加速度Ygが、その車両の限界横加速度Ygとなる。このとき、後輪のスリップアングルβr及びコーナリングフォースCFrは図4のB点にあり、従って後輪のコーナリングフォースCFrは未だマージンm1 を残している。
【0037】
仮に、図4において前輪のスリップアングルβf及びコーナリングフォースCFfをA点に設定し、後輪のスリップアングルβr及びコーナリングフォースCFrをB0 点に設定することができれば、前輪及び後輪のコーナリングフォースCFf,Cfrを最大限に利用して限界横加速度Ygを増加させることができるが、前述したように前輪及び後輪が負担すべきコーナリングフォースCFf,CFrの比率が(1)式に依存して決定されるため、それは不可能である。
【0038】
しかしながら、後輪の旋回内輪及び旋回外輪にトルクを配分することにより、前輪及び後輪が負担すべきコーナリングフォースCFf,CFrの比率を任意のコントロールし、それらコーナリングフォースCFf,Cfrを無駄なく利用して限界横加速度Ygを増加させることができる。
【0039】
定常旋回中の車両の旋回内輪に制動力を与え、旋回外輪に駆動力を与えることにより旋回方向にヨーモーメントM3 を発生させると、前記(2)式は次のようになる。
【0040】
M1 =a×CFf−b×CFr+M3 …(16)
(16)式及び(1)式から、前輪のコーナリングフォースCFf及び後輪のコーナリングフォースCFrは、
CFf={b/(a+b)}×W×Yg−M3 /(a+b) …(17)
CFr={a/(a+b)}×W×Yg+M3 /(a+b) …(18)
で与えられる。(17)式及び(18)式は、車両の定常旋回中に第1、第2油圧クラッチ3L ,3R を係合させてヨーモーメントM3 を発生させれば、右辺第2項±M3 /(a+b)により前輪及び後輪のコーナリングフォースCFf,CFrの比率を任意にコントロールできることを示している。
【0041】
而して、図4において車両が限界横加速度Ygで定常旋回しているとき(つまり、前輪のコーナリングフォースCFfがA点にあり、後輪のコーナリングフォースCFrがB点にあるとき)、前記(17)式及び(18)に基づいて前輪のコーナリングフォースCFfをΔCF[ΔCF=M3 /(a+b)]だけ減少させてCFf′(A′点)とし、後輪のコーナリングフォースCFrをΔCF[ΔCF=M3 /(a+b)]だけ増加させてCFr′(B′点)とすることができる。その結果、前輪のコーナリングフォースCFfには新たにマージンm2 が発生し、後輪のコーナリングフォースCFrには依然としてマージンm3 が残ることになり、前記マージンm2 ,m3 の分だけ車両の速度を増加させ、或いは車両の旋回半径を減少させて限界横加速度Ygを増加させることができる。
【0042】
図5は図4のB点に対応する後輪の摩擦円を示すものである。旋回性能に対して支配的な影響力を持つ旋回外輪について考えると、旋回外輪の接地荷重は横加速度Ygの増加に応じて増加するため、その駆動力の余裕分も横加速度Ygの増加に応じて増加する。従って、横加速度Ygの増加に応じて第1、第2油圧クラッチ3L ,3R のクラッチトルクTを増加させれば、旋回外輪に最大限のコーナリングフォースCFf,CFrを発生させて旋回性能を向上させることができる。
【0043】
このように横加速度Ygに応じて後輪WRL,WRRに駆動力及び制動力を発生させているので、前後加速度Xgがゼロである定常旋回中においても前記駆動力及び制動力を発生させて旋回性能を向上させることができる。
【0044】
図6は横加速度と最小旋回半径との関係を示すもので、破線は前記ヨーモーメントM3 を与えない従来の車両の最小旋回半径を、実線は前記ヨーモーメントM3 を与えた本発明の車両の最小旋回半径を示している。同図から明らかなように、本発明のものは横加速度Ygが一定の場合には最小旋回半径が減少し、また最小旋回半径が一定の場合には横加速度(即ち、車速)が増加して旋回性能が向上する。
【0045】
更に、図4に示すように、前記ヨーモーメントM3 を与えることにより前輪のスリップアングルβfがβf′に減少し、後輪のスリップアングルβrがβr′に増加するため、前輪及び後輪のスリップアングルβf′,βr′の差を減少させてニュートラルステアに近づけることができる。
【0046】
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0047】
例えば、第1油圧クラッチ3L 及び第2油圧クラッチ3R に代えて、電磁クラッチや流体カップリング等の他のクラッチを用いることができる。
【0048】
【発明の効果】
以上のように請求項1に記載された発明によれば、駆動輪よりも小さい接地荷重を有する左右の非駆動輪の一方及び他方に横加速度の増加に応じて増加する制動力及び駆動力を発生させることにより、接地荷重が大きいために限界点の近くにある駆動輪のコーナリングフォースを減少させることができる。これにより、駆動輪のコーナリングフォースに余裕を持たせ、その余裕分を使用して横加速度が更に大きい旋回を行わせることが可能となり、車両の旋回性能の向上に寄与することができる。しかも、駆動輪及び従動輪のスリップアングルの差を減少させ、操舵特性をニュートラルステアに近づけることができる。
【0049】
また請求項2に記載された発明によれば、車両の前後加速度が発生していないときに駆動力及び制動力の値を増加させるので、定常旋回中の車両の旋回性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】トルク配分制御装置を備えたフロントエンジン・フロントドライブ車の全体構成図
【図2】旋回中の車両に発生するヨーモーメントを説明する図
【図3】油圧クラッチの係合に基づいて発生するヨーモーメントを説明する図
【図4】スリップアングルとコーナリングフォースとの関係を示すグラフ
【図5】後輪の摩擦円を示す図
【図6】横加速度と最小旋回半径との関係を示すグラフ
【符号の説明】
WFL 左前輪(駆動輪)
WFR 右前輪(駆動輪)
WRL 左後輪(非駆動輪)
WRR 右後輪(非駆動輪)
Xg 前後加速度
Yg 横加速度
Claims (2)
- 駆動輪(WFL,WFR)よりも小さい接地荷重を有する左右の非駆動輪(WRL,WRR)の一方に制動力を発生させ、他方に駆動力を発生させることによりヨーモーメントを制御する車両において、前記駆動力及び制動力の値を車両の横加速度(Yg)の増加に応じて増加させることを特徴とする車両におけるヨーモーメント制御方法。
- 車両の前後加速度(Xg)が発生していないときに、前記駆動力及び制動力の値を車両の横加速度(Yg)の増加に応じて増加させることを特徴とする、請求項1記載の車両におけるヨーモーメント制御方法。
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