JP3572944B2 - 耐クラック性及び耐食性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法 - Google Patents
耐クラック性及び耐食性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明が属する技術分野】
この発明は、めっき皮膜中にAlを20〜95重量%含有する溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
めっき皮膜中にAlを20〜95重量%含有する溶融Al−Zn系合金めっき鋼板は、特公昭46−7161号に示されているように通常の溶融亜鉛めっき鋼板に比べて優れた耐食性を示すことから、近年その需要が増大しつつある。一般に、この溶融Al−Zn系合金めっき鋼板は化成処理或いは塗装を施された後、プレス成形、ロール成形、曲げなどの加工が施され、建材、家電などの分野で使用されている。
この溶融Al−Zn系合金めっき鋼板は、連続式溶融めっき設備において鋼板を焼鈍し、引き続きAlを20〜95重量%含む溶融Al−Zn系めっき浴中でめっきを施すことにより製造される。
【0003】
ところが、この溶融Al−Zn系合金めっき鋼板は、厳しい曲げ加工を施した場合に加工部にクラックが発生しやすく、このクラックにより外観が損なわれるという欠点がある。
従来、このような加工部でのクラックの発生を防止するために、めっき付着量を低減させる方法(特開平5−271895号)や、めっき後の製品に対して熱処理を施す方法(特公昭61−28748号)などが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これらのうち前者の方法では耐食性の低下が、また、後者の方法では製造工程が増加することによる製造コストの増加が問題となる。
また、めっき付着量の低減化による耐食性の劣化を防止するために浴中にミッシュメタル、Mg、Mnなどを添加する方法(特公昭64−10593号)も提案されているが、素材コストの上昇を招くため好ましくない。
【0005】
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、製造工程を増加させたり、めっき浴中に特別な元素を添加することなく、耐クラック性と耐食性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板を安定して製造することができる溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上述した課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、以下のような事実を知見した。
(1) めっき皮膜中にAlを20〜95重量%含有する溶融Al−Zn系合金めっき鋼板では、めっき付着量を少なくしていくと厳しい加工を施した部分でのクラックの発生状態が変化してクラックの開口幅が減少し、外観上クラックがほとんど認識できないような状態となる。
また、めっき付着量の減少に伴ってめっき皮膜の耐白錆性は改善される。
【0007】
(2) 一方、めっき皮膜中にAlを20〜95重量%含有する溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の耐食性(耐赤錆性)に関しては、片面当たりのめっき付着量が10g/m2以上であれば、めっき鋼板の非加工部についてはこのめっき鋼板特有の優れた耐食性が発揮されるが、厳しい加工が施された部分では点状の赤錆が発生し、これを起点として腐食が進行する。
【0008】
そこで、このような腐食のメカニズムについて調査、検討を行った結果、以下のような事実が判明した。
(3) マクロ的には均一なめっき皮膜であっても、数百μm程度の周期で膜厚変動があり、局部的に皮膜付着量が10g/m2以下になった部分から赤錆が発生する。このようなめっき皮膜の膜厚変動は、図5に示すようにめっき原板表面の凹凸に依存している。
【0009】
(4) したがって、めっき付着量に応じてめっき原板の表面粗さを調整することにより、厳しい加工が施された部分での点状錆の発生を抑制し、耐赤錆性を効果的に改善することができる。
本発明は、このような知見に基づきなされたもので、以下のような構成を有することを特徴とする。
【0010】
[1] 連続式溶融めっき設備において鋼板を焼鈍し、引き続きAlを20〜95重量%含む溶融Al−Zn系めっき浴中で溶融めっきを施す溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法において、
製造すべきめっき鋼板の片面当たりのめっき付着量CW(g/m2)に応じて下記(1)式を満足する表面粗さRa(μm)の鋼板をめっき原板とし、片面当たりのめっき付着量が10〜45g/m2の溶融めっきを施すことを特徴とする耐クラック性及び耐食性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法。
【数2】
【0011】
[2] 上記[1]の製造方法において、製造された溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の表面に化成処理を施すことを特徴とする耐クラック性及び耐食性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法。
[3] 上記[1]の製造方法において、製造された溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の表面に塗装を施すことを特徴とする耐クラック性及び耐食性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法。
[4] 上記[1]の製造方法において、製造された溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の表面に化成処理を施した後、その上層に塗装を施すことを特徴とする耐クラック性及び耐食性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の詳細を説明する。
本発明の製造方法は、連続式溶融めっき設備において鋼板を焼鈍し、引き続きAlを20〜95重量%含む溶融Al−Zn系めっき浴中で溶融めっきを施すことにより溶融Al−Zn系合金めっき鋼板を製造する方法である。
【0013】
表面粗さRaが1.35μmと0.45μmのめっき原板を用いてめっき付着量が異なる溶融Al−Zn系合金めっき鋼板(55重量%Al−Zn系合金めっき鋼板)を製造し、鋼板片面当たりのめっき付着量が厳しい加工が施された部分における耐赤錆性に及ぼす影響を調べた。
この試験では、製造されためっき鋼板の試験片を0T曲げ加工した後、屋外での大気暴露試験(内陸住宅地域6ヶ月)を実施して、試験後の試験片表面の赤錆発生状況を観察し、◎:変色、赤錆発生なし、○+:僅かに変色発生、○:点錆少量発生、△:点錆発生、×:赤錆発生の評価基準により評価した。
【0014】
その結果を図1に示す。これによれば、めっき原板の表面粗さRaが1.35μmのめっき鋼板では、めっき付着量が低下する(60g/m2未満)と加工部における耐赤錆性が劣化するのに対し、めっき原板の表面粗さRaが0.45μmのめっき鋼板では、めっき付着量が低下しても加工部における耐赤錆性の劣化は生じない。これにより、めっき鋼板の加工部における耐赤錆性がめっき付着量との関係でめっき原板の表面粗さRaに依存することが明らかとなった。
【0015】
このようにめっき鋼板の加工部における耐赤錆性がめっき付着量との関係でめっき原板の表面粗さRaに依存するのは、めっき原板の表面粗さRaの増加により局所的薄めっき領域の発生頻度が増加し、それによって厳しい加工部での耐食性が劣化するためであると考えられる。
【0016】
そこで、表面粗さRaが異なるめっき原板(鋼板)を種々のめっき付着量で溶融めっき(55重量%Al−1.4重量%Si−残部実質的にZn)し、めっき原板の表面粗さRaと製品めっき鋼板の片面当たりのめっき付着量が、製品めっき鋼板の加工部における耐赤錆性に及ぼす影響を調べた。
【0017】
この試験では、製造されためっき鋼板の試験片を0T曲げ加工した後、屋外での大気暴露試験(内陸住宅地域6ヶ月)を実施して、試験後の曲げ加工部表面の赤錆発生の有無を30倍のルーペで目視観察し、上記◎,○+の場合を“赤錆発生なし”、上記○〜×の場合を“赤錆発生あり”と評価した。
【0018】
その結果を図2に示す。これによれば、めっき原板の表面粗さRaが片面当たりのめっき付着量CW(g/m2)との関係で下記(1)式を満足した場合にのみ良好な耐食性(厳しい加工を施した部分の耐赤錆性)が得られることが判る。
【数3】
【0019】
また、めっき鋼板のめっき付着量については、鋼板片面当たりのめっき付着量が10g/m2未満では非加工部であっても耐食性が劣る。一方、鋼板片面当たりのめっき付着量の上限は耐クラック性の観点から規定される。図3は、55%Al−1.4%Si−Znのめっき組成を有する溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の片面当たりのめっき付着量と耐クラック性(めっき鋼板を0T曲げした際の加工部におけるクラック開口幅の平均値)との関係を示したもので、めっき付着量が減少するにしたがって厳しい加工を施した部分でのクラックの開口幅が減少し、片面当たりめっき付着量が45g/m2以下においてクラック開口幅の平均値が30μmを下回り、外観上クラックがほとんど認識できないような状態となる。
【0020】
また、図4は55%Al−1.4%Si−Znのめっき組成を有する溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の片面当たりのめっき付着量と耐白錆性との関係を示したもので、試験片に対してJIS−K5621に規定する複合サイクル試験を実施し、白錆発生面積率が10〜25%になるまでの実施サイクル数を調べたものである。これによれば、片面当たりのめっき付着量が45g/m2以下であれば良好な耐白錆性が得られている。
【0021】
以上の理由から本発明では、製造すべきめっき鋼板の片面当たりのめっき付着量CW(g/m2)に応じて上記(1)式を満足する表面粗さRa(μm)の鋼板をめっき原板とし、片面当たりのめっき付着量が10〜45g/m2の溶融めっきを施すことを条件とする。
【0022】
本発明において、その他の製造条件については特別な制約はなく、一般には、常法で鋳造されたスラブを熱間圧延した後、酸洗脱スケールした熱延鋼板、或いはこれをさらに冷間圧延して得られた冷延鋼板を連続式溶融めっき設備に装入し、この連続式溶融めっき設備において鋼板を焼鈍し、引き続き溶融Al−Zn系めっき浴中で溶融めっきを施し、めっき付着量の調整後、冷却して製品めっき鋼板とする。
めっき原板の表面粗さRaを調整するには、冷間圧延時のロール粗さを調整する方法が最も容易であるが、冷間圧延後の鋼板を別ライン或いはめっきライン入側で圧延する等の方法でめっき原板の表面粗さRaを調整してもよい。
【0023】
本発明により製造される溶融Al−Zn系合金めっき鋼板は、めっき皮膜中にAlを20〜95重量%含有するもので、所謂溶融55%Al−Zn系合金めっき鋼板に代表されるめっき鋼板である。この溶融Al−Zn系合金めっき鋼板のめっき皮膜中には、通常、Al及びZn以外にSi:0.3〜3.0重量%程度(Siは脆い界面合金層の成長を抑制するためにめっき浴中に添加される)が含有され、また、これ以外に適量のFe、Ti、Sr、V、Cr、Mg、Mn等の1種以上、その他不可避的不純物が含有される場合がある。
なお、本発明法により製造される溶融Al−Zn系合金めっき鋼板は、板厚に拘りなく優れた耐クラック性を有するが、切断端部の耐食性の観点からは板厚を1.2mm以下(より好ましくは0.7mm)とした方が好ましい。
【0024】
本発明法により製造される溶融Al−Zn系合金めっき鋼板には、そのめっき面にリン酸塩処理やクロメート処理等の化成処理を施すか、若しくはめっき面または前記化成処理皮膜面に塗装を施すことができる。
溶融Al−Zn系合金めっき鋼板は、例えば屋外で放置され、結露や雨により鋼板表面が濡れた状態に長期間置かれると、表面が黒く変色(所謂黒変現象)する場合がある。これを防止するためには、めっき鋼板をクロメート処理することによりめっき皮膜表面にクロメート皮膜を形成することが好ましい。
【0025】
このクロメート皮膜は3価Crと6価Crとを含み、Cr付着量(金属クロム換算の付着量)を3〜80mg/m2、より望ましくは10〜50mg/m2とすることが好ましい。このようなクロメート皮膜を形成することにより黒変が効果的に防止できる。Cr付着量が3mg/m2未満では黒変防止効果が十分に得られず、一方、Cr付着量が80mg/m2を超えても付着量に見合う効果が得られず、却ってCrが溶解しやすくなるため好ましくない。
【0026】
また、クロメート皮膜はめっき皮膜の表面にクロム酸を含むクロメート処理液を塗布し乾燥することにより形成されるが、クロメート処理液中に含まれるクロム酸は6価Cr/全Crの重量比が0.3〜1.0であることが好ましく、6価Cr/全Crの重量比が0.3未満では耐黒変性が低下する恐れがある。これは、めっき皮膜表面のクロメート皮膜による不働態化作用が低下することによるものと考えられる。また、以上の観点からクロム酸中の6価Cr/全Crの重量比は0.4〜1.0、特に0.5〜1.0の範囲が好ましい。なお、クロメート処理を施す前に、湯洗、水洗、或いはアルカリ系溶液によるめっき面の洗浄を行うことも可能である。
【0027】
めっき皮膜表面に形成されるクロメート皮膜中には、例えば、水に分散可能な有機樹脂、シリカ、鉱酸等のアニオン、フッ化物等を添加することができる。これらのうち、有機樹脂の添加により加工時等における耐傷付き性を付与することが可能であり、また、シリカの添加により耐食性の向上を図ることができる。また、アニオンやフッ化物を添加することにより、クロメート皮膜の着色を抑制したり、或いはめっき皮膜との反応性を調整することができる。但し、これらの添加剤は、その種類や添加量によっては耐黒変性を低下させる場合があるため、その種類や添加量は適宜選択する必要がある。
【0028】
通常、クロメート皮膜は、スプレー、浸漬、ロールコーター等によりめっき皮膜表面に処理液を塗布し、板温60〜250℃程度の範囲で乾燥することにより形成される。このとき処理液中の一部の6価Crがめっき表面で反応し、3価Crが生成されるため、仮に3価Crを含まない処理液を用いても皮膜中には3価Crが含まれる。
また、クロメート皮膜の上層には0.1〜5μm程度の膜厚の有機樹脂皮膜を形成することも可能である。
【0029】
また、本発明法により製造される溶融Al−Zn系合金めっき鋼板は塗装材の下地鋼板としても使用することができる。塗装材を加工する際、厳しい加工部で塗膜にクラックが発生することがあり、このようなクラックも前述したと同様に外観を害する。このようなクラックの発生原因の1つに下地めっき皮膜のクラックがあり、本発明法により製造される耐クラック性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板を下地鋼板として利用すれば、塗装鋼板自体の加工性(耐クラック性)も改善される。
また、加工部の耐食性も塗装を施すことにより格段に向上する。
【0030】
本発明法により製造される溶融Al−Zn系合金めっき鋼板を塗装鋼板として利用する場合、通常、塗装を施す前に脱脂処理を施し、必要に応じてさらに酸洗を施した後、クロメート処理やリン酸塩処理等の化成処理を施すことが好ましい。クロメート処理については上述した通りであり、特にクロメート皮膜中に水性樹脂を添加することにより加工性(耐クラック性)を向上させることができる。
【0031】
塗料は上記化成処理皮膜の上に直接塗装することも可能であるが、加工性と耐白錆性をさらに向上させるためには、塗装鋼板に通常用いられている下塗り塗料(所謂プライマー)を塗装して焼き付けた上に塗装すること、すなわち、下塗り塗膜とその上層の上塗り塗膜とからなる塗膜構成とすることが望ましい。
下塗り塗料用樹脂としては、加工性と耐白錆性の点からエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシで変性したポリエステル樹脂、ポリエステルで変性したエポキシ樹脂等を主剤とするものが好ましい。また、硬化剤としては、メラミン、イソシアネート等の1種以上を使用することができる。
【0032】
さらに、高度の耐白錆性が必要とされる場合は、下塗り塗料中に防錆顔料としてクロム酸塩系化合物を添加することが好ましい。このクロム酸塩系化合物としては、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、カルシウムクロメート、バリウムクロメート等が好適であり、その含有量は塗料中の固形分の割合で1〜60重量%とすることが適当である。また、下塗り塗膜の塗膜厚は、上述した効果を得るために5〜20μm程度とすることが好ましい。
【0033】
上塗り塗料としては、ポリエステル樹脂塗料、フッ素樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、塩ビ塗料、シリコーン塗料等の通常の塗料が使用できる。
上塗り塗膜の塗膜厚は加工性と耐白錆性の観点から5〜40μmが好ましい。塗膜厚が5μm未満では塗膜の耐候性が低下し(紫外線透過性が高まる)、且つ塗膜の白錆露出を抑える能力も低下するので好ましくない。一方、40μmを超えると塗装作業性の低下や塗膜外観の低下を招き、また、コストも上昇するため好ましくない。
【0034】
下塗り塗料と上塗り塗料中には、必要に応じて着色顔料、体質顔料、傷つき防止剤等の添加剤を配合することができる。着色顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄、クロム酸鉛、金属粉末、焼成顔料、パール顔料等が挙げられる。体質顔料としては、例えば、炭酸カルシウム、クレイ、タルク、三酸化アンチモン、硫酸バリウム、カオリン等が挙げられる。傷付き防止剤としては、シリカ、アルミナ等のセラミックスビーズ、ガラスビーズ、ガラス繊維、樹脂ビーズ、フッ素ビーズ等が加工性の観点から好ましい。
【0035】
また、下塗り塗料や上塗り塗料に用いられる溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブ系溶剤、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、ジイソブチルケトン、イソホロン、シクロヘキサノン等が挙げられる。また、塗料中には添加剤として、例えば、消泡剤、顔料分散剤、たれ防止剤等を添加することができる。
【0036】
塗料の塗装方法については特に制限はなく、従来一般に行われているロールコーター法、カーテンフローコーター法、スプレー塗装、はけ塗り等の塗装法を適用できるが、塗装鋼板の塗装においてはロールコーター法が最も一般的である。ロールコーター法を使用した場合、塗料を塗布した後の焼付処理は、通常、20〜180秒間加熱して板温を150℃以上に到達させることによって行われる。焼付時間が20秒未満では樹脂成分の溶融硬化が不十分であり、一方、180秒を超えると下塗り塗料成分を含めた熱劣化が始まり、いずれの場合にも塗料本来の性能が発揮されなくなるため好ましくない。
焼付処理の加熱方法についても特別な制限はなく、熱風加熱方式、高周波加熱方式等の方法を適用できる。
【0037】
【実施例】
[実施例1]
常法により鋳造、熱間圧延、酸洗および冷間圧延して得られた表面粗さRaが異なる冷延鋼板(板厚0.28〜1.8mm)を連続式溶融めっき設備に装入し、下記[A浴]及び[B浴]の溶融めっき浴を用いてめっきを行い、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板を製造した。
[A浴]:55重量%Al−1.4重量%Si−残部実質的にZn
[B浴]:42重量%Al−1.3重量%Si−残部実質的にZn
【0038】
このようにして得られた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板について、加工性(耐クラック性)と耐食性を下記の試験方法で評価した。
めっき原板の表面粗さRaはJIS−B0610に記載された方法で、また、めっき付着量はJIS−H401の方法でそれぞれ測定した。
【0039】
(1) 加工性(耐クラック性)
試験片を0T曲げ加工し、この加工部を目視観察してクラックの発生状況を下記により評価した。
◎:肉眼ではクラックは認められず
○:僅かにクラックが発生
△:明瞭なクラックが少量発生
×:明瞭なクラックが大量発生
【0040】
(2) 耐白錆性
150mm×70mmの試験片の切断端面をシールし、JIS−K5621に規定する複合サイクル試験(150サイクル)と屋外での大気暴露試験(海岸地域6ヶ月、内陸住宅地域6ヵ月)を実施し、試験後の試験片表面の白錆発生面積率で評価した。その評価基準は以下の通りである。
◎:白錆発生面積率0%
○:白錆発生面積率1%以上、25%未満、
△:白錆発生面積率25%以上、50%未満
×:白錆発生面積率50%以上
【0041】
(3) 加工部の耐赤錆性
150mm×70mmの試験片の切断端面をシールし、この試験片を0T曲げ加工した後、屋外での大気暴露試験(内陸住宅地域6ヶ月)を実施し、試験後の試験片表面の赤錆発生状況を評価した。その評価基準は以下の通りである。
◎ :変色、赤錆発生なし
○+:僅かに変色発生
○ :点錆少量発生
△ :点錆発生
× :赤錆発生
【0042】
(4) 切断端部の耐赤錆性
150mm×70mmの試験片であって、切断端面の1辺のみをシールしない試験片について、大気暴露試験(内陸住宅地域6ヶ月)を実施し、試験後の試験片切断端部での赤錆発生状況を評価した。その評価基準は以下の通りである。
◎ :変色、赤錆発生なし
○+:僅かに変色発生
○ :変色発生
△ :点錆発生
× :赤錆発生
【0043】
これらの試験結果を、めっき鋼板の板厚、使用しためっき浴、めっき原板の表面粗さRa、上記(1)式の左辺の値及びめっき付着量とともに表1及び表2に示す。これによれば、本発明条件に従うことにより耐食性と耐クラック性がともに優れためっき鋼板が製造できることが判る。また、切断端部の耐食性は、板厚1.2mm超のめっき鋼板に較べて板厚1.2mm以下(特に、板厚0.7mm以下)のめっき鋼板のほうが良好である。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
[実施例2]
実施例1で製造した本発明例の溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の一部に塗布型クロメート処理(処理液のクロム酸中の6価Cr/全Crの重量比:0.5,液温:50℃,塗布方法:スプレー法)を施し、直ちに乾燥させてクロメート皮膜(Cr付着量:20mg/m2)を形成し、クロメート処理溶融Al−Zn系合金めっき鋼板を得た。
これらクロメート処理溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の耐黒変性を下記の試験方法で評価した。
【0047】
(1) 耐黒変性
試験片のクロメート処理面どうしを重ね合せて0.5kg/cm2の面圧でスタック状態とし、60℃、98%RH以上の湿潤環境下に240時間放置した後の外観表面の変化を下記評価基準にて目視評価した。
5:全く変化なし
4:1〜5%の面積で若干変化(黒変)あり
3:1〜5%の面積で明らかな黒変あり
2:6〜25%の面積で明らかな黒変あり
1:26%以上の面積で明らかな黒変あり
これらの試験結果を表3及び表4に示すが、いずれの場合も良好な耐黒変性が得られている。
【0048】
【表3】
【0049】
[実施例3]
常法により鋳造、熱間圧延、酸洗および冷間圧延して得られた冷延鋼板(板厚0.28〜1.8mm)を連続式溶融めっき設備に装入し、実施例1における[A浴]及び[B浴]の溶融めっき浴を用いてめっきを行い、溶融Al−Zn系合金めっき鋼板を製造した。これらの溶融Al−Zn系合金めっき鋼板に塗布型クロメート処理を施してCr付着量が30mg/m2のクロメート皮膜を形成し、次いで下塗り塗料としてエポキシ・メラミン樹脂系塗料を乾燥塗膜厚が5μmになるように塗布した後、約200℃で60秒間焼き付け、さらに上塗り塗料としてポリエステル樹脂塗料を乾燥塗膜厚が20μmになるよう塗布した後、約250℃で60秒間焼き付け、引き続き水冷して塗装鋼板を得た。
【0050】
これらの塗装鋼板の加工性(耐クラック性)と耐食性を下記の試験方法で評価した。
(1) 塗膜加工性(耐クラック性)
試験片に対して20℃の室内にて180°の折り曲げ加工を行い、その折り曲げ加工部を30倍のルーペで観察してクラックを生じていない最少の板はさみ枚数で評価した。
◎:0T
○:1T
△:2T
×:3T以上
【0051】
(2) 耐白錆性
150mm×70mmの試験片の切断端面をシールし、JIS−K5621に規定する複合サイクル試験(1000サイクル)と屋外での大気暴露試験(海岸地域2年、内陸住宅地域2年)を実施し、試験後の試験片表面の白錆発生面積率で評価した。その評価基準は以下の通りである。
◎:白錆発生面積率0%
○:白錆発生面積率1%以上、25%未満、
△:白錆発生面積率25%以上、50%未満
×:白錆発生面積率50%以上
【0052】
(3) 加工部の耐赤錆性
150mm×70mmの試験片の切断端面をシールし、この試験片を0T曲げ加工した後、屋外での大気暴露試験(内陸住宅地域2年)を実施し、試験後の試験片表面の赤錆発生状況を評価した。その評価基準は以下の通りである。
◎ :変色、赤錆発生なし
○+:僅かに変色発生
○ :点錆少量発生
△ :点錆発生
× :赤錆発生
【0053】
(4) 切断端部の耐赤錆性
150mm×70mmの試験片であって、切断端面の1辺のみをシールしない試験片について、大気暴露試験(内陸住宅地域2年)を実施し、試験後の試験片切断端部での赤錆発生状況を評価した。その評価基準は以下の通りである。
◎ :変色、赤錆発生なし
○+:僅かに変色発生
○ :変色発生
△ :点錆発生
× :赤錆発生
【0054】
これらの試験結果を、めっき鋼板の板厚、使用しためっき浴、めっき原板の表面粗さRa、上記(1)式の左辺の値及びめっき付着量とともに表4及び表5に示す。これによれば本発明例の塗装鋼板は、比較例の塗装鋼板に較べて塗膜の耐クラック性と耐食性が大幅に改善されている。また、切断端部の耐食性は、板厚1.2mm超のめっき鋼板に較べて板厚1.2mm以下(特に、板厚0.7mm以下)のめっき鋼板のほうが良好である。
【0055】
【表4】
【0056】
【表5】
【0057】
【発明の効果】
以上述べたように本発明法によれば、耐食性と耐クラック性がともに優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】表面粗さRaが0.45μmと1.35μmのめっき原板を用いて得られた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板について、鋼板片面当たりのめっき付着量が加工部における耐赤錆性に及ぼす影響を示すグラフ
【図2】溶融Al−Zn系合金めっき鋼板のめっき原板の表面粗さRaと鋼板片面当たりのめっき付着量が加工部における耐赤錆性に及ぼす影響を示すグラフ
【図3】溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の片面当たりのめっき付着量が耐クラック性に及ぼす影響を示すグラフ
【図4】溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の片面当たりのめっき付着量が耐白錆性に及ぼす影響を示すグラフ
【図5】めっき原板表面の凹凸の状態とめっき皮膜の膜厚変動を示す説明図
Claims (4)
- 製造された溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の表面に化成処理を施すことを特徴とする請求項1に記載の耐クラック性及び耐食性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法。
- 製造された溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の表面に塗装を施すことを特徴とする請求項1に記載の耐クラック性及び耐食性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法。
- 製造された溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の表面に化成処理を施した後、その上層に塗装を施すことを特徴とする請求項1に記載の耐クラック性及び耐食性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法。
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JP16618998A JP3572944B2 (ja) | 1998-05-30 | 1998-05-30 | 耐クラック性及び耐食性に優れた溶融Al−Zn系合金めっき鋼板の製造方法 |
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